鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料、鋳鉄用原料の製法、鋳鉄、鋳鉄の製法及び鋳鉄原料用製造キット
【目的】新規な鉄系産業廃棄物から安価な鋳鉄用原料を鋳物業界に提供する。
【構成】本発明に係る鋳鉄用原料は、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄及び/又は硫酸鉄を処理してマグネタイト及び/又は酸化第二鉄を生成し、前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄を鋳鉄用原料とすることを特徴とする。前記鉄系産業廃棄物は鉱山廃棄物又は鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である。また、前記鋳鉄用原料が前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄のペレットである。前記水酸化鉄や硫酸鉄は加熱炉によりマグネタイトに変換される。また硫酸鉄は鉄バクテリア処理により酸化第二鉄に変換される。前記マグネタイトから誘導加熱炉により鋳鉄を製造し、前記酸化第二鉄と炭素材を共存させて誘導加熱炉により鋳鉄を製造することができる。
【構成】本発明に係る鋳鉄用原料は、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄及び/又は硫酸鉄を処理してマグネタイト及び/又は酸化第二鉄を生成し、前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄を鋳鉄用原料とすることを特徴とする。前記鉄系産業廃棄物は鉱山廃棄物又は鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である。また、前記鋳鉄用原料が前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄のペレットである。前記水酸化鉄や硫酸鉄は加熱炉によりマグネタイトに変換される。また硫酸鉄は鉄バクテリア処理により酸化第二鉄に変換される。前記マグネタイトから誘導加熱炉により鋳鉄を製造し、前記酸化第二鉄と炭素材を共存させて誘導加熱炉により鋳鉄を製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系産業廃棄物から製造される鋳鉄用原料及びその製法に関し、更に詳細には、従来着目されなかった新規な鉄系産業廃棄物から製造されるマグネタイト及び酸化第二鉄といった新規な鋳鉄用原料、その鋳鉄用原料の製法、それから得られる鋳鉄、その鋳鉄の製法及び鋳鉄原料用製造キットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、製鉄所では、製銑工程と製鋼工程により強靭な鋼を製造している。製銑工程では、高炉を用いて鉄鉱石から炭素分を2〜5%含有した銑鉄を取り出し、製鋼工程では、前記銑鉄から炭素分を除去し、必要に応じて他の合金元素を混ぜて、強靭な鋼を製造している。この鋼を鋳造して板材、棒材、形鋼等の半製品を製造し、またこの半製品に鍛造や圧延を加えて最終製品を製造している。
【0003】
鉄鉱石の73%は、ロシア、オーストラリア、ウクライナ、中国、ブラジルから産出され、日本の産出量は少量である。そこで、日本では、鉄スクラップの再利用が推進されている。鉄スクラップは、市中スクラップと自家発生スクラップに分けられる。自家発生スクラップは、製鋼メーカーで、製鋼や加工の工程から出てくるスクラップのことであり、製鋼の工程の中で再利用が図られており、市中に出てくることは極めて少ない。従って、我々が目にするのは市中スクラップである。市中スクラップには工場発生スクラップと老廃スクラップに分けられる。工場発生スクラップは、機械・電機・車両・造船・その他の工場で加工工程から発生するスクラップであり、積極的に再利用が図られている。老廃スクラップは、廃車・廃船・建物・その他の使用済み鉄製品として発生するスクラップで、日本ではその多くが回収され、リサイクルされている。これらの鉄スクラップは、プレス加工、シャーリング加工(切断加工)、シュレッダー加工、ガス切断加工、その他加工により微細化されて再利用に供されてきた。
【0004】
従来、鉄スクラップは比較的安価で安定していたため、大量に廃出される自動車や船舶等の鉄製品に限定して再利用が図られてきた。しかし、近年になって、世界的な諸情勢により、鉄スクラップ価格が高騰し、鉄スクラップを前記老廃スクラップに限定していては、再利用が困難になる事態に至っている。
【0005】
特に、日本の中小鋳物業界では、鋳鉄用原料(即ち、鉄鋳物用原料)が少なくなった結果、価格が高騰し、事業継続の困難といった事態に直面している。その原因として、(1)中国やインド等の新興国で鉄系スクラップの需要が急増している、(2)資源メジャーによる鉄鉱石・石炭の寡占化が進行している、(3)CO2削減義務化もあり、社内スクラップと中間材料の自己消費が進み、日本国内の高炉メーカーから鋳鉄用原料の供給量が減少している、(4)リーマンショックや東日本大震災の影響で産業界から発生するスクラップ量が非常に不安定になっている、ことが考えられる。纏めると、鋳鉄用原料を取り巻く状況として、鉄鋼原料価格の上昇、製鉄所派生材料の減少、鋳鉄用原料の価格上昇や原子力発電所の停止による電力供給の逼迫という事態が出現している。
【0006】
そこで、鉄製品の老廃スクラップ以外に、鉄資源を活用する動きが早まっている。例えば、特開平8−298992号公報(特許文献1)では、排水中の2価の鉄イオンを鉄バクテリアを利用して回収する技術が提案されている。ここで対象となる排水は、製鉄所から発生する冷延・メッキ排水である。また、特開平4−52234号公報(特許文献2)では、集塵ダストに含有される鉄系成分を中心とする金属質成分をペレットとして回収する技術が提案されている。ここで対象となる集塵ダストは、製鋼用電気炉から排出されるダストである。更に、特開2000−212657公報(特許文献3)には、鉄系廃棄物に下水処理汚泥の炭化物からなる還元剤を適用し、鉄系廃棄物中の金属酸化物を加熱還元して金属化する技術が開示されている。ここで鉄系廃棄物とは、製鋼所から発生する製鋼ダスト、高炉ダスト、酸洗スラッジ、圧延スケールである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−298992号公報
【特許文献2】特開平4−52234号公報
【特許文献3】特開2000−212657公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、特許文献1に示される排水は製鉄所から発生する冷延・メッキ排水であり、特許文献2に示される集塵ダストは製鋼用電気炉から排出されるダストであり、特許文献3に示される鉄系廃棄物は製鋼所から発生する製鋼ダスト、高炉ダスト、酸洗スラッジ、圧延スケール等である。即ち、これらの排水、集塵ダスト及び鉄系廃棄物は、前述した製鉄所の自家発生スクラップであり、これらの自家発生スクラップの殆ど100%が製鉄所内で再利用されていることは周知であり、日本における鉄スクラップの再利用技術の水準の高さを示す証左である。
【0009】
しかし、自家発生スクラップや市中スクラップの再利用技術が如何に高水準にあるとしても、前述した世界情勢により鉄スクラップが高騰している中で、このままでは中小鉄鋳物業界は事業継続の岐路に立たされていると言っても過言ではない。この事態を解決するには、従来全く顧みられることが無かった新規な鉄系産業廃棄物に着目する以外に無く、これによって安価な鋳鉄用原料を提供する以外に方途はない。
【0010】
従って、本発明では、新規な鉄系産業廃棄物として、鉱山廃棄物や鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場より廃棄される鉄系産業廃棄物である水酸化鉄及び/又は硫酸鉄に着目し、この水酸化鉄及び/又は硫酸鉄からマグネタイトや酸化第二鉄を製造し、製造されたマグネタイトや酸化第二鉄を安価に提供することを目的とする。現役の鉱山のみならず廃鉱山にも大量の鉄系産業廃棄物が手つかずの状態で眠っている。従って、極めて安価に鉄系産業廃棄物を入手でき、また鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場からも継続的に鉄系産業廃棄物が排出されており、これらの鉄系産業廃棄物は従来全く再利用されること無く眠っていたものであるから、これらの鉄系産業廃棄物から安価な鋳鉄用原料を鉄鋳物業界に提供することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1形態は、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄及び/又は硫酸鉄を処理してマグネタイト及び/又は酸化第二鉄を生成し、前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄を鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料である。
【0012】
本発明の第2形態は、前記水酸化鉄を含有する前記鉄系産業廃棄物が鉱山廃棄物又は鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料である。
【0013】
本発明の第3形態は、前記硫酸鉄を含有する前記鉄系産業廃棄物が鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料である。
【0014】
本発明の第4形態は、前記鋳鉄用原料が前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄のペレットであるところの鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料である。
【0015】
本発明の第5形態は、前記ペレットには炭素材が含有される鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料である。
【0016】
本発明の第6形態は、前記酸化第二鉄を処理してマグネタイトを生成し、このマグネタイトを前記鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料である。
【0017】
本発明の第7形態は、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄を加熱炉により処理してマグネタイトを生成し、前記マグネタイトを鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法である。
【0018】
本発明の第8形態は、鉄系産業廃棄物に含有される硫酸鉄をバクテリア処理して酸化第二鉄を生成し、前記酸化第二鉄を鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法である。
【0019】
本発明の第9形態は、前記酸化第二鉄を加熱炉で処理してマグネタイトを生成し、このマグネタイトを鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法である。
【0020】
本発明の第10形態は、鉄系産業廃棄物に含有される硫酸鉄を加熱炉により処理してマグネタイトを生成し、前記マグネタイトを鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法である。
【0021】
本発明の第11形態は、第1形態1〜第6形態のいずれかに記載の鋳鉄用原料を還元して製造される鋳鉄である。
【0022】
本発明の第12形態は、第1形態1〜第6形態のいずれかに記載のマグネタイトからなる鋳鉄用原料を誘導加熱炉に投入し、マグネタイトの導電性を利用して前記マグネタイトを電磁誘導発熱で融解させ、前記マグネタイトを還元して鋳鉄を製造する鋳鉄の製法である。
【0023】
本発明の第13形態は、第1形態1〜第6形態のいずれかに記載の酸化第二鉄からなる鋳鉄用原料を炭素材と共存状態で誘導加熱炉に投入し、炭素材の導電性を利用して前記炭素材を電磁誘導発熱させて前記酸化第二鉄を融解させ、前記酸化第二鉄を還元して鋳鉄を製造する鋳鉄の製法である。
【0024】
本発明の第14形態は、第1形態1〜第6形態のいずれかに記載の鋳鉄用原料と、この鋳鉄用原料を融解させる誘導加熱炉を少なくとも有することを特徴とする鋳鉄原料用製造キットである。
【0025】
本発明の第15形態は、鋳鉄用原料に炭素材が付加される鋳鉄製造用キットである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の第1形態によれば、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄及び/又は硫酸鉄を処理してマグネタイト及び/又は酸化第二鉄を生成し、前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄を鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料が提供される。
