説明

鉄道の運転制御装置およびその方法

【課題】鉄道車両を転覆脱線させるような突風を予測し、鉄道車両の脱線転覆事故を防止する運転制御装置を提供する。
【解決手段】鉄道車両に搭載された大気圧計2と、前記鉄道車両の位置を示す線路キロ程を検知する位置検知装置3と、線路キロ程ごとの線路構造物形状を記憶した線路構造物検知手段4とを備え、前記大気圧計2が測定した大気圧が所与の条件で変化し、かつ、前記位置検知装置3が検知した線路キロ程に基づいて線路構造物検知手段4の検知した前記線路構造物形状が突風の生じたとき前記鉄道車両が転覆脱線する危険が高いものである場合に、前記鉄道車両のブレーキを動作させ前記鉄道車両の速度を所与の速度以下にする鉄道の運転制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、突風を効果的に予測し、鉄道車両が突風によって転覆脱線するのを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が側方から強風を受けると、車体に風圧による抗力(横力)が生じる。風速が大きい場合、車両を転覆させようとする横力が大きくなり、ある限界風速以上の風速が吹いた場合、車両は転覆・脱線する。
【0003】
先ず図1を使って、従来行われている強風時における鉄道の運転規制方法について説明する。
列車1は、1両または2両以上の車両11によって構成される。列車は線路94上を走行する。
線路94は、河川や山岳といった地形を通るように敷設されている。これらの地形を通るために、橋りょう93、築堤95、トンネル96といった線路構造物を建設する。また図示しないが、線路94を周囲の標高よりも高いところに敷設しなければならない場合には、高架橋を敷設する場合もある。
【0004】
ところで、河川の表面は空気との摩擦が小さいため、陸上に比べて風速が大きくなりやすい。さらに、地表面から離れるほど(高くなるほど)風速は大きくなる傾向がある。従って、河川上数〜数十mをわたる橋梁93は、風速の大きくなりやすい箇所ということができる。
また、風が築堤95を横切るように吹いた場合、上流側の地表面付近の空気が集められるため、築堤95上は周辺の地表面に比べて風速が大きくなる傾向がある。
また、高架橋を横切るように風が吹く場合にも、高架橋自体が風の流れを乱すため、高架橋上では風速が大きくなりやすいことが分かっている。
【0005】
上述のように、線路94沿線の線路構造物には風速が大きくなりやすい、つまり強風の吹きやすい箇所がある。これらの箇所で発生する強風を監視するために、風速計または風向風速計が設置される。風の状況(風況)が所定の条件を満たした場合、例えば最大瞬間風速が予め定められたしきい値を超えた場合には、列車の運転を制限する運転規制が発令される。一般に運転規制には、列車を所定の速度以下で運転する速度規制と、列車の運転を完全に取りやめる運転抑止とがある。運転規制が発令された場合、信号機92の現示によって列車の運転士にその旨が知らされる。運転士が信号機の現示を確認しブレーキを扱い、または信号機の現示と列車のブレーキが自動的に連動し、列車の速度を下げることで、安全を確保している。
【0006】
風速計または風向風速計による強風時における鉄道の運転規制では、風速計または風向風速計の設置間隔より小さいスケールで生ずる大気現象を捉えることができない。つまり、鉄道沿線の風速計または風向風速計は数km〜十数kmおきに設置されているため水平スケールが10km程度かそれ以下の大気現象に伴って生じる強風を監視するのは困難である。
ところで、近年竜巻やダウンバーストといったシビアな大気現象に伴って生じる突風(突然生じる強風)によって災害の発生することが、多く報告されている。竜巻やダウンバーストといった大気現象は、発達した積乱雲に伴って発生することのある大気現象である。一般に竜巻やダウンバーストといった大気現象は数百m〜数km程度の水平スケールを持ち、十数分〜1時間程度の寿命であることが知られている。竜巻やダウンバーストによってもたらされる突風は、しばしば建物を破壊したり、鉄道車両を転覆脱線させたりすることが知られている。
【0007】
