説明

鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法

【課題】 鉄道貨物輸送ネットワークにおける輸送条件の変化や貨物駅の増減に伴い、幹線区間断面貨物輸送量を簡便に推定することができる、鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法を提供する。
【解決手段】 鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法において、幹線区間通過貨物輸送データベースの整備と、輸送量データの変換とに基づいて断面輸送量の推定を行う。この断面輸送量の推定は、OD(ij)ごとに全ての経路数yijをカウントし、前記OD(ij)ごとに対象区間を通過する経路数xijをカウントし、ODごとの輸送量qijに経路数の比率(xij/yij)を掛けてOD別断面輸送量fij=(xij/yij)qij を求め、全てのODについて前記fijを加算して断面輸送量Fとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道貨物輸送ネットワークの幹線区間断面貨物輸送量を簡便に推定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道貨物輸送ネットワーク上の線区輸送量は、年間輸送量に基づいて計測していた。
その際に、鉄道貨物輸送における貨物駅の輸送実態は、貨物駅で取り扱った各種品目の貨物量を集計して計測するようにしていた(下記非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】原田 実,「鉄道貨物輸送における将来のOD表の構造解析ならびにその構成についての研究−昭和60年度貨物輸送種別OD表−」,鉄道技術研究報告,No.905,1974年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来技術では、輸送実績のみに基づいて輸送量を算出しており、鉄道貨物輸送ネットワークにおける輸送条件の変化や貨物駅の増減などを考慮に入れていないため、そのような条件の変動によって、算出値と実際の値との間に大幅なずれが生じる可能性がある。
本発明は、上記状況に鑑みて、鉄道貨物輸送ネットワークにおける輸送条件の変化や貨物駅の増減に伴い、幹線区間断面貨物輸送量を簡便に推定することができる、鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法において、鉄道貨物輸送における貨物駅ペアの輸送実績データ(OD別品目別輸送量のデータ)と列車経路データ(計画および実績)に基づいて鉄道幹線区間断面貨物輸送量を推定するにあたり、幹線区間通過貨物輸送データベースの整備と、輸送量データの変換とを行うことを特徴とする。
【0006】
〔2〕上記〔1〕記載の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法において、前記幹線区間通過貨物輸送データベースの整備は、幹線区間通過列車データベースの整備及び対象区間通過貨物輸送経路データベースの整備を含むことを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕記載の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法において、前記幹線区間通過貨物輸送データベースの整備は、全列車経路データ(計画および実績)から、対象区間を通過する貨物列車が利用している貨物輸送経路を全て抜き出し、対象区間通過貨物輸送経路データベースを整備することを含むことを特徴とする。
【0007】
〔4〕上記〔1〕記載の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法において、前記輸送量データの変換は、現在の列車経路データには存在しないOD間の過去輸送量分を他の経路に振り替えることを含むことを特徴とする。
〔5〕上記〔1〕記載の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法において、前記輸送量データの変換は、貨物駅の廃止やコンテナ貨物取扱廃止に関する情報データベースを整備し、この情報データベースに基づいて廃止駅の振替対応データベースを整備することと、設定経路の少ない駅に関する情報データベースを整備し、この情報データベースに基づいて準見なし廃止駅の振替対応データベースを整備することを含むことを特徴とする。
【0008】
〔6〕上記〔1〕から〔5〕の何れか一項記載の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法において、OD(ij)ごとに全ての経路数yijをカウントし、前記OD(ij)ごとに対象区間を通過する経路数xijをカウントし、ODごとの輸送量qijに経路数の比率(xij/yij)を掛けてOD別断面輸送量fij=(xij/yij)qij を求め、全てのODについて前記fijを加算して断面輸送量Fとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉄道貨物輸送ネットワークにおける幹線区間断面貨物輸送量を簡便に推定し、線区の貨物輸送状況の変化を把握することができる。すなわち、貨物駅ペアの貨物輸送実績データと経路データに基づいて、過去の輸送実績データを近似的に現在の経路データに配分することによって、断面輸送量の時系列変化を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法の基本概念を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る鉄道貨物輸送ネットワーク内にある複数線区を示した模式図である。
