説明

鉗子

【課題】動作不全や破損を招来するおそれなく軟性内視鏡に適用できる鉗子を提供する。
【解決手段】鉗子は、スプリングチューブ29先端の一対の把持部材をハンドル部4により牽引索9を介して操作するものである。ハンドル部4には、スプリングチューブ29の基端部が固定された回転部5が回転自在に設けられ、ハンドル部4は、牽引索9の基端が固定され、牽引索9の回転に追従して回転するジョイントボール17を介して把持部材を操作するためのものであり、回転部5の貫通孔18には、回転部5の回転に追従して牽引索9が回転するように牽引索9を保持する回転追従部材19が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟性内視鏡に適した鉗子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軟性内視鏡を用い、口等の自然開口部及び食道等の誘導管路を経由して体内の器官を検査、治療等する各種術式において、軟性内視鏡用の鉗子が用いられている。軟性内視鏡用の鉗子は、軟性内視鏡の観察下で視野近傍の対象組織を操作するために、軟性内視鏡の筒状体の内部を通して、又は該筒状体の外側面に沿わせて、軟性内視鏡の先端部近傍まで誘導して使用される。
【0003】
このような軟性内視鏡用の鉗子に関連する技術として、例えば、特許文献1には、旋回により開閉する一対の把持部により生体組織を把持する処置部と、各把持部にそれぞれの一端が接続された2本のリンクワイヤとを備えた処置具が記載されている。各リンクワイヤは可撓性を有する撚り線からなる。
【0004】
この処置具では、各リンクワイヤの他端に接続された2本の操作ワイヤを介して各リンクワイヤを押圧又は牽引することにより、把持部が開閉される。その際、リンクワイヤを押圧して把持部を開状態とするときに、リンクワイヤが座屈しないようにリンクワイヤを案内するようにしている。
【0005】
この処置具は、操作部がシリンジのような形状を有しており、シリンジを操作する場合のように操作部を把持して操作される。すなわち、操作のために付与する力の位置及び方向は操作ワイヤに付与される力の位置及び方向と同一直線上に存在する。したがって、処置部の軸線周りについての把持部の姿勢は、操作部を保持している手で操作部をその軸線周りに回転させることによって調整することができる。
【0006】
一方、特許文献2には、体内に挿入される細長いシャフト部と、シャフト部の先端部に設けられたリンク機構を有する先端作動部と、シャフト部を介して先端作動部を操作するためのハンドル部とを有する鉗子が記載されている。この鉗子においては、ハンドル部を操作し、シャフト部内のロッドを往復運動させることによって、先端作動部を作動させるようにしている。
【0007】
この鉗子は、ガングリップ式で把持して操作するものであり、操作のために付与する力の位置及び方向は、ロッドに付与される力の位置及び方向と同一軸線上にはない。このため、上述のシリンジ状の操作部を有する処置具の場合とは異なり、シャフト部の軸周りについての先端作動部の姿勢を、ハンドル部をシャフト部の軸線周りに回転させて調整することは困難である。
【0008】
したがって、この鉗子は、ハンドル部に対し回転自在に設けられ、シャフト部の基端部が固定された回転ノブを備える。そして、ハンドル部を保持している手の人差し指で回転ノブを回転させることにより、シャフト部の軸周りについての先端作動部の姿勢を調整できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−142279号公報
【特許文献2】特開2003−111768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
軟性内視鏡に対して特許文献2のガングリップ式のハンドル部を有する鉗子を適用するためには、該鉗子に対し、そのシャフト部及び先端作動部に代えて、特許文献1に記載された可撓性のシース及び2本の操作ワイヤを介して把持部を開閉するような機構を採用する必要がある。
【0011】