このような、水平スケールの小さな大気現象を監視するために、気象用レーダーの一種であるドップラーレーダーを用いることが提案されている(特許文献1)。ドップラーレーダーとは、大気中の降水粒子にパルス状の電波を射出し、その反射波のドップラーシフト(射出波と反射波との周波数のずれ)から、その降水粒子がドップラーレーダーに対して近づいているのか遠ざかっているのかを探知する装置である。ドップラーレーダーは水平方向に回転しながら360度全方位に電波を射出し、ドップラーレーダー周辺数十〜数百kmの円形の範囲を観測することができる。このように観測することで、ドップラーレーダー周辺数十〜数百kmの円形の範囲内の風向風速分布を推定することができる。
従来の気象観測の結果、竜巻やダウンバーストをもたらすような積乱雲内での風況が知られている。また、竜巻は渦を伴うことから、ドップラーレーダーによる風況観測で渦が検出されれば、竜巻の発生を予測することができる。
【0008】
しかし、ドップラーレーダーは高価な装置であるため、竜巻やダウンバーストを監視する目的鉄道沿線の全てを網羅するようにドップラーレーダーを敷設することは現実的に困難である。また、大気中に降水粒子が存在しなければ風況の観測ができないことから、鉄道が走行する地表面付近の風況を把握するには問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−249550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、鉄道車両を転覆脱線させるような突風を予測し、鉄道車両の脱線転覆事故を防止する運転制御装置およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本願に係る第1の発明は、列車1を構成する鉄道車両11に搭載された大気圧を測定する大気圧計2と、前記鉄道車両11の位置を示す線路キロ程を検知する位置検知装置3と、線路キロ程ごとの線路構造物形状を記憶した線路構造物検知手段4と、を備えた鉄道の運転制御装置8であって、前記大気圧計2が測定した大気圧が所与の条件で変化し、かつ、前記位置検知装置3が検知した線路キロ程に基づいて線路構造物検知手段4の検知した前記線路構造物形状が突風の生じたとき前記鉄道車両11が転覆脱線する危険が高いものである場合に、前記鉄道車両11のブレーキを動作させ前記鉄道車両11の速度を所与の速度以下にすること、を特徴とする。
【0012】
また、本願に係る第2の発明は、前記第1の発明において、さらに風向風速計5を備えており、前記風向風速計5の観測した風向風速が予め設定された風向・風速の関係の満たしている場合に、前記鉄道車両11のブレーキを動作させ前記鉄道車両11の速度を所与の速度以下にすること、を特徴とする。
【0013】
また、本願に係る第3の発明は、前記第1または第2の発明であって、さらに発令されている運転規制を判定する運転規制判定手段7を備えており、前記運転規制判定手段7が、線路沿線で観測された風速に基づき運転規制が発令されていると判定した場合に、前記鉄道車両1のブレーキを動作させ前記鉄道車両11の速度を所与の速度以下にすること、を特徴とする。
【0014】
また、前記所与の条件とは、大気圧の1秒あたり0.05hPa以上の変化であること、を特徴とする。
【0015】
また、前記位置検知装置3はGPS信号に基づいて位置検知すること、あるいは自動列車停止装置(ATS)地上子の信号に基づいて位置検知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本願発明によれば、鉄道車両を転覆脱線させるような突風を事前にかつ的確に予測することができ、鉄道車両の脱線転覆事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の鉄道における強風時の運転規制を説明する図である。
【図2】本願発明に係る運転制御装置の第1の実施形態の構成を示す図である。
【図3】本願発明に係る運転制御装置の第2の実施形態の構成を示す図である。
【図4】本願発明に係る運転制御装置の第3の実施形態の構成を示す図である。
【図5】本願発明に係る運転制御装置の第4の実施形態の構成を示す図である。