【図3】本発明に係る駅別の発着経路数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、鉄道貨物輸送における貨物駅ペアの輸送実績データ(OD別品目別輸送量のデータ)と列車経路データ(計画および実績)に基づいて鉄道幹線区間断面貨物輸送量を推定する。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法の基本概念を示すフローチャートである。
以下、図1のフローチャートを参照しながら、本発明の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の具体的推定方法について説明する。
〔1〕幹線区間通過貨物輸送データベースの整備(ステップS1)
〔1.1〕幹線区間通過列車データベースの整備
鉄道貨物列車時刻表から、対象区間を通る列車を抜き出し、幹線区間通過列車データベースを整備する(ステップS1−1)。
【0013】
この幹線区間通過列車データベースの内容は以下の通りである。
通番:列車リスト内での通番
列車番号:途中で列車番号が変わる列車については、全ての列車番号について別個の列車としてリストに記載する。
荷役作業駅数(n):対象区間の始発駅から終着駅までの、荷役作業駅の数
区間通過前最後の荷役作業駅(s):対象区間を通過する前の最後の荷役作業駅が、下記の荷役作業駅リストの何番目にあるかを数字で表す。
【0014】
区間通過後最初の荷役作業駅(t):対象区間を通過した後の最初の荷役作業駅が、下記の荷役作業駅リストの何番目にあるかを数字で表す。通常はt=s+1
荷役作業駅リスト:対象区間の始発駅から終着駅までの荷役作業駅のリスト。駅コードで表す。
〔1.2〕対象区間通過貨物輸送経路データベースの整備
全列車経路データ(計画および実績)から対象区間を通過する貨物列車が利用している貨物輸送経路を全て抜き出し、区間を通過する貨物輸送経路データベースを整備する(ステップS1−2)。
【0015】
具体的手順は以下の通りである。
(1)経路データから経路を1つ取り出し(経路A)、上記列車リストにある列車に経路Aを利用するものがあるか否かをチェックする。
(2)経路Aを利用する列車がある場合、経路Aにおいてその列車が利用する区間の前後の中継駅(それぞれX,Yとする)を結ぶ経路(経路B)を経路データから取り出し、駅Xが上記荷役作業駅リストの1番目からs番目までに含まれていて、なおかつ駅Yが上記荷役作業駅リストのt番目からn番目に含まれているかをチェックする。
【0016】
(3)経路Bが上記2つのチェックにあてはまる場合、経路Bを対象区間通過貨物輸送経路データに追加する。
上記(2)の作業は、対象区間以外のみを当該列車が利用するような経路や、同じ列車番号の異なる列車を除外するために必要な作業である。
このようにして、抜き出した経路のみからなる対象区間通過貨物輸送経路データを作成する。すなわち、データ項目は全列車経路データと全く同じであるが、対象区間を通過する経路のみから構成されるデータを作成する。
【0017】
図2は本発明に係る鉄道貨物輸送ネットワーク内にある複数線区を示した模式図である。
この方法の有効性を確認するために、このシステムによって、鉄道ネットワークにある、例えば、北海道地域と本州のつながる鉄道線区を通過する経路を抜き出したものと、元の全経路データから、発駅が北海道地域にあって着駅が北海道地域以外にあるもの、または発駅が北海道地域以外にあって着駅が北海道地域にあるもの、という条件で抜き出したものとを比較した。その結果、以下のことがわかった。
【0018】
経路の抽出は概ねうまくいっている。
時刻表にない列車(臨時列車など)を利用している経路が存在する。
時刻表では荷役作業を行わないことになっている駅で荷役作業を行う列車が存在する。
例えば、函館港〜青森港を使う経路が存在する。
〔2〕輸送量データの変換(ステップS2)
この作業は、一言で言えば、過去の各年の貨物駅ペアのOD輸送量データを現在の列車経路データに配分するという作業である。そのためには、現在の列車経路データには存在しないOD間の過去輸送量分を他の経路に振り替えなければならない。
〔2.1〕貨物駅の廃止及びコンテナ貨物取扱廃止に関する情報データベースの整備(ステップS2−1)
まず、現在の列車経路に存在しない経路の過去輸送量(経路なし輸送量)がどの程度あるかを調べる。ここでは、1995年,2000年,2005年の3時点それぞれの輸送実績データを2006年の列車経路データに配分したところ、2006年の列車経路データには存在しないOD間の輸送量は表1の通りであった。つまり、1995年から2006年までに、13%もの輸送量に該当する経路がなくなっていることがわかる。
【0019】
【表1】