本発明の第1の特徴は、鉄系産業廃棄物に含まれる水酸化鉄や硫酸鉄から鋳鉄用原料を製造することである。水酸化鉄には、Fe(OH)2と表記される水酸化鉄(II)(又は、水酸化第一鉄)とFe(OH)3で表記される水酸化鉄(III)(又は水酸化第二鉄)が存在する。また、Fe(OH)3とはFeO(OH)と表記される酸化水酸化鉄(III)と考えても良い。Fe(OH)3を含有する天然の鉄鉱石として、針鉄鉱、赤金鉱、鱗鉄鉱、褐鉄鉱などが知られているが、本発明では鉄鉱石を使用するのではなく、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄を使用する点で異なっている。あくまで鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄を使用すれば極めて安価に鋳鉄用原料を提供できるからである。また、硫酸鉄にはFeSO4と表記される硫酸鉄(II)とFe2(SO4)3と表記される硫酸鉄(III)が存在する。FeSO4は硫酸第一鉄とも称され、無水和物FeSO4、一水和物FeSO4・H2O、四水和物FeSO4・4H2O、五水和物FeSO4・5H2O、七水和物FeSO4・7H2Oが存在する。Fe2(SO4)3は硫酸第二鉄とも称され、無水和物Fe2(SO4)3、五水和物Fe2(SO4)3・5H2Oが存在する。
従来、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄や硫酸鉄が鉄原料として着目されることは無かった。一般に、製鉄業界では鉄を製造する原料として鉄鉱石が使用され、鉄鉱石は酸化鉄である。また、鉄スクラップ再利用では、鉄製品の廃棄物である鉄スクラップが使用され、鉄スクラップとは酸化鉄ではなく金属鉄そのものである。鉄鉱石や鉄スクラップは大量に存在するのに対し、水酸化鉄や硫酸鉄の分量は極めて少量であり、少量の水酸化鉄や硫酸鉄を鉄へと変換処理することは逆にコストアップに繋がると考えられた。従って、水酸化鉄や硫酸鉄が鉄原料として着目されることは全くなかった。本発明で初めて、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄や硫酸鉄が鉄原料として着目されるに至ったのである。
【0027】
本発明の第2の特徴は、前記水酸化鉄や硫酸鉄をマグネタイト及び/又は酸化第二鉄に変換処理し、これらのマグネタイト及び/又は酸化第二鉄を鋳鉄用原料とする点にある。鋳鉄とは鉄鋳物のことであり、鋳鉄用原料を鉄鋳物用原料と称しても良いことは云うまでもない。マグネタイトは磁鉄鉱であり、その化学式はFe3O4であり、四酸化三鉄とも称される。マグネタイトは酸化鉄材料の中で高い導電性と磁性を有する。従って、マグネタイトを誘導加熱炉に投入すると、マグネタイト中に発生する渦電流によって融解する。換言すれば、誘導加熱炉に交流を印加すれば、マグネタイトは電磁誘導発熱し、この自己発熱によりマグネタイトは融解する。この過程でマグネタイトを還元すれば、マグネタイトは鉄へと変換され、鋳鉄になる。従って、マグネタイトは鋳鉄用原料になるわけである。また、酸化第二鉄の化学式はFe2O3であり、酸化第二鉄は導電性や磁性はマグネタイトに比して小さい。従って、酸化第二鉄だけを誘導加熱炉に投入しても、電磁誘導により発熱することは無い。しかし、誘導加熱炉内に酸化第二鉄と炭素材を共存させると、炭素材が導電性を有するから、炭素材が電磁誘導発熱し、この発熱により酸化第二鉄は融解する。また、炭素材の還元作用により、酸化第二鉄は鋳鉄へと還元されるから、酸化第二鉄は鋳鉄用原料になるのである。酸化第二鉄と炭素材とは別材料として誘導加熱炉内に投入されても良いが、酸化第二鉄と炭素粉とを一体的に混合したペレットにし、このペレットを誘導加熱炉に投入しても良い。
【0028】
本発明の第2形態によれば、水酸化鉄を含有する鉄系産業廃棄物は鉱山廃棄物又は鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料が提供される。本発明で使用される水酸化鉄は、鉱山廃棄物に大量に含有されることが分かった。しかも、この鉱山廃棄物は鉱山近傍の谷間に赤茶色に堆積しており、そのまま手つかずの状態で利用されること無く存在している。この放置された鉱山廃棄物中に大量の水酸化鉄が含有されているから、この水酸化鉄を利用すれば、極めて安価にマグネタイトや酸化第二鉄といった鋳鉄用原料を極めて安価に提供することができる。また、鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場からも、処理工程の中から水酸化鉄が中間物質として排出される。この水酸化鉄は産業廃棄物として廃棄されるだけであるから、この水酸化鉄を利用すれば、極めて安価にマグネタイトや酸化第二鉄といった鋳鉄用原料を極めて安価に提供することができる。
【0029】
本発明の第3形態によれば、硫酸鉄を含有する鉄系産業廃棄物として、鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料が、提供される。たとえば酸化チタンを製造する工程においては、硫酸鉄が中間生成物として排出される。この硫酸鉄は産業廃棄物として廃棄されるだけであるから、この硫酸鉄を利用すれば、極めて安価にマグネタイトや酸化第二鉄といった鋳鉄用原料を極めて安価に提供することができる。
【0030】
本発明の第4形態によれば、マグネタイト及び/又は酸化第二鉄をペレットにした鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料が提供される。鋳鉄用原料を粉体やブロックではなく、ペレットの形状で提供すれば、取扱方法が極めて容易になる。ペレットにすれば、保管や加熱炉への投入も容易になり、少量から大量に至るまで粒数だけで調整できる利点を有する。ペレットとは粒であり、粒径は利用形態により様々であるが、取り扱い易さの観点から言えば、例えば0.1mm〜80mmの範囲が好適であり、1mm〜15mmの範囲がより好適である。
【0031】
本発明の第5形態によれば、マグネタイト及び/又は酸化第二鉄のペレットに炭素材を含有させた鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料が提供される。マグネタイトや酸化第二鉄を粒状に形成しておき、この粒の表面に一様に炭素粉を押し固めれば、マグネタイトや酸化第二鉄の粒核の周囲に炭素粉が被膜状に付着したペレットが形成される。また、マグネタイトや酸化第二鉄の粉体に炭素粉を投入して粒状固化させれば上述と同様形状のペレットを形成することも可能である。炭素材をマグネタイトに含有させると、マグネタイトを誘導加熱炉に投入したとき、マグネタイトの電磁誘導発熱による融解と、炭素材によりマグネタイトの還元が同時進行し、マグネタイトから鋳鉄を一気に製造することができる。また、炭素材を酸化第二鉄に含有させると、誘導加熱炉内で炭素材に電磁誘導発熱が生じ、この熱により酸化第二鉄が融解し、同時に酸化第二鉄が前記炭素材により還元されて、酸化第二鉄から鋳鉄を製造することができる。また、これらの還元時に水素ガス等を流通させると、効率的に水素還元も並行するため、還元効率の向上を期すことが可能になる。通常の加熱炉を使用する場合には、その熱量でマグネタイトや酸化第二鉄を融解できるから、誘導加熱炉を利用する必要はなくなる。
【0032】
本発明の第6形態によれば、前記酸化第二鉄を処理してマグネタイトを生成し、このマグネタイトを前記鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料を提供する。第1形態では、水酸化鉄や硫酸鉄をマグネタイト及び/又は酸化第二鉄に変換処理しているが、第6形態では生成された酸化第二鉄を更に処理してマグネタイトを形成し、このマグネタイトを鋳鉄用原料とする点にある。従って、この第6形態は、水酸化鉄や硫酸鉄から最終的にマグネタイトを形成し、マグネタイトを鋳鉄用原料として利用することである。酸化第二鉄は導電性を有さないから、酸化第二鉄だけで、誘導加熱炉により融解することはできない。そのため、酸化第二鉄に炭素材を共存させていたのである。通常の加熱炉を使用する場合には、その熱量でマグネタイトや酸化第二鉄を融解でき、電磁誘導加熱を利用する必要はなくなる。この第6形態では、最終物をマグネタイトに一本化し、マグネタイトの導電性により、マグネタイト単体で誘導加熱炉により融解することが可能になる。
【0033】
本発明の第7形態によれば、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄を加熱炉により処理してマグネタイトを生成し、前記マグネタイトを鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法が提供される。水酸化鉄としてFe(OH)3の場合、水素還元処理の一例として下記の化学反応式が挙げられる。
6Fe(OH)3 + H2→ 2Fe3O4 + 10H2O (1)
また、水酸化鉄としてFe(OH)2の場合、酸化処理の一例として下記の化学反応式が挙げられる。
3Fe(OH)2 → Fe3O4 + 3H2 + O2 (2)
水酸化鉄からマグネタイトを生成するには、上記したように、水酸化鉄の種類により還元処理と酸化処理の2方法があり、水酸化鉄の種類により適宜選択することができる。反応温度や反応時間、還元ガスや酸化ガスの流量は反応効率との関係で適宜調整される。
【0034】
本発明の第8形態によれば、鉄系産業廃棄物に含有される硫酸鉄を鉄バクテリア処理して酸化第二鉄を生成し、前記酸化第二鉄を鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法が提供される。前述したように、硫酸鉄にはFeSO4と表記される硫酸第1鉄とFe2(SO4)3と表記される硫酸第2鉄が存在する。FeSO4は、無水和物FeSO4、一水和物FeSO4・H2O、四水和物FeSO4・4H2O、五水和物FeSO4・5H2O、七水和物FeSO4・7H2Oが存在する。Fe2(SO4)3は、無水和物Fe2(SO4)3、五水和物Fe2(SO4)3・5H2Oが存在することが分かっている。夫々の化学反応式の一例を下記に記す。
2FeSO4 + H2O → Fe2O3+ SO2 + H2SO4 (3)
2FeSO4・H2O → Fe2O3+ SO2 + H2SO4 + H2O (4)
2FeSO4・4H2O → Fe2O3+ SO2 + H2SO4 + 7H2O (5)
2FeSO4・5H2O → Fe2O3+ SO2 + H2SO4 + 9H2O (6)
2FeSO4・7H2O → Fe2O3+ SO2 + H2SO4 + 13H2O (7)
以上の(3)式〜(7)式は、FeSO4をFe2O3に変換する過程であり、酸化数で言えば、Fe2+からFe3+への酸化過程である。
Fe2(SO4)3・+ H2O → Fe2O3+ 2SO2 + H2SO4 + O2 (8)
Fe2(SO4)3・5H2O → Fe2O3+ SO2 + H2SO4 + O2 + 4H2O (9)
以上の(8)式〜(9)式は、Fe2(SO4)3をFe2O3に変換する過程であり、酸化数で言えば、Fe3+からFe3+への非酸化還元過程である。上記したように、硫酸鉄の種類により化学反応式が多少変化し、反応温度、 反応時間、鉄バクテリア濃度は適宜調整される。また、たとえば酸化チタン工場から排出される硫酸鉄はFeSO4・7H2Oが多いから、上記(7)式の化学反応が生起し易いと考えられる。
【0035】
本発明の第9形態によれば、バクテリア処理で生成される前記酸化第二鉄を加熱炉で処理してマグネタイトを生成し、このマグネタイトを鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法が提供される。上述したように、第8形態のバクテリア処理では酸化第二鉄が生成されるから、この酸化第二鉄をマグネタイトに変換処理するには、加熱炉により処理する必要がある。マグネタイトは導電性を有するから、誘導加熱炉により鋳鉄製造が容易になるからである。勿論、誘導加熱炉を使用せず、通常の加熱炉を使用して熱融解させる場合には、酸化第二鉄のままでも良い。以下に、酸化第二鉄の水素還元の化学反応式の一例を次に記す。酸化数で言えば、Fe3+からFe8/3+への還元過程である。
3Fe2O3 + H2 → 2Fe3O4+ H2O (10)
【0036】
本発明の第10形態によれば、鉄系産業廃棄物に含有される硫酸鉄を加熱炉により処理してマグネタイトを生成し、前記マグネタイトを鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法が提供される。第8形態のように、硫酸鉄はバクテリア処理により酸化第二鉄に変換処理され、この酸化第二鉄を第9形態のように還元処理すればマグネタイトを最終的に製造することができる。バクテリア処理を介する限り、マグネタイトを得るには2段階処理を必要とする。しかし、本第10形態を使用すると、硫酸鉄でも加熱炉を用いて、1段階処理でマグネタイトを製造することができる。1段階の加熱炉処理の方が産業効率的に優れているとも言える。FeSO4に関しては、上記(3)式〜(7)式に対応して(11)式〜(15)式が成立する。H2ガスを流通させていても還元処理とは云えない。酸化数で言えば、Fe2+からFe8/3+への酸化過程である。