【図6】本願発明の動作を表すフローチャートを示す図である。
【図7】本願発明の動作を表すフローチャートの一部を示す図である。
【図8】本願発明の動作を示すフローチャートの一部を示す図である。
【図9】突風の発生したときの風向、風速、地上気圧の時系列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、符号を付して本願発明を説明する。ただし、符号は参照のためであり、本願発明を実施形態に限定するものでない。
【0019】
[第1の実施形態]
本願発明に係る第1の実施形態について図2を使って説明する。運転制御装置8は、列車に搭載される、本願に係る運転制御装置である。
【0020】
大気圧計2は、大気圧を測定する装置である。大気圧計2は大気圧センサー21と大気圧検出部22とから構成される。
【0021】
位置検知装置3は、列車の位置を検知する装置である。本実施形態においては、位置検知装置3はGPS受信器31と線路キロ程検出部32とから構成される。ここで、線路キロ程とは、鉄道線路上の位置を表すのに用いられるもので、「AB線12km345m」の要領で線名と起点からの距離とで表される。GPS衛星からの信号によって列車位置が緯度・経度で検出し、該緯度・経度を地図上で照合すれば線路キロ程を検出することができる。
【0022】
線路構造物検知手段4は、線路構造物を検知する装置である。線路構造物記憶装置41は、線路キロ程ごとの線路構造物情報を記憶している。線路構造物情報には、構造物の位置(線路キロ程および緯度・経度)、構造物の種類(橋りょう、築堤、高架橋、トンネル、平地、駅、踏切など)、構造物の形状(橋りょうであれば形式、延長および大きさ、築堤であれば延長および高さ、高架橋であれば高さ、延長および桁の大きさなど)といった諸元が含まれる。
【0023】
線路構造物検知部42は、位置検知装置3から送られた情報に基づいて、線路構造物記憶装置41から線路構造物情報を読み出す。
【0024】
風向風速計5は、列車周辺の風向と風速を検知する装置である。風向風速検知計5は風向風速センサー51と風向風速検知部52とから構成される。風向風速センサー51は、列車を構成する鉄道車両のうち少なくとも1両に配設され、列車に相対的な風向風速を検知する。具体的には風向風速に応じた信号を風向風速検知部に出力する。風向風速検知部52は、風向風速センサー51から得られた風向風速の値をAD変換して出力する。風向風速センサーは、プロペラ式、三杯式など種々のセンサーが使用可能であるが、超音波風速計であることが望ましい。
【0025】
速度検知部61は、車輪の回転あるいは電動機に供給する電流・電圧から、列車の速度を検知する。加速度検知部62は、速度検知部61が検知した列車速度に基づいて、列車の加速度を検知する。
【0026】
制御部81は、大気圧計2、位置検知装置3、線路構造物検知手段4、風向風速計5、速度検知部61および加速度検知部62の出力を元に、突風の発生を予測する。列車を転覆脱線させるような大きさの突風の発生が予測された場合には、ブレーキを動作させ、所定の速度にまで列車の速度を減ずる。
【0027】
[第2の実施形態]
本願発明に係る第2の実施形態について図3を使って説明する。運転制御装置8は、列車に搭載される、本願に係る運転制御装置である。
【0028】
大気圧計2、線路構造物検知手段4、風向風速計5については前記第1の実施形態と同じ構成であるので、ここでは説明を省略する。
【0029】
位置検知装置3は、列車の位置を検知する装置である。本実施形態においては、位置検知装置3はATS受信器33と線路キロ程検出部32とから構成される。ATSとは、Auto Train Stopの略で自動列車停止装置を表す。適当な間隔でATS地上子43が線路上に設置されている。ATS地上子43は列車に搭載されたATS受信器33へ、線路キロ程と制限速度の情報を送信する。ATS受信器33は、ATS地上子43から送信された情報を受信する。線路キロ程検出部32には、ATS受信器33が受信したATS地上子43の線路キロ程、受信した時刻、および速度検知部61から列車速度の情報が入力される。線路キロ程検出部32は、列車速度を時間積分し、ATS地上子の線路キロ程に積算することで、列車の現在の線路キロ程を計算する。
