鉄筋コンクリート構造物の腐食劣化進行予測方法
【課題】外部塩害に基づくコンクリート構造物の鉄筋の腐食速度の推定を精度良く行うことができるコンクリート構造物の鉄筋の腐食速度を推定する方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、建造からt年経過時点においての調査により得られた外部塩害を受けるコンクリート構造物の表面からの深さ方向の塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtを用いて得られるコンクリート品質を考慮するための経過年数における見掛けの拡散係数と、調査により得られた見掛けの拡散係数Dtの経年変化を考慮して計算することにより得られた鉄筋のかぶり位置での塩化物イオン濃度Cと、温度Tとから、外部塩害を受ける鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食速度を推定する。
【解決手段】本発明の方法は、建造からt年経過時点においての調査により得られた外部塩害を受けるコンクリート構造物の表面からの深さ方向の塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtを用いて得られるコンクリート品質を考慮するための経過年数における見掛けの拡散係数と、調査により得られた見掛けの拡散係数Dtの経年変化を考慮して計算することにより得られた鉄筋のかぶり位置での塩化物イオン濃度Cと、温度Tとから、外部塩害を受ける鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食速度を推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部塩害に基づく鉄筋の腐食劣化の予測精度の向上を図ることができる鉄筋コンクリート構造物の腐食速度を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄筋入りのコンクリート構造物において、鉄筋が腐食劣化する主原因として、塩害と中性化とが知られている。ここで、塩害とは、塩化物イオンの存在によって、コンクリート中の鋼材の腐食が進行し、コンクリートのひび割れ、剥離、剥落、鋼材の断面積減少等の劣化現象をいう。
【0003】
また、中性化とは、空気中の二酸化炭素がコンクリート内に侵入してセメント水和物との炭酸化反応によりセメントの細孔に存在する水液のPHの値が小さくなり、鋼材の腐食が進行する劣化現象をいう。
【0004】
また、塩害には、内部塩害と外部塩害とがあることが知られている。ここで、内分塩害とは、コンクリートの内部にもともと存在する塩化物イオンの存在によって、コンクリート中の鋼材の腐食が進行する劣化現象をいう。
【0005】
外部塩害とは、外部からコンクリート中に侵入する塩化物イオンによって、コンクリート中の鋼材の腐食が進行する劣化現象をいう。
【0006】
鉄筋入りのコンクリート構造物は、このような鉄筋の腐食により、経時的に耐久性が劣化する。
【0007】
一般に、鉄筋入りのコンクリート構造物の劣化進行過程は、図1に示すように、鋼材の腐食が開始するまでの潜伏期T1、コンクリート中の鋼材に腐食が発生する進展期T2、コンクリート中の鋼材の腐食が加速され、コンクリートにひび割れが発生する加速期T3、コンクリートの内部にひび割れが随所に生じて剥離、剥落等の事態が生じる劣化期T4に分類される。
【0008】
例えば、外部塩害については、図2(a)に示すように、コンクリート1中の鋼材(鉄筋)2がそのコンクリート1の表面1aから距離xの深さに存在するとき(以下、距離xを鋼材2のかぶり量という)、外部から塩分Cl-が飛来して、コンクリート1の表面1aに付着し、これが繰り返されることにより、コンクリート1中の塩化イオン濃度は徐々に増大する。そのコンクリート1中の塩化イオンは表面1aから徐々に内部に向かって浸透し、鋼材2の表面2aに達する(潜伏期T1)。
【0009】
コンクリート1中の鋼材2の表面2aの近傍の塩化イオン濃度がある濃度(例えば、1.2Kg/m3)の値以上になると、鋼材2の表面の一部に腐食生成物3が発生し、鋼材2の体積が増し、鋼材2の体積がある値以上になると、鋼材2の体積の増加に伴う膨張力によってコンクリート1の内部にひび割れ4が発生する(進展期T2)。
【0010】
コンクリート1にひび割れ4が生じると、外部から飛来する塩分がひびを伝わって鋼材2の表面に浸透することになり、外部から飛来する塩分の鋼材2への到達速度が益々速くなる。すると、コンクリート1のひび割れ4は益々大きくなり、これに伴って、鋼材2の腐食速度が加速される(加速期T3)。ひいては、コンクリート1の内部に生じたひび割れ4がコンクリート1の表面1aに達する事態に至る(劣化期T4)。
【0011】
このような鉄筋コンクリート構造物の劣化度合いを正確に把握することは、コンクリート構造物の維持管理の観点から極めて重要である。
特に、外部塩害についてのコンクリート構造物の腐食劣化進行予測は、海岸部に存在する火力発電所、原子力発電所のコンクリート構造物の劣化程度を予測する観点から重要である。
【0012】
ところで、鉄筋コンクリート構造物の腐食劣化進行予測の式としては、例えば、下記の森永の式が知られている。
dr/dt=(10-3/C1/2)・(7.70Cl-+0.503(W/C)−40.6)
ここで、Cl-は塩化物イオン濃度、(W/C)は水セメント比を表している。ここで、水セメント比は、コンクリートそのものの品質を表す項である。
【0013】
なお、類似の技術として、コンクリート構造物の劣化診断予測方法がある(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−233244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記の森永の鉄筋コンクリート構造物の腐食劣化進行予測の式は、もともと、コンクリートの内部に存在する塩化物イオンの存在に基づく劣化予測方法であり、外部塩害に基づく鉄筋コンクリート構造物の腐食劣化進行予測を精度良く行うことができないという不都合がある。
【0016】
外部塩害についてのコンクリート構造物の腐食劣化進行予測の式があるにはあるが、正確なものではなく、1年間に例えば27.5mg/cm2ほど鋼材2の径が小さくなると仮定し、かなり、腐食速度を安全側に見込んでいる。
【0017】
すなわち、従来のコンクリート構造物の腐食劣化進行予測方法は、外部塩害によるコンクリート構造物の腐食劣化進行予測を精度良く行うことができないものであった。
【0018】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、その目的は、外部塩害に基づくコンクリート構造物の鉄筋の腐食速度の推定を精度良く行うことができるコンクリート構造物の鉄筋の腐食速度を推定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載の外部塩害を受ける鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食速度を推定する方法は、建造からt年経過時点においての調査により得られた外部塩害を受けるコンクリート構造物の表面からの深さ方向の塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtを用いて得られるコンクリート品質を考慮するための経過年数における見掛けの拡散係数と、調査により得られた見掛けの拡散係数Dtの経年変化を考慮して計算することにより得られた鉄筋のかぶり位置での塩化物イオン濃度Cと、温度Tとから鉄筋の腐食速度を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コンクリート品質を考慮に入れたので、外部塩害に基づく鉄筋コンクリート構造物の鋼材の腐食の度合いの予測を精度良く行うことができ、鉄筋入り構造物の維持管理に好適であり、コンクリート構造物の補修予測等を適切に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】鉄筋入りのコンクリート構造物の劣化進行過程の説明図である。
【図2】鉄筋入りのコンクリート構造物の劣化過程の説明図であって、(a)は腐食前のコンクリート構造物の模式図、(b)は鉄筋に腐食生成物が発生した初期段階を示す模式図、(c)はコンクリート構造物にひび割れが生じた状態を示す模式図、(d)はひび割れがコンクリート構造物の表面に達した状態を示す模式図である。
【図3】本発明に係わる推定方法に用いた鉄筋コンクリート供試体の説明図である。
【図4】図3に示す鉄筋コンクリート供試体の内部構造を説明するための模式図であって、(a)はコンクリート供試体を上面方向から目視した状態を示す断面図、(b)はコンクリート供試体を側面方向から目視した状態を示す断面図である。
【図5】図3に示す鉄筋コンクリート供試体から打ち抜かれたコンクリートコアの一例を示す斜視図である。
【図6】コンクリート供試体の鉄筋の分極抵抗を定期的に測定することにより得られた腐食速度と経過日数との関係をプロットして得られたグラフである。
【図7】コンクリート供試体から抜き出して得られた塩化物イオンの濃度とコンクリート供試体の表面からの深さとの関係をプロットして得られたグラフである。
【図8】図7に示す分布曲線に基づき塩化物イオン濃度値と経過日数との関係を計算により求めたグラフである。
【図9】図8に示す塩化物イオン濃度と腐食速度との関係を示すグラフである。
【図10】図8に示す塩化物イオン濃度とコンクリート供試体の内部の温度との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の方法に係わる推定式の構築に用いるニューラルネットワーク(NNW)の階層構造の一例を示す模式図である。
【図12】塩化物イオンの濃度をパラメータとして温度と腐食速度との関係を示すグラフである。
【図13】温度をパラメータとして塩化物イオンの濃度と腐食速度との関係を示すグラフである。
【図14】コンクリート供試体(NO2)についてニューラルネットワーク解析により得られた腐食速度推定値と実測値との相関関係を示すグラフである。
