鉄骨定着アンカー
【発明の詳細な説明】
「産業上の利用分野」
本発明は、鉄骨構造体とコンクリート構造体とを連結するために、一端が鉄骨構造体に固定され他端がコンクリート構造体に埋め込まれる鉄骨定着アンカーに関するものである。
「従来の技術」
一般に、鉄骨構造体とコンクリート構造体とを連結する場合、コンクリート構造体がプレキャスト製品のようなときには、アンカーボルトをコンクリートに必要な長さだけ埋め込んで引き抜けないようにしておき、このアンカーボルトを介して鉄骨構造体とコンクリート構造体とを連結するようにしている。たとえば、鉄骨柱に用いられるアンカーボルトは鉄骨側にベースプレートと称する板を取り付けこれをボルトで固定することとなる。この場合、ベースプレートは面外荷重を受けるため、変形を起こし易く、剛性を満足させるには、ベースプレートを極めて厚くするか、補強リブ等を多用して変形を抑制する必要があった。
また、鉄骨が曲げとせん断力を同時に伝達する場合には、アンカーボルトも曲げ引張と同時にせん断力を負担しなければならず、特に、アンカーボルトにせん断力を伝えるためにはベースプレートのボルト孔はボルト径に対して余裕があってはならず、このことから施工がより複雑なものなっている。
このため、従来においては、アンカーボルトの数を4本程度に抑えて各アンカーボルトの径を太くし、精度確保と定着長の不足を補う目的でアングル材などで組んだアンカーフレームを用いる手段等が適用されている。
ところで、先行技術では、前述したアンカーボルト等の連結部材を用いずに鉄骨を直接コンクリート中に埋め込む手段が適用される場合がある。この方法は、たとえば、線路や道路の下にこれらを横断するトンネルを構築するURT(Under Railway Tunnelling)工法と称される工法に主として適用されてきた。このような工法は、たとえば第13図ないし第15図に示すようにして行なわれる。すなわち、断面形状が矩形のエレメントEの先端にカッターヘッドを装着し、エレメントを推進機にセットした上で、推進機によりエレメントを土中に押し込みながら、エレメント内のスクリューコンベアにより掘削した土砂を排土し、土中にエレメントEを順次門型に貫入させていく(第13図参照)。
次いで、第14図に示すように、全エレメントEの推進完了後、エレメントEの両端に受桁Kを取り付け、エレメントE内にコンクリートを充填し、覆工体内部の土砂を掘削したあと、必要に応じ二次覆工を行いトンネルTを完成させるものである(第15図参照)。
そして、従来においては、エレメントEと受桁Kとの連結をエレメントEを直接受桁Kを構成するコンクリート中に埋め込んで定着していたものである。
ところが、このような方法では、エレメントEが埋め込み長さ分よけいに必要となる他、第16図などに示すように、埋め込み部分のエレメントEの端部に、エレメントEの回転モーメントMに対抗する力P(=M/a)が加わるとともにエレメントEの付根近くにはこの力Pとせん断力Sを加えた力Rが集中して加わるため、一般的にはこれらの力の関係がS<P<Rとなってむしろ埋込部においてエレメントEを構成する鉄骨を一段と補強しなければならなかった。
さらに、コンクリート部分においてはエレメントEに対する十分な巻き込み強度が必要である他、埋め込まれたエレメントEはコンクリートの補強鉄筋の配置を邪魔し、コンクリート打設を困難にする等の問題点があり、往々にしてエレメントEの埋め込み部分には、鉄筋貫通孔あるいはコンクリート打設時の空気抜き孔が必要となるなどの解決すべき問題点が残されていた。
したがって、従来よりこの種のエレメントEのコンクリートへの定着手段としては、鉄骨柱脚のようにアンカーボルトによる固定手段が望まれていたが、ベースプレート等の取り付けができないため、見送られているのが実状である。
「発明が解決しようとする課題」
本発明は前記した従来技術において残されている次のような課題を解決せんとするものである。
すなわち、URT工法において適用されているように、エレメントEを直接コンクリート中に埋め込んで定着する場合、従来方法では、エレメントEが埋め込み長さ分よけいに必要となるのでコスト高になりやすく、またエレメントEの埋込部においてはガス切り加工や補強が必要となる他、コンクリート部分ではエレメント埋込部が支障してコンクリートの施工が難しくなる上に、設計的にも複雑で難しくなる点である。
本発明は、前記事情に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、エレメントのような鉄骨構造体の一端をコンクリートに埋め込んで定着する場合に有効に使用することができる鉄骨定着アンカーを提供することにある。