【0030】
速度検知部61は、車輪の回転あるいは電動機に供給する電流・電圧から、列車の速度を検知する。加速度検知部62は、速度検知部61が検知した列車速度に基づいて、列車の加速度を検知する。
【0031】
制御部81は、大気圧計2、位置検知装置3、線路構造物検知手段4、風向風速計5、速度検知部61および加速度検知部62の出力を元に、突風の発生を予測する。列車を転覆脱線させるような大きさの突風の発生が予測された場合には、ブレーキを動作させ、所定の速度にまで列車の速度を減ずる。
【0032】
[第3の実施形態]
本願発明に係る第3の実施形態について図4を使って説明する。運転制御装置8は、列車に搭載される、本願に係る運転制御装置である。
【0033】
大気圧計2、線路構造物検知手段4については前記第1の実施形態と同じ構成であるので、ここでは説明を省略する。
【0034】
位置検知装置3は、列車の位置を検知する装置である。本実施形態においては、第1の実施形態と同じGPSを用いる構成にしたので説明を省略する。位置検知装置3は、第2の実施形態と同じATSを用いる構成としてもよい。
【0035】
運転規制判定手段7は、列車の走行している区間で発令されている、運転規制を検知する装置である。運転規制判定手段7は、運転規制情報受信器71と運転規制種別検知部72とから構成される。
運転規制は、線路沿線に設置されている沿線風向風速計91で観測された風向風速が予め定められたしきい値を超えた場合に、施設指令97から発せられる。運転規制が発せられた場合には、列車の運転が制限される。運転規制が発令された場合、信号機の現示によって列車の運転士にその旨が知らされる。運転規制情報受信器71は施設指令から運転規制が発せられた旨の信号を受信する装置である。運転規制種別検知装置72は、発せられた運転規制が徐行規制なのか運転抑止なのかを検知する装置である。運転規制種別検知装置72は、検知した運転規制の種別を制御装置8に出力する。
【0036】
速度検知部61は、車輪の回転あるいは電動機に供給する電流・電圧から、列車の速度を検知する。加速度検知部62は、速度検知部61が検知した列車速度に基づいて、列車の加速度を検知する。
【0037】
制御部81は、大気圧計2、位置検知装置3、線路構造物検知手段4、運転規制判定手段7、速度検知部61および加速度検知部62の出力を元に、突風の発生を予測する。列車を転覆脱線させるような大きさの突風の発生が予測された場合には、ブレーキを動作させ、所定の速度にまで列車の速度を減ずる。
【0038】
[第4の実施形態]
本願発明に係る第4の実施形態について図5を使って説明する。運転制御装置8は、列車に搭載される、本願に係る運転制御装置である。
【0039】
第4の実施形態は、前記第1から第3の実施形態で示した、大気圧計2、線路構造物検知手段4、風向風速計5、運転規制判定手段7、速度検知部61および加速度検知部62の全てを搭載した実施形態である。
【0040】
位置検知装置3は、列車の位置を検知する装置である。本実施形態においては、第1の実施形態と同じGPSを用いる構成にしたが、第2の実施形態と同じATSを用いる構成としてもよい。
【0041】
制御部81は、大気圧計2、位置検知装置3、線路構造物検知手段4、風向風速計5、運転規制判定手段7、速度検知部61および加速度検知部62の出力を元に、突風の発生を予測する。列車を転覆脱線させるような大きさの突風の発生が予測された場合には、ブレーキを動作させ、所定の速度にまで列車の速度を減ずる。
【0042】
[本願発明の動作1]
本願発明に係る運転制御装置の動作について、フローチャートを使って説明する。
【0043】
図6は、本願発明に係る動作を説明するフローチャートである。
制御がスタートすると、先ず大気圧計2が大気圧を測定する(S1)。大気圧は所定の時間間隔(例えば1秒)で測定する。最新の大気圧の測定値と直前の大気圧の測定値との差から大気圧の変化を計算する。大気圧が所与の条件で変化したと判定された場合(S2)、列車を転覆脱線させるような突風が発生しやすい気象条件である可能性があると判断する。
