説明

鉛フリーはんだ合金

【課題】はんだ材料として高い固相線温度と適度な液相線温度を有し、良好な濡れ性を具えているだけでなく、Bi系はんだにおけるNi−Biの過剰反応やNi拡散という特有の課題を抑制すると同時に、濡れ性に優れたPbフリーはんだ合金を提供する。
【解決手段】0.02質量%以上3.00質量%以下のAl及び0.001質量%以上1.000質量%以下のGeを含み、残部がBi及び不可避的不純物からなる鉛フリーはんだ合金とする。さらにZn、P、Ag、Cuのうち少なくとも1種を含んだものであっても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al、Geを含有するBi基鉛フリーはんだ合金に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に有害な化学物質に対する規制がますます厳しくなってきており、この規制は半導体パッケージなどをプリント基板に接合する目的で使用されるはんだ材料や、半導体素子をリードフレームなどの基板に接合するはんだ材料に対しても例外ではない。
例えば、はんだ材料には古くからPbが主成分として使われ続けてきたが、Pbは既にRohs指令などで規制対象物質になっている。このため、Pbを含まないはんだ(Pbフリーはんだ又は無鉛はんだ)の開発が盛んに行われている。
半導体素子を基板に接合する際に使用するはんだは、その使用限界温度によって高温用(約260℃〜400℃)と中低温用(約140℃〜230℃)に大別され、そのうち中低温用はんだに関してはSnを主成分とするPbフリーはんだが実用化されている。例えば特許文献1には、Snを主成分とし、Agを1.0〜4.0質量%、Cuを2.0質量%以下、Niを0.5質量%以下、Pを0.2質量%以下含有するPbフリーはんだ合金組成が記載されている。
また、特許文献2には、Agを0.5〜3.5質量%、Cuを0.5〜2.0質量%含有し、残部がSnからなる合金組成の無鉛はんだが記載されている。
【0003】
一方、Pbを含まない高温用のはんだ材料に関しても、さまざまな提案が行われている。例えば特許文献3には、Biを30〜80質量%含んだ溶融温度が350〜500℃のBi/Agろう材が記載されている。
また、特許文献4には、Biを含む共晶合金に2元共晶合金を加え、更に添加元素を加えた鉛フリーはんだ合金が記載されており、このはんだ合金は4元系以上の多元系はんだではあるものの、液相線温度の調整とばらつきの減少が可能となることが示されている。 更に、特許文献5には、BiにCuとAlとMnを添加するか、あるいはCu又はNiを添加した鉛フリーはんだ合金が記載されている。これらの鉛フリーはんだ合金は、Cu層を表面に備えたパワー半導体素子をCu層が表面に形成された絶縁性基板に搭載するために使用する場合、はんだとの接合界面において不要な反応生成物が形成されにくくなるため、クラックなどの不具合の発生を抑制できることが記載されている。
【0004】
また、特許文献6には、はんだ組成物100質量%のうち、94.5質量%以上のBiからなる第1金属元素と、2.5質量%のAgからなる第2金属元素と、Sn:0.1〜0.5質量%、Cu:0.1〜0.3質量%、In:0.1〜0.5質量%、Sb:0.1〜3.0質量%、及びZn:0.1〜3.0質量%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を合計0.1〜3.0質量%含む第3金属元素とからなる鉛フリーはんだ組成物が示されている。
特許文献7には、副成分としてAg、Cu、Zn及びSbのうちの少なくとも1種を含有するBi基合金に、0.3〜0.5質量%のNiを含有するPbフリーはんだ組成物が開示されている。また、このPbフリーはんだは、固相線温度が250℃以上であり、液相線温度が300℃以下であることが記載されている。
更に特許文献8には、Biを含む2元合金が開示されており、この2元合金ははんだ付け構造体内部において、クラックの発生を抑える効果を有していることが記載されている。
また、特許文献9には、Biを主成分として0.2〜0.8重量%のCuと、0.02〜0.2重量%のGeとを含む接合材料について記載されている。この接合材料は270℃以上の溶融温度を有するため、例えばチップインダクタのような小型の半導体パッケージに用いるのに適しており、Bi−Cu合金の濡れ性の低さ、即ち接合材料の酸化をGeにより抑制しているとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−077366号公報