3FeSO4 + 2H2→ Fe3O4+ 3SO2 + 2H2O (11)
3FeSO4・H2O + 2H2→ Fe3O4+ 3SO2 + 5H2O (12)
3FeSO4・4H2O + 2H2→ Fe3O4+ 3SO2 + 14H2O (13)
3FeSO4・5H2O + 2H2→ Fe3O4+ 3SO2 + 17H2O (14)
3FeSO4・7H2O + 2H2→ Fe3O4+ 3SO2 + 23H2O (15)
またFe2(SO4)3に関しては、上記(8)式及び(9)式に対応して(16)式及び(17)式が成立する。酸化数で言えば、Fe3+からFe8/3+への還元過程である。
3Fe2(SO4)3・+ 10H2 → 2Fe3O4+ 9SO2 + 10H2O (16)
3Fe2(SO4)3・5H2O + 10H2 → 2Fe3O4+ 9SO2 + 25H2O (17)
【0037】
本発明の第11形態によれば、第1形態〜第6形態のいずれかに記載の鋳鉄用原料を還元して製造される鋳鉄を提供できる。鋳鉄用原料を鉄鋳物業界に提供し、鉄鋳物業界ではこの鋳鉄用原料を融解還元して鋳鉄を製造する。前記鋳鉄用原料を安価に提供できるから、世界的な価格変動に影響されること無く、安価に鋳鉄を製造することができる。
【0038】
本発明の第12形態によれば、第1形態〜第6形態のいずれかに記載のマグネタイトからなる鋳鉄用原料を誘導加熱炉に投入し、マグネタイトの導電性を利用して前記マグネタイトを電磁誘導発熱で融解させ、前記マグネタイトを還元して鋳鉄を製造する鋳鉄の製法が提供される。マグネタイトを水素還元する化学反応式の一例を以下に記載する。他の還元剤を使用することもでき、その場合には化学反応式は変化する。
Fe3O4 + 4H2→ 3Fe + 4H2O (18)
マグネタイトに炭素材を共存させた場合には、炭素材が還元剤になる(19)式と炭素材が還元剤として寄与しない(20)式の場合も存在する。(20)式では、炭素材は導電性を有するから、電磁誘導発熱材としては寄与する。
Fe3O4 + C + 2H2→ 3Fe + CO2 + 2H2O (19)
Fe3O4 + C + 4H2→ 3Fe + C + 4H2O (20)
【0039】
本発明の第13形態によれば、第1形態〜第6形態のいずれかに記載の酸化第二鉄からなる鋳鉄用原料を炭素材と共存状態で誘導加熱炉に投入し、炭素材の導電性を利用して前記炭素材を電磁誘導発熱させて前記酸化第二鉄を融解させ、前記酸化第二鉄を還元して鋳鉄を製造する鋳鉄の製法が提供される。(21)式では炭素材は書いていないが、(22)式〜(25)式には炭素材が書き込まれている。(22)式と(23)式は、酸化第二鉄核の周囲に炭素材が被覆された酸化第二鉄ペレットの場合を示し、(22)式は炭素材が無反応の場合、(23)式は炭素材が還元作用を奏して二酸化炭素に変化した場合を示す。(24)式と(25)式は、酸化第二鉄とは別に炭素材が添加された場合を示し、(24)式は炭素材が無反応の場合、(25)式は炭素材が還元作用を奏して二酸化炭素に変化した場合を示す。(21)式〜(25)式の炭素材は電磁誘導発熱作用も奏していることは云うまでもない。以下では、酸化第二鉄を水素還元する化学反応例を記載する。他の還元剤を使用することもでき、その場合には化学反応式は変化する。
Fe2O3 + 3H2 → 2Fe + 3H2O (21)
Fe2O3・C + 3H2 → 2Fe + C + 3H2O (22)
Fe2O3・C + H2 → 2Fe + CO2 + H2O (23)
Fe2O3 + C + 3H2 → 2Fe + C + 3H2O (24)
Fe2O3 + C + H2 → 2Fe + CO2 + H2O (25)
【0040】
本発明の第14形態によれば、第1形態〜第6形態のいずれかに記載の鋳鉄用原料と、この鋳鉄用原料を融解させる誘導加熱炉を少なくとも有する鋳鉄原料用製造キットが提供される。鋳鉄用原料はマグネタイト及び/又は酸化第二鉄であり、マグネタイトは誘導加熱炉を用いて電磁誘導加熱させることができる。また、酸化第二鉄は炭素材を併用することによって、炭素材の電磁誘導加熱により酸化第二鉄を間接的に熱融解させることができる。
【0041】
本発明の第14形態によれば、鋳鉄用原料に炭素材が付加される鋳鉄原料用製造キットが提供される。ここで鋳鉄用原料はマグネタイト及び/又は酸化第二鉄である。マグネタイトは誘導加熱炉を用いて電磁誘導加熱させることができ、しかも炭素材により還元されて鋳鉄を製造することができる。また、酸化第二鉄は炭素材を併用することによって、炭素材の電磁誘導加熱により酸化第二鉄を間接的に熱融解させることができ、しかも炭素材により還元されて鋳鉄を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の鉄系産業廃棄物として鉱山廃棄物から得られる水酸化鉄が利用できることを示す概略説明図である。
【図2】本発明の鉄系産業廃棄物として鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場の一例として酸化チタン工場の工程図を示すが,ここにおいて硫酸鉄と水酸化鉄が利用できることを示す概略説明図である。
【図3】本発明で鋳鉄用原料として生成されるマグネタイトと酸化第二鉄が含まれた状態図である。
【図4】本発明で使用される鉄系産業廃棄物の一覧と処理工程を示す概略工程図である。
【図5】本発明で使用される鉄系産業廃棄物の硫酸鉄を酸化第二鉄に変換処理する鉄バクテリア処理装置の概略構成図である。
【図6】図5の鉄バクテリア処理装置を用いて硫酸鉄の種類に応じた鉄バクテリア処理による化学反応式の例を示した化学反応式図である。
【図7】本発明において水酸化鉄・硫酸鉄からマグネタイト・酸化第二鉄を製造する加熱装置図である。
【図8】図7の加熱装置を用いて水酸化鉄・酸化第二鉄からマグネタイトを生成する化学反応式の例を示した化学反応式図である。
【図9】図7の加熱装置を用いて硫酸鉄からマグネタイトを生成する化学反応式の例を示した化学反応式図である。
【図10】本発明において鋳鉄用原料であるマグネタイト・酸化第二鉄から鋳鉄を製造する誘導加熱装置図である。
【図11】図10の誘導加熱装置を用いてマグネタイト・酸化第二鉄から鋳鉄を製造する化学反応式の例を示した化学反応式図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、本発明に係る鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料、鋳鉄用原料の製法、鋳鉄、鋳鉄の製法及び鋳鉄原料用製造キットの実施形態を図面に従って詳細に説明する。
【0044】
図1は、本発明の鉄系産業廃棄物として鉱山廃棄物から得られる水酸化鉄が利用できることを示す概略説明図である。
鉱山からの排水は図1の処理フローを経て最終的に廃棄物である乾燥ケーキが埋め立て処理される。詳細には、鉱山からはpHが約3.2の坑内水が排水として大量に排出され、この坑内水に大量の鉄イオンが含まれている。この坑内水は、まずバクテリア酸化槽によりFe2+からFe3+へと酸化され、バクテリア回収槽でバクテリアを回収した後、再びバクテリア酸化槽にフィードバックされる。バクテリア酸化槽のpHは約2.6になる。バクテリア回収槽から鉄沈殿物回収槽へと排水が送出され、Fe3+はFe(OH)SO4となって回収される。このFe(OH)SO4は無機凝集剤として再利用され、ある鉱山ではそのスラリー量は毎年1400トンにもなる。
【0045】
鉄沈殿物回収槽からの排水は炭酸カルシウム中和槽に送出され、更に炭酸カルシウム中和槽からの排水は固液分離槽に送出される。固液分離槽からの排水は再び炭酸カルシウム中和槽に送られ、この循環を繰り返す。前段の炭酸カルシウム中和槽のpHは約4.0であるが、後段の炭酸カルシウム中和槽のpHは約8.0と中性に近い。固液分離槽からは多種類のイオンが固形物として沈殿する。Fe3+はFe(OH)3になり、SO42-はCaSO4になり、Al3+はAl(OH)3になり、Si4+はSiO2となって沈殿する。前述したように、これらの沈殿物は、乾燥ケーキとして毎年3000トンにも達し、Fe(OH)3が主要廃棄物であるから、大量の水酸化鉄が毎年3000トンも廃棄されて、山間の谷間に堆積しているのである。このように、排水は中和され、重金属イオンを除去した後、pHが約8.0の浄化水として放流される。
【0046】
いずれにしても、毎年3000トンにも達する水酸化鉄を主成分とする乾燥ケーキが谷間に堆積されることになり、従来見向きもされなかったこの水酸化鉄を本発明の鉄系産業廃棄物として利用するのである。従って、極めて安価に水酸化鉄を入手することができる。水酸化鉄としてFe(OH)3が主要廃棄物であるが、Fe(OH)2も含有されている可能性がある。また、鉱山廃棄物以外からも水酸化鉄が入手でき、その中にはFe(OH)2も含有されている。従って、鉄系産業廃棄物として入手できる水酸化鉄には、Fe(OH)3とFe(OH)2が含まれる。
【0047】
図2は、本発明の鉄系産業廃棄物として鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場の一例として,酸化チタン工場から排出される硫酸鉄と水酸化鉄が利用できることを示す概略説明図である。図から分かるように、この酸化チタン工場からは3種類の鉄系産業廃棄物が排出される。具体的には、第1にCa(SO4)―Fe(OH)3の混合物、第2にFeSO4・7H2O、第3にFeSO4・H2Oである。即ち、水酸化鉄と硫酸鉄であるが、硫酸鉄としては硫酸鉄七水和物の方が硫酸鉄一水和物よりも量的に多い。但し、ここに例として取り上げてない酸化チタン工場以外からも硫酸鉄が回収され、その中には無水硫酸鉄、硫酸鉄四水和物、硫酸鉄五水和物も含まれる。
【0048】
これら廃棄物の生成過程を以下に説明する。鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場の一例である酸化チタン工場の原料はイルメナイトであり、このイルメナイトを乾燥し、粉砕して濃硫酸に溶解し、静置した後、冷却して硫酸鉄7水塩(硫酸鉄七水和物)を除去する。主成分を分離し、分解し、更に水洗いして酸化チタン焼成工程に入る。他方、前記硫酸鉄七水塩を乾燥すると硫酸鉄1水塩(硫酸鉄一水和物)が得られる。前述した水洗い工程から廃硫酸が得られ、これを中和・分級すると石膏が得られる。中和工程からCaSO4−Fe(OH)3混合物が排出される。従って、上述の各工程から、CaSO4−Fe(OH)3とFeSO4・7H2OとFeSO4・H2Oが排出される。
【0049】
図3は、本発明で鋳鉄用原料として生成されるマグネタイトと酸化第二鉄が含まれた状態図である。この状態図は、「製鉄製鋼における酸化物の相平衡」 (技報堂1971年) A.ムアン (著), E.F.オスボン (著), 宗宮 重行 (翻訳)よりの写しである。横軸はCO2分圧のCO分圧に対する比率の対数を示し、縦軸は温度を示す。100〜10-40は酸素分圧を示し、曲線群は酸素分圧毎の温度―分圧比対数の関係を示している。ウスタイトはFeO、マグネタイトはFe3O4、ヘマタイトはFe2O3(酸化第二鉄)を示す。マグネタイトの領域は中央にあり、安定層であることが分かる。本発明では、水酸化鉄と硫酸鉄からマグネタイトと酸化第二鉄を生成し、これらのマグネタイトと酸化第二鉄を鋳鉄用原料とするものである。
【0050】
図4は、本発明で使用される鉄系産業廃棄物の一覧と処理工程を示す概略工程図である。第1に、鉱山廃棄物及び鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場の廃棄物としてFe(OH)3が極めて安価に入手される。また、鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場の廃棄物としてFeSO4が極めて安価に入手される。更に、鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場の廃棄物から入手されたFeSO4を鉄バクテリアにより生物処理してFe2O3(酸化第二鉄)を製造する。これらのFe(OH)3、FeSO4、Fe2O3を処理して鋳鉄用原料としてのマグネタイトに転換する。但し、Fe2O3も鋳鉄用原料として使用できる。前述したように、酸化鉄の中で、マグネタイトだけが導電性と磁性を有し、誘導加熱炉の中でマグネタイトを高周波加熱すると、電磁誘導によりマグネタイトの中に渦電流が発生し、この渦電流によりマグネタイトがジュール加熱される。Fe2O3は導電性を有さないが、炭素材をFe2O3と共存させると、導電性を有する炭素材が電磁誘導加熱され、Fe2O3は間接的に加熱される。このように、鋳鉄用原料であるマグネタイトもFe2O3も誘導加熱炉により連続融解し、容易に鋳鉄に転換できる。従って、上述したマグネタイトとFe2O3は低コストの鋳鉄用原料であることが明白である。