【0020】
この理由としては、まず、貨物駅の廃止あるいはコンテナ貨物取扱の廃止が考えられる。そこで、各時点において駅発(着)の輸送量があるにもかかわらず、2006年の輸送経路ではその駅発(着)の経路が全くない、という駅(みなし廃止駅)を抽出した。そのような駅は、2006年までに駅またはその駅におけるコンテナ貨物取扱が廃止されたものとみなすことができる。抽出された駅の一覧を表2〜4に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
表2〜4に示されるように、1995年以降では27駅、2000年以降では18駅、2005年以降では8駅のみなし廃止駅が存在することがわかった。
これらのみなし廃止駅を、2006年時点で存在するコンテナ貨物取扱駅に振り替えることによって、これらの駅で取り扱っていた輸送量を近似的に2006年時点の経路に配分することができるようになる。
〔2.2〕廃止駅の振替対応データベースの整備(ステップS2−2)
上記ステップS2−1で抽出したみなし廃止駅の振替対応データベースを表5に示す。
【0025】
【表5】

【0026】
振替駅の設定は、みなし廃止駅から路線上なるべく近い駅という基準の下に決定した。K2407駅やS5604駅など、発着いずれかの経路は存在する駅(表2〜表4参照)についても、その経路数が少ないことから廃止駅とみなすことにした。
このように、みなし廃止駅の振替を行った後、表1に示されるような2006年の列車経路データには存在しないOD間の輸送量を再計算した結果を表6に示す。
【0027】
【表6】

【0028】
表6を見ると、経路なし輸送量が各年とも2%を下回っており、かなり減少したことがわかる。
〔2.3〕設定経路の少ない駅に関する情報データベースの整備(ステップS2−3)とその振替対応データベースの整備(ステップS2−4)
上記ステップS2−2において、2006年時点の経路に配分できない輸送量を全体の約1.5%以下にまで減らすことができた。しかし見方を変えると、まだ20〜30万トンの経路なし輸送量が残っている。この理由として考えられるのは、上記ステップS2−2におけるK2407駅やS5604駅のように、経路が0ではないもののかなり少ない駅が存在することである。そこで、そのような駅についてもみなし廃止駅としてしまって、別の(設定経路の多い)駅に振り替えてしまったほうが未配分輸送量を少なくすることができると考えられる。
【0029】
そこで、そのような設定経路数の少ない駅の存在を確かめるために、2006年の経路データを発駅・着駅別に集計し、各駅の設定経路数を求めた。その結果を図3に示す。
図3は、各駅の発経路数と着経路数を集計し、経路数を折れ線グラフで示している。縦軸は経路数、横軸は駅の数(累計)を表し、K2407駅とS5604駅を除く全ての経路設定駅(160駅)を、設定経路数の少ない順に並び替えている。これを見ると、発経路では経路数が300程度から、着経路では150程度からそれぞれグラフの傾きが急になっている。そこで、発経路あるいは着経路のいずれかの設定経路数が150未満の駅については、準みなし廃止駅とし、路線上でなるべく近く設定経路数の多い駅に輸送貨物を振り替えることにする。
【0030】
表7に準みなし廃止駅のリストを示す。
【0031】
【表7】

【0032】
表7を参照すると、160駅のうち26駅が条件に該当している。なお、振替駅の設定は、みなし廃止駅と同様に、路線上でなるべく近く設定経路数の多い駅という基準の下に決定した。
この準みなし廃止駅による輸送貨物の振替対応データベースを適用した後、表1および表6に示されるような2006年の列車経路データには存在しないOD間の輸送量を再計算した結果を表8に示す。
【0033】
【表8】

