説明

鉄系黒色粒子粉末及び該鉄系黒色粒子粉末を用いた黒色塗料、ゴム・樹脂組成物

【課題】 本発明に係る鉄系黒色粒子粉末は、分散性、耐酸性、着色力、黒色度に優れると共に、可及的に磁化値が低いので、耐酸性、黒色度に優れた黒色塗料、ゴム・樹脂組成物を提供するものである。
【解決手段】 鉄チタン複合酸化物粒子粉末からなる鉄系黒色粒子粉末であって、鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素に対するチタン元素の含有率Aが5〜35原子%であり、鉄系黒色粒子粉末の鉄元素溶解率が1重量%までに存在するチタン元素の含有率B(同範囲に存在する鉄元素を基準とする)と前記チタン元素の含有率Aとの比(B/A)が1.0以上である鉄系黒色粒子粉末である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性、黒色度、着色力に優れ、且つ耐酸性に優れ、可及的に磁化値が低い鉄系黒色粒子粉末を提供するものである。
【0002】
該鉄系黒色粒子粉末によって着色した場合、耐酸性、黒色度に優れた黒色塗料、ゴム・樹脂組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
黒色顔料として代表的なものとしては、マグネタイト粒子粉末、カーボンブラック、フッ化黒鉛等が知られている。これら黒色顔料は、塗料用、印刷インク用、化粧品用、ゴム・樹脂組成物用等の着色剤として古くから汎用されている。
【0004】
近時、安全衛生の観点並びに省エネルギー時代における作業能率の向上や諸特性の向上という観点から、安全、無害であって、黒色度、着色力が優れていることはもちろん、より分散性に優れていることによって、作業性と諸特性に優れた黒色顔料粉末が強く要求されている。
【0005】
しかしながら、マグネタイト粒子粉末は、安全、無害ではあるが、磁性を有するため粒子相互間で再凝集が生じ、分散が困難となり、作業性が悪いものであった。
【0006】
また、カーボンブラックは、0.01〜0.1μm程度の超微細粒子であり、かさ高い粉末であるため、取り扱いが困難で作業性が悪いものである。また、発ガン性等の安全、衛生面からの問題も指摘されている。
【0007】
また、フッ化黒鉛は、安全であるとは言い難く、また、分散性も十分とは言い難い。
【0008】
一方、安全、無害であって、且つ、非磁性である黒色顔料としてMnを含有するヘマタイト粒子粉末が提案されていたが(特開平10−279314号公報等)、Mnを含有する化合物は、近年、肺、神経系への影響等の安全面の問題が指摘されている。
【0009】
そこで、磁気的な凝集が少なく、安全、無害であって、しかも、黒色度に優れた黒色顔料が、現在最も要求されている。
【0010】
作業性の向上のためには、顔料が非磁性であって適当な大きさを有するとともに分散性が優れていることによって、取り扱いやすい顔料であることが肝要である。
【0011】
顔料の分散性が良好であることは、色調が鮮明となり、着色力、隠蔽力等顔料本来の基本的特性が向上することはもちろん、塗膜の光沢や鮮映性が良好となり、これらは塗膜の耐酸性などの塗膜物性を向上させることになるので、顔料の分散性の向上が強く要求されている。
【0012】
更に、近年、酸性雨の問題等自然環境、生活環境が悪化しており、特に、屋外で用いられる塗膜形成物及びゴムや樹脂組成物の耐酸性の向上が益々強く要求されている。
【0013】
従来、黒色を呈した鉄系粒子粉末として、FeTiOとFe−FeTiO固溶体との混合組成からなる黒色顔料(特許文献1)、ルチル型TiO相を基体とし、該基体がFeTiO相で被覆された粒子構造からなる黒色顔料(特許文献2)、Fe−FeTiO固溶体又はFe−FeTiO固溶体とスピネル型構造を有する鉄系酸化物との混合組成からなる鉄系黒色粒子粉末(特許文献3)等が知られている。
【0014】
【特許文献1】特開平3−2276号公報
【特許文献2】特開2002−129063号公報
【特許文献3】特開2004−161608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
分散性、耐酸性、着色力及び黒色度に優れるとともに、可及的に磁化値が低い黒色顔料は、現在、最も要求されているところであるが、このような諸特性を有する黒色顔料はいまだ得られていない。
【0016】
即ち、前出特許文献1記載の非磁性粒子粉末は、鉄とチタンの複合酸化物粒子であるが、粒子の表面近傍の鉄とチタンの割合については考慮されておらず、分散性、耐酸性、黒色度、着色力を満足するものとは言い難いものである。
【0017】
