説明

鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法

【課題】鉄腐食性メタン生成菌による腐食作用を抑制することで、鉄鋼材料の炭酸腐食を安価かつ容易に防止する方法を提供する。
【解決手段】メタン生成菌および二酸化炭素、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンのうち少なくとも1つを含む水含有液体と接触している鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法であって、前記鉄鋼材料の表面と接する水含有液体において、(1)溶存酸素濃度を1mg/L以上とする、(2)酸化還元電位を−100mV(飽和塩化カリウム 銀塩化銀電極基準)以上とする、pHを9.5以上12以下とする、(4)塩素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とする、(5)炭酸水素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とする、(6)温度が15℃超50℃未満の場合には、温度を0℃以上15℃以下若しくは50℃以上70℃以下とする、の(1)〜(6)の群より選ばれる1種又は2種以上の手段を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2001年米国のFHWA(The US Federal Highway Administration)により金属の腐食に関わるコストの調査結果が報告された(非特許文献1)。本報告によると、米国では金属腐食による損失は年間2760億ドルに達し、国内総生産(GDP)の3.1%に相当すると報告されている。また、米国のガス産業において、パイプラインなどの腐食に掛かるコストが年間134億ドルに達し、このうちの約20億ドル(約15%)は微生物腐食によるものと報告されている(非特許文献2)。わが国においても腐食防食協会と日本防錆技術協会を中心とする腐食コスト調査委員会の調査により、1997年にわが国の腐食対策に講じた費用は3兆9千億円で、わが国の国内総生産(GDP)の0.8%に相当すると報告されている(非特許文献3)。以上のように、腐食による被害額は甚大であり、これを防ぐことは資源の乏しい我が国にとって重要な課題である。
【0003】
鉄鋼材料の腐食において、腐食生成物に炭酸鉄を生ずる炭酸腐食は、二酸化炭素ガスによる腐食であり、炭酸ガス腐食とかスイート腐食とも呼ばれている。炭酸腐食は非常によく起こる腐食として知られている。炭酸腐食のメカニズムは以下のように考えられている。二酸化炭素が水に溶けると、炭酸になる。炭酸は弱酸であるため、炭酸の一部が乖離して炭酸水素イオンと炭酸イオンを生成する。鉄鋼材料の腐食ではカソード反応で水素イオンが消費されて水素が発生する反応が起こるが、水中に二酸化炭素や炭酸が溶存していると、水素イオンが継続的に供給される条件となる。十分量の二酸化炭素が溶存した水中では、アノードで鉄が二価の鉄イオンとして腐食が進み、腐食生成物として炭酸鉄が形成されることになる。したがって、炭酸腐食は、二酸化炭素がカソード反応で消費される水素イオンの供給源として作用することが特徴である。鉄鋼材料の炭酸腐食メカニズムの概要は以上のように考えられている。
【0004】
炭酸腐食が起こる環境条件としては、鉄鋼材料と直接接して存在する水含有液体に二酸化炭素が溶存していることがある。炭酸腐食が起こる場合の炭酸水素イオン濃度は20mg/L程度の低濃度でも炭酸腐食が起こることが報告されている(非特許文献4)。
また、温度が高い場合のほうが、炭酸腐食が促進されることが報告されている(非特許文献4)。また、塩素イオンが存在すると炭酸腐食が促進されることが報告されている(非特許文献5)。また、深層ガス田などでは、二酸化炭素、硫化水素、塩素イオンが共存し、高温の厳しい腐食環境も存在する。このような環境では、鉄鋼材料は応力腐食割れを起こす懸念がある。
【0005】
以上のように、鉄鋼材料の炭酸腐食は、油井環境のみならず、有機物の燃焼や生物の呼吸により排出される二酸化炭素が原因で起こる腐食であり、鉄鋼材料の腐食できわめて主要な割合を占める腐食と考えられる。鉄鋼材料の腐食生成物に炭酸鉄が検出されれば炭酸腐食の証拠となる。
【0006】
通常行なわれる炭酸腐食の防止方法としては、環境側からの対策と、材料側からの対策、そして材料を環境から遮断する方法がある。
【0007】
環境側からの対策としては、炭酸腐食の原因物質である二酸化炭素やこれらの溶存態である炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンを除くあるいはこれらの濃度を低減させる方法がある。
【0008】
材料側からの炭酸腐食の防止方法としては、例えば、鉄鋼材料ではクロム添加が炭酸腐食への耐食性を高めることが知られており、クロムを添加したクロム合金が耐炭酸腐食性を示す鉄鋼材料として使用されている。
【0009】
また、材料を周囲の環境から遮断する方法としては、例えばエポキシ樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂などによる塗膜により物理的に鉄鋼材料を外部環境から遮断して炭酸腐食を防止する方法などがある。
【0010】
【非特許文献1】Report FHWA-RD-01-156, September 2001.
【非特許文献2】National Energy Technology Laboratory, DE-FC26-01NT41158
【非特許文献3】わが国における腐食コスト(腐食防食協会、日本防錆技術協会)(1997)
【非特許文献4】第47回腐食防食シンポジウム資料(腐食防食協会)(1983)
【非特許文献5】Corrosion Science 49, 9, 746-754(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、腐食生成物として炭酸鉄を生ずる炭酸腐食は、非常に多くみられる腐食であり、水に溶存した二酸化炭素が、鉄鋼材料の腐食に伴いカソード反応で消費される水素イオンの供給源となることで、単純に物理化学的なメカニズムで炭酸腐食は進行するものと考えられてきた。
【0012】
しかし、本発明者らは鋭意検討の結果、腐食生成物として炭酸鉄を生成する鉄鋼材料の炭酸腐食は、水に溶存している二酸化炭素である炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンおよびこれらの塩の存在下では、鉄腐食性メタン生成菌の作用を受けて、促進されることを見出した。さらに、鉄腐食性メタン生成菌と硫酸塩還元菌の共存の作用を受けて、より著しく促進されることを見出した。このように微生物作用により促進される炭酸腐食は常温で起こる。従来の非生物的な炭酸腐食メカニズムに基づいた炭酸腐食対策のみならず、炭酸腐食の原因となるこれら微生物の作用を抑制することに基づいた炭酸腐食対策はこれまでにない。そこで、本発明は、鉄鋼材料の表面と接する、メタン生成菌および二酸化炭素、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンのうち少なくとも1つを含む水含有液体において、メタン生成菌による腐食作用を抑制することで、鉄鋼材料の炭酸腐食を安価かつ容易に防止する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため鋭意検討を行なった結果、鉄鋼材料の表面と接する水含有液体の水質を以下のように調整することにより、メタン生成菌による炭酸腐食作用を抑制することにより、鉄鋼材料の炭酸腐食を防止する方法を確立し、本発明を完成するに至った。本発明の要旨とするところは次の(一)〜(五)である。