「課題を解決するための手段」
そこで本発明では、一枚の鋼板をその長手方向に沿って一つづつ切り出すことにより形成されたアンカー本体の一端を、鉄骨構造体の定着端にボルト止めし、他端をコンクリート構造体のコンクリート中に埋め込むことにより、鉄骨構造体とコンクリート構造体とを連結する鉄骨定着アンカーであって、前記アンカー本体の一端に長手方向に並列する複数のボルト孔を有する取付板部を設けらるとともに、他端にこの取付板部より鉄骨の定着に必要な長さ寸法延出した埋込み部を形成し、しかも、前記埋込み部の幅寸法を取付板部の幅寸法の1/2になるように設定したものである。
なお、前記において、前記アンカー本体の埋込み部の周縁を波形に形成すれば、コンクリートとの定着力を向上させることができるので、好ましい。
「作用」
本発明の鉄骨定着アンカーによれば、アンカー本体の取付板部を直接鉄骨構造体の定着端に高力ボルトにより摩擦接合することにより、アンカー自身のガタつきや、緩みをなくすことができるとともに、疲労耐力を向上させることができ、また、アンカー本体の埋込み部の向きを変えて鉄骨構造体の定着端に取り付けることにより、アンカー自身を鉄骨に加わる軸力および固定端モーメントによる曲げ軸力を合わせて負担する軸力用アンカーとせん断力を負担するせん断用アンカーとの2種に別けて作用させることが可能になるので、鉄骨構造体の一端をコンクリート中に埋み込み定着する場合に有効に対処することが可能になる。
しかも、このアンカーを用いることにより、コンクリート構造体の補強鉄筋の配筋作業が容易になり、またアンカーを構成するアンカー本体は鋼板から切り出されて製作されるので、コスト低下が図れる。
「実施例」
以下、本発明の一実施例を第1図ないし第4図を参照して説明する。なお、図示例は、URT工法に使用されるエレメントEと受桁Kとを連結する定着用アンカーとして適用された例を示している。
第1図および第2図はこの鉄骨定着アンカーをエレメントEの先端に取り付けて、受桁Kのコンクリート中に埋め込んだ状態を示すもので、受桁Kには、特に図示していないが必要量の補強鉄筋が埋設されていることは勿論である。
図示例では、このアンカーAは、第3図などに示すように、矩形のエレメントEを構成する上下左右の側板E1,E2,E3,E4に一端をボルト止めすることにより固定されており、またアンカーAの他端は受桁Kを構成するコンクリート中に埋め込まれて鉄骨構造体であるエレメントEとコンクリート構造体である受桁Kとを連結するようになっている。
なお、各側板E1,E2,E3,E4に取り付けされたアンカーAのうち、上下の側板E1,E2にそれぞれ取り付けられたアンカーAは、エレメントEの軸線方向に沿った状態で側板E1,E2の幅方向に互いに間隔を開けて配置されており、また、左右の側板E3,E4に取り付けられたアンカーAはその先端を斜め上方に向けて取り付けられている。
前記各アンカーAの具体的な構成について説明すると、アンカーAは、第4図などに示すように、一枚の鋼板Sをその長手方向に沿って一つづつ切り出すことにより形成されたアンカー本体1を主体として構成されている。
このアンカー本体1の一端には、その長手方向に並列する複数(図示例では2個)のボルト孔1aを有する取付板部1bが設けられるとともに、アンカー本体1の他端には、この取付板部1bより鉄骨の定着に必要な長さ寸法延出した埋込み部1cが形成されている。
この埋込み部1cは、取付板部1bの中心寄りに位置して先端に向け突出しており、またその先端は錐状に尖った形状となっている。なお、埋込み部1cの幅寸法l1は、取付板部1bの幅寸法l2のほぼ1/2になるように設定されており、これにより、アンカー本体1を鋼板Sより切り出す際に、余材をほとんど生ずることなく切り出すことができるように配慮されている。すなわち、アンカー本体1は、、鋼板Sの長手方向に沿ってひとつづつ切り出されていくが、埋込み部1cの幅寸法と取付板部1bとの幅寸法を前記のように設定することによって、アンカー本体1の埋込み部1cの向きを、第4図に示すように、互い違いにすることができるので、鋼板Sよりアンカー本体1を有効に切り出すことができ、鋼板Sからアンカー本体1を切り出す際に余材をなくすことができるものである。
次いで、以上のように構成された本実施例のアンカーAの使用方法並びにその作用を説明する。
このアンカーAを用いるには、まず、エレメントEの両端にそれぞれアンカー本体1を取り付けるためのボルト孔を形成する。
