説明

鉄道車両

【課題】構体強度を低下させずに、側構体の外側面に設ける外部表示器の設置位置を決める自由度を高める。
【解決手段】側構体の側外板1の外側面に表示器2が設けられている。この表示器2は、筐体が板状で表示画面が平面になっているフラットパネルディスプレイである。表示器2が、側構体のドア開口と窓開口との間に、または窓開口の上側あるいは下側に、またはドアに対し、接着またはねじ止めにより取り付けられる。表示器2の表面が保護層5にて覆われ、周囲にシール剤6が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側構体の外側面に外部表示器としてフラットパネルディスプレイ(例えば、有機EL、薄型液晶ディスプレイ、LED、プラズマディスプレイパネル(PDP)など)が設けられている鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道車両においては、バス、トラック、タクシーなどの自動車とは異なり、車体(側構体)の外側面に、乗客によく見えるように、行先表示器等の外部表示器を設けることが多く行われている。これは、自動車とは異なり、外側面の面積がかなり大きく、乗客が乗車の際に前記外側面を自然に見るようになるので、それを有効活用しようとする観点からである。
【0003】
具体的には、鉄道車両において、側構体の外側面に行先表示器等の外部表示器を設置する場合には、例えば図6に示すように、側構体100を構成する側外板101に、外部表示器102に対応する大きさの開口101aを形成し、その開口101aに対向する位置に表示器102を配置するようにしている。そして、開口101aを透明ガラス103によって閉塞し、このガラス103はガラス支持機構104によって側外板101に支持されている。また、側外板101とガラス103との間には防水のためにシール剤105が設けられている。なお、表示器102は、表示器支持部材106を介して内装パネル107に下側から支持されている。
【0004】
このような従来構造では、表示器102を設けるために側外板101に大きな開口101aを設ける必要があるため、側外板101や内装パネル107との強度についての調整を要し、表示器102を設置できる場所は非常に制限されているのが現状である。
【0005】
特に、鉄道車両は、長期間に亘って使用でき、剛性が高いことが望まれるので、図7に示すように、鉄道車両201の側構体202の側外板のうち、剛性低下を回避する目的から近傍に開口(窓開口202a,202b、ドア開口202c,202d,202eなど)が位置していない部位P11に取付用開口を設け、表示器102を取り付けるようにしている。
【0006】
そのため、鉄道車両においては、できるだけ外部表示器を設置する位置について、制約をあまり受けることなく、その設置位置を決める自由度を高めたいという要求がある。その要求を満たすためには、側構体に開口を設けることなく、表示器を取り付けることができれば、取り付け場所の自由度が増す、と考えられる。
【0007】
ところで、鉄道車両において、構体に開口を設けることなく、表示器を設けるものとして、車体側面の少なくとも一個所のガラス窓を利用して表示器(行先表示器)を取り付けることが提案されている(特許文献1参照)。これは、既存の車両に対し、乗客へのサービス向上などを目的として、新たに行先表示器を取り付ける場合に適用されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−199340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載のものでは、行先表示器をガラス窓のガラス面に対して車内側に取け付けるようにしているので、側構体に開口を設ける必要がなく、配線作業が簡単になるものであるが、立ち客及び着座客を含めて乗客の視界が、前記表示器によって制限され、不快感を与えるおそれもある。
【0010】
また、車内側に取り付ける構造であるため、乗客のいたずらにより表示器が破損する可能性もあり、保護構造を設ける必要がある。そのため、表示器及び表示器支持部材を自ずと頑丈な構造にする必要があり、重量増につながる。
【0011】
しかも、特許文献1に記載のものは、既存の車両に行先表示器を新たに取り付けることが目的であり、既に表示器が取り付けられている既存の車両に対してガラス窓を利用して余分に行先表示器を取り付けているに過ぎない。つまり、新たに鉄道車両を製造する場合には、側構体の外側面に多くのスペースがあるにもかかわらず、ガラス窓に設けるのは、側構体の外側面の有効利用の点から望ましくない。
【0012】