【0051】
図5は、本発明で使用される鉄系産業廃棄物の硫酸鉄を酸化第二鉄に変換処理する鉄バクテリア処理装置の概略構成図である。硫酸鉄の水溶液がポンプPにより分配槽に汲み上げられ、分配槽から左右の培養槽に水をバルブを介して供給している。左右の培養槽には、鉄バクテリアを固定した支持床が配置され、支持床の上側にろ過材であるアンスラサイトが積層されている。貯水槽には硫酸鉄の水溶液が貯留され、貯水槽から硫酸鉄水溶液が左右の培養槽の支持床に供給される。支持床に固定された鉄バクテリアは硫酸鉄を分解して酸化第二鉄を生成する。
【0052】
図6は、図5の鉄バクテリア処理装置を用いて硫酸鉄の種類に応じた鉄バクテリア処理による化学反応式の例を示した化学反応式図である。鉄バクテリアの処理装置により、硫酸鉄は酸化第二鉄に変換される。FeSO4(硫酸第一鉄)には、無水物、一水和物、四水和物、五水和物及び七水和物の5種類が存在し、夫々の化学反応式が(3)式〜(7)式として記載されている。これらの化学反応により、Fe2O3(酸化第2鉄)が生成される。Fe2(SO4)3(硫酸第二鉄)には、無水物及び五水和物の2種類が存在し、夫々の化学反応式が(8)式〜(9)式として記載されている。これらの化学反応により、Fe2O3(酸化第2鉄)が生成される。即ち、鉄バクテリアの生物処理により、硫酸鉄から酸化第二鉄が生成される。
【0053】
図7は、本発明において水酸化鉄・硫酸鉄からマグネタイト・酸化第二鉄を製造する加熱装置図である。加熱装置2は、投入口6とガス供給口8とガス排気口10と容器12から構成される。投入原材料4とは、例えば本発明の鉄系産業廃棄物である水酸化鉄であり、また鉄バクテリア処理で生成された酸化第二鉄である。投入原材料4を投入口6から装置内に投入し、ガス供給口8に不活性ガスであるアルゴンガス(Ar)と0.01〜1000ppmの範囲の濃度の水素ガス(H2)を矢印a方向に供給する。ガス排気口からはArと生成されたH2Oが矢印b方向に排気される。そして、固形の鋳鉄用原料14が下方の容器12の中に堆積する。鋳鉄用原料14は、本発明ではマグネタイトである。
【0054】
図8は、図7の加熱装置を用いて水酸化鉄・酸化第二鉄からマグネタイトを生成する化学反応式の例を示した化学反応式図である。まず、図7の投入原材料4が水酸化鉄の場合、Fe(OH)3(水酸化第二鉄)とFe(OH)2(水酸化第一鉄)の二種類が存在する。水酸化第二鉄は、H2ガスをガス供給口8から供給して、(1)式によりH2と反応してマグネタイトが生成される。他方、水酸化第一鉄は、アルゴンガスが供給され高温にさらされた段階で,OH基が脱離しFeO、H2O、さらにH2Oが解離平衡したH2、O2ガスの混合状態となる。アルゴンガスをガス供給口8から供給して、マグネタイトが生成される。次に、図7の投入原材料4が鉄バクテリア処理により硫酸鉄から生成された酸化第二鉄の場合、水酸化第二鉄は、H2ガスをガス供給口8から供給して、(10)式によりH2と反応してマグネタイトに変換される。鋳鉄用原料14としては、バクテリア処理により生成される酸化第二鉄でも良いが、(10)式により生成されるマグネタイトでも良い。導電性の無い酸化第二鉄を(10)式でマグネタイト化すると、マグネタイトは導電性を有するから、後で誘導加熱炉を使用するときに、加熱し易いという特徴がある。しかし、酸化第二鉄でも炭素材と共存させれば誘導加熱炉を使用できるから、酸化第二鉄のままでも問題は生じない。
【0055】
図9は、図7の加熱装置を用いて硫酸鉄からマグネタイトを生成する化学反応式の例を示した化学反応式図である。硫酸鉄は鉄バクテリア処理により酸化第二鉄に変換すると言ったが、図7の加熱装置を用いれば、硫酸鉄を一回の加熱処理でマグネタイトに変換できる。まず、硫酸第一鉄(FeSO4)については、(11)式〜(15)式の化学反応式に従って、マグネタイトに変換される。硫酸第一鉄は、無水物、一水和物、四水和物、五水和物、七水和物があるが、夫々(11)式〜(15)式に対応している。これら反応式は、Fe2+からFe8/3+への反応であるから酸化反応である。他方、硫酸第二鉄(Fe2(SO4)3)については、(16)式〜(17)式の化学反応式に従って、マグネタイトに変換される。硫酸第二鉄は、無水物、五水和物があるが、夫々(16)式〜(17)式に対応している。これら反応式は、Fe3+からFe8/3+への反応であるから還元反応である。以上のように、硫酸鉄をバクテリア処理せず、直ちに加熱炉処理することによって、マグネタイトに変換することが可能であり、マグネタイトの導電性により誘導加熱炉を適用することができる。
【0056】
図10は、本発明において鋳鉄用原料であるマグネタイト・酸化第二鉄から鋳鉄を製造する誘導加熱装置図である。誘導加熱装置16は、投入口18とガス供給口20とガス排気口22と誘導加熱炉24と第1槽31と第2槽32から構成されている。鋳鉄用原料14にはマグネタイト(Fe3O4)と酸化第二鉄(Fe2O3)がある。鋳鉄用原料14を投入口18に投入し、不活性ガスであるアルゴンガス(Ar)と5%濃度の水素ガス(H2)をガス供給口20から矢印c方向に供給する。水素ガスにより鋳鉄用原料14を還元して、ガス排気口22から矢印d方向にH2OやCO2やArが排気される。鋳鉄用原料は還元され、誘導加熱炉内に落下し、誘導加熱炉により鋳鉄用原料は融解され、鋳鉄は融液になって第1槽31内に堆積する。第1槽31内の融液はスラグ入り鋳鉄融液28であり、スラグ30が浮上している。スラグを含まない融液は、第1槽から矢印e方向にオーバーフローして第2槽32に堆積し、第2槽32にはスラグを含まない鋳鉄融液34が堆積する。このようにして鋳鉄融液が製造され、これを冷却すれば固体の鋳鉄が得られる。
【0057】
図11は、図10の誘導加熱装置を用いてマグネタイト・酸化第二鉄から鋳鉄を製造する化学反応式の例を示した化学反応式図である。マグネタイトから鋳鉄を還元製造するには、(18)式〜(20)式の3ケースを考える。(18)式では、マグネタイトを水素還元して鋳鉄を生成している。(19)式では、マグネタイトに炭素材を共存させ、炭素材と水素ガスが還元剤となって鋳鉄を生成している。(20)式では、炭素材を添加しているが、水素ガスで還元されて鋳鉄が生成され、炭素材はそのまま残存している。
酸化第二鉄から鋳鉄を還元製造するには、(21)式から(25)式の5ケースを考える。(21)式では、酸化第二鉄が水素還元されて鋳鉄を生成している。(21)式では炭素材を電磁誘導加熱材として添加しているが、炭素材を化学反応式に導入していない。この(21)式は、酸化第二鉄を誘導加熱装置で無く、通常の加熱装置により加熱した場合と考えても良い。通常の加熱装置であれば、酸化第二鉄は熱的に加熱されるから、水素ガスにより還元されて鋳鉄が生成される。(22)式では、酸化第二鉄の粒と炭素材が共存したFe2O3・Cを考えている。炭素材が誘導加熱され、酸化第二鉄の粒が融解し、水素還元される場合である。炭素材は酸化されずにそのまま残存している。(23)式では、(22)式と同様であるが、炭素と水素により還元されて鋳鉄が生成され、CO2とH2Oが生成される。(24)式と(25)式では、炭素材が酸化第二鉄と別に添加され、誘導加熱される場合を示す。両者ともに炭素材により誘導加熱され、酸化第二鉄は間接的に加熱される。(24)式では炭素材は還元作用を示さずに炭素材が残存し、(25)式では炭素材も還元作用を示してCO2に変化している。
【0058】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、新規な鉄系産業廃棄物として、鉱山廃棄物や鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場などから排出される鉄系産業廃棄物である水酸化鉄及び/又は硫酸鉄に着目し、この水酸化鉄及び/又は硫酸鉄からマグネタイトや酸化第二鉄を製造し、製造されたマグネタイトや酸化第二鉄を安価に提供することができる。現役の鉱山のみならず廃鉱山にも大量の鉄系産業廃棄物が手つかずの状態で眠っている。従って、極めて安価に鉄系産業廃棄物を入手でき、また鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場からも継続的に鉄系産業廃棄物が排出されており、これらの鉄系産業廃棄物は従来全く再利用されること無く眠っていたものであるから、これらの鉄系産業廃棄物から安価な鋳鉄用原料を鉄鋳物業界に提供することが可能になる。また、生成されたマグネタイトや酸化第二鉄を鋳鉄用原料として鉄鋳物業界に供給すれば、安価に鋳鉄(鉄鋳物)を製造することができる。更に、マグネタイトや酸化第二鉄といった鋳鉄用原料を誘導加熱炉と組み合わせれば、安価な鋳鉄の製造が容易になる。従って、本発明は、鉱山や鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場である鉄化合物製錬工場、鋳物業界、加熱炉業界等の広範囲の業界に利用可能である。
本発明によれば、
【符号の説明】
【0060】
2 加熱装置
4 投入原材料
6 投入口
8 ガス供給口
10 ガス排気口
12 容器
14 鋳鉄用原料
16 誘導加熱装置
18 投入口
20 ガス供給口
22 ガス排気口
24 誘導加熱炉
28 スラグ入り鋳鉄融液
30 スラグ
31 第1槽
32 第2槽
34 鋳鉄融液
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系産業廃棄物から製造される鋳鉄用原料及びその製法に関し、更に詳細には、従来着目されなかった新規な鉄系産業廃棄物から製造されるマグネタイト及び酸化第二鉄といった新規な鋳鉄用原料、その鋳鉄用原料の製法、それから得られる鋳鉄、その鋳鉄の製法及び鋳鉄原料用製造キットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、製鉄所では、製銑工程と製鋼工程により強靭な鋼を製造している。製銑工程では、高炉を用いて鉄鉱石から炭素分を2〜5%含有した銑鉄を取り出し、製鋼工程では、前記銑鉄から炭素分を除去し、必要に応じて他の合金元素を混ぜて、強靭な鋼を製造している。この鋼を鋳造して板材、棒材、形鋼等の半製品を製造し、またこの半製品に鍛造や圧延を加えて最終製品を製造している。
【0003】
鉄鉱石の73%は、ロシア、オーストラリア、ウクライナ、中国、ブラジルから産出され、日本の産出量は少量である。そこで、日本では、鉄スクラップの再利用が推進されている。鉄スクラップは、市中スクラップと自家発生スクラップに分けられる。自家発生スクラップは、製鋼メーカーで、製鋼や加工の工程から出てくるスクラップのことであり、製鋼の工程の中で再利用が図られており、市中に出てくることは極めて少ない。従って、我々が目にするのは市中スクラップである。市中スクラップには工場発生スクラップと老廃スクラップに分けられる。工場発生スクラップは、機械・電機・車両・造船・その他の工場で加工工程から発生するスクラップであり、積極的に再利用が図られている。老廃スクラップは、廃車・廃船・建物・その他の使用済み鉄製品として発生するスクラップで、日本ではその多くが回収され、リサイクルされている。これらの鉄スクラップは、プレス加工、シャーリング加工(切断加工)、シュレッダー加工、ガス切断加工、その他加工により微細化されて再利用に供されてきた。
【0004】
従来、鉄スクラップは比較的安価で安定していたため、大量に廃出される自動車や船舶等の鉄製品に限定して再利用が図られてきた。しかし、近年になって、世界的な諸情勢により、鉄スクラップ価格が高騰し、鉄スクラップを前記老廃スクラップに限定していては、再利用が困難になる事態に至っている。
【0005】
特に、日本の中小鋳物業界では、鋳鉄用原料(即ち、鉄鋳物用原料)が少なくなった結果、価格が高騰し、事業継続の困難といった事態に直面している。その原因として、(1)中国やインド等の新興国で鉄系スクラップの需要が急増している、(2)資源メジャーによる鉄鉱石・石炭の寡占化が進行している、(3)CO2削減義務化もあり、社内スクラップと中間材料の自己消費が進み、日本国内の高炉メーカーから鋳鉄用原料の供給量が減少している、(4)リーマンショックや東日本大震災の影響で産業界から発生するスクラップ量が非常に不安定になっている、ことが考えられる。纏めると、鋳鉄用原料を取り巻く状況として、鉄鋼原料価格の上昇、製鉄所派生材料の減少、鋳鉄用原料の価格上昇や原子力発電所の停止による電力供給の逼迫という事態が出現している。
【0006】