次に、アンカー本体1の取付板部1bに形成されたボルト孔1aを前記エレメントEのボルト孔に合わせ、これらボルト孔に高張力ボルトBを挿入してナットNにより締め込む。これによって、アンカー本体1はエレメントEに対して直接密着されるため、ガタつきや緩みが生じることがなく、曲げ剛性における弱点を有することがない。
そして、受桁Kを構築するのに必要な補強鉄筋等の配筋作業ならびに型枠作業を行い、コンクリートを打設して受桁Kの構築を行うのであるが、この際、配筋作業はアンカーフレームや鉄骨(エレメント)埋め込みがないので、コンクリート中の鉄筋配置が自由に行え、また、ベースプレートがなく、エレメントEの端部を埋め込む必要がないので、コンクリートの施工に支障を起こすことがないといった利点を生ずる。
しかして、このようなアンカーAでは、エレメントEの上下の側板E1,E2にそれぞれ配設したエレメントEの軸方向に延びるアンカーAがエレメントEに加わる軸力および固定端モーメントによる曲げ軸力を合わせて負担する軸力用アンカーとして作用し、またエレメントEの左右の側板E3,E4にそれぞれ斜めに配設したアンカーAがせん断力を負担するせん断用アンカーとして作用するので、エレメントEのコンクリートへの定がせん断力を負担するせん断用アンカーとして作用するので、エレメントEのコンクリートへの定着を強固なものとすることができ、また、せん断用アンカーAは斜めに取り付けることによりアンカーAには軸力のみとして設計ができる等により設計が単純明解になるといった利点がある。しかも、このアンカーAは、溶接することなく、ボルト止めすることにより、エレメントEの定着端に固定できるので、疲労耐力が低下することがないといった長所もある。
また、このように優れた作用を有するアンカーAは、第4図に示すように、一枚の鋼板Sから余材を生ずることなく切り出すことができるので、コスト低下を図ることができるものである。
第5図および第6図は本発明にかかる鉄骨定着アンカーの別の実施例を示すもので、ここに示すアンカーAは、アンカー本体1の埋込み部1cの周縁1dを波形に形成したことを最大の特徴とするもので、このような構成としたアンカーAにあっては、周縁1dが波形に形成された埋込み部1cの作用によって、コンクリートとの定着力をさらに高めることができるといった利点を生ずる。
また、第7図は埋込み部1cを曲げ加工したアンカー本体1を形成しておき、このようなアンカー本体1を一組み用いて鉄骨構造体(たとえばエレメントE)の定着端に背中合わせに取り付けたもので、本発明によるアンカーAによれば、このような形態にもアンカーAを取り付けることができるので、その定着効果をさらに向上させることができる利点がある。
第8図は、鉄骨柱脚Hを基礎コンクリートCに連結する場合の例を示すもので、このような場合にも、鉄骨柱脚Hの端部にアンカーAをそれぞれボルト止めしておき、その埋込み部1cをコンクリート中に埋め込むことによって、前述したエレメントEと受桁Kとの連結のように同様の作用効果を得ることができるものである。
次いで、第9図ないし第12図を参照して、鉄骨定着アンカーAの変形例を説明すると、第9図では、埋込み部1cの先端に表裏に貫通する貫通孔1eを形成し、この貫通孔1eに補強鉄筋2を取り付けるようにしたもので、補強鉄筋2との作用によってさらにアンカー力を増すことができるものである。
第10図では埋込み部1cの先端をほぼ90゜折り曲げることによって、アンカー力を増すようにしたものであり、また第11図では、埋込み部1cの先端を割り裂いてこれらを90゜折り曲げ、そのアンカー力を増すようにしたものである。
なお、第12図では、埋込み部1cの先端に矩形の鋼板3を溶接止めしておき、この鋼板3によるアンカー作用を付加させることによって、その定着力を高めるように配慮したものである。
このように本発明にかかるアンカーAは各図示例に限定されるものではなく、その性能をさらに高めるために、鋼板の表面に凹凸のある縞鋼板を用いてアンカー本体1を形成しても良いし、また、アンカー本体1に捻りを加えてアンカー力を増すと同時に板による方向性を打ち消すようにしても良い。
なお、前記実施例において示した各構成部材の諸形状や寸応等は一例であって、適用する鉄骨構造体の種類や設計要求等に基づき種々変更可能であり、また、適用する鉄骨構造体としては、エレメントEのようなものに限らず、たとえば鋼管杭等のものにも適用できるものである。
「発明の効果」
以上説明したように本発明によれば、一枚の鋼板をその長手方向に沿って一つづつ切り出すことにより形成されたアンカー本体の一端を、鉄骨構造体の定着端にボルト止めし、他端をコンクリート構造体のコンクリート中に埋め込むことにより、鉄骨構造体とコンクリート構造体とを連結する鉄骨定着アンカーであって、前記アンカー本体の一端に長手方向に並列する複数のボルト孔を有する取付板部を設けら るとともに、他端にこの取付板部より鉄骨の定着に必要な長さ寸法延出した埋込み部を形成し、しかも、前記埋込み部の幅寸法を取付板部の幅寸法のほぼ1/2になるように設定したので、次のような優れた効果を奏することができる。