しかし、そのような機構を採用した鉗子では、把持部の開閉方向を調整するために回転ノブで把持部を回転させると、2本の操作ワイヤが、捩じれてしまうおそれがある。この原因は、シースの内壁との摩擦により2本の操作ワイヤが把持部の回転に追従して回転することができないことや、ハンドル部における操作ワイヤの固定部が2本の操作ワイヤの回転に追従して回転しないことにある。
【0012】
このような状況で、回転ノブを一方向に回転し続けると、操作ワイヤの捩れが累積して操作ワイヤと把持部との接続部に負荷が蓄積し、鉗子の動作不全や破損を招来するおそれがある。
【0013】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、動作不全や破損を招来するおそれなく軟性内視鏡に適用できる鉗子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る鉗子は、可撓性を有する可撓チューブと、前記可撓チューブの先端部に開閉し得るように設けられた一対の把持部材と、前記把持部材を開閉させるためのガングリップ式のハンドル部と、前記可撓チューブ内を経て、一端が前記把持部材に連結され、他端が前記ハンドル部に連結された牽引索と、前記可撓チューブの基端部を保持して該基端部の軸線周りに回転自在となるように該ハンドル部に設けられた回転部とを備え、前記ハンドル部は、その操作に応じて前記牽引索の基端を押圧又は牽引することにより前記把持部材を開閉させる可動ハンドルを備え、前記可動ハンドルは、前記牽引索の基端が固定された回転体を介して前記牽引索の押圧又は牽引を行うものであり、前記回転体は、前記牽引索の軸線周りに回転自在で、前記ハンドル部の操作によって前記牽引索の軸線方向に移動するものであり、前記回転部は、その回転軸上に、前記可撓チューブの基端部から前記回転体に至る前記牽引索の部分が通る通路を備え、前記通路には、前記牽引索がその軸線方向には可動で軸線周りには前記回転部の回転に追従して回転するように該牽引索を支持する回転追従部材が設けられていることを特徴とする。
【0015】
この構成において、回転部をその軸線周りに回転させると、可撓チューブもその軸線周りに回転するので、可撓チューブ先端の一対の把持部材も回転する。したがって、回転部の回転により、把持部材の姿勢を調整ことができる。このとき、牽引索は、回転追従部材により、回転部の回転に追従して回転するように支持されているので、回転部の回転に応じて牽引索も回転する。したがって、牽引索が可撓チューブ内において捩れることはない。
【0016】
また、回転部の回転に応じて牽引索が回転するとき、回転追従部材と、回転体との間で牽引索に捩じる力が加わるが、回転体は、牽引索の捩れに追従して該捩れを解消する方向に回転するので、回転追従部材と回転体との間においても牽引索に捩じれが生じることは無い。
【0017】
したがって、本発明によれば、牽引索の捩れにより動作不全や破損を招来するおそれなく軟性内視鏡に適用できる鉗子を提供することができる。
【0018】
本発明においては、前記可撓チューブの外側に、該可撓チューブに対して回動可能に設けられた外側チューブを備えていてもよい。これによれば、鉗子を軟性内視鏡に挿入した場合、軟性内視鏡との摩擦により外側チューブの回動が困難な場合でも、可撓チューブの回転が可能であるため、回転部の回転を可撓チューブにより一対の把持部材に伝達し、把持部材の姿勢調整を支障なく行うことができる。
【0019】
また、本発明においては、前記ハンドル部は、前記回転部が設けられた固定ハンドルを備え、該固定ハンドルに対して前記可動ハンドルが揺動自在に設けられており、該ハンドル部の操作に応じて該可動ハンドルが揺動することにより前記回転体を揺動させて前記牽引索の押圧又は牽引を行うものであってもよい。
【0020】
これによれば、鉗子を、簡便で操作性の良好なガングリップ式のものとして構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る鉗子の正面図である。
【図2】図1の鉗子における把持部の部分を示す正面図である。
