鉛に汚染された土壌の浄化方法
【課題】 加熱処理の条件を最適化することにより、鉛に汚染された土壌から極めて高い除去率で鉛を揮発除去することが可能な土壌の浄化方法を提供すること。
【解決手段】 鉛に汚染された土壌を流通ガス下において950℃以上、1300℃以下の温度で10分以上加熱処理する。この際、前記土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間は20分以内である。前記流通ガスについては、前記土壌の加熱処理時に単にガスが流通していればよいので、特にその線速度または流量を規定する必要はない。
【解決手段】 鉛に汚染された土壌を流通ガス下において950℃以上、1300℃以下の温度で10分以上加熱処理する。この際、前記土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間は20分以内である。前記流通ガスについては、前記土壌の加熱処理時に単にガスが流通していればよいので、特にその線速度または流量を規定する必要はない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛に汚染された土壌の浄化方法、さらに詳しくは、鉛に汚染された土壌を加熱処理して鉛を揮発除去することにより、土壌を浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、土壌が有害物質に汚染されている事例が数多く発覚し、汚染土壌による健康への影響が懸念されている。それゆえ、その対策を確立する社会的要請が強まり、「土壌汚染対策法」が施行されるなど、土壌汚染に対する法的な規制も整備されつつある。
【0003】
このような状況下にあって、土壌を浄化する様々な技術が報告されている。中でも、ロータリーキルンによる加熱処理は、一般的な土壌浄化技術の一つであり、非特許文献1、2、3および4に記載されているように、すでに国内外で研究が進められ、商業レベルで採用されつつある技術である。
【0004】
このようにロータリーキルンによる加熱処理は、既存の技術であるが、鉛に関してはあまり適用されていない。それは、鉛は加熱処理による揮発除去が困難であると考えられ、土壌の浄化は不溶化処理の方向へ進んだためである。
【0005】
ところが、不溶化処理した土壌が、酸性雨や不溶化剤によるアルカリ化などの影響を受けてpHが急激に変化し、そのため鉛が再溶出するといった現象が確認されるなど、不溶化処理に対する信頼性に問題が生じつつある。さらに、近年の「土壌汚染対策法」の制定に伴い、含有量を基準にするという考え方が起こってきた。それゆえ、単なる不溶化ではなく、土壌中における鉛含有量それ自体を減少させる、つまり、土壌から鉛を除去する技術が必要になってきた。このような事情から、加熱処理は、土壌中の鉛除去技術の一つとして見直されてきた。
【非特許文献1】財団法人 地球環境センター,「重金属汚染土壌の加熱処理技術」,GEC環境技術情報データベース(NETT21),[online],平成14年7月,財団法人 地球環境センター,[平成16年7月30日検索],インターネット<URL:http://nett21.gec.jp/SGC#DATA/JP/html/sgcj-052.html>
【非特許文献2】上田浩三、外2名,「土壌汚染物質の熱脱着挙動」,日立造船技報,日立造船株式会社,平成10年4月,第59巻,第1号,p.74−80
【非特許文献3】ロバート・シー・サーナウ(Robert C. Thurnau),「同時汚染土壌の低温脱着処理:評価技術としてのTCLP(Low-temperature desorption treatment of co-contaminated solids: TCLP as an evaluation technique)」,ジャーナル・オブ・ハザーダス・マテリアルズ(Journal of Hazardous Materials),(オランダ),エルゼビアサイエンス(Elsevier Science),1996年,第48巻,p.149−169
【非特許文献4】デニス・エイ・クリフォード(Dennis A. Clifford)、外2名,「土壌からの毒性金属の揮発(Volatilizing Toxic Metals from Soil)」,ウェイスト・マネージメント(Waste Management),(米国),パーガモン・プレス(Pergamon Press),1993年,第13巻,p.467−479
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、加熱処理の条件については、現在のところ、あまり検討されていない。例えば、非特許文献1には「1000〜1100℃に予熱したロータリーキルンに、供給器によって汚染土壌を投入し、空気を通じながら加熱し、揮発しやすい重金属を揮発させ、汚染土壌から除去する。また、揮発せずに残留する重金属も加熱処理によって水に溶けにくい酸化物に変化する。」(第1頁の「技術概要」を参照)と記載され、非特許文献2には「鉛汚染土壌は800〜900℃の加熱でほとんど脱着しないことがわかった」(第78頁右欄の「4.2実証試験結果」を参照)と記載され、非特許文献3には、鉛は650℃で60分加熱処理しても蒸発しないことが示され(図6を参照)、また、キルンへの土壌投入量(〜12.5%)、水分量(〜20%)、キルン回転速度(〜190インチ/分)なども鉛の蒸発には影響しないことが示され(図7〜9を参照)、非特許文献4には「750℃では、約50%の鉛除去率が達成された。・・・900℃、20分の加熱では、試料は水素または窒素中で93%の鉛除去率を与えたが、空気中ではわずか73%の鉛除去率を与えた。」(第467頁の「要約」を参照)と記載されているだけであり、土壌から鉛を除去するための加熱処理の最適条件は確立されていないというのが現状である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加熱処理の条件を最適化することにより、鉛に汚染された土壌から極めて高い除去率で鉛を揮発除去することが可能な土壌の浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