【図15】コンクリート供試体(NO1)についてニューラルネットワーク解析により得られた腐食速度推定値と実測値との相関関係を示すグラフである。
【図16】コンクリート品質を表す見かけの拡散係数を求めるための説明に用いたグラフである。
【図17】ひび割れ発生後の腐食速度推定値と実際の腐食速度測定値との相関関係を示すグラフである。
【図18】実際のコンクリート構造物の梁の一例を示す説明図である。
【図19】評価対象としての桟橋上部工梁部材についての鉄筋の腐食量推定曲線と実際の鉄筋の腐食量との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0022】
以下に、本発明に係わる鉄筋コンクリート構造物の腐食速度を推定する方法の発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図3は本発明の鉄筋コンクリートの構造物の腐食速度を推定する方法に用いた鉄筋コンクリート供試体の一例を示す説明図である。
その図3において、符号10A、10Bは鉄筋コンクリート供試体を示している。
【0024】
鉄筋コンクリート供試体10A、10Bに用いるコンクリートには、ミキサーで混練した生コンクリートを二つに分けたものを用いた。すなわち、鉄筋コンクリート供試体10A、10Bに用いるコンクリートの品質は同一である。
【0025】
ただし、鉄筋コンクリート供試体10A(NO1)、10B(NO2)の養生条件、曝露条件は以下の表1に示す通りである。
【0026】
【表1】
【0027】
ここで、鉄筋コンクリート供試体10A、10Bには、図4(a)、図4(b)に示すように、かぶり量2cmの鋼材(鉄筋B)11a、11bと、かぶり量4cmの鋼材12a、12b(鉄筋B)とが埋設されている。この他、かぶり位置での鉄筋コンクリートの内部温度(気温)を測定するための温度測定用熱電対、導電率測定用電極、マクロセル電流等測定用ステンレス丸鋼、塩化物イオン検出用電極等も埋設されている。
【0028】
まず、鉄筋コンクリート供試体10A、10Bのかぶり量2cmの鋼材(鉄筋B)11a、11bと、かぶり量4cmの鋼材12a、12b(鉄筋B)の分極抵抗を屋外曝露2ヶ月後から1ヶ月に1回の割合で水を溜めた状態で測定した。
【0029】
すなわち、鉄筋コンクリート供試体10A、10Bのかぶり量2cmの鋼材(鉄筋B)11a、11bと、かぶり量4cmの鋼材12a、12b(鉄筋B)を試料極として、チタンメッシュ(対極)と銀・塩化銀照合電極を鉄筋コンクリート供試体10A、10Bの表面10a、10bに配置した状態で自然電位を測定した後、10Hzの交流インピーダンス値と20mHzの交流インピーダンス値とから分極抵抗Rp(Ωcm2)を求め、Stern−Gearyの式であるIcorr=K/Rp(Kは0.026V(Vはボルト))に分極抵抗Rpの値を代入して、腐食電流密度Icorr(A(アンペア)/cm2)を求めた。
【0030】
ついで、ファラデーの第2法則に基づき、年間当たりについて、鉄筋の単位表面積当たりの腐食速度、質量損失速度(mg/cm2/年)に換算した。これが鉄筋全表面積当たりの平均腐食速度である。なお、1μA/cm2は9.1mg/cm2/年に相当する。
気温(鉄筋コンクリート供試体10A、10Bの内部の温度)は、温度測定用熱電対を用いて30分毎に測定した。
【0031】
鉄筋コンクリート供試体10A、10Bの外部から侵入してきた塩化物量を測定するために、図4(a)に示す箇所Qから、図5に示すコンクリートコア13A、13Bを抜き出して、コンクリート供試体10A、10Bの表面10a、10bから深さ12cmまでの塩化物イオン濃度分布を測定した。
【0032】
図6はこのコンクリート供試体10A、10Bのかぶり量2cmの鋼材(鉄筋B)11a、11bと、かぶり量4cmの鋼材12a、12b(鉄筋B)の分極抵抗Rpの値を換算して求めた腐食速度の値と経過日数との関係を示すグラフである。
【0033】
この図6において、○印はかぶり量2cmにおけるコンクリート供試体10A(NO1)の鋼材(鉄筋B)の腐食速度、△印はかぶり量2cmにおけるコンクリート供試体10B(NO2)の腐食速度を示している。また、●印はかぶり量4cmにおけるコンクリート供試体10A(NO1)の鋼材(鉄筋B)の腐食速度、▲印はかぶり量4cmにおけるコンクリート供試体10B(NO2)の腐食速度を示している。
【0034】
腐食速度が1mg/cm2/年よりも大きい場合には、実際に腐食を起こしていると判断できるから、鉄筋コンクリート供試体10A、10Bの鋼材(鉄筋B)11a、11bのうち、かぶり量4cmの鋼材12aを除く鋼材11a、11bは実際に腐食していると考えられる。
【0035】
特に、鉄筋コンクリート供試体10A(NO1)の鋼材11a(かぶり量2cmの鉄筋B)については、曝露実験の経過日数650日ごろから680日ごろにかけて、符号Q1で示すように、急激に腐食速度が変化しているので、鉄筋Bが腐食していない状態から腐食した状態、すなわち、鉄筋Bが不動態状態から活性状態に転じたと考えられる。
【0036】
なお、鋼材12a(かぶり量4cmの鉄筋B)については、曝露試験開始から終了後も腐食が発生していないと考えられる。その理由は、コンクリート品質が養生により改善されて向上しており、かつ、かぶり量2cmの鋼材11aよりも深い位置にあって外部から鋼材の表面に達する速度が遅くなっているからであると考えられる。
【0037】
鉄筋コンクリート供試体10B(NO2)の鋼材11b(かぶり量2cmの鉄筋B)、鉄筋コンクリート供試体10B(NO2)の鋼材11b(かぶり量4cmの鉄筋B)については、曝露試験開始から750日頃までは、かぶり量2cmの鋼材11bの腐食速度が大きいが、その後は、腐食速度に差異が見られない結果となっている。
【0038】
この鉄筋コンクリート供試体10B(NO2)の鋼材11b(かぶり量2cmの鉄筋B)、鉄筋コンクリート供試体10B(NO2)の鋼材11b(かぶり量4cmの鉄筋B)については、符号Q2、Q3で示すように1400日ごろから1600日ごろにかけて、腐食速度が急激に変化している。その理由は、鉄筋コンクリート供試体10Bにひび割れが発生し、塩分の浸透速度が増加したと考えられる。
【0039】
次に、鉄筋コンクリート供試体10A(NO1)については、鉄筋コンクリート供試体10Aから打ち抜いたコンクリートコア13Aに基づいて表面10aから深さX方向の塩化物イオン量を測定し、塩化物イオン濃度分布を求めた。この鉄筋コンクリート供試体10Aから打ち抜いたコンクリートコア13Aの打ち抜き時点は、曝露試験開始日からt=5.81年である。ついで、鉄筋コンクリート供試体10B(NO2)については、鉄筋コンクリート供試体10Bから打ち抜いたコンクリートコア13Bに基づいて表面10bから深さX方向の塩化物イオン量を測定し、塩化物イオン濃度分布を求めた。この鉄筋コンクリート供試体10Bから打ち抜いたコンクリートコア13Bの打ち抜き時点は、曝露試験開始日からt=4.33年である。
【0040】
ここで、コンクリートコア13Aとコンクリートコア13Bとの打ち抜き時点が異なっているのは、鉄筋コンクリート供試体10Bのひび割れを考慮したからである。
図7はそのコンクリートコア13A、13Bにより求めた塩化物イオン濃度の分布曲線を示している。その図7において、○印はコンクリート供試体10A(NO1)の塩化物イオンの濃度値、△印はコンクリート供試体10B(NO2)の塩化物イオンの濃度値を示している。
【0041】
この塩化物イオンの濃度値に適合する塩化物イオン濃度分布曲線を、下記のフィックの拡散方程式を用いて求めた。
∂C/∂t=Dc・∂2C/∂2X
ここで、Cはコンクリートコア中の塩化物イオン濃度、tは時間、Xはコンクリート表面10a、10bからの深さ(距離)、Dcは塩化物イオンの拡散係数である。
【0042】
このフィックの拡散方程式をコンクリート供試体10A、10Bの表面の塩化物イオン濃度を一定として解くと、下記の式が得られる。
C(X,t)=C’+(C0−C’)・{1−erf(X/2Dt1/2)}
ここに、C(X,t)は深さXcm、時間t秒における塩化物イオン濃度(Kg/m3)、C’は初期混入塩化物イオン濃度(Kg/m3)、C0はコンクリート表面の塩化物イオン濃度(Kg/m3)、Dは塩化物イオンの見かけの拡散係数(cm2/秒)、erfは誤差関数である。ここでは、C’=0として解を得ている。
【0043】
その図7において、符号Q4は、コンクリート供試体10Aの塩化物イオン濃度分布曲線、符号Q5は、コンクリート供試体10Bの塩化物イオン濃度分布曲線を示している。
この図7から、コンクリート供試体10Aの塩化物イオン濃度がコンクリート供試体10Bの塩化物イオン濃度よりも小さいことが見てとれるが、その理由は、コンクリート供試体10Aを約190日間水道水に浸漬することによって、コンクリート供試体10Aの組織の緻密化が図られたからであると考えられる。
【0044】
なお、その図7において、コンクリート供試体10Aの塩化物イオンの見かけの拡散係数Dはt=5.81年の値、コンクリート供試体10Bの塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtはt=4.33年の値のものである。
【0045】
図8はその分布曲線Q4、Q5を用いて、かぶり量2cm(深さX=2cm)、かぶり量4cm(深さX=4cm)における塩化物イオン濃度値(Kg/m3)の経時変化を計算により求めたものである。
【0046】
時間tを変数として0日から2500日に渡って変化させ、そのときの塩化物イオン濃度C(x,t)を計算した。
コンクリート供試体10Aのかぶり位置4cmにおける塩化物イオン濃度は他のものに較べてはるかに小さく、1000日経過時点でもほぼ「0」とみなすことができる。コンクリート供試体10Aのかぶり位置4cmにおける塩化物イオン濃度は、500日経過時点から徐々に増加している。
【0047】
コンクリート供試体10Bのかぶり位置4cmにおける塩化物イオン濃度はコンクリート供試体10Aのかぶり位置2cmにおける塩化物イオン濃度よりも大きく、コンクリート供試体10Bのかぶり位置2cmにおける塩化物イオン濃度よりも小さい。コンクリート供試体10Bのかぶり位置2cmにおける塩化物イオン濃度は、他のものよりも大きい。
【0048】