前出特許文献2記載の黒色複合酸化物は、ルチル型TiO相を基体とし、該基体がFeTiO相で被覆された粒子構造からなるものであるが、分散性、耐酸性、黒色度及び着色力を満足するものとは言い難いものである。
【0018】
前出特許文献3記載の鉄系黒色粒子粉末は、鉄とチタンの複合酸化物粒子であるが、粒子の表面近傍の鉄とチタンの割合については考慮されておらず、分散性、耐酸性、黒色度、着色力を十分に満足するものとは言い難いものである。
【0019】
そこで、本発明は、分散性、耐酸性、黒色度及び着色力に優れるとともに、可及的に磁化値が低い鉄系黒色粒子粉末を提供し、並びに該鉄系黒色粒子粉末を用いた場合、耐酸性、黒色度に優れた黒色塗料、ゴム・樹脂組成物を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0021】
即ち、本発明は、鉄チタン複合酸化物粒子粉末からなる鉄系黒色粒子粉末であって、鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素に対するチタン元素の含有率Aが5〜35原子%であり、鉄系黒色粒子粉末の鉄元素溶解率が1重量%までに存在するチタン元素の含有率B(同範囲に存在する鉄元素を基準とする)と前記チタン元素の含有率Aとの比(B/A)が1.0以上であることを特徴とする鉄系黒色粒子粉末である(本発明1)。
【0022】
また、本発明は、鉄チタン複合酸化物粒子粉末からなる鉄系黒色粒子粉末であって、鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素に対するチタン元素の含有率Aが5〜35原子%であり、鉄系黒色粒子粉末の鉄元素溶解率が1重量%までに存在するチタン元素の含有率B(同範囲に存在する鉄元素を基準とする)と前記チタン元素の含有率Aとの比(B/A)が1.2以上であることを特徴とする鉄系黒色粒子粉末である(本発明2)。
【0023】
また、本発明は、鉄チタン複合酸化物粒子粉末の構成相に、少なくともFeTiO−Fe固溶体を有することを特徴とする本発明1又は2の鉄系黒色粒子粉末である(本発明3)。
【0024】
また、本発明は、本発明1乃至3のいずれかの鉄系黒色粒子粉末を塗料構成基材中に配合したことを特徴とする黒色塗料である(本発明4)。
【0025】
また、本発明は、本発明1乃至3のいずれかの鉄系黒色粒子粉末をゴム・樹脂組成物構成基材中に配合したことを特徴とするゴム・樹脂組成物である(本発明5)。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末は、黒色度に優れるとともに可及的に磁化値が低く、分散性及び耐酸性に優れた黒色顔料として好適である。
【0027】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末によって着色した黒色塗料、ゴム・樹脂組成物は、黒色度及び耐酸性に優れるので、黒色塗料、ゴム・樹脂組成物として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0029】
先ず、本発明に係る鉄系黒色粒子粉末について述べる。
【0030】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末の鉄元素に対するチタン元素の含有率Aは5〜35原子%である。5原子%未満の場合には耐酸性が悪くなり、また高黒色度且つ低磁化のものが得られ難くなる。35原子%を越える場合には、分散性、黒色度、着色力が悪くなる。より好ましくは10〜33.3原子%であり、更に好ましくは10〜32原子%である。
【0031】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末は、鉄系黒色粒子粉末の鉄元素溶解率が1重量%までに存在するチタン元素の含有率B(同範囲に存在する鉄元素を基準とする)と鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素に対するチタン元素の含有率A(原子%)との比(B/A)が1.0以上である。B/Aが1.0未満の場合には、分散性、耐酸性、黒色度及び着色力が悪くなる。好ましくは1.2以上、より好ましくは1.3以上である。上限は1.8程度である。
【0032】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末の窒素吸着による比表面積値は3〜60m/gが好ましい。BET比表面積値が3m/g未満の場合には、鉄系黒色粒子粉末が粗大であったり、粒子及び粒子相互間で焼結が生じた粗大粒子となり着色力が低下する。60m/gを越える場合には、所望の黒色度を得ることが困難となる。より好ましくは4〜30m/g、更により好ましくは5〜20m/gである。