そこで、鉄製品の老廃スクラップ以外に、鉄資源を活用する動きが早まっている。例えば、特開平8−298992号公報(特許文献1)では、排水中の2価の鉄イオンを鉄バクテリアを利用して回収する技術が提案されている。ここで対象となる排水は、製鉄所から発生する冷延・メッキ排水である。また、特開平4−52234号公報(特許文献2)では、集塵ダストに含有される鉄系成分を中心とする金属質成分をペレットとして回収する技術が提案されている。ここで対象となる集塵ダストは、製鋼用電気炉から排出されるダストである。更に、特開2000−212657公報(特許文献3)には、鉄系廃棄物に下水処理汚泥の炭化物からなる還元剤を適用し、鉄系廃棄物中の金属酸化物を加熱還元して金属化する技術が開示されている。ここで鉄系廃棄物とは、製鋼所から発生する製鋼ダスト、高炉ダスト、酸洗スラッジ、圧延スケールである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−298992号公報
【特許文献2】特開平4−52234号公報
【特許文献3】特開2000−212657公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、特許文献1に示される排水は製鉄所から発生する冷延・メッキ排水であり、特許文献2に示される集塵ダストは製鋼用電気炉から排出されるダストであり、特許文献3に示される鉄系廃棄物は製鋼所から発生する製鋼ダスト、高炉ダスト、酸洗スラッジ、圧延スケール等である。即ち、これらの排水、集塵ダスト及び鉄系廃棄物は、前述した製鉄所の自家発生スクラップであり、これらの自家発生スクラップの殆ど100%が製鉄所内で再利用されていることは周知であり、日本における鉄スクラップの再利用技術の水準の高さを示す証左である。
【0009】
しかし、自家発生スクラップや市中スクラップの再利用技術が如何に高水準にあるとしても、前述した世界情勢により鉄スクラップが高騰している中で、このままでは中小鉄鋳物業界は事業継続の岐路に立たされていると言っても過言ではない。この事態を解決するには、従来全く顧みられることが無かった新規な鉄系産業廃棄物に着目する以外に無く、これによって安価な鋳鉄用原料を提供する以外に方途はない。
【0010】
従って、本発明では、新規な鉄系産業廃棄物として、鉱山廃棄物や鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場より廃棄される鉄系産業廃棄物である水酸化鉄及び/又は硫酸鉄に着目し、この水酸化鉄及び/又は硫酸鉄からマグネタイトや酸化第二鉄を製造し、製造されたマグネタイトや酸化第二鉄を安価に提供することを目的とする。現役の鉱山のみならず廃鉱山にも大量の鉄系産業廃棄物が手つかずの状態で眠っている。従って、極めて安価に鉄系産業廃棄物を入手でき、また鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場からも継続的に鉄系産業廃棄物が排出されており、これらの鉄系産業廃棄物は従来全く再利用されること無く眠っていたものであるから、これらの鉄系産業廃棄物から安価な鋳鉄用原料を鉄鋳物業界に提供することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1形態は、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄及び/又は硫酸鉄を処理してマグネタイト及び/又は酸化第二鉄を生成し、前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄を鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料である。
【0012】
本発明の第2形態は、前記水酸化鉄を含有する前記鉄系産業廃棄物が鉱山廃棄物又は鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料である。
【0013】
本発明の第3形態は、前記硫酸鉄を含有する前記鉄系産業廃棄物が鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料である。
【0014】
本発明の第4形態は、前記鋳鉄用原料が前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄のペレットであるところの鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料である。
【0015】
本発明の第5形態は、前記ペレットには炭素材が含有される鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料である。
【0016】
本発明の第6形態は、前記酸化第二鉄を処理してマグネタイトを生成し、このマグネタイトを前記鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料である。
【0017】
本発明の第7形態は、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄を加熱炉により処理してマグネタイトを生成し、前記マグネタイトを鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法である。
【0018】
本発明の第8形態は、鉄系産業廃棄物に含有される硫酸鉄をバクテリア処理して酸化第二鉄を生成し、前記酸化第二鉄を鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法である。
【0019】
本発明の第9形態は、前記酸化第二鉄を加熱炉で処理してマグネタイトを生成し、このマグネタイトを鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法である。
【0020】
本発明の第10形態は、鉄系産業廃棄物に含有される硫酸鉄を加熱炉により処理してマグネタイトを生成し、前記マグネタイトを鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法である。
【0021】
本発明の第11形態は、第1形態1〜第6形態のいずれかに記載の鋳鉄用原料を還元して製造される鋳鉄である。
【0022】
本発明の第12形態は、第1形態1〜第6形態のいずれかに記載のマグネタイトからなる鋳鉄用原料を誘導加熱炉に投入し、マグネタイトの導電性を利用して前記マグネタイトを電磁誘導発熱で融解させ、前記マグネタイトを還元して鋳鉄を製造する鋳鉄の製法である。
【0023】
本発明の第13形態は、第1形態1〜第6形態のいずれかに記載の酸化第二鉄からなる鋳鉄用原料を炭素材と共存状態で誘導加熱炉に投入し、炭素材の導電性を利用して前記炭素材を電磁誘導発熱させて前記酸化第二鉄を融解させ、前記酸化第二鉄を還元して鋳鉄を製造する鋳鉄の製法である。
【0024】
本発明の第14形態は、第1形態1〜第6形態のいずれかに記載の鋳鉄用原料と、この鋳鉄用原料を融解させる誘導加熱炉を少なくとも有することを特徴とする鋳鉄原料用製造キットである。
【0025】
本発明の第15形態は、鋳鉄用原料に炭素材が付加される鋳鉄製造用キットである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の第1形態によれば、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄及び/又は硫酸鉄を処理してマグネタイト及び/又は酸化第二鉄を生成し、前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄を鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料が提供される。
本発明の第1の特徴は、鉄系産業廃棄物に含まれる水酸化鉄や硫酸鉄から鋳鉄用原料を製造することである。水酸化鉄には、Fe(OH)2と表記される水酸化鉄(II)(又は、水酸化第一鉄)とFe(OH)3で表記される水酸化鉄(III)(又は水酸化第二鉄)が存在する。また、Fe(OH)3とはFeO(OH)と表記される酸化水酸化鉄(III)と考えても良い。Fe(OH)3を含有する天然の鉄鉱石として、針鉄鉱、赤金鉱、鱗鉄鉱、褐鉄鉱などが知られているが、本発明では鉄鉱石を使用するのではなく、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄を使用する点で異なっている。あくまで鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄を使用すれば極めて安価に鋳鉄用原料を提供できるからである。また、硫酸鉄にはFeSO4と表記される硫酸鉄(II)とFe2(SO4)3と表記される硫酸鉄(III)が存在する。FeSO4は硫酸第一鉄とも称され、無水和物FeSO4、一水和物FeSO4・H2O、四水和物FeSO4・4H2O、五水和物FeSO4・5H2O、七水和物FeSO4・7H2Oが存在する。Fe2(SO4)3は硫酸第二鉄とも称され、無水和物Fe2(SO4)3、五水和物Fe2(SO4)3・5H2Oが存在する。
従来、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄や硫酸鉄が鉄原料として着目されることは無かった。一般に、製鉄業界では鉄を製造する原料として鉄鉱石が使用され、鉄鉱石は酸化鉄である。また、鉄スクラップ再利用では、鉄製品の廃棄物である鉄スクラップが使用され、鉄スクラップとは酸化鉄ではなく金属鉄そのものである。鉄鉱石や鉄スクラップは大量に存在するのに対し、水酸化鉄や硫酸鉄の分量は極めて少量であり、少量の水酸化鉄や硫酸鉄を鉄へと変換処理することは逆にコストアップに繋がると考えられた。従って、水酸化鉄や硫酸鉄が鉄原料として着目されることは全くなかった。本発明で初めて、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄や硫酸鉄が鉄原料として着目されるに至ったのである。
【0027】
本発明の第2の特徴は、前記水酸化鉄や硫酸鉄をマグネタイト及び/又は酸化第二鉄に変換処理し、これらのマグネタイト及び/又は酸化第二鉄を鋳鉄用原料とする点にある。鋳鉄とは鉄鋳物のことであり、鋳鉄用原料を鉄鋳物用原料と称しても良いことは云うまでもない。マグネタイトは磁鉄鉱であり、その化学式はFe3O4であり、四酸化三鉄とも称される。マグネタイトは酸化鉄材料の中で高い導電性と磁性を有する。従って、マグネタイトを誘導加熱炉に投入すると、マグネタイト中に発生する渦電流によって融解する。換言すれば、誘導加熱炉に交流を印加すれば、マグネタイトは電磁誘導発熱し、この自己発熱によりマグネタイトは融解する。この過程でマグネタイトを還元すれば、マグネタイトは鉄へと変換され、鋳鉄になる。従って、マグネタイトは鋳鉄用原料になるわけである。また、酸化第二鉄の化学式はFe2O3であり、酸化第二鉄は導電性や磁性はマグネタイトに比して小さい。従って、酸化第二鉄だけを誘導加熱炉に投入しても、電磁誘導により発熱することは無い。しかし、誘導加熱炉内に酸化第二鉄と炭素材を共存させると、炭素材が導電性を有するから、炭素材が電磁誘導発熱し、この発熱により酸化第二鉄は融解する。また、炭素材の還元作用により、酸化第二鉄は鋳鉄へと還元されるから、酸化第二鉄は鋳鉄用原料になるのである。酸化第二鉄と炭素材とは別材料として誘導加熱炉内に投入されても良いが、酸化第二鉄と炭素粉とを一体的に混合したペレットにし、このペレットを誘導加熱炉に投入しても良い。
【0028】
本発明の第2形態によれば、水酸化鉄を含有する鉄系産業廃棄物は鉱山廃棄物又は鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料が提供される。本発明で使用される水酸化鉄は、鉱山廃棄物に大量に含有されることが分かった。しかも、この鉱山廃棄物は鉱山近傍の谷間に赤茶色に堆積しており、そのまま手つかずの状態で利用されること無く存在している。この放置された鉱山廃棄物中に大量の水酸化鉄が含有されているから、この水酸化鉄を利用すれば、極めて安価にマグネタイトや酸化第二鉄といった鋳鉄用原料を極めて安価に提供することができる。また、鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場からも、処理工程の中から水酸化鉄が中間物質として排出される。この水酸化鉄は産業廃棄物として廃棄されるだけであるから、この水酸化鉄を利用すれば、極めて安価にマグネタイトや酸化第二鉄といった鋳鉄用原料を極めて安価に提供することができる。
【0029】
本発明の第3形態によれば、硫酸鉄を含有する鉄系産業廃棄物として、鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料が、提供される。たとえば酸化チタンを製造する工程においては、硫酸鉄が中間生成物として排出される。この硫酸鉄は産業廃棄物として廃棄されるだけであるから、この硫酸鉄を利用すれば、極めて安価にマグネタイトや酸化第二鉄といった鋳鉄用原料を極めて安価に提供することができる。
【0030】
本発明の第4形態によれば、マグネタイト及び/又は酸化第二鉄をペレットにした鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料が提供される。鋳鉄用原料を粉体やブロックではなく、ペレットの形状で提供すれば、取扱方法が極めて容易になる。ペレットにすれば、保管や加熱炉への投入も容易になり、少量から大量に至るまで粒数だけで調整できる利点を有する。ペレットとは粒であり、粒径は利用形態により様々であるが、取り扱い易さの観点から言えば、例えば0.1mm〜80mmの範囲が好適であり、1mm〜15mmの範囲がより好適である。