図9はその図8に示す塩化物イオン濃度と腐食速度との関係を求めてプロットしたものである。この図9に示す塩化物イオン濃度の値には、分極抵抗測定時(腐食速度測定時)の経過日数時点であってかつ図8に示す関数曲線により求められた塩化物イオン濃度の値(推定値)を用いている。
【0049】
鉄筋のかぶり位置での塩化物イオンの濃度がある値を超えると、鉄筋が腐食を開始し、その後、時間の経過と共に、鉄筋のかぶり位置での塩化物イオンの濃度が高くなり、鉄筋の腐食速度もこれに伴って増大することが見てとれる。
【0050】
その理由は、塩化物イオン濃度の影響で、腐食速度が増大していることに加えて、外部からの塩化物イオンの侵入でかぶり位置での塩化物イオン濃度が高くなるので、鉄筋の全表面積のうち発錆限界イオン濃度を超える面積が広くなり、結果として腐食面積が大きくなっていると考えられるからである。
その図9において、符号Q7が発錆限界イオンの濃度を示していると考えられる。
【0051】
また、塩化物イオン濃度が同じでも、コンクリート供試体10Aの腐食速度は、コンクリート供試体10Bの腐食速度よりも小さい。その理由は、コンクリート供試体10Aの見かけの拡散係数がコンクリート供試体10Bの見かけの拡散係数が小さいからである。コンクリート供試体10Aは既述したように緻密な品質の良い組織となっていると考えられるからである。
【0052】
また、その図9において、符号Q8はひび割れ発生後の腐食速度を示していると考えられる。ひび割れ発生後の腐食速度が急激に増大する理由は、ひびを伝わって酸素や塩化物イオンを含んだ水が鉄筋の周辺に供給され易くなったからであると考えられる。
【0053】
図10は、分極抵抗測定時のコンクリート供試体10A、10Bの内部温度Tと腐食速度の関係を示す図である。
【0054】
この図10において、●印はコンクリート供試体10Aのかぶり位置4cmにおける鉄筋の腐食速度と温度との関係を示し、○印はコンクリート供試体10Aのかぶり位置2cmにおける鉄筋の腐食速度と温度との関係を示し、▲印はコンクリート供試体10Bのかぶり位置4cmにおける鉄筋の腐食速度と温度との関係を示し、△印はコンクリート供試体10Bのかぶり位置2cmにおける鉄筋の腐食速度と温度との関係を示している。
【0055】
塩化物イオンの影響で、曝露試験日からの年数が経過するに伴って、4本の鉄筋Bは全て腐食速度が大きくなるが、4本の鉄筋共に温度Tが高くなる傾向にあり、腐食速度の対数と温度との間には直線関係が認められる。
【0056】
これらのコンクリート供試体10A、10Bの屋外曝露試験の結果から、外部塩害を受ける鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食速度は、鉄筋のかぶり位置での塩化物イオンの濃度C、温度(気温)T、コンクリートの品質を意味する塩化物イオンの内部拡散係数Dにより推定することができると考え、以下に説明する腐食速度評価式を構築した。
R(T,C,D)=R(T,C)・CD(D) …(1)
【0057】
ここで、R(T,C,D)は鉄筋の腐食速度、R(T,C)は鉄筋コンクリート供試体10A、10Bの内部の温度T及び鉄筋Bのかぶり位置での塩化物イオン濃度Cの影響を表す腐食速度式の演算項、CD(D)はコンクリート品質の経時変化を考慮した塩化物イオンの見かけの拡散係数Dの影響を表す腐食速度式の演算項である。
【0058】
いいかえると、R(T,C,D)は、建造からt年経過後の鉄筋コンクリートの深さ方向の塩化物イオン濃度分布調査から得られる塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtと、この見かけの拡散係数Dtにより計算された鉄筋のかぶり位置での塩化イオン濃度Cと温度Tとから求められた鉄筋の腐食速度である。
【0059】
ここで、演算項R(T,C)を単純に温度に関する演算項CT(T)と塩化物イオン濃度に関する演算項CC(C)との積で表さなかった理由は、塩化物イオンの濃度Cと温度Tとは複合的に作用し、腐食速度が大きくなると温度Tと塩化物イオン濃度Cが同じでも腐食速度のばらつきが大きくなると考えられたからである。
【0060】
そこで、コンクリート供試体10Bのかぶり量2cmにおける腐食速度のデータ、温度Tのデータ、塩化物イオン濃度のデータと、コンクリート供試体10Bのかぶり量4cmにおける腐食速度のデータ、温度Tのデータ、塩化物イオン濃度のデータとを用いて、図11に示す階層構造のニューラルネットワーク解析を行い、鉄筋のかぶり位置における温度Tと塩化物イオン濃度Cとが鉄筋の腐食速度に及ぼす影響(感度)について調べた。
【0061】
図12、図13はそのニューラルネットワークを用いた解析結果であり、図12は塩化物イオンの濃度Cをパラメータとして、温度Tの変化に対する腐食速度の変化を示している。定性的には、温度Tが高くなると腐食速度CRは増大する。図13は温度をパラメータとして塩化物イオンの濃度Cの変化に対する腐食速度の変化を示している。塩化物イオン濃度が高くなると腐食速度は大きくなるが、塩化物イオン濃度Cがある値以上になると腐食速度はそれぞれ一定値に漸近する傾向が認められる。
【0062】
その図12に示す温度と腐食速度とから求められた曲線のうち、塩化物イオンの濃度C(kg/cm3)が、C=1.2の曲線の形状に適合する関数として、eaT+bを分母に有する関数を採用し、この関数の曲線形状に適合するように係数a、b、定数を決定し、下記の温度Tに関する演算項CT(T)を得た。
CT(T)={1/(1+e-0.21T+4.35)}+0.28 …(2)
【0063】
その図13に示す塩化物イオン濃度と腐食速度とから求められた曲線のうち、温度T=25度Cの曲線の形状に適合し、塩化物イオン濃度C(1.2Kg/cm3)の時に、腐食速度が「0」となるような関数であってかつ上方に向かって凸の二次の放物曲線を採用し、この二次の放物曲線の形状に適合するように係数を決定し、下記の塩化物イオンの濃度に関する演算項CC(C)を得た。
【0064】
Cc(C)=1.6{1−(C−11.2)2/102}1/2 …(3)
ここで、C≦11.2のときCc(C)=1.6とする。
C=1.2(Kg/m3)のとき、Cc(C)=0としたのは、鉄筋のかぶり位置での塩化物イオンの濃度が1.2(Kg/m3)に達したときに、腐食が発生すると仮定したからである。また、C=11.2(Kg/m3)以上のとき、Cc(C)=1.6としたのは、塩化物イオン濃度が高くなるに伴って、腐食速度が一定値に近づくと考えられたからである。
【0065】
次に、腐食速度が20mg/cm2/year未満の場合と20mg/cm2/year以上の場合とで、場合分けをすることにした。
一般的に、腐食速度は温度に関する演算項CT(T)と塩化物イオンの濃度に関する演算項CC(C)の積で表現されると考えられるが、腐食速度が大きくなると、腐食速度を単なる積で表現することにすると、実際の測定値に対する推定値のばらつきが大きくなると考えられたからである。
【0066】
そこで、R0(T,C)=22.6・CT(T)・CC(C)として、
R0(T,C)<10mg/cm2/yearの時、即ち、腐食速度R(T,C)が20mg/cm2/year未満の時は、
R(T,C)=2R0(T,C) …(4)、
R0(T,C)≧10mg/cm2/yearの時、即ち、腐食速度R(T,C)が20mg/cm2/year以上の時は、
R(T,C)=R0(T,C)+9.6 …(5)
とした。
ここで、R0(T,C)は、腐食速度R(T,C)が20mg/cm2/year未満の時、20mg/cm2/year以上の時にも用いる関数である。
【0067】
図14は(2)式〜(5)式を用いて求めた腐食速度推定値と分極抵抗により求めた腐食速度測定値(実測値)との相関関係を示すグラフである。
このグラフでは、コンクリート供試体10Bのかぶり位置2cmにおける腐食速度とかぶり位置4cmにおける腐食速度とについて、推定値と実測値との相関関係を示している。
【0068】
腐食速度が20mg/cm2/yearを超えると、推定値と実測値との間にずれが認められるが、(1)式〜(5)式を用いた推定値と実測値との間には良好な相関が認められると考えている。その相関式は、
Y1=X1 …(6)
図15も(2)式〜(5)式を用いて求めた腐食速度推定値と分極抵抗により求めた腐食速度測定値(実測値)との相関関係を示すグラフである。
【0069】
このグラフでは、コンクリート供試体10Aのかぶり位置2cmにおける腐食速度とかぶり位置4cmにおける腐食速度とについて、推定値と実測値との相関関係を示している。
このグラフから実際の腐食速度Y2と推定により得られた腐食速度X2との間に下記の相関式が得られる。
【0070】
Y2=0.1134X2 …(7)
コンクリート供試体10Bの相関式の比例係数が「1」、コンクリート供試体10Aの相関式の比例係数が「0.1134」であるので、コンクリート供試体10Bの腐食速度は、コンクリート供試体10Aの腐食速度の約8.8倍であると考えられる。
このコンクリート供試体10Aの鉄筋の腐食速度とコンクリート供試体10Bの鉄筋の腐食速度との差は、コンクリート品質の影響によるものと考えられる。
【0071】
一般的には、コンクリート品質は水セメント比で表されるが、コンクリート供試体10A、10Bに用いた配合は同じであり、養生条件のみ異ならせたものであるので、設計施工時の水セメント比そのものを用いて、腐食速度を推定しようとしても、腐食速度を推定できないことが、この曝露試験結果から判明した。
【0072】
また、既設コンクリート構造物から採取したコンクリートコアに基づき配合比を分析して、水セメント比を求める方法もあるが、分析精度に問題があるので、塩害調査にはほとんど採用されていない。
そこで、この発明では、実際のコンクリート構造物から採取した見かけの拡散係数Dでコンクリート品質を評価することにした。
【0073】
コンクリート中での塩化物イオンの見かけの拡散係数Dは、建造時点から年数が経過するに伴って小さくなると考えられるから、竹田宣典氏の「海洋環境下における鉄筋コンクリート部材の耐久性評価に関する研究(九州工業大学学位論文,1999.3)」の研究結果に基づき、飛沫帯での近似曲線t-0.54を採用し、図7に示す塩化物イオン濃度の分布曲線Q4、Q5を求める際に得た見かけの拡散係数Dtから下記の表2を得た。
【0074】
【表2】