【図3】図1の鉗子におけるハンドル部及び回転部近傍の構成を示す断面図である。
【図4】図1の鉗子の回転部についての回転追従部材が位置する部分の断面図である。
【図5】図1の鉗子における牽引索に添った部分の構成を示す部分断面図である。
【図6】図5の構成における把持部が開いた状態の把持部近傍部分の断面図である。
【図7】図5の構成における把持部が閉じた状態の把持部近傍部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る鉗子の正面図である。図1に示すように、この鉗子1は、可撓性を有する鉗子チューブ2と、鉗子チューブ2の先端部に設けられた把持部3と、把持部3を操作するためのガングリップ式のハンドル部4と、ハンドル部4と鉗子チューブ2との間に介在する回転部5と、回転部5に固定された回転ノブ6とを備える。
【0023】
図2は、鉗子チューブ2先端の把持部3の近傍を示す正面図である。図2に示すように、把持部3は、開閉動作を行う一対の把持部材31を備える。把持部材31は、鉗子チューブ2の先端部に対し、ガイドシャフト7を介して取り付けられている。ガイドシャフト7の先端には、その軸線に直角な方向でピン8が設けられている。一対の把持部材31は、ピン8を介して、ガイドシャフト7に対し、開閉し得るように取り付けられている。
【0024】
各把持部材31のピン8よりも基端側の基端部には、2本の牽引索9の各一端がそれぞれ連結されている。各牽引索9の他端は、ガイドシャフト7及び鉗子チューブ2の内部を経て、ハンドル部4(図1)に連結されている。そして、ハンドル部4を把持している手の人差し指で回転ノブ6(図1)を回転させることにより、ガイドシャフト7をその軸線周りに回転させ、該軸線周りにおける把持部材31の姿勢を調整できるようになっている。
【0025】
図3はハンドル部4及び回転部5近傍の構成を示す断面図である。図3に示すように、回転部5は、鉗子チューブ2の基端部を保持し、鉗子チューブ2の軸線周りに回転自在となるようにハンドル部4に設けられている。したがって、回転ノブ6を操作することによって回転部5をその軸線周りに回転させることができるようになっている。
【0026】
ハンドル部4は、回転部5を回転自在に保持する固定ハンドル10と、固定ハンドル10に対し軸11を介して揺動自在に設けられた可動ハンドル12とを備える。固定ハンドル10及び可動ハンドル12にはそれぞれ、術者が指を挿入してハンドル部4を把持するための固定リング部13及び可動リング部14が設けられている。また、その把持に際して小指を掛けるための円弧部15が、固定リング部13の下方に設けられている。
【0027】
ハンドル部4は、その操作に応じて2本の牽引索9の基端を押圧又は牽引することにより把持部3を開閉させる押圧・牽引機構16を備える。押圧・牽引機構16は、各牽引索9の基端が固定されたジョイントボール17や、ジョイントボール17を保持している可動ハンドル12等により構成される。ジョイントボール17は、2本の牽引索9の中心軸線の周りに回転自在に可動ハンドル12で保持されており、ハンドル部4の操作によって該中心軸線の方向に移動する。なお、ジョイントボール17は本発明における回転体に相当する。
【0028】
牽引索9の押圧又は牽引は、ジョイントボール17を介して行われる。すなわち、可動ハンドル12は、ジョイントボール17を、2本の牽引索9の捩れに追従してその捩れを解消する方向に回転し得るように保持している。ジョイントボール17は、可動ハンドル12の可動リング部14とは反対側の端部において保持されている。そして軸11は、ジョイントボール17と可動リング部14との間に位置する。
【0029】
したがって、可動ハンドル12が、軸11を中心として揺動されることにより、ジョイントボール17が揺動し、牽引索9の押圧又は牽引が行われる。例えば、可動ハンドル12が固定ハンドル10側へ揺動されると、2本の牽引索9が牽引される。その後に、可動ハンドル12が固定ハンドル10とは反対側へ揺動されると、2本の牽引索9が押圧される。
【0030】
