鉄道車両用空調システム
【課題】乗客の快適性を向上させる鉄道車両用空調システムを提供する。
【解決手段】空調制御装置7は、吸込空気温度検出器9によって算出された吸込空気温度Tre、表面温度検出器12によって検出された乗客及び車体の表面温度の平均値Ts1、及び、乗車率Xから算出した形態係数F1及びF2に基づいて、Tr=F1(X)・Ts1+F2(X)・Tre+Cの式から平均放射温度Trを算出する。
【解決手段】空調制御装置7は、吸込空気温度検出器9によって算出された吸込空気温度Tre、表面温度検出器12によって検出された乗客及び車体の表面温度の平均値Ts1、及び、乗車率Xから算出した形態係数F1及びF2に基づいて、Tr=F1(X)・Ts1+F2(X)・Tre+Cの式から平均放射温度Trを算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、快適な車内環境を提供する鉄道車両用空調システムに関する。なお、鉄道車両用空調システムとは本技術に使用される鉄道車両用空気調和装置と鉄道車両用空調制御装置の何れか一方又は両方を含むシステムを示す。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両は冷房及び暖房それぞれに基準温度を定め、湿度、乗車率又は外気温度に応じて基準温度を上下に補正し、設定温度を決定している。そして、車内温度が設定温度に近づくように空調を制御するが、車内の温度検出器の温度と乗客の周囲温度とが異なる場合があるため、新幹線等に温度分布認識手段を設置して画像データと従来の温度検出器とから制御温度(乗客の感じる室温)を求め、制御温度が設定温度になるように空調制御しているものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−96306号公報(第4頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、更なる快適性向上のためには乗客の周囲温度を検出するだけでは不十分であり、乗客の熱放射を考慮した制御が必要である。建物の空調制御において、赤外線センサーによって壁床の温度を検知して熱放射の影響を空調へ反映しているものがあるが、鉄道車両では密集した乗客から受ける熱放射があり、建物と同じ検出方法及び制御方法では対応できないという問題点があった。
【0005】
また、鉄道車両は、乗車率の変化、扉の開閉又は窓の日射によって車内の熱負荷変動が大きいという特徴を有し、さらに、その乗客については着衣量の調整がしづらい、そして、設定温度及び風量を自由に変更できないといった特徴があるため、設定温度は客観的な快適性指標に基づいて決定することが重要である。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、乗客の快適性を向上させる鉄道車両用空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る鉄道車両用空調システムは、鉄道車両内の空調運転を実施する鉄道車両用空気調和機(空調機)と、該空調機へ吸い込まれる空気の温度を検出する吸込空気温度検出器と、前記鉄道車両内の少なくとも乗客又は前記鉄道車両の車体の表面温度を検出する表面温度検出器と、前記鉄道車両内における前記乗客の乗車率を検出する乗車率検出器と、前記鉄道車両内の温度(車内温度)が設定温度に近づくように前記空調機を制御する鉄道車両用空調制御装置(空調制御装置)と、を備え、前記空調制御装置は、前記吸込空気温度検出器によって検出された前記空調機へ吸い込まれる空気の温度(吸込空気温度)、前記表面温度検出器によって検出された前記表面温度(検出表面温度)、及び、前記乗車率検出器によって検出された前記乗車率(検出乗車率)に基づいて、平均放射温度を算出し、該平均放射温度に基づいて前記設定温度を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乗客又は車体の表面温度、吸込空気温度及び乗車率Xに基づいて平均放射温度を算出し、この平均放射温度に基づいて設定温度を決定することによって、乗客又は車体の熱放射を考慮した空調制御が可能となり、快適性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムにおける鉄道車両の構成図の例である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムの制御ブロック図を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1における鉄道車両1の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における鉄道車両1の乗車率とその車内における乗客19の状況との関係を示す図である。
【図5】平均放射温度TrとPMWとの関係を示す図である。
【図6】平均放射温度TrとSET*との関係を示す図である。
【図7】SET*=24[℃]となる場合の平均放射温度Trと快適室温との関係を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムにおける表面温度検出器12の別形態の設置例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムにおける表面温度検出器12の別形態の設置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
(鉄道車両用空調システムの構成)
図1は、本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムにおける鉄道車両の構成図の例である。
【0011】
図1で示されるように、鉄道車両1は、その上部に取り付けられた空調機2、その空調機2の内部に設置され、その冷凍サイクルにおける冷媒を送り出す圧縮機3、その圧縮機3等を駆動制御する空調接触器4、空調機2から車内へ空気を送り出す室内送風機5、車内の空気を攪拌する補助送風機6、外気温度を検出する外気温度検出器10、及び、車内上部に設置され、本実施の形態に係る鉄道車両用空調システム全体の制御をする空調制御装置7を備えている。また、鉄道車両1の車内において、車内から空調機2へ戻る空気の温度を検出する吸込空気温度検出器9、車内の湿度を検出する湿度検出器11、車内の壁・床等の表面温度及び乗客の表面温度を検出する表面温度検出器12、車内の乗車率を検出する乗車率検出器13(図示せず)、車両内の壁に設置され、その周囲の空気温度を検出する空気温度検出器14、乗客が乗り降りする扉15、乗客に広告等の情報を表示する表示器16、乗車率、扉開閉又は月日等の情報を空調制御装置7へ送信する列車情報管理装置8、乗客が座る椅子17、及び、窓18が備えられている。また、図1は、鉄道車両1の車内に、数人の乗客19が乗車した状態を示している。なお、空調機2は、鉄道車両1の下部に取り付けてもよい。
