説明

鉄道車両用のドア構造

【課題】車体とドアとの結合強度を高めることができる鉄道車両用のドア構造を提供する。
【解決手段】ドア構造は、側構体に配置された引き戸式のものであり、車体の骨格構造として車体前後方向に沿って延びるよう設けられ上下方向に並置された一対の縦通部材3,3と、縦通部材3に沿って移動可能に設けられたドア6と、を備えている。このドア6の少なくとも一部は、幅方向から挟持されるよう縦通部材3に入り込んでいることから、例えば幅方向からドアに荷重が加わっても、かかる荷重を一対の縦通部材3に確実に伝えて車体とドア6とが外れないよう逃がすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用のドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄道車両用のドア構造としては、例えば特許文献1に記載されているように、鉄道車両の側構体に配置された引き戸式のものが知られている。この鉄道車両用のドア構造では、継手部材の溶接痕が側構体における外板パネルに生じるのを抑制することで、ドア開閉装置を取り付ける際の歪みを抑制すると共に、側構体におけるドア上方部分の剛性を向上させることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−247264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したような鉄道車両用のドア構造では、例えば図7に示すように、車両前後方向に延びる断面L字状のガイドレール101が、側構体102のドア枠部材の上部103に固定されている。また、車両前後方向に延びるガイド溝104が、床板105に形成されている。そして、ドア106の上部に取り付けられたローラ107がガイドレール101に吊り下げられると共に、ドア106の下部に設けられたローラ108がガイド溝104に係合される。これにより、ドア106がガイドレール101及びガイド溝104に沿って移動可能に構成されることとなる。
【0005】
このように構成された鉄道車両用のドア構造では、近年、その強度向上のニーズが高まっており、例えば車体幅方向からドアに荷重が加わった場合においてもドアが車体から容易に外れないように、車体とドアとの結合強度を高めることが強く望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、車体とドアとの結合強度を高めることができる鉄道車両用のドア構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本発明に係る鉄道車両用のドア構造は、鉄道車両の側構体に配置された引き戸式のドア構造であって、車体の骨格構造として車体前後方向に沿って延びるよう設けられ、車体上下方向に並置された一対の縦通部材と、一対の縦通部材に沿って移動可能に設けられたドアと、を備え、ドアは、その少なくとも一部が車体幅方向から挟持されるよう一対の縦通部材に入り込んでいることを特徴とする。
【0008】
この鉄道車両用のドア構造では、ドアの少なくとも一部が車体幅方向から挟持されるよう縦通部材に入り込んでいることから、例えば車体幅方向からドアに荷重が加わっても、かかる荷重を一対の縦通部材に確実に伝えて車体とドアとが外れないよう逃がすことができる。従って、本発明によれば、車体とドアとの結合強度を高めることが可能となる。
【0009】
また、ドアは、車体上下方向に沿って延びるよう設けられた骨部材を含んでおり、当該骨部材が一対の縦通部材に入り込んでいることが好ましい。この場合、ドア自体の剛性を高めつつ、車体とドアとの結合強度を好適に高めることができる。
【0010】
このとき、骨部材は、一対の縦通部材間における車体上下方向の距離よりも長い長さを有しており、骨部材の上端部は、一対の縦通部材のうち上方の縦通部材に入り込んでいると共に、骨部材の下端部は、一対の縦通部材のうち下方の縦通部材に入り込んでいることが好ましい。この場合、ドア自体の剛性を一層高めつつ、車体とドアとの結合強度を一層好適に高めることが可能となる。
【0011】
また、車体の骨格構造として車体の横断面内で環状に延びるよう設けられ、一対の縦通部材と結合された環状部材をさらに備えたことが好ましい。この場合、ドアから一対の縦通部材に逃がした荷重を、環状部材へとさらに伝えて逃がすことができ、荷重を効果的に分散させることが可能となる。加えて、車体幅方向からの荷重に対する車体の剛性を特に高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車体とドアとの結合強度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る鉄道車両用のドア構造を備えた車体を示す概略斜視図である。