土壌中の鉛を加熱処理によって揮発除去する場合、その機構は非常に複雑であり、詳細は明らかになっていない。加熱処理による鉛の状態変化および揮発・蒸発は、反応と拡散移動が入り混じった複雑な現象である。反応と物質移動の両面から考察すると、土壌粒子に担持された鉛が解離、移動、蒸発を行う過程の律速段階としては、(1)何らかの結合または吸着している鉛が土壌から解離する過程、(2)解離した鉛が蒸発表面まで拡散移動する過程、(3)蒸発表面に達した鉛が気相中の境膜を移動する過程が考えられる。
【0009】
また、土壌の物質面から考察すると、土壌は、アルミノシリケート(アルミニウムとケイ素の複合酸化物)からなり、Si/Al原子比によって様々な結晶形態をとることや、他の金属酸化物が共存すると、さらに別の結晶構造をとることが知られている。単独では揮発する鉛がこれらの結晶構造内に捕捉され、揮発しなくなることが予想される。さらに、鉛とアルミノシリケートが複合酸化物を形成する反応が鉛の揮発と競合することも予想される。
【0010】
そこで、本発明者らは、実機の操業条件を考えた場合には、加熱温度、保持時間、昇温時間、流通ガスの線速度、流量などの制御可能な因子を最適化することにより、鉛が解離、移動、蒸発を行う過程の律速段階、鉛のアルミノシリケート結晶構造内への捕捉、ならびに鉛の揮発と複合酸化物の形成との競合を制御することが可能になると考え、鋭意検討した結果、鉛に汚染された土壌から極めて高い除去率で鉛を揮発除去することが可能な加熱処理の条件を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、鉛に汚染された土壌の浄化方法であって、鉛に汚染された土壌を流通ガス下において950℃以上、1300℃以下の温度で10分以上加熱処理するにあたり、前記土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間が20分以内であることを特徴とする。
【0012】
本発明の浄化方法において、前記土壌を950℃以上、1300℃以下の温度で加熱処理する時間は、10分以上、30分以内であることが好ましい。また、前記土壌を加熱処理する温度は、1000℃以上、1100℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の浄化方法は、鉛に汚染された土壌から極めて高い除去率で鉛を揮発除去することができる。また、所定の条件下で加熱処理するだけであるので、排ガスの処理を除けば、土壌の後処理などは一切不要であり、効率よく、簡便にかつ低コストで土壌を浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の浄化方法は、鉛に汚染された土壌を流通ガス下において950℃以上、1300℃以下の温度で10分以上加熱処理するにあたり、前記土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間が20分以内であることを特徴とする。なお、本発明において、特に言及する場合を除いて、「鉛」とは、土壌に含まれるあらゆる形態の鉛、例えば、金属鉛や酸化鉛のほか、土壌中に存在するアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオンなどと塩を形成したもの、あるいは土壌成分の水酸基と結合したものなどを意味する。また、本発明において、加熱処理の温度は、特に言及する場合を除いて、基本的に土壌の温度を意味するが、土壌の熱伝導率が高いので、加熱処理されている土壌付近の雰囲気温度を加熱処理の温度とみなしてもよい。
【0015】
土壌の加熱処理は、950℃以上、1300℃以下の温度で、好ましくは、1000℃以上、1100℃以下の温度で行われる。加熱温度が950℃未満であると、土壌から鉛が充分に揮発除去されない。また、加熱温度の上限については、例えば、塩化鉛(II)の沸点が950℃、酸化鉛(II)の沸点が1470℃、金属鉛の沸点が1740℃であるので、1740℃以上に加熱しても意味はない。一般的には、1300℃程度まで加熱すれば十分である。1300℃を超えると、土壌が焼結するので、浄化後の土壌を再利用する上で問題になる。また、不必要に高い温度で加熱処理すると、エネルギー使用量が増大すると共に、特別な加熱設備が必要になるので、処理コストが高くなる。
【0016】
土壌を950℃以上、1300℃以下の温度で加熱処理する時間、すなわち保持時間は、少なくとも10分あれば、土壌から鉛を充分に揮発除去することができる。保持時間が10分未満であると、土壌から鉛が充分に揮発除去されない。保持時間の上限は、特に限定されないが、好ましくは、30分である。30分を超えて加熱処理しても、無駄な時間とエネルギーを消費するだけであり、推奨できない。保持時間の上限は、好ましくは、20分である。
【0017】
土壌の加熱処理においては、土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間、すなわち昇温時間が20分以内であることが重要である。昇温時間が20分を超えると、鉛と土壌成分が複合酸化物を形成する反応が優勢になり、鉛の揮発除去が抑制される。昇温時間は、好ましくは、10分以内、より好ましくは、5分以内である。昇温時間の下限は、常温の土壌を所定の加熱温度の雰囲気下に直ちに曝した場合に前記土壌が常温から前記所定の加熱温度に上昇するのに必要な時間であり、使用する加熱装置にも依存するので特に限定されないが、2分程度である。