(一) メタン生成菌、および二酸化炭素、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンのうち少なくとも1つを含む水含有液体と接触している鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法であって、前記鉄鋼材料の表面と接する水含有液体において、
(1)溶存酸素濃度を1mg/L以上とする、
(2)酸化還元電位を−100mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)以上とする、
(3)pHを9.5以上12以下とする、
(4)塩素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とする、
(5)炭酸水素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とする、
(6)温度が15℃超50℃未満の場合には、温度を0℃以上15℃以下または50℃以上70℃以下とする、
の(1)〜(6)の群より選ばれる1種又は2種以上の手段を実行することを特徴とする鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法。
(二) 事前に、前記水含有液体の溶存酸素濃度、酸化還元電位、pH、塩素イオン濃度、炭酸水素イオン濃度、温度のうちの少なくともいずれかを測定して、
(1)溶存酸素濃度が1mg/L未満の範囲にある場合に、溶存酸素濃度を1mg/L以上とする、
(2)酸化還元電位が−100mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)未満の範囲にある場合に、酸化還元電位を−100mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)以上とする、pHが9.5未満の範囲にある場合に、pHを9.5以上12以下とする、
(3)塩素イオン濃度が10mg/L超の範囲にある場合に、塩素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とする、
(4)炭酸水素イオン濃度が10mg/L超の範囲にある場合に、炭酸水素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とする、
(5)温度が15℃超50℃未満の範囲にある場合に、温度を0℃以上15℃以下または50℃以上70℃以下とする、
の(1)〜(6)の群より選ばれる1種又は2種以上の手段を実行することを特徴とする、(一)の鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法。
(三) 前記メタン生成菌が金属鉄を電子供与体として、二酸化炭素、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌であることを特徴とする(一)および(二)の鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法。
(四) 前記メタン生成菌がメタノコッカレス(Methanococcales)目メタノコッカシアエ(Methanococcaceae)科に属するメタノコッカス マルパリディス(Methanococcus maripaludis)であることを特徴とする(一)から(三)のいずれかの鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法。
(五) 前記メタノコッカレス(Methanococcales)目メタノコッカシアエ(Methanococcaceae)科に属するメタノコッカス マルパリディス(Methanococcus maripaludis)が受託番号NITE BP−252で特定される微生物であることを特徴とする(四)の鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、メタン生成菌および二酸化炭素、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンのうち少なくとも1つを含む水含有液体と接触している鉄鋼材料の炭酸腐食の防止が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本発明が対象とする鉄鋼材料について説明する。
本発明で鉄鋼材料とは、鉄を主要な成分として含む、純鉄、炭素鋼、合金鋼を意味する。
合金鋼は鉄、炭素以外の合金元素の合計量が5質量%以下ならば低合金鋼、5〜10質量%ならば中合金鋼、10質量%以上ならば高合金鋼とも呼ばれる。合金鋼の種類としては、例えば熱間工具鋼、冷間工具鋼、高速度工具鋼、耐熱鋼、高張力鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、珪素鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、マンガンモリブデン鋼などがある。
【0016】
次に、鉄鋼材料の表面と接する水含有液体について説明する。この水含有液体は水や水溶液のみならず、水を含む全ての液体を意味する。例えば、石油関連施設では、海水や油井のかん水、エマルジョン状の水を含む原油なども、対象となる水含有液体である。この水含有液体の中に、鉄鋼材料が浸って存在している場合や、鋼管の中に水含有液体が入っている場合なども、本発明が対象とする鉄鋼材料の表面と接する水含有液体の態様である。
【0017】
本発明は、鉄腐食性のメタン生成菌により起こされる鉄鋼材料の炭酸腐食に対する防食方法を提供する。そのため、鉄鋼材料の表面と接する水含有液体に存在して、腐食の原因となる可能性のあるメタン生成菌について説明する。まず、メタン生成菌についてであるが、メタン生成菌は、硫酸塩還元菌と共に、あらゆる嫌気性環境に棲息している代表的な嫌気性微生物である。
【0018】
メタン生成菌と硫酸塩還元菌が存在する嫌気環境としては、例えば、石油タンクの下部に溜まった水やスラッジ、荷油管内部の下部に溜まった水やスラッジ、海域底泥や近傍の貧酸素海水、船舶の海水を貯留するバラストタンクの下部に溜まった海水やスラッジなどの環境がある。
【0019】
そのうち、特に鉄鋼材料の腐食の原因となるのは、鉄を電子供与体として、かつ、二酸化炭素若しくは溶存態の二酸化炭素、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンおよびこれらの塩のいずれかを炭素源として利用可能なメタン生成菌である。鉄鋼材料の表面と接して存在する水含有液体中に、腐食性のメタン生成菌の存在を確認する簡便な方法としては、例えば以下の方法がある。鉄鋼材料の表面と接して存在する水含有液体の一部を採取して、表1の鉄炭酸培地に加えて、気相には窒素と二酸化炭素の混合ガス(N2(80%)+CO2(20%))を充填した嫌気条件で、鉄の腐食が起こる、あるいは、気相にメタンが検出されれば、前記の腐食原因となるメタン生成菌がこの液体に含まれることを確認できる。また、表1の培地はあくまで一例であって、この他の方法で、鉄を電子供与体として、かつ、溶存態の二酸化炭素若しくは炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンおよびこれらの塩のいずれかを炭素源として培養可能なメタン生成菌を確認しても、勿論構わない。なお、この場合、鉄を電子供与体とする意味は、鉄自体が電子供与体としてメタン生成菌に利用される場合のほか、鉄が腐食する際にカソード反応で生じる水素原子、水素分子を電子供与体としてメタン生成菌が利用する場合も含む。このようにして鉄腐食性のメタン生成菌の存在を確認できる。以上のほかに、メタン生成菌の確認方法として、例えば、メタン生成菌が有するDNAやRNAの特徴的な塩基配列を用いて、PCR(Polymerase Chain Reaction)やFISH(Fluorescence in situ hybridization)などの方法で、存在を確認することも可能である。