(a) このアンカーは、鉄骨構造体に対して直接アンカー本体の取付板部を高力ボルトによる摩擦接合することにより、取り付けられるので、アンカー自身のガタつきや、緩みをなくすことができ、また摩擦接合としたから溶接したものとちがって、その疲労耐力を向上させることができ、さらには、アンカー本体の埋込み部の向きを変えて鉄骨構造体の定着端に取り付けることにより、アンカー自身を鉄骨に加わる軸力および固定端モーメントによる曲げ軸力を合わせて負担する軸力用アンカーとせん断力を負担するせん断用アンカーとの2種に別けて作用させることが可能になるので、鉄骨構造体とコンクリート構造体とを強固に連結することが可能になる。
(b) また、このアンカーによれば、ベースプレート等の介在物がないため曲げ剛性における弱点がなく、従来のように鉄骨構造体の一端を直接コンクリート中に埋め込む必要がなくなるので、コンクリート施工に際してたとえば補強鉄筋の配筋作業やコンクリート打設作業等に支障を生ずるようなことがなく、コスト低下を図ることができるといった利点がある。
(c) また、このアンカーは、一枚の鋼板を切り出すことにより形成されたアンカー本体を主体として構成されており、かつ、アンカー本体は、コンクリート中に埋め込まれる埋込み部が取付板部に比してほぼ1/2の幅寸法に設定されているため、余材を余すことなく、鋼板より切り出すことが可能になり、コスト低下を図ることができるものである。
(d) なお、アンカー本体の埋込み部の周縁を波形に形成すると、埋込み部の周縁1dがコンクリートとの定着力をさらに高めるので、アンカーの性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図ないし第4図は本発明の一実施例を示すもので、第1図は本発明にかかるアンカーをエレメントと受桁との連結に適用した状態を示す概略斜視図、第2図は要部の断面図、第3図はエレメントの端部にアンカーを取り付けた状態を示す斜視図、第4図はアンカーの製作工程を説明するために示した斜視図、第5図および第6図はそれぞれ本発明の他の実施例を説明するために示した平面図、第7図はアンカーの別の取付態様を示す側面図、第8図は鉄骨柱脚と基礎コンクリートとの連結にこのアンカーを用いた状態を示す正面図、第9図ないし第12図は鉄骨定着アンカーの変形例を説明するために示したもので、それぞれ斜視図、第13図ないし第16図は従来の技術を説明するために示したもので、第13図ないし第15図はトンネルの構築過程を示す正面図、第16図は従来のエレメントの定着手段を説明するために示した正面図である。
A……鉄骨定着アンカー、1……アンカー本体、
1a……ボルト孔、1b……取付板部、
1c……埋込み部、1d……周縁、
1e……貫通孔、2……補強鉄筋、
3……鋼板、E……エレメント、
K……受桁。
「産業上の利用分野」
本発明は、鉄骨構造体とコンクリート構造体とを連結するために、一端が鉄骨構造体に固定され他端がコンクリート構造体に埋め込まれる鉄骨定着アンカーに関するものである。
「従来の技術」
一般に、鉄骨構造体とコンクリート構造体とを連結する場合、コンクリート構造体がプレキャスト製品のようなときには、アンカーボルトをコンクリートに必要な長さだけ埋め込んで引き抜けないようにしておき、このアンカーボルトを介して鉄骨構造体とコンクリート構造体とを連結するようにしている。たとえば、鉄骨柱に用いられるアンカーボルトは鉄骨側にベースプレートと称する板を取り付けこれをボルトで固定することとなる。この場合、ベースプレートは面外荷重を受けるため、変形を起こし易く、剛性を満足させるには、ベースプレートを極めて厚くするか、補強リブ等を多用して変形を抑制する必要があった。
また、鉄骨が曲げとせん断力を同時に伝達する場合には、アンカーボルトも曲げ引張と同時にせん断力を負担しなければならず、特に、アンカーボルトにせん断力を伝えるためにはベースプレートのボルト孔はボルト径に対して余裕があってはならず、このことから施工がより複雑なものなっている。
このため、従来においては、アンカーボルトの数を4本程度に抑えて各アンカーボルトの径を太くし、精度確保と定着長の不足を補う目的でアングル材などで組んだアンカーフレームを用いる手段等が適用されている。
