説明

鉄補給組成物の製造方法

【課題】吸収性が良くしかも副作用の少ない鉄補給組成物の製造方法を得ることを目的とする。
【解決手段】微細化した鉄原料に所定量の浄化水を加えて蒸煮殺菌し、つぎにこれに麹菌と糖質を加えて一次醗酵させたのち、麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌を単独でまたはこれらの2種以上の混合物と糖質を加えて二次醗酵させ、さらにこの醗酵鉄原料にクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸から選ばれるカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を混合して35℃〜45℃の温度に保持して熟成し、さらにこれを濾過抽出することを特徴とする。得られた鉄補給組成物は、副作用の少ない有機酸と鉄が解離している電解質として構成されているので吸収性が良く、貧血などの状態を従来のサプリメントを使用したときよりも改善することができる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄補給組成物の製造方法に関するものであり、一層詳細には、吸収性が良くしかも副作用の少ない鉄補給組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄Feは成人の体内に2g〜4g含まれており、主に血液中の赤血球のヘモグロビン、筋肉のミオグロビン及び肝臓のフェリチンなどに蓄えられ、一部は全身の細胞に広く分布している微量金属元素である。
通常、鉄は食物の形態として摂取されたのち、消化管内でFe2+やFe3+のイオンとして遊出し、一部はフェリチンおよびFe3+として血漿中に存在するが大部分はヘモグロビンの形成にあずかることが知られている。
【0003】
ヘモグロビンの鉄は酸素を運搬し、ミオグロビンの鉄は血中の酸素を細胞に取り入れる。そして各細胞の鉄は、酸素の活性化や栄養素の燃焼など体内の酸化還元反応に極めて重要な役割を果たしている。
【0004】
このように鉄は生体上必要不可欠な金属であるが、消化管障害、代謝性疾病の罹患、月経などによる鉄欠乏性貧血は頻繁に発生しており、これらへの対処として、無機の鉄化合物あるいは有機の鉄化合物を有効成分とする鉄製剤(鉄補給組成物)が、注射、経口投与などにより利用されている。
【0005】
これらのうち、無機の鉄製剤は、胃内で速やかにイオン化するため、胸焼け・嘔吐などのほか胃粘膜びらん・潰瘍等の消化管障害を惹起し、特に感受性の高い幼児においては中毒を引き起こすことが報告されている。
また、有機の鉄製剤は、無機の鉄製剤に見られるような副作用は低減しているものの、高用量を摂取しないと目的とする鉄補給効果が得られないことやコスト高につながることもあり、いずれの鉄製剤にも課題があるのが実情である。
【0006】
一方、多孔性基材の隙間に硫酸第一鉄などの無機鉄を配合するとともにこれをコーティングして無機鉄が徐々に放出されるようにして副作用を軽減するようにした徐放性の鉄製剤も開発されている。
しかしながら、このような鉄製剤は徐放性の付与に伴って溶解性が低下するため、所望の鉄補給効果を得るには高用量を摂取することになり、また食品に添加すると容易にイオン化して、無機の鉄製剤と同様の副作用を引き起こすことがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような事情から、鉄を効果的に生体に補給でき副作用も伴わない鉄製剤(鉄補給組成物)の開発が期待されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明ではこの課題を解決するため、わが国で古くから行われている発酵技術に着目し、原料として適宜の手段で微細化した鉄を醗酵させ、ついでこれに有機酸を混合して熟成することにより、有機酸と鉄が解離している電解質状態の鉄補給組成物として構成するものである。
【0009】
具体的には、微細化した鉄原料に所定量の浄化水を加えて蒸煮殺菌し、つぎにこれに麹菌と糖質を加えて一次醗酵させたのち、麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌を単独でまたはこれらの2種以上の混合物と糖質を加えて二次醗酵させ、さらにこの醗酵鉄原料にクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸から選ばれるカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を混合して35℃〜45℃の温度に保持して熟成し、さらにこれを濾過抽出することを特徴とするものである。
【0010】
この場合、醗酵鉄原料を熟成する際に、醗酵鉄原料に対して1重量%〜8重量%のL−アスコルビン酸(ビタミンC)を加えるのが好ましい。
【0011】
また、この熟成に際しては、遠赤外線照射およびエレクトロン供給雰囲気において醗酵鉄原料を流動させながら行うのが好適である。
【0012】
さらに、本発明は上記製造方法により得られた鉄補給組成物も包含するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る鉄補給組成物の製造方法によれば;