なお、牽引索9の押圧が行われると、把持部材31が開動作を行い、把持部3が開く。牽引索9の牽引が行われると、把持部材31が閉動作を行い、把持部3は閉じる。これにより、把持部3は、対象部位を把持することができる。
【0031】
回転部5は、その回転軸上に、貫通孔18を備える。貫通孔18は、牽引索9のうちの鉗子チューブ2の基端部からジョイントボール17に至る部分が通る通路として機能する。貫通孔18の途中には、牽引索9に沿って延在し、横断面の形状及び寸法が一定である空間18aが設けられている。空間18a内には、2本の牽引索9がその中心軸線方向には可動で中心軸線周りには回転部5の回転に追従して回転するように2本の牽引索9を支持する回転追従部材19が配置されている。
【0032】
図4は、回転部5についての回転追従部材19が位置する部分の断面図である。図4に示すように、空間18aは、牽引索9に平行で相互に対向する2つの平面状の壁面5a及び5bを有する。回転追従部材19は、空間18aと同様の横断面形状を有しており、壁面5a及び5bに対応する2つの側面19a及び19bを有する。側面19a及び19bは、それぞれ壁面5a及び5bと若干の間隙を置いて対向している。このため、回転部5が回転すると、壁面5a及び5bから側面19a及び19bに付与される力により、回転追従部材19も、回転部5の回転に追従して回転する。
【0033】
回転追従部材19の長さ方向に沿った中心軸は、回転部5の回転軸上に存在する。2本の牽引索9は、ガイドパイプ43に覆われており、回転追従部材19を、その中心軸に沿って貫通している。ただし、2本の牽引索9は、回転追従部材19に対し、その長さ方向やその中心軸の周りに変位しないように、ガイドパイプ43を介して、固く固定されている。したがって、回転追従部材19が回転したとき、これに追従して、2本の牽引索9も回転する。
【0034】
回転追従部材19の長さは、空間18aよりも所定の長さだけ短い。これにより、2本の牽引索9は、その中心軸線方向に、回転追従部材19とともに該所定長さだけ移動可能となっている。図3においては、ハンドル部4の操作により2本の牽引索9が牽引され、これによって回転追従部材19が空間18aの後部に位置している状態が示されている。2本の牽引索9が押圧された場合には、回転追従部材19は、空間18aの前部に移動する。
【0035】
図3に示すように、固定ハンドル10には、ハンドル部4の操作により把持部3が閉じられたとき、その状態が保持されるように、可動ハンドル12が固定ハンドル10側へ揺動するのは許容するが、逆方向への揺動は阻止することができるラチェットロック機構20が設けられている。このラチェットロック機構20によれば、ラチェットロック機構20がオン状態にあるときにハンドル部4を操作して対象部位を把持すると、その把持状態を確実に維持することができる。その後、一連の手技が終了し、ラチェットロック機構20をオフ状態にすると、把持部3を開状態に戻すことができる。
【0036】
ラチェットロック機構20は、一部をハンドル部4の外部に露出させて回転可能に支持された切替えホイール21と、切替えホイール21を該外部に押し出す方向に付勢するバネ22と、切替えホイール21の回転に応じて切替えホイール21に対して接離方向に移動するプッシュロッド23と、プッシュロッド23の移動に応じてプッシュロッド23により押圧される固定側ラチェット部24とを備える。
【0037】
切替えホイール21には、その回転位置に応じてプッシュロッド23の上端が嵌る凹部が設けられている。該凹部にプッシュロッド23の上端が嵌る回転位置に切替えホイール21が位置するとき、プッシュロッド23は上方位置に位置し、他の回転位置に切替えホイール21が位置するとき、プッシュロッド23は下方位置に位置する。
【0038】
固定側ラチェット部24は、一端と他端との間の揺動軸の回りで揺動し得るように設けられている。プッシュロッド23による押圧は該一端において行われる。該一端は、コイルバネ52により該押圧方向とは反対方向に付勢されている。該他端には複数の固定側ラチェット歯25が形成されている。可動ハンドル12は、固定側ラチェット歯25に対応する可動側ラチェット歯26を有する可動側ラチェット部27を備える。