この表2から見てとれるように、コンクリート供試体10A(NO1)の見かけの拡散係数D5に対するコンクリート供試体10B(NO2)の見かけの拡散係数D5の比は約1対4であり、コンクリート供試体10A(NO1)の鉄筋の腐食速度に対するコンクリート供試体10B(NO2)の腐食速度の比は約1対2となっている。
【0075】
すなわち、コンクリート供試体10A(NO1)の見かけの拡散係数D5に対するコンクリート供試体10B(NO2)の見かけの拡散係数D5の比はコンクリート供試体10A(NO1)の鉄筋の腐食速度に対するコンクリート供試体10B(NO2)の腐食速度の比の約1/2となっている。
【0076】
これは、物質透過性の大きいコンクリートと物質透過性の小さいコンクリートとの酸素及び塩化物イオンの透過性能を比較すると、腐食反応に直接関与しかつ腐食速度に影響すると思われる酸素の拡散係数の比が、塩化物イオンの見かけの拡散係数の比の2倍程度であるので、この曝露試験結果は妥当であると考えられる。
【0077】
なお、ここで、経過年数t=5年時点での拡散係数の換算値D5は、コンクリート供試体10Aのt=5.81年時の拡散係数が1.75であるので、コンクリート供試体10Aの拡散係数の換算値D5は、
D5=1.75×10-8×(5-0.54/5.81-0.54)
の式を用いて求めた。
【0078】
同様に、コンクリート供試体10Bのt=4.33年時の拡散係数が9.58であるので、コンクリート供試体10Bの拡散係数の換算値D5は、D5=9.58×10-8×(5-0.54/4.33-0.54)の式を用いて求めた。
【0079】
なお、コンクリート品質をt=5年経過時点での塩化物イオンの見かけの拡散係数D5で評価することにした理由は、コンクリート供試体10A、10Bの塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtの調査時点がそれぞれt=4.33年、t=5.81年時点であるので、これらの中間時点として切りの良いt=5年時点でコンクリート品質を評価することにしたからである。
【0080】
次に、実際の評価対象としての鉄筋コンクリート構造物の品質を評価する塩化物イオンの見かけの拡散係数の演算項CD(D)を得た。
CD(D)=0.1273×108(Dt・0.4193/t-0.54)−0.128 …(8)
【0081】
ここで、tは調査時点の経過年数(年)、Dtはt年後に実際のコンクリート構造物から採取したコンクリートコアの深さ方向の塩化物イオン濃度分布データから求めた見かけの拡散係数(cm2/sec)である。
この(8)式は以下に説明するようにして求められる。
【0082】
コンクリート供試体(NO2)10Bのt=5年経過時点の腐食速度R(T,C)は「1」であり、コンクリート供試体(NO1)10Aのt=5年経過時点の腐食速度R(T,C)は「0.1134」であり、コンクリート品質を表すt=5年経過時点の見かけの拡散係数D5は、コンクリート供試体(NO1)10Aについては、D5=1.897、コンクリート供試体(NO2)10Bについては、D5=8.863であるので、実際の評価対象としての鉄筋コンクリート構造物の品質を評価する塩化物イオンの見かけの拡散係数D5と実際のコンクリート構造物のコンクリート品質を表す演算項CD(D)との間に、図16に示すグラフで示すような比例関係が成立すると仮定して求めたものである。
【0083】
すなわち、y=a×X+bの比例関係が成立するとして、傾きa、切片bを求めると、
a=0.1273×108
b=−0.1281
よって、CD(D)=0.1273×108×D5−0.1281…(9)
ここで、D5は実際の評価対象としての鉄筋コンクリート構造物の品質を評価する塩化物イオンの見かけの拡散係数であるので、実際の評価対象としてのコンクリート構造物から得られた塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtを経過年数5年時点に換算すると、
D5=Dt×(5-0.54/t-0.54)
=(0.4193×Dt)/t-0.54 …(10)
この(10)式の値を(9)式に代入すると、(8)式が得られる。
【0084】
次に、ひび割れが生じたコンクリート供試体10Bのひび割れ後の分極抵抗値(腐食速度測定値)と(5)式を用いて推定した腐食速度推定値との関係を調べた。
図17は(5)式を用いて求めたひび割れ後の腐食速度推定値と分極抵抗により求めた腐食速度測定値(実測値)との相関関係を示すグラフである。
【0085】
ひび割れは、コンクリート供試体10Bについてのみ認められたので、ひび割れ発生後のコンクリート供試体10Bの鉄筋の分極抵抗により求めた腐食速度測定値(実測値)Y3とひび割れ後の腐食速度推定値X3との相関関係について調べた。
【0086】
図17に示すように腐食速度測定値(実測値)Y3と腐食速度推定値X3との間には一次比例の関係が認められ、その比例係数は約3.7である。
すなわち、ひび割れ発生後の腐食速度は、腐食速度推定値の約3.7倍ほど大きくなっている。
【0087】
その理由は、ひび割れの発生によって、塩化物イオンや溶存酸素を含んだ水が鉄筋と接し易くなったために、腐食速度が増大したからである。
外部塩害を受ける海岸部に存在する実際の鉄筋コンクリート構造物は、既述したように、腐食の過程は、潜伏期、進展期、加速期、劣化期に分類される。
【0088】
外部塩害を受ける海岸部に存在する実際の鉄筋コンクリート構造物の鉄筋のかぶり位置での塩化物イオンの濃度の経時変化(潜伏期)は、既述のフィックの拡散方程式を、外部から一定量の塩化物が連続してコンクリート内に拡散浸透するとして解いた。
【0089】
その結果、下記の(11)式が得られた。
C(X,t)=C’+W・[2・(t/πD)1/2・exp(−X2/4Dt)
−X/D・{1−erf(X/(2Dt1/2))}] …(11)
ここで、C(X,t)は深さX(cm)、時刻t(秒)における塩化物イオン濃度(Kg/m3)、C’は初期混入塩化物イオンの濃度(Kg/m3)、Wは実際の鉄筋コンクリート構造物の表面に付着している塩分の量(コンクリートの表面に付着して内部に拡散浸透する塩化物イオンの量(Kg/cm2/秒))、Dは塩化物イオンの見かけの拡散係数(cm2/秒)である。なお、塩化物イオンの量Wは一定とする。
【0090】
ここで、見かけの拡散係数D、塩化物イオンの量W、初期混入塩化物イオンの濃度C’は、調査時点(実際の鉄筋コンクリート構造物の建造からt年時点)で、その実際の鉄筋コンクリート構造物からコンクリートコアを打ち抜いて、そのコンクリートコアの塩化物イオンの量を深さ方向に測定し、(11)式を用いて、回帰分析することによって求める。
【0091】
なお、例えば、図18に示すように、下面方向A1と側面方向A2との二面方向から塩化物イオンがコンクリート内に侵入すると想定されるコンクリート構造物の部位(例えば、梁の隅角部)については、(11)式で求められた値の1/2乗倍の値を用いる。
なお、鉄筋のかぶり位置での塩化物イオンの濃度Cが、1.2Kg/m3のときに、鉄筋の腐食が開始すると仮定した。
【0092】
次に、進展期については、建造からt年後の評価対象の鉄筋コンクリート構造物からコンクリートコアを打ち抜いて、そのコンクリートコアの塩化物イオンの量を深さ方向に測定し、(1)式〜(8)式を用いて得られた見かけの拡散係数D、塩化物イオンの量W、初期混入塩化物イオンの濃度C’を用いて、建造後から1日刻み又は1ヶ月刻みで鉄筋のかぶり位置での塩化物イオン濃度を求めた。温度Tについては、その評価対象の温度データが存在する場合には、その温度データを用い、温度データがない場合には、近くに存在する気象台のアメダスによる温度データ(気温)を用いる。
【0093】
加速期については、晴天時等、ひび割れ部に水分が供給されない場合の腐食速度については、進展期と同じであると仮定し、満潮時や荒天時に海水と接触するコンクリート部位や降雨時に雨水が降りかかるコンクリート部位については、進展期の腐食速度の3.7倍の腐食速度であるとした。
【0094】
この(1)式〜(8)式による腐食速度推定式を用いて、実際のコンクリート構造物の鉄筋の腐食量を予測し、実測値と較べて見た。
図19はその建造後19年5ヶ月後の桟橋上部工梁部材のかぶり量7.1cm(調査による最小値)とかぶり量9.1cm(設計値)の間のかぶり量8cmに存在する鉄筋D19(鉄筋間隔c.t.c100mm)について、(1)式〜(8)式を適用して1ヶ月刻みで腐食速度を計算し、このようにして得られた腐食速度の時間積分値としての腐食量の経時変化を示している。
【0095】
この腐食速度の計算には、調査点検時の19年5ヶ月時点で桟橋上部工梁部材をコンクリートコアを抜き出して得られたデータ、すなわち、
見かけの拡散係数D=2.97×10-8(cm2/秒)、
初期混入塩化物イオンの濃度C’=1.00(Kg/m3)、
塩化物イオンの量W=2.78×10-13(Kg/cm2/秒)、
及び、桟橋上部工梁部材の近くに存在する気象台のアメダス観測点の温度(気温)Tを用いた。
【0096】
その図19において、Q9はかぶり量8cmの位置に存在する鉄筋の腐食量の推定曲線、Q10はかぶり量9.1cmの位置に存在する鉄筋の腐食量の推定曲線である。また、Q11はかぶり量8cmの位置に存在する鉄筋の腐食開始時点、Q12はかぶり量9.1cmの位置に存在する鉄筋の腐食開始時点を示している。また、○印は実際にかぶり量8cmの位置に存在する鉄筋の直径を互いに直交する方向からノギスを用いて測定して、その平均値から求めた腐食量(実測値)を示している。この図19から明らかなように、予測値と実測値とは良好に一致している。
【符号の説明】
【0097】
10A、10B…コンクリート供試体
10a、10b…表面
11a、11b、12a、12b…鉄筋
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部塩害に基づく鉄筋の腐食劣化の予測精度の向上を図ることができる鉄筋コンクリート構造物の腐食速度を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄筋入りのコンクリート構造物において、鉄筋が腐食劣化する主原因として、塩害と中性化とが知られている。ここで、塩害とは、塩化物イオンの存在によって、コンクリート中の鋼材の腐食が進行し、コンクリートのひび割れ、剥離、剥落、鋼材の断面積減少等の劣化現象をいう。
