説明

鉄鋼圧延機用転がり軸受

【課題】優れた耐水性を発揮するとともに、流動性にも優れるグリースを封入してスミアリングも抑制した鉄鋼圧延機用転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に配設すると共に潤滑用のグリースを封入してなる鉄鋼圧延機用転がり軸受であって、前記グリースは、鉱油および合成油の少なくとも1種からなる基油に、カルボン酸系防錆剤とカルボン酸塩系防錆剤とアミン系防錆剤との3種の防錆剤を添加し、かつ、混和ちょう度が300以上400以下であることを特徴とする鉄鋼圧延機用転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に鉄鋼設備の圧延工程などのように、多量の水が混入する可能性が高い環境下で用いられる鉄鋼圧延機用転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、製鉄所などの鉄鋼設備の圧延機には、設備工程上大量の圧延水が噴射され、また温度も高いことから、その周囲の湿度は極めて高い状況となっている。そのため、圧延機の転がり軸受の潤滑のために封入されるグリースには、耐水性が要求されている。
【0003】
耐水性を向上させるために、例えば特許文献1には、非水系の基油と、Caスルフォネート、ソルビタンモノオレエート、亜鉛ジチオフォスフェート及びアミン系酸化防止剤とを含有するグリースが記載されており、浸入してきた水を微粒子としてグリース中に分散させて保持させている。また、特許文献2には、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及び脂肪酸アミン塩の3種を添加したグリースが記載されており、軸受を構成する鋼への水の侵入を防いでいる。また、特許文献3のグリースでは、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤の3種の防錆剤を添加して防錆性能を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−1864号公報
【特許文献2】特開2010−24440号公報
【特許文献3】特開2009−299846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に示すような従来の耐水性グリースでは、流動性に関する対策がなされておらず、軌道面または転動面において、転がりに伴う滑りと油膜切れによって微小焼付きが起こって表面が損傷する、所謂「スミアリング」が発生することが懸念される。
【0006】
そこで、本発明は前記のような問題点を解決するために案出されたものであり、優れた耐水性を発揮するとともに、流動性にも優れるグリースを封入してスミアリングも抑制した鉄鋼圧延機用転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は下記の鉄鋼圧延機用転がり軸受を提供する。
(1)内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に配設すると共に潤滑用のグリースを封入してなる鉄鋼圧延機用転がり軸受であって、
前記グリースは、鉱油および合成油の少なくとも1種からなる基油に、カルボン酸系防錆剤とカルボン酸塩系防錆剤とアミン系防錆剤との3種の防錆剤を添加し、かつ、混和ちょう度が300以上400以下であることを特徴とする鉄鋼圧延機用転がり軸受。
(2)前記グリースは、有機金属化合物及び硫黄リン系の少なくとも1種からなる摩耗防止剤を含むことを特徴とする上記(1)に記載の鉄鋼圧延機用転がり軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鉄鋼圧延機用転がり軸受では、封入グリースに添加される特定の3種の防錆剤により、水が混入した場合であっても水から発生する水素を起因とした剥離及び水より生じる腐食を効果的に抑制することができる。そのため、圧延工程のような大量の水を浴びるような環境下でも優れた耐水性を発揮できるため、長期に亘って良好な軸受機能を維持することができる。また、ステンレスやセラミックなどのような高価な軸受部材を使用する必要がないため、製造コストも安価となる。
【0009】
更には、封入グリースの混和ちょう度を300以上400以下に特定したことにより、封入グリースの流動性が高まりスミアリングを抑制できる。
【0010】
また、封入グリースに有機金属化合物及び硫黄リン系の少なくとも1種からなる摩耗防止剤を添加することにより、耐摩耗性がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の係る鉄鋼圧延機用転がり軸受100の実施の一形態を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る鉄鋼圧延機用転がり軸受100の1つである圧延機用ロールネック軸受の実施の一形態を示したものである。
【0014】
図示するように、この圧延機用ロールネック軸受100は、内輪10と、外輪20との間に4列の転動体30,30,30,30が周方向に転動自在に配置された構造となっている。
【0015】
この内輪10は、2個の複列内輪10a,10aから構成されていると共に、外輪20は、4個の単列外輪20a,20a,20a,20aから構成されており、複列内輪10a,10a間および単列外輪20a,20a間には、それぞれ間座40,50が設けられている。また、各列の転動体30は、保持器70によってそれぞれ等間隔に保持されている。
【0016】