【0018】
汚染土壌の加熱処理は流通ガスの下で行われる。加熱処理の温度が十分に高ければ、土壌から一旦揮発した鉛は、再び土壌成分と複合酸化物を形成することはないが、土壌から揮発した直後の鉛は、流通ガスを使用しない場合あるいは流通ガスの線速度または流量が低い場合、土壌成分と複合酸化物を形成する方向に進む可能性がある。それゆえ、土壌の加熱処理時には、ガスを流通させる必要があるが、下記の実験例で示すように、流通ガスについては、土壌の加熱処理時に単にガスが流通していればよいので、特にその線速度または流量を規定する必要はない。典型的な値として、例えば、線速度が0.28cm/sec以上、2.8cm/sec以下、または、土壌の単位質量あたりの流量が0.002m3/gh以上、0.040m3/gh以下の流通ガス下で土壌の加熱処理を行えばよい。使用可能な流通ガスとしては、使用する加熱処理装置によって適宜選択すればよいが、例えば、空気、窒素、アルゴンまたはその混合物などが挙げられ、処理コストを考えると、空気、窒素またはその混合物を使用することが好ましい。
【0019】
本発明の浄化方法を実施するには、従来公知の加熱処理装置、例えば、内熱式または外熱式のロータリーキルン、回転ストーカ炉などを使用すればよい。ロータリーキルンを使用する場合は、内部に羽掻きが付いた円筒形のキルンを、天然ガスまたは重油などの燃料を用いて所定の温度に予熱しておき、供給器によって土壌を投入し、キルンを回転させながらガスを流通させて加熱することで土壌から鉛を揮発除去する。内熱式のロータリーキルンの場合、キルン内でバーナーを炊いて加熱するので、空気を流通ガスとして吹き込む必要がある。燃焼により酸素が消費され、結果的に炉内雰囲気の酸素濃度は5〜10%程度になる。外熱式のロータリーキルンの場合、キルンを外部から加熱するので、炉内雰囲気を操作することが可能であり、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを流通ガスとして吹き込むことができる。いずれの場合も、加熱処理にあたっては、上記の条件を満足するように、土壌の投入速度、キルンの回転速度、土壌の炉内での滞留時間、流通ガスの線速度または流量などを適宜調節すればよい。なお、土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間が20分以内であるとは、予め炉内の各地点で温度を測定しておき、土壌が500℃と950℃に対応する2地点を通過する時間が20分以内であることを意味する。
【0020】
土壌から鉛を揮発除去する際に流通させたガスは、冷却してから、通常の排ガス処理で鉛を除去した後、大気中に放出すればよい。排ガス処理としては、例えば、水、苛性ソーダ、消石灰、硫化ソーダなどの溶液で湿式洗浄した後、バグフィルターや湿式または乾式の電気集塵機で除塵する。湿式洗浄により排出される廃液は、通常の排水処理で固形分を除去した後、湿式洗浄に使用する水として循環させて再利用してもよい。固形分は、脱水した後、セメントで固化して埋め立てるか、あるいは鉛の製錬原料として利用することもできる。
【0021】
本発明の浄化方法によれば、鉛に汚染された土壌を所定の条件下で加熱処理するだけで、土壌から極めて高い除去率で鉛を揮発除去することにより、土壌を浄化することができる。本発明の浄化方法を用いた場合、鉛除去率は、下記の実験例でも示されるように、99%以上に達する。それゆえ、本発明の浄化方法は、従来公知の鉛に汚染された土壌の浄化方法を凌駕するものである。
【実施例】
【0022】
本発明を実験例によってさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。
まず、実験例で用いた加熱炉、加熱処理の手順、鉛含有量の分析法について説明する。
【0023】
(加熱炉)
加熱処理に用いた加熱炉を図1に示す。加熱炉1は、直径50mm、長さ1000mmの横型反応管2からなり、その周囲に巻回された電気ヒーター3により、試料台4に充填した試料5を所望の温度に加熱することができる。試料台4は、幅30mm、長さ500mm、厚さ50mmの直方体の形状をしたシリカアルミナ繊維の成型体である。反応管2の両端には、脱着式のフランジ6、7が装着されており、試料台4に充填した試料5を反応管2に挿入または摘出する際に取り外すことができるようになっている。反応管2の一端に装着されたフランジ6の中央には、ガス導入口が設けられ、窒素ガスボンベや流量計などからなる窒素ガス供給源8から窒素ガスを反応管2の内部に導入して流通させることができ、また、反応管2の他端に装着されたフランジ7の中央には、ガス排出口が設けられており、反応管2の内部に流通させた窒素ガスを排出することができる。
【0024】
(加熱処理の手順)
土壌の加熱処理は、以下のようにして行った。まず、窒素供給源8から窒素ガスを反応管2に導入して流通させ、反応管2内の雰囲気を窒素ガスで置換した。電気ヒーター3で反応管2を加熱して、反応管2内の雰囲気温度を所定の加熱温度に調節した。窒素ガスを流通させながら、反応管2の一端に装着されたフランジ7を取り外して、土壌の試料5を充填した試料台4を反応管2の内部に挿入した。反応管2の端部は常温であった。試料5は試料台4の試料充填部に薄く広げて充填した。試料5の厚みは、例えば、その質量が5.0gの場合には、1〜2mmであった。フランジ7を反応管2に装着して、窒素ガスを流通させながら、試料5を充填した試料台4を反応管2の中央部に移動させた。なお、予め反応管2内の各地点の温度を測定しておき、試料5が500℃と950℃に対応する2地点を通過する時間、すなわち土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間を昇温時間とした。その後、所定の加熱時間にわたって保持した後、試料5を充填した試料台4を反応管2の一端に移動させ、自然冷却した。フランジ7を取り外して、試料5を充填した試料台4を摘出し、鉛含有量の分析を行った。