【0012】
図2は、本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムの制御ブロック図を示す図である。
図2で示されるように、吸込空気温度検出器9、外気温度検出器10、湿度検出器11、表面温度検出器12、及び空気温度検出器14が、空調制御装置7に接続されており、それぞれが検出した情報を空調制御装置7に送信する。乗車率検出器13は、列車情報管理装置8に接続されており、検出した情報を列車情報管理装置8に送信する。また、列車情報管理装置8も、空調制御装置7に接続されており、乗車率、扉開閉又は月日等の情報を、空調制御装置7に送信する。また、空調制御装置7は、空調接触器4に接続されており、さらに、その空調接触器4は、圧縮機3、室内送風機5、補助送風機6及び室外送風機20等に接続されており、空調制御装置7から受信した制御信号に基づいて、圧縮機3、室内送風機5、補助送風機6及び室外送風機20等を駆動制御する。
【0013】
(空調機2の動作)
次に、本実施の形態における空調機2の動作について説明する。冷房運転時、空調機2内の冷凍サイクルの配管内を流通する冷媒は、圧縮機3において圧縮され高温高圧のガス冷媒として送り出され、室外送風機20の送風によって室外熱交換器において放熱して凝縮し、絞り装置において低温低圧となった後、室内熱交換器において吸熱して蒸発し、再び、圧縮機3へと戻る。
【0014】
車内の空気は、リターン口から空調機2へと吸い込まれ、室内熱交換器において熱交換が実施されて冷気となり、室内送風機5によって、車内へと送り出され、乗客19及び車体等を冷やしてから、再び、リターン口を通って空調機2へと戻る。
【0015】
なお、本実施の形態における鉄道車両用空調システムは、冷房運転機能のみではなく、暖房運転機能を備えているものとしてもよい。暖房においては、椅子17の下や室内熱交換器近くにヒーターを備え、そのヒーターの通電を制御する。
【0016】
(表面温度検出器12の説明)
図3は、本発明の実施の形態1における鉄道車両1の断面図である。
図3で示されるように、表面温度検出器12は、扉15の上部に設置されており、点線で示した範囲に存在する物体の表面温度を検出する。表面温度検出器12は、物体からの赤外線を検出してその表面温度を検出するものであり、その内部に備えられる赤外線検出器は、熱型(サーモパイル、ボロメーター又は焦電等)又は量子型のいずれでもよく、また、赤外線検出器内の素子は単数でも複数でもよい。また、表面温度検出器12内の赤外線検出器は、その複数の素子を縦横に整列させて、面状に温度を測定するか、又は、素子の向きを可動として複数個所の表面温度を測定するものとしてもよい。
【0017】
(平均放射温度Trの演算)
図4は、本発明の実施の形態1における鉄道車両1の乗車率とその車内における乗客19の状況との関係を示す図である。
乗客の皮膚温度は30〜35[℃]で、吸込空気温度検出器9によって検出される空調機2へ戻る空気の温度(以下、「吸込空気温度Tre」という)及び床は季節によって18〜28[℃]の間で変化し、乗客19の着衣表面温度は皮膚温度と吸込空気温度Treとの間の値になる。乗車率が低い場合、乗客19の熱放射は、壁、床及び窓等の車体表面温度の影響を受けやすいため、表面温度検出器12は、主に車体の表面温度を検出する。一方、乗車率が高い場合、乗客19の熱放射は、周囲の乗客19の表面温度の影響を受けやすいため、表面温度検出器12は、主に乗客19の表面温度を検出する。一般に、周囲の全方向から受ける熱放射を平均化した温度を示す平均放射温度Trは、下記の式(1)で示されるように、周囲の物体の表面温度Tiとその形態係数Fiとの積の和によって算出される。
【0018】
Tr=Σ(Fi・Ti) (i=1,2,3,・・・) (1)
【0019】
ここで、形態係数Fiとは、ある面から発せられる熱エネルギーの合計が、入射エネルギーとして他の面へ伝わる割合を示すための係数であり、それらの面の間の相対的な位置関係及び形態のみによって定まり、その値は0から1の間の無次元の数値をとるものである。本実施の形態においては、鉄道車両1における乗車率によって、人の位置が変化することから、形態係数は乗車率検出器13によって検出される乗車率Xの関数とする。
【0020】
また、周囲の物体の表面温度Tiは、表面温度検出器12によって検出された乗客及び車体の表面温度の平均値Ts1を用いるが、乗車率Xが増加すると壁及び床等の表面温度が検出できなくなるので、その代替として吸込空気温度検出器9によって検出される吸込空気温度Treも用いるものとし、本実施の形態においては、平均放射温度Trは、下記の式(2)によって算出する。
【0021】
Tr=F1(X)・Ts1+F2(X)・Tre+C (2)
【0022】
ここで、F1は表面温度の平均値Ts1に対応する形態係数、F2は吸込空気温度Treに対応する形態係数、そして、Cは所定の定数である。季節によって乗客の着衣量が変化すると平均値Ts1と吸込空気温度Treとの関係も変化するため、空調制御装置7は、列車情報管理装置8から月日の情報を受信して月及び季節を判別するカレンダー機能を備え、月や季節に応じて形態係数F1及びF2の式又は定数Cを変更する。なお、式(2)は吸込空気温度Treの代わりに空気温度検出器14によって検出された温度を用いてもよい。室内送風機5が運転している場合、吸込空気温度検出器9に車内からの空気が多く流れ車内温度を正確に測定できるが、室内送風機5が停止している場合は吸込空気温度検出器9に風が流れにくくなるため空気温度検出器14の方が車内温度を測定しやすい。また、上記においては、平均放射温度Trを算出するのに上記の式(2)を用いるものとしているが、これに限定するものではなく、乗客又は車体の表面温度、吸込空気温度Tre、及び乗車率Xに基づいて、他の方法によって算出するものとしてもよい。その他、温度センサーを新たに取り付けて演算してもよいし、F2(X)=0とした表面温度検出器12の温度及び形態係数のみの式の構成によって演算してもよい。
【0023】
(快適性指標)
熱放射によって人から周囲物体へと伝わる熱流速R[W/m2]は、人の表面温度Tsと平均放射温度Trによって、下記の式(3)によって表される。
【0024】
R=σ・ε・{(Ts+273.15)4−(Tr+273.15)4} (3)
【0025】
ここで、σはステファンボルツマン定数であり、εは熱放射率である。式(3)で示されるように、平均放射温度Trが低いほど、人から壁等へ逃げる熱流速Rが増加して、人は寒く感じる。一方、平均放射温度Trが高いほど、人から壁等へ逃げる熱流速Rが減少して、人は暑く感じる。
【0026】
図5は、平均放射温度TrとPMWとの関係を示す図であり、図6は、平均放射温度TrとSET*との関係を示す図である。
