説明

鉄粉、食品添加剤としての使用方法、食品添加剤、及び鉄粉の製法

本発明は、食品強化用鉄粉に関する。該鉄粉は、不規則の形状の粒子を有する還元鉄粉末から本質的に成り、しかも、該鉄粉は、0.3未満のAD:PD比(式中、ADはg/cm単位の見かけ密度であり、PDはg/cm単位の粒子密度である)を有している。BET法によって測定されるそれら粉末粒子の比表面積は、300m/kgを超えており、しかも、その平均粒径は5〜45μmの間である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品及び飼料の強化(fortification)に関する。本発明は、更に具体的に言えば、食品及び飼料の添加剤として適切であり、コスト的に効率よく製造することのできる鉄粉に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は、動物及びヒトの栄養素にける必須微量元素である。鉄は、ヘモグロビン中のヘム(heme)の成分であり、ミオグロビン、チトクローム及び幾つかの酵素の成分である。鉄の主な役割は、酸素の輸送、貯蔵及び利用における鉄の関与である。バランスの取れた食事は通常、野菜、肉及び穀物のような鉄に富む食料品を摂取することによって、鉄の必要性を満たしている。重要な鉄源は、小麦粉等の穀物である。しかし、小麦粉の近代製法において、鉄に富む、小麦粒の殻は、除去されている。この結果、今日の小麦粉の鉄含有量は、以前製造された小麦粉の鉄含有量よりも低くなっている。鉄の欠乏は、とりわけ発展途上国における主な栄養失調の結果でもある。鉄含有量が非常に低い常食は、出生時体重が低くなる原因となり、子供の成長と認知発達とを損ない、しかも、成人では疲労を引き起こすので、常食に鉄を添加する必要がある。鉄強化プログラムの最大の効果は当然、大抵の人々が毎日食する食品に鉄が添加される場合に達成されるであろう。
【0003】
最も広く知られている方法は、小麦粉、トウモロコシ粉、コーンフレークス等のような穀物製品の鉄強化であるが、他の多くの製品も強化されている。
鉄は、多くの様々な形態で食品及び飼料に添加することができる。金属鉄だけでなく、硫酸鉄のような鉄の無機塩、及び、グルコン酸鉄又はフマル酸鉄のような有機塩も使用することができる。食品強化のための、基本的に3種類の異なるタイプの鉄エレメント(elemental iron)、即ち、還元鉄又はスポンジ鉄、カルボニル鉄及び電解鉄が存在している。
【0004】
還元鉄は、酸化鉄粉末を高温で水素又は一酸化炭素を用いて還元し、次いで、その還元鉄ケーキ(reduced iron cake)を粉砕して製粉することによって製造される。還元鉄は、鉄鉱石又はミルスケール(mill scale)から製造される。その生成物の純度は、該酸化鉄の純度によって決定される。これらの生成物は、電解粉末又はカルボニル粉末と比べて、食品級鉄粉のうちで最も低い純度を有する。いずれかの還元工程によって製造された鉄粉の中の最も一般的な不純物は、酸素であり、大抵の酸素は、表面酸化物の薄膜として生じる。基本的な不純物には、炭素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、イオウ、クロム、マンガン、ニッケル及び銅が包含され、それらの多くは酸化物として存在する。その粒径は不規則であり、粒子は多孔質であり、それは、多数の小さい等軸粒から成る。
【0005】
カルボニル鉄粉末は、他の鉄粉の粒子よりも遥かに小さい粒子から成る。これらの粉末は、還元鉄を、加熱及び加圧の下、一酸化炭素で処理することによって生成される。結果として得られるペンタカルボニル鉄は、その後で、鉄粉及び一酸化炭素を生じる制御条件下で分解される。この時点での主な不純物は炭素であり、該炭素の大部分を除去するためには、湿潤水素中での更なる還元が必要である。その粉末は、直径が0.5〜10μmの寸法範囲の粒子を有し、高純度である。それら粒子は、形状が球形に近く、密度が非常に高く、平滑である。それら粒子の構造は、タマネギの皮様に配列された同心状殻によって特徴付けられる。そのカルボニルプロセスは高コストである。
【0006】
電解鉄粉末は、機械的に粉砕される硬質の脆い金属の電解析出を行うことによって製造される。電解鉄粉末の粒子形状は、不規則で、シダ様樹枝状であり、それによって、電解鉄粉末は、それの高表面因子が提供される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
食品添加剤として使用される鉄含有化合物のための重要な特徴は、その鉄の生物学的利用能、即ち、その鉄が如何に効率的に体に吸収されるかということである。今日、食品及び飼料を強化するために使用される鉄粉のカルボニル粉末及び電解粉末は、最大の生物学的利用能を有しているが、これらの粉末の製造コストは、還元鉄粉末の製造コストと比べて高い。純粋な還元鉄粉末は、生物学的利用能が高く、コスト的に効率よく製造することができ、それ故に魅力的であり、本発明の目的である。