【特許文献2】特開平08−215880号公報
【特許文献3】特開2002−160089号公報
【特許文献4】特開2006−167790号公報
【特許文献5】特開2007−281412号公報
【特許文献6】特許第3671815号公報
【特許文献7】特開2004−025232号公報
【特許文献8】特開2007−181880号公報
【特許文献9】特許第3886144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Pbを含まない高温用のはんだ材料に関しては、開発が進んでいるものの、未だ実用化の面で許容できる特性を有するはんだ材料は見つかっていないのが実状である。即ち、一般的にプリント基板には熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの比較的耐熱温度の低い材料が多用されているため、作業温度を400℃未満、望ましくは370℃以下にする必要がある。しかしながら、例えば特許文献3に記載されているBi/Agろう材では、液相線温度が400〜700℃と高いため、接合時の作業温度も400〜700℃以上になると推測され、接合されるプリント基板の耐熱温度を超えてしまうことになる。
また、高温用はんだに一般的に求められる特性として、高い固相線温度、適度な液相線温度、低温と高温のヒートサイクルに対する高耐久性、良好な熱応力緩和特性、良好な濡れ広がり性などがある。しかし、はんだの主成分がBiの場合には、これらの諸特性に加えて、以下に述べるBiとNiの過剰反応というBi系はんだに特有の課題を解決する必要がある。
【0007】
即ち、BiとNiの反応とは、はんだとの接合性を高めるため半導体素子の表面にNi層が形成されている場合、このNi層がはんだに含まれるBiと急激に反応してNiとBiの脆い合金を生成すると共に、Ni層に破壊や剥離が生じてBi中に拡散し、接合強度が著しく低下してしまう問題である。Ni層の上にAgやAuなどの層を設けることもあるが、AgやAuはNi層の酸化防止や濡れ性向上を目的としているため、はんだ中に拡散してしまい、NiとBiの反応を抑制する効果はほとんどない。
さらにBiは他の金属と合金化しづらいため濡れ性が悪く、Niも拡散を抑制するための元素を添加した場合、さらに濡れ性を落とすことがあり、この濡れ性の改善も大きな課題である。
【0008】
このように、Pbを含まない高温用のBi系はんだ合金には2つ大きな課題がある。即ち、第1の課題は、半導体素子と基板を接合する際に、半導体素子や基板にNi層が存在すると、はんだ合金中のBiとNiが反応して脆い合金を形成すると共にNiがBiはんだ中に拡散してしまうため、BiとNiの過剰反応やBi中へのNiの拡散を抑制する必要があることであり、第2の課題はBiの他の元素と合金化しづらい性質に起因する濡れ性の悪さを改善することである。
上記した特許文献4〜9のBiを主成分とする高温用はんだ合金では、前記課題の解決は困難であった。例えば、特許文献5においては、はんだとの接合表面がNi層である場合が比較例として記載されており、BiにCu−Al−Mn、Cu又はNiを添加したはんだ合金では接合界面に多量のBiNiが形成され、その周囲には多数の空隙が観察されると記載されている。また、このBiNiは非常に脆い性質を有し、過酷な条件のヒートサイクルに対して信頼性が得られ難いことが確認できたとも記載されている。
【0009】
また、特許文献6に記載のはんだ組成物では、例えばSnを0.5質量%以上及びZnを3.0質量%以上含有しても、BiとNiの反応やBi中へのNiの拡散は抑えることはできず、接合強度が低くて実用に耐えられないことが実験により確認された。
特許文献7に記載されたPbフリーはんだ組成物では、Bi−Niの2元系状態図を見れば分かるように、Biが多く存在する場合、NiBiという脆い合金を作ってしまう。Niを0.3〜0.5質量%含有した場合、非常に脆い合金相がはんだ内に分散することになり、もともと脆いBi系はんだを更に脆化させてしまうことが推測される。