ところで、先行技術では、前述したアンカーボルト等の連結部材を用いずに鉄骨を直接コンクリート中に埋め込む手段が適用される場合がある。この方法は、たとえば、線路や道路の下にこれらを横断するトンネルを構築するURT(Under Railway Tunnelling)工法と称される工法に主として適用されてきた。このような工法は、たとえば第13図ないし第15図に示すようにして行なわれる。すなわち、断面形状が矩形のエレメントEの先端にカッターヘッドを装着し、エレメントを推進機にセットした上で、推進機によりエレメントを土中に押し込みながら、エレメント内のスクリューコンベアにより掘削した土砂を排土し、土中にエレメントEを順次門型に貫入させていく(第13図参照)。
次いで、第14図に示すように、全エレメントEの推進完了後、エレメントEの両端に受桁Kを取り付け、エレメントE内にコンクリートを充填し、覆工体内部の土砂を掘削したあと、必要に応じ二次覆工を行いトンネルTを完成させるものである(第15図参照)。
そして、従来においては、エレメントEと受桁Kとの連結をエレメントEを直接受桁Kを構成するコンクリート中に埋め込んで定着していたものである。
ところが、このような方法では、エレメントEが埋め込み長さ分よけいに必要となる他、第16図などに示すように、埋め込み部分のエレメントEの端部に、エレメントEの回転モーメントMに対抗する力P(=M/a)が加わるとともにエレメントEの付根近くにはこの力Pとせん断力Sを加えた力Rが集中して加わるため、一般的にはこれらの力の関係がS<P<Rとなってむしろ埋込部においてエレメントEを構成する鉄骨を一段と補強しなければならなかった。
さらに、コンクリート部分においてはエレメントEに対する十分な巻き込み強度が必要である他、埋め込まれたエレメントEはコンクリートの補強鉄筋の配置を邪魔し、コンクリート打設を困難にする等の問題点があり、往々にしてエレメントEの埋め込み部分には、鉄筋貫通孔あるいはコンクリート打設時の空気抜き孔が必要となるなどの解決すべき問題点が残されていた。
したがって、従来よりこの種のエレメントEのコンクリートへの定着手段としては、鉄骨柱脚のようにアンカーボルトによる固定手段が望まれていたが、ベースプレート等の取り付けができないため、見送られているのが実状である。
「発明が解決しようとする課題」
本発明は前記した従来技術において残されている次のような課題を解決せんとするものである。
すなわち、URT工法において適用されているように、エレメントEを直接コンクリート中に埋め込んで定着する場合、従来方法では、エレメントEが埋め込み長さ分よけいに必要となるのでコスト高になりやすく、またエレメントEの埋込部においてはガス切り加工や補強が必要となる他、コンクリート部分ではエレメント埋込部が支障してコンクリートの施工が難しくなる上に、設計的にも複雑で難しくなる点である。
本発明は、前記事情に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、エレメントのような鉄骨構造体の一端をコンクリートに埋め込んで定着する場合に有効に使用することができる鉄骨定着アンカーを提供することにある。
「課題を解決するための手段」
そこで本発明では、一枚の鋼板をその長手方向に沿って一つづつ切り出すことにより形成されたアンカー本体の一端を、鉄骨構造体の定着端にボルト止めし、他端をコンクリート構造体のコンクリート中に埋め込むことにより、鉄骨構造体とコンクリート構造体とを連結する鉄骨定着アンカーであって、前記アンカー本体の一端に長手方向に並列する複数のボルト孔を有する取付板部を設けらるとともに、他端にこの取付板部より鉄骨の定着に必要な長さ寸法延出した埋込み部を形成し、しかも、前記埋込み部の幅寸法を取付板部の幅寸法の1/2になるように設定したものである。
なお、前記において、前記アンカー本体の埋込み部の周縁を波形に形成すれば、コンクリートとの定着力を向上させることができるので、好ましい。
「作用」
本発明の鉄骨定着アンカーによれば、アンカー本体の取付板部を直接鉄骨構造体の定着端に高力ボルトにより摩擦接合することにより、アンカー自身のガタつきや、緩みをなくすことができるとともに、疲労耐力を向上させることができ、また、アンカー本体の埋込み部の向きを変えて鉄骨構造体の定着端に取り付けることにより、アンカー自身を鉄骨に加わる軸力および固定端モーメントによる曲げ軸力を合わせて負担する軸力用アンカーとせん断力を負担するせん断用アンカーとの2種に別けて作用させることが可能になるので、鉄骨構造体の一端をコンクリート中に埋み込み定着する場合に有効に対処することが可能になる。