【0033】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末の飽和磁化値は40Am/kg未満が好ましい。飽和磁化値が40Am/kgを越える場合には、粒子相互間で再凝集が生じやすく分散が困難となる。より好ましくは30Am/kg以下である。
【0034】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末の構成相としては、FeTiO−Fe固溶体、FeTiO、FeTiO−Fe固溶体、FeTiO、FeTiO等が挙げられ、上記化合物の二種以上の混合物であってもよいが、少なくともFeTiO−Fe固溶体を有することが好ましい。また、原料であるFeや、γ−Fe等のスピネル酸化鉄が存在してもよい。
【0035】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末の色相のうち、黒色度L値は6〜12.5が好ましい。黒色度L値が12.5を越える場合には、黒色度に優れるとは言い難い。6未満の鉄系黒色粒子粉末は工業的に製造することができない。より好ましくは6〜11である。また、a値は−2〜4が好ましく、b値は−2〜4が好ましい。
【0036】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末の着色力は、後述する評価法で示した場合、35〜44が好ましい。着色力が44を越える場合には、該鉄系黒色顔料粉末を非磁性黒色顔料に使用した場合に十分な黒色度を得ることが困難である。着色力が35未満の鉄系黒色粒子粉末は工業的に製造することができない。より好ましくは35〜43である。
【0037】
なお、本発明に係る鉄系黒色粒子粉末は、鉄、チタン以外にMg、Al、Si、P、Mn、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれる1種又2種以上の元素を鉄とチタンの全量に対して0〜10原子%含んでも良い。
【0038】
次に、本発明に係る鉄系黒色粒子粉末の製造法について述べる。
【0039】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末は、マグネタイト粒子表面をチタン化合物で被覆し、該チタン化合物で被覆したマグネタイト粒子を含有する水懸濁液のpH値を5.0〜7.5の範囲に調整し、70℃以上の温度で1時間以上熟成したものを、非酸化性雰囲気下で600〜850℃の温度範囲で加熱焼成した後、粉砕して得ることができる。
【0040】
前記マグネタイト粒子粉末は、例えば、第一鉄塩水溶液とアルカリ水溶液とを反応して得られた水酸化第一鉄塩コロイドを含む第一鉄塩反応溶液に酸素含有ガスを通気することによって得ることができる。
【0041】
本発明に用いるチタン化合物としては、硫酸チタニル、四塩化チタン、三塩化チタンを挙げることができる。
【0042】
マグネタイト粒子に対するチタン化合物の被覆は、マグネタイト粒子を含有する水懸濁液に前記チタン化合物を添加し、水酸化アルカリ水溶液、炭酸アルカリ水溶液等を用いて、マグネタイト粒子の粒子表面にチタン化合物を被覆させる。なお、被覆反応では反応溶液のpH値を低下させないで、チタン化合物の添加直後の反応pHを維持させることが好ましい。
【0043】
前記チタン化合物の添加量は、5〜35原子%が好ましい。5原子%未満の場合には耐酸性が悪くなり、また高黒色度且つ低磁化のものが得られ難くなる。35原子%を越える場合には、分散性、黒色度、着色力が悪くなる。より好ましくは10〜33.3原子%である。
【0044】
本発明においては、前記のチタン化合物で被覆したマグネタイト粒子を含有する水懸濁液のpH値を5.0〜7.5の範囲に調整し、70℃以上の温度で1時間以上熟成する。上記1時間以上の熟成によって、マグネタイト粒子へのチタン化合物で被覆状態がより均一となる。熟成温度の上限は105℃程度である。また、熟成時間は2時間までが好ましく、それ以上維持しても効果は変わらない。
【0045】
なお、前記異種金属元素を含有させる場合には、予めマグネタイト粒子中に含有させておいても良く、又はマグネタイト粒子の表面にチタン化合物を被覆させた水溶液に各種金属元素からなる塩、又は各種金属元素を含有する溶液を添加しても良い。
【0046】
本発明における加熱焼成の雰囲気は非酸化性雰囲気下が好ましく、酸化性雰囲気下では、高い黒色度を有する鉄系黒色粒子粉末を得ることが困難である。
【0047】
