説明

鉄道車両用電気品収容用の筐体構造を構成する薄板及びこれを用いた鉄道車両用電気品収容用の筐体、鉄道車両用電気機器

【課題】溶接スパンと溶接ピッチに対するケガキ作業を行うことなく、各溶接箇所の箇所と長さを簡単に把握できるようにするとともに、断続的に突出する溶接ビードの発生を防止して、十分な溶接強度の確保と鉄道車両用筐体構造の品位向上を可能にする。
【解決手段】一方の薄板の端部を折り曲げることにより形成した立ち上がり部と他方の薄板の表面とを、互いに対向して接触するよう位置決めし、この立ち上がり部の端面に沿って、断続的な隅肉溶接により接合を行うことにより、鉄道車両用電気品を収容する筐体構造を構成する薄板において、立ち上がり部の端面に、断続的な隅肉溶接を行う箇所に対応して、ビードを内部に収容する切り欠き部を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鉄道車両の一部を構成する電気機器(インバータ装置、保安装置等)は、主回路とその周辺機器とともに筐体構造の内部に収容されるようになっており、こうした筐体構造は薄板を接合することにより製造されている。
薄板の接合を行う際、強度上問題とならない部位については、断続的に溶接を行うことになるが、本発明は、特にこうした断続溶接を精度高く行うための薄板の構造及びこれを用いた鉄道車両用電気品収容用の筐体、鉄道車両用電気機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
断続溶接は接合部材の全周に対して、所定のピッチで断続的に局所的な溶接を行うものである。例えば、一方の薄板の表面に対し他方の薄板の端面を直交するよう突き合わせた部分を接合する場合、この突き合わせ部に沿って、断続的に溶接を行うT継手と呼ばれる隅肉溶接を行うことが一般的に行われている。しかし、溶接ビードが断続的に、しかも、部分的に盛り上がる仕上がりとなるため、筐体の品位を著しく低下させるとともに、溶接ビードにより、電気機器や電気配線を損傷させるなどの問題があった。
【0003】
また、設計上求められる接合強度を得るためには、断続的に溶接を行う箇所の数(溶接ピッチ)と、各溶接箇所の長さ(溶接スパン)を最適に選定する必要があり、断続溶接を行う際の事前準備として、溶接スパンと溶接ピッチに対するケガキ作業が必要となり、これが工数を増大させ、場合によっては、溶接箇所を誤ったり、必要な溶接箇所を見過ごし、接合強度を低下させるといった懸念があった。
【0004】
こうした問題を解決するため、下記特許文献1には、仮付け溶接を適確に行うため、裏当金に仮付け溶接位置を表示することが示されている。
また、下記特許文献2には、ディスク体の環状突出部に対するリム体の突き合わせ部に、全周にわたり環状凹部を形成して、この凹部を溶接し、溶接ビードをリム体表面側の外周に設けたフロントフランジで隠すようにした2ピース溶接型の自動車ホイールの溶接構造が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−9193号公報
【特許文献2】特開平9−202104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたものは、裏当金を仮溶接する際の仮付け位置を表示するもので、上述した筐体構造を構成する際に行われる薄板の断続隅肉溶接には適用することができず、また、裏当金を使用して本溶接を行うことから、仮溶接時のビードが品位上問題になることはない。
また、特許文献2に記載のものも、2ピース溶接型の自動車ホイールを前提として、ディスク体のフロントフランジ部裏面内周部に環状の凹部を設ける等、特殊な構造を採用しており、筐体構造形を構成する際の薄板の断続隅肉溶接に適用することができない。
【0007】
そこで、本発明は、鉄道車両用筐体構造を形成する薄板に、予め、設計上求められる接合強度を得るのに必要な断続的な溶接箇所に対応して、溶接ビードを内包する切り欠きを形成しておくことにより、溶接スパンと溶接ピッチに対するケガキ作業を行うことなく、各溶接箇所の箇所と長さを簡単に把握できるようにするとともに、断続的に突出する溶接ビードをこの切り欠き内に収容し、十分な溶接強度の確保、鉄道車両用筐体構造の品位向上、さらには電気機器や電気配線の損傷防止を可能にした薄板材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、断続隅肉溶接を行う位置に対応して、薄板に切り欠きを設けた。具体的には、本発明の薄板は、一方の薄板の端部を折り曲げることにより形成した立ち上がり部と、他方の薄板の表面とを、互いに対向して接触するよう位置決めし、前記立ち上がり部の端面に沿って、断続的な隅肉溶接により接合を行うことで、鉄道車両用電気品を収容する筐体構造を構成する薄板において、前記立ち上がり部の端面に、断続的な隅肉溶接を行う箇所に対応して切り欠き部を形成した。
