説明

鉄鋼添加剤

【課題】 蛍石等のフッ素を含有する造滓剤を使用することなく、従来と同等以上の性能を有する溶銑及び溶鋼用脱硫剤を提供する。
【解決手段】化学成分がCaO40〜60質量%、Al2O360〜40質量%であり、主要鉱物として 3CaO・Al2O3及び12CaO・7Al2O3、並びに、非晶質を含有することを特徴とするカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤であり、前記カルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤と生石灰源を含有する溶銑及び溶鋼用脱硫剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑及び溶鋼用脱硫剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉から出銑された溶銑中には、鋼の品質に悪影響を及ぼす硫黄が高濃度で含まれるため、溶銑予備処理および溶鋼脱硫が行われている。溶銑の脱硫剤としては、安価な生石灰を主成分とする脱硫剤が多く用いられている。
【0003】
生石灰の脱硫反応は、塩基性が高いほど有効であるものの、滓化促進作用を得るために、螢石やアルミナ系造滓剤等が併用されている。そして、フッ素を含有する生石灰−CaF2系は、生石灰−アルミナ系造滓剤よりも脱硫効率が良いことから幅広く使用されており、例えば、CaO 85質量%−CaF215質量%の組成の脱硫剤が使用されている。しかしながら、CaF2等の造滓剤を含むと、フッ素の排出基準に触れて環境問題を引き起こす恐れがあるため、フッ素を含有しない脱硫剤の開発が待望されている。
【特許文献1】特開2002-146421号公報
【特許文献2】特開2002-60832号公報
【特許文献3】特開2004-263285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記の実情から鑑みてなされたものであり、蛍石等のフッ素を含有する造滓剤を使用することなく、従来と同等またはそれ以上の脱硫性能を発現するとともに、さらに、鉄鋼生産時に発生するスラグのリサイクル利用を前提とした、環境に配慮したカルシウムアルミネート系脱硫剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、化学成分がCaO 40〜60質量%、Al2O3 60〜40質量%であり、主要鉱物として 3CaO・Al2O3及び12CaO・7Al2O3、並びに、非晶質を含有することを特徴とするカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤であり、前記カルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤と生石灰源を含有する溶銑及び溶鋼用脱硫剤である。
【0006】
さらに、非晶質の含有量が25〜90質量%であって、鉱物組成が質量比で3CaO・Al2O3/12CaO・7Al2O3=0.5〜2.0である前記溶銑及び溶鋼用脱硫剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フッ素成分を含有せず、従来と同等以上の性能を有する溶銑及び溶鋼用脱硫剤が得られる。本発明により環境に配慮したカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤が得られ、脱硫処理後のスラグ中のフッ素含有量が低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤は、赤ボーキサイト等の天然原料をバイヤープロセス等の精製法により精製して得られた高純度アルミナ、及びボーキサイト等のAl2O3源と、石灰石や生石灰等のCaO源を所定の成分割合になる様に配合して、電気炉、反射炉、縦型炉、平炉、シャフトキルン及びロータリーキルン等の設備にて、溶融又は焼成して得ることが出来る。
【0009】
本発明のカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤の製造において、目的とする主鉱物は3CaO・Al2O3(以下C3Aと記入する)、12CaO・7Al2O3(以下C12A7と記入する)であるが、さらに、主に工業原料中の不可避的不純物等に由来して、CaO・Al2O3(以下CA)、CaO・2Al2O3(以下CA2)、CaO・2Al2O3・SiO2(以下C2AS)、CaO・TiO2(以下CT)、4CaO・Al2O3・Fe2O3(以下C4AF)等が含まれる場合があるものの、本発明の効果を損なわない範囲で存在しても構わない。通常、C3A及びC12A7以外の結晶系鉱物の含有量は20質量%以下であり、使用する溶銑の状況によるが、10質量%以下であれば特に問題はない。工業原料中の不可避的不純物は、SiO2、TiO2,Fe2O3、Na2O、K2O、Li2O、MgO等が一般的であり、その含有量は通常15質量%以下である。また、未反応のCaOやAl2O3を含む場合があるが、CaOは10質量%以下、Al2O3は5質量%以下が好ましい。未反応原料がクリンカー中に存在すると、特に生石灰等が混入した場合には、水分の吸湿等が発生し、溶銑脱硫時の吹き上げや水素混入等が起きる場合がある。
【0010】