【0039】
切替えホイール21の回転によりプッシュロッド23が上方位置に位置されたとき、固定側ラチェット部24がコイルバネ52によってプッシュロッド23からの押圧方向と反対方向に押圧されて揺動し、固定側ラチェット歯25及び可動側ラチェット歯26が互いに噛み合うことができる状態となる。この状態が、ラチェットロック機構20のオン状態である。なお、図3では、オン状態にある場合のラチェットロック機構20が示されている。
【0040】
一方、切替えホイール21の回転によりプッシュロッド23が下方位置に位置されたとき、固定側ラチェット歯25及び可動側ラチェット歯26は互いに噛み合うことができない状態となる。この状態が、ラチェットロック機構20のオフ状態である。したがって、切替えホイール21を回転させることにより、ラチェットロック機構20のオンオフ状態を切り替えることができる。
【0041】
図5は、把持部3からジョイントボール17までの牽引索9に添った部分の構成を示す部分断面図である。図6及び図7は、図5の構成における把持部3近傍部分の断面図である。図6は把持部3が閉じた状態、図7は開いた状態を示している。これらの図に示すように、各牽引索9は、各一端が把持部材31のピン8よりも基端側に連結され、各他端はジョイントボール17に挿入されて、止めネジ28によりジョイントボール17に固定されている。
【0042】
鉗子チューブ2は、内側のスプリングチューブ29と、その外側を覆う保護チューブ30により構成される。スプリングチューブ29の先端は、ガイドシャフト7の基端部に固定されている。なお、スプリングチューブ29は、本発明における可撓チューブに対応し、保護チューブ30は、本発明における外側チューブに対応する。
【0043】
スプリングチューブ29の基端部は、回転部5(図3)内において、アンカー部材41によって回転部5に固定されている。したがって、スプリングチューブ29の基端部は、回転部5に対し回転することも、軸線方向に移動することもできない状態となっている。ただし、保護チューブ30は、スプリングチューブ29や回転部5に対して回動可能となっている。
【0044】
したがって、鉗子1が軟性内視鏡に挿入され、保護チューブ30が軟性内視鏡の内壁との摩擦により回転できないような状態でも、回転ノブ6を回転させることにより、スプリングチューブ29を介して把持部3を回転させ、把持部3の軸線周りの姿勢を調整することができる。
【0045】
なお、スプリングチューブ29におけるガイドシャフト7の基端側に隣接する部分は、円筒状のスリーブ部材42により覆われている。スリーブ部材42は、スプリングチューブ29に固定されており、先端部が径の大きな拡径部42aとなっている。この拡径部42aは、保護チューブ30がスプリングチューブ29から抜けるのを阻止している。牽引索9のうち、アンカー部材41から、回転追従部材19を経て、ジョイントボール17に至るまでの部分は、スプリングチューブ29ではなくガイドパイプ43により覆われている。
【0046】
ガイドシャフト7は、基端側が円筒状の案内路7aとなっており、先端側には、対向する2つの壁部7bを有する。各牽引索9は、スプリングチューブ29の先端から案内路7a及び各壁部7bにより案内されて各把持部材31の基端部まで延びている。各把持部材31の基端部は、把持部3の開閉方向に沿った平板状の平板部31aとなっている。
【0047】
各把持部材31は、各壁部7b間に設けられたピン8を介して、ガイドシャフト7に取り付けられている。ピン8は、各把持部材31の重ねられた平板部31aを貫通して各把持部材31を開閉自在に支持している。各平板部31aの基端側は、内側に向かって薄くなった薄板部31bとなっている。これにより、各薄板部31bと各壁部7bとの間に隙間が存在する。案内路7aから延びている各牽引索9は、各壁部7b間で交差し、該隙間を経て外側から各薄板部31bに対し、回動自在に連結している。
【0048】