(1)微細化した鉄原料と浄化水に麹菌と糖質を加えて一次醗酵させたのち、麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌を単独でまたはこれらの2種以上の混合物と糖質を加えて二次醗酵させ、さらにこの醗酵鉄原料にクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸から選ばれるカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を混合して35℃〜45℃の温度に保持して熟成し、さらにこれを濾過抽出することにより有機酸と鉄が解離している電解質の状態として構成するので吸収性が良く副作用の伴なわない鉄補給組成物を得ることができる。
(2)醗酵鉄原料に有機酸を加えて熟成する際、鉄の吸収促進物質として知られるビタミンC(L−アスコルビン酸)を加えるので、吸収性をさらに向上することができる。
(3)得られた鉄補給組成物は有機酸鉄となっているので胃液(HCl)の影響を受けることなく吸収されるため副作用は殆ど起こらず、吸収性も良いことから、従来のサプリメント(ヘム鉄)よりも貧血などの状態を改善できき、また、食品加工の分野においても品質維持や風味の改善を図ることができ、さらには、家畜や愛玩動物の飼料添加材、鉄欠乏性疾患の予防または治療用などにも供することができる、
など種々の効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明に係る鉄補給組成物の製造方法における最良の実施の形態を例示し、以下詳細に説明する。
図1において、本発明に係る鉄補給組成物の製造方法においては、まず、従来公知の手段により微細化した原料鉄粉10を用意し、この原料鉄粉10の重量に対して8倍量〜15倍量の水、好ましくは、上水から塩素などの不純物を除去した精製水12を混合して10分程度煮沸したのち、35℃〜40℃まで冷却する。
次に煮沸処理した原料鉄粉10と精製水12の混合物14に対して10重量%〜30重量%の麹菌16と、この麹菌16と略同量の糖質18を加え加熱ヒータなどで35℃〜40℃で10日ほど保持することにより一次醗酵させる。
この場合、麹菌の添加量が10重量%未満であると充分な醗酵が行われず、また30重量%を超えると量が多すぎて経済性が低下することになる。
【0015】
得られた一次醗酵鉄原料20には、糖質18を10重量%程度補填するとともに10重量%〜20重量%の麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌を単独でまたはこれらの2種以上の混合物22を加え、再び35℃〜40℃で10日ほど保持することにより二次醗酵させる。
なお、一次醗酵鉄原料20に加える麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌あるいはこれらの混合物22が10重量%未満であると醗酵が充分行われず、また20重量%を超えると量が多すぎて経済性が低下してしまう。
【0016】
このようにして得られた二次醗酵物24には、10重量%〜40重量%のクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸などから選ばれるカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上を混合した有機酸26を加えるとともに加熱ヒータなどで35℃〜40℃に保持することにより熟成する。
この場合、クエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸などのカルボキシル基を有する有機酸あるいは混合有機酸26が10重量%未満であると二次醗酵物22の熟成に時間がかかり、また40重量%を超えると有機酸分が多くなりすぎて酸味が強くなってしまう。
【0017】
なお、二次醗酵物24の熟成時に、この二次醗酵物24の重量に対して1重量%〜8重量%、好ましくは、5重量%程度のL−アスコルビン酸28を混合する。このようにL−アスコルビン酸26を加えることにより、鉄の吸収性をより高めることができるものである。
【0018】
このように35℃〜40℃に保持された二次醗酵物24とL−アスコルビン酸28との混合醗酵物30は、好ましくは、遠赤外線照射下および静電磁場、エレクトロン(−e)供給雰囲気においてゆっくり撹拌しながら流動させることによりさらに10日ほど熟成し、原料鉄10の液化(イオン化)を促進して有機酸中に解離させる。
【0019】
そして、混合醗酵物30中の鉄成分が充分に解離したら、2〜3週間程静置したのち紫外線などにより殺菌し、鉄補給組成物32として濾過抽出する。
この抽出によって得られた鉄補給液状組成物32は、金釘臭ともいわれる独特の鉄臭さや収斂味がほとんどなく、100m中に約2.5%(2454mg)の鉄Feを含有していた。
【0020】
実験例
次に、上述の方法により得られた鉄補給組成物32と、非ヘム鉄に比べるとはるかに吸収性の良いヘム鉄を使用したサプリメント鉄剤A(A社製)の吸収性を比較した。
【0021】