そして、複列外輪20の両端部には、環状シール部材60,60がそのシールリップ部を複列内輪10の外周面に接触させた状態で装着されていると共に、内輪10,10の突き合わせ端の内周側には中間シール部材61,61が装着されている。さらに、これら環状シール部材60,60と中間シール部材61,61でシールされた内輪10と外輪20間には、潤滑用のグリースGがそれぞれ封入されている。
【0017】
以下、このような構成をした本発明の転がり軸受100に用いられるグリースGの組成について詳細に説明する。
【0018】
[基油]
本発明の係るグリースGに使用可能な基油としては、特に限定されるものでなく、通常の潤滑油の基油として使用されている油であれば全て使用することが可能である。好ましくは、低温起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いために起こる焼付きを避けるために、40℃における動粘度が10〜600mm/sec、より好ましくは70〜250mm/sec、さらに好ましくは100〜400mm/secである基油が望ましい。
【0019】
具体例としては、鉱油系、合成油系または天然油系の潤滑油などが挙げられる。前記鉱油系潤滑油としては、鉱油を減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製などを適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。
【0020】
前記合成油系潤滑油基としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油などが挙げられる。前記炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセントエチレンオリゴマーなどのポリ−α−オレフィンまたはこれらの水素化物などが挙げられる。
【0021】
前記芳香族油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼンなどのアルキルベンゼンあるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレンなどのアルキルナフタレンなどが挙げられる。
【0022】
前記エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジベート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレートなどのジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなどの芳香族エステル油、さらにはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネートなどのポリオールエステル油、さらにはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油などが挙げられる。
【0023】
前記エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテルなどのポリグルコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテルなどのフェニルエーテル油などが挙げられる。
【0024】
その他の合成潤滑基油としてはトリクレジルフォスフェート、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテル油などが挙げられる。
【0025】
前記天然油系潤滑基油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などの油脂系油またはこれらの水酸化物が挙げられる。
【0026】
これらの基油は、単独または混合物として用いることができ、上述した動粘度に調節される。
【0027】
[増ちょう剤]
増ちょう剤はゲル構造を形成し、基油をゲル構造中に保持する能力があれば、特に制約はない。例えば、Li、Naなどからなる金属石けん、Li、Na、Ba、Caなどから選択される複合金属石けんなどの金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物などの非石けん類を適宜選択して使用できるが、グリースGの耐熱性を考慮するとNアルキル置換モノアミド酸のリチウム基と二塩基酸のリチウム塩、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物または、これらの混合物が好ましい。なお、Nアルキル置換モノアミド酸のリチウム基と二塩基酸のリチウム塩は、例えば特公平7−30350号公報に詳細に記されている。
【0028】
ウレア化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物が挙げられる。これらのなかでもNアルキル置換モノアミド酸のリチウム基と二塩基酸のリチウム塩、ジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物がより好ましい。
【0029】
前記増ちょう剤量としては、グリースG全量に対して5〜40質量%であることが好ましい。ここで、増ちょう剤の配合割合が5質量%未満であると、グリースGの状態を維持することが困難になってしまい、一方、増ちょう剤の配合割合が40質量%を超えると、グリースGが硬くなり過ぎて潤滑状態を充分に発揮することができなくなってしまうため、好ましくない。
【0030】
[カルボン酸系防錆剤]
カルボン酸系防錆剤としては、モノカルボン酸では、ラウリン酸、ステアリン酸などの直鎖脂肪酸、ナフテン核を有する飽和カルボン酸が挙げられ、ジカルボン酸では、コハク酸、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、コハク酸イミドなどのコハク酸誘導体、ヒドロキシ脂肪酸、メルカプト脂肪酸、ザルコシン誘導体、またはワックスやペトロラタムの酸化物などの酸化ワックスなどを挙げることができるが、なかでもコハク酸ハーフエステルが好適である。