しかも、このアンカーを用いることにより、コンクリート構造体の補強鉄筋の配筋作業が容易になり、またアンカーを構成するアンカー本体は鋼板から切り出されて製作されるので、コスト低下が図れる。
「実施例」
以下、本発明の一実施例を第1図ないし第4図を参照して説明する。なお、図示例は、URT工法に使用されるエレメントEと受桁Kとを連結する定着用アンカーとして適用された例を示している。
第1図および第2図はこの鉄骨定着アンカーをエレメントEの先端に取り付けて、受桁Kのコンクリート中に埋め込んだ状態を示すもので、受桁Kには、特に図示していないが必要量の補強鉄筋が埋設されていることは勿論である。
図示例では、このアンカーAは、第3図などに示すように、矩形のエレメントEを構成する上下左右の側板E1,E2,E3,E4に一端をボルト止めすることにより固定されており、またアンカーAの他端は受桁Kを構成するコンクリート中に埋め込まれて鉄骨構造体であるエレメントEとコンクリート構造体である受桁Kとを連結するようになっている。
なお、各側板E1,E2,E3,E4に取り付けされたアンカーAのうち、上下の側板E1,E2にそれぞれ取り付けられたアンカーAは、エレメントEの軸線方向に沿った状態で側板E1,E2の幅方向に互いに間隔を開けて配置されており、また、左右の側板E3,E4に取り付けられたアンカーAはその先端を斜め上方に向けて取り付けられている。
前記各アンカーAの具体的な構成について説明すると、アンカーAは、第4図などに示すように、一枚の鋼板Sをその長手方向に沿って一つづつ切り出すことにより形成されたアンカー本体1を主体として構成されている。
このアンカー本体1の一端には、その長手方向に並列する複数(図示例では2個)のボルト孔1aを有する取付板部1bが設けられるとともに、アンカー本体1の他端には、この取付板部1bより鉄骨の定着に必要な長さ寸法延出した埋込み部1cが形成されている。
この埋込み部1cは、取付板部1bの中心寄りに位置して先端に向け突出しており、またその先端は錐状に尖った形状となっている。なお、埋込み部1cの幅寸法l1は、取付板部1bの幅寸法l2のほぼ1/2になるように設定されており、これにより、アンカー本体1を鋼板Sより切り出す際に、余材をほとんど生ずることなく切り出すことができるように配慮されている。すなわち、アンカー本体1は、、鋼板Sの長手方向に沿ってひとつづつ切り出されていくが、埋込み部1cの幅寸法と取付板部1bとの幅寸法を前記のように設定することによって、アンカー本体1の埋込み部1cの向きを、第4図に示すように、互い違いにすることができるので、鋼板Sよりアンカー本体1を有効に切り出すことができ、鋼板Sからアンカー本体1を切り出す際に余材をなくすことができるものである。
次いで、以上のように構成された本実施例のアンカーAの使用方法並びにその作用を説明する。
このアンカーAを用いるには、まず、エレメントEの両端にそれぞれアンカー本体1を取り付けるためのボルト孔を形成する。
次に、アンカー本体1の取付板部1bに形成されたボルト孔1aを前記エレメントEのボルト孔に合わせ、これらボルト孔に高張力ボルトBを挿入してナットNにより締め込む。これによって、アンカー本体1はエレメントEに対して直接密着されるため、ガタつきや緩みが生じることがなく、曲げ剛性における弱点を有することがない。
そして、受桁Kを構築するのに必要な補強鉄筋等の配筋作業ならびに型枠作業を行い、コンクリートを打設して受桁Kの構築を行うのであるが、この際、配筋作業はアンカーフレームや鉄骨(エレメント)埋め込みがないので、コンクリート中の鉄筋配置が自由に行え、また、ベースプレートがなく、エレメントEの端部を埋め込む必要がないので、コンクリートの施工に支障を起こすことがないといった利点を生ずる。
しかして、このようなアンカーAでは、エレメントEの上下の側板E1,E2にそれぞれ配設したエレメントEの軸方向に延びるアンカーAがエレメントEに加わる軸力および固定端モーメントによる曲げ軸力を合わせて負担する軸力用アンカーとして作用し、またエレメントEの左右の側板E3,E4にそれぞれ斜めに配設したアンカーAがせん断力を負担するせん断用アンカーとして作用するので、エレメントEのコンクリートへの定がせん断力を負担するせん断用アンカーとして作用するので、エレメントEのコンクリートへの定着を強固なものとすることができ、また、せん断用アンカーAは斜めに取り付けることによりアンカーAには軸力のみとして設計ができる等により設計が単純明解になるといった利点がある。しかも、このアンカーAは、溶接することなく、ボルト止めすることにより、エレメントEの定着端に固定できるので、疲労耐力が低下することがないといった長所もある。