本発明における加熱焼成の温度範囲は600〜850℃が好ましく、600℃未満の場合には、マグネタイト粒子とチタン化合物の固相反応が不十分となり、目的とする鉄系黒色粒子粉末を得ることが困難であり、850℃を越える場合には、不要な相が生成するため好ましくない。より好ましくは620〜830℃である。
【0048】
加熱焼成後の粒子粉末は、常法によって、粉砕すればよい。
【0049】
次に、本発明に係る塗料について述べる。
【0050】
本発明に係る黒色塗料は、塗膜にした場合、L値が6〜12.5であって、a値が−2〜4であって、b値が−2〜4であることから、公知の黒色顔料粉末を用いた場合に比べ、遜色がないものである。また、光沢度は80%以上であって、耐酸性はΔG値が8.0以下、ΔL値が1.0以下であることが好ましい。色相を考慮すれば、L値は6〜11がより好ましい。a値は−2〜3がより好ましい。b値は−2〜3がより好ましい。光沢度は83%以上がより好ましい。耐酸性はΔG値が7以下がより好ましい。ΔL値は0.8以下がより好ましい。
【0051】
次に、本発明に係る塗料の製造方法について述べる。
【0052】
本発明に係る塗料中における鉄系黒色粒子粉末の配合割合は、塗料構成基材100重量部に対し0.1〜200重量部の範囲で使用することができ、塗料のハンドリングを考慮すれば、好ましくは0.1〜100重量部、更に好ましくは0.1〜50重量部である。
【0053】
本発明における塗料構成基材としては、樹脂、溶剤及び必要に応じて体質顔料、乾燥促進剤、界面活性剤、硬化促進剤、助剤等が配合される。
【0054】
樹脂としては、溶剤系塗料用として通常使用されるアクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂等を用いることができる。水系塗料用としては、通常使用される水溶性アルキッド樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ウレタンエマルジョン樹脂を用いることができる。
【0055】
溶剤としては、溶剤系塗料用として通常使用されるトルエン、キシレン、ブチルアセテート、メチルアセテート、メチルイソブチルケトン、ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルアルコール、脂肪族炭化水素等を用いることができる。
【0056】
水系塗料用としては、水に加えて通常使用されるブチルセロソルブ、ブチルアルコール等を使用することができる。
【0057】
消泡剤としては、ノプコ8034(商品名)、SNデフォーマー477(商品名)、SNデフォーマー5013(商品名)、SNデフォーマー247(商品名)、SNデフォーマー382(商品名)(以上、いずれもサンノプコ株式会社製)、アンチホーム08(商品名)、エマルゲン903(商品名)(以上、いずれも花王株式会社製)等の市販品を使用することができる。
【0058】
次に、本発明に係るゴム・樹脂組成物について述べる。
【0059】
本発明に係る黒色ゴム・樹脂組成物は、L値が6〜12.5であって、a値が−2〜4であって、b値が−2〜4であることから、公知の黒色顔料粉末を用いた場合に比べ、遜色がないものである。また、分散性の目視観察の結果は、4〜5の範囲であることが好ましい。色相を考慮すれば、L値は6〜11がより好ましい。a値は−2〜3がより好ましい。b値は−2〜3がより好ましい。
【0060】
次に、本発明に係るゴム・樹脂組成物の製造法について述べる。
【0061】
本発明に係るゴム・樹脂組成物中における鉄系黒色粒子粉末の配合割合は、構成基材100重量部に対し0.01〜200重量部の範囲で使用することができ、ゴム・樹脂組成物のハンドリングを考慮すれば、好ましくは0.05〜100重量部、更に好ましくは0.1〜50重量部である。
【0062】
本発明に係るゴム又は樹脂組成物における構成基材としては、鉄系黒色粒子粉末とゴム又は周知の熱可塑性樹脂とともに、必要により、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種安定剤等の添加剤が配合される。
【0063】
添加剤の量は、鉄系黒色粒子粉末とゴム又は熱可塑性樹脂との総和に対して50重量%以下であればよい。添加物の含有量が50重量%を越える場合には、成形性が低下する。
【0064】
本発明に係るゴム又は樹脂組成物は、ゴム又は樹脂原料と鉄系黒色粒子粉末をあらかじめよく混合し、次に、混練機もしくは押出機を用いて加熱下で強いせん断作用を加えて、黒色顔料粉末の凝集体を破壊し、ゴム又は樹脂中に鉄系黒色粒子粉末を均一に分散させた後、目的に応じた形状に成形加工して使用する。
【0065】
<作用>