尚、特許文献4、特許文献8及び特許文献9では、Bi中へのNiの拡散の問題やその防止対策に対して何も触れられていない。中でも特許文献8には、Bi−Ag系、Bi−Cu系、Bi−Zn系などが開示されているが、Bi−Ag系には特にNi拡散対策が必要であるにも係わらず何ら記述されていない。また、Bi−Cu系に関しては、CuのBi中への固溶量が微量であるため、融点の高いCu相が析出し、接合性に問題が生じることを本発明者は確認しているが、これに対する対策は述べられていない。更に、Bi−Zn系では還元性の強いZnにより濡れ性が下がり、半導体パッケージ等の接合が困難であることが推測できるが、これに関しても触れられておらず、NiとBiの過剰反応に関する記述もない。
【0010】
このようにまずNiとBiの過剰反応を抑えることができていないのが現状である。さらにBiの濡れ性の悪さを改善する必要があるが、Biに各種元素を添加すると濡れ性を一層低下させてしまうことになる場合がある。例えば、Bi−Zn系などではZnが酸化し易いため、Znの含有量によっては濡れ性を極端に低下させてしまい、接合ができなくなってしまったりする。
特許文献9には、0.2〜0.8重量%のCuを含むBi−Cu合金は、270℃未満の温度で溶融しない点で優れた接合材料であるが、一方で濡れ性が低いことが確認され、この対策としてBiよりも優先的に酸化する元素をBi−Cu合金に微量添加することにより抑制できるとの考えに基づいて、Biよりも優先的に酸化する元素としてGeを添加した試料において酸化物の生成が抑制されることが記載されている。このように諸特性を改善するために含有する元素によってはBiより酸化し易いGeなどを添加することにより濡れ性を改善できる場合がある。
本発明はNi−Biの過剰反応を抑えるための元素、そして、濡れ性を向上させる元素の必要特性を満たすように選定することにより、優れたはんだ材料を提供しようとするものである。なお、特許文献9に記載されている合金の場合、すでに述べたようにNi拡散を抑制することは困難であり、NiとBiの過剰反応の問題を解決できていないのが現状である。
【0011】
以上に述べたように、Pbを含まない高温用のBi系はんだ合金には2つ課題ある。すなわち、第1はNi−Biの過剰反応に関する課題、第2はBiの他の元素と合金化しづらい性質に起因する濡れ性の悪さの課題であり、これらの課題を解決する必要がある。
本発明は、はんだ材料として高い固相線温度と適度な液相線温度を有し、良好な濡れ性を具えているだけでなく、Bi系はんだにおける特有の課題、即ちNi−Biの過剰反応やNi拡散を抑制できると同時に、濡れ性に優れたPbフリーはんだ合金を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の発明は、0.02質量%以上3.00質量%以下のAl及び0.001質量%以上1.000質量%以下のGeを含み、残部がBi及び不可避的不純物からなる鉛フリーはんだ合金であることを特徴とするものである。
本発明では、特にAl含有量が0.03質量%以上1.00質量%以下で、Ge含有量が0.003質量%以上0.500質量%以下であることが好ましい。
本発明のはんだ合金は、Alを含んでいるのでNiとBiとの過剰反応を抑制することができる。また、Geを含んでいるので濡れ性が向上する利点を有する。
本発明の第2の発明は、0.03質量%以上1.00質量%以下のAl、0.003質量%以上0.500質量%以下のGeを含み、さらに0.01質量%以上3.00質量%以下のAgもしくは0.01質量%以上1.8質量%以下のCuのうち少なくとも1種を含み、残部がBi及び不可避的不純物からなる鉛フリーはんだ合金である。
【0013】
本発明の第3の発明は、0.02質量%以上3.00質量%以下のAl、0.2質量%以上13.5質量%以下のZn、および0.001質量%以上1.000質量%以下のGeを含み、残部がBi及び不可避的不純物からなる鉛フリーはんだ合金である。
ZnはAlと同様にNiとBiとの過剰反応を抑制する効果をさらに助長する。
本発明の第4の発明は、0.03質量%以上1.00質量%以下のAl、0.4質量%以上5.0質量%以下のZn、0.003質量%以上0.500質量%以下のGeを含み、さらに0.01質量%以上3.00質量%以下のAgもしくは0.01質量%以上1.8質量%以下のCuのうち少なくとも1種を含み、残部がBi及び不可避的不純物からなる鉛フリーはんだ合金である。
AgやCuを加えることにより、濡れ性を向上させるとともに接合性を向上させることができる。
【0014】
さらに本発明では、0.500質量%未満のPを含んだものであっても良い。