【0020】
鉄鋼材料を腐食するメタン生成菌としては、例えばメタノコッカレス(Methanococcales)目メタノコッカシアエ(Methanococcaceae)科に属するメタン生成菌がある。特に目メタノコッカシアエ(Methanococcaceae)科に属するメタン生成菌であるメタノコッカス マルパリディス(Methanococcus maripaludis)は、鉄鋼材料の腐食性が強い。
【0021】
受託番号NITE BP−252で特定されるメタン生成菌メタノコッカス マルパリディスKA1(Methanococcus maripaludis KA1)やメタノコッカス マルパリディスOS7(Methanococcus maripaludis OS7)(NEDO事業「微生物を利用した石油の環境安全対策に関する調査」で単離)は、鉄鋼材料の腐食性が強い。ただし、これら以外の鉄腐食性のメタン生成菌である、鉄を電子供与体として、かつ、二酸化炭素若しくは溶存態の二酸化炭素、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンおよびこれらの塩のいずれかを炭素源として利用可能なメタン生成菌であっても、勿論、かまわない。
【0022】
また、前記のようにメタン生成菌と共存することにより、激しい鉄腐食の原因となる硫酸塩還元菌についてであるが、硫酸塩還元菌は硫酸塩還元反応によって硫化水素イオンあるいは硫化物イオンを生成する。硫酸塩還元菌によって硫化水素イオンあるいは硫化物イオンが生成すると、液体の酸化還元電位が下がり、溶存酸素濃度も低下する。したがって、硫酸塩還元菌がメタン生成菌と共存すると、低い酸化還元電位を好む嫌気性微生物のメタン生成菌にとって好適な環境が形成され、メタン生成菌による鉄鋼材料の腐食を促進する。
【0023】
メタン生成菌と共存する硫酸塩還元菌は、硫酸塩還元反応によって、硫化水素イオンあるいは硫化物イオンを生成するので、どのような硫酸塩還元菌でも構わない。ただし、鉄を電子供与体として、溶存態の二酸化炭素、炭酸水素イオン、炭酸イオンおよびこれらの塩のいずれかを炭素源として利用可能な性質を有する、硫酸還元菌が共存するとメタン生成菌による腐食はより激しくなる。
【0024】
このような性質を持つ硫酸塩還元として、例えば、デスルホビブリオナレス(Desulfovibrionales)目デスルホビブリオナシアエ(Desulfovibrionaceae)科に属する硫酸塩還元菌がある。特に、デスルホビブリオナレス(Desulfovibrionales)目デスルホビブリオナシアエ(Desulfovibrionaceae)科に属するMIC5−15株(NEDO事業「微生物を利用した石油の環境安全対策に関する調査」で単離)は、メタン生成菌との共存により激しい鉄鋼材料の腐食をもたらす。ただし、これら以外の硫酸塩還元菌であっても、勿論、かまわない。
【0025】
鉄鋼材料の表面と接して存在する水含有液体中に硫酸塩還元菌の存在を確認する方法としては、例えば、硫酸イオンを基質として、嫌気性条件において硫酸塩還元菌による硫酸塩還元反応により、生成する硫化水素イオン、硫化物イオンを検出することにより、存在を確認できる。また、例えば、硫酸塩還元菌が有するDNAやRNAの特徴的な塩基配列を用いて、PCR(Polymerase Chain Reaction)やFISH(Fluorescence in situ hybridization)などの方法で、存在を確認することも可能である。
【0026】
尚、メタン生成菌と硫酸塩還元菌が共存する状態についてであるが、同一の水含有液体中にメタン生成菌と硫酸塩還元が共に存在することを意味する。メタン生成菌と硫酸塩還元菌が共存する場合に、主要な腐食原因となるのはメタン生成菌である。これは、メタン生成菌と硫酸塩還元菌が共存する場合の腐食生成物の主要成分が、メタン生成菌単独による腐食と同様に、炭酸鉄であることからわかる。硫酸塩還元菌による腐食生成物である硫化鉄は、炭酸鉄と比較してわずかに検出される。したがって、メタン生成菌と硫酸塩還元菌の共存による腐食において、単独でも強い腐食作用のあるメタン生成菌の腐食作用を抑制することが重要である。
【0027】
次に、本発明の炭酸腐食防止方法において、鉄鋼材料の表面と接する水含有液体の性状に関して説明する。
【0028】
原油などでは、原油中に含まれるエマルジョン状で存在する水であるかん水は、海水と同様に高濃度の塩素イオンを含む場合が多い。さらに、油井環境の多くは二酸化炭素が高濃度で存在している。また、原油を貯留するタンク等では防爆のため高濃度の二酸化炭素を含む燃焼排ガスがイナートガスとして用いられる場合も多い。さらに、海水圧入により得られる原油などでは、高濃度の塩素イオンのみならず、硫酸イオンも原油中にエマルジョン状に含まれるかん水中に含まれることになる。
【0029】
本発明者らはメタン生成菌単独でも炭酸腐食を起こすが、メタン生成菌と硫酸塩還元菌が共存すると、さらに激しい炭酸腐食を起こす現象を見出した。海水やかん水のpHは、pH7から8程度であり、メタン生成菌や硫酸塩還元菌の棲息に適した中性のpHである。さらに、原油中にエマルジョン状に存在している水は、水のほうが油分よりも比重が大きいため、原油や石油を静置すると、水が下にたまることになる。このような水は、上部に厚い原油や石油の層が存在しており、酸素は、原油や石油の有機物を分解する微生物により消費しつくされてしまうため、油層の下にたまる水は、酸素が殆ど存在しない嫌気性条件になっていることが考えられる。
【0030】
二酸化炭素は原油に含まれる油井環境からの持ち込みや、イナートガスのみならず、微生物による有機物の分解によっても供給される。したがって、タンクや荷油管などの底が鉄鋼材料である場合、酸素が殆どない嫌気性環境で塩素イオン濃度が高く、場合によっては硫酸イオン濃度も高い、pH7から8程度の水が、高濃度の二酸化炭素の存在条件で鉄鋼材料と接して存在することになり、鉄腐食性メタン生成菌若しくは鉄腐食性メタン生成菌と硫酸塩還元菌の共存による炭酸腐食を激しく受ける条件が揃っていることになる。したがって、原油や石油の貯留等に使用されるタンクや荷油管等についても、油層の下にたまる鉄鋼材料の表面と接して存在する水含有液体の性状を、以下のように調整することで鉄鋼材料の鉄腐食性メタン生成菌による炭酸腐食を防止することが可能となる。
【0031】
尚、原油などに含まれるエマルジョン状の水の水質の測定についてであるが、エマルジョン状の水を含む原油などを静置することにより比重の差を利用して水を原油の油層より下部に集めるほか、遠心分離によって水を集めることも可能である。このようにして集めた水を水質の測定に供することが可能である。
【0032】
(1)当該液体の溶存酸素濃度を1mg/L以上とすることによって、嫌気性微生物であるメタン生成菌の作用を抑制することが可能となる。溶存酸素濃度が1mg/L未満では、嫌気性微生物であるメタン生成菌の作用が活発化してしまう。したがって、当該液体の溶存酸素濃度は1mg/L以上とすることで、鉄鋼材料の炭酸腐食防止が可能となる。
【0033】