【0031】
[カルボン酸塩系防錆剤]
カルボン酸塩系防錆剤としては、脂肪酸、ナフテン酸、アビエンチ酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸、アミノ酸誘導体などの金属塩などが挙げられる。また、金属元素としては、コバルト、マンガン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、バリウム、リチウム、マグネシウム、銅などが挙げられるが、なかでもナフテン酸亜鉛が好適である。
【0032】
[アミン系防錆剤]
アミン系防錆剤としては、アルコキシルフェニルアミン、脂肪酸のアミン塩、二塩基性カルボン酸の部分アミドなどを挙げることができるが、脂肪酸のアミン塩が好適である。
【0033】
これらの防錆剤の添加量としては、カルボン酸系防錆剤およびカルボン酸塩系防錆剤はグリースGの全量に対してそれぞれ0.1〜5質量%である。添加量が0.1質量%未満では充分な効果は得られず、反対に5質量%を超えて添加しても効果の向上がない。これらを考慮すると、添加量は0.5〜3質量%が好ましい。
【0034】
一方、アミン系防錆剤の添加量は、グリースGの全量の0.1〜3質量%である。添加量が0.1質量%未満では充分な効果は得られず、反対に3質量%を超えて添加しても効果の向上がない上に、軸受部材表面の吸着量が多くなりすぎ、グリースGに由来する酸化膜などの生成を阻害するおそれがでてくる。
【0035】
[摩耗防止剤]
摩耗防止剤としては、ジチオカルバミン酸亜鉛やトリフェニルホスホロチオエートジアルキルジオカルバミン酸化合物、ジアルキルジチオリン酸化合物などの有機金属化合物及び硫黄−リン系からなる1種を用いることができる。金属種にはSb、Bi、Sn、Fe、Cu、Mo、Znから選択できる。
【0036】
これらの摩擦防止剤の添加量としては、グリースGの全量に対して0.5〜5.0質量%である。添加量が0.5質量%未満では充分な効果は得られず、反対に5.0質量%を超えて添加しても効果の向上がない。これらを考慮すると、添加量は1.0質量%が好ましい。
【0037】
[その他の添加剤]
本発明で用いるグリースGには、各種性能をさらに向上させるために、所望により種々の添加剤を混合しても良い。例えば、酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、油性向上剤、金属不活性化剤などグリースGに一般に使用される添加剤を、単独または2種以上混合して用いることができる。
【0038】
酸化防止剤としては、例えばアミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛などが挙げられる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジンなどが挙げられる。フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p−t−ブチル−フェニルサリシレート、2,6−ジ−t−ブチル−p−フェニルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−オクチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス−6−t−ブチル−m−クレゾール、テトラキス[メチレン−3−(3’、5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’、5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2−n−オクチル−チオ−4,6−ジ(4’−ヒドロキシ−3’、5’−ジ−t−ブチル)フェノキシ−1’3,5−トリアジン、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどのヒンダードフェニルなどが挙げられる。
【0039】
油性向上剤としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸などの脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどのアルコール、ステアリルアミン、セチルアミンなどのアミン、リン酸トリクレジルなどのリン酸エステル、および動植物油などが挙げられる。
さらに、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデンなどの極圧剤や、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性化剤などが使用される。
【0040】
なお、その他の添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではないが、通常はグリースGの組成物全体に対して0.1〜20質量%である。0.1質量%未満では、添加剤の添加効果が乏しく、また、20質量%を超えて添加しても添加効果の向上が望めない上、基油の量が相対的に少なくなるため、潤滑性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0041】
[混和ちょう度]
グリースGの混和ちょう度は、300以上400以下である。混和ちょう度が300未満では流動性が十分ではなく、スミアリング防止効果が十分ではない。一方、混和ちょう度が400を超えるとグリース漏洩が起こり易くなり、潤滑寿命が低下するようになる。
【0042】