本発明においては、鉱物組成と非晶質の含有量が重要である。
C3A/C12A7の質量比は0.5〜2.0が好ましい。C3A/C12A7の質量比が0.5未満であると融点は下がるものの、溶銑及び溶鋼中で粘性が増加する傾向が見られ、それに伴い脱硫率が低下する場合がある。一方、C3A/C12Aの組成比が2.0を超えると、融点が上昇して脱硫率が低下する場合がある。
【0011】
化学成分は、CaO40〜60質量%,Al2O3 60〜40質量%であることが好ましく、CaO45〜55質量%,Al2O3 55〜45質量%であることがより好ましい。CaOが40質量%未満又はAl2O3が60質量%を超えると、鉱物としてCA及びCA2が生成して融点が上がり、脱硫率の低下を引き起こす場合があり、一方、CaOが60質量%を超える又はAl2O3が40質量%未満であると、C3Aが増加しても、融点が上がり脱硫率不良を引き起こす場合がある。本発明に係るカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤は、前記の鉱物組成と化学成分の範囲を外れると、目的とする脱硫率の効果が得られない場合がある。工業原料中には不可避的不純物が存在するが、これらの不純物は本発明の効果を損なわない範囲で存在しても構わない。
【0012】
本発明に係る非晶質の含有量は、25〜90質量%が好ましい。非晶質が25質量%未満では、脱硫効率が悪くなり、脱硫速度が低下する傾向がある。一方、90質量%を超えるとガラス化率が増加して、脱硫速度が低下し、反応時間が長くなる傾向がある。非晶質の含有量は、クリンカーの冷却工程の調整により制御可能である。カルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤の鉱物及び非晶質の含有量は、粉末X線回折法により測定可能である。
【0013】
焼成法で本発明のカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤を製造する場合、Al2O3源とCaO源を所定の割合で混合、叉は混合粉砕し、ロータリーキルンにて1200〜1700℃の温度で焼成することにより得られる。目的の鉱物組成と非晶質の割合を得るには、原料の粒度調整、焼成温度、焼成時間も重要な制御因子である。
【0014】
一方、溶融法での本発明のカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤を製造する場合、Al2O3源とCaO源を所定の割合で混合し、電気炉にて1600〜1800℃の温度で溶融し、急冷することにより得られる。目的の鉱物組成と非晶質の割合を得るには、溶融温度、急冷条件も重要な制御因子である。
【0015】
カルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤の粉砕は特に限定されるものではなく、ロッキーミルやジョークラッシャー等により粗砕でき、粉塊物の微粉砕には、例えば,ボールミル、ローラーミル、ジェットミル、チューブミル、振動ミル等が使用できる。粒度は粉砕条件により制御可能である。
【0016】
本発明では、カルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤の他に、生石灰源を含んでいてもよい。脱硫性能を上げることは望ましいが、安価である生石灰系の材料を混合して使用することが好ましいことから、生石灰源を添加しても良い。生石灰源は、特に限定されないが、例えば、石灰石を800℃から1200℃で焼成した生石灰等の使用が可能であり、特に純度の高い生石灰が好ましい。
【0017】
本発明のカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤は、前記したように蛍石のようなフッ素含有物質を用いずに溶銑を脱硫することができるので、脱硫処理後のスラグ中のフッ素含有量を低減でき、環境に配慮した脱硫剤である。
【0018】
次に、本発明のカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤を用いた溶銑の脱硫方法について説明する。脱硫処理は、取鍋、トピードカーおよび鋳床等の容器内に保持された溶銑に前記脱硫剤を添加することにより行われる。このような脱硫処理が施される溶銑の成分等は特に限定されず、前記脱硫剤に生石灰源が含まれる場合は、これらを予め混合又は混合粉砕して溶銑に添加しても、或いは別々に添加してもよい。さらに、脱硫剤を構成する生石灰源の一部または全部を予め溶銑に添加しておき、その後残部を溶銑に添加することも可能である。
【0019】
本発明のカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤を添加して脱硫反応を生じさせる方法は特に限定されず、脱硫剤を溶銑直上から投入してインペラー等で機械撹拌する方法、溶銑中に脱硫剤をインジェクションする方法、溶銑上に脱硫剤を上置きする方法、予め容器内に脱硫剤を入れておき、その後容器内に溶銑を装入する入置き法、鋳床において溶銑に精錬剤を添加する方法等、種々の方法を採用することができる。これらの中では機械撹拌法およびインジェクション法が好ましい。
【0020】