【0044】
ここで、所与の条件は、大気圧が1秒あたりあるしきい値以上の変化であることとすることができる。
【0045】
図9には、定点での気象観測により、列車を転覆脱線させる可能性のある突風を観測した時の、風向、風速、地上気圧の時間変化を示す。初めのうち風速は弱かったが、8:42に突然風速が急上昇し数十秒間継続したことが観測された。この風速の急上昇が突風である。風速の急上昇に伴って、風向が90度程度急変したことが観測されている。また、風速の急上昇に伴って地上気圧が急激に降下し、風速の急降下に伴って地上気圧が急激に上昇したことが観測された。これらの気象要素の時間変化を見ると、風速の急上昇に先立って地上気圧が降下し始めていることが分かる。すなわち、大気圧がある割合より大きく変化することは、突風の前兆現象の一つであることが分かる。
ここで、図9の地上気圧の降下の傾きから、前記しきい値を0.05hPaとすることができる。この場合、所与の条件は、大気圧の1秒あたり0.05hPa以上の減少、となる。
【0046】
次に、列車速度(S3)と列車の加速度(S4)を検知する。列車の加速度は列車速度の時間変化から検知可能である。列車が急激に加速したり減速したりした場合には、大気圧計2の測定値に影響を与えるおそれがある。よって、大気圧が所与の条件で変化したとしても、その変化の原因が急加速あるいは急減速だったとしたら、その変化は突風の前兆現象ではないとすることができる。反対に、急加速あるいは急減速をしていないにも関わらず、大気圧が所与の条件で変化した場合には、その変化は突風の前兆現象である可能性がある。これを判定するのが、S5のステップである。
大気圧の変化の原因が急加速あるいは急減速であった場合には、処理は大気圧測定(S1)に戻る。反対に、大気圧の変化の原因が急加速あるいは急減速でない場合には、次の処理に移る。
【0047】
位置検知装置3が検知した線路キロ程に基づいて、線路構造物検知手段4が線路構造物を検知する(S6)。線路構造物がトンネルであった場合、大気圧の変化は突風の前兆現象ではなく、トンネルへの進入あるいは退出による大気圧の変化であったと考えられる。この場合には、転覆脱線の可能性は低いと判断し(S7でNo)、大気圧測定のステップに戻る。一方、線路構造物が平地、橋りょう、築堤上、高架橋など屋外であって、かつ突風が生じたら列車1が転覆脱線する可能性が高いものであった場合、大気圧の変化は突風の前兆現象である可能性が高く、数秒後に列車が突風に遭遇する危険性があると判断する(S7でYes)。この場合、ただちにブレーキを動作させ((1)と(2)を接続、S8)、速度検知部61が検知した列車速度(S12)が所定の速度以下になるまで、ブレーキを動作させる(S9)。
ここで、線路構造物に防風壁が設置されている箇所であった場合には、突風が生じても列車が転覆脱線する可能性が低いとして、大気圧測定(S1)に戻るようにする(S7)こともできる。
【0048】
[本願発明の動作2]
図7は、前記第1の実施形態あるいは前記第2の実施形態のように、列車に風向風速計5が配設されている場合の動作を示すフローチャートの一部である。
【0049】
この例では、図6で示したフローチャートの(1)と図7のフローチャートの(4)を、図6の(2)と図7の(5)を、図6の(3)と図7の(6)を、それぞれ接続する。すなわち、線路構造物を検知した結果から、屋外でかつ突風が生じた場合列車が転覆脱線する可能性が高いものである場合(S7でYes)には、列車に配設された風向風速計5で風向風速を測定する(S21)。風向風速計5が測定した風向風速は、列車1の気流に対する相対的な風向風速である。従って、測定した風向風速から列車速度(S24)を減じて(S22)、列車1が走行している地点の風向風速とする。
【0050】
ところで、列車1を転覆脱線させるような突風の原因となる、竜巻や突風は積乱雲に伴って発生する。積乱雲が発生するような気象条件の場合、ある程度風速が大きくなる。