【0025】
(鉛含有量の分析法)
土壌の鉛含有量は、環水管第127号II7.1に従って分析した。簡単に説明すると、分析は以下のようにして行った。土壌を硝酸と塩酸の混合液中で加熱して鉛を溶解させ、濾過した後、濾液を蒸発乾固する直前まで加熱して残留する硝酸と塩酸をできるだけ除去し、残渣を塩酸(1+1)10mLに溶解し、水を加えて100mLとしたものを試験溶液とした。この試験溶液を原子吸光法で分析して鉛を定量した。
【0026】
実験例1〜13
実汚染土壌(鉛含有量120mg/kg、粒径1mm未満)を用い、土壌を加熱処理する温度(以下「加熱温度」という)、所定温度で土壌を加熱処理する時間(以下「保持時間」という)、土壌が反応管内の500℃から950℃の地点を通過する時間(以下「昇温時間」という)および加熱処理時に流通させるガスの線速度(以下「流通ガス線速度」という)について検討するべく、表1に示す条件で、加熱処理を行い、加熱処理前後における土壌の鉛含有量を分析した。得られた結果を表1に示す。なお、鉛除去率は、次式により求めた。
【0027】
【数1】
【0028】
【表1】
【0029】
1.加熱温度の検討
表1の実験結果を加熱温度について検討したものを表2に示す。実験例7、11では、それぞれ加熱温度が1000℃、1100℃で鉛除去率99.9%以上であったのに対し、実験例10では、加熱温度が900℃で鉛除去率94.4%であった。このことから、鉛除去率99.9%以上を達成するには、1000℃以上の加熱温度が必要である。
【0030】
【表2】
【0031】
2.保持時間の検討
表1の実験結果を保持時間について検討したものを表3に示す。実験例3、2、1では、それぞれ保持時間が10分、20分、30分で鉛除去率99.9%以上であったのに対し、実験例13では、保持時間が5分で鉛除去率87.5%であった。このことから、鉛除去率99.9%以上を達成するには、保持時間が10分以上であれば充分である。
【0032】
【表3】
【0033】
3.昇温時間の検討
表1の実験結果を昇温時間について検討したものを表4に示す。実験例7、12では、それぞれ昇温時間が2分、20分で鉛除去率99.9%以上、99.0%であったのに対し、実験例6では、昇温時間が40分で鉛除去率58.5%であった。このことから、鉛除去率99.0%以上を達成するには、昇温時間が20分以内であることが必要である。
【0034】
【表4】
【0035】
4.流通ガス線速度の検討
表1の実験結果を流通ガス線速度について検討したものを表5に示す。実験例5、9、8、1では、それぞれ流通ガス線速度が0.28cm/s、0.7cm/s、1.4cm/s、2.8cm/sで鉛除去率99.9%以上であった。このことから、流通ガス線速度が0.28cm/s以上で鉛除去率99.9%以上が達成される。
【0036】
【表5】
【0037】
5.流通ガス流量の検討
流通ガス線速度ではなく、土壌の単位質量あたりの流通ガスの流量(以下「流通ガス流量」という)についても検討した。流通ガス流量は、次式により求めた。
【0038】
【数2】
【0039】
表1の実験結果を流通ガス流量について検討したものを表6に示す。実験例5、4、1では、それぞれ流通ガス流量が0.002m3/gh、0.020m3/gh、0.040m3/ghで鉛除去率99.9%以上であった。このことから、流通ガス流量が0.002m3/gh以上で鉛除去率99.9%以上が達成される。
【0040】
【表6】
【0041】
以上の検討結果から、鉛に汚染された土壌から極めて高い除去率(99.0%以上)で鉛を揮発除去するには、加熱温度が950℃以上、加熱時間が10分以上、昇温時間が20分以内であることが必要である。流通ガスについては、土壌の加熱処理時に単にガスが流通していればよいので、特にその線速度または流量を規定する必要はない。典型的な値として、例えば、線速度が0.28cm/sec以上、2.8cm/sec以下、または、土壌の単位質量あたりの流量が0.002m3/gh以上、0.040m3/gh以下の流通ガス下で土壌の加熱処理を行えばよい。なお、上記の実験例では、試料として鉛含有量が120mg/kgの実汚染土壌を用いたが、鉛含有量が数千mg/kgという極めて高い汚染度の土壌であっても、同様の結果が得られると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の浄化方法は、鉛に汚染された土壌から極めて高い除去率で鉛を揮発除去することができるので、土壌の鉛汚染に関する問題を解決する非常に有力な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実験例で用いた加熱炉を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 加熱炉
2 反応管
3 電気ヒーター
4 試料台
5 試料
6,7 フランジ
8 窒素ガス供給源
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛に汚染された土壌の浄化方法、さらに詳しくは、鉛に汚染された土壌を加熱処理して鉛を揮発除去することにより、土壌を浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、土壌が有害物質に汚染されている事例が数多く発覚し、汚染土壌による健康への影響が懸念されている。それゆえ、その対策を確立する社会的要請が強まり、「土壌汚染対策法」が施行されるなど、土壌汚染に対する法的な規制も整備されつつある。
