説明

鉄系形状記憶合金管の製造方法およびそれにより製造された管

【課題】鉄系形状記憶合金製管継手の柱状晶率を高めて、管締結力を向上させることである。
【解決手段】鉄系形状記憶合金で形成され、管継手の素材となる管を鋳造する際に、鉄系形状記憶合金の溶湯に、AlよりもNと結合しやすい元素であるTiを、合金中に含有されているすべてのNと結合し、かつ柱状晶の形成を妨げるチタン化合物の量が許容範囲内に収まる範囲で添加することにより、合金凝固時のAlNの析出を抑え、50%以上の柱状晶率が得られるようにして、この管を素材とする管継手の内径収縮率を高め、管締結力を向上させたのである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、鋼管等の接続に用いられる鉄系形状記憶合金製管継手の素材となる管の製造方法およびそれにより製造された管に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼管の利用分野において、鋼管どうしの接続は、従来、溶接により行われていたが、最近では、形状記憶合金製の管継手を用いて締結する方法が新たな工法として注目を浴びつつある。その締結方法は、鋼管外径よりも小さい内径の形状記憶合金製管継手を、その内径が鋼管外径より僅かに大きくなるまで室温で拡径した後、管継手両端から鋼管を挿入して300℃程度まで加熱し、加熱された管継手が形状回復作用により元の形状に収縮する力を利用して鋼管の締結を行うものである。このときの管締結力の大きさは、加熱された管継手の内径収縮率、すなわち形状記憶特性(回復特性)によって決まる。
【0003】
上記の鋼管締結方法では、比較的安価で加工性に優れた鉄系形状記憶合金製の管継手が使用されることが多い。また、その素材となる管の製造方法については、従来、合金塊を熱間圧延して板材とした後、これを円筒形に成形してその継目部を溶接していたが、現在では、圧延および成形工程を省略できる遠心金型鋳造法を採用することが主流となってきている。
【0004】
この遠心金型鋳造法によって製造した鉄系形状記憶合金管を素材とする管継手は、継手横断面(肉厚方向断面)内の全マクロ組織に占める柱状晶の割合(以下、柱状晶率と記す。)が多いほど内径収縮率が高く、十分な大きさの管締結力を得るには、柱状晶率が50%以上であることが望ましいとされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−82642号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1では、管継手の柱状晶率を50%以上とするための具体的な製造条件が開示されておらず、特に、合金の成分組成に関しては、実施例中にC、Mn、Si、CrおよびNiの含有量が記載されているのみで、その他の元素が柱状晶の形成に及ぼす影響については記述されていない。
【0007】
これに対して、本発明者等が合金内の柱状晶の形成に及ぼす各種の元素の影響について調査した結果、AlとNが同時に含まれている場合に、その含有量が多いほど柱状晶率が低くなる傾向があることがわかった。これは、AlとNとは、合金の溶湯中で容易に結びついて、凝固時にAlNという形で結晶粒界に析出し、一方向に細長く延びる柱状晶の成長を阻害するためと考えられる。
【0008】
AlNの析出を防止するには、合金中に含まれるAlまたはNの量を極力少なくすればよい。しかし、合金の溶製にAlやNがほとんど含まれていない高純度の材料を使用すると、材料コストが大幅に増加してしまうため、通常は、0.1wt%程度の不純物を含む比較的安価な材料を使用せざるをえないのが実情である。このような不純物を含む材料で合金を溶製すると、通常、Alが0.001〜0.005wt%程度残存する。また、Nについても、真空鋳造を行って大気からの混入を防止しても、材料中に含まれていた分が0.001wt%程度残存してしまう。なお、Nに関しては、単独の作用による形状記憶特性の向上等を目的として、積極的に添加される場合もある。
【0009】
従って、鉄系形状記憶合金製管継手を、前記特許文献1の実施例に記載されている成分組成の合金で製造しても、合金内でのAlNの析出量によっては、必ずしも柱状晶率が50%以上とならず、加熱時の内径収縮率が低くなって管締結力が不足する場合がある。
【0010】
そこで、この発明の課題は、鉄系形状記憶合金製管継手の柱状晶率を高めて、管締結力を向上させることである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、この発明は、鉄系形状記憶合金で形成され、管継手の素材となる管の製造方法において、管鋳造時に、合金の溶湯にAlよりもNと結合しやすい元素を添加して、合金凝固時のAlNの析出を抑え、高い柱状晶率が得られるようにしたのである。なお、管鋳造時の注湯温度、金型温度、金型冷却条件および管肉厚方向の温度勾配等、柱状晶の形成に影響する因子については、通常実施されている鋳造条件の範囲内に設定するものとする。
【0012】
前記AlよりもNと結合しやすい元素としてTiを採用した場合は、その添加量を、合金中に含有されるNの量に基づいて、下記(1)式が成立する範囲で設定すればよい。
【0013】
3.42X≦Y≦3.26X+0.18 ・・・ (1)
ここで、X:含有N量(wt%)、
Y:Ti添加量(wt%)
上記(1)式におけるTi添加量の上下限値は、以下に述べる理由から設定したものである。すなわち、AlNを析出させないためには、少なくとも、含有されているすべてのNと結合するだけのTiを添加する必要がある。そこで、この必要最小限のTi量を、TiとNとの原子量の比から求めて(1)式の下限値とした。
【0014】