【0034】
表8からわかるように、経路なし輸送量が各時点とも0.5%程度にまで減少している。この数値は、準みなし廃止駅の基準(設定経路150本以下)を変えることでさらに減少させることができる。つまり、準みなし廃止駅の数を増やせば増やすほど経路なし輸送量を減らすことができる。ただし、あまり準みなし廃止駅を増やしてしまうと、次のステップで推定する断面貨物輸送量の正確性が低下してしまう、というトレードオフの関係にある。
〔3〕推定断面輸送量の計算(ステップS3)
上記ステップS1〜S2で作成した対象区間通過貨物輸送経路データを用いて、断面輸送量を推定する方法は以下の通りである。
【0035】
(1)OD(ij)ごとに全ての経路数yijをカウントする。
(2)OD(ij)ごとに対象区間を通過する経路数xijをカウントする。
(3)ODごとの輸送量qijに経路数の比率(xij/yij)を掛けてOD別断面輸送量(fij)とする。
ij=(xij/yij)qij …(1)
(4)全てのODについてfijを足し上げ、断面輸送量Fとする。
【0036】
【数1】

【0037】
この方法により計算した結果を表9に示す。
【0038】
【表9】

【0039】
ここで、この対象区間は貨物輸送ネットワークを二分する区間となっており、この区間の両側の地域を行き来する輸送は全てこの区間を通過するものとする。したがって、OD表から正確な断面輸送量を計算することができる。その実際の断面輸送量とステップS3で計算した推定断面輸送量とを比較した結果を表10に示す。
【0040】
【表10】

【0041】
全て過小評価となっているものの、相対誤差は0.15%未満であり、極めて良好な精度で推定できていると言える。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、鉄道貨物輸送ネットワークにおける輸送条件の変化や貨物駅の増減に伴い、幹線区間断面貨物輸送量を簡便に推定することができる、鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道貨物輸送における貨物駅ペアの輸送実績データ(OD別品目別輸送量のデータ)と列車経路データ(計画および実績)に基づいて鉄道幹線区間断面貨物輸送量を推定するにあたり、幹線区間通過貨物輸送データベースの整備と、輸送量データの変換とを行うことを特徴とする鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法において、前記幹線区間通過貨物輸送データベースの整備は、幹線区間通過列車データベースの整備及び対象区間通過貨物輸送経路データベースの整備を含むことを特徴とする鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法。
【請求項3】
請求項1記載の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法において、前記幹線区間通過貨物輸送データベースの整備は、全列車経路データ(計画および実績)から、対象区間を通過する貨物列車が利用している貨物輸送経路を全て抜き出し、対象区間通過貨物輸送経路データベースを整備することを含むことを特徴とする鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法。
【請求項4】
請求項1記載の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法において、前記輸送量データの変換は、現在の列車経路データには存在しないOD間の過去輸送量分を他の経路に振り替えることを含むことを特徴とする鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法。
【請求項5】
請求項1記載の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法において、前記輸送量データの変換は、貨物駅の廃止やコンテナ貨物取扱廃止に関する情報データベースを整備し、該情報データベースに基づいて廃止駅の振替対応データベースを整備することと、設定経路の少ない駅に関する情報データベースを整備し、該情報データベースに基づいて準見なし廃止駅の振替対応データベースを整備することを含むことを特徴とする鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項記載の鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法において、
(a)OD(ij)ごとに全ての経路数yijをカウントし、
(b)前記OD(ij)ごとに対象区間を通過する経路数xijをカウントし、
(c)ODごとの輸送量qijに経路数の比率(xij/yij)を掛けてOD別断面輸送量fij=(xij/yij)qij を求め、
(d)全てのODについて前記fijを加算して断面輸送量Fとすることを特徴とする鉄道幹線区間断面貨物輸送量の推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−71944(P2012−71944A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218307(P2010−218307)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)