当該液体の溶存酸素濃度を1mg/L以上とする方法としては、具体的には、例えば当該液体を空気や酸素ガスで曝気することにより溶存酸素濃度を高める方法や、事前に十分空気曝気して溶存酸素濃度を高めた水を当該液体に加えることにより溶存酸素濃度を高める方法や、過酸化水素のような酸素発生剤を当該液体に加えて溶存酸素濃度を高める方法などの方法がある。
【0034】
また、当該液体の溶存酸素濃度の測定方法としては、酸素電極を用いた測定方法などがある。
【0035】
尚、当該液体の溶存酸素濃度の上限については特にない。溶存酸素濃度が1mg/L以上であれば、いかなる溶存酸素濃度であっても、メタン生成菌による腐食作用を抑制することが可能であるからである。ただし、溶存酸素濃度が高いほど空気や酸素をより多く曝気する必要が生じるなどコスト的に不利になる。例えば、20℃における水の飽和溶存酸素濃度は9mg/L程度であるから、空気曝気等により低コストで溶存酸素濃度を1mg/L以上9mg/L以下とすることが一応の目安となる。
【0036】
(2)当該液体の水質の酸化還元電位は−100mV(飽和塩化カリウム 銀塩化銀電極基準)以上とすることによって、酸化還元電位が低い環境を好む、メタン生成菌の増殖を抑えて、鉄鋼材料への炭酸腐食作用を抑制することが可能となる。酸化還元電位が−100mV(飽和塩化カリウム 銀塩化銀電極基準)未満では、硫酸塩還元菌が生成する硫化物によって、酸化還元電位が低下して、メタン生成菌が好む低い酸化還元電位となる可能性がある。したがって、当該液体の水質の酸化還元電位を−100mV(飽和塩化カリウム 銀塩化銀電極基準)以上とすることで、メタン生成菌による炭酸腐食を防止することが可能となる。酸化還元電位を−100mV(飽和塩化カリウム 銀塩化銀電極基準)以上とする具体的な方法としては、例えば、当該液体を空気や酸素ガスで曝気することにより酸化還元電位を高める方法や、当該液体に硝酸や過酸化水素などの酸化剤を添加して酸化還元電位を高める方法などの方法がある。
【0037】
尚、当該液体の酸化還元電位を測定する方法としては、金電極や白金電極を用いて酸化還元電位測定を測定するなどの方法がある。本発明では酸化還元電位を、参照電極として飽和塩化カリウム 銀―塩化銀電極とした場合の電位値で記したが、参照電極が異なる場合には、勿論、換算した酸化還元電位の値となる。
【0038】
尚、当該液体の酸化還元電位の上限については特にない。酸化還元電位が−100mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)以上であれば、いかなる酸化還元電位であっても、メタン生成菌と硫酸塩還元菌の作用を抑制することが可能だからである。ただし、酸化還元電位が高いほど空気や酸素をより多く曝気する、あるいは酸化剤をより多く添加するなど、コスト的に不利になる。水中の酸化還元電位の上限は、酸素発生電位となる。酸素発生電位は約+1400mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)であるから、酸化還元電位の上限は+1400mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)となるが、前記のように高い酸化還元電位は、コスト的に不利になるため、過剰に酸化還元電位を上げることはコスト的にも不利である。
【0039】
(3)また、当該液体の水質のpHは9.5以上pH12以下とすることによって、メタン生成菌の増殖を抑えて、鉄鋼材料の炭酸腐食作用を抑制することが可能である。
【0040】
pHが5以上9.5未満では、メタン生成菌が増殖しやすくなるため、鉄鋼材料の炭酸腐食を促進する可能性がある。pHが5未満の場合には、酸性になるため水素イオンから水素分子を発生するカソード反応が促進されて、微生物の作用に拠らなくとも、鉄の腐食が促進されるpH条件となる。pHが5以上9.5未満では、メタン生成菌が増殖しやすくなるため、鉄鋼材料の炭酸腐食を促進する可能性がある。したがって、当該液体の水質のpHは9.5以上とすることが望ましい。また、pH12超では、鉄が錯体を形成して溶解しやすくなる。また、過度にpHを高めることは、アルカリ薬剤のコストも掛かることから好ましくない。したがって、pHは9.5以上12以下にすることが好ましい。
【0041】
pHを9.5以上12以下とする具体的な方法としては、海水や石油に含まれるかん水のように腐食環境の水は一般にpH9.5未満であるため、例えば、当該液体に希釈した水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムなどのアルカリ剤を含む水を加えてpHを高めるなどの方法がある。
【0042】
尚、当該液体のpHの測定方法としては、pH電極により直接pHを測定する方法や、pH試験紙を用いて比色によりpHを測定する方法などの方法がある。
【0043】
(4)また、当該液体の水質の塩素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とすることによって、メタン生成菌若しくはメタン生成菌と硫酸塩還元菌の共存作用による鉄鋼材料の腐食において、鉄のアノード溶解を促進する腐食部位への塩素イオンの流入と濃化を抑制することにより、鉄鋼材料の腐食を抑制することが可能となる。特に、海水では塩素イオン濃度が約19000mg/Lであり、また原油などに含まれるかん水の塩素イオン濃度も非常に高い濃度になる。メタン生成菌若しくはメタン菌と硫酸塩還元菌による腐食は、海水やかん水のように、高い塩素イオン濃度で促進されるため、当該液体の塩素イオン濃度を低減することは、防食にとってきわめて重要である。塩素イオン濃度の下限についてであるが、塩素イオン濃度は低いほど、腐食が進展する腐食孔の底部に塩素イオンが濃化することを防止できるので、腐食を抑制できる効果がある。したがって、塩素イオン濃度は0mg/L以上10mg/L以下とすることが好ましい。
【0044】
当該液体の塩素イオン濃度を10mg/L以下に減少させる具体的な方法としては、例えば、当該液体に塩素イオンを含まないあるいは低塩素イオン濃度の淡水を加えて希釈により当該液体の塩素イオン濃度を低下させる方法や、当該液体に陰イオン交換樹脂を添加して塩素イオンを除去して塩素イオン濃度を低下させる方法などの方法がある。
【0045】
尚、当該液体の塩素イオン濃度の測定方法についてであるが、例えば、当該液体を採水してイオンクロマトグラフ法で塩素イオンの濃度を測定する方法や、塩素イオン濃度を測定するセンサーを用いて当該液体の塩素イオンの濃度を測定する方法などの方法がある。
【0046】
(5)また、当該液体の炭酸水素イオンの濃度を0mg/L以上10mg/L以下とすることで、炭素源として用いるメタン生成菌の増殖を抑制することができ、メタン生成菌による鉄鋼材料の腐食を防止することが可能となる。本発明が対象とする鉄腐食性のメタン生成菌はpH6以上9以下の範囲で良好に生育する。本メタン生成菌は、炭素源かつ電子受容体として二酸化炭素を利用するが、より正確には、二酸化炭素が水に溶けた溶存態の二酸化炭素をメタン生成菌は利用する。溶存態の二酸化炭素は、pHに依存して、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンのような化学形態をとる。メタン生成菌による腐食は、メタン生成菌が良好に生育するpHの範囲で問題になる。すなはちpH6以上pH9以下でメタン生成菌による腐食が問題になる。このpHの範囲で溶存態の二酸化炭素は主に炭酸水素イオンとして存在している。溶存態の二酸化炭素全体、すなはち溶存している二酸化炭素ガス、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンの和として全炭酸濃度の測定方法も報告されているが、測定方法が容易ではない。したがって、本発明では、メタン生成菌による腐食が起こるpH範囲で主要な溶存二酸化炭素の化学形態であり、安価かつ容易に測定可能な炭酸水素イオンの濃度に着目して、炭酸腐食を防止するための条件を設定した。炭酸水素イオンの濃度の測定方法としては、例えば、JIS.K0101.25.2に示された方法がある。