Pを含むことにより濡れ性が向上するとともに、接合性がさらに向上したものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、リフロー温度約260℃以上の耐熱温度を有し、Bi系はんだの課題であったNiとBiの過剰反応やBi中へのNiの拡散を抑制することができ、同時に濡れ性にも優れた高温用のPbフリーはんだ合金を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一般的に高温用のPbフリーはんだ合金は、約260℃のリフロー温度に耐える必要があるが、Biを主成分とするBi系はんだ合金の場合には更に特有の2つの課題を解決する必要がある。第1の課題は半導体素子や基板に設けたNi層とBiとの過剰反応を抑制することであり、第2の課題はBi系はんだ材料の濡れ性を改善向上させることである。特にBi系の各種状態図を見れば分かるように、他の金属と固溶しない場合が多く、合金化しづらい。このため、Biは、濡れ性が非常に悪い元素であることから、第2の課題は解決すべき重要な課題である。
【0017】
上記第1及び第2の課題に対して、様々な元素をBiに添加して調べた結果、NiとBiの過剰反応の抑制に関してはAlとZnの添加が有効であることを見出し、またBi合金の濡れ性の改善に関してはGeを少量含有させることによりGeが優先的に酸化し良好な濡れ性が得られることが分かった。即ち、本発明のPbフリーはんだ合金は、Biを主成分とし、ZnまたはAlのうち、Alを必須として少なくとも1種を含有すると共に、Geを含有するものである。また、濡れ性及び接合性を一層向上させるために、Ag、CuおよびPの少なくとも1種以上を更に添加含有させることができる。
次に、本発明のPbフリーはんだ合金を構成する必須の元素、必要に応じて含有される任意の元素について具体的に説明する。
【0018】
<Bi>
Biは本発明のPbフリーはんだ合金の主成分である。BiはVa族元素に属し、その結晶構造は対称性の低い三方晶(菱面体晶)で脆い金属であるため、引張試験などを行うと破面は脆性破面であることが容易に見て取れる。さらにBiは他の金属とほとんど固溶せず、合金化しづらい。このため、基板類への濡れ性が悪い。
このBiをVa族元素の中から主成分として選定した理由は、Biは融点が271℃であって、高温はんだの使用条件である約260℃のリフロー温度を超えていること、及びBi以外のVa族元素は半金属ないし非金属に分類され、Biよりも更に脆いためである。
本発明のPbフリーはんだ合金では、Biの濡れ性の克服及びNiとBiの反応抑制などのため後述する各元素を含有させるが、各添加元素の種類や量は改善する特性及びその程度によって異なる。従って、添加元素の種類や添加量に応じて、必然的にBiの含有量は変化する。
【0019】
<Al>
Alは本発明のPbフリーはんだ合金の第二元素群の1つであり、必須元素である。Alは還元性が強いため、Bi系はんだに少量含有させると自らが酸化したり、Bi母相を還元したりしてはんだの濡れ性を向上させる。さらにAlは非常に柔らかい金属であり、加工性向上の効果も有する。しかし、Alはその強い還元性を有するが故に含有量が多くなるとはんだ表面に強固な酸化膜を形成し濡れ性を極端に低下させたり、さらにはAlのBiへの固溶量が非常に少ないため、偏析してしまったりして信頼性を低下させてしまう。Alの還元性や柔軟性を十分発揮させるためにはその含有量に十分配慮する必要がある。
すなわち、最適なAlの含有量は0.02質量%以上3.00質量%以下である。0.02質量%未満ではAlの効果が発揮されず、3.00質量%を超えてしまうと上記理由により良好な接合は困難となってしまう。特にAlの含有量が0.03質量%以上1.00質量%以下であれば、その還元性や柔軟性の効果をバランスよく発揮できてさらに好ましい。
【0020】
<Ge>
Geは本発明のPbフリーはんだ合金において必須の第三元素である。Geは本発明のはんだ組成において、濡れ性向上の効果を発揮するとともにBiの脆さを改善する役割も果たす。即ち、GeはBiやZn、Alとは殆ど合金を作らないが、はんだ溶融後に冷却されて固まる際に、まず溶融はんだ中のGeが析出し、これが核となってはんだの結晶微細化に寄与し、加工性を向上させる。一方ではんだにZnが含有している場合、GeはZnと共晶合金を作り、特にZn−Geの共晶組成(Zn−6質量%Ge)付近において結晶を微細化し、加工性を向上させる効果を持つ。
【0021】
