説明

鉄系超伝導体及びその製造方法

【課題】より高い超伝導転移温度を有する鉄系超伝導体を提供する。
【解決手段】FeAs面を有する鉄系超伝導体において、FeAs面のFeを部分的に他の元素に置換するとともに原子空孔を導入してコドーピングを施す。特に、xを0.3≦x≦0.4、δを0.4≦δ≦0.6として、当該鉄系超伝導体をCa(Fe1-xPtx)2-δAs2とする。当該鉄系超伝導体は、カルシウムと鉄と白金とヒ素のモル比を、1:(1−x)(2−δ):x(2−δ):2として原料の混合を行う工程と、混合した原料を焼成する工程とにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系超伝導体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、新たな超伝導体として鉄系の超伝導体が注目されている(例えば、特許文献1参照。)。鉄は、それ自体ではいくら冷却しても超伝導にならないことが知られているとともに、磁性の象徴とも考えられていたため、鉄の化合物が超伝導性を示すことは大きな驚きでもあった。
【0003】
特に、最近では、酸素を含まない鉄系の超伝導体も提案されてきており(例えば、特許文献2参照。)、新たな研究分野として注目され、活発な研究開発が行われている。
【0004】
超伝導体の研究開発では、より高温の超伝導転移温度を有する超伝導体を見つけ出すことに主眼が行われている。
【0005】
特に、既によく知られている銅酸化物超伝導体における知見から、鉄系超伝導体においても、鉄系超伝導体内に層状に存在しているREO面(ここでREは希土類元素である)あるいはFeAs面に対して、元素置換や酸素欠損などによってキャリアを化学ドープすることにより、超伝導転移温度の向上が図れるとする考え方に基づいて、様々な組み合わせの鉄系超伝導体の作成が試みられている。
【0006】
すなわち、鉄系超伝導体でも、キャリアの化学ドープによってFeAs面の電子状態を所定の状態とすることにより、超伝導性が生じていると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際特開2009/104611号
【特許文献2】国際特開2010/007929号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らも、より高い超伝導転移温度を有する鉄系超伝導体を提供しようとしているものであり、そのための研究開発において、超伝導転移温度を向上させていると思われる新しい機序を見出し、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鉄系超伝導体は、FeAs面を有する鉄系超伝導体において、FeAs面のFeを部分的に他の元素に置換するとともに原子空孔を導入してコドーピングしているものである。さらに、当該他の元素がPtであることにも特徴を有し、xを0.3≦x≦0.4、δを0.4≦δ≦0.6として、当該鉄系超伝導体がCa(Fe1-xPtx)2-δAs2であることにも特徴を有するものである。
【0010】
また、本発明の鉄系超伝導体の製造方法は、鉄の原子空孔が存在するFeAs面を有する鉄系超伝導体の製造方法において、xを0.3≦x≦0.4、δを0.4≦δ≦0.6とし、カルシウムと鉄と白金とヒ素のモル比を、1:(1−x)(2−δ):x(2−δ):2として原料の混合を行う工程と、混合した原料を焼成する工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、FeAs面のFeを部分的に他の元素に置換するとともに原子空孔を導入してコドーピングを施した鉄系超伝導体とすることにより、FeAs面のFeを部分的に他の元素に置換しただけの鉄系超伝導体と比較して、超伝導転移温度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】鉄系超伝導体Ca(Fe1-xPtx)2-δAs2(x=0.33、δ=0.4)の10Oeの磁場を印加して測定した磁化の温度依存性を示すグラフである。
【図2】図1の超伝導転移温度Tc付近の拡大図である。
【図3】鉄系超伝導体Ca(Fe1-xPtx)2-δAs2(x=0.32、δ=0.4)の電気的効率の測定結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
従来、鉄系超伝導体だけでなく、銅酸化物超伝導体などのような化合物系の超伝導体の場合、FeAs面を構成しているFeやCuO2面を構成しているCuの原子軌道が超伝導を担う伝導バンドを形成していると考えられている。
【0014】
そのため、FeAs面を構成しているFeやCuO2面を構成しているCuの欠損や置換が生じると、その物体は超伝導となることはないと一般的に考えられており、そのため、FeやCu以外のサイトの元素置換によってFeAs面あるいはCuO2面にキャリアの化学ドープを行うことだけが行われていた。
【0015】
これに対して、本発明の鉄系超伝導体では、鉄系超伝導体中に層状に存在しているFeAs面を構成しているFeの一部を欠損させて、FeAs面に原子空孔を導入しているものである。
【0016】
特に、本発明の鉄系超伝導体では、FeAs面のFeを部分的に他の元素に置換することにより電子をドーピングしており、さらにFeAs面にFeの原子空孔を導入することによりホールをドーピングして、コドーピングを施しているものである。