この発明は、構体強度を低下させずに、側構体の外側面に設ける表示器の設置位置を決める自由度を高めた鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、ドア開口と窓開口とを有する側構体に表示器が設けられている鉄道車両であって、前記表示器は、表示画面が平面になっているフラットパネルディスプレイで、前記側構体の外側面に接着またはねじ止めにより取り付けられ、取付状態で前記表示器の表面が保護層にて覆われ、かつ周囲にシール剤が設けられていることを特徴とする。
【0014】
このようにすれば、表示器としてフラットパネルディスプレイ(FPD)を用いるので、構体強度を低下させずに、側構体の外側面に設ける表示器の設置位置を決める自由度を高めることができる。また、構造がシンプルであり、車内側及び車外側のいずれの側にも大きな突部を突出させることなく取り付けることができ、また、軽量であるので、表示器を支持するための専用の支持機構を設ける必要もなく、取り付けが容易である。
【0015】
また、表示器をフラットパネルディスプレイ(FPD)で構成するため、表示器の色や表示情報の変更を容易に実現することができる。側構体の側外板と内装パネルとの間に、前記表示器を制御する制御機器を配置する場合であっても、前記制御機器の大きさが小さくなるので、室内空間を広くする上で有利となる。
【0016】
請求項2に記載のように、前記表示器は、取付板に設けられた状態で表面側が保護層にて覆われ周囲にシール剤が設けられたものであり、前記取付板が前記側構体の側外板に取り付けられている、ことが望ましい。
【0017】
このようにすれば、取付板を側構体の側外板に取り付けるだけで、表示器の取り付けを行うことができる。
【0018】
請求項3に記載のように、前記側構体の側外板には、前記表示器あるいは取付板に対応する大きさの凹部が形成され、前記凹部内に、前記表示器が直接あるいは前記取付板と共に取り付けられている、構成とすることもできる。
【0019】
このようにすれば、表示器を、側外板の外側面から突出させることなく、取り付けることができる。
【0020】
請求項4に記載のように、前記側構体の側外板の凹部は、前記側構体の側外板に形成される開口を、凹部を有する中空部材にて閉塞することで形成されている、構成とすることもできる。
【0021】
このようにすれば、既存車両に既に取付けられている表示器の開口を利用して新たに取り付けることができ、中空部材にて車体内側から前記開口を閉塞することで、開口周縁の補強が可能である。また、表示器の配線についても既存の配線を利用できる。
【0022】
請求項5に記載のように、前記表示器あるいは前記取付板の取付けは、磁石による吸着力を利用した吸着手段を用いて行われている、構成としてもよい。
【0023】
このようにすれば、磁石による吸着力を利用した吸着手段を用いることで、前記表示器あるいは前記取付板の取付けを簡単に行うことができる。
【0024】
請求項6に記載のように、前記側構体の側外板であって前記表示器の設置位置に対応する部分に配線のための小穴が設けられ、前記小穴は、前記表示器にて覆われている、構成とすることができる。
【0025】
このようにすれば、配線のための小穴は表示器によって隠蔽することができ、外観を損ねるおそれがないし、側構体に表示器取り付けのために大きな開口ではなく、配線のための小穴を設けるだけであるので、剛性の低下を抑制することができる。
【0026】
請求項7に記載のように、前記表示器は、前記側構体のドア開口と窓開口との間に、または窓開口の上側あるいは下側に、またはドアに対し設置されている、構成とすることができ、従来設けることができなかった、側構体のドア開口と窓開口との間、または窓開口の上側あるいは下側、またはドアに対し、前記表示器を設置することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、上記のように、側構体の外側面に設ける表示器としてフラットパネルディスプレイ(FPD)を用いるため、設置スペースを必要とせず、側構体の外側面に設ける表示器の設置位置を決める自由度を高くすることができる。その上、構造を簡略化できるので、コスト面、作業面でも有利である。
【0028】
また、フラットパネルディスプレイ(FPD)で表示器を構成するため、表示器の色や表示情報の変更を容易に実現することができる。側構体の側外板と内装パネルとの間に、前記表示器を制御する制御機器を配置する場合であっても、前記制御機器の大きさが小さくなるので、室内空間を広くする上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る鉄道車両における表示器取付構造の第1の実施の形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る鉄道車両における表示器取付構造の第2の実施の形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る鉄道車両における表示器取付構造の第3の実施の形態を示す概略断面図である。