【0031】
本発明の第5形態によれば、マグネタイト及び/又は酸化第二鉄のペレットに炭素材を含有させた鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料が提供される。マグネタイトや酸化第二鉄を粒状に形成しておき、この粒の表面に一様に炭素粉を押し固めれば、マグネタイトや酸化第二鉄の粒核の周囲に炭素粉が被膜状に付着したペレットが形成される。また、マグネタイトや酸化第二鉄の粉体に炭素粉を投入して粒状固化させれば上述と同様形状のペレットを形成することも可能である。炭素材をマグネタイトに含有させると、マグネタイトを誘導加熱炉に投入したとき、マグネタイトの電磁誘導発熱による融解と、炭素材によりマグネタイトの還元が同時進行し、マグネタイトから鋳鉄を一気に製造することができる。また、炭素材を酸化第二鉄に含有させると、誘導加熱炉内で炭素材に電磁誘導発熱が生じ、この熱により酸化第二鉄が融解し、同時に酸化第二鉄が前記炭素材により還元されて、酸化第二鉄から鋳鉄を製造することができる。また、これらの還元時に水素ガス等を流通させると、効率的に水素還元も並行するため、還元効率の向上を期すことが可能になる。通常の加熱炉を使用する場合には、その熱量でマグネタイトや酸化第二鉄を融解できるから、誘導加熱炉を利用する必要はなくなる。
【0032】
本発明の第6形態によれば、前記酸化第二鉄を処理してマグネタイトを生成し、このマグネタイトを前記鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料を提供する。第1形態では、水酸化鉄や硫酸鉄をマグネタイト及び/又は酸化第二鉄に変換処理しているが、第6形態では生成された酸化第二鉄を更に処理してマグネタイトを形成し、このマグネタイトを鋳鉄用原料とする点にある。従って、この第6形態は、水酸化鉄や硫酸鉄から最終的にマグネタイトを形成し、マグネタイトを鋳鉄用原料として利用することである。酸化第二鉄は導電性を有さないから、酸化第二鉄だけで、誘導加熱炉により融解することはできない。そのため、酸化第二鉄に炭素材を共存させていたのである。通常の加熱炉を使用する場合には、その熱量でマグネタイトや酸化第二鉄を融解でき、電磁誘導加熱を利用する必要はなくなる。この第6形態では、最終物をマグネタイトに一本化し、マグネタイトの導電性により、マグネタイト単体で誘導加熱炉により融解することが可能になる。
【0033】
本発明の第7形態によれば、鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄を加熱炉により処理してマグネタイトを生成し、前記マグネタイトを鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法が提供される。水酸化鉄としてFe(OH)3の場合、水素還元処理の一例として下記の化学反応式が挙げられる。
6Fe(OH)3 + H2→ 2Fe3O4 + 10H2O (1)
また、水酸化鉄としてFe(OH)2の場合、酸化処理の一例として下記の化学反応式が挙げられる。
3Fe(OH)2 → Fe3O4 + 3H2 + O2 (2)
水酸化鉄からマグネタイトを生成するには、上記したように、水酸化鉄の種類により還元処理と酸化処理の2方法があり、水酸化鉄の種類により適宜選択することができる。反応温度や反応時間、還元ガスや酸化ガスの流量は反応効率との関係で適宜調整される。
【0034】
本発明の第8形態によれば、鉄系産業廃棄物に含有される硫酸鉄を鉄バクテリア処理して酸化第二鉄を生成し、前記酸化第二鉄を鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法が提供される。前述したように、硫酸鉄にはFeSO4と表記される硫酸第1鉄とFe2(SO4)3と表記される硫酸第2鉄が存在する。FeSO4は、無水和物FeSO4、一水和物FeSO4・H2O、四水和物FeSO4・4H2O、五水和物FeSO4・5H2O、七水和物FeSO4・7H2Oが存在する。Fe2(SO4)3は、無水和物Fe2(SO4)3、五水和物Fe2(SO4)3・5H2Oが存在することが分かっている。夫々の化学反応式の一例を下記に記す。
2FeSO4 + H2O → Fe2O3+ SO2 + H2SO4 (3)
2FeSO4・H2O → Fe2O3+ SO2 + H2SO4 + H2O (4)
2FeSO4・4H2O → Fe2O3+ SO2 + H2SO4 + 7H2O (5)
2FeSO4・5H2O → Fe2O3+ SO2 + H2SO4 + 9H2O (6)
2FeSO4・7H2O → Fe2O3+ SO2 + H2SO4 + 13H2O (7)
以上の(3)式〜(7)式は、FeSO4をFe2O3に変換する過程であり、酸化数で言えば、Fe2+からFe3+への酸化過程である。
Fe2(SO4)3・+ H2O → Fe2O3+ 2SO2 + H2SO4 + O2 (8)
Fe2(SO4)3・5H2O → Fe2O3+ SO2 + H2SO4 + O2 + 4H2O (9)
以上の(8)式〜(9)式は、Fe2(SO4)3をFe2O3に変換する過程であり、酸化数で言えば、Fe3+からFe3+への非酸化還元過程である。上記したように、硫酸鉄の種類により化学反応式が多少変化し、反応温度、 反応時間、鉄バクテリア濃度は適宜調整される。また、たとえば酸化チタン工場から排出される硫酸鉄はFeSO4・7H2Oが多いから、上記(7)式の化学反応が生起し易いと考えられる。
【0035】
本発明の第9形態によれば、バクテリア処理で生成される前記酸化第二鉄を加熱炉で処理してマグネタイトを生成し、このマグネタイトを鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法が提供される。上述したように、第8形態のバクテリア処理では酸化第二鉄が生成されるから、この酸化第二鉄をマグネタイトに変換処理するには、加熱炉により処理する必要がある。マグネタイトは導電性を有するから、誘導加熱炉により鋳鉄製造が容易になるからである。勿論、誘導加熱炉を使用せず、通常の加熱炉を使用して熱融解させる場合には、酸化第二鉄のままでも良い。以下に、酸化第二鉄の水素還元の化学反応式の一例を次に記す。酸化数で言えば、Fe3+からFe8/3+への還元過程である。
3Fe2O3 + H2 → 2Fe3O4+ H2O (10)
【0036】
本発明の第10形態によれば、鉄系産業廃棄物に含有される硫酸鉄を加熱炉により処理してマグネタイトを生成し、前記マグネタイトを鋳鉄用原料とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法が提供される。第8形態のように、硫酸鉄はバクテリア処理により酸化第二鉄に変換処理され、この酸化第二鉄を第9形態のように還元処理すればマグネタイトを最終的に製造することができる。バクテリア処理を介する限り、マグネタイトを得るには2段階処理を必要とする。しかし、本第10形態を使用すると、硫酸鉄でも加熱炉を用いて、1段階処理でマグネタイトを製造することができる。1段階の加熱炉処理の方が産業効率的に優れているとも言える。FeSO4に関しては、上記(3)式〜(7)式に対応して(11)式〜(15)式が成立する。H2ガスを流通させていても還元処理とは云えない。酸化数で言えば、Fe2+からFe8/3+への酸化過程である。
3FeSO4 + 2H2→ Fe3O4+ 3SO2 + 2H2O (11)
3FeSO4・H2O + 2H2→ Fe3O4+ 3SO2 + 5H2O (12)
3FeSO4・4H2O + 2H2→ Fe3O4+ 3SO2 + 14H2O (13)
3FeSO4・5H2O + 2H2→ Fe3O4+ 3SO2 + 17H2O (14)
3FeSO4・7H2O + 2H2→ Fe3O4+ 3SO2 + 23H2O (15)
またFe2(SO4)3に関しては、上記(8)式及び(9)式に対応して(16)式及び(17)式が成立する。酸化数で言えば、Fe3+からFe8/3+への還元過程である。
3Fe2(SO4)3・+ 10H2 → 2Fe3O4+ 9SO2 + 10H2O (16)
3Fe2(SO4)3・5H2O + 10H2 → 2Fe3O4+ 9SO2 + 25H2O (17)
【0037】
本発明の第11形態によれば、第1形態〜第6形態のいずれかに記載の鋳鉄用原料を還元して製造される鋳鉄を提供できる。鋳鉄用原料を鉄鋳物業界に提供し、鉄鋳物業界ではこの鋳鉄用原料を融解還元して鋳鉄を製造する。前記鋳鉄用原料を安価に提供できるから、世界的な価格変動に影響されること無く、安価に鋳鉄を製造することができる。
【0038】
本発明の第12形態によれば、第1形態〜第6形態のいずれかに記載のマグネタイトからなる鋳鉄用原料を誘導加熱炉に投入し、マグネタイトの導電性を利用して前記マグネタイトを電磁誘導発熱で融解させ、前記マグネタイトを還元して鋳鉄を製造する鋳鉄の製法が提供される。マグネタイトを水素還元する化学反応式の一例を以下に記載する。他の還元剤を使用することもでき、その場合には化学反応式は変化する。
Fe3O4 + 4H2→ 3Fe + 4H2O (18)
マグネタイトに炭素材を共存させた場合には、炭素材が還元剤になる(19)式と炭素材が還元剤として寄与しない(20)式の場合も存在する。(20)式では、炭素材は導電性を有するから、電磁誘導発熱材としては寄与する。
Fe3O4 + C + 2H2→ 3Fe + CO2 + 2H2O (19)
Fe3O4 + C + 4H2→ 3Fe + C + 4H2O (20)
【0039】
本発明の第13形態によれば、第1形態〜第6形態のいずれかに記載の酸化第二鉄からなる鋳鉄用原料を炭素材と共存状態で誘導加熱炉に投入し、炭素材の導電性を利用して前記炭素材を電磁誘導発熱させて前記酸化第二鉄を融解させ、前記酸化第二鉄を還元して鋳鉄を製造する鋳鉄の製法が提供される。(21)式では炭素材は書いていないが、(22)式〜(25)式には炭素材が書き込まれている。(22)式と(23)式は、酸化第二鉄核の周囲に炭素材が被覆された酸化第二鉄ペレットの場合を示し、(22)式は炭素材が無反応の場合、(23)式は炭素材が還元作用を奏して二酸化炭素に変化した場合を示す。(24)式と(25)式は、酸化第二鉄とは別に炭素材が添加された場合を示し、(24)式は炭素材が無反応の場合、(25)式は炭素材が還元作用を奏して二酸化炭素に変化した場合を示す。(21)式〜(25)式の炭素材は電磁誘導発熱作用も奏していることは云うまでもない。以下では、酸化第二鉄を水素還元する化学反応例を記載する。他の還元剤を使用することもでき、その場合には化学反応式は変化する。
Fe2O3 + 3H2 → 2Fe + 3H2O (21)
Fe2O3・C + 3H2 → 2Fe + C + 3H2O (22)
Fe2O3・C + H2 → 2Fe + CO2 + H2O (23)
Fe2O3 + C + 3H2 → 2Fe + C + 3H2O (24)
Fe2O3 + C + H2 → 2Fe + CO2 + H2O (25)
【0040】
本発明の第14形態によれば、第1形態〜第6形態のいずれかに記載の鋳鉄用原料と、この鋳鉄用原料を融解させる誘導加熱炉を少なくとも有する鋳鉄原料用製造キットが提供される。鋳鉄用原料はマグネタイト及び/又は酸化第二鉄であり、マグネタイトは誘導加熱炉を用いて電磁誘導加熱させることができる。また、酸化第二鉄は炭素材を併用することによって、炭素材の電磁誘導加熱により酸化第二鉄を間接的に熱融解させることができる。
【0041】
本発明の第14形態によれば、鋳鉄用原料に炭素材が付加される鋳鉄原料用製造キットが提供される。ここで鋳鉄用原料はマグネタイト及び/又は酸化第二鉄である。マグネタイトは誘導加熱炉を用いて電磁誘導加熱させることができ、しかも炭素材により還元されて鋳鉄を製造することができる。また、酸化第二鉄は炭素材を併用することによって、炭素材の電磁誘導加熱により酸化第二鉄を間接的に熱融解させることができ、しかも炭素材により還元されて鋳鉄を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の鉄系産業廃棄物として鉱山廃棄物から得られる水酸化鉄が利用できることを示す概略説明図である。
【図2】本発明の鉄系産業廃棄物として鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場の一例として酸化チタン工場の工程図を示すが,ここにおいて硫酸鉄と水酸化鉄が利用できることを示す概略説明図である。
【図3】本発明で鋳鉄用原料として生成されるマグネタイトと酸化第二鉄が含まれた状態図である。
【図4】本発明で使用される鉄系産業廃棄物の一覧と処理工程を示す概略工程図である。
【図5】本発明で使用される鉄系産業廃棄物の硫酸鉄を酸化第二鉄に変換処理する鉄バクテリア処理装置の概略構成図である。