本発明においては、鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素に対するチタン元素の含有率Aと該鉄系黒色粒子粉末の鉄元素溶解率が1重量%までに存在するチタン元素の含有率B(原子%)との比(B/A)と、分散性、耐酸性、黒色度、着色力及び磁化値との間に密接な相関があることを見い出した。
【0066】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末が、黒色度及び着色力に優れるとともに、可及的に磁化値が低いのは、マグネタイト粒子へのチタン化合物の被覆がより均一となり、チタン化合物の被覆率が高まりマグネタイトとの反応がより進行し、未反応の残存酸化チタンが著しく減少したためであると本発明者は推定している。
分散性、耐酸性に優れるのは、鉄系黒色粒子の粒子表面近傍にチタン元素が多く偏在するとともに、残存する酸化チタンが著しく減少したことによるものと本発明者は推定している。
【0067】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末は、分散性、耐酸性及び黒色度に優れると共に、可及的に磁化値が低いので、黒色塗料、ゴム・樹脂組成物として好適である。
【実施例】
【0068】
本発明の代表的な実施の形態は、次の通りである。
【0069】
鉄系黒色粒子粉末の鉄元素に対するチタン元素の含有率(A)は、「蛍光X線分析装置 RIX−2100型」(理学電機工業(株)製)を使用し、JIS K0119の「ケイ光X線分析通則」に従って測定した鉄元素の含有量とチタン元素の各含有量より求めた。
【0070】
鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素に対するチタン元素の含有率(A)と該鉄系黒色粒子粉末の鉄元素溶解率が1重量%までの鉄元素に対するチタン元素の含有率(B)との比(B/A)は、上記方法によって求めた(A)と以下の方法により求めた(B)から算出した。
【0071】
該鉄系黒色粒子粉末の鉄元素溶解率が1重量%までの鉄元素に対するチタン元素の含有率Bは、例えば、下記のような方法で行うことができる。
【0072】
即ち、鉄系黒色粒子粉末約10gを精秤し、適量のイオン交換水を加えてよくスラリー化し、更に該スラリーにイオン交換水を加えて全量を1850mLとする。
【0073】
次いで、該スラリー溶液温度を40℃、攪拌速度を200rpmに保ちながら特級塩酸150mLを加え、溶解を開始する。この時の鉄系黒色粒子粉末の濃度は5g/L、塩酸濃度は約1Nになっている。
【0074】
鉄系黒色粒子粉末を含有する懸濁液から20mLを、1〜10分の任意の間隔で任意の点数採取し、0.1μmメンブランフィルターでろ過し、ろ液を採取する。
【0075】
採取したろ液の内10mLを用い、「誘導結合プラズマ原子発光分光光度計 SPS−4000型」(セイコー電子工業(株)製)により、鉄元素とチタン元素の各含有量を求める。
【0076】
なお、鉄系黒色粒子粉末の鉄元素溶解率は、以下の計算式で算出した。
【0077】
鉄元素溶解率(%)=(溶解した鉄元素量(g))/(鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素の全量(g))×100
溶解した鉄元素量は、上記のろ液中の鉄元素含有量から算出した。鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素の全量は、前記蛍光X線分析にて測定した鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素の含有量から算出した。
【0078】
鉄系黒色粒子粉末の鉄元素溶解率が1重量%時の鉄元素に対するチタン元素の含有率B(原子%)は、上記より求めた鉄元素溶解率に対して、各鉄元素溶解率での鉄元素に対するチタン元素の含有率をプロットすることにより求めた。
【0079】
なお、鉄系黒色粒子粉末の酸への溶解性によっては、鉄元素溶解率が1重量%の前後でプロットできるように、溶解に用いる酸の濃度を適宜調整しても良い。
【0080】
比表面積値は、「Mono Sorb MS−II」(湯浅アイオニックス(株)製)を用いて、N吸着によるBET法により測定した値で示した。
【0081】
粒子の構成相は、「X線回折装置RINT−2500」(理学電機工業(株)製、管球:Cu)を用いて同定した。
【0082】
鉄系黒色粒子粉末の磁気特性は「振動試料型磁力計VSM−3S−15」(東英工業(株)製)を用いて磁場796kA/m(10kOe)下で測定した値である。
【0083】