【0003】
このような状況下にあって、土壌を浄化する様々な技術が報告されている。中でも、ロータリーキルンによる加熱処理は、一般的な土壌浄化技術の一つであり、非特許文献1、2、3および4に記載されているように、すでに国内外で研究が進められ、商業レベルで採用されつつある技術である。
【0004】
このようにロータリーキルンによる加熱処理は、既存の技術であるが、鉛に関してはあまり適用されていない。それは、鉛は加熱処理による揮発除去が困難であると考えられ、土壌の浄化は不溶化処理の方向へ進んだためである。
【0005】
ところが、不溶化処理した土壌が、酸性雨や不溶化剤によるアルカリ化などの影響を受けてpHが急激に変化し、そのため鉛が再溶出するといった現象が確認されるなど、不溶化処理に対する信頼性に問題が生じつつある。さらに、近年の「土壌汚染対策法」の制定に伴い、含有量を基準にするという考え方が起こってきた。それゆえ、単なる不溶化ではなく、土壌中における鉛含有量それ自体を減少させる、つまり、土壌から鉛を除去する技術が必要になってきた。このような事情から、加熱処理は、土壌中の鉛除去技術の一つとして見直されてきた。
【非特許文献1】財団法人 地球環境センター,「重金属汚染土壌の加熱処理技術」,GEC環境技術情報データベース(NETT21),[online],平成14年7月,財団法人 地球環境センター,[平成16年7月30日検索],インターネット<URL:http://nett21.gec.jp/SGC#DATA/JP/html/sgcj-052.html>
【非特許文献2】上田浩三、外2名,「土壌汚染物質の熱脱着挙動」,日立造船技報,日立造船株式会社,平成10年4月,第59巻,第1号,p.74−80
【非特許文献3】ロバート・シー・サーナウ(Robert C. Thurnau),「同時汚染土壌の低温脱着処理:評価技術としてのTCLP(Low-temperature desorption treatment of co-contaminated solids: TCLP as an evaluation technique)」,ジャーナル・オブ・ハザーダス・マテリアルズ(Journal of Hazardous Materials),(オランダ),エルゼビアサイエンス(Elsevier Science),1996年,第48巻,p.149−169
【非特許文献4】デニス・エイ・クリフォード(Dennis A. Clifford)、外2名,「土壌からの毒性金属の揮発(Volatilizing Toxic Metals from Soil)」,ウェイスト・マネージメント(Waste Management),(米国),パーガモン・プレス(Pergamon Press),1993年,第13巻,p.467−479
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、加熱処理の条件については、現在のところ、あまり検討されていない。例えば、非特許文献1には「1000〜1100℃に予熱したロータリーキルンに、供給器によって汚染土壌を投入し、空気を通じながら加熱し、揮発しやすい重金属を揮発させ、汚染土壌から除去する。また、揮発せずに残留する重金属も加熱処理によって水に溶けにくい酸化物に変化する。」(第1頁の「技術概要」を参照)と記載され、非特許文献2には「鉛汚染土壌は800〜900℃の加熱でほとんど脱着しないことがわかった」(第78頁右欄の「4.2実証試験結果」を参照)と記載され、非特許文献3には、鉛は650℃で60分加熱処理しても蒸発しないことが示され(図6を参照)、また、キルンへの土壌投入量(〜12.5%)、水分量(〜20%)、キルン回転速度(〜190インチ/分)なども鉛の蒸発には影響しないことが示され(図7〜9を参照)、非特許文献4には「750℃では、約50%の鉛除去率が達成された。・・・900℃、20分の加熱では、試料は水素または窒素中で93%の鉛除去率を与えたが、空気中ではわずか73%の鉛除去率を与えた。」(第467頁の「要約」を参照)と記載されているだけであり、土壌から鉛を除去するための加熱処理の最適条件は確立されていないというのが現状である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加熱処理の条件を最適化することにより、鉛に汚染された土壌から極めて高い除去率で鉛を揮発除去することが可能な土壌の浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
土壌中の鉛を加熱処理によって揮発除去する場合、その機構は非常に複雑であり、詳細は明らかになっていない。加熱処理による鉛の状態変化および揮発・蒸発は、反応と拡散移動が入り混じった複雑な現象である。反応と物質移動の両面から考察すると、土壌粒子に担持された鉛が解離、移動、蒸発を行う過程の律速段階としては、(1)何らかの結合または吸着している鉛が土壌から解離する過程、(2)解離した鉛が蒸発表面まで拡散移動する過程、(3)蒸発表面に達した鉛が気相中の境膜を移動する過程が考えられる。
【0009】
また、土壌の物質面から考察すると、土壌は、アルミノシリケート(アルミニウムとケイ素の複合酸化物)からなり、Si/Al原子比によって様々な結晶形態をとることや、他の金属酸化物が共存すると、さらに別の結晶構造をとることが知られている。単独では揮発する鉛がこれらの結晶構造内に捕捉され、揮発しなくなることが予想される。さらに、鉛とアルミノシリケートが複合酸化物を形成する反応が鉛の揮発と競合することも予想される。