炭酸水素イオンの濃度を10mg/L以下とする具体的な方法としては、例えば、当該液体を窒素ガスのように安価で二酸化炭素を含まず、かつ腐食作用のない不活性なガスを用いて曝気して、当該液体の炭酸水素イオン濃度を低減させる方法や、当該液体に水酸化カルシウムを加えて炭酸水素イオンを炭酸カルシウムとして固定化して、当該液体の炭酸水素イオン濃度を低減させる方法などの方法がある。
【0047】
尚、当該液体の炭酸水素イオン濃度の測定方法としては、例えば、当該液体を採水して前記のJIS.K0101.25.2に示された方法で当該液体の炭酸水素イオン濃度を測定する方法などがある。
【0048】
尚、炭酸水素イオンの下限についてであるが、炭酸水素イオン濃度は低いほど、メタン生成菌の炭素源として、あるいは電子受容体として、炭酸水素イオンを利用しづらくなるため、メタン生成菌による腐食を抑制することが可能である。また、腐食生成物である炭酸鉄の生成も抑制することができる。したがって、炭酸水素イオン濃度は0mg/L以上10mg/L以下とすることが好ましい。
【0049】
(6)また、当該液体の温度を0℃以上15℃以下若しくは50℃以上70℃以下とすることによって、メタン生成菌の増殖を抑制することによって、メタン生成菌に起因する炭酸腐食作用を抑制することが可能である。温度が15℃を超え50℃未満では、鉄腐食性のメタン生成菌の増殖に適した温度となる。したがって、温度を15℃以下若しくは50℃以上とすることによって、鉄腐食性のメタン生成菌の増殖を抑制することが可能である。また、70℃を超えると、非生物的な炭酸腐食が起こりやすくなる。また、0℃未満では、水が凍結する恐れがある。したがって、当該液体の温度を0℃以上15℃以下若しくは50℃以上70℃以下とすることが好ましい。
【0050】
当該液体の温度を0℃以上15℃以下若しくは50℃以上70℃以下とする具体的な方法としては、例えば、当該液体に加温装置あるいは冷却装置を入れて当該液体の温度を目標値にする方法や、当該液体に温度の異なる水を加えて当該液体の温度を目標値にする方法などがある。
【0051】
尚、当該液体の温度の測定方法としては、当該液体に温度計を入れて温度を測定する方法や、当該液体に熱電対を入れて温度を測定する方法などの方法がある。
【0052】
また、上記各炭酸腐食防止方法の実行に当たっては、事前に、前記水含有液体の溶存酸素濃度、酸化還元電位、pH、塩素イオン濃度、炭酸水素イオン濃度、温度のうちの少なくともいずれかを測定して、溶存酸素濃度が1mg/L未満の範囲にある場合に、溶存酸素濃度を1mg/L以上とし、酸化還元電位が−100mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)未満の範囲にある場合に、酸化還元電位を−100mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)以上とし、pHが9.5未満の範囲にある場合に、pHを9.5以上12以下とし、塩素イオン濃度が10mg/L超の範囲にある場合に、塩素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とし、炭酸水素イオン濃度が10mg/L超の範囲にある場合に、炭酸水素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とし、或いは、温度が15℃超50℃未満の範囲にある場合に、温度を0℃以上15℃以下または50℃以上70℃以下とする、のうちの1種又は2種以上を実行することが、好ましい。
【0053】
その理由は、いずれかの条件が既に塗膜劣化防止および腐食防止条件に入っている場合は、対策をとらなくても良い場合があることや、上記条件を複数又は全て事前に測定しておけば、各条件のうち、最も塗膜劣化防止および腐食防止条件に近いものを優先的に操作することで、素早く安価に対応できるなど、利点が大きいためである。
【0054】
尚、原油などに含まれるエマルジョン状の水の水質を調整しようとする場合についてであるが、例えば原油などを貯蔵するタンクや、輸送する鋼管などの場合、底部にもともと原油に含まれていたエマルジョン状の水等に由来する塩素イオン濃度が高いかん水等が、油層より下部に溜まって、この水中で生息するメタン生成菌あるいはメタン生成菌と硫酸塩還元菌の作用を受けて鉄鋼材料を炭酸腐食する原因となる。
【0055】
したがって、例えばあらたに水をこれらの底部に加えることや、薬剤を添加すること、底部を空気曝気すること等により、鉄鋼材料の表面と接する液体の水質を、本発明の水質に調整することが可能となる。原油に含まれるエマルジョン状の水の水質項目の測定方法としては、例えば、エマルジョン状の水を含む原油を採取して、静置あるいは遠心分離することにより、油層の下部に、エマルジョン状の水を集めることができる。水質項目を電極やセンサーで直接測定する際はこの水をそのまま各水質項目の測定に用いてもよい。また、この水をピペット等を用いて採水して、各水質項目の測定に用いることも可能である。
【0056】
尚、前記のように溶存酸素濃度、酸化還元電位、pH、塩素イオン濃度、炭酸水素イオンの濃度、温度に関する条件のうち、いずれか一つ以上を満足することができれば、メタン生成菌あるいはメタン生成菌と硫酸塩還元菌による炭酸腐食を防止することが可能である。
【0057】
ただし、より好ましくは、上記の溶存酸素濃度、酸化還元電位、pH、塩素イオン濃度、炭酸水素イオンの濃度、温度に関する条件のうち、複数条件を満足するように、鉄鋼材料の表面に接する水の水質を調整することが望ましい。例えば、かん水や海水の塩素イオン濃度は10000mg/Lを超えるような高濃度である。原油や石油の層の下部に、きわめて少量のかん水や海水が鉄鋼材料の底板の表面と接して存在するような場合には、大量の淡水で希釈することにより、塩素イオン濃度を10mg/L以下に低下させることは可能である。しかし、かん水や海水の量が多い場合には、きわめて大量の淡水で希釈する必要があり、塩素イオン濃度を10mg/L以下に低下させることは実施可能ではあるが、原油や石油により多くの水が混入して、原油や石油の性状を劣化させる要因となりかねない。このような場合には、この鉄鋼材料の表面と接する水のpHをpHを9.5以上12以下とする等、本発明で示した塩素イオン濃度以外の別の条件を満たすことでメタン生成菌あるいはメタン生成菌と硫酸塩還元菌による鉄鋼材料の炭酸腐食を防止することが可能となる。
【0058】
尚、前記のように、溶存酸素濃度、酸化還元電位、pH、塩素イオン濃度、炭酸水素イオン濃度、温度の条件のうち、複数条件を満足するように、メタン生成菌あるいはメタン生成菌と硫酸塩還元菌を共に含む水含有液体の水質を調整することがより望ましいが、メタン生成菌による鉄鋼材料の炭酸腐食の防止に特に効果があるのは、pHと炭酸水素イオン濃度と塩素イオン濃度である。
【0059】
ただし、炭酸水素イオン濃度に関しては、空気中の二酸化炭素が水に溶解する影響がある。例えば、我が国の河川水の炭酸水素イオン濃度は約30mg/Lであることが報告されており、河川水を用いて希釈しても炭酸水素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下に調整することは困難である。また、鉄鋼材料の表面近傍で微生物が酸素呼吸をすることにより二酸化炭素が排出され水中に溶存する影響などもある。このように、所望の炭酸水素イオン濃度に調整しにくい問題がある。