快適性を評価する指標として、一般的に、PMV(Predicted Mean Vote)やSET*(標準新有効温度、Standard new Effective Temperature)が用いられており、PMVについては0±0.5以内、そして、SET*については22〜26[℃]の環境が快適であるとされる。PMV及びSET*は、室温、平均放射温度、相対湿度、風速、着衣量及び代謝量から演算され、例えば、室温が22[℃]、25[℃]及び28[℃]で、相対湿度が50[%]、風速が0.2[m/s]、着衣量が0.4[clo](夏期)、並びに、代謝量が1.2[Met](直立不動)とした場合、PMWは図5のように算出され、そして、SET*は図6のように算出され、平均放射温度Trの変化による温冷感の変化を定量化することができる。
【0027】
(鉄道車両用空調システムの動作)
図7は、SET*=24[℃]となる場合の平均放射温度Trと快適室温との関係を示す図であり、着衣量0.45[clo]、風速0.1[m/s]及び代謝量1.2[Met]の場合、平均放射温度Trに対してSET*が24[℃]となる室温を示している。このときの室温を快適室温Tcomとする。
【0028】
まず、空調制御装置7は、乗車率検出器13によって検出された乗車率Xに基づいて、式(2)における形態係数F1及びF2を算出する。そして、空調制御装置7は、吸込空気温度検出器9によって算出された吸込空気温度Tre、表面温度検出器12によって検出された乗客及び車体の表面温度の平均値Ts1、及び、算出した形態係数F1及びF2に基づいて、式(2)から平均放射温度Trを算出する。
【0029】
次に、空調制御装置7は、図7で示される平均放射温度Trと快適室温との関係に基づいて、上記のように算出した平均放射温度Trから、快適室温Tcomを導出し、この快適室温Tcomを設定温度Tmとする。
【0030】
以上のような、空調制御装置7が、乗車率X、吸込空気温度Tre、並びに、乗客及び車体の表面温度の平均値Ts1に基づいて平均放射温度Trを算出し、設定温度Tmを設定する動作は、常時実施するものとしてもよく、所定時間毎、又は駅間毎に実施するものとしてもよい。
【0031】
そして、冷房運転の場合、空調制御装置7は吸込空気温度Treと設定温度Tmとの温度差に基づいて、空調に必要な能力を演算し、必要な能力に応じて空調接触器4に制御信号を送信して圧縮機3を駆動させ、吸込空気温度Treが設定温度Tmに近づくように制御する。また、暖房運転の場合、空気温度検出器14によって検出された温度と設定温度Tmとの差に基づいて、椅子17の下側又は空調機2の室内熱交換器の近傍に設置されているヒーター(図示せず)を駆動させ、空気温度検出器14によって検出された空気温度が設定温度Tmに近づくように制御する。
【0032】
(実施の形態1の効果)
以上の構成及び動作のように、乗客又は車体の表面温度、吸込空気温度Tre及び乗車率Xに基づいて平均放射温度Trを算出し、この平均放射温度Trによって快適室温Tcomを導出し、設定温度Tmを設定することによって、乗客及び車体の熱放射を考慮した空調制御が可能となり、快適性を向上させることができる。
【0033】
なお、図1において、表面温度検出器12は、扉15の上部に設置するものとしているが、この場合、その設置場所を鉄道車両1の片側の扉15の上部のみに設置、扉15ごとに左右交互に設置、あるいは、両側の扉15の上部に設置してもよい。このように、片側に設置した場合、コストの削減、及び、ソフトウェアの簡略化が可能となり、一方、両側に設置した場合、日射の有無、又は乗客の向き等による誤差を低減させることができ、温度検出の精度を向上させることができる。
【0034】
また、図8及び図9は、本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムにおける表面温度検出器12の別形態の設置例を示す図である。表面温度検出器12は、図8で示されるように、鉄道車両1の車内の天井に設置するものとしてもよく、あるいは、図9で示されるように、鉄道車両1の車内の妻部に設置するものとしてもよい。このように、表面温度検出器12を天井に設置した場合、表面温度検出器12からの検出方向において乗客が重なりにくいため放射分布が判定しやすくなり、また、表面温度検出器12を妻部に設置した場合、検出範囲が広くなり、表面温度検出器12の設置個数を低減することができる。
【0035】
また、上記の動作において、乗車率Xは、乗車率検出器13によって検出されるものとしているが、これに限定されるものではなく、列車情報管理装置8によって空調制御装置7へ送信される乗車率としてもよく、この場合、乗車率検出器13は備えられなくてもよい。また、この場合において、本発明の「乗車率検出器」は、列車情報管理装置8に相当することになる。
【0036】
実施の形態2.
本実施の形態に係る鉄道車両用空調システムは、実施の形態1に係る同システムと同様の構成であり、以下、その動作において相違する点を中心に説明する。
【0037】
(鉄道車両用空調システムの動作)
本実施の形態においては、平均放射温度Trから設定温度Tmを変更するのではなく、平均放射温度Trから制御温度Thを算出し、制御温度Thが所定の設定温度Tmに近づくように制御する動作について説明する。
【0038】
一般的に、対流及び熱放射の影響を総合評価する作用温度Toが下記の式(4)によって表される。
【0039】
To=(hc・Ta+hr・Tr)/(hc+hr) (4)
【0040】
ここで、Taは空気温度、Trは平均放射温度、hcは対流熱伝達率、hrは放射熱伝達率であり、式(4)で示されるように、作用温度Toは空気温度Ta及び平均放射温度Trを、それぞれ対流熱伝達率hc及び放射熱伝達率hrによって加重平均した温度である。
【0041】
本実施の形態では下記の式(5)のように、空気温度Taに吸込空気温度Tre又は空気温度検出器14によって検出された温度を用い、平均放射温度Trは実施の形態1と同様に式(2)から演算し、吸込空気温度Tre及び平均放射温度Trを、それぞれ定数C1及びC2で加重平均した値を制御温度Thと定義する。
【0042】
Th=(C1・Tre+C2・Tr)/(C1+C2) (5)
【0043】
そして、冷房運転の場合、空調制御装置7は、制御温度Thと設定温度Tmとの温度差に基づいて、空調に必要な能力を演算し、必要な能力に応じて空調接触器4に制御信号を送信して圧縮機3を駆動させ、制御温度Thが設定温度Tmに近づくように制御する。また、暖房運転の場合、制御温度Thと設定温度Tmとの差に基づいて、椅子17の下側又は空調機2の室内熱交換器の近傍に設置されているヒーター(図示せず)を駆動させ、制御温度Thが設定温度に近づくように制御する。
【0044】
(実施の形態2の効果)
以上の動作のように、吸込空気温度Tre及び平均放射温度Trから算出した制御温度Thを用いることによって、乗客及び車体の熱放射を考慮した空調制御が可能となり、快適性を向上させることができる。
【0045】
実施の形態3.