この切り欠きの深さを、溶接時に発生するビードを完全に収納できるように設定されるとさらに好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、断続的に隅肉溶接を行う箇所を明示できるため、ケガキ作業が省け、溶接誤りや忘れといったヒューマンエラーを未然に防止することができるとともに、溶接ビードが切り欠き部に収まるため、部材周りの盛り上がりを抑え、省スペース化や軽量化、筐体構造の品位向上、さらには意匠性に寄与することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】インバータ装置の全体構造を示す図。
【図2】筐体構造を示す図。
【図3】薄板からなる構成部材107を示す図。
【図4】図3における構成部材107の断面A−Aを示す図。
【図5】構成部材107と筐体壁面108との配置を示す図。
【図6】構成部材107の立ち上がり部109端面における切り欠き部110の配置を示す図。
【図7】隅肉溶接の仕上がり時の状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施例について図面を用いて説明する。本実施例では、鉄道車両の駆動制御を行うインバータ装置を収容する筐体を例に挙げて説明する。
【実施例】
【0012】
図1に、本実施例のインバータ装置の全体構造を示す。このインバータ装置の設置場所は車両の床下で、装置天板105の輪郭に沿って、8箇所設けられた吊り耳106をボルト接合によって車体に吊られた状態で固定設置される。このときインバータ装置の長手方向が車両の進行方向となる。
インバータ装置はその電気回路において高電圧部が存在するため、十分な絶縁距離が確保されるよう、必要な電気機器が配置されている。この例では装置内部において、制御部100、機器部101、パワーユニット部102、抵抗器部103、遮断器部104の順で隣り合った構成となっており、隣接するもの同士は仕切り板により区切られている。なお、これら各構成部は互いに電気配線で接続されており、大電流用の導体バーと制御信号用の細い電線が通じるための経路と固定用金具がインバータ装置内部に確保されている。
【0013】
図1において上述の各電気機器を取り去った構造を図2に示す。これがインバータ装置の筐体となる。この筐体は所定の形状に加工された薄板の接合により構成されており、その接合手段として、一部に断続溶接による隅肉溶接が採用されている。
すなわち、車両静止時の静的応力もしくは車両走行時の振動による動的応力に対して十分な強度が確保されており、しかも厳密な気密性を保つ必要がない接合部については、断続的な溶接により部分的に部材を繋ぎ止めておけば、設計上必要な強度を得ることができる。なお、仮に接合部の全長に溶接を施すと、薄板への入熱量が必要以上に過大となり、歪み変形が生じて筐体としての精度が低下してしまうため、断続的な隅肉溶接は、こうした精度低下を防止することも意図している。
【0014】
次に、本発明が適用される薄板の構造について具体例を挙げて説明する。
図2に示す、薄板からなる構成部材107は、前述のパワーユニット部102を固定するため、筐体に取付けられる枠体であり、この構成部材107を単独に示したものが図3である。
この構成部材107は、図3の断面A−Aを示す図4から明らかなように、その周囲において所定の幅の曲げ代19を備えた立ち上がり部109が形成されている。
そして、この構成部材107は、筐体構造を構成する際、図2において、立ち上がり部109と筐体壁面108(図示では筐体底面)とが面同士互いに対向して接触する状態で接合されるようになっている。
【0015】
図4の矢視C方向からみたものが図5であり、この図に示すように、立ち上がり部109の端面には、その長手方向に沿って、切り欠き110が形成されている。
この実施例では、切り欠き110は、それぞれ幅20mm、深さ2mm程度のもので、両端部に垂直端面を有しており、図6に示すように、構成部材107の両端に形成されるとともに、中央に向かって、次の切り欠きとの間が42mm、それ以外の切り欠き間では60mmという規則的なピッチで計9個設けられている。なお、こうした切り欠き110を形成する際には、立ち上がり部109を形成する以前、あるいは形成後に、タレットパンチで打ち抜くことにより形成すればよいが、薄板をプレス機で打ち抜いて構成部材107を成型する際、そのプレス機の金型に、予めこれらの切り欠き110に対応する凹部を設けておくことにより、特別なプロセスを必要とすることなく、低コストに形成することができる。
【0016】