【図2】図1の車体におけるドア構造を示す側断面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿っての拡大断面図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿っての拡大断面図である。
【図5】図3のV−V線に沿っての拡大断面図である。
【図6】図1の車体におけるドア構造の他の例を示す図3に対応する拡大断面図である。
【図7】従来のドア構造を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、「前」「後」の語は、車体の前後方向(長手方向)に対応するものである。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態を示す鉄道車両用のドア構造を備えた車体を示す概略斜視図である。図1に示すように、車体50は、電車等の鉄道車両の構造体であり、乗客を収容する空間を内部に有する箱型形状をなしている。この車体50は、床構体51と、側構体52と、妻構体53と、屋根構体54とを備えている。
【0016】
床構体51は、車両の床部を構成する構体であり、台枠を含んで構成されている。側構体52は、車体50の幅方向の側部を構成する構体であり、床構体51の幅方向(左右方向)縁部にそれぞれ設けられている。また、この側構体52には、ドア6及び窓55が配置されている。妻構体53は、車両の前後方向の側部を構成する構体であり、床構体51の前後方向の縁部にそれぞれ設けられている。屋根構体54は、車両の屋根部を構成する構体であり、車体50の上部に設けられている。
【0017】
この車体50は、その骨格構造(立骨構造)として、互いに連結された環状部材2及び縦通部材3を備えている。環状部材2は、いわゆる環状立骨であって、車体50の横断面内で環状に延びるよう設けられている。この環状部材2は、中空(パイプ状)又は断面コの字状(C形鋼)の鋼材で形成され、車体50において前後方向に沿って複数並置され、ている。ここでは、環状部材2は、側構体52,52のそれぞれにて上下方向に延びる一対の鉛直部材4,4と、床構体51側及び屋根構体54にて幅方向に延びる一対の水平部材5,5と、を含んで構成された矩形状を呈している。
【0018】
縦通部材3は、中空(パイプ状)の鋼材で形成されている。この縦通部材3は、左右の側構体52,52のそれぞれにおいて、前後方向に沿って延びるよう設けられ且つ車体上下方向に並置されている。ここでは、縦通部材3は、車体50の前後方向の一端部から他端部に亘って、環状部材2の4つの角部を貫通するよう前後方向に延在している。
【0019】
図2は図1の車体におけるドア構造を示す側断面図、図3は図2のIII−III線に沿っての拡大断面図、図4は図2のIV−IV線に沿っての拡大断面図、図5は図3のV-V線に沿っての拡大断面図である。図2に示すように、ドア構造1は、側構体52に配置され、前後方向にドア6が移動して開閉する引き戸式のものである。ドア6は、ドア窓7が設けられたドアパネル8と、ドア6の骨格構造としての骨部材9と、を有している。
【0020】
骨部材9は、一対の鉛直部材(骨部材)10と、一対の水平部材11と、を含んで構成されている。鉛直部材10は、ドア6の前端部及び後端部にて鉛直方向(上下方向)に延びている。この鉛直部材10は、上方の縦通部材3aと下方の縦通部材3bとの間の上下方向距離よりも長い長さを有している。水平部材11は、一対の鉛直部材10を連結するように、ドア6の上端部及び下端部にて水平方向(前後方向)に延びている。
【0021】
ここで、本実施形態のドア6にあっては、鉛直部材10が縦通部材3内に入り込み(進入して)、鉛直部材10が幅方向から挟持されるように構成されている。具体的には、以下のように構成されている。
【0022】
すなわち、図3,5に示すように、縦通部材3aには、その下壁14のドア6の開閉に係る移動域L(以下、単に「移動域L」という)に、前後方向に沿った溝13が例えばレーザ切断によって形成されている。鉛直部材10の上端には、幅方向に延びる軸S1回りに回転可能なローラ(戸車)12が取り付けられている。
【0023】
そして、鉛直部材10の上端部が所定の隙間を有して溝13に挿通され、鉛直部材10が縦通部材3aに幅方向から挟持されるように入り込んでいる。これと共に、ローラ12が縦通部材3aの下壁14の内面15に当接され、ローラ12が内面15に対し摺動可能とされている。これにより、鉛直部材10は、幅方向から挟持されるよう縦通部材3aに入り込むと共に、該縦通部材3aに沿って移動可能になっている。つまり、ドア6は、その少なくとも一部が縦通部材3aに入り込むと共に、縦通部材3aをガイドレールとして移動可能とされている。