【0010】
そこで、本発明者らは、実機の操業条件を考えた場合には、加熱温度、保持時間、昇温時間、流通ガスの線速度、流量などの制御可能な因子を最適化することにより、鉛が解離、移動、蒸発を行う過程の律速段階、鉛のアルミノシリケート結晶構造内への捕捉、ならびに鉛の揮発と複合酸化物の形成との競合を制御することが可能になると考え、鋭意検討した結果、鉛に汚染された土壌から極めて高い除去率で鉛を揮発除去することが可能な加熱処理の条件を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、鉛に汚染された土壌の浄化方法であって、鉛に汚染された土壌を流通ガス下において950℃以上、1300℃以下の温度で10分以上加熱処理するにあたり、前記土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間が20分以内であることを特徴とする。
【0012】
本発明の浄化方法において、前記土壌を950℃以上、1300℃以下の温度で加熱処理する時間は、10分以上、30分以内であることが好ましい。また、前記土壌を加熱処理する温度は、1000℃以上、1100℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の浄化方法は、鉛に汚染された土壌から極めて高い除去率で鉛を揮発除去することができる。また、所定の条件下で加熱処理するだけであるので、排ガスの処理を除けば、土壌の後処理などは一切不要であり、効率よく、簡便にかつ低コストで土壌を浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の浄化方法は、鉛に汚染された土壌を流通ガス下において950℃以上、1300℃以下の温度で10分以上加熱処理するにあたり、前記土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間が20分以内であることを特徴とする。なお、本発明において、特に言及する場合を除いて、「鉛」とは、土壌に含まれるあらゆる形態の鉛、例えば、金属鉛や酸化鉛のほか、土壌中に存在するアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオンなどと塩を形成したもの、あるいは土壌成分の水酸基と結合したものなどを意味する。また、本発明において、加熱処理の温度は、特に言及する場合を除いて、基本的に土壌の温度を意味するが、土壌の熱伝導率が高いので、加熱処理されている土壌付近の雰囲気温度を加熱処理の温度とみなしてもよい。
【0015】
土壌の加熱処理は、950℃以上、1300℃以下の温度で、好ましくは、1000℃以上、1100℃以下の温度で行われる。加熱温度が950℃未満であると、土壌から鉛が充分に揮発除去されない。また、加熱温度の上限については、例えば、塩化鉛(II)の沸点が950℃、酸化鉛(II)の沸点が1470℃、金属鉛の沸点が1740℃であるので、1740℃以上に加熱しても意味はない。一般的には、1300℃程度まで加熱すれば十分である。1300℃を超えると、土壌が焼結するので、浄化後の土壌を再利用する上で問題になる。また、不必要に高い温度で加熱処理すると、エネルギー使用量が増大すると共に、特別な加熱設備が必要になるので、処理コストが高くなる。
【0016】
土壌を950℃以上、1300℃以下の温度で加熱処理する時間、すなわち保持時間は、少なくとも10分あれば、土壌から鉛を充分に揮発除去することができる。保持時間が10分未満であると、土壌から鉛が充分に揮発除去されない。保持時間の上限は、特に限定されないが、好ましくは、30分である。30分を超えて加熱処理しても、無駄な時間とエネルギーを消費するだけであり、推奨できない。保持時間の上限は、好ましくは、20分である。
【0017】
土壌の加熱処理においては、土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間、すなわち昇温時間が20分以内であることが重要である。昇温時間が20分を超えると、鉛と土壌成分が複合酸化物を形成する反応が優勢になり、鉛の揮発除去が抑制される。昇温時間は、好ましくは、10分以内、より好ましくは、5分以内である。昇温時間の下限は、常温の土壌を所定の加熱温度の雰囲気下に直ちに曝した場合に前記土壌が常温から前記所定の加熱温度に上昇するのに必要な時間であり、使用する加熱装置にも依存するので特に限定されないが、2分程度である。
【0018】
汚染土壌の加熱処理は流通ガスの下で行われる。加熱処理の温度が十分に高ければ、土壌から一旦揮発した鉛は、再び土壌成分と複合酸化物を形成することはないが、土壌から揮発した直後の鉛は、流通ガスを使用しない場合あるいは流通ガスの線速度または流量が低い場合、土壌成分と複合酸化物を形成する方向に進む可能性がある。それゆえ、土壌の加熱処理時には、ガスを流通させる必要があるが、下記の実験例で示すように、流通ガスについては、土壌の加熱処理時に単にガスが流通していればよいので、特にその線速度または流量を規定する必要はない。典型的な値として、例えば、線速度が0.28cm/sec以上、2.8cm/sec以下、または、土壌の単位質量あたりの流量が0.002m3/gh以上、0.040m3/gh以下の流通ガス下で土壌の加熱処理を行えばよい。使用可能な流通ガスとしては、使用する加熱処理装置によって適宜選択すればよいが、例えば、空気、窒素、アルゴンまたはその混合物などが挙げられ、処理コストを考えると、空気、窒素またはその混合物を使用することが好ましい。
【0019】