本実施の形態に係る鉄道車両用空調システムは、実施の形態1に係る同システムと同様の構成であり、以下、その動作において相違する点を中心に説明する。
【0046】
(鉄道車両用空調システムの動作)
本実施の形態においては、表面温度検出器12によって検出された温度に基き、扉15の開閉に伴う熱負荷変動に対応する動作について説明する。
【0047】
駅において、鉄道車両1の扉15において乗客19が乗り降りした場合、車内の空気の入れ替わり、及び、乗客19の発熱状態の変化によって、車内の温度が変化する場合がある。このとき、表面温度検出器12は、鉄道車両1が駅に到着する前に、乗客19及び車体の表面温度の平均値Ts1を検出して、空調制御装置7は、この平均値Ts1に基づいて駅到着前の平均放射温度Tr(以下、「到着前温度」という)を実施の形態1と同様に式(2)から算出する。次に、表面温度検出器12は、鉄道車両1が駅に到着し、乗客19の乗り降りが済み扉15が閉まった後に、乗客19及び車体の表面温度の平均値Ts1を検出して、空調制御装置7は、この平均値Ts1に基づいてから乗客19が乗り降りが済んだ後の平均放射温度Tr(以下、「到着後温度」という)を式(2)から算出する。そして、空調制御装置7は、到着前温度と到着後温度とを比較し、到着後温度が到着前温度よりも大きい場合、設定温度Tmを低下させ、到着後温度が到着前温度よりも小さい場合、設定温度Tmを上昇させる。
【0048】
そして、冷房運転の場合、空調制御装置7は吸込空気温度Treと設定温度Tmとの温度差に基づいて、空調に必要な能力を演算し、必要な能力に応じて空調接触器4に制御信号を送信して圧縮機3を駆動させ、吸込空気温度Treが設定温度Tmに近づくように制御する。また、暖房運転の場合、空気温度検出器14によって検出された温度と設定温度Tmとの差に基づいて、椅子17の下側又は空調機2の室内熱交換器の近傍に設置されているヒーター(図示せず)を駆動させ、空気温度検出器14によって検出された温度が設定温度Tmに近づくように制御する。
【0049】
(実施の形態3の効果)
以上の動作によって、乗客の入れ替わりによる熱負荷変動、又は、扉開閉によって外気が車内へ流入した影響を即座に検出することができ、従来の温度検出器よりも熱負荷の変動を即座に検出することができ、空調制御を早めることができ、快適性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 鉄道車両、2 空調機、3 圧縮機、4 空調接触器、5 室内送風機、6 補助送風機、7 空調制御装置、8 列車情報管理装置、9 吸込空気温度検出器、10 外気温度検出器、11 湿度検出器、12 表面温度検出器、13 乗車率検出器、14 空気温度検出器、15 扉、16 表示器、17 椅子、18 窓、19 乗客、20 室外送風機。
【技術分野】
【0001】
本発明は、快適な車内環境を提供する鉄道車両用空調システムに関する。なお、鉄道車両用空調システムとは本技術に使用される鉄道車両用空気調和装置と鉄道車両用空調制御装置の何れか一方又は両方を含むシステムを示す。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両は冷房及び暖房それぞれに基準温度を定め、湿度、乗車率又は外気温度に応じて基準温度を上下に補正し、設定温度を決定している。そして、車内温度が設定温度に近づくように空調を制御するが、車内の温度検出器の温度と乗客の周囲温度とが異なる場合があるため、新幹線等に温度分布認識手段を設置して画像データと従来の温度検出器とから制御温度(乗客の感じる室温)を求め、制御温度が設定温度になるように空調制御しているものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−96306号公報(第4頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、更なる快適性向上のためには乗客の周囲温度を検出するだけでは不十分であり、乗客の熱放射を考慮した制御が必要である。建物の空調制御において、赤外線センサーによって壁床の温度を検知して熱放射の影響を空調へ反映しているものがあるが、鉄道車両では密集した乗客から受ける熱放射があり、建物と同じ検出方法及び制御方法では対応できないという問題点があった。
【0005】
また、鉄道車両は、乗車率の変化、扉の開閉又は窓の日射によって車内の熱負荷変動が大きいという特徴を有し、さらに、その乗客については着衣量の調整がしづらい、そして、設定温度及び風量を自由に変更できないといった特徴があるため、設定温度は客観的な快適性指標に基づいて決定することが重要である。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、乗客の快適性を向上させる鉄道車両用空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る鉄道車両用空調システムは、鉄道車両内の空調運転を実施する鉄道車両用空気調和機(空調機)と、該空調機へ吸い込まれる空気の温度を検出する吸込空気温度検出器と、前記鉄道車両内の少なくとも乗客又は前記鉄道車両の車体の表面温度を検出する表面温度検出器と、前記鉄道車両内における前記乗客の乗車率を検出する乗車率検出器と、前記鉄道車両内の温度(車内温度)が設定温度に近づくように前記空調機を制御する鉄道車両用空調制御装置(空調制御装置)と、を備え、前記空調制御装置は、前記吸込空気温度検出器によって検出された前記空調機へ吸い込まれる空気の温度(吸込空気温度)、前記表面温度検出器によって検出された前記表面温度(検出表面温度)、及び、前記乗車率検出器によって検出された前記乗車率(検出乗車率)に基づいて、平均放射温度を算出し、該平均放射温度に基づいて前記設定温度を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乗客又は車体の表面温度、吸込空気温度及び乗車率Xに基づいて平均放射温度を算出し、この平均放射温度に基づいて設定温度を決定することによって、乗客又は車体の熱放射を考慮した空調制御が可能となり、快適性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムにおける鉄道車両の構成図の例である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムの制御ブロック図を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1における鉄道車両1の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における鉄道車両1の乗車率とその車内における乗客19の状況との関係を示す図である。