この構成部材107をその周囲で折り曲げることにより形成した立ち上がり部109を、図7に示すように筐体壁面108に、互いの面同士が対向して接触するよう位置決めしたとき、これらの切り欠き110は、断続的な隅肉溶接を行う箇所を明示する目印となる。
このように薄板材である構成部材107に予め溶接部目印を形成しているため、作業者は溶接箇所を容易に知ることができ、溶接作業毎に行うケガキ作業の手間を大幅に省くことができるとともに、ケガキの出来不出来といったムラを無くすことができる。このことは、工数を減少させるだけでなく、対象製品の品質向上に寄与することとなる。
【0017】
さらに、この切り欠き110で溶接を行う際、作業者は、自然と切り欠き110内に溶接ビード111が充填させるように心がけることになることから、質の高い溶接を促すとともに、切り欠き110両端の垂直端面も溶接ビード111が充填されることにより、図7において、切り欠き110両端の垂直端面と筐体壁面108と間も溶接されることになるから、切り欠き110の深さを選定することにより、構成部材107に対し水平方向に作用する応力に対する接合強度を高めることができる。
【0018】
また、切り欠き形成のために除去した薄板材の質量は、一箇所当たりではそれほどのものではないが、筐体内至る所に隅肉溶接箇所が存在するため、例えばこれが100箇所存在する場合には、切り欠きを持たないものと比較して、一箇所当たりの除去質量の100倍程度もの軽量化が可能となり、特に、輸送機器においては、同程度の強度を確保した上での軽量化を実現でき、省エネルギの観点でも有益である。
【0019】
図7に、このように溶接によって切り欠き110に形成された溶接ビード111の仕上がり状態を示す。この切り欠き110は長手方向に対して必要ビード長を有し、薄板内部に向かってはビード幅程度の深さを有しているため、溶接ビード111がこの切り欠き110の内部にちょうど収容され、溶接部が端面に沿うような仕上がりとなる。
このように、切り欠きが無い場合と比較して、端面より外側にビードがはみ出すことがないため、この分の占有スペースを節減できることになり、特に部品点数が多い場合の部品干渉を防止するとともに、これらを筐体内に設置する際の作業時に、溶接ビードによる電気機器の損傷やこれらを接続する電気配線の損傷、断線を効果的に防止することできる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、鉄道車両用電気品を収容する筐体構造を構成する薄板に、断続的な隅肉溶接を行う箇所に対応して予め切り欠きを形成しておくことにより、溶接スパンと溶接ピッチに対するケガキ作業を行うことなく、作業者が各溶接箇所の箇所と長さを簡単に把握させ、十分な溶接強度が確保されるとともに、溶接ビードが断続的に突出することなく、切り欠き内に収容されることにより、筐体の品位向上、さらには電気配線等の損傷防止を実現できるので、鉄道車両用筐体構造を構成する板材として広く採用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0021】
100 制御部
101 機器部
102 パワーユニット部
103 抵抗器部
104 遮断器部
105 遮断器部
106 パワーユニット固定用構成部材
107 構成部材(薄板)
108 筐体壁面
109 立ち上がり部
110 切り欠き
111 溶接ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の薄板の端部を折り曲げることにより形成した立ち上がり部と他方の薄板の表面とを、互いに対向して接触するよう位置決めし、前記立ち上がり部の端面に沿って、断続的な隅肉溶接により接合を行うことにより、鉄道車両用電気品収容用の筐体構造を構成する薄板において、前記立ち上がり部の端面に、断続的な隅肉溶接を行う箇所に対応して、切り欠き部を形成したことを特徴とする薄板。
【請求項2】
前記切り欠きの深さが溶接時に発生するビードを完全に収納できるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載された薄板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の薄板を用いた鉄道車両用電気品収容用の筐体。
【請求項4】
請求項3に記載の筐体及び当該筐体に収納される電気品により構成される鉄道車両用電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−66900(P2013−66900A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205760(P2011−205760)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】