【0024】
また、縦通部材3aの内面15において溝13の縁部には、上方に突出するガイド部16,16が対向するように設けられている。ガイド部16は、ローラ12の幅方向の移動を規制し、鉛直部材10ひいてはドア6の移動をガイドする。
【0025】
一方、図4に示すように、縦通部材3bには、その下壁20の移動域Lにおいて、前後方向に沿った溝18が例えばレーザ切断によって形成されている。鉛直部材10の下端には、幅方向に延びる軸S2回りに回転可能なローラ(戸車)17が取り付けられている。
【0026】
そして、鉛直部材10の下端部が所定の隙間を有して溝18に挿通され、鉛直部材10が縦通部材3bに幅方向から挟持されるように入り込んでいる。これと共に、ローラ17が下壁20の内面21にガイド部22を介して当接され、ローラ17が内面21に対し摺動可能とされている。これにより、鉛直部材10は、幅方向から挟持されるよう縦通部材3bにも入り込むと共に、該縦通部材3bに沿って移動可能になっている。つまり、ドア6は、その少なくとも一部が縦通部材3bに入り込むと共に、縦通部材3bをガイドレールとして移動可能とされている。
【0027】
ガイド部22は、例えば樹脂で形成され、縦通部材3bの内面21においてローラ17に対応する位置に一対設けられている。このガイド部22,22は、幅方向に対向する各端部が上方に突出するよう構成されている。ガイド部22は、上記ガイド部16と同様に、ローラ17の幅方向の移動を規制し、鉛直部材10ひいてはドア6の移動をガイドする。
【0028】
なお、図5に示すように、縦通部材3aの下壁14には、ドア6の開閉に係る移動域L外の部分に、溝13に連続する開口23が形成されている。これにより、ドア構造1の組立て時において、開口23を通じて縦通部材3a内にローラ12を配置することができ、ドア6の取付け及び取外しの容易化が図られている。ちなみに、縦通部材3bにも、該縦通部材3b内にローラ17を配置するためのものとして、上記開口23と同様な開口が形成されている。
【0029】
また、図2に示すように、ドア6の上方には、ドア6を自動で開閉するためのドアエンジンとして、ドア開閉装置41が設置されている。ここでのドア開閉装置41は、例えばリニアモータ方式やスクリュー方式のものが用いられている。
【0030】
以上、本実施形態では、ドア6の鉛直部材10が幅方向から挟持されるよう縦通部材3に入り込んでいる。そのため、例えば側突時や横転時等に車体50に幅方向から荷重が加わった場合、縦通部材3に対してドア6の鉛直部材10及びローラ12,17の側面を接触させることができ、鉛直部材10ひいてはドア6を縦通部材3で確実に支持(保持)することができる。よって、ドア6が受けた荷重(以下、「ドア6荷重」という)を鉛直部材10を介して縦通部材3に確実に伝えることができ、車体50からドア6が外れないようドア6荷重を車体50の骨格構造に逃がすこと、すなわち、ドア6荷重を好適に分散させることが可能となる。
【0031】
従って、本実施形態によれば、車体50とドアとの結合強度を高めることが可能となる。その結果、ドア6強度を側構体52の他の部分と同等又はそれ以上にすることが可能となる。よって、車体50自体の剛性が高まって潰れ難くなり、サバイバルゾーン(客室空間)を確実に確保することが可能となる。なお、本実施形態のように、ドア6の鉛直部材10が縦通部材3に入り込んでいると、閉状態のドア6のがたつきを抑制することもでき、車体50内部の密封性を高めることも可能となる。
【0032】
なお、車体50に幅方向から荷重が加わった場合、ドア6全体の強度が高ければ、ドア6が外れず、ドア6全体を車両内側へめり込ませることもできる。
【0033】
また、本実施形態では、上述したように、ドア6が骨部材9を含んでおり、この骨部材9の鉛直部材10が縦通部材3に入り込んでいることから、ドア6自体の変形(座屈や撓み)を抑制して剛性を高めつつ、車体50とドア6との結合強度をより高めることができる。
【0034】
また、本実施形態では、上述したように、鉛直部材10が縦通部材3a,3b間の距離よりも長い長さを有し、鉛直部材10の上端部が縦通部材3aに入り込んでいると共に、下端部が縦通部材3bに入り込んでいる。このように、縦通部材3a,3bに入り込む鉛直部材10が一体もので構成されていると、ドア6荷重を鉛直部材10を介して縦通部材3に好適に伝えて逃がすことができ、且つドア6自体の剛性を一層高めることもできる。
【0035】