【図5】平均放射温度TrとPMWとの関係を示す図である。
【図6】平均放射温度TrとSET*との関係を示す図である。
【図7】SET*=24[℃]となる場合の平均放射温度Trと快適室温との関係を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムにおける表面温度検出器12の別形態の設置例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムにおける表面温度検出器12の別形態の設置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
(鉄道車両用空調システムの構成)
図1は、本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムにおける鉄道車両の構成図の例である。
【0011】
図1で示されるように、鉄道車両1は、その上部に取り付けられた空調機2、その空調機2の内部に設置され、その冷凍サイクルにおける冷媒を送り出す圧縮機3、その圧縮機3等を駆動制御する空調接触器4、空調機2から車内へ空気を送り出す室内送風機5、車内の空気を攪拌する補助送風機6、外気温度を検出する外気温度検出器10、及び、車内上部に設置され、本実施の形態に係る鉄道車両用空調システム全体の制御をする空調制御装置7を備えている。また、鉄道車両1の車内において、車内から空調機2へ戻る空気の温度を検出する吸込空気温度検出器9、車内の湿度を検出する湿度検出器11、車内の壁・床等の表面温度及び乗客の表面温度を検出する表面温度検出器12、車内の乗車率を検出する乗車率検出器13(図示せず)、車両内の壁に設置され、その周囲の空気温度を検出する空気温度検出器14、乗客が乗り降りする扉15、乗客に広告等の情報を表示する表示器16、乗車率、扉開閉又は月日等の情報を空調制御装置7へ送信する列車情報管理装置8、乗客が座る椅子17、及び、窓18が備えられている。また、図1は、鉄道車両1の車内に、数人の乗客19が乗車した状態を示している。なお、空調機2は、鉄道車両1の下部に取り付けてもよい。
【0012】
図2は、本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムの制御ブロック図を示す図である。
図2で示されるように、吸込空気温度検出器9、外気温度検出器10、湿度検出器11、表面温度検出器12、及び空気温度検出器14が、空調制御装置7に接続されており、それぞれが検出した情報を空調制御装置7に送信する。乗車率検出器13は、列車情報管理装置8に接続されており、検出した情報を列車情報管理装置8に送信する。また、列車情報管理装置8も、空調制御装置7に接続されており、乗車率、扉開閉又は月日等の情報を、空調制御装置7に送信する。また、空調制御装置7は、空調接触器4に接続されており、さらに、その空調接触器4は、圧縮機3、室内送風機5、補助送風機6及び室外送風機20等に接続されており、空調制御装置7から受信した制御信号に基づいて、圧縮機3、室内送風機5、補助送風機6及び室外送風機20等を駆動制御する。
【0013】
(空調機2の動作)
次に、本実施の形態における空調機2の動作について説明する。冷房運転時、空調機2内の冷凍サイクルの配管内を流通する冷媒は、圧縮機3において圧縮され高温高圧のガス冷媒として送り出され、室外送風機20の送風によって室外熱交換器において放熱して凝縮し、絞り装置において低温低圧となった後、室内熱交換器において吸熱して蒸発し、再び、圧縮機3へと戻る。
【0014】
車内の空気は、リターン口から空調機2へと吸い込まれ、室内熱交換器において熱交換が実施されて冷気となり、室内送風機5によって、車内へと送り出され、乗客19及び車体等を冷やしてから、再び、リターン口を通って空調機2へと戻る。
【0015】
なお、本実施の形態における鉄道車両用空調システムは、冷房運転機能のみではなく、暖房運転機能を備えているものとしてもよい。暖房においては、椅子17の下や室内熱交換器近くにヒーターを備え、そのヒーターの通電を制御する。
【0016】
(表面温度検出器12の説明)
図3は、本発明の実施の形態1における鉄道車両1の断面図である。
図3で示されるように、表面温度検出器12は、扉15の上部に設置されており、点線で示した範囲に存在する物体の表面温度を検出する。表面温度検出器12は、物体からの赤外線を検出してその表面温度を検出するものであり、その内部に備えられる赤外線検出器は、熱型(サーモパイル、ボロメーター又は焦電等)又は量子型のいずれでもよく、また、赤外線検出器内の素子は単数でも複数でもよい。また、表面温度検出器12内の赤外線検出器は、その複数の素子を縦横に整列させて、面状に温度を測定するか、又は、素子の向きを可動として複数個所の表面温度を測定するものとしてもよい。
【0017】
(平均放射温度Trの演算)
図4は、本発明の実施の形態1における鉄道車両1の乗車率とその車内における乗客19の状況との関係を示す図である。
乗客の皮膚温度は30〜35[℃]で、吸込空気温度検出器9によって検出される空調機2へ戻る空気の温度(以下、「吸込空気温度Tre」という)及び床は季節によって18〜28[℃]の間で変化し、乗客19の着衣表面温度は皮膚温度と吸込空気温度Treとの間の値になる。乗車率が低い場合、乗客19の熱放射は、壁、床及び窓等の車体表面温度の影響を受けやすいため、表面温度検出器12は、主に車体の表面温度を検出する。一方、乗車率が高い場合、乗客19の熱放射は、周囲の乗客19の表面温度の影響を受けやすいため、表面温度検出器12は、主に乗客19の表面温度を検出する。一般に、周囲の全方向から受ける熱放射を平均化した温度を示す平均放射温度Trは、下記の式(1)で示されるように、周囲の物体の表面温度Tiとその形態係数Fiとの積の和によって算出される。
【0018】
Tr=Σ(Fi・Ti) (i=1,2,3,・・・) (1)
【0019】
ここで、形態係数Fiとは、ある面から発せられる熱エネルギーの合計が、入射エネルギーとして他の面へ伝わる割合を示すための係数であり、それらの面の間の相対的な位置関係及び形態のみによって定まり、その値は0から1の間の無次元の数値をとるものである。本実施の形態においては、鉄道車両1における乗車率によって、人の位置が変化することから、形態係数は乗車率検出器13によって検出される乗車率Xの関数とする。
【0020】
また、周囲の物体の表面温度Tiは、表面温度検出器12によって検出された乗客及び車体の表面温度の平均値Ts1を用いるが、乗車率Xが増加すると壁及び床等の表面温度が検出できなくなるので、その代替として吸込空気温度検出器9によって検出される吸込空気温度Treも用いるものとし、本実施の形態においては、平均放射温度Trは、下記の式(2)によって算出する。
【0021】
Tr=F1(X)・Ts1+F2(X)・Tre+C (2)