本発明のカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤は、塊状、粒状、粉末状いずれの形態、また、どのような粒度でも使用可能である。使用容器やプロセス、脱硫方法などに応じて最適な形状、粒度を適宜選択することができる。例えば、機械撹拌法での溶銑直上からの大量添加の場合においては、飛散等による歩留まりロスを低減するために、粒状または塊状のものの使用が好ましい。一方、インジェクション法での使用の際には、ノズル詰まりの問題が生じない程度の粉末状のものを使用する。脱硫剤の粒径は、反応性を支配する重要な因子であることから、1次粒子が1mm以下であることが好ましい。また、溶銑の酸素濃度や処理前の溶銑上のスラグの有無などにより、生石灰等の生石灰源を前記カルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤と別個に添加することが有効な場合もある。
【0021】
溶銑及び溶鋼より副生するスラグは、従来、道路補修用の路盤材、テトラポット等の2次製品、高炉セメント用の原料等に使用されてきた。しかしながら、脱硫剤の一部が混入してフッ素含有量が高くなるため、環境問題から使用できなくなる恐れがある。一方、本発明のカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤はフッ素を含んでおらず、鉄鋼生産時に発生するスラグのリサイクル利用のために好適である。
【実施例1】
【0022】
CaO源として生石灰、Al2O3源として仮焼ボーキサイト及びアルミナを使用し、表1に示す化学成分になるように配合し、1650℃で3時間溶融し、急冷度合いを変えて、本発明のカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤を作製した。次に、アルゴンガス雰囲気中、竪型管状炉内の中央に設置されたマグネシア製ルツボに溶鋼を入れ、作製した脱硫剤を溶鋼100質量部に対して5質量部の割合で、竪型管状炉の上部より投入し30分間放置した。脱硫剤を投入してから15分後の脱硫率を、高周波燃焼/赤外吸収法によって測定した。結果を表2に示す。市販のCaF2含有脱硫剤を比較として用いた。
【0023】
〈使用材料〉
CaO源 :生石灰、市販品、CaO含有量98質量%
Al2O3源1 :仮焼ボーキサイト粉、中国品、Al2O3 含有量85質量%
Al2O3源2 :酸化アルミニウム粉、日本軽金属社製A11、Al2O3 含有量99質量%
CaF2含有脱硫剤(市販品):電気化学工業社製、商品名「F15G」、フッ素含有率6質量%。
溶鋼:SS400、温度1550℃
【0024】
〈測定方法〉
鉱物組成、非晶質:内部標準として、クォーツを試料と同時混合し、理学電機社製 粉末X線回折装置(RADII)で測定した。X線回折条件は、サンプリング幅:0.002度(2θ)、走査速度:0.01度/分(ステップ走査)、X線測定条件として40KV、30mAにて測定を行った。内部標準とした石英からRietveld法を用いて結晶質相、非晶質相を定量した。
化学成分:JISR2522に準じて分析を行った。
脱硫率:高周波燃焼/赤外吸収法により、金属中の硫黄を酸素気流中で燃焼させて、赤外線分析計により測定。装置は、LECO社製CS-444を使用し、分析には、助燃剤としてタングステン・スズを使用した。また、燃焼用磁性るつぼはLECO社製セラミックるつぼを1350℃、20分空焼きしたものを使用した。キャリアガスは酸素を使用した。 更に、溶銑より取り出した試料を高周波ユニットで完全燃焼させ、燃焼に伴って発生したSO2を赤外線検出器で測定し試料中の硫黄濃度を定量した。脱硫率(%)=(溶銑から除去された硫黄濃度ppm)×100/(溶銑処理前の溶銑中の硫黄濃度ppm)
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【実施例2】
【0027】
実施例1の実験No.1−9で作製した脱硫剤を使用し、生石灰源を脱硫剤に対して外割で添加したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0028】
〈使用材料〉
生石灰源:生石灰、市販品、CaO含有量98質量%、粒度150μm篩上≦20%
【0029】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分がCaO 40〜60質量%、Al2O3 60〜40質量%であり、主要鉱物として 3CaO・Al2O3及び12CaO・7Al2O3、並びに、非晶質を含有することを特徴とするカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤。
【請求項2】
請求項1記載のカルシウムアルミネート系溶銑及び溶鋼用脱硫剤と生石灰源を含有することを特徴とする溶銑及び溶鋼用脱硫剤。
【請求項3】
非晶質の含有量が25〜90質量%であって、鉱物組成が質量比で3CaO・Al2O3/12CaO・7Al2O3=0.5〜2.0であることを特徴とする請求項1または2記載の溶銑及び溶鋼用脱硫剤。


【公開番号】特開2007−46083(P2007−46083A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229667(P2005−229667)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】