【図4】本発明に係る鉄道車両における表示器取付構造の第4の実施の形態を示す概略断面図である。
【図5】本発明に係る鉄道車両における表示器取付構造の第5の実施の形態を示す概略断面図である。
【図6】従来の鉄道車両における表示器取付構造を示す概略断面図である。
【図7】鉄道車両の側構体への、表示器の設置位置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
(第1の実施の形態)
図1に示すように、鉄道車両の側構体を構成する側外板1の外表面に、薄板状のフラットパネルディスプレイ(FPD)からなり可撓性を有するシート状の外部表示器2(厚さ2〜3mm程度)が接着層3を介して接着により取り付けられている。側外板1には、表示器2にて覆われ外部からは見えないように隠蔽される小穴1aが形成され、この小穴1a内に、表示器2の接続用凸部2aが挿入され、この接続用凸部2aから、側外板1の内側において、図示しない各種点灯制御機器や電源との接続のための配線4が延びている。
【0031】
表示器2は、側外板1に接着される裏面とは反対側の表面が、ガラス、ポリカーボーネート等の透明あるいは半透明な保護層5で覆われ、周囲にはシール剤6が配置され、防染・防水性能が確保されている。なお、7は側外板1の内側に配置される内装パネル、8は屋根構体である。
【0032】
このような構造の表示器2を採用することで、図7に示すように、従来設置することができなかった窓開口202a,202bの近傍位置P1、戸袋部分位置P2、腰掛け近傍位置P3、引戸(ドア)部分位置P4等に接着により取り付けることができ、車体外側に設置する表示器2の設置位置を決めるのに、自由度が高くなる。
【0033】
このようにすれば、表示器2の構造がシンプルであり、車内側に突出させることなく取り付けることができ、また、軽量であるので、表示器2を支持するための専用の支持機構(例えば図6の表示器支持部材106)を設ける必要もなく、取り付けが容易である。
【0034】
しかも、開口を設けなくても表示器2を取り付けることができるので、従来表示器を設ける場合のように開口周辺の補強が必要なくなるし、開口を設けることによる剛性の低下を考慮する必要がなくなるので、前述したように接着またはねじ止めにより取り付けることで、(i)側構体202のドア開口202dと窓開口202bとの間、(ii)窓開口202a,202bの上側あるいは下側に、(iii)ドア開口202eを開閉するドア203(引戸)に対して設置することができ、また、その設置位置の変更も容易である。つまり、従来、側構体202やドア203の剛性低下の観点から設けることができなかった、前記(i)〜(iii)の部分に対し、表示器2(フラットパネルディスプレイ)を設置することができるので、側構体の側外板1に設ける表示器2の設置位置を決めるのに、自由度が高くなる。その上、構造を簡略化できるので、コスト面、作業面でも有利である。
【0035】
また、表示器2をフラットパネルディスプレイ(FPD)で構成するため、図示しない各種点灯制御機器からの制御信号により色や表示情報を容易に変更することができるし、また、側外板1と内装パネル7との間に収納する、表示器2のための前記各種点灯制御機器の大きさを小さく構成することができるので、室内空間をより広くすることができる。
【0036】
それに加えて、既存の鉄道車両や新規の鉄道車両にのみならず、同型の鉄道車両を、一部仕様を変更して繰り返し製造する場合においても、簡単な設計変更で対応可能である。つまり、側外板1に開口を設ける必要がないので、以前に製造した同型の鉄道車両と同様の配線経路で対応することができ、配線経路についての変更は必要なくなる。
(第2の実施の形態)
この実施の形態では、側外板1に接着層3を介して取り付けるのではなく、図2に示すように、外部表示器2を、表示器2の大きさに対応する大きさを有する取付板11に取り付け、その取付板11をビス12にて側外板1にねじ止めすることで、表示器2を側外板1に取り付けるようにしている。なお、側外板1のねじ止め部分には、内面側に取付用ねじ座13が設けられている。また、取付板11には、表示器2の接続用凸部2aが貫通する貫通穴11aが小穴1aに対応して形成されている。その他の構成は、図1に示すものと同様である。
(第3の実施の形態)
この例では、図3に示すように、側外板1に、取付板11に対応する大きさの凹部1Aを形成し、その凹部1A内において、外部表示器2を取り付けることで、表示器2による、側外板1の外側面よりの突出部分が形成されないようにしている。その他の構成は、図2に示すものと同様である。なお、表示器2を直接に接着する場合には、側外板1に形成する凹部は、表示器2に対応する大きさとすればよい。
(第4の実施の形態)