一方、Tiを含有N量に対して過剰に供給すると、Nと結合せずに残る余分なTiがこれに比べて多量に含有されている他の主要成分元素と結合して、FeTi、TiCr 、SiTi等のチタン化合物を形成し、これらのチタン化合物が結晶粒内から結晶粒界にまで散在、晶出して柱状晶の形成を妨げるようになる。そこで、SiやCrを含有する一般的な成分組成の鉄系形状記憶合金にTiを過剰に添加して柱状晶率の違いを調査し、その結果に基づき、50%以上の柱状晶率を確保できる限界として(1)式の上限値を規定した。
【0015】
このような方法で製造される鉄系形状記憶合金管は、その柱状晶率を50%以上とすることにより、この管を素材とする管継手の内径収縮率を高め、管継手に十分な管締結力を付与することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき、この発明の実施形態を説明する。この鉄系形状記憶合金管は、その製造方法において、通常使用される僅かな不純物を含んだ材料で鉄系形状記憶合金を溶製し、この合金で管を鋳造する際に、溶湯中に含まれるN量に基づいて、下記(1)式が成立する範囲でTiを添加する。
【0017】
3.42X≦Y≦3.26X+0.18 ・・・ (1)
ここで、X:含有N量(wt%)、
Y:Ti添加量(wt%)
これにより、AlよりもNと結合しやすいTiに溶湯中のNが残らず結合してTiNとなり、合金凝固時にAlNが析出しなくなるとともに、柱状晶の形成を妨げるチタン化合物の量も抑えられ、高い柱状晶率が得られるようになる。従って、この管を素材とする管継手は、内径収縮率が高くなり、十分な管締結力が確実に得られるようになる。また、材料コストの増加しろは、合金の溶製に高純度の材料を使用する場合に比べてごく僅かである。
【0018】
なお、Nを積極的に添加する場合でも、含有N量が0.5wt%を越えると、窒化物の析出量が多くなって合金の延性が低下し始めるので、実際の管の製造におけるTiの添加量は、(1)式においてX≦0.5の範囲となる。
【0019】
また、AlよりもNと結合しやすい元素として、Tiの代わりに、V、Nb、TaおよびZr等を添加してもよいし、これらのうちの2種類以上の元素を同時に添加するようにしてもよい。これらの元素の添加量についても、含有されているすべてのNと結合し、かつ柱状晶の形成を妨げる化合物を多く形成しない範囲とすることが望ましい。
【0020】
上述した実施形態における効果を確認するため、鉄系形状記憶合金管の製造実験を行った。実験は、まず、数種類の通常の純度の材料を高周波溶解炉で溶解して、成分組成がFe−28%Mn−6%Si−5%Cr(単位はwt%)の鉄系形状記憶合金を5単位溶製した。このとき、溶湯中に含まれるN量を発光分光分析装置により測定し、この測定結果に基づいて、4単位の合金に上記(1)式が成立する範囲のTiを添加し(実施例)、1単位の合金には(1)式の下限値より少ないTiを添加(比較例)した。なお、溶湯中のAl含有量は、各実施例および比較例のいずれも0.001〜0.005wt%であった。
【0021】
次に、これらのTi添加された合金の溶湯を、遠心金型鋳造法により、それぞれ外径253.5mm、肉厚11mm、長さ1150mmの寸法の管に鋳造した。その他の鋳造条件としては、金型への鋳込み温度を1450℃、鋳込み時間を13秒とした。
【0022】
そして、鋳造した各管の中央部を約20mm幅で切断し、切断面を#80〜#800の研磨紙で研磨した後、第二塩化銅腐食液で腐食して、腐食面に現れるマクロ組織における柱状晶率を測定した。
【0023】
図1は、各管の含有N量およびTi添加量と、柱状晶率の測定結果との関係を示す。N量とTi量が上記(1)式で表される領域から外れた比較例では、柱状晶率が50%未満であるのに対し、実施例では、(1)式の領域の限界線上にある2例を含めて、いずれも50%以上の柱状晶率が確保されている。
【0024】
【発明の効果】
以上のように、この発明は、鉄系形状記憶合金で形成され、管継手の素材となる管を鋳造する際に、合金の溶湯にAlよりもNと結合しやすい元素を添加したので、合金凝固時のAlNの析出を抑えることができる。これにより、材料コストをほとんど増加させることなく、十分な管締結力を有する管継手を確実に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鉄系形状記憶合金管の製造実験結果を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系形状記憶合金で形成され、管継手の素材となる管の製造方法において、管鋳造時に、前記鉄系形状記憶合金の溶湯にAlよりもNと結合しやすい元素を添加して、合金凝固時のAlNの析出を抑えるようにしたことを特徴とする鉄系形状記憶合金管の製造方法。
【請求項2】
前記AlよりもNと結合しやすい元素がTiであり、その添加量を、合金中に含有されるNの量に基づいて、下記(1)式が成立する範囲で設定したことを特徴とする請求項1に記載の鉄系形状記憶合金管の製造方法。
3.42X≦Y≦3.26X+0.18 ・・・ (1)
ここで、X:含有N量(wt%)、
Y:Ti添加量(wt%)
【請求項3】
鉄系形状記憶合金で形成され、管継手の素材となる管において、請求項1または2に記載の製造方法により製造され、その横断面内の全マクロ組織に占める柱状晶の割合が50%以上であることを特徴とする鉄系形状記憶合金管。

【図1】
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【公開番号】特開2004−268118(P2004−268118A)
【公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−65219(P2003−65219)
【出願日】平成15年3月11日(2003.3.11)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【出願人】(599131354)