【0060】
したがって、pHと塩素イオン濃度の条件を満足するように、当該液体のpHを9.5以上12以下、かつ、塩素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とすることで、より確実にメタン生成菌あるいはメタン生成菌と硫酸塩還元菌による鉄鋼材料の炭酸腐食を防止することが可能である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
{実施例1}メタン生成菌による炭酸腐食
表1の組成の人工海水を腐食試験液とした。0.2μm孔径のフィルターでろ過して、ろ過滅菌した腐食試験液を用意した。GC−MS用の容積50mLのガラス容器の底に、純鉄試験片(10×10×0.1mm)を一枚入れ、ろ過滅菌した人工海水を容器いっぱいに満たすように添加して、N2:CO2=4:1ガスによる脱気によって、この人工海水の溶存酸素濃度を0.1mg/L未満にした。表2の組成の培養液で培養した、鉄を電子供与体として、炭酸水素イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌の培養液を0.5mL添加した。メタン生成菌の初期濃度は1×106個/mLとした。人工海水の上部に気相が残らないように密栓した状態で、37℃で2週間静置して腐食試験を行なった。また、対照として、メタン生成菌を接種せず、無菌系でも同様の腐食試験を行なった。2週間後、メタン生成菌を接種した系と無菌の系それぞれで腐食試験液中の鉄濃度を測定した。結果を表3に示す。対照の無菌系と比較して、メタン生成菌を接種した系では、激しい鉄腐食が起こることが明らかとなった。さらにメタン生成菌を接種した腐食試験系と対照の無菌系で、腐食生成物をX線回折により解析した。結果を表4に示す。メタン生成菌による腐食生成物は炭酸鉄であり、炭酸腐食が促進されたことが判明した。一方、対照の無菌の系では、ほとんど腐食生成物がないため、鉄のみがピークとして検出された。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

{実施例2}溶存酸素濃度の影響
表1の組成の人工海水を腐食試験液とした。0.2μm孔径のフィルターでろ過して、ろ過滅菌した腐食試験液を用意した。GC−MS用の容積50mLのガラス容器の底に、純鉄試験片(10×10×0.1mm)を一枚入れ、ろ過滅菌した人工海水を容器いっぱいに満たすように添加して、N2:CO2=4:1ガスによる脱気によって、この人工海水の溶存酸素濃度を0、0.5、1、2、5mg/Lにした。表2の組成の培養液で培養した、鉄を電子供与体として、炭酸水素イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌の培養液を0.5mL添加した。メタン生成菌の初期濃度は1×106個/mLとした。人工海水の上部に気相が残らないように密栓した状態で、37℃で2週間静置して腐食試験を行なった。2週間後、腐食試験液中の鉄濃度を測定した。結果を図1に示す。溶存酸素濃度が1mg/L以上で、鉄の腐食が抑制された。
{実施例3}酸化還元電位の影響
表1の組成の人工海水を0.2μm孔径のフィルターでろ過して、ろ過滅菌した腐食試験液を用意した。GC−MS用の容積50mLのガラス容器の底に、純鉄試験片(10×10×0.1mm)を一枚入れ、ろ過滅菌した人工海水を容器いっぱいに満たすように添加して、N2:CO2=4:1ガスによる脱気と還元剤である硫化ナトリウムの添加よって、この人工海水の酸化還元電位を−500、−200、−100、0、+100mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)にした。
【0066】
表2の組成の培養液で培養した、鉄を電子供与体として、炭酸水素イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌の培養液を0.5mL添加した。メタン生成菌の初期濃度は1×106個/mLとした。人工海水の上部に気相が残らないように密栓した状態で、37℃で2週間静置して腐食試験を行なった。2週間後、腐食試験液中の鉄濃度を測定した。結果を図2に示す。酸化還元電位が−100mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)以上で、鉄の腐食が抑制された。
【0067】
なお、酸化還元電位は、溶存酸素濃度と連動することが多いが、必ずしも連動しない場合がある。例えば、溶存酸素がなくとも、硝酸イオンのような酸化剤が存在すれば、酸化還元電位は高い値を示す。したがって、本発明では酸化還元電位に関しても、塗膜劣化と腐食防止方法に関して規定する。
{実施例4}pHの影響
表5の組成の人工海水を元に、希釈した塩酸および希釈した水酸化ナトリウム溶液を用いて、pHが6、7、8、9、9.5、10の人工海水を調整した。0.2μm孔径のフィルターでろ過して、ろ過滅菌したpHの異なる人工海水を用意した。GC−MS用の容積50mLのガラス容器の底に、純鉄試験片(10×10×0.1mm)を一枚入れ、ろ過滅菌したpHの異なる人工海水を20mL添加して、N2:CO2=4:1ガスにより脱気して、希釈した塩酸および希釈した水酸化ナトリウム溶液を用いて、pHを前記設定値に調整し、かつ、溶存酸素濃度が0.1mg/L未満となり、嫌気条件となったことを確認した。なお、容器内の上部空間はN2:CO2=4:1ガスで充たして、密栓した。
【0068】
表2の組成の培養液で培養した、鉄を電子供与体として、炭酸水素イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌の培養液を0.5mL添加した。メタン生成菌の初期濃度は1×106個/mLとした。37℃で2週間静置して腐食試験を行なった。2週間後、腐食試験液中の鉄濃度を測定した。結果を図3に示す。pHが9.5以上で、鉄の腐食が抑制された。
【0069】
【表5】

【0070】
NaOH水溶液でpH8.2に調製し、純水により1Lに合わせる。
{実施例5}塩素イオン濃度の影響
表5の組成の人工海水とは、塩化ナトリウムの濃度を変えて調製した、塩素イオン濃度が1、10、100、1000、10000mg/Lの腐食試験液を作成した。0.2μm孔径のフィルターでろ過して、ろ過滅菌した塩素イオン濃度の異なる腐食試験液を用意した。GC−MS用の容積50mLのガラス容器の底に、純鉄試験片(10×10×0.1mm)を一枚入れ、ろ過滅菌した塩素イオン濃度の異なる腐食試験液を20mL添加して、N2:CO2=4:1ガスにより脱気して、溶存酸素濃度が0.1mg/L未満となり、嫌気条件となったことを確認した。容器内の上部空間はN2:CO2=4:1ガスで充たして、密栓した。
【0071】
表2の組成の培養液で培養した、鉄を電子供与体として、炭酸水素イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌の培養液を0.5mL添加した。メタン生成菌の初期濃度は1×106個/mLとした。37℃で2週間静置して腐食試験を行なった。2週間後、腐食試験液中の鉄濃度を測定した。結果を図4に示す。塩素イオン濃度が10mg/L以下で、鉄の腐食が抑制された。
{実施例6}炭酸水素イオンの濃度の影響