この例では、側外板に直接凹部を形成するのではなく、図4に示すように、側外板1に開口1Bを形成し、その開口1Bを閉塞するように、中央に凹部21Aを有するリセス構造部材21(中空部材)の周縁フランジ部21Bを側外板1の内側面に接合し、そのリセス構造部材21の凹部21A内に、表示器2及び取付板11を取り付けるようにすることもできる。なお、リセス構造部材21の凹部21Aの車内側面には、所定の位置に取付用ねじ座13が設けられている。
【0037】
鉄道車両を新たに製造する場合だけでなく、既存車両に既に取付けられている表示器用開口を利用して新たに取り付けることができ、リセス構造部材21(中空部材)にて車体内側から開口1Bを閉塞することで、周縁フランジ部21B等による開口周縁の補強が可能である。既存車両に取り付ける場合には、表示器の配線についても既存の配線を利用できる。なお、本実施の形態では、リセス構造部材21にて車体内側から開口1Bを閉塞しているが、車体外側から閉塞することも可能である。
(第5の実施の形態)
この例では、接着剤やねじを用いることなく、図5に示すように、プレートマグネット31(磁力手段)を用いて、取付板11を側外板1に取り付けるようにしている。なお、側外板1の取付部位や取付板11が非磁性部材である場合には、プレートマグネット層を、側外板1の取付部位及び取付板11にそれぞれ接着層を介して設けるようにすれば、同様に適用することができる。
【0038】
本発明は、前述したほか、次のように変更して実施することもできる。
【0039】
鉄道車両においては、車体の外側面に、走行する路線を示すために路線毎の異なる色のカラーフィルムを接着することが一般に行われており、そのような場合、一度表示させた色と情報を変更する場合には、カラーフィルムを貼り替える必要がある。
【0040】
この場合に、カラーフィルムに代えて、前述した場合と同様の取付構造を採用することで、表示器としてのフラットパネルディスプレイを用いることができる。このようにすれば、通常車体側面に貼り付けるカラーフィルムの色彩を変えて車両を運用することは行っていなかったが、例えば上り運転時は緩行(青)で、下り運転時は急行(赤)というように表示させることができ、運行車両に弾力性を持たせることができる。なお、取り付けは、接着あるいは取付板を用いたねじ止めとすることができる。
【0041】
また、前述した取付構造は、車体前面に備える表示器(例えば行先表示器)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 側外板
1A 凹部
1B 開口
2 表示器
3 接着層
4 配線
5 保護層
6 シール剤
7 内装パネル
11 取付板
21 リセス構造部材(中空部材)
21A 凹部
31 プレートマグネット(磁力手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドア開口と窓開口とを有する側構体に表示器が設けられている鉄道車両であって、
前記表示器は、表示画面が平面になっているフラットパネルディスプレイで、前記側構体の外側面に接着またはねじ止めにより取り付けられ、取付状態で前記表示器の表面が保護層にて覆われ、かつ周囲にシール剤が設けられていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
前記表示器は、取付板に設けられた状態で表面側が保護層にて覆われ周囲にシール剤が設けられたものであり、
前記取付板が前記側構体の側外板に取り付けられている、請求項1記載の鉄道車両。
【請求項3】
前記側構体の側外板には、前記表示器あるいは取付板に対応する大きさの凹部が形成され、
前記凹部内に、前記表示器が直接あるいは前記取付板と共に取り付けられている、請求項1記載の鉄道車両。
【請求項4】
前記側構体の側外板の凹部は、前記側構体の側外板に形成される開口を、凹部を有する中空部材にて閉塞することで形成されている、請求項3記載の鉄道車両。
【請求項5】
前記表示器あるいは前記取付板の取付けは、磁石による吸着力を利用した吸着手段を用いて行われている、請求項1〜4のいずれか1つに記載の鉄道車両。
【請求項6】
前記側構体の側外板であって前記表示器の設置位置に対応する部分に、配線のための小穴が設けられ、前記小穴は、前記表示器にて覆われている、請求項1〜5のいずれか1つに記載の鉄道車両。
【請求項7】
前記表示器は、前記側構体のドア開口と窓開口との間に、または窓開口の上側あるいは下側に、またはドアに対し設置されている、請求項1〜6のいずれか1つに記載の鉄道車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−23188(P2013−23188A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163273(P2011−163273)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】