したがって、各把持部材31は、ピン8を軸として、各壁部7bに沿った方向に開閉動作が可能となっている。各把持部材31は、その閉状態において互いに対向して接する対向面31cを備える。各対向面31cは、各把持部材31が閉動作により対象部位を把持したときに把持状態が確実に維持されるように、鋸状の断面を有する。
【0049】
この構成において、軟性内視鏡に挿入された鉗子1は、軟性内視鏡を介して対象部位に位置づけられる。術者は、以後の鉗子1を用いた手技を、軟性内視鏡によりモニタしながら行うことができる。そして、対象部位を把持する場合には、術者は、鉗子1のハンドル部4を例えば右手で保持する。このとき、親指は、可動ハンドル12の可動リング部14に挿入され、中指及び薬指は固定ハンドル10の固定リング部13に挿入され、小指は円弧部15に掛けられる。
【0050】
次に、必要に応じて回転ノブ6の回転等により、把持部3の位置や姿勢を、対象部位を把持するのに適合した位置や姿勢となるように調整する。このとき、回転ノブ6の回転はハンドル部4を把持している手の人差し指で行うことができる。回転ノブ6を回転させた場合、スプリングチューブ29を介して、把持部3がその軸線周りに回転するが、回転追従部材19により同じ回転量だけ2本の牽引索9も回転されるので、2本の牽引索9が捩れることはない。
【0051】
また、回転追従部材19により2本の牽引索9が回転されると、回転追従部材19とジョイントボール17との間における2本の牽引索9部分に対して捩じる力が加わる。しかし、ジョイントボール17は回転追従部材19に比較的近いので、加えられた捩じる力がジョイントボール17に伝わり、ジョイントボール17も回転する。
【0052】
すなわち、ジョイントボール17は、牽引索9を介して、回転ノブ6の回転に追従して回転する。したがって、回転追従部材19とジョイントボール17との間における2本の牽引索9部分においても大きな捩れが生じることはない。
【0053】
次に、ハンドル部4を把持している右手で可動ハンドル12を固定ハンドル10から離間させる。これにより、ジョイントボール17は、回転部5の方へ揺動されるので、各牽引索9の端部を回転部5の方へ押圧する。すると、その押圧力が、鉗子チューブ2内を通して、各牽引索9により各把持部材31に伝達される。これにより、図7のように、各把持部材31が開動作し、把持部3が開いた状態となる。
【0054】
次に、必要に応じて、ハンドル部4を保持している手の人差し指で切替えホイール21を回転させ、ラチェットロック機構20をオン状態とする。このとき、さらに回転ノブ6の回転等により、把持部3の位置や姿勢を調整するようにしてもよい。
【0055】
次に、可動ハンドル12を固定ハンドル10の方へ揺動させる。これにより、ジョイントボール17が回転部5から離間する方向に揺動され、各牽引索9の端部が、その方向へ牽引される。すると、その牽引力が、鉗子チューブ2内を通して、各牽引索9により各把持部材31に伝達される。これにより、各把持部材31が閉動作して把持部3は図6のように閉じた状態となり、対象部位が把持される。
【0056】
このとき、ラチェットロック機構20がオン状態であれば、図3のように、固定側ラチェット歯25及び可動側ラチェット歯26が噛み合った状態となるので、対象部位が把持された状態が維持されることになる。したがって、この状態を維持したまま、術者は必要な処置を施すことができる。
【0057】
把持状態を解除するときには、ラチェットロック機構20がオン状態であれば人差し指で切替えホイール21を回転させ、ラチェットロック機構20をオフ状態としてから、ラチェットロック機構20がオフ状態であればそのまま、可動ハンドル12を固定ハンドル10とは逆の方へ揺動させる。
【0058】
これにより、ジョイントボール17が回転部5へ近接する方向に揺動され、各牽引索9の端部が、その方向へ押圧される。すると、その押圧力が、鉗子チューブ2内を通して、各牽引索9により各把持部材31に伝達される。これにより、図7のように、各把持部材31が開動作して把持部3が開いた状態となり、対象部位の把持が解除される。