このようなグリースGの製法としては、特に限定されるものではないが、一般的には基油中で増ちょう剤を反応させて得られる。カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤、アミン系防錆剤は得られたグリースGの組成物に所定量を配合することが好ましい。ただし、ニーダやロールミルなどで前記添加剤を添加した後に充分攪拌し、均一分散させる必要がある。この処理を行うときは、加熱するものも有効である。なお、前記製法において、酸化防止剤などの添加剤は前記添加剤と同時に添加することが工程上好ましい。
【0043】
そして、このようなグリースGを封入した本発明の鉄鋼圧延機用転がり軸受100にあっては、以下の実施例からも明らかなように、優れた防錆性能、剥離防止効果及びスミアリング防止効果を発揮することができるため、優れた信頼性と長寿命となる。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の実施例および比較例を説明する。
【0045】
(実施例1)
以下の表1に示すように、鉱油からなる基油(動粘度200mm/s)に増ちょう剤としてジウレア化合物を配合し、これに防錆剤として、ナフテン酸亜鉛(カルボン酸塩系防錆剤)と、コハク酸ハーフエステル(カルボン酸系防錆剤)と、脂肪酸のアミン塩(アミン系防錆剤)を、合計で4質量%の割合で添加し、更に混和ちょう度を340に調整して試験グリースを得た。
【0046】
そして、この試験グリースを鉄鋼圧延機用転がり軸受の1つである、NSK製円すいころ軸受「HR30205(内径:25mm、外径52mm、幅:16.25mm)」に封入すると共に水を1質量%封入し、120℃、ラジアル荷重98N、アキシアル荷重1470N、回転速度3500rpmにて100時間連続回転させて錆の発生(防錆試験)および剥離の発生(剥離試験)の有無、スミアリングの発生(スミアリング試験)を確認した。この結果、表1の下欄に示したように、本発明に係る実施例1では錆や剥離、スミアリングが発生することなく良好な特性を発揮した。
【0047】
(実施例2)
以下の表1に示すように、基油としてポリαオレフィン(動粘度160mm/s)を用いると共に防錆剤の添加量を2質量%とし、さらに有機金属化合物(有機化合物塩)からなる摩耗防止剤としてジチオカルバミン酸亜鉛1質量%添加し、混和ちょう度を320に調整した他は、実施例1と同様にして試験グリースを得た。
【0048】
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入し、同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。この結果、表1の下欄に示したように、本発明に係る実施例2でも錆や剥離、スミアリングが発生することなく良好な特性を発揮した。
【0049】
(実施例3)
以下の表1に示すように、基油としてポリオールエステル(動粘度120mm/s)を用いると共に防錆剤の添加量を3質量%とし、さらに有機金属化合物(有機化合物塩)からなる摩耗防止剤としてジチオカルバミン酸亜鉛1質量%添加し、混和ちょう度を300に調整した他は、実施例1と同様にして試験グリースを得た。
【0050】
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入し、同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。この結果、表1の下欄に示したように、本発明に係る実施例3でも錆や剥離、スミアリングが発生することなく良好な特性を発揮した。
【0051】
(実施例4)
以下の表1に示すように、増ちょう剤としてリチウム複合石けんを用いると共に防錆剤の添加量を1.5質量%とし、混和ちょう度を320に調整した他は、実施例1と同様にして試験グリースを得た。
【0052】
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入し、同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。この結果、表1の下欄に示したように、本発明に係る実施例4でも錆や剥離、スミアリングが発生することなく良好な特性を発揮した。
【0053】
(実施例5)
以下の表1に示すように、動粘度400mm/sの基油を用いると共に、防錆剤の添加量を4質量%とし、有機金属塩として1質量%のトリフェニルホスホロチオエートを用い、混和ちょう度を340に調整した他は、実施例4と同様にして試験グリースを得た。
【0054】
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入し、同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。この結果、表1の下欄に示したように、本発明に係る実施例5でも錆や剥離、スミアリングが発生することなく良好な特性を発揮した。
【0055】
(実施例6)
以下の表1に示すように、混和ちょう度を380に調整した他は、実施例1と同様にして試験グリースを得た。
【0056】
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入し、同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。この結果、表1の下欄に示したように、本発明に係る実施例6でも錆や剥離、スミアリングが発生することなく良好な特性を発揮した。
【0057】
(実施例7)
以下の表1に示すように、混和ちょう度を400に調整し、動粘度400mm/sの基油を用いた他は、実施例1と同様にして試験グリースを得た。
【0058】