【図6】図5の鉄バクテリア処理装置を用いて硫酸鉄の種類に応じた鉄バクテリア処理による化学反応式の例を示した化学反応式図である。
【図7】本発明において水酸化鉄・硫酸鉄からマグネタイト・酸化第二鉄を製造する加熱装置図である。
【図8】図7の加熱装置を用いて水酸化鉄・酸化第二鉄からマグネタイトを生成する化学反応式の例を示した化学反応式図である。
【図9】図7の加熱装置を用いて硫酸鉄からマグネタイトを生成する化学反応式の例を示した化学反応式図である。
【図10】本発明において鋳鉄用原料であるマグネタイト・酸化第二鉄から鋳鉄を製造する誘導加熱装置図である。
【図11】図10の誘導加熱装置を用いてマグネタイト・酸化第二鉄から鋳鉄を製造する化学反応式の例を示した化学反応式図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、本発明に係る鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料、鋳鉄用原料の製法、鋳鉄、鋳鉄の製法及び鋳鉄原料用製造キットの実施形態を図面に従って詳細に説明する。
【0044】
図1は、本発明の鉄系産業廃棄物として鉱山廃棄物から得られる水酸化鉄が利用できることを示す概略説明図である。
鉱山からの排水は図1の処理フローを経て最終的に廃棄物である乾燥ケーキが埋め立て処理される。詳細には、鉱山からはpHが約3.2の坑内水が排水として大量に排出され、この坑内水に大量の鉄イオンが含まれている。この坑内水は、まずバクテリア酸化槽によりFe2+からFe3+へと酸化され、バクテリア回収槽でバクテリアを回収した後、再びバクテリア酸化槽にフィードバックされる。バクテリア酸化槽のpHは約2.6になる。バクテリア回収槽から鉄沈殿物回収槽へと排水が送出され、Fe3+はFe(OH)SO4となって回収される。このFe(OH)SO4は無機凝集剤として再利用され、ある鉱山ではそのスラリー量は毎年1400トンにもなる。
【0045】
鉄沈殿物回収槽からの排水は炭酸カルシウム中和槽に送出され、更に炭酸カルシウム中和槽からの排水は固液分離槽に送出される。固液分離槽からの排水は再び炭酸カルシウム中和槽に送られ、この循環を繰り返す。前段の炭酸カルシウム中和槽のpHは約4.0であるが、後段の炭酸カルシウム中和槽のpHは約8.0と中性に近い。固液分離槽からは多種類のイオンが固形物として沈殿する。Fe3+はFe(OH)3になり、SO42-はCaSO4になり、Al3+はAl(OH)3になり、Si4+はSiO2となって沈殿する。前述したように、これらの沈殿物は、乾燥ケーキとして毎年3000トンにも達し、Fe(OH)3が主要廃棄物であるから、大量の水酸化鉄が毎年3000トンも廃棄されて、山間の谷間に堆積しているのである。このように、排水は中和され、重金属イオンを除去した後、pHが約8.0の浄化水として放流される。
【0046】
いずれにしても、毎年3000トンにも達する水酸化鉄を主成分とする乾燥ケーキが谷間に堆積されることになり、従来見向きもされなかったこの水酸化鉄を本発明の鉄系産業廃棄物として利用するのである。従って、極めて安価に水酸化鉄を入手することができる。水酸化鉄としてFe(OH)3が主要廃棄物であるが、Fe(OH)2も含有されている可能性がある。また、鉱山廃棄物以外からも水酸化鉄が入手でき、その中にはFe(OH)2も含有されている。従って、鉄系産業廃棄物として入手できる水酸化鉄には、Fe(OH)3とFe(OH)2が含まれる。
【0047】
図2は、本発明の鉄系産業廃棄物として鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場の一例として,酸化チタン工場から排出される硫酸鉄と水酸化鉄が利用できることを示す概略説明図である。図から分かるように、この酸化チタン工場からは3種類の鉄系産業廃棄物が排出される。具体的には、第1にCa(SO4)―Fe(OH)3の混合物、第2にFeSO4・7H2O、第3にFeSO4・H2Oである。即ち、水酸化鉄と硫酸鉄であるが、硫酸鉄としては硫酸鉄七水和物の方が硫酸鉄一水和物よりも量的に多い。但し、ここに例として取り上げてない酸化チタン工場以外からも硫酸鉄が回収され、その中には無水硫酸鉄、硫酸鉄四水和物、硫酸鉄五水和物も含まれる。
【0048】
これら廃棄物の生成過程を以下に説明する。鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場の一例である酸化チタン工場の原料はイルメナイトであり、このイルメナイトを乾燥し、粉砕して濃硫酸に溶解し、静置した後、冷却して硫酸鉄7水塩(硫酸鉄七水和物)を除去する。主成分を分離し、分解し、更に水洗いして酸化チタン焼成工程に入る。他方、前記硫酸鉄七水塩を乾燥すると硫酸鉄1水塩(硫酸鉄一水和物)が得られる。前述した水洗い工程から廃硫酸が得られ、これを中和・分級すると石膏が得られる。中和工程からCaSO4−Fe(OH)3混合物が排出される。従って、上述の各工程から、CaSO4−Fe(OH)3とFeSO4・7H2OとFeSO4・H2Oが排出される。
【0049】
図3は、本発明で鋳鉄用原料として生成されるマグネタイトと酸化第二鉄が含まれた状態図である。この状態図は、「製鉄製鋼における酸化物の相平衡」 (技報堂1971年) A.ムアン (著), E.F.オスボン (著), 宗宮 重行 (翻訳)よりの写しである。横軸はCO2分圧のCO分圧に対する比率の対数を示し、縦軸は温度を示す。100〜10-40は酸素分圧を示し、曲線群は酸素分圧毎の温度―分圧比対数の関係を示している。ウスタイトはFeO、マグネタイトはFe3O4、ヘマタイトはFe2O3(酸化第二鉄)を示す。マグネタイトの領域は中央にあり、安定層であることが分かる。本発明では、水酸化鉄と硫酸鉄からマグネタイトと酸化第二鉄を生成し、これらのマグネタイトと酸化第二鉄を鋳鉄用原料とするものである。
【0050】
図4は、本発明で使用される鉄系産業廃棄物の一覧と処理工程を示す概略工程図である。第1に、鉱山廃棄物及び鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場の廃棄物としてFe(OH)3が極めて安価に入手される。また、鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場の廃棄物としてFeSO4が極めて安価に入手される。更に、鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場の廃棄物から入手されたFeSO4を鉄バクテリアにより生物処理してFe2O3(酸化第二鉄)を製造する。これらのFe(OH)3、FeSO4、Fe2O3を処理して鋳鉄用原料としてのマグネタイトに転換する。但し、Fe2O3も鋳鉄用原料として使用できる。前述したように、酸化鉄の中で、マグネタイトだけが導電性と磁性を有し、誘導加熱炉の中でマグネタイトを高周波加熱すると、電磁誘導によりマグネタイトの中に渦電流が発生し、この渦電流によりマグネタイトがジュール加熱される。Fe2O3は導電性を有さないが、炭素材をFe2O3と共存させると、導電性を有する炭素材が電磁誘導加熱され、Fe2O3は間接的に加熱される。このように、鋳鉄用原料であるマグネタイトもFe2O3も誘導加熱炉により連続融解し、容易に鋳鉄に転換できる。従って、上述したマグネタイトとFe2O3は低コストの鋳鉄用原料であることが明白である。
【0051】
図5は、本発明で使用される鉄系産業廃棄物の硫酸鉄を酸化第二鉄に変換処理する鉄バクテリア処理装置の概略構成図である。硫酸鉄の水溶液がポンプPにより分配槽に汲み上げられ、分配槽から左右の培養槽に水をバルブを介して供給している。左右の培養槽には、鉄バクテリアを固定した支持床が配置され、支持床の上側にろ過材であるアンスラサイトが積層されている。貯水槽には硫酸鉄の水溶液が貯留され、貯水槽から硫酸鉄水溶液が左右の培養槽の支持床に供給される。支持床に固定された鉄バクテリアは硫酸鉄を分解して酸化第二鉄を生成する。
【0052】
図6は、図5の鉄バクテリア処理装置を用いて硫酸鉄の種類に応じた鉄バクテリア処理による化学反応式の例を示した化学反応式図である。鉄バクテリアの処理装置により、硫酸鉄は酸化第二鉄に変換される。FeSO4(硫酸第一鉄)には、無水物、一水和物、四水和物、五水和物及び七水和物の5種類が存在し、夫々の化学反応式が(3)式〜(7)式として記載されている。これらの化学反応により、Fe2O3(酸化第2鉄)が生成される。Fe2(SO4)3(硫酸第二鉄)には、無水物及び五水和物の2種類が存在し、夫々の化学反応式が(8)式〜(9)式として記載されている。これらの化学反応により、Fe2O3(酸化第2鉄)が生成される。即ち、鉄バクテリアの生物処理により、硫酸鉄から酸化第二鉄が生成される。
【0053】
図7は、本発明において水酸化鉄・硫酸鉄からマグネタイト・酸化第二鉄を製造する加熱装置図である。加熱装置2は、投入口6とガス供給口8とガス排気口10と容器12から構成される。投入原材料4とは、例えば本発明の鉄系産業廃棄物である水酸化鉄であり、また鉄バクテリア処理で生成された酸化第二鉄である。投入原材料4を投入口6から装置内に投入し、ガス供給口8に不活性ガスであるアルゴンガス(Ar)と0.01〜1000ppmの範囲の濃度の水素ガス(H2)を矢印a方向に供給する。ガス排気口からはArと生成されたH2Oが矢印b方向に排気される。そして、固形の鋳鉄用原料14が下方の容器12の中に堆積する。鋳鉄用原料14は、本発明ではマグネタイトである。
【0054】
図8は、図7の加熱装置を用いて水酸化鉄・酸化第二鉄からマグネタイトを生成する化学反応式の例を示した化学反応式図である。まず、図7の投入原材料4が水酸化鉄の場合、Fe(OH)3(水酸化第二鉄)とFe(OH)2(水酸化第一鉄)の二種類が存在する。水酸化第二鉄は、H2ガスをガス供給口8から供給して、(1)式によりH2と反応してマグネタイトが生成される。他方、水酸化第一鉄は、アルゴンガスが供給され高温にさらされた段階で,OH基が脱離しFeO、H2O、さらにH2Oが解離平衡したH2、O2ガスの混合状態となる。アルゴンガスをガス供給口8から供給して、マグネタイトが生成される。次に、図7の投入原材料4が鉄バクテリア処理により硫酸鉄から生成された酸化第二鉄の場合、水酸化第二鉄は、H2ガスをガス供給口8から供給して、(10)式によりH2と反応してマグネタイトに変換される。鋳鉄用原料14としては、バクテリア処理により生成される酸化第二鉄でも良いが、(10)式により生成されるマグネタイトでも良い。導電性の無い酸化第二鉄を(10)式でマグネタイト化すると、マグネタイトは導電性を有するから、後で誘導加熱炉を使用するときに、加熱し易いという特徴がある。しかし、酸化第二鉄でも炭素材と共存させれば誘導加熱炉を使用できるから、酸化第二鉄のままでも問題は生じない。
【0055】
図9は、図7の加熱装置を用いて硫酸鉄からマグネタイトを生成する化学反応式の例を示した化学反応式図である。硫酸鉄は鉄バクテリア処理により酸化第二鉄に変換すると言ったが、図7の加熱装置を用いれば、硫酸鉄を一回の加熱処理でマグネタイトに変換できる。まず、硫酸第一鉄(FeSO4)については、(11)式〜(15)式の化学反応式に従って、マグネタイトに変換される。硫酸第一鉄は、無水物、一水和物、四水和物、五水和物、七水和物があるが、夫々(11)式〜(15)式に対応している。これら反応式は、Fe2+からFe8/3+への反応であるから酸化反応である。他方、硫酸第二鉄(Fe2(SO4)3)については、(16)式〜(17)式の化学反応式に従って、マグネタイトに変換される。硫酸第二鉄は、無水物、五水和物があるが、夫々(16)式〜(17)式に対応している。これら反応式は、Fe3+からFe8/3+への反応であるから還元反応である。以上のように、硫酸鉄をバクテリア処理せず、直ちに加熱炉処理することによって、マグネタイトに変換することが可能であり、マグネタイトの導電性により誘導加熱炉を適用することができる。
【0056】
図10は、本発明において鋳鉄用原料であるマグネタイト・酸化第二鉄から鋳鉄を製造する誘導加熱装置図である。誘導加熱装置16は、投入口18とガス供給口20とガス排気口22と誘導加熱炉24と第1槽31と第2槽32から構成されている。鋳鉄用原料14にはマグネタイト(Fe3O4)と酸化第二鉄(Fe2O3)がある。鋳鉄用原料14を投入口18に投入し、不活性ガスであるアルゴンガス(Ar)と5%濃度の水素ガス(H2)をガス供給口20から矢印c方向に供給する。水素ガスにより鋳鉄用原料14を還元して、ガス排気口22から矢印d方向にH2OやCO2やArが排気される。鋳鉄用原料は還元され、誘導加熱炉内に落下し、誘導加熱炉により鋳鉄用原料は融解され、鋳鉄は融液になって第1槽31内に堆積する。第1槽31内の融液はスラグ入り鋳鉄融液28であり、スラグ30が浮上している。スラグを含まない融液は、第1槽から矢印e方向にオーバーフローして第2槽32に堆積し、第2槽32にはスラグを含まない鋳鉄融液34が堆積する。このようにして鋳鉄融液が製造され、これを冷却すれば固体の鋳鉄が得られる。
【0057】