【0059】
以上のように、本実施形態によれば、2本の牽引索9を回転部5の回転に追従させて回転させる回転追従部材19を設けたので、2本の牽引索9に捩れを生じさせること無く、回転部5を回転させて、把持部3の姿勢を調整することができる。
【0060】
また、スプリングチューブ29の外側に、スプリングチューブ29に対して回動可能に設けられた保護チューブ30を備えるので、鉗子1が軟性内視鏡に挿入され、保護チューブ30が軟性内視鏡の内壁との摩擦により回転できないような状態でも、回転ノブ6の回転を、スプリングチューブ29を介して把持部3に伝えて、把持部3の姿勢を調整することができる。
【0061】
また、回転部5を回転自在に支持する固定ハンドル10と、ジョイントボール17を保持する可動ハンドル12とを設け、可動ハンドル12でジョイントボール17を揺動させて2本の牽引索9の押圧又は牽引を行うことにより把持部3が開閉するようにしたので、鉗子1を、軟性内視鏡に適した、ガングリップ式のものとして構成することができる。
【0062】
なお、本発明は上述実施形態に限定されない。例えば、上述においては、牽引索として2本の牽引索9を用いているが、この代わりに、1本の牽引索を用いてもよい。ただし、その場合、該牽引索の先端と、各把持部材31との間は、例えば2本の部材により連結される。
【符号の説明】
【0063】
1…鉗子、2…鉗子チューブ、3…把持部、4…ハンドル部、5…回転部、9…牽引索、10…固定ハンドル、12…可動ハンドル、17…ジョイントボール(回転体)、16…押圧・牽引機構、18…貫通孔、19…回転追従部材、29…スプリングチューブ(可撓チューブ)、30…保護チューブ(外側チューブ)、31…把持部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する可撓チューブと、
前記可撓チューブの先端部に開閉し得るように設けられた一対の把持部材と、
前記把持部材を開閉させるためのガングリップ式のハンドル部と、
前記可撓チューブ内を経て、一端が前記把持部材に連結され、他端が前記ハンドル部に連結された牽引索と、
前記可撓チューブの基端部を保持して該基端部の軸線周りに回転自在となるように該ハンドル部に設けられた回転部とを備え、
前記ハンドル部は、その操作に応じて前記牽引索の基端を押圧又は牽引することにより前記把持部材を開閉させる可動ハンドルを備え、
前記可動ハンドルは、前記牽引索の基端が固定された回転体を介して前記牽引索の押圧又は牽引を行うものであり、
前記回転体は、前記牽引索の軸線周りに回転自在で、前記ハンドル部の操作によって前記牽引索の軸線方向に移動するものであり、
前記回転部は、その回転軸上に、前記可撓チューブの基端部から前記回転体に至る前記牽引索の部分が通る通路を備え、
前記通路には、前記牽引索がその軸線方向には可動で軸線周りには前記回転部の回転に追従して回転するように該牽引索を支持する回転追従部材が設けられていることを特徴とする鉗子。
【請求項2】
前記可撓チューブの外側に、該可撓チューブに対して回動可能に設けられた外側チューブを備えることを特徴とする請求項1に記載の鉗子。
【請求項3】
前記ハンドル部は、前記回転部が設けられた固定ハンドルを備え、該固定ハンドルに対して前記可動ハンドルが揺動自在に設けられており、該ハンドル部の操作に応じて該可動ハンドルが揺動することにより前記回転体を揺動させて前記牽引索の押圧又は牽引を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の鉗子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−70861(P2013−70861A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212748(P2011−212748)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(390029676)株式会社トップ (106)
【Fターム(参考)】