また、このように優れた作用を有するアンカーAは、第4図に示すように、一枚の鋼板Sから余材を生ずることなく切り出すことができるので、コスト低下を図ることができるものである。
第5図および第6図は本発明にかかる鉄骨定着アンカーの別の実施例を示すもので、ここに示すアンカーAは、アンカー本体1の埋込み部1cの周縁1dを波形に形成したことを最大の特徴とするもので、このような構成としたアンカーAにあっては、周縁1dが波形に形成された埋込み部1cの作用によって、コンクリートとの定着力をさらに高めることができるといった利点を生ずる。
また、第7図は埋込み部1cを曲げ加工したアンカー本体1を形成しておき、このようなアンカー本体1を一組み用いて鉄骨構造体(たとえばエレメントE)の定着端に背中合わせに取り付けたもので、本発明によるアンカーAによれば、このような形態にもアンカーAを取り付けることができるので、その定着効果をさらに向上させることができる利点がある。
第8図は、鉄骨柱脚Hを基礎コンクリートCに連結する場合の例を示すもので、このような場合にも、鉄骨柱脚Hの端部にアンカーAをそれぞれボルト止めしておき、その埋込み部1cをコンクリート中に埋め込むことによって、前述したエレメントEと受桁Kとの連結のように同様の作用効果を得ることができるものである。
次いで、第9図ないし第12図を参照して、鉄骨定着アンカーAの変形例を説明すると、第9図では、埋込み部1cの先端に表裏に貫通する貫通孔1eを形成し、この貫通孔1eに補強鉄筋2を取り付けるようにしたもので、補強鉄筋2との作用によってさらにアンカー力を増すことができるものである。
第10図では埋込み部1cの先端をほぼ90゜折り曲げることによって、アンカー力を増すようにしたものであり、また第11図では、埋込み部1cの先端を割り裂いてこれらを90゜折り曲げ、そのアンカー力を増すようにしたものである。
なお、第12図では、埋込み部1cの先端に矩形の鋼板3を溶接止めしておき、この鋼板3によるアンカー作用を付加させることによって、その定着力を高めるように配慮したものである。
このように本発明にかかるアンカーAは各図示例に限定されるものではなく、その性能をさらに高めるために、鋼板の表面に凹凸のある縞鋼板を用いてアンカー本体1を形成しても良いし、また、アンカー本体1に捻りを加えてアンカー力を増すと同時に板による方向性を打ち消すようにしても良い。
なお、前記実施例において示した各構成部材の諸形状や寸応等は一例であって、適用する鉄骨構造体の種類や設計要求等に基づき種々変更可能であり、また、適用する鉄骨構造体としては、エレメントEのようなものに限らず、たとえば鋼管杭等のものにも適用できるものである。
「発明の効果」
以上説明したように本発明によれば、一枚の鋼板をその長手方向に沿って一つづつ切り出すことにより形成されたアンカー本体の一端を、鉄骨構造体の定着端にボルト止めし、他端をコンクリート構造体のコンクリート中に埋め込むことにより、鉄骨構造体とコンクリート構造体とを連結する鉄骨定着アンカーであって、前記アンカー本体の一端に長手方向に並列する複数のボルト孔を有する取付板部を設けら るとともに、他端にこの取付板部より鉄骨の定着に必要な長さ寸法延出した埋込み部を形成し、しかも、前記埋込み部の幅寸法を取付板部の幅寸法のほぼ1/2になるように設定したので、次のような優れた効果を奏することができる。
(a) このアンカーは、鉄骨構造体に対して直接アンカー本体の取付板部を高力ボルトによる摩擦接合することにより、取り付けられるので、アンカー自身のガタつきや、緩みをなくすことができ、また摩擦接合としたから溶接したものとちがって、その疲労耐力を向上させることができ、さらには、アンカー本体の埋込み部の向きを変えて鉄骨構造体の定着端に取り付けることにより、アンカー自身を鉄骨に加わる軸力および固定端モーメントによる曲げ軸力を合わせて負担する軸力用アンカーとせん断力を負担するせん断用アンカーとの2種に別けて作用させることが可能になるので、鉄骨構造体とコンクリート構造体とを強固に連結することが可能になる。
(b) また、このアンカーによれば、ベースプレート等の介在物がないため曲げ剛性における弱点がなく、従来のように鉄骨構造体の一端を直接コンクリート中に埋め込む必要がなくなるので、コンクリート施工に際してたとえば補強鉄筋の配筋作業やコンクリート打設作業等に支障を生ずるようなことがなく、コスト低下を図ることができるといった利点がある。
(c) また、このアンカーは、一枚の鋼板を切り出すことにより形成されたアンカー本体を主体として構成されており、かつ、アンカー本体は、コンクリート中に埋め込まれる埋込み部が取付板部に比してほぼ1/2の幅寸法に設定されているため、余材を余すことなく、鋼板より切り出すことが可能になり、コスト低下を図ることができるものである。