生物学的利用能の評価は、生体外研究、動物研究又はヒト研究のような様々な方法で実施することができる。鉄粉の生物学的利用能も他の鉄化合物の生物学的利用能も通常、硫酸鉄と比較して測定される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、鉄の十分な生物学的利用能は、不規則の形状の粒子を有する還元鉄粉末から本質的に成る鉄粉であって、0.3未満のAD:PD比(式中、ADはg/cm単位の見かけ密度であり、PDはg/cm単位の粒子密度である)を有している該鉄粉によって得ることができる、ということが今回見い出された。更に、BET法によって測定されるそれら粉末粒子の比表面積は、300m/kgを超えており、好ましくは400m/kgを超えているのが望ましく、そして、その平均粒径は5〜45μmの間、好ましくは5〜25μmの間であるのが望ましい。
そのような粉末の強化量(fortifying amount)(約1〜200ppm)は、食品又は飼料の中に含有されているのが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
出発材料
出発材料として使用する酸化鉄は、天然赤鉄鉱(Fe)である場合がある。もう1つの代替案は、酸再生プロセスからの副産物として得られるタイプの酸化鉄を使用することである。所望の特性を有する生成物を得るために、該出発材料の粒径は好ましくは、55μmを超えないことが望ましい。
【0010】
製造プロセス
前記出発材料の還元は、水素ガス、又は、炭素と水素ガスとの混合物を用いて行う。その還元は、1100℃以下の温度のベルト炉の中で行うのが好ましい。重要な特徴は、その還元が、結果として得られる生成物が、粉末の形態になるか、又はその粒子形状及び他の特性に如何なる影響をも与えることなく、若しくはほんの僅かな影響しか与えないで容易に粉砕することのできる僅かに焼結されたケーキの形態になるようなやり方で実施されることである。
【0011】
冶金学的目的のためにスポンジ鉄粉を製造する方法は、英国特許第704026号明細書に開示されている。この英国特許明細書には、そのような粉末を得るために、出発材料の粒径は約150μm未満(100メッシュ)であり、最終生成物の粒径を超えるべきでないことが教示されている。更に、該出発材料は、焼結されたスポンジ鉄ケーキが形成されるような温度で固体又は気体の還元剤を用いて還元することができることが、開示されている。それらの焼結済みケーキは、冷却された後、所望の大きさに粉砕される。一例として、磁鉄鉱の精鉱は1000℃の温度でチャコールを用いて還元されることが、具体的に開示されている。
【0012】
もう1つの還元法は、米国特許第5,713,982号明細書に開示されている。この方法は、酸化鉄粉末を、還元雰囲気中で約1200°F(649℃)まで、次いで約1400°F(760℃)まで、最終的に約1500°F(816℃)まで昇温させながら加熱するようなやり方で実施することが好ましい。還元雰囲気として、水素を使用することが好ましい。この既知の方法によると、鉄粉の粒子は丸くなっている。この既知の粉末は、射出成形プロセスのために有用であると述べられている。
【0013】
本発明によると、十分な溶解率と生物学的利用能とを得るためには、前記還元を行った後に得られた前記鉄粒子は、不規則の形状を有するのが望ましいことが分かった。前記の決定的に重要な特徴は、前記酸化鉄粉末の還元を、前記の米国特許明細書に開示されている温度及び加熱時間よりも幾分高い温度及び/又は幾分長い加熱時間で実施することによって得ることができることが分かった。一例としては、炭素と水素ガスとの組み合わせを、前記還元剤として約1000℃の温度で使用することができる。不規則の形状を有する前記粒子を有する鉄粉を製造するための正確な条件は、当業者が決定することができる。
【0014】
生成物の特徴付け
前記鉄粉の重大かつ決定的に重要な特徴は、その形状が多孔質で不規則であること、及び結果としてその見かけ密度(AD)が低いことである。ADは、2g/m未満であるのが好ましいことが分かった。更に、該鉄粉の気孔は開放されていることが望ましく、それによって、該鉄粒子の中に胃液が浸透するのが容易となり、該鉄の十分に高い溶解率が提供される。低い開放気孔率は、約7.86g/mである鉄の真の密度の値に近い粒子密度の値として現れる。更にまた、ADとPDとの間の関係は0.3未満であるのが望ましいことが分かった。
【0015】
本明細書及び特許請求の範囲で用いられる「粒子密度(PD)」は、比重瓶装置(pycnometer apparatus)を用いて測定される。比重瓶装置によって、制御された条件の下、確定された容積を持つ容器に入っている鉄粒子の開放気孔の中に液体が流れ込むことが可能となる。粒子密度は、内部の密閉気孔を含む、粒子質量を粒子体積で割った値として規定される。その液体流体として、エタノール溶液5%〜99.5%を使用した。比重瓶の重量と、鉄粉試料を含んだ比重瓶の重量と、確定された容積まで浸透流体で充填された、鉄粉試料を含んだ比重瓶の重量とを秤量した。比重瓶の確定された容積と該浸透流体の密度とは、既知であり、従って、粒子密度を計算することができる。
【0016】
鉄粉粒子の粒径もまた、溶解率に影響を及ぼすパラメータである。非常に粗大な粒子の粒径は、溶解率に負の影響を与え、鉄粉の非常に微細な粒子の粒径は、操作を行う間、粉塵爆発の危険性を増大させる。その平均粒径が5〜45μmの間、好ましくは5〜25μmの間であるとき、十分に高い溶解率が得られる。
【0017】
生物学的利用能