従って、列車が走行している地点の風速が十分に小さい場合(例えば10m/s未満)には、大気圧の変化は突風の前兆現象ではなく別の原因であった可能性が高いと判断し(S23でNo)、大気圧測定のステップ(S1)へ戻る。一方、列車が走行している地点の風速が大きい場合(例えば10m/s以上)には、積乱雲の発生など、突風の原因となる大気現象の生じやすい気象条件である可能性があると判断し(S23でYes)、ブレーキを動作させるステップ(S8)に移る。
【0051】
以降は、前記第1の実施形態のS8、S9、S12と同じ動作であるため、説明は省略する。
【0052】
[本願発明の動作3]
図8は、前記第3の実施形態のように、列車に運転規制判定手段7が配設されている場合の動作を示すフローチャートの一部である。
【0053】
この例では、図6で示したフローチャートの(1)と図8のフローチャートの(7)を、図6の(2)と図8の(8)を、図6の(3)と図8の(9)を、それぞれ接続する。すなわち、線路構造物の検知結果から、屋外でかつ突風が生じた場合列車が転覆脱線する可能性が高いものである場合(S7でYes)には、列車に配設された運転規制判定手段7で運転規制発令の有無を検知(S32)する。運転規制が発令されていない場合には(S31でNo)、突風の生じる可能性は低いと判断して、大気圧を測定するステップ(S1)に戻る。一方、運転規制が発令されている場合には(S31でYes)、突風の生じる可能性が高いと判断し、ブレーキを動作させるステップ(S8)に移る。
【0054】
以降は、前記第1の実施形態のS8、S9、S12と同じ動作であるため、説明は省略する。
【0055】
[本願発明の動作4]
第4の実施形態のように、列車に風向風速計5および運転規制判定手段7が配設されている場合、図6、図7および図8を接続したフローチャートで動作することができる。
【0056】
この例では、図6の(1)と図7の(4)を、図7の(5)と図8のフローチャートの(7)を、図8の(8)と図6の(2)それぞれ接続するとともに、図7の(6)と図8の(9)とを図6の(3)へ接続することとする。
つまり、大気圧計2が測定した大気圧が所与の条件で変化し(S2でYes)、かつ列車の加速度・減速度が小さく(S5でNo)、かつ線路構造物形状は突風の生じた場合前記鉄道車両が転覆脱線する危険が高いものであり(S7でYes)、かつ列車が走行している地点の風速が大きく(S23でYes)、かつ運転規制が発令されている(S31でYes)場合に、突風の生じる可能性が高いと判断し、ブレーキを動作させるステップ(S8)に移る構成にすることができる。
【0057】
[変形例]
線路構造物形状は突風の生じた場合前記鉄道車両が転覆脱線する危険が高いか否かと判定するステップ(S9でYes)の後、風向風速条件の判定(S21〜S24)と運転規制発令有無の判定(S31〜S32)とを接続するか否かを、走行する線区の条件、気象条件、列車種別によって切り換え可能にすることもできる。
【0058】
例えば、積乱雲の発生する可能性の高い気象条件の場合(寒冷前線が接近・通過中、台風の接近・通過中、春季〜夏季にかけて上空に寒気が流入し大気の状態が不安定なとき、あるいは冬型の気圧配置時の日本海側)には、図7に示した風向風速条件の判定(S21〜S24)を図6の(1)と(2)の間に接続することとし、それ以外の気象条件の場合には接続しないこととすることができる。
また別の例として、積乱雲の発生する可能性の高い気象条件の場合には、図8に示したと運転規制発令有無の判定(S31〜S32)を図6の(1)と(2)との間に接続しない(運転規制発令の有無に関わらず本願の運転制御装置を稼働)こととし、それ以外の気象条件の場合には接続する(運転規制発令時のみ本願の運転制御装置を稼働)こととすることができる。
また別の例として、過去に強風や突風によって列車の転覆脱線事故が発生したことのある線区を走行中では図8に示したと運転規制発令有無の判定(S31〜S32)を図6の(1)と(2)との間に接続しない(運転規制発令の有無に関わらず本願の運転制御装置を稼働)こととし、それ以外の線区を走行中の場合には接続することとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本願発明は、突風に遭遇するおそれのある鉄道において利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 列車