(d) なお、アンカー本体の埋込み部の周縁を波形に形成すると、埋込み部の周縁1dがコンクリートとの定着力をさらに高めるので、アンカーの性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図ないし第4図は本発明の一実施例を示すもので、第1図は本発明にかかるアンカーをエレメントと受桁との連結に適用した状態を示す概略斜視図、第2図は要部の断面図、第3図はエレメントの端部にアンカーを取り付けた状態を示す斜視図、第4図はアンカーの製作工程を説明するために示した斜視図、第5図および第6図はそれぞれ本発明の他の実施例を説明するために示した平面図、第7図はアンカーの別の取付態様を示す側面図、第8図は鉄骨柱脚と基礎コンクリートとの連結にこのアンカーを用いた状態を示す正面図、第9図ないし第12図は鉄骨定着アンカーの変形例を説明するために示したもので、それぞれ斜視図、第13図ないし第16図は従来の技術を説明するために示したもので、第13図ないし第15図はトンネルの構築過程を示す正面図、第16図は従来のエレメントの定着手段を説明するために示した正面図である。
A……鉄骨定着アンカー、1……アンカー本体、
1a……ボルト孔、1b……取付板部、
1c……埋込み部、1d……周縁、
1e……貫通孔、2……補強鉄筋、
3……鋼板、E……エレメント、
K……受桁。
【特許請求の範囲】
【請求項1】一枚の鋼板をその長手方向に沿って一つづつ切り出すことにより形成されたアンカー本体の一端を、鉄骨構造体の定着端にボルト止めし、他端をコンクリート構造体のコンクリート中に埋め込むことにより、鉄骨構造体とコンクリート構造体とを連結する鉄骨定着アンカーであって、前記アンカー本体の一端には長手方向に並列する複数のボルト孔を有する取付板部が設けられるとともに、他端にはこの取付板部より鉄骨の定着に必要な長さ寸法延出した埋込み部が形成され、しかも、前記埋込み部の幅寸法は、取付板部の幅寸法のほぼ1/2になるように設定されていることを特徴とする鉄骨定着アンカー。
【請求項2】前記アンカー本体の埋込み部の周縁を波形に形成したことを特徴とする請求項1記載の鉄骨定着アンカー。
【請求項1】一枚の鋼板をその長手方向に沿って一つづつ切り出すことにより形成されたアンカー本体の一端を、鉄骨構造体の定着端にボルト止めし、他端をコンクリート構造体のコンクリート中に埋め込むことにより、鉄骨構造体とコンクリート構造体とを連結する鉄骨定着アンカーであって、前記アンカー本体の一端には長手方向に並列する複数のボルト孔を有する取付板部が設けられるとともに、他端にはこの取付板部より鉄骨の定着に必要な長さ寸法延出した埋込み部が形成され、しかも、前記埋込み部の幅寸法は、取付板部の幅寸法のほぼ1/2になるように設定されていることを特徴とする鉄骨定着アンカー。
【請求項2】前記アンカー本体の埋込み部の周縁を波形に形成したことを特徴とする請求項1記載の鉄骨定着アンカー。
【第1図】
【第2図】
【第3図】
【第6図】
【第7図】
【第8図】
【第16図】
【第4図】
【第5図】
【第9図】
【第10図】
【第11図】
【第12図】
【第13図】
【第14図】
【第15図】
【第2図】
【第3図】
【第6図】
【第7図】
【第8図】
【第16図】
【第4図】
【第5図】
【第9図】
【第10図】
【第11図】
【第12図】
【第13図】
【第14図】
【第15図】
【特許番号】第2717118号
【登録日】平成9年(1997)11月14日
【発行日】平成10年(1998)2月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−35329
【出願日】平成1年(1989)2月15日
【公開番号】特開平2−213517
【公開日】平成2年(1990)8月24日
【出願人】(999999999)財団法人鉄道総合技術研究所
【出願人】(999999999)石川島建材工業株式会社
【登録日】平成9年(1997)11月14日
【発行日】平成10年(1998)2月18日
【国際特許分類】
【出願日】平成1年(1989)2月15日
【公開番号】特開平2−213517
【公開日】平成2年(1990)8月24日
【出願人】(999999999)財団法人鉄道総合技術研究所
【出願人】(999999999)石川島建材工業株式会社
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