本発明の浄化方法を実施するには、従来公知の加熱処理装置、例えば、内熱式または外熱式のロータリーキルン、回転ストーカ炉などを使用すればよい。ロータリーキルンを使用する場合は、内部に羽掻きが付いた円筒形のキルンを、天然ガスまたは重油などの燃料を用いて所定の温度に予熱しておき、供給器によって土壌を投入し、キルンを回転させながらガスを流通させて加熱することで土壌から鉛を揮発除去する。内熱式のロータリーキルンの場合、キルン内でバーナーを炊いて加熱するので、空気を流通ガスとして吹き込む必要がある。燃焼により酸素が消費され、結果的に炉内雰囲気の酸素濃度は5〜10%程度になる。外熱式のロータリーキルンの場合、キルンを外部から加熱するので、炉内雰囲気を操作することが可能であり、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを流通ガスとして吹き込むことができる。いずれの場合も、加熱処理にあたっては、上記の条件を満足するように、土壌の投入速度、キルンの回転速度、土壌の炉内での滞留時間、流通ガスの線速度または流量などを適宜調節すればよい。なお、土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間が20分以内であるとは、予め炉内の各地点で温度を測定しておき、土壌が500℃と950℃に対応する2地点を通過する時間が20分以内であることを意味する。
【0020】
土壌から鉛を揮発除去する際に流通させたガスは、冷却してから、通常の排ガス処理で鉛を除去した後、大気中に放出すればよい。排ガス処理としては、例えば、水、苛性ソーダ、消石灰、硫化ソーダなどの溶液で湿式洗浄した後、バグフィルターや湿式または乾式の電気集塵機で除塵する。湿式洗浄により排出される廃液は、通常の排水処理で固形分を除去した後、湿式洗浄に使用する水として循環させて再利用してもよい。固形分は、脱水した後、セメントで固化して埋め立てるか、あるいは鉛の製錬原料として利用することもできる。
【0021】
本発明の浄化方法によれば、鉛に汚染された土壌を所定の条件下で加熱処理するだけで、土壌から極めて高い除去率で鉛を揮発除去することにより、土壌を浄化することができる。本発明の浄化方法を用いた場合、鉛除去率は、下記の実験例でも示されるように、99%以上に達する。それゆえ、本発明の浄化方法は、従来公知の鉛に汚染された土壌の浄化方法を凌駕するものである。
【実施例】
【0022】
本発明を実験例によってさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。
まず、実験例で用いた加熱炉、加熱処理の手順、鉛含有量の分析法について説明する。
【0023】
(加熱炉)
加熱処理に用いた加熱炉を図1に示す。加熱炉1は、直径50mm、長さ1000mmの横型反応管2からなり、その周囲に巻回された電気ヒーター3により、試料台4に充填した試料5を所望の温度に加熱することができる。試料台4は、幅30mm、長さ500mm、厚さ50mmの直方体の形状をしたシリカアルミナ繊維の成型体である。反応管2の両端には、脱着式のフランジ6、7が装着されており、試料台4に充填した試料5を反応管2に挿入または摘出する際に取り外すことができるようになっている。反応管2の一端に装着されたフランジ6の中央には、ガス導入口が設けられ、窒素ガスボンベや流量計などからなる窒素ガス供給源8から窒素ガスを反応管2の内部に導入して流通させることができ、また、反応管2の他端に装着されたフランジ7の中央には、ガス排出口が設けられており、反応管2の内部に流通させた窒素ガスを排出することができる。
【0024】
(加熱処理の手順)
土壌の加熱処理は、以下のようにして行った。まず、窒素供給源8から窒素ガスを反応管2に導入して流通させ、反応管2内の雰囲気を窒素ガスで置換した。電気ヒーター3で反応管2を加熱して、反応管2内の雰囲気温度を所定の加熱温度に調節した。窒素ガスを流通させながら、反応管2の一端に装着されたフランジ7を取り外して、土壌の試料5を充填した試料台4を反応管2の内部に挿入した。反応管2の端部は常温であった。試料5は試料台4の試料充填部に薄く広げて充填した。試料5の厚みは、例えば、その質量が5.0gの場合には、1〜2mmであった。フランジ7を反応管2に装着して、窒素ガスを流通させながら、試料5を充填した試料台4を反応管2の中央部に移動させた。なお、予め反応管2内の各地点の温度を測定しておき、試料5が500℃と950℃に対応する2地点を通過する時間、すなわち土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間を昇温時間とした。その後、所定の加熱時間にわたって保持した後、試料5を充填した試料台4を反応管2の一端に移動させ、自然冷却した。フランジ7を取り外して、試料5を充填した試料台4を摘出し、鉛含有量の分析を行った。
【0025】
(鉛含有量の分析法)
土壌の鉛含有量は、環水管第127号II7.1に従って分析した。簡単に説明すると、分析は以下のようにして行った。土壌を硝酸と塩酸の混合液中で加熱して鉛を溶解させ、濾過した後、濾液を蒸発乾固する直前まで加熱して残留する硝酸と塩酸をできるだけ除去し、残渣を塩酸(1+1)10mLに溶解し、水を加えて100mLとしたものを試験溶液とした。この試験溶液を原子吸光法で分析して鉛を定量した。
【0026】
実験例1〜13
実汚染土壌(鉛含有量120mg/kg、粒径1mm未満)を用い、土壌を加熱処理する温度(以下「加熱温度」という)、所定温度で土壌を加熱処理する時間(以下「保持時間」という)、土壌が反応管内の500℃から950℃の地点を通過する時間(以下「昇温時間」という)および加熱処理時に流通させるガスの線速度(以下「流通ガス線速度」という)について検討するべく、表1に示す条件で、加熱処理を行い、加熱処理前後における土壌の鉛含有量を分析した。得られた結果を表1に示す。なお、鉛除去率は、次式により求めた。