表5の組成の人工海水とは、炭酸水素ナトリウムの濃度を変えて調製した、炭酸水素イオンの濃度が0、5、10、50、100、500mg/Lの腐食試験液を調製した。0.2μm孔径のフィルターでろ過して、ろ過滅菌した炭酸水素イオンの濃度の異なる腐食試験液を用意した。GC−MS用の容積50mLのガラス容器の底に、純鉄試験片(10×10×0.1mm)を一枚入れ、ろ過滅菌した炭酸水素イオン濃度の異なる腐食試験液をN2ガスにより脱気して、溶存酸素濃度が0.1mg/L未満となり、嫌気条件となったことを確認した。容器内は試験液で充たして、密栓した。表2の組成の培養液で培養した、鉄を電子供与体として、炭酸水素イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌の培養液を0.5mL添加した。メタン生成菌の初期濃度は1×106個/mLとした。37℃で2週間静置して腐食試験を行なった。2週間後、腐食試験液中の鉄濃度を測定した。結果を図5に示す。炭酸水素イオンの濃度が10mg/L以下の条件で、鉄の腐食が抑制された。
{実施例7}温度の影響
表5の組成の人工海水を腐食試験液として、0.2μm孔径のフィルターでろ過して、ろ過滅菌した腐食試験液を用意した。GC−MS用の容積50mLのガラス容器の底に、純鉄試験片(10×10×0.1mm)を一枚入れ、ろ過滅菌した腐食試験液を20mL添加して、N2:CO2=4:1ガスにより脱気して、溶存酸素濃度が0.1mg/L未満となり、嫌気条件となったことを確認した。容器内の上部空間はN2:CO2=4:1ガスで充たして、密栓した。
【0072】
表2の組成の培養液で培養した、鉄を電子供与体として、炭酸水素イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌の培養液を0.5mL添加した。メタン生成菌の初期濃度は1×106個/mLとした。10、15、20、25、30、35、40、50、60℃の各温度それぞれで2週間静置して腐食試験を行なった。2週間後、腐食試験液中の鉄濃度を測定した。結果を図6に示す。温度が15℃以下で鉄の腐食が抑制された。60℃で50℃よりも腐食がすすんだのは、高温のため非生物的な炭酸腐食の影響と考えられる。
{実施例8}原油を用いた腐食試験
表5の組成の人工海水を元に、希釈した塩酸および希釈した水酸化ナトリウム溶液を用いて、pHが7、8、9、9.5、10の人工海水を調整した。0.2μm孔径のフィルターでろ過して、ろ過滅菌したpHの異なる人工海水を用意した。
【0073】
GC−MS用の容積50mLのガラス容器の底に、純鉄試験片(10×10×0.1mm)を一枚入れ、前記のpHの異なる人工海水10mLを添加して、N2:CO2=4:1ガスにより脱気して、希釈した塩酸および希釈した水酸化ナトリウム溶液を用いて、pHを前記設定値に調整し、かつ、溶存酸素濃度が0.1mg/L未満となり、嫌気条件となったことを確認した。さらに、原油10mLを加えてN2:CO2=4:1ガスにより前記人工海水と原油を攪拌混合した後、容器内の上部空間をN2:CO2=4:1ガスで充たして、密栓した。37℃で2週間静置して腐食試験を行なった。2週間の腐食試験後、原油の油層の下部にたまっている人工海水の一部を採取して、表2の培養液に加えて、気相にはN2:CO2=4:1ガスを充填した嫌気条件で、鉄の腐食が起こり、気相にメタンが検出されたので、腐食原因となるメタン生成菌がこの人工海水中に含まれていることを確認した。また、黒色の硫化鉄が発生したことから、硫酸塩還元菌もこの人工海水中に含まれていることを確認した。人工海水はフィルタ滅菌して作成したことから、これらのメタン生成菌と硫酸塩還元菌は、原油中に含まれるエマルジョン状の水に由来することが考えられる。また、腐食の様子を調べるために、この人工海水の鉄濃度を測定した。鉄濃度の測定結果を図7に示す。pHが9.5以上で、鉄の腐食が抑制された。
{実施例9}pHと塩素イオン濃度の組合せ条件による炭酸腐食の防止
表5の組成の人工海水とは、pHと塩化ナトリウムの濃度を変えて調製した、pHが8、9、9.5、10、塩素イオン濃度が0、10、100、1000mg/Lの腐食試験液を作成した。0.2μm孔径のフィルターでろ過して、ろ過滅菌したpH、塩素イオン濃度の異なる腐食試験液を用意した。GC−MS用の容積50mLのガラス容器の底に、純鉄試験片(10×10×0.1mm)を一枚入れ、ろ過滅菌したpH、塩素イオン濃度の異なる腐食試験液を20mL添加して、N2:CO2=4:1ガスにより脱気して、溶存酸素濃度が0.1mg/L未満となり、嫌気条件となったことを確認した。容器内の上部空間はN2:CO2=4:1ガスで充たして、密栓した。
【0074】
表2の組成の培養液で培養した、鉄を電子供与体として、炭酸水素イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌と硫酸塩還元菌の培養液を0.5mLずつ添加した。メタン生成菌と硫酸塩還元菌の初期濃度は共に1×106個/mLとした。37℃で2週間静置して腐食試験を行なった。2週間後、腐食試験液中の鉄濃度を測定した。結果を表6に示す。pHが9.5以上かつ塩素イオン濃度が10mg/L以下で、より確実に鉄の腐食が抑制された。
【0075】
【表6】

【0076】
{実施例10}メタン生成細菌単独、硫酸塩還元菌単独による腐食影響評価
表1の組成の人工海水を腐食試験液とした。0.2μm孔径のフィルターでろ過して、ろ過滅菌した腐食試験液を用意した。GC−MS用の容積50mLのガラス容器の底に、純鉄試験片(10×10×0.1mm)を一枚入れ、ろ過滅菌した人工海水を容器いっぱいに満たすように添加して、N2:CO2=4:1ガスによる脱気によって、この人工海水の溶存酸素濃度を0.1mg/L未満にした。表2の組成の培養液で培養した、鉄を電子供与体として、炭酸水素イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌、硫酸塩還元菌の培養液をメタン生成菌、硫酸塩還元菌を共存させる場合、メタン生成菌単独の場合、硫酸塩還元菌単独の場合についてそれぞれ0.5mL添加した。メタン生成菌と硫酸塩還元菌の初期濃度はそれぞれ1×106個/mLとした。人工海水の上部に気相が残らないように密栓した状態で、37℃で2週間静置して腐食試験を行なった。また、対照として無菌の場合についても腐食試験を行なった。2週間後、腐食試験液中の鉄濃度を測定した。結果を図8に示す。硫酸塩還元菌単独の場合と無菌の場合では鉄の腐食はほとんど起こらなかった。メタン生成菌単独の場合と、メタン生成菌と硫酸塩還元菌が共存する場合で、激しい腐食が起こった。メタン生成菌単独の場合とメタン生成菌と硫酸塩還元菌が共存する場合で腐食した鉄試験片の腐食生成物の成分をX線回折により分析した結果を表7に示す。メタン生成菌単独の場合とメタン生成菌と硫酸塩還元菌が共存する場合では、炭酸鉄が検出され、炭酸腐食が起こっていることがわかった。
【0077】
【表7】

【0078】
{実施例11}
容積50mLのガラス容器に、上層に原油20mL、下層に海水20mLが存在する条件において、この下層海水に表2の組成の培養液で培養した、鉄を電子供与体として、炭酸水素イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌と硫酸塩還元菌の培養液を0.5mLずつ添加した。メタン生成菌と硫酸塩還元菌の初期濃度は共に1×106個/mLとした。
【0079】
この下層の海水の溶存酸素濃度は0.05mg/L、酸化還元電位は−150mV(飽和塩化カリウム 銀塩化銀電極基準)、pHは8、塩素イオン濃度は19000mg/L、炭酸水素イオン濃度は1800mg/L、温度は30℃であった。
【0080】
この下層海水中のガラス容器の底に、純鉄試験片(10×10×0.1mm)を一枚入れ、上部の気相はN2:CO2=4:1ガスを充填した状態でガラス容器を密封して、30℃で2週間静置して腐食試験を実施した。2週間後、下層海水の鉄濃度を測定した。
【0081】