【0003】
また、中性化とは、空気中の二酸化炭素がコンクリート内に侵入してセメント水和物との炭酸化反応によりセメントの細孔に存在する水液のPHの値が小さくなり、鋼材の腐食が進行する劣化現象をいう。
【0004】
また、塩害には、内部塩害と外部塩害とがあることが知られている。ここで、内分塩害とは、コンクリートの内部にもともと存在する塩化物イオンの存在によって、コンクリート中の鋼材の腐食が進行する劣化現象をいう。
【0005】
外部塩害とは、外部からコンクリート中に侵入する塩化物イオンによって、コンクリート中の鋼材の腐食が進行する劣化現象をいう。
【0006】
鉄筋入りのコンクリート構造物は、このような鉄筋の腐食により、経時的に耐久性が劣化する。
【0007】
一般に、鉄筋入りのコンクリート構造物の劣化進行過程は、図1に示すように、鋼材の腐食が開始するまでの潜伏期T1、コンクリート中の鋼材に腐食が発生する進展期T2、コンクリート中の鋼材の腐食が加速され、コンクリートにひび割れが発生する加速期T3、コンクリートの内部にひび割れが随所に生じて剥離、剥落等の事態が生じる劣化期T4に分類される。
【0008】
例えば、外部塩害については、図2(a)に示すように、コンクリート1中の鋼材(鉄筋)2がそのコンクリート1の表面1aから距離xの深さに存在するとき(以下、距離xを鋼材2のかぶり量という)、外部から塩分Cl-が飛来して、コンクリート1の表面1aに付着し、これが繰り返されることにより、コンクリート1中の塩化イオン濃度は徐々に増大する。そのコンクリート1中の塩化イオンは表面1aから徐々に内部に向かって浸透し、鋼材2の表面2aに達する(潜伏期T1)。
【0009】
コンクリート1中の鋼材2の表面2aの近傍の塩化イオン濃度がある濃度(例えば、1.2Kg/m3)の値以上になると、鋼材2の表面の一部に腐食生成物3が発生し、鋼材2の体積が増し、鋼材2の体積がある値以上になると、鋼材2の体積の増加に伴う膨張力によってコンクリート1の内部にひび割れ4が発生する(進展期T2)。
【0010】
コンクリート1にひび割れ4が生じると、外部から飛来する塩分がひびを伝わって鋼材2の表面に浸透することになり、外部から飛来する塩分の鋼材2への到達速度が益々速くなる。すると、コンクリート1のひび割れ4は益々大きくなり、これに伴って、鋼材2の腐食速度が加速される(加速期T3)。ひいては、コンクリート1の内部に生じたひび割れ4がコンクリート1の表面1aに達する事態に至る(劣化期T4)。
【0011】
このような鉄筋コンクリート構造物の劣化度合いを正確に把握することは、コンクリート構造物の維持管理の観点から極めて重要である。
特に、外部塩害についてのコンクリート構造物の腐食劣化進行予測は、海岸部に存在する火力発電所、原子力発電所のコンクリート構造物の劣化程度を予測する観点から重要である。
【0012】
ところで、鉄筋コンクリート構造物の腐食劣化進行予測の式としては、例えば、下記の森永の式が知られている。
dr/dt=(10-3/C1/2)・(7.70Cl-+0.503(W/C)−40.6)
ここで、Cl-は塩化物イオン濃度、(W/C)は水セメント比を表している。ここで、水セメント比は、コンクリートそのものの品質を表す項である。
【0013】
なお、類似の技術として、コンクリート構造物の劣化診断予測方法がある(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−233244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記の森永の鉄筋コンクリート構造物の腐食劣化進行予測の式は、もともと、コンクリートの内部に存在する塩化物イオンの存在に基づく劣化予測方法であり、外部塩害に基づく鉄筋コンクリート構造物の腐食劣化進行予測を精度良く行うことができないという不都合がある。
【0016】
外部塩害についてのコンクリート構造物の腐食劣化進行予測の式があるにはあるが、正確なものではなく、1年間に例えば27.5mg/cm2ほど鋼材2の径が小さくなると仮定し、かなり、腐食速度を安全側に見込んでいる。
【0017】
すなわち、従来のコンクリート構造物の腐食劣化進行予測方法は、外部塩害によるコンクリート構造物の腐食劣化進行予測を精度良く行うことができないものであった。
【0018】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、その目的は、外部塩害に基づくコンクリート構造物の鉄筋の腐食速度の推定を精度良く行うことができるコンクリート構造物の鉄筋の腐食速度を推定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載の外部塩害を受ける鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食速度を推定する方法は、建造からt年経過時点においての調査により得られた外部塩害を受けるコンクリート構造物の表面からの深さ方向の塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtを用いて得られるコンクリート品質を考慮するための経過年数における見掛けの拡散係数と、調査により得られた見掛けの拡散係数Dtの経年変化を考慮して計算することにより得られた鉄筋のかぶり位置での塩化物イオン濃度Cと、温度Tとから鉄筋の腐食速度を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コンクリート品質を考慮に入れたので、外部塩害に基づく鉄筋コンクリート構造物の鋼材の腐食の度合いの予測を精度良く行うことができ、鉄筋入り構造物の維持管理に好適であり、コンクリート構造物の補修予測等を適切に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】鉄筋入りのコンクリート構造物の劣化進行過程の説明図である。
【図2】鉄筋入りのコンクリート構造物の劣化過程の説明図であって、(a)は腐食前のコンクリート構造物の模式図、(b)は鉄筋に腐食生成物が発生した初期段階を示す模式図、(c)はコンクリート構造物にひび割れが生じた状態を示す模式図、(d)はひび割れがコンクリート構造物の表面に達した状態を示す模式図である。
【図3】本発明に係わる推定方法に用いた鉄筋コンクリート供試体の説明図である。
【図4】図3に示す鉄筋コンクリート供試体の内部構造を説明するための模式図であって、(a)はコンクリート供試体を上面方向から目視した状態を示す断面図、(b)はコンクリート供試体を側面方向から目視した状態を示す断面図である。
【図5】図3に示す鉄筋コンクリート供試体から打ち抜かれたコンクリートコアの一例を示す斜視図である。
【図6】コンクリート供試体の鉄筋の分極抵抗を定期的に測定することにより得られた腐食速度と経過日数との関係をプロットして得られたグラフである。
【図7】コンクリート供試体から抜き出して得られた塩化物イオンの濃度とコンクリート供試体の表面からの深さとの関係をプロットして得られたグラフである。
【図8】図7に示す分布曲線に基づき塩化物イオン濃度値と経過日数との関係を計算により求めたグラフである。
【図9】図8に示す塩化物イオン濃度と腐食速度との関係を示すグラフである。
【図10】図8に示す塩化物イオン濃度とコンクリート供試体の内部の温度との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の方法に係わる推定式の構築に用いるニューラルネットワーク(NNW)の階層構造の一例を示す模式図である。
【図12】塩化物イオンの濃度をパラメータとして温度と腐食速度との関係を示すグラフである。
【図13】温度をパラメータとして塩化物イオンの濃度と腐食速度との関係を示すグラフである。
【図14】コンクリート供試体(NO2)についてニューラルネットワーク解析により得られた腐食速度推定値と実測値との相関関係を示すグラフである。
【図15】コンクリート供試体(NO1)についてニューラルネットワーク解析により得られた腐食速度推定値と実測値との相関関係を示すグラフである。
【図16】コンクリート品質を表す見かけの拡散係数を求めるための説明に用いたグラフである。
【図17】ひび割れ発生後の腐食速度推定値と実際の腐食速度測定値との相関関係を示すグラフである。
【図18】実際のコンクリート構造物の梁の一例を示す説明図である。
【図19】評価対象としての桟橋上部工梁部材についての鉄筋の腐食量推定曲線と実際の鉄筋の腐食量との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0022】
以下に、本発明に係わる鉄筋コンクリート構造物の腐食速度を推定する方法の発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図3は本発明の鉄筋コンクリートの構造物の腐食速度を推定する方法に用いた鉄筋コンクリート供試体の一例を示す説明図である。
その図3において、符号10A、10Bは鉄筋コンクリート供試体を示している。
【0024】
鉄筋コンクリート供試体10A、10Bに用いるコンクリートには、ミキサーで混練した生コンクリートを二つに分けたものを用いた。すなわち、鉄筋コンクリート供試体10A、10Bに用いるコンクリートの品質は同一である。
【0025】
ただし、鉄筋コンクリート供試体10A(NO1)、10B(NO2)の養生条件、曝露条件は以下の表1に示す通りである。
【0026】
【表1】
【0027】
ここで、鉄筋コンクリート供試体10A、10Bには、図4(a)、図4(b)に示すように、かぶり量2cmの鋼材(鉄筋B)11a、11bと、かぶり量4cmの鋼材12a、12b(鉄筋B)とが埋設されている。この他、かぶり位置での鉄筋コンクリートの内部温度(気温)を測定するための温度測定用熱電対、導電率測定用電極、マクロセル電流等測定用ステンレス丸鋼、塩化物イオン検出用電極等も埋設されている。
【0028】
まず、鉄筋コンクリート供試体10A、10Bのかぶり量2cmの鋼材(鉄筋B)11a、11bと、かぶり量4cmの鋼材12a、12b(鉄筋B)の分極抵抗を屋外曝露2ヶ月後から1ヶ月に1回の割合で水を溜めた状態で測定した。
【0029】