鉄系黒色粒子粉末の色相は、試料0.5g、ヒマシ油0.5mlをフーバー式マーラーで練ってペースト状とし、このペーストにクリアラッカー4.5gを加え、混練、塗料化してキャストコート紙上に150μm(6mil)のアプリケーターを用いて塗布した塗布片(塗膜厚み:約30μm)を作製し、該塗布片について、多光源分光測色計MSC−IS−2D(スガ試験機株式会社製)を用いてJIS Z8729に定めるところに従って表色指数L値、a値、b値をそれぞれ測定した値で示した。
【0084】
鉄系黒色粒子粉末の着色力は、試料0.5g、ヒマシ油0.5ml及び二酸化チタン1.5gをフーバー式マーラーで練ってペースト状とし、このペーストにクリアラッカー4.5gを加え、混練、塗料化してキャストコート紙上に150μm(6mil)のアプリケーターを用いて塗布した塗布片(塗膜厚み:約30μm)を作製し、該塗布片について、多光源分光測色計MSC−IS−2D(スガ試験機株式会社製)を用いてJIS Z8729に定めるところに従って表色指数L値を測定した値で示した。
【0085】
同様に黒色顔料粉末を用いた塗料の色相については、後述組成の塗料を用いた塗布膜の色相を、樹脂組成物の色相については、後述組成からなる樹脂プレートの色相を、多光源分光測色計MSC−IS−2D(スガ試験機株式会社製)を用いてJIS Z8729に定めるところに従って表色指数L値、a値、b値をそれぞれ測定した値で示した。
【0086】
塗料ビヒクルへの分散性は、後出実施例1と同様にして作製した塗布膜について、塗布面の光沢度により調べた。
【0087】
光沢度は、グロスメーターUGV−5D(スガ試験機株式会社製)を用いて20°の光沢を測定して求めた。光沢度の値が高い程分散性が良いことを示す。
【0088】
耐酸性は、後述実施例で得られる黒色顔料粉末を用いた塗料を、冷間圧延鋼板(0.8mm×70mm×150mm:JIS G3141)に150μmの厚みで塗布、乾燥して製造した塗膜を有する試料を用意し、光沢度及び色相を測定しておく。次に、1000mlのビーカーに5wt%硫酸水溶液を入れ、上記試料を糸でつるして約120mmの深さまで浸し、25℃で24時間静置する。
【0089】
次に、試料を硫酸水溶液中から取り出して流水で静かに洗い、水を振り切った後、試料の中心部分の光沢度及び色相を測定する。そして硫酸水溶液への浸漬前後の光沢度変化(ΔG値)及び色相変化(ΔL値:試料間のL値の差)を測定し、これの大小で耐酸性を評価した、ΔG値及びΔL値がともに小さい程、耐酸性に優れていることを示す。
【0090】
樹脂組成物への分散性は、得られた樹脂組成物表面における未分散の凝集粒子の個数を目視により判定し、5段階で評価した。5が最も分散状態が良いことを示す。
5:未分散物が認められない。
4:1cm当たりに1〜4個認められる。
3:1cm当たりに5〜9個認められる。
2:1cm当たりに10〜49個認められる。
1:1cm当たりに50個以上認められる。
【0091】
<鉄系黒色粒子粉末の製造>
実施例1
球状マグネタイト粒子粉末(平均粒子径0.15μm、BET比表面積10.8m/g)10kgを含有する水懸濁液に、硫酸チタニル38.9molを含有する水溶液(マグネタイト粒子粉末の全Feに対してTi換算で30原子%に相当する。)を添加する。尚、添加時に反応溶液のpHが低下しないように該混合液中にNaOHを添加した。次いで、混合溶液の温度を75℃、pH値を6.0に調整して1時間熟成を行いマグネタイト粒子の粒子表面にチタンの含水酸化物を沈着させた後、濾別、水洗、乾燥して粒子表面がチタンの含水酸化物で被覆されている球状黒色磁性酸化鉄粒子粉末を得た。
【0092】
上記粒子表面がチタンの含水酸化物で被覆されている球状黒色磁性酸化鉄粒子粉末10kgをNガス流下750℃で60分間加熱焼成した後、粉砕処理して、鉄系黒色粒子粉末を得た。
【0093】
得られた鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素に対するチタン元素の含有率Aは29.9原子%であり、鉄元素溶解率が1重量%時の鉄元素に対するチタン元素の含有率(B)は43.4原子%であり、B/Aは1.45であった。飽和磁化値σsは6.5Am/kgであり、着色力は39.4で、色相はL値が9.1、a値が2.8、b値が2.6であった。構成相はFeTiO−Fe固溶体とFe−γ‐Fe固溶体の混合物であった。
【0094】
実施例2、3
マグネタイトの種類、チタン化合物の添加量、加熱焼成処理の温度を種々変化させた以外は前記実施例1と同様にして鉄系黒色粒子粉末を得た。
【0095】
このときの製造条件を表1に、得られた非磁性黒色粒子粉末の諸特性を表2に示す。
【0096】
比較例1(特開2004−161608号公報の実施例1の追試実験)