【0022】
ここで、F1は表面温度の平均値Ts1に対応する形態係数、F2は吸込空気温度Treに対応する形態係数、そして、Cは所定の定数である。季節によって乗客の着衣量が変化すると平均値Ts1と吸込空気温度Treとの関係も変化するため、空調制御装置7は、列車情報管理装置8から月日の情報を受信して月及び季節を判別するカレンダー機能を備え、月や季節に応じて形態係数F1及びF2の式又は定数Cを変更する。なお、式(2)は吸込空気温度Treの代わりに空気温度検出器14によって検出された温度を用いてもよい。室内送風機5が運転している場合、吸込空気温度検出器9に車内からの空気が多く流れ車内温度を正確に測定できるが、室内送風機5が停止している場合は吸込空気温度検出器9に風が流れにくくなるため空気温度検出器14の方が車内温度を測定しやすい。また、上記においては、平均放射温度Trを算出するのに上記の式(2)を用いるものとしているが、これに限定するものではなく、乗客又は車体の表面温度、吸込空気温度Tre、及び乗車率Xに基づいて、他の方法によって算出するものとしてもよい。その他、温度センサーを新たに取り付けて演算してもよいし、F2(X)=0とした表面温度検出器12の温度及び形態係数のみの式の構成によって演算してもよい。
【0023】
(快適性指標)
熱放射によって人から周囲物体へと伝わる熱流速R[W/m2]は、人の表面温度Tsと平均放射温度Trによって、下記の式(3)によって表される。
【0024】
R=σ・ε・{(Ts+273.15)4−(Tr+273.15)4} (3)
【0025】
ここで、σはステファンボルツマン定数であり、εは熱放射率である。式(3)で示されるように、平均放射温度Trが低いほど、人から壁等へ逃げる熱流速Rが増加して、人は寒く感じる。一方、平均放射温度Trが高いほど、人から壁等へ逃げる熱流速Rが減少して、人は暑く感じる。
【0026】
図5は、平均放射温度TrとPMWとの関係を示す図であり、図6は、平均放射温度TrとSET*との関係を示す図である。
快適性を評価する指標として、一般的に、PMV(Predicted Mean Vote)やSET*(標準新有効温度、Standard new Effective Temperature)が用いられており、PMVについては0±0.5以内、そして、SET*については22〜26[℃]の環境が快適であるとされる。PMV及びSET*は、室温、平均放射温度、相対湿度、風速、着衣量及び代謝量から演算され、例えば、室温が22[℃]、25[℃]及び28[℃]で、相対湿度が50[%]、風速が0.2[m/s]、着衣量が0.4[clo](夏期)、並びに、代謝量が1.2[Met](直立不動)とした場合、PMWは図5のように算出され、そして、SET*は図6のように算出され、平均放射温度Trの変化による温冷感の変化を定量化することができる。
【0027】
(鉄道車両用空調システムの動作)
図7は、SET*=24[℃]となる場合の平均放射温度Trと快適室温との関係を示す図であり、着衣量0.45[clo]、風速0.1[m/s]及び代謝量1.2[Met]の場合、平均放射温度Trに対してSET*が24[℃]となる室温を示している。このときの室温を快適室温Tcomとする。
【0028】
まず、空調制御装置7は、乗車率検出器13によって検出された乗車率Xに基づいて、式(2)における形態係数F1及びF2を算出する。そして、空調制御装置7は、吸込空気温度検出器9によって算出された吸込空気温度Tre、表面温度検出器12によって検出された乗客及び車体の表面温度の平均値Ts1、及び、算出した形態係数F1及びF2に基づいて、式(2)から平均放射温度Trを算出する。
【0029】
次に、空調制御装置7は、図7で示される平均放射温度Trと快適室温との関係に基づいて、上記のように算出した平均放射温度Trから、快適室温Tcomを導出し、この快適室温Tcomを設定温度Tmとする。
【0030】
以上のような、空調制御装置7が、乗車率X、吸込空気温度Tre、並びに、乗客及び車体の表面温度の平均値Ts1に基づいて平均放射温度Trを算出し、設定温度Tmを設定する動作は、常時実施するものとしてもよく、所定時間毎、又は駅間毎に実施するものとしてもよい。
【0031】
そして、冷房運転の場合、空調制御装置7は吸込空気温度Treと設定温度Tmとの温度差に基づいて、空調に必要な能力を演算し、必要な能力に応じて空調接触器4に制御信号を送信して圧縮機3を駆動させ、吸込空気温度Treが設定温度Tmに近づくように制御する。また、暖房運転の場合、空気温度検出器14によって検出された温度と設定温度Tmとの差に基づいて、椅子17の下側又は空調機2の室内熱交換器の近傍に設置されているヒーター(図示せず)を駆動させ、空気温度検出器14によって検出された空気温度が設定温度Tmに近づくように制御する。
【0032】
(実施の形態1の効果)
以上の構成及び動作のように、乗客又は車体の表面温度、吸込空気温度Tre及び乗車率Xに基づいて平均放射温度Trを算出し、この平均放射温度Trによって快適室温Tcomを導出し、設定温度Tmを設定することによって、乗客及び車体の熱放射を考慮した空調制御が可能となり、快適性を向上させることができる。
【0033】
なお、図1において、表面温度検出器12は、扉15の上部に設置するものとしているが、この場合、その設置場所を鉄道車両1の片側の扉15の上部のみに設置、扉15ごとに左右交互に設置、あるいは、両側の扉15の上部に設置してもよい。このように、片側に設置した場合、コストの削減、及び、ソフトウェアの簡略化が可能となり、一方、両側に設置した場合、日射の有無、又は乗客の向き等による誤差を低減させることができ、温度検出の精度を向上させることができる。
【0034】
また、図8及び図9は、本発明の実施の形態1に係る鉄道車両用空調システムにおける表面温度検出器12の別形態の設置例を示す図である。表面温度検出器12は、図8で示されるように、鉄道車両1の車内の天井に設置するものとしてもよく、あるいは、図9で示されるように、鉄道車両1の車内の妻部に設置するものとしてもよい。このように、表面温度検出器12を天井に設置した場合、表面温度検出器12からの検出方向において乗客が重なりにくいため放射分布が判定しやすくなり、また、表面温度検出器12を妻部に設置した場合、検出範囲が広くなり、表面温度検出器12の設置個数を低減することができる。
【0035】
また、上記の動作において、乗車率Xは、乗車率検出器13によって検出されるものとしているが、これに限定されるものではなく、列車情報管理装置8によって空調制御装置7へ送信される乗車率としてもよく、この場合、乗車率検出器13は備えられなくてもよい。また、この場合において、本発明の「乗車率検出器」は、列車情報管理装置8に相当することになる。
【0036】
実施の形態2.