【0017】
このように、本発明では、コドーピングを施すことにより、超伝導転移温度を向上させた鉄系超伝導体を提供するものである。
【0018】
FeAs面のFeを部分的に置換する他の元素は、基本的には何であってもよいが、FeAs面のFeを部分的に置換するとともに、FeAs面にFeの原子空孔を導入するためにはPtが好適であった。
【0019】
より具体的には、xを0.3≦x≦0.4、δを0.4≦δ≦0.6として、Ca(Fe1-xPtx)2-δAs2である鉄系超伝導体が好適である。
【0020】
この鉄系超伝導体は、以下の手順により製造することができる。
【0021】
まず、原料粉末の混合を行う。原料としては、Caの供給源としてカルシウム(Ca)、Feの供給源としてヒ化鉄(FeAs)、Ptの供給源として白金(Pt)またはヒ化白金(PtAs2)、Asの供給源としてヒ素(As)を用いている。なお、これらの原料に限定するものではない。
【0022】
各原料は、Ca,Fe,Pt,Asのモル比が1:(1−x)(2−δ):x(2−δ):2となるように計量し、アルミナ坩堝に逐次投入して混合している。なお、0.3≦x≦0.4、0.4≦δ≦0.6である。
【0023】
原料粉末を混合して混合粉末を作製した後、当該混合粉末をアルミナ坩堝に入れたままで石英ガラスのアンプルに真空封入する。
【0024】
次いで、石英ガラスのアンプルを焼成炉に入れて混合粉末を焼成することにより鉄系超伝導体としている
【0025】
焼成条件は、1000℃−72時間、または1050〜1100℃−40時間としているが、アンプル内の混合粉末を焼結させることができるのであれば、焼成条件は適宜調整してよい。
【0026】
焼成後は、自然冷却により徐冷している。
【0027】
上記の製造方法により、FeAs面のFeを部分的にPtに置換するとともに原子空孔を導入してコドーピングを施した鉄系超伝導体Ca(Fe1-xPtx)2-δAs2を製造できる。
【0028】
図1は、x=0.33、δ=0.4とした鉄系超伝導体Ca(Fe1-xPtx)2-δAs2の10Oeの磁場を印加して測定した磁化の温度依存性を示すグラフである。零磁場中冷却(ZFC)の条件で、試料は完全反磁性のほぼ100%に対するシールディング効果を示した。また、磁場中冷却(FC)の条件で、磁束の排除(マイスナー効果)は完全反磁性に対して〜10%で、この鉄系超伝導体が実際にバルク超伝導であることを示している。
【0029】
図2は、図1の超伝導転移温度Tc付近の拡大図であり、x=0.33、δ=0.4とした鉄系超伝導体Ca(Fe1-xPtx)2-δAs2の超伝導転移温度Tcが38Kであることを示している。
【0030】
図3は、x=0.32、δ=0.4とした鉄系超伝導体Ca(Fe1-xPtx)2-δAs2の電気的効率の測定結果のグラフである。この場合の鉄系超伝導体Ca(Fe1-xPtx)2-δAs2の超伝導転移温度Tcが33Kであることを示している。
【0031】
ちなみに、FeAs面にFeの原子空孔を導入していない状態の化合物Ca(Fe1-xPtx)2As2は、0.0≦x≦0.08の範囲でのみ生成しえるが、超伝導は示さない。Feを部分的にPtに置換して、Feの原子空孔を導入してコドーピングとすることにより、超伝導性を発現させることができている。
【0032】
また、FeAs面にFeの原子空孔を導入していない状態の、Feを部分的にCoで置換した鉄系超伝導体Ca(Fe1-xCox)2As2の超伝導転移温度Tcは、0.0≦x≦0.1において18K以下であり、Feを部分的にPtに置換した場合には、Feの原子空孔を導入してコドーピングとすることにより、転移温度Tcを上昇させることができている。
【0033】
このように、本発明では、Feの原子空孔を導入してコドーピングとすることにより、超伝導性を発現させたり、あるいは転移温度Tcを上昇させたりすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeAs面を有する鉄系超伝導体において、
前記FeAs面のFeを部分的に他の元素に置換するとともに原子空孔を導入してコドーピングした鉄系超伝導体。
【請求項2】
前記他の元素がPtである請求項1に記載の鉄系超伝導体。
【請求項3】
xを0.3≦x≦0.4、δを0.4≦δ≦0.6として、Ca(Fe1-xPtx)2-δAs2である請求項1または請求項2に記載の鉄系超伝導体。
【請求項4】
鉄の原子空孔が存在するFeAs面を有する鉄系超伝導体の製造方法であって、
xを0.3≦x≦0.4、δを0.4≦δ≦0.6とし、カルシウムと鉄と白金とヒ素のモル比を、1:(1−x)(2−δ):x(2−δ):2として原料の混合を行う工程と、
混合した原料を焼成する工程と
を有する鉄系超伝導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−66960(P2012−66960A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212350(P2010−212350)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業における「ナノブロックヘテロ重合による鉄ヒ化物系高温超伝導体の創製」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】