一方、上記試験と同様に下層海水に表2の組成の培養液で培養した、鉄を電子供与体として、炭酸水素イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌と硫酸塩還元菌の培養液を添加した下層海水の、溶存酸素濃度が0.05mg/L、酸化還元電位が−150mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)、pHが8、塩素イオン濃度が19000mg/L、炭酸水素イオン濃度が1800mg/L、温度が30℃であることを確認した後、下層海水を空気曝気して下層海水の溶存酸素濃度を3mg/L、酸化還元電位を50mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)とした下層海水にも、前記同様に、純鉄試験片(10×10×0.1mm)を一枚入れ、上部の気相はN2:CO2=4:1ガスを充填した状態でガラス容器を密封して、30℃で2週間静置して腐食試験を実施した。2週間後、下層海水の鉄濃度を測定した。
【0082】
下層海水の鉄濃度の測定結果を図9に示す。メタン生成菌と硫酸塩還元菌を共に含む下層海水の溶存酸素濃度を事前に測定した0.05mg/Lから3mg/Lに、酸化還元電位を事前に測定した−150mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)から50mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)に変えることによって、メタン生成菌と硫酸塩還元菌による鉄腐食を抑制することができた。溶存酸素濃度を0.05mg/L、酸化還元電位を−150mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)とした場合の腐食生成物をX線回折で調べたところ炭酸鉄であったことから、下層海水の溶存酸素濃度を事前に測定した0.05mg/Lから3mg/Lに、酸化還元電位を事前に測定した−150mV(飽和塩化カリウム 銀塩化銀電極基準)から50mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)に変えることによって、メタン生成菌と硫酸塩還元菌による炭酸腐食を抑制することができた。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】メタン生成菌による鉄腐食に及ぼす溶存酸素濃度の影響を表す図である。
【図2】メタン生成菌による鉄腐食に及ぼす酸化還元電位の影響を表す図である。
【図3】メタン生成菌による鉄腐食に及ぼすpHの影響を表す図である。
【図4】メタン生成菌による鉄腐食に及ぼす塩素イオン濃度の影響を表す図である。
【図5】メタン生成菌による鉄腐食に及ぼす炭酸水素イオンの濃度の影響を表す図である。
【図6】メタン生成菌による鉄腐食に及ぼす温度の影響を表す図である。
【図7】原油による鉄腐食に及ぼすpHの影響を表す図である。
【図8】無菌、硫酸塩還元菌単独、メタン生成菌単独、メタン生成菌と硫酸塩還元菌共存の場合の鉄腐食の比較を表す図である。
【図9】下層海水の溶存酸素濃度と酸化還元電位を事前に測定した結果から変えた場合の、人工海水中の鉄濃度の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン生成菌、および二酸化炭素、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンのうち少なくとも1つを含む水含有液体と接触している鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法であって、前記鉄鋼材料の表面と接する水含有液体において、
(1)溶存酸素濃度を1mg/L以上とする、
(2)酸化還元電位を−100mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)以上とする、
(3)pHを9.5以上12以下とする、
(4)塩素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とする、
(5)炭酸水素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とする、
(6)温度が15℃超50℃未満の場合には、温度を0℃以上15℃以下または50℃以上70℃以下とする、
の(1)〜(6)の群より選ばれる1種又は2種以上の手段を実行することを特徴とする鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法。
【請求項2】
事前に、前記水含有液体の溶存酸素濃度、酸化還元電位、pH、塩素イオン濃度、炭酸水素イオン濃度、温度のうちの少なくともいずれかを測定して、
(1)溶存酸素濃度が1mg/L未満の範囲にある場合に、溶存酸素濃度を1mg/L以上とする、
(2)酸化還元電位が−100mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)未満の範囲にある場合に、酸化還元電位を−100mV(飽和塩化カリウム/銀塩化銀電極基準)以上とする、
(3)pHが9.5未満の範囲にある場合に、pHを9.5以上12以下とする、
(4)塩素イオン濃度が10mg/L超の範囲にある場合に、塩素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とする、
(5)炭酸水素イオン濃度が10mg/L超の範囲にある場合に、炭酸水素イオン濃度を0mg/L以上10mg/L以下とする、
(6)温度が15℃超50℃未満の範囲にある場合に、温度を0℃以上15℃以下または50℃以上70℃以下とする、
の(1)〜(6)の群より選ばれる1種又は2種以上の手段を実行することを特徴とする、請求項1に記載の鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法。
【請求項3】
前記メタン生成菌が金属鉄を電子供与体として、二酸化炭素、炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンを炭素源として培養可能なメタン生成菌であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法。
【請求項4】
前記メタン生成菌がメタノコッカレス(Methanococcales)目メタノコッカシアエ(Methanococcaceae)科に属するメタノコッカス マルパリディス(Methanococcus maripaludis)であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法。
【請求項5】
前記メタノコッカレス(Methanococcales)目メタノコッカシアエ(Methanococcaceae)科に属するメタノコッカス マルパリディス(Methanococcus maripaludis)が受託番号NITE BP−252で特定される微生物であることを特徴とする請求項4に記載の鉄鋼材料の炭酸腐食防止方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−228028(P2009−228028A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72147(P2008−72147)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 微生物を利用した石油の環境安全対策に関する調査委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】