すなわち、鉄筋コンクリート供試体10A、10Bのかぶり量2cmの鋼材(鉄筋B)11a、11bと、かぶり量4cmの鋼材12a、12b(鉄筋B)を試料極として、チタンメッシュ(対極)と銀・塩化銀照合電極を鉄筋コンクリート供試体10A、10Bの表面10a、10bに配置した状態で自然電位を測定した後、10Hzの交流インピーダンス値と20mHzの交流インピーダンス値とから分極抵抗Rp(Ωcm2)を求め、Stern−Gearyの式であるIcorr=K/Rp(Kは0.026V(Vはボルト))に分極抵抗Rpの値を代入して、腐食電流密度Icorr(A(アンペア)/cm2)を求めた。
【0030】
ついで、ファラデーの第2法則に基づき、年間当たりについて、鉄筋の単位表面積当たりの腐食速度、質量損失速度(mg/cm2/年)に換算した。これが鉄筋全表面積当たりの平均腐食速度である。なお、1μA/cm2は9.1mg/cm2/年に相当する。
気温(鉄筋コンクリート供試体10A、10Bの内部の温度)は、温度測定用熱電対を用いて30分毎に測定した。
【0031】
鉄筋コンクリート供試体10A、10Bの外部から侵入してきた塩化物量を測定するために、図4(a)に示す箇所Qから、図5に示すコンクリートコア13A、13Bを抜き出して、コンクリート供試体10A、10Bの表面10a、10bから深さ12cmまでの塩化物イオン濃度分布を測定した。
【0032】
図6はこのコンクリート供試体10A、10Bのかぶり量2cmの鋼材(鉄筋B)11a、11bと、かぶり量4cmの鋼材12a、12b(鉄筋B)の分極抵抗Rpの値を換算して求めた腐食速度の値と経過日数との関係を示すグラフである。
【0033】
この図6において、○印はかぶり量2cmにおけるコンクリート供試体10A(NO1)の鋼材(鉄筋B)の腐食速度、△印はかぶり量2cmにおけるコンクリート供試体10B(NO2)の腐食速度を示している。また、●印はかぶり量4cmにおけるコンクリート供試体10A(NO1)の鋼材(鉄筋B)の腐食速度、▲印はかぶり量4cmにおけるコンクリート供試体10B(NO2)の腐食速度を示している。
【0034】
腐食速度が1mg/cm2/年よりも大きい場合には、実際に腐食を起こしていると判断できるから、鉄筋コンクリート供試体10A、10Bの鋼材(鉄筋B)11a、11bのうち、かぶり量4cmの鋼材12aを除く鋼材11a、11bは実際に腐食していると考えられる。
【0035】
特に、鉄筋コンクリート供試体10A(NO1)の鋼材11a(かぶり量2cmの鉄筋B)については、曝露実験の経過日数650日ごろから680日ごろにかけて、符号Q1で示すように、急激に腐食速度が変化しているので、鉄筋Bが腐食していない状態から腐食した状態、すなわち、鉄筋Bが不動態状態から活性状態に転じたと考えられる。
【0036】
なお、鋼材12a(かぶり量4cmの鉄筋B)については、曝露試験開始から終了後も腐食が発生していないと考えられる。その理由は、コンクリート品質が養生により改善されて向上しており、かつ、かぶり量2cmの鋼材11aよりも深い位置にあって外部から鋼材の表面に達する速度が遅くなっているからであると考えられる。
【0037】
鉄筋コンクリート供試体10B(NO2)の鋼材11b(かぶり量2cmの鉄筋B)、鉄筋コンクリート供試体10B(NO2)の鋼材11b(かぶり量4cmの鉄筋B)については、曝露試験開始から750日頃までは、かぶり量2cmの鋼材11bの腐食速度が大きいが、その後は、腐食速度に差異が見られない結果となっている。
【0038】
この鉄筋コンクリート供試体10B(NO2)の鋼材11b(かぶり量2cmの鉄筋B)、鉄筋コンクリート供試体10B(NO2)の鋼材11b(かぶり量4cmの鉄筋B)については、符号Q2、Q3で示すように1400日ごろから1600日ごろにかけて、腐食速度が急激に変化している。その理由は、鉄筋コンクリート供試体10Bにひび割れが発生し、塩分の浸透速度が増加したと考えられる。
【0039】
次に、鉄筋コンクリート供試体10A(NO1)については、鉄筋コンクリート供試体10Aから打ち抜いたコンクリートコア13Aに基づいて表面10aから深さX方向の塩化物イオン量を測定し、塩化物イオン濃度分布を求めた。この鉄筋コンクリート供試体10Aから打ち抜いたコンクリートコア13Aの打ち抜き時点は、曝露試験開始日からt=5.81年である。ついで、鉄筋コンクリート供試体10B(NO2)については、鉄筋コンクリート供試体10Bから打ち抜いたコンクリートコア13Bに基づいて表面10bから深さX方向の塩化物イオン量を測定し、塩化物イオン濃度分布を求めた。この鉄筋コンクリート供試体10Bから打ち抜いたコンクリートコア13Bの打ち抜き時点は、曝露試験開始日からt=4.33年である。
【0040】
ここで、コンクリートコア13Aとコンクリートコア13Bとの打ち抜き時点が異なっているのは、鉄筋コンクリート供試体10Bのひび割れを考慮したからである。
図7はそのコンクリートコア13A、13Bにより求めた塩化物イオン濃度の分布曲線を示している。その図7において、○印はコンクリート供試体10A(NO1)の塩化物イオンの濃度値、△印はコンクリート供試体10B(NO2)の塩化物イオンの濃度値を示している。
【0041】
この塩化物イオンの濃度値に適合する塩化物イオン濃度分布曲線を、下記のフィックの拡散方程式を用いて求めた。
∂C/∂t=Dc・∂2C/∂2X
ここで、Cはコンクリートコア中の塩化物イオン濃度、tは時間、Xはコンクリート表面10a、10bからの深さ(距離)、Dcは塩化物イオンの拡散係数である。
【0042】
このフィックの拡散方程式をコンクリート供試体10A、10Bの表面の塩化物イオン濃度を一定として解くと、下記の式が得られる。
C(X,t)=C’+(C0−C’)・{1−erf(X/2Dt1/2)}
ここに、C(X,t)は深さXcm、時間t秒における塩化物イオン濃度(Kg/m3)、C’は初期混入塩化物イオン濃度(Kg/m3)、C0はコンクリート表面の塩化物イオン濃度(Kg/m3)、Dは塩化物イオンの見かけの拡散係数(cm2/秒)、erfは誤差関数である。ここでは、C’=0として解を得ている。
【0043】
その図7において、符号Q4は、コンクリート供試体10Aの塩化物イオン濃度分布曲線、符号Q5は、コンクリート供試体10Bの塩化物イオン濃度分布曲線を示している。
この図7から、コンクリート供試体10Aの塩化物イオン濃度がコンクリート供試体10Bの塩化物イオン濃度よりも小さいことが見てとれるが、その理由は、コンクリート供試体10Aを約190日間水道水に浸漬することによって、コンクリート供試体10Aの組織の緻密化が図られたからであると考えられる。
【0044】
なお、その図7において、コンクリート供試体10Aの塩化物イオンの見かけの拡散係数Dはt=5.81年の値、コンクリート供試体10Bの塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtはt=4.33年の値のものである。
【0045】
図8はその分布曲線Q4、Q5を用いて、かぶり量2cm(深さX=2cm)、かぶり量4cm(深さX=4cm)における塩化物イオン濃度値(Kg/m3)の経時変化を計算により求めたものである。
【0046】
時間tを変数として0日から2500日に渡って変化させ、そのときの塩化物イオン濃度C(x,t)を計算した。
コンクリート供試体10Aのかぶり位置4cmにおける塩化物イオン濃度は他のものに較べてはるかに小さく、1000日経過時点でもほぼ「0」とみなすことができる。コンクリート供試体10Aのかぶり位置4cmにおける塩化物イオン濃度は、500日経過時点から徐々に増加している。
【0047】
コンクリート供試体10Bのかぶり位置4cmにおける塩化物イオン濃度はコンクリート供試体10Aのかぶり位置2cmにおける塩化物イオン濃度よりも大きく、コンクリート供試体10Bのかぶり位置2cmにおける塩化物イオン濃度よりも小さい。コンクリート供試体10Bのかぶり位置2cmにおける塩化物イオン濃度は、他のものよりも大きい。
【0048】
図9はその図8に示す塩化物イオン濃度と腐食速度との関係を求めてプロットしたものである。この図9に示す塩化物イオン濃度の値には、分極抵抗測定時(腐食速度測定時)の経過日数時点であってかつ図8に示す関数曲線により求められた塩化物イオン濃度の値(推定値)を用いている。
【0049】
鉄筋のかぶり位置での塩化物イオンの濃度がある値を超えると、鉄筋が腐食を開始し、その後、時間の経過と共に、鉄筋のかぶり位置での塩化物イオンの濃度が高くなり、鉄筋の腐食速度もこれに伴って増大することが見てとれる。
【0050】
その理由は、塩化物イオン濃度の影響で、腐食速度が増大していることに加えて、外部からの塩化物イオンの侵入でかぶり位置での塩化物イオン濃度が高くなるので、鉄筋の全表面積のうち発錆限界イオン濃度を超える面積が広くなり、結果として腐食面積が大きくなっていると考えられるからである。
その図9において、符号Q7が発錆限界イオンの濃度を示していると考えられる。
【0051】
また、塩化物イオン濃度が同じでも、コンクリート供試体10Aの腐食速度は、コンクリート供試体10Bの腐食速度よりも小さい。その理由は、コンクリート供試体10Aの見かけの拡散係数がコンクリート供試体10Bの見かけの拡散係数が小さいからである。コンクリート供試体10Aは既述したように緻密な品質の良い組織となっていると考えられるからである。
【0052】
また、その図9において、符号Q8はひび割れ発生後の腐食速度を示していると考えられる。ひび割れ発生後の腐食速度が急激に増大する理由は、ひびを伝わって酸素や塩化物イオンを含んだ水が鉄筋の周辺に供給され易くなったからであると考えられる。
【0053】
図10は、分極抵抗測定時のコンクリート供試体10A、10Bの内部温度Tと腐食速度の関係を示す図である。
【0054】
この図10において、●印はコンクリート供試体10Aのかぶり位置4cmにおける鉄筋の腐食速度と温度との関係を示し、○印はコンクリート供試体10Aのかぶり位置2cmにおける鉄筋の腐食速度と温度との関係を示し、▲印はコンクリート供試体10Bのかぶり位置4cmにおける鉄筋の腐食速度と温度との関係を示し、△印はコンクリート供試体10Bのかぶり位置2cmにおける鉄筋の腐食速度と温度との関係を示している。
【0055】