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入し、同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。この結果、表1の下欄に示したように、本発明に係る実施例7でも錆や剥離、スミアリングが発生することなく良好な特性を発揮した。
【0059】
【表1】

【0060】
(比較例1)
以下の表2に示すように、防錆剤としてバリウムスルフォン酸塩を2質量%添加とした他は、実施例1と同様にして試験グリースを得た。
【0061】
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入して同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。この結果、表2の下欄に示したように防錆、スミアリング性の結果は良好であったが、剥離が発生してしまった。
【0062】
(比較例2)
以下の表2に示すように、基油としてポリαオレフィン(動粘度80mm/s)を用いると共に防錆剤を一切添加しない他は実施例2と同様にして試験グリースを得た。
【0063】
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入して同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。この結果、表2の下欄に示したように剥離、スミアリング性の結果は良好であったが、錆が発生してしまった。
【0064】
(比較例3)
以下の表2に示すように、防錆剤としてナフテン酸亜鉛(カルボン酸塩系防錆剤)と、脂肪酸のアミン塩(アミン系防錆剤)のみを2質量%添加とし、混和ちょう度を280に調整した他は、実施例1と同様にして試験グリースを得た。
【0065】
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入して同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。この結果、表2の下欄に示したように防錆結果は良好であったが、剥離及びスミアリングが発生してしまった。
【0066】
(比較例4)
以下の表2に示すように、防錆剤としてナフテン酸亜鉛(カルボン酸塩系防錆剤)と、コハク酸ハーフエステル(カルボン酸系防錆剤)のみを2質量%添加とし、混和ちょう度を280に調整した他は、実施例1と同様にして試験グリースを得た。
【0067】
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入して同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。この結果、表2の下欄に示したように防錆結果は良好であったが、剥離及びスミアリングが発生してしまった。
【0068】
(比較例5)
以下の表2に示すように、混和ちょう度を280に調整した他は、実施例1と同様にして試験グリースを得た。
【0069】
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入して同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。この結果、表2の下欄に示したように防錆、剥離の結果は良好であったが、スミアリングが発生してしまった。
【0070】
(比較例6)
以下の表2に示すように、混和ちょう度を410に調整した他は、実施例1と同様にして試験グリースを得た。
【0071】
そして、この試験グリースを実施例1と同様な軸受に封入して同様な条件で防錆試験および剥離試験を行った。この結果、表2の下欄に示したように防錆、スミアリング性の結果は良好であったが、剥離が発生してしまった。
【0072】
【表2】

【0073】
これらの実施例および比較例からも分かるように、鉱油および合成油の少なくとも1種からなる基油に、カルボン酸系防錆剤とカルボン酸塩系防錆剤とアミン系防錆剤との3種の防錆剤を添加し、更に混和ちょう度を300以上400以下に調整したグリースGを軸受内に封入することで耐水性が大幅に向上し、防錆性能および剥離防止効果に極めて優れ、更にスミアリングの発生もなく、長寿命で耐久性に優れた転がり軸受を得ることができる。
【符号の説明】
【0074】
100 鉄鋼圧延機用転がり軸受(圧延機用ロールネック軸受)
10 内輪
10a 複列内輪
20 外輪
20a 単列内輪
30 転動体
40,50 間座
60 環状シール部材
61 中間シール部材
70 保持器
G グリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に配設すると共に潤滑用のグリースを封入してなる鉄鋼圧延機用転がり軸受であって、
前記グリースは、鉱油および合成油の少なくとも1種からなる基油に、カルボン酸系防錆剤とカルボン酸塩系防錆剤とアミン系防錆剤との3種の防錆剤を添加し、かつ、混和ちょう度が300以上400以下であることを特徴とする鉄鋼圧延機用転がり軸受。
【請求項2】
前記グリースは、有機金属化合物及び硫黄リン系の少なくとも1種からなる摩耗防止剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の鉄鋼圧延機用転がり軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2012−153803(P2012−153803A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14267(P2011−14267)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】