本実施の形態に係る鉄道車両用空調システムは、実施の形態1に係る同システムと同様の構成であり、以下、その動作において相違する点を中心に説明する。
【0037】
(鉄道車両用空調システムの動作)
本実施の形態においては、平均放射温度Trから設定温度Tmを変更するのではなく、平均放射温度Trから制御温度Thを算出し、制御温度Thが所定の設定温度Tmに近づくように制御する動作について説明する。
【0038】
一般的に、対流及び熱放射の影響を総合評価する作用温度Toが下記の式(4)によって表される。
【0039】
To=(hc・Ta+hr・Tr)/(hc+hr) (4)
【0040】
ここで、Taは空気温度、Trは平均放射温度、hcは対流熱伝達率、hrは放射熱伝達率であり、式(4)で示されるように、作用温度Toは空気温度Ta及び平均放射温度Trを、それぞれ対流熱伝達率hc及び放射熱伝達率hrによって加重平均した温度である。
【0041】
本実施の形態では下記の式(5)のように、空気温度Taに吸込空気温度Tre又は空気温度検出器14によって検出された温度を用い、平均放射温度Trは実施の形態1と同様に式(2)から演算し、吸込空気温度Tre及び平均放射温度Trを、それぞれ定数C1及びC2で加重平均した値を制御温度Thと定義する。
【0042】
Th=(C1・Tre+C2・Tr)/(C1+C2) (5)
【0043】
そして、冷房運転の場合、空調制御装置7は、制御温度Thと設定温度Tmとの温度差に基づいて、空調に必要な能力を演算し、必要な能力に応じて空調接触器4に制御信号を送信して圧縮機3を駆動させ、制御温度Thが設定温度Tmに近づくように制御する。また、暖房運転の場合、制御温度Thと設定温度Tmとの差に基づいて、椅子17の下側又は空調機2の室内熱交換器の近傍に設置されているヒーター(図示せず)を駆動させ、制御温度Thが設定温度に近づくように制御する。
【0044】
(実施の形態2の効果)
以上の動作のように、吸込空気温度Tre及び平均放射温度Trから算出した制御温度Thを用いることによって、乗客及び車体の熱放射を考慮した空調制御が可能となり、快適性を向上させることができる。
【0045】
実施の形態3.
本実施の形態に係る鉄道車両用空調システムは、実施の形態1に係る同システムと同様の構成であり、以下、その動作において相違する点を中心に説明する。
【0046】
(鉄道車両用空調システムの動作)
本実施の形態においては、表面温度検出器12によって検出された温度に基き、扉15の開閉に伴う熱負荷変動に対応する動作について説明する。
【0047】
駅において、鉄道車両1の扉15において乗客19が乗り降りした場合、車内の空気の入れ替わり、及び、乗客19の発熱状態の変化によって、車内の温度が変化する場合がある。このとき、表面温度検出器12は、鉄道車両1が駅に到着する前に、乗客19及び車体の表面温度の平均値Ts1を検出して、空調制御装置7は、この平均値Ts1に基づいて駅到着前の平均放射温度Tr(以下、「到着前温度」という)を実施の形態1と同様に式(2)から算出する。次に、表面温度検出器12は、鉄道車両1が駅に到着し、乗客19の乗り降りが済み扉15が閉まった後に、乗客19及び車体の表面温度の平均値Ts1を検出して、空調制御装置7は、この平均値Ts1に基づいてから乗客19が乗り降りが済んだ後の平均放射温度Tr(以下、「到着後温度」という)を式(2)から算出する。そして、空調制御装置7は、到着前温度と到着後温度とを比較し、到着後温度が到着前温度よりも大きい場合、設定温度Tmを低下させ、到着後温度が到着前温度よりも小さい場合、設定温度Tmを上昇させる。
【0048】
そして、冷房運転の場合、空調制御装置7は吸込空気温度Treと設定温度Tmとの温度差に基づいて、空調に必要な能力を演算し、必要な能力に応じて空調接触器4に制御信号を送信して圧縮機3を駆動させ、吸込空気温度Treが設定温度Tmに近づくように制御する。また、暖房運転の場合、空気温度検出器14によって検出された温度と設定温度Tmとの差に基づいて、椅子17の下側又は空調機2の室内熱交換器の近傍に設置されているヒーター(図示せず)を駆動させ、空気温度検出器14によって検出された温度が設定温度Tmに近づくように制御する。
【0049】
(実施の形態3の効果)
以上の動作によって、乗客の入れ替わりによる熱負荷変動、又は、扉開閉によって外気が車内へ流入した影響を即座に検出することができ、従来の温度検出器よりも熱負荷の変動を即座に検出することができ、空調制御を早めることができ、快適性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 鉄道車両、2 空調機、3 圧縮機、4 空調接触器、5 室内送風機、6 補助送風機、7 空調制御装置、8 列車情報管理装置、9 吸込空気温度検出器、10 外気温度検出器、11 湿度検出器、12 表面温度検出器、13 乗車率検出器、14 空気温度検出器、15 扉、16 表示器、17 椅子、18 窓、19 乗客、20 室外送風機。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両内の空調運転を実施する空調機と、
前記鉄道車両内の少なくとも乗客又は前記鉄道車両の車体の表面温度を検出する表面温度検出器と、
前記鉄道車両内における前記乗客の乗車率を検出する乗車率検出器と、
前記鉄道車両内の温度(以下、「車内温度」という)が設定温度に近づくように前記空調機を制御する空調制御装置と、
を備え、
前記空調制御装置は、
前記車内温度、前記表面温度検出器によって検出された前記表面温度(以下、「検出表面温度」という)、及び、前記乗車率検出器によって検出された前記乗車率(以下、「検出乗車率」という)に基づいて、平均放射温度を算出し、
該平均放射温度に基づいて前記設定温度を決定する
ことを特徴とする鉄道車両用空調システム。
【請求項2】
鉄道車両内の空調運転を実施する空調機と、
前記鉄道車両内の少なくとも乗客又は前記鉄道車両の車体の表面温度を検出する表面温度検出器と、
前記鉄道車両内における前記乗客の乗車率を検出する乗車率検出器と、
前記鉄道車両内の制御温度が設定温度に近づくように前記空調機を制御する空調制御装置と、
を備え、
前記空調制御装置は、
前記鉄道車両内の温度(以下、「車内温度」という)、前記表面温度検出器によって検出された前記表面温度(以下、「検出表面温度」という)、及び、前記乗車率検出器によって検出された前記乗車率(以下、「検出乗車率」という)、に基づいて、平均放射温度を算出し、