具体的には、試料としてのラット(Wister系、8週齢、250g)の頚動脈にカテーテルを挿入して血中クリアランス用のモデルラットを作成した。そしてこれらモデルラットに鉄補給組成物32とサプリメント鉄剤Aをそれぞれ経口投与(3.75mg/250g)し、経時的に採血して血清を分離し、その血清鉄量(Nitroso−PSAP直接法)と血清ヘモグロビン量(SLS−ヘモグロビン法)を測定したのち、トータル鉄から血清ヘモグロビン鉄量を差し引いて血清鉄量(血中鉄量)を計算した。なお、この血清鉄量は、血清の濃度変化を考慮して血清ヘモグロビン量により補正をかけて一定の濃度(初期値)を基準として算出した。また、血清鉄量の測定は、経口投与前(0時間)、経口投与後0.5時間、1時間、2時間、3時間、5時間、8時間まで行い、表1の結果を得た。
【0022】

【0023】
この結果、表1および図2からも明らかなように、血中鉄量は鉄補給組成物32およびサプリメント鉄剤Aのいずれも経口投与後0.5時間で最大となり、鉄補給組成物32の鉄量はサプリメント鉄剤Aの約3倍近くであった。また、サプリメント鉄剤Aの血中鉄量は1時間30分前後にはほぼ通常値に戻ったのに対し、鉄補給組成物32は5時間程度経過してから通常値に戻り、その吸収時間はサプリメント鉄剤Aの4.2倍も長かった。
【0024】
これは、イオン化された鉄は十二指腸や小腸上部で吸収されるためそこでの吸収が良く、鉄補給組成物32は時間経過から推測すると小腸中部から下部にかけても鉄イオンを吸収していることがうかがえる。また、血中鉄量を高濃度に保持していた鉄補給組成物30は、非ヘム鉄といっても有機酸と鉄が解離している電解質の状態のため吸収性が良いからである。
【0025】
なお、鉄補給組成物32は、血中鉄量が最大となった0.5時間から30分経後に一度下がり、1時間の間その量を略保持して2時間後からまた低下しているが、これは小腸の上・中・下における吸収の継続なのか、血中の鉄イオンがトランスフェリンやミオゴロビンなどに吸収され貯蔵に回ったものなのか、あるいは、肝臓・脾臓などの貯蔵に回っているものなのか明確ではないが、一般的に吸収性の良好なヘム鉄を使用したサプリメント鉄剤Aに比べ、鉄補給組成物32の吸収性の良さとその持続性に際立った優位性が認められる。従って、従来のサプリメントを使用するよりも少量で負荷もかからずに貧血などの状態をより改善できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
先に述べたように本発明方法により得られる鉄補給組成物は、副作用の少ない有機酸と鉄が解離している電解質として構成されているので貧血などの状態を従来のサプリメントを使用したときよりも改善できるだけでなく、食品加工の分野においても0.1%程度の微量を添加して処理することにより対象とする食品の品質維持や風味の改善を図ることができ、また、家畜や愛玩動物の飼料添加材、鉄欠乏性疾患の予防または治療用など種々の分野、用途に供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る鉄補給組成物の製造方法の好適な実施の形態を示す概略工程説明図である。
【図2】図1に示す方法によって得られた鉄補給組成物と市販のサプリメント鉄剤をラットに経口投与したときの血中鉄量の変化を示す表1の特性曲線図である。
【符号の説明】
【0028】
10…原料鉄粉、
12…精製水、
14…原料鉄粉と精製水の混合物、
16…麹菌、
18…糖質、
20…一次醗酵鉄原料、
22…麹菌または麹菌などの混合物、
24…二次醗酵物、
26…有機酸あるいは混合有機酸、
28…L−アスコルビン酸、
30…混合醗酵物、
32…鉄補給組成物、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細化した鉄原料に所定量の浄化水を加えて蒸煮殺菌し、つぎにこれに麹菌と糖質を加えて一次醗酵させたのち、麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌を単独でまたはこれらの2種以上の混合物と糖質を加えて二次醗酵させ、さらにこの醗酵鉄原料にクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸から選ばれるカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を混合して35℃〜45℃の温度に保持して熟成し、さらにこれを濾過抽出することを特徴と鉄補給組成物の製造方法。
【請求項2】
醗酵鉄原料を熟成する際に、この醗酵鉄原料に対して1重量%〜8重量%のL−アスコルビン酸を加えることからなる請求項1に記載の鉄補給組成物の製造方法。
【請求項3】
醗酵鉄原料の熟成は、遠赤外線照射およびエレクトロン供給雰囲気において流動させながら行うことからなる請求項1または2に記載の鉄補給組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られた鉄補給組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−209324(P2007−209324A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64834(P2006−64834)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年12月15日 株式会社光琳発行の「食の科学通巻335」に発表
【出願人】(591135200)
【出願人】(501110134)株式会社関門海 (14)
【出願人】(502218455)
【Fターム(参考)】