塩化物イオンの影響で、曝露試験日からの年数が経過するに伴って、4本の鉄筋Bは全て腐食速度が大きくなるが、4本の鉄筋共に温度Tが高くなる傾向にあり、腐食速度の対数と温度との間には直線関係が認められる。
【0056】
これらのコンクリート供試体10A、10Bの屋外曝露試験の結果から、外部塩害を受ける鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食速度は、鉄筋のかぶり位置での塩化物イオンの濃度C、温度(気温)T、コンクリートの品質を意味する塩化物イオンの内部拡散係数Dにより推定することができると考え、以下に説明する腐食速度評価式を構築した。
R(T,C,D)=R(T,C)・CD(D) …(1)
【0057】
ここで、R(T,C,D)は鉄筋の腐食速度、R(T,C)は鉄筋コンクリート供試体10A、10Bの内部の温度T及び鉄筋Bのかぶり位置での塩化物イオン濃度Cの影響を表す腐食速度式の演算項、CD(D)はコンクリート品質の経時変化を考慮した塩化物イオンの見かけの拡散係数Dの影響を表す腐食速度式の演算項である。
【0058】
いいかえると、R(T,C,D)は、建造からt年経過後の鉄筋コンクリートの深さ方向の塩化物イオン濃度分布調査から得られる塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtと、この見かけの拡散係数Dtにより計算された鉄筋のかぶり位置での塩化イオン濃度Cと温度Tとから求められた鉄筋の腐食速度である。
【0059】
ここで、演算項R(T,C)を単純に温度に関する演算項CT(T)と塩化物イオン濃度に関する演算項CC(C)との積で表さなかった理由は、塩化物イオンの濃度Cと温度Tとは複合的に作用し、腐食速度が大きくなると温度Tと塩化物イオン濃度Cが同じでも腐食速度のばらつきが大きくなると考えられたからである。
【0060】
そこで、コンクリート供試体10Bのかぶり量2cmにおける腐食速度のデータ、温度Tのデータ、塩化物イオン濃度のデータと、コンクリート供試体10Bのかぶり量4cmにおける腐食速度のデータ、温度Tのデータ、塩化物イオン濃度のデータとを用いて、図11に示す階層構造のニューラルネットワーク解析を行い、鉄筋のかぶり位置における温度Tと塩化物イオン濃度Cとが鉄筋の腐食速度に及ぼす影響(感度)について調べた。
【0061】
図12、図13はそのニューラルネットワークを用いた解析結果であり、図12は塩化物イオンの濃度Cをパラメータとして、温度Tの変化に対する腐食速度の変化を示している。定性的には、温度Tが高くなると腐食速度CRは増大する。図13は温度をパラメータとして塩化物イオンの濃度Cの変化に対する腐食速度の変化を示している。塩化物イオン濃度が高くなると腐食速度は大きくなるが、塩化物イオン濃度Cがある値以上になると腐食速度はそれぞれ一定値に漸近する傾向が認められる。
【0062】
その図12に示す温度と腐食速度とから求められた曲線のうち、塩化物イオンの濃度C(kg/cm3)が、C=1.2の曲線の形状に適合する関数として、eaT+bを分母に有する関数を採用し、この関数の曲線形状に適合するように係数a、b、定数を決定し、下記の温度Tに関する演算項CT(T)を得た。
CT(T)={1/(1+e-0.21T+4.35)}+0.28 …(2)
【0063】
その図13に示す塩化物イオン濃度と腐食速度とから求められた曲線のうち、温度T=25度Cの曲線の形状に適合し、塩化物イオン濃度C(1.2Kg/cm3)の時に、腐食速度が「0」となるような関数であってかつ上方に向かって凸の二次の放物曲線を採用し、この二次の放物曲線の形状に適合するように係数を決定し、下記の塩化物イオンの濃度に関する演算項CC(C)を得た。
【0064】
Cc(C)=1.6{1−(C−11.2)2/102}1/2 …(3)
ここで、C≦11.2のときCc(C)=1.6とする。
C=1.2(Kg/m3)のとき、Cc(C)=0としたのは、鉄筋のかぶり位置での塩化物イオンの濃度が1.2(Kg/m3)に達したときに、腐食が発生すると仮定したからである。また、C=11.2(Kg/m3)以上のとき、Cc(C)=1.6としたのは、塩化物イオン濃度が高くなるに伴って、腐食速度が一定値に近づくと考えられたからである。
【0065】
次に、腐食速度が20mg/cm2/year未満の場合と20mg/cm2/year以上の場合とで、場合分けをすることにした。
一般的に、腐食速度は温度に関する演算項CT(T)と塩化物イオンの濃度に関する演算項CC(C)の積で表現されると考えられるが、腐食速度が大きくなると、腐食速度を単なる積で表現することにすると、実際の測定値に対する推定値のばらつきが大きくなると考えられたからである。
【0066】
そこで、R0(T,C)=22.6・CT(T)・CC(C)として、
R0(T,C)<10mg/cm2/yearの時、即ち、腐食速度R(T,C)が20mg/cm2/year未満の時は、
R(T,C)=2R0(T,C) …(4)、
R0(T,C)≧10mg/cm2/yearの時、即ち、腐食速度R(T,C)が20mg/cm2/year以上の時は、
R(T,C)=R0(T,C)+9.6 …(5)
とした。
ここで、R0(T,C)は、腐食速度R(T,C)が20mg/cm2/year未満の時、20mg/cm2/year以上の時にも用いる関数である。
【0067】
図14は(2)式〜(5)式を用いて求めた腐食速度推定値と分極抵抗により求めた腐食速度測定値(実測値)との相関関係を示すグラフである。
このグラフでは、コンクリート供試体10Bのかぶり位置2cmにおける腐食速度とかぶり位置4cmにおける腐食速度とについて、推定値と実測値との相関関係を示している。
【0068】
腐食速度が20mg/cm2/yearを超えると、推定値と実測値との間にずれが認められるが、(1)式〜(5)式を用いた推定値と実測値との間には良好な相関が認められると考えている。その相関式は、
Y1=X1 …(6)
図15も(2)式〜(5)式を用いて求めた腐食速度推定値と分極抵抗により求めた腐食速度測定値(実測値)との相関関係を示すグラフである。
【0069】
このグラフでは、コンクリート供試体10Aのかぶり位置2cmにおける腐食速度とかぶり位置4cmにおける腐食速度とについて、推定値と実測値との相関関係を示している。
このグラフから実際の腐食速度Y2と推定により得られた腐食速度X2との間に下記の相関式が得られる。
【0070】
Y2=0.1134X2 …(7)
コンクリート供試体10Bの相関式の比例係数が「1」、コンクリート供試体10Aの相関式の比例係数が「0.1134」であるので、コンクリート供試体10Bの腐食速度は、コンクリート供試体10Aの腐食速度の約8.8倍であると考えられる。
このコンクリート供試体10Aの鉄筋の腐食速度とコンクリート供試体10Bの鉄筋の腐食速度との差は、コンクリート品質の影響によるものと考えられる。
【0071】
一般的には、コンクリート品質は水セメント比で表されるが、コンクリート供試体10A、10Bに用いた配合は同じであり、養生条件のみ異ならせたものであるので、設計施工時の水セメント比そのものを用いて、腐食速度を推定しようとしても、腐食速度を推定できないことが、この曝露試験結果から判明した。
【0072】
また、既設コンクリート構造物から採取したコンクリートコアに基づき配合比を分析して、水セメント比を求める方法もあるが、分析精度に問題があるので、塩害調査にはほとんど採用されていない。
そこで、この発明では、実際のコンクリート構造物から採取した見かけの拡散係数Dでコンクリート品質を評価することにした。
【0073】
コンクリート中での塩化物イオンの見かけの拡散係数Dは、建造時点から年数が経過するに伴って小さくなると考えられるから、竹田宣典氏の「海洋環境下における鉄筋コンクリート部材の耐久性評価に関する研究(九州工業大学学位論文,1999.3)」の研究結果に基づき、飛沫帯での近似曲線t-0.54を採用し、図7に示す塩化物イオン濃度の分布曲線Q4、Q5を求める際に得た見かけの拡散係数Dtから下記の表2を得た。
【0074】
【表2】
この表2から見てとれるように、コンクリート供試体10A(NO1)の見かけの拡散係数D5に対するコンクリート供試体10B(NO2)の見かけの拡散係数D5の比は約1対4であり、コンクリート供試体10A(NO1)の鉄筋の腐食速度に対するコンクリート供試体10B(NO2)の腐食速度の比は約1対2となっている。
【0075】
すなわち、コンクリート供試体10A(NO1)の見かけの拡散係数D5に対するコンクリート供試体10B(NO2)の見かけの拡散係数D5の比はコンクリート供試体10A(NO1)の鉄筋の腐食速度に対するコンクリート供試体10B(NO2)の腐食速度の比の約1/2となっている。
【0076】
これは、物質透過性の大きいコンクリートと物質透過性の小さいコンクリートとの酸素及び塩化物イオンの透過性能を比較すると、腐食反応に直接関与しかつ腐食速度に影響すると思われる酸素の拡散係数の比が、塩化物イオンの見かけの拡散係数の比の2倍程度であるので、この曝露試験結果は妥当であると考えられる。
【0077】
なお、ここで、経過年数t=5年時点での拡散係数の換算値D5は、コンクリート供試体10Aのt=5.81年時の拡散係数が1.75であるので、コンクリート供試体10Aの拡散係数の換算値D5は、
D5=1.75×10-8×(5-0.54/5.81-0.54)
の式を用いて求めた。
【0078】
同様に、コンクリート供試体10Bのt=4.33年時の拡散係数が9.58であるので、コンクリート供試体10Bの拡散係数の換算値D5は、D5=9.58×10-8×(5-0.54/4.33-0.54)の式を用いて求めた。
【0079】
なお、コンクリート品質をt=5年経過時点での塩化物イオンの見かけの拡散係数D5で評価することにした理由は、コンクリート供試体10A、10Bの塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtの調査時点がそれぞれt=4.33年、t=5.81年時点であるので、これらの中間時点として切りの良いt=5年時点でコンクリート品質を評価することにしたからである。
【0080】
次に、実際の評価対象としての鉄筋コンクリート構造物の品質を評価する塩化物イオンの見かけの拡散係数の演算項CD(D)を得た。
CD(D)=0.1273×108(Dt・0.4193/t-0.54)−0.128 …(8)