該平均放射温度と前記車内温度に基づいて前記制御温度を算出する
ことを特徴とする鉄道車両用空調システム。
【請求項3】
鉄道車両内の空調運転を実施する空調機と、
前記鉄道車両内の少なくとも乗客又は前記鉄道車両の車体の表面温度を検出する表面温度検出器と、
前記鉄道車両内における前記乗客の乗車率を検出する乗車率検出器と、
前記鉄道車両内の温度(以下、「車内温度」という)が設定温度に近づくように前記空調機を制御する空調制御装置と、
を備え、
前記空調制御装置は、
前記鉄道車両が停車する前、及び、車両が停止して乗客の乗り降りが終了し、扉が閉まった後に、前記車内温度、前記表面温度検出器によって検出された前記表面温度(以下、「検出表面温度」という)、及び、前記乗車率検出器によって検出された前記乗車率(以下、「検出乗車率」という)に基づいて、平均放射温度を算出し、
これらの平均放射温度の温度差に基づいて前記設定温度を決定する
ことを特徴とする鉄道車両用空調システム。
【請求項4】
前記空調制御装置は、前記検出乗車率に基づいて形態係数を算出し、該形態係数、前記検出表面温度、及び前記室温に基づいて、前記平均放射温度を算出する
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の鉄道車両用空調システム。
【請求項5】
前記空調制御装置は、月や季節の判別が可能なカレンダー機能を備え、月や季節に基づいて前記形態係数の算出式を変更する
ことを特徴とする請求項4記載の鉄道車両用空調システム。
【請求項6】
前記空調機へ吸い込まれる空気の温度を検出する吸込空気温度検出器を備え、
前記空調制御装置は、前記吸込空気温度検出器によって検出された温度を前記車内温度とする
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の鉄道車両用空調システム。
【請求項7】
前記鉄道車両内の壁上に設置され、前記鉄道車両内の空気の温度を検出する空気温度検出器を備え、
前記空調制御装置は、前記空気温度検出器によって検出された温度を前記車内温度とする
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の鉄道車両用空調システム。
【請求項1】
鉄道車両内の空調運転を実施する空調機と、
前記鉄道車両内の少なくとも乗客又は前記鉄道車両の車体の表面温度を検出する表面温度検出器と、
前記鉄道車両内における前記乗客の乗車率を検出する乗車率検出器と、
前記鉄道車両内の温度(以下、「車内温度」という)が設定温度に近づくように前記空調機を制御する空調制御装置と、
を備え、
前記空調制御装置は、
前記車内温度、前記表面温度検出器によって検出された前記表面温度(以下、「検出表面温度」という)、及び、前記乗車率検出器によって検出された前記乗車率(以下、「検出乗車率」という)に基づいて、平均放射温度を算出し、
該平均放射温度に基づいて前記設定温度を決定する
ことを特徴とする鉄道車両用空調システム。
【請求項2】
鉄道車両内の空調運転を実施する空調機と、
前記鉄道車両内の少なくとも乗客又は前記鉄道車両の車体の表面温度を検出する表面温度検出器と、
前記鉄道車両内における前記乗客の乗車率を検出する乗車率検出器と、
前記鉄道車両内の制御温度が設定温度に近づくように前記空調機を制御する空調制御装置と、
を備え、
前記空調制御装置は、
前記鉄道車両内の温度(以下、「車内温度」という)、前記表面温度検出器によって検出された前記表面温度(以下、「検出表面温度」という)、及び、前記乗車率検出器によって検出された前記乗車率(以下、「検出乗車率」という)、に基づいて、平均放射温度を算出し、
該平均放射温度と前記車内温度に基づいて前記制御温度を算出する
ことを特徴とする鉄道車両用空調システム。
【請求項3】
鉄道車両内の空調運転を実施する空調機と、
前記鉄道車両内の少なくとも乗客又は前記鉄道車両の車体の表面温度を検出する表面温度検出器と、
前記鉄道車両内における前記乗客の乗車率を検出する乗車率検出器と、
前記鉄道車両内の温度(以下、「車内温度」という)が設定温度に近づくように前記空調機を制御する空調制御装置と、
を備え、
前記空調制御装置は、
前記鉄道車両が停車する前、及び、車両が停止して乗客の乗り降りが終了し、扉が閉まった後に、前記車内温度、前記表面温度検出器によって検出された前記表面温度(以下、「検出表面温度」という)、及び、前記乗車率検出器によって検出された前記乗車率(以下、「検出乗車率」という)に基づいて、平均放射温度を算出し、
これらの平均放射温度の温度差に基づいて前記設定温度を決定する
ことを特徴とする鉄道車両用空調システム。
【請求項4】
前記空調制御装置は、前記検出乗車率に基づいて形態係数を算出し、該形態係数、前記検出表面温度、及び前記室温に基づいて、前記平均放射温度を算出する
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の鉄道車両用空調システム。
【請求項5】
前記空調制御装置は、月や季節の判別が可能なカレンダー機能を備え、月や季節に基づいて前記形態係数の算出式を変更する
ことを特徴とする請求項4記載の鉄道車両用空調システム。
【請求項6】
前記空調機へ吸い込まれる空気の温度を検出する吸込空気温度検出器を備え、
前記空調制御装置は、前記吸込空気温度検出器によって検出された温度を前記車内温度とする
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の鉄道車両用空調システム。
【請求項7】
前記鉄道車両内の壁上に設置され、前記鉄道車両内の空気の温度を検出する空気温度検出器を備え、
前記空調制御装置は、前記空気温度検出器によって検出された温度を前記車内温度とする
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の鉄道車両用空調システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−17002(P2012−17002A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155071(P2010−155071)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】
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