球状マグネタイト粒子粉末(平均粒子径0.15μm、BET比表面積10.8m/g、FeO含有量25.6重量%)10kgを含有する水懸濁液に、硫酸チタニル38.9molを含有する水溶液(マグネタイト粒子粉末の全Feに対してTi換算で30原子%に相当する。)を添加する。尚、添加時に反応溶液のpHが低下しないように該混合液中にNaOHを添加した。次いで、混合溶液のpH値を8.0に調整してマグネタイト粒子の粒子表面にチタンの含水酸化物を沈着させた後、濾別、水洗、乾燥して粒子表面がチタンの含水酸化物で被覆されている球状黒色磁性酸化鉄粒子粉末を得た。
【0097】
上記粒子表面がチタンの含水酸化物で被覆されている球状黒色磁性酸化鉄粒子粉末10kgをNガス流下750℃で60分間加熱焼成した後、粉砕処理して、鉄系黒色粒子粉末を得た。
【0098】
得られた鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素に対するチタン元素の含有率Aは29.9原子%であり、鉄元素溶解率が1重量%時の鉄元素に対するチタン元素の含有率(B)は21.9原子%であり、B/Aは0.73であった。飽和磁化値σsは10.5Am/kgであり着色力は40.4で、色相はL値が9.7、a値が3.0、b値が3.1であった。構成相はFeTiO−Fe固溶体とFe−γ‐Fe固溶体の混合物であった。
【0099】
比較例2(特開平3−2276号公報の実施例1の追試実験)
粒状マグネタイト粒子粉末(平均粒子径0.2μm、磁化値85.0emu/g)100gをTiOSOを0.26mol含有する水溶液中(Ti/Fe=20.0原子%に相当する。)に分散混合し、次いで、該混合液中にNaOHを添加して中和し、pH8において粒子表面にTiの水酸化物を沈着させた後、濾別、乾燥した。得られた粒子表面がTiの水酸化物で被覆されている粒状マグネタイト粒子粉末のTi(IV)量は、ケイ光X線分析の結果、Fe(II)及びFe(III)に対し21.0原子%であった。
【0100】
上記粒子表面がTiの水酸化物で被覆されている粒状マグネタイト粒子粉末50gをNガス流下750℃で120分間加熱焼成した後、粉砕して黒色粒子粉末を得た。
【0101】
得られた黒色粒子粉末中の鉄元素に対するチタン元素の含有率Aは21.0原子%であり、鉄元素溶解率が1重量%時の鉄元素に対するチタン元素の含有率(B)は14.3原子%であり、B/Aは0.68であった。また飽和磁化値σsが0.6Am/kgであり、着色力は46.9で、色相はL値が24.5、a値が0.8、b値が0.6であった。構成相はFe−FeTiO固溶体とFeTiOとの混合物であった。
【0102】
比較例3(特開2002−129063号公報の実施例1の追試実験)
硫酸法により得られた比表面積260m/gの含水酸化チタンスラリーを酸化チタンとして150g/リットルに調整し、400g/リットルの苛性ソーダを用いてpHを9に中和する。2時間撹拌後、200g/リットルの塩酸によりpHを6に調整してろ過洗浄を行った。洗浄を行った含水酸化チタンをリパルプし酸化チタンとして100g/リットルに調整後、そのスラリーにFeとして100g/リットルの塩化第二鉄溶液を用い酸化チタン1重量部に対し1重量部添加した後、200g/リットルの苛性ソーダ溶液を滴下して、該スラリーのpHを7に調整して含水・酸化チタン表面に水酸化鉄を被覆した。
【0103】
1時間撹拌した後、ろ過、洗浄を行い、110℃で乾燥した。乾燥物を磁製ルツボに入れ、電気炉にて900℃で1時間焼成を行いFeTiO相を有する酸化チタンを合成した。冷却後、得られたFeTiO相を有する酸化チタンを水素ガスと炭酸ガスの混合ガスにより500℃で5時間還元を行って、黒色粉末を得た。
【0104】
得られた黒色粒子粉末中の鉄元素に対するチタン元素の含有率Aは98.7原子%であり、鉄元素溶解率が1重量%時の鉄元素に対するチタン元素の含有率(B)は39.8原子%であり、B/Aは0.40であった。また飽和磁化値σsが6.5Am/kgであり、着色力は51.2で、色相はL値が21.5、a値が0.8、b値が4.3であった。あった。構成相はFe−FeTiO固溶体とFeTiOとの混合物であった。
【0105】
このときの製造条件を表1に、得られた鉄系黒色粒子粉末の諸特性を表2に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
<黒色塗料の製造>
実施例4
140mlのガラスビンに、実施例1で得た鉄系黒色粒子粉末10gを用い、塗料組成を下記割合で配合して3mmφガラスビーズ90gとともにペイントシェーカーで90分間混合分散し、ミルベースを作製した。
【0109】
得られた塗料組成は、下記の通りであった。
鉄系黒色粒子粉末 12.2重量部、
アミノアルキッド樹脂 19.5重量部、