【0027】
【数1】
【0028】
【表1】
【0029】
1.加熱温度の検討
表1の実験結果を加熱温度について検討したものを表2に示す。実験例7、11では、それぞれ加熱温度が1000℃、1100℃で鉛除去率99.9%以上であったのに対し、実験例10では、加熱温度が900℃で鉛除去率94.4%であった。このことから、鉛除去率99.9%以上を達成するには、1000℃以上の加熱温度が必要である。
【0030】
【表2】
【0031】
2.保持時間の検討
表1の実験結果を保持時間について検討したものを表3に示す。実験例3、2、1では、それぞれ保持時間が10分、20分、30分で鉛除去率99.9%以上であったのに対し、実験例13では、保持時間が5分で鉛除去率87.5%であった。このことから、鉛除去率99.9%以上を達成するには、保持時間が10分以上であれば充分である。
【0032】
【表3】
【0033】
3.昇温時間の検討
表1の実験結果を昇温時間について検討したものを表4に示す。実験例7、12では、それぞれ昇温時間が2分、20分で鉛除去率99.9%以上、99.0%であったのに対し、実験例6では、昇温時間が40分で鉛除去率58.5%であった。このことから、鉛除去率99.0%以上を達成するには、昇温時間が20分以内であることが必要である。
【0034】
【表4】
【0035】
4.流通ガス線速度の検討
表1の実験結果を流通ガス線速度について検討したものを表5に示す。実験例5、9、8、1では、それぞれ流通ガス線速度が0.28cm/s、0.7cm/s、1.4cm/s、2.8cm/sで鉛除去率99.9%以上であった。このことから、流通ガス線速度が0.28cm/s以上で鉛除去率99.9%以上が達成される。
【0036】
【表5】
【0037】
5.流通ガス流量の検討
流通ガス線速度ではなく、土壌の単位質量あたりの流通ガスの流量(以下「流通ガス流量」という)についても検討した。流通ガス流量は、次式により求めた。
【0038】
【数2】
【0039】
表1の実験結果を流通ガス流量について検討したものを表6に示す。実験例5、4、1では、それぞれ流通ガス流量が0.002m3/gh、0.020m3/gh、0.040m3/ghで鉛除去率99.9%以上であった。このことから、流通ガス流量が0.002m3/gh以上で鉛除去率99.9%以上が達成される。
【0040】
【表6】
【0041】
以上の検討結果から、鉛に汚染された土壌から極めて高い除去率(99.0%以上)で鉛を揮発除去するには、加熱温度が950℃以上、加熱時間が10分以上、昇温時間が20分以内であることが必要である。流通ガスについては、土壌の加熱処理時に単にガスが流通していればよいので、特にその線速度または流量を規定する必要はない。典型的な値として、例えば、線速度が0.28cm/sec以上、2.8cm/sec以下、または、土壌の単位質量あたりの流量が0.002m3/gh以上、0.040m3/gh以下の流通ガス下で土壌の加熱処理を行えばよい。なお、上記の実験例では、試料として鉛含有量が120mg/kgの実汚染土壌を用いたが、鉛含有量が数千mg/kgという極めて高い汚染度の土壌であっても、同様の結果が得られると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の浄化方法は、鉛に汚染された土壌から極めて高い除去率で鉛を揮発除去することができるので、土壌の鉛汚染に関する問題を解決する非常に有力な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実験例で用いた加熱炉を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 加熱炉
2 反応管
3 電気ヒーター
4 試料台
5 試料
6,7 フランジ
8 窒素ガス供給源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛に汚染された土壌を流通ガス下において950℃以上、1300℃以下の温度で10分以上加熱処理するにあたり、前記土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間が20分以内であることを特徴とする鉛に汚染された土壌の浄化方法。
【請求項2】
前記土壌を950℃以上、1300℃以下の温度で加熱処理する時間が10分以上、30分以内である請求項1記載の鉛に汚染された土壌の浄化方法。
【請求項3】
前記土壌を加熱処理する温度が1000℃以上、1100℃以下である請求項1または2記載の鉛に汚染された土壌の浄化方法。
【請求項1】
鉛に汚染された土壌を流通ガス下において950℃以上、1300℃以下の温度で10分以上加熱処理するにあたり、前記土壌を加熱昇温して500℃から950℃に至る時間が20分以内であることを特徴とする鉛に汚染された土壌の浄化方法。
【請求項2】
前記土壌を950℃以上、1300℃以下の温度で加熱処理する時間が10分以上、30分以内である請求項1記載の鉛に汚染された土壌の浄化方法。
【請求項3】
前記土壌を加熱処理する温度が1000℃以上、1100℃以下である請求項1または2記載の鉛に汚染された土壌の浄化方法。
【図1】
【公開番号】特開2006−95463(P2006−95463A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286569(P2004−286569)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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