11 車両
2 大気圧計
21 大気圧センサー
22 大気圧検出部
3 位置検知装置
31 GPS受信器
32 線路キロ程検出部
33 ATS受信器
4 線路構造物検知手段
41 線路構造物記憶装置
42 線路構造物検出部
43 ATS地上子
5 風向風速計
51 風向風速センサー
52 風向風速検知部
61 速度検知部
62 加速度検知部
63 車輪
64 レール
7 運転規制判定手段
71 運転規制情報受信器
72 運転規制種別検知部
8 運転制御装置
81 制御部
9 ブレーキ動作
91 沿線風向風速計
92 信号機
93 橋梁
94 線路
95 築堤
96 トンネル
97 施設指令

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車を構成する鉄道車両に搭載された大気圧を測定する大気圧計と、前記鉄道車両の位置を示す線路キロ程を検知する位置検知装置と、線路キロ程ごとの線路構造物形状を記憶した線路構造物検知手段と、を備えた鉄道の運転制御装置であって、
前記大気圧計が測定した大気圧が所与の条件で変化し、かつ、前記位置検知装置が検知した線路キロ程に基づき線路構造物検知装置の検知した前記線路構造物形状が突風の生じたとき前記鉄道車両が転覆脱線する危険が高いものである場合に、
前記鉄道車両のブレーキを動作させ前記鉄道車両の速度を所与の速度以下にすること、
を特徴とする、鉄道の運転制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の鉄道の運転制御装置において、
さらに風向風速計を備えており、
前記風向風速計の観測した風向風速が予め設定された風向と風速の関係を満たしている場合に、
前記鉄道車両のブレーキを動作させ前記鉄道車両の速度を所与の速度以下にすること、
を特徴とする、鉄道の運転制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄道の運転制御装置において、
さらに発令されている運転規制を判定する運転規制判定手段を備えており、
前記運転規制判定手段が、線路沿線で観測された風速に基づき運転規制が発令されていると判定した場合に、
前記鉄道車両のブレーキを動作させ前記鉄道車両の速度を所与の速度以下にすること、
を特徴とする、鉄道の運転制御装置。
【請求項4】
前記所与の条件は、大気圧の1秒あたり0.05hPa以上の変化であること、
を特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の鉄道の運転制御装置。
【請求項5】
前記位置検知装置はGPS信号に基づいて位置検知すること、
を特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の鉄道の運転制御装置。
【請求項6】
前記位置検知装置は自動列車停止装置(ATS)地上子の信号に基づいて位置検知すること、
を特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の鉄道の運転制御装置。
【請求項7】
鉄道の運転制御方法であって、
列車を構成する鉄道車両に搭載された大気圧計で大気圧を測定し、測定された大気圧が所与の条件で変化したと判定されたら、前記鉄道車両の位置検知装置が検知した線路キロ程に基づいて線路キロ程ごとの線路構造物形状を記憶した線路構造物検知手段から前記線路キロ程における線路構造物形状を判別し、前記線路構造物形状は突風の生じた場合前記鉄道車両が転覆脱線する危険が高いものであると判定した場合に、前記鉄道車両のブレーキを動作させ前記鉄道車両の速度を所与の速度以下にすることを特徴とする、鉄道の運転制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−223076(P2012−223076A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90114(P2011−90114)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】