前記鉄粉の生物学的利用能を評価するための方法として、我々は、pH1及び37℃の塩酸に鉄粉50gを溶解させる段階を包含する方法を用いた。溶解した鉄の量は、30分後に測定し、以下の表2の溶解率として記載される。本発明によると、該鉄粉は、37℃及びpH1の塩酸に入れて30分後、少なくとも40重量%となる溶解率を有するのが望ましいことが分かった。
【0018】
とりわけ、食品用途に関連して記述したが、急速な溶解を必要とする他の分野でも、本発明による鉄粉を使用することができることは自明である。
本発明は更に、次の非制限的実施例によって例示される。
【実施例1】
【0019】
この実施例は、溶解率によって測定される高い生物学的利用能を有し、且つ、食品又は飼料を強化するのに使用することのできる鉄粉の製造方法を開示する。
5〜20μmの粒径を有する赤鉄鉱を、1mm未満の粒径を有するコールと混合した。添加したコールの量は、12重量%であった。得られた混合物は、約1000℃の炉で還元した。炉の端部で水素ガスを添加して、赤鉄鉱材料の流れと反対方向に流れるようにした。水素ガスの添加量は、還元鉄1トン当り610mであった。得られたスポンジ鉄ケーキは、標準的製粉装置で穏かに粉砕して、325メッシュスクリーンで篩い分けした。
【実施例2】
【0020】
還元は水素のみを用いて実施し、使用した出発材料は、酸再生からの副産物として得られた酸化鉄であったことを除き、実施例1に従った方法を繰り返した。
【0021】
それぞれ上記の実施例1及び実施例2による新規な粉末A及び粉末Bであって、食品強化のための鉄粉として直ちに使用したそれら粉末の間の比較を、下記に示す。表1に、粉末の種類を記載し、表2に、これらの粉末の特性を記載する。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
本発明による前記鉄粉中のAs、Hg及びPbの含有量は全て、食品強化用鉄粉において容認されている臨界限界より低かった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は還元された鉄粉の顕微鏡写真である(実施例1)。
【図2】図2は、実施例2によって還元された鉄粉の顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不規則の形状の粒子を有する還元鉄粉末から本質的に成る鉄粉であって、該鉄粉が、0.3未満のAD:PD比(式中、ADはg/cm単位の見かけ密度であり、PDはg/cm単位の粒子密度である)を有しており、BET法によって測定されるそれら粉末粒子の比表面積が、300m/kgを超えており、しかも、その平均粒径が5〜45μmの間である、上記鉄粉。
【請求項2】
前記粉末粒子の比表面積が、400m/kgを超えており、好ましくは450m/kgを超えており、最も好ましくは500m/kgを超えており、しかも、前記平均粒径が5〜25μmである、請求項1に記載の鉄粉。
【請求項3】
前記AD:PD比が、0.27未満、好ましくは0.25未満である、請求項1又は2に記載の鉄粉。
【請求項4】
前記鉄粉は、37℃及びpH1の塩酸に入れて30分後、少なくとも40重量%となる溶解率を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉄粉。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の鉄粉を、食料品、飼料又は飲料に用いる方法。
【請求項6】
食料品又は飲料と、強化量の、請求項1〜4のいずれか1項に記載の還元鉄粉末とを含有している強化された材料。
【請求項7】
55μm未満の粒径を有する酸化鉄粉末の出発材料を与える工程と、
前記酸化鉄粉末を1100℃未満の温度で還元して、多孔質焼結ケーキにする工程と、
前記の得られたケーキを粉砕して篩い分けし、所望の粒径を有する粉末にする工程と
を包含する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の還元鉄粉末の製造方法。
【請求項8】
前記酸化鉄は、天然赤鉄鉱(Fe)と、酸再生プロセスからの副産物として得られる酸化鉄とから成る群から選定する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記還元は、水素ガス、又は、炭素と水素ガスとの混合物を用いて行う、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記還元は、ベルト炉中で実施する、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−522337(P2007−522337A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541098(P2006−541098)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001731
【国際公開番号】WO2005/051105
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(595054486)ホガナス アクチボラゲット (66)
【Fターム(参考)】