図11は、図10の誘導加熱装置を用いてマグネタイト・酸化第二鉄から鋳鉄を製造する化学反応式の例を示した化学反応式図である。マグネタイトから鋳鉄を還元製造するには、(18)式〜(20)式の3ケースを考える。(18)式では、マグネタイトを水素還元して鋳鉄を生成している。(19)式では、マグネタイトに炭素材を共存させ、炭素材と水素ガスが還元剤となって鋳鉄を生成している。(20)式では、炭素材を添加しているが、水素ガスで還元されて鋳鉄が生成され、炭素材はそのまま残存している。
酸化第二鉄から鋳鉄を還元製造するには、(21)式から(25)式の5ケースを考える。(21)式では、酸化第二鉄が水素還元されて鋳鉄を生成している。(21)式では炭素材を電磁誘導加熱材として添加しているが、炭素材を化学反応式に導入していない。この(21)式は、酸化第二鉄を誘導加熱装置で無く、通常の加熱装置により加熱した場合と考えても良い。通常の加熱装置であれば、酸化第二鉄は熱的に加熱されるから、水素ガスにより還元されて鋳鉄が生成される。(22)式では、酸化第二鉄の粒と炭素材が共存したFe2O3・Cを考えている。炭素材が誘導加熱され、酸化第二鉄の粒が融解し、水素還元される場合である。炭素材は酸化されずにそのまま残存している。(23)式では、(22)式と同様であるが、炭素と水素により還元されて鋳鉄が生成され、CO2とH2Oが生成される。(24)式と(25)式では、炭素材が酸化第二鉄と別に添加され、誘導加熱される場合を示す。両者ともに炭素材により誘導加熱され、酸化第二鉄は間接的に加熱される。(24)式では炭素材は還元作用を示さずに炭素材が残存し、(25)式では炭素材も還元作用を示してCO2に変化している。
【0058】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、新規な鉄系産業廃棄物として、鉱山廃棄物や鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場などから排出される鉄系産業廃棄物である水酸化鉄及び/又は硫酸鉄に着目し、この水酸化鉄及び/又は硫酸鉄からマグネタイトや酸化第二鉄を製造し、製造されたマグネタイトや酸化第二鉄を安価に提供することができる。現役の鉱山のみならず廃鉱山にも大量の鉄系産業廃棄物が手つかずの状態で眠っている。従って、極めて安価に鉄系産業廃棄物を入手でき、また鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場からも継続的に鉄系産業廃棄物が排出されており、これらの鉄系産業廃棄物は従来全く再利用されること無く眠っていたものであるから、これらの鉄系産業廃棄物から安価な鋳鉄用原料を鉄鋳物業界に提供することが可能になる。また、生成されたマグネタイトや酸化第二鉄を鋳鉄用原料として鉄鋳物業界に供給すれば、安価に鋳鉄(鉄鋳物)を製造することができる。更に、マグネタイトや酸化第二鉄といった鋳鉄用原料を誘導加熱炉と組み合わせれば、安価な鋳鉄の製造が容易になる。従って、本発明は、鉱山や鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場である鉄化合物製錬工場、鋳物業界、加熱炉業界等の広範囲の業界に利用可能である。
本発明によれば、
【符号の説明】
【0060】
2 加熱装置
4 投入原材料
6 投入口
8 ガス供給口
10 ガス排気口
12 容器
14 鋳鉄用原料
16 誘導加熱装置
18 投入口
20 ガス供給口
22 ガス排気口
24 誘導加熱炉
28 スラグ入り鋳鉄融液
30 スラグ
31 第1槽
32 第2槽
34 鋳鉄融液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄及び/又は硫酸鉄を処理してマグネタイト及び/又は酸化第二鉄を生成し、前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄を鋳鉄用原料とすることを特徴とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料。
【請求項2】
前記水酸化鉄を含有する前記鉄系産業廃棄物は鉱山廃棄物又は鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である請求項1に記載の鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料。
【請求項3】
前記硫酸鉄を含有する前記鉄系産業廃棄物は鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である請求項1に記載の鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料。
【請求項4】
前記鋳鉄用原料が前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄のペレットである請求項1〜3のいずれかに記載の鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料。
【請求項5】
前記ペレットには炭素材が含有される請求項4に記載の鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料。
【請求項6】
前記酸化第二鉄を処理してマグネタイトを生成し、このマグネタイトを前記鋳鉄用原料とする請求項1〜5のいずれかに記載の鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料。
【請求項7】
鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄を加熱炉により処理してマグネタイトを生成し、前記マグネタイトを鋳鉄用原料とすることを特徴とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法。
【請求項8】
鉄系産業廃棄物に含有される硫酸鉄をバクテリア処理して酸化第二鉄を生成し、前記酸化第二鉄を鋳鉄用原料とすることを特徴とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法。
【請求項9】
前記酸化第二鉄を加熱炉で処理してマグネタイトを生成し、このマグネタイトを鋳鉄用原料とする請求項8に記載の鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法。
【請求項10】
鉄系産業廃棄物に含有される硫酸鉄を加熱炉により処理してマグネタイトを生成し、前記マグネタイトを鋳鉄用原料とすることを特徴とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の鋳鉄用原料を還元して製造されることを特徴とする鋳鉄。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載のマグネタイトからなる鋳鉄用原料を誘導加熱炉に投入し、マグネタイトの導電性を利用して前記マグネタイトを電磁誘導発熱で融解させ、前記マグネタイトを還元して鋳鉄を製造することを特徴とする鋳鉄の製法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載の酸化第二鉄からなる鋳鉄用原料を炭素材と共存状態で誘導加熱炉に投入し、炭素材の導電性を利用して前記炭素材を電磁誘導発熱させて前記酸化第二鉄を融解させ、前記酸化第二鉄を還元して鋳鉄を製造することを特徴とする鋳鉄の製法。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれかに記載の鋳鉄用原料と、この鋳鉄用原料を融解させる誘導加熱炉を少なくとも有することを特徴とする鋳鉄原料用製造キット。
【請求項15】
前記鋳鉄用原料に炭素材が付加される請求項14に記載の鋳鉄原料用製造キット。
【請求項1】
鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄及び/又は硫酸鉄を処理してマグネタイト及び/又は酸化第二鉄を生成し、前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄を鋳鉄用原料とすることを特徴とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料。
【請求項2】
前記水酸化鉄を含有する前記鉄系産業廃棄物は鉱山廃棄物又は鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である請求項1に記載の鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料。
【請求項3】
前記硫酸鉄を含有する前記鉄系産業廃棄物は鉄含有化合物を原料として非鉄素材を生産する工場から廃棄される産業廃棄物である請求項1に記載の鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料。
【請求項4】
前記鋳鉄用原料が前記マグネタイト及び/又は酸化第二鉄のペレットである請求項1〜3のいずれかに記載の鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料。
【請求項5】
前記ペレットには炭素材が含有される請求項4に記載の鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料。
【請求項6】
前記酸化第二鉄を処理してマグネタイトを生成し、このマグネタイトを前記鋳鉄用原料とする請求項1〜5のいずれかに記載の鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料。
【請求項7】
鉄系産業廃棄物に含有される水酸化鉄を加熱炉により処理してマグネタイトを生成し、前記マグネタイトを鋳鉄用原料とすることを特徴とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法。
【請求項8】
鉄系産業廃棄物に含有される硫酸鉄をバクテリア処理して酸化第二鉄を生成し、前記酸化第二鉄を鋳鉄用原料とすることを特徴とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法。
【請求項9】
前記酸化第二鉄を加熱炉で処理してマグネタイトを生成し、このマグネタイトを鋳鉄用原料とする請求項8に記載の鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法。
【請求項10】
鉄系産業廃棄物に含有される硫酸鉄を加熱炉により処理してマグネタイトを生成し、前記マグネタイトを鋳鉄用原料とすることを特徴とする鉄系産業廃棄物から生成される鋳鉄用原料の製法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の鋳鉄用原料を還元して製造されることを特徴とする鋳鉄。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載のマグネタイトからなる鋳鉄用原料を誘導加熱炉に投入し、マグネタイトの導電性を利用して前記マグネタイトを電磁誘導発熱で融解させ、前記マグネタイトを還元して鋳鉄を製造することを特徴とする鋳鉄の製法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載の酸化第二鉄からなる鋳鉄用原料を炭素材と共存状態で誘導加熱炉に投入し、炭素材の導電性を利用して前記炭素材を電磁誘導発熱させて前記酸化第二鉄を融解させ、前記酸化第二鉄を還元して鋳鉄を製造することを特徴とする鋳鉄の製法。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれかに記載の鋳鉄用原料と、この鋳鉄用原料を融解させる誘導加熱炉を少なくとも有することを特徴とする鋳鉄原料用製造キット。
【請求項15】
前記鋳鉄用原料に炭素材が付加される請求項14に記載の鋳鉄原料用製造キット。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図3】
【図4】
【図7】
【図10】
【図2】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図3】
【図4】
【図7】
【図10】
【公開番号】特開2013−32567(P2013−32567A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169118(P2011−169118)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(309027861)株式会社ユーテック (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(309027861)株式会社ユーテック (4)
【Fターム(参考)】
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