【0081】
ここで、tは調査時点の経過年数(年)、Dtはt年後に実際のコンクリート構造物から採取したコンクリートコアの深さ方向の塩化物イオン濃度分布データから求めた見かけの拡散係数(cm2/sec)である。
この(8)式は以下に説明するようにして求められる。
【0082】
コンクリート供試体(NO2)10Bのt=5年経過時点の腐食速度R(T,C)は「1」であり、コンクリート供試体(NO1)10Aのt=5年経過時点の腐食速度R(T,C)は「0.1134」であり、コンクリート品質を表すt=5年経過時点の見かけの拡散係数D5は、コンクリート供試体(NO1)10Aについては、D5=1.897、コンクリート供試体(NO2)10Bについては、D5=8.863であるので、実際の評価対象としての鉄筋コンクリート構造物の品質を評価する塩化物イオンの見かけの拡散係数D5と実際のコンクリート構造物のコンクリート品質を表す演算項CD(D)との間に、図16に示すグラフで示すような比例関係が成立すると仮定して求めたものである。
【0083】
すなわち、y=a×X+bの比例関係が成立するとして、傾きa、切片bを求めると、
a=0.1273×108
b=−0.1281
よって、CD(D)=0.1273×108×D5−0.1281…(9)
ここで、D5は実際の評価対象としての鉄筋コンクリート構造物の品質を評価する塩化物イオンの見かけの拡散係数であるので、実際の評価対象としてのコンクリート構造物から得られた塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtを経過年数5年時点に換算すると、
D5=Dt×(5-0.54/t-0.54)
=(0.4193×Dt)/t-0.54 …(10)
この(10)式の値を(9)式に代入すると、(8)式が得られる。
【0084】
次に、ひび割れが生じたコンクリート供試体10Bのひび割れ後の分極抵抗値(腐食速度測定値)と(5)式を用いて推定した腐食速度推定値との関係を調べた。
図17は(5)式を用いて求めたひび割れ後の腐食速度推定値と分極抵抗により求めた腐食速度測定値(実測値)との相関関係を示すグラフである。
【0085】
ひび割れは、コンクリート供試体10Bについてのみ認められたので、ひび割れ発生後のコンクリート供試体10Bの鉄筋の分極抵抗により求めた腐食速度測定値(実測値)Y3とひび割れ後の腐食速度推定値X3との相関関係について調べた。
【0086】
図17に示すように腐食速度測定値(実測値)Y3と腐食速度推定値X3との間には一次比例の関係が認められ、その比例係数は約3.7である。
すなわち、ひび割れ発生後の腐食速度は、腐食速度推定値の約3.7倍ほど大きくなっている。
【0087】
その理由は、ひび割れの発生によって、塩化物イオンや溶存酸素を含んだ水が鉄筋と接し易くなったために、腐食速度が増大したからである。
外部塩害を受ける海岸部に存在する実際の鉄筋コンクリート構造物は、既述したように、腐食の過程は、潜伏期、進展期、加速期、劣化期に分類される。
【0088】
外部塩害を受ける海岸部に存在する実際の鉄筋コンクリート構造物の鉄筋のかぶり位置での塩化物イオンの濃度の経時変化(潜伏期)は、既述のフィックの拡散方程式を、外部から一定量の塩化物が連続してコンクリート内に拡散浸透するとして解いた。
【0089】
その結果、下記の(11)式が得られた。
C(X,t)=C’+W・[2・(t/πD)1/2・exp(−X2/4Dt)
−X/D・{1−erf(X/(2Dt1/2))}] …(11)
ここで、C(X,t)は深さX(cm)、時刻t(秒)における塩化物イオン濃度(Kg/m3)、C’は初期混入塩化物イオンの濃度(Kg/m3)、Wは実際の鉄筋コンクリート構造物の表面に付着している塩分の量(コンクリートの表面に付着して内部に拡散浸透する塩化物イオンの量(Kg/cm2/秒))、Dは塩化物イオンの見かけの拡散係数(cm2/秒)である。なお、塩化物イオンの量Wは一定とする。
【0090】
ここで、見かけの拡散係数D、塩化物イオンの量W、初期混入塩化物イオンの濃度C’は、調査時点(実際の鉄筋コンクリート構造物の建造からt年時点)で、その実際の鉄筋コンクリート構造物からコンクリートコアを打ち抜いて、そのコンクリートコアの塩化物イオンの量を深さ方向に測定し、(11)式を用いて、回帰分析することによって求める。
【0091】
なお、例えば、図18に示すように、下面方向A1と側面方向A2との二面方向から塩化物イオンがコンクリート内に侵入すると想定されるコンクリート構造物の部位(例えば、梁の隅角部)については、(11)式で求められた値の1/2乗倍の値を用いる。
なお、鉄筋のかぶり位置での塩化物イオンの濃度Cが、1.2Kg/m3のときに、鉄筋の腐食が開始すると仮定した。
【0092】
次に、進展期については、建造からt年後の評価対象の鉄筋コンクリート構造物からコンクリートコアを打ち抜いて、そのコンクリートコアの塩化物イオンの量を深さ方向に測定し、(1)式〜(8)式を用いて得られた見かけの拡散係数D、塩化物イオンの量W、初期混入塩化物イオンの濃度C’を用いて、建造後から1日刻み又は1ヶ月刻みで鉄筋のかぶり位置での塩化物イオン濃度を求めた。温度Tについては、その評価対象の温度データが存在する場合には、その温度データを用い、温度データがない場合には、近くに存在する気象台のアメダスによる温度データ(気温)を用いる。
【0093】
加速期については、晴天時等、ひび割れ部に水分が供給されない場合の腐食速度については、進展期と同じであると仮定し、満潮時や荒天時に海水と接触するコンクリート部位や降雨時に雨水が降りかかるコンクリート部位については、進展期の腐食速度の3.7倍の腐食速度であるとした。
【0094】
この(1)式〜(8)式による腐食速度推定式を用いて、実際のコンクリート構造物の鉄筋の腐食量を予測し、実測値と較べて見た。
図19はその建造後19年5ヶ月後の桟橋上部工梁部材のかぶり量7.1cm(調査による最小値)とかぶり量9.1cm(設計値)の間のかぶり量8cmに存在する鉄筋D19(鉄筋間隔c.t.c100mm)について、(1)式〜(8)式を適用して1ヶ月刻みで腐食速度を計算し、このようにして得られた腐食速度の時間積分値としての腐食量の経時変化を示している。
【0095】
この腐食速度の計算には、調査点検時の19年5ヶ月時点で桟橋上部工梁部材をコンクリートコアを抜き出して得られたデータ、すなわち、
見かけの拡散係数D=2.97×10-8(cm2/秒)、
初期混入塩化物イオンの濃度C’=1.00(Kg/m3)、
塩化物イオンの量W=2.78×10-13(Kg/cm2/秒)、
及び、桟橋上部工梁部材の近くに存在する気象台のアメダス観測点の温度(気温)Tを用いた。
【0096】
その図19において、Q9はかぶり量8cmの位置に存在する鉄筋の腐食量の推定曲線、Q10はかぶり量9.1cmの位置に存在する鉄筋の腐食量の推定曲線である。また、Q11はかぶり量8cmの位置に存在する鉄筋の腐食開始時点、Q12はかぶり量9.1cmの位置に存在する鉄筋の腐食開始時点を示している。また、○印は実際にかぶり量8cmの位置に存在する鉄筋の直径を互いに直交する方向からノギスを用いて測定して、その平均値から求めた腐食量(実測値)を示している。この図19から明らかなように、予測値と実測値とは良好に一致している。
【符号の説明】
【0097】
10A、10B…コンクリート供試体
10a、10b…表面
11a、11b、12a、12b…鉄筋
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造からt年経過時点においての調査により得られた外部塩害を受けるコンクリート構造物の表面からの深さ方向の塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtを用いて得られるコンクリート品質を考慮するための経過年数における見掛けの拡散係数と、調査により得られた見掛けの拡散係数Dtの経年変化を考慮して計算することにより得られた鉄筋のかぶり位置での塩化物イオン濃度Cと、温度Tとから、外部塩害を受ける鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食速度を推定する方法。
【請求項2】
前記コンクリート品質を考慮することにより得られた前記塩化物イオン濃度Cのデータと、前記温度Tのデータとを用いて階層構造のニューラルネットワークによる解析を行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項1】
建造からt年経過時点においての調査により得られた外部塩害を受けるコンクリート構造物の表面からの深さ方向の塩化物イオンの見かけの拡散係数Dtを用いて得られるコンクリート品質を考慮するための経過年数における見掛けの拡散係数と、調査により得られた見掛けの拡散係数Dtの経年変化を考慮して計算することにより得られた鉄筋のかぶり位置での塩化物イオン濃度Cと、温度Tとから、外部塩害を受ける鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食速度を推定する方法。
【請求項2】
前記コンクリート品質を考慮することにより得られた前記塩化物イオン濃度Cのデータと、前記温度Tのデータとを用いて階層構造のニューラルネットワークによる解析を行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−8152(P2012−8152A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227110(P2011−227110)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【分割の表示】特願2006−260626(P2006−260626)の分割
【原出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【分割の表示】特願2006−260626(P2006−260626)の分割
【原出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】
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