また、本実施形態では、上述したように、環状部材2をさらに備えていることから、車体50の骨格構造が人の肋骨のように構成されることとなり、高剛性で堅牢な車体50を実現することができ、特に側突に対する車体50の強度を向上することが可能となる。加えて、ドア6から縦通部材3に伝えた荷重を、環状部材2へとさらに伝えて逃がすことができ、ドア6荷重を効果的に分散させることが可能となる。
【0036】
なお、1つのドア6においては、鉛直部材10が3箇所以上で縦通部材3に入り込んでいることが好ましく、ここでは、図2に示すように、構成上の点でより好ましいとして、4箇所(つまり、2つの鉛直部材10のそれぞれの上下端部)で縦通部材3に入り込んでいる。これは、閉状態のドア6が上下方向に沿った軸回りに回転してしまうのを防止するためである。
【0037】
ちなみに、本実施形態では、図1に示すように、車体50の前端部に環状部材2が設けられていないことから、この前端部にあっては、前突時に積極的に変形して衝撃力を吸収するクラッシャブルゾーンとして機能する。また、本実施形態では、車体50の後端に環状部材2を設けているが、この後端の環状部材2を設けずに、車体50の後端部を後突時のクラッシャブルゾーンとして機能させてもよい。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0039】
例えば、上記実施形態では、レーザ切断によって溝13を形成してなる縦通部材3aを用いたが、図6(a)に示すように、下方に開口する断面コの字状(C形鋼)の部材31と、部材31内を塞ぐよう該部材31に溶接部Wで接合された部材32,32と、を含む縦通部材3aを用いてもよい。なお、このことは、縦通部材3bについても同様である。
【0040】
また、上記実施形態では、ドア6の鉛直部材10が幅方向から挟持されるよう縦通部材3に入り込んでいるが、例えばドア6の剛性が高い等の場合、図6(b)に示すように、ドア6自体が幅方向から挟持されるよう縦通部材3に入りこんでいてもよい。要は、ドアの少なくとも一部が幅方向から挟持されるよう縦通部材に入り込んでいればよい。
【0041】
また、上記実施形態では、縦通部材3に沿ってドア6を摺動(移動)させる摺動手段としてローラ12,17を備えているが、これに代えて若しくは加えて、レールや該レールに係合するスライダ等を備えていてもよく、縦通部材3に沿ってドア6が移動可能(開閉可能)であればよい。
【0042】
また、ガイド部16,22は限定されるものではなく、ドア6の移動をガイドするものであればよい。例えば、下壁14,20の内面15,21にてローラ12,17に対応するよう窪む凹部であってもよい。なお、場合によっては、ガイド部16,22は、なくともよい。
【符号の説明】
【0043】
1…ドア構造、2…環状部材、3…縦通部材、6…ドア、10…鉛直部材(骨部材)、50…車体、52…側構体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の側構体に配置された引き戸式のドア構造であって、
車体の骨格構造として車体前後方向に沿って延びるよう設けられ、車体上下方向に並置された一対の縦通部材と、
前記一対の縦通部材に沿って移動可能に設けられたドアと、を備え、
前記ドアは、その少なくとも一部が車体幅方向から挟持されるよう前記一対の縦通部材に入り込んでいることを特徴とする鉄道車両用のドア構造。
【請求項2】
前記ドアは、車体上下方向に沿って延びるよう設けられた骨部材を含んでおり、当該骨部材が前記一対の縦通部材に入り込んでいることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用のドア構造。
【請求項3】
前記骨部材は、前記一対の縦通部材間における車体上下方向の距離よりも長い長さを有しており、
前記骨部材の上端部は、前記一対の縦通部材のうち上方の縦通部材に入り込んでいると共に、
前記骨部材の下端部は、前記一対の縦通部材のうち下方の縦通部材に入り込んでいることを特徴とする請求項2記載のドア構造。
【請求項4】
前記車体の骨格構造として前記車体の横断面内で環状に延びるよう設けられ、前記一対の縦通部材と結合された環状部材をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の鉄道車両用のドア構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−79425(P2011−79425A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233463(P2009−233463)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)