(アミラックNo.1026:関西ペイント株式会社製)
シンナー 7.3重量部。
【0110】
上記ミルベースを用いて、塗料組成を下記割合で配合してペイントシェーカーでさらに15分間混合分散して、鉄系黒色粒子粉末を含む塗料を得た。
【0111】
得られた塗料組成は、下記の通りであった。
ミルベース 39.0重量部、
アミノアルキッド樹脂 61.0重量部。
(アミラックNo.1026:関西ペイント株式会社製)
【0112】
次に、得られた塗料を冷間圧延鋼板(0.8mm×70mm×150mm:JIS G−3141)に150μmの厚みて塗布、乾燥した。
【0113】
製造した塗膜は、光沢度が95%、色相は、L値が9.0、a値が2.8、b値が2.7であり、塗膜の耐酸性テストに基づく光沢度変化ΔG値が2%、明度変化ΔL値が0.3であった。
【0114】
実施例5及び6、比較例4〜6
鉄系黒色粒子粉末の種類を種々変化させた以外は、前記実施例4と同様にして黒色塗料を得た。
【0115】
このときの処理条件及び得られた黒色塗料の諸特性を表3に示す。
【0116】
【表3】

【0117】
<樹脂組成物の製造>
実施例6
実施例1で得た鉄系黒色粒子粉末1.5gとポリ塩化ビニル樹脂粉末103EP8D(日本ゼオン株式会社製)48.5gとを秤量し、これらを100ccポリビーカーに入れ、スパチュラでよく混合して混合粉末を得た。
【0118】
得られた混合粉末にステアリン酸カルシウムを0.5gを加えて混合し、160℃に加熱した熱間ロールのクリアランスを0.2mmに設定し、上記混合粉末を少しずつロールに練り込んで樹脂組成物が一体となるまで混練を続けた後、樹脂組成物をロールから剥離して着色樹脂プレート原料をとして用いた。
【0119】
次に、表面研磨されたステンレス板の間に上記樹脂組成物を挟んで180℃に加熱したホットプレス内に入れ、1トン/cmの圧力で加圧成形して厚さ1mmの着色樹脂プレートを得た。
【0120】
得られた着色樹脂プレートの分散状態は5であった。
【0121】
実施例7及び8、比較例6〜8
鉄系黒色粒子粉末の種類を種々変化させた以外は、前記実施例6と同様にして樹脂組成物を得た。
【0122】
このときの処理条件及び得られた樹脂組成物の諸特性を表4に示す。
【0123】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明に係る鉄系黒色粒子粉末は、分散性、耐酸性、着色力及び黒色度に優れると共に、可及的に磁化値が低いので、黒色を呈する顔料及び塗料、樹脂組成物の着色用材料、充填材等として好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄チタン複合酸化物粒子粉末からなる鉄系黒色粒子粉末であって、鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素に対するチタン元素の含有率Aが5〜35原子%であり、鉄系黒色粒子粉末の鉄元素溶解率が1重量%までに存在するチタン元素の含有率B(同範囲に存在する鉄元素を基準とする)と前記チタン元素の含有率Aとの比(B/A)が1.0以上であることを特徴とする鉄系黒色粒子粉末。
【請求項2】
鉄チタン複合酸化物粒子粉末からなる鉄系黒色粒子粉末であって、鉄系黒色粒子粉末中の鉄元素に対するチタン元素の含有率Aが5〜35原子%であり、鉄系黒色粒子粉末の鉄元素溶解率が1重量%までに存在するチタン元素の含有率B(同範囲に存在する鉄元素を基準とする)と前記チタン元素の含有率Aとの比(B/A)が1.2以上であることを特徴とする鉄系黒色粒子粉末。
【請求項3】
鉄チタン複合酸化物粒子粉末の構成相に、少なくともFeTiO−Fe固溶体を有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の鉄系黒色粒子粉末。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の鉄系黒色粒子粉末を塗料構成基材中に配合したことを特徴とする黒色塗料。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の鉄系黒色粒子粉末をゴム・樹脂組成物構成基材中に配合したことを特徴とするゴム・樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−328092(P2006−328092A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148840(P2005−148840)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】