Geの効果は加工性向上だけに留まらず、本発明のはんだ組成においてはむしろ濡れ性向上効果こそGeに最も期待する効果である。Geを含有させることにより濡れ性が格段に向上するわけであるが、この理由は次のとおりである。
すなわち、GeはBiよりも酸化し易いため自らが酸化することによってはんだ母材の酸化を防ぎ、加えてGeがBiよりも比重が小さいため(比重:Ge=5.4、Bi=9.8)、溶融時にはんだ表面に表出し易く、少量の含有量で還元効果を発揮できるからである。すなわちGeのように溶融はんだ表面に表出しやすく少量の含有量で効果が発揮できると、はんだ中の残留量が多くなり過ぎて他の金属と脆性な金属間化合物などを生成するなどの心配がないのである。
【0022】
このような濡れ性や加工性の向上効果を有するGeの含有量は僅かである方が好ましく、具体的には0.001質量%以上1.000質量%以下であり、好ましくは0.003質量%以上0.500質量%以下である。既に述べたようにGeの役割は、溶融はんだ表面に表出しやすい性質と還元効果による濡れ性の向上であったり、はんだの結晶微細化の核であったり、添加元素の1つであるZnとの共晶組成付近での微細化であったりする。このため、多量に添加する必要はないのであるが、Geの含有量が0.001質量%未満では、含有量が少なすぎてこれらの効果が得られない。また、含有量が1.000質量%より多くなると、Ge自身の核が大きくなって微結晶化しなかったり、Znとの共晶組成から大きくずれてしまったり、Geの酸化膜が厚くなり過ぎたりするため好ましくない。さらに好ましくは0.003質量%以上0.500質量%以下であり、この範囲内であればさらにGeの有する優れた効果を発揮しやすい。
【0023】
<Zn>
ZnはAlと共に本発明のPbフリーはんだ合金の第二元素群の1つであり、NiとBiの過剰反応を抑制するというAlと同様の重要な効果を有する元素であり、Alの効果を補足するため必要に応じて添加する。ただし、Znは蒸気圧が高く、Alなどに比較すると組成バラツキを起こし易かったり、製造時の作業環境を悪化させたりしてしまうため、Alの効果を補助する形で添加すればよく、このため、必須としない元素である。さらにZnはAlより酸化しづらいが、含有量によってははんだの濡れ性は下げてしまう。この理由はZnが酸素との反応性がAlよりも高いためではないかと推測している。いずれにしても濡れ性向上が課題の一つであるから、濡れ性を低下させる可能性を有するZnは添加しなくて済むのであれば添加しない。当然、ZnはBiよりもNiとの反応性に富むわけでありBi−Niの反応抑制効果を有するため、濡れ性や製造上の問題が起こらない範囲であれば、Znを添加した方がよい。
【0024】
ZnがBiとNiの過剰反応を抑制し、Bi中へのNiの拡散を抑制する効果についてさらに詳しく述べる。この効果は、Niとの反応においてZnはBiよりも反応性が高く、Ni層の表面に薄いZn−Ni層を作り、これがバリアとなってNiとBiの過剰反応を抑えることによるものである。その結果、脆いBi−Ni合金が生成されず、更にはNiがBi中に拡散することもないため、強固な接合性を実現することができるのである。
加えて、ZnにはBiの加工性を向上させる効果も期待できる。即ち、BiにZnを添加することによって、はんだ組成が微結晶化してBiの脆さを克服することができるうえ、Bi中にZnが固溶することで加工性が改善される。特にZnをBiとの共晶点よりも多く添加すれば、Znリッチな相が発現されることになって、より一層加工性が向上する。
【0025】
Znを含有させる場合の量は、半導体素子や基板に設けたNi層の厚さ、リフロー温度やリフロー時間等に左右されるものの、概ね0.2質量%以上13.5質量%以下である。その理由は、Znの含有量が0.2質量%未満では、NiとBiの反応やBi中へのNiの拡散の抑制が不十分であったり、NiとBiの反応やBi中へのNi拡散の抑制にZnが消費されて良好な加工性が得られなかったりするためである。
一方、Znの含有量が13.5質量%を超えると、液相線温度が400℃を超えてしまうため、良好な接合ができなくなる。更に、Bi−Znの共晶組成付近、即ちZnの含有量が0.4質量%以上5.0質量以下の範囲では、Niの拡散抑制効果、加工性の向上効果、融点などの諸特性のバランスがとれた状態となるため、より一層好ましい。
【0026】
<P>
Pは必要に応じて添加することによって、本発明のPbフリーはんだ合金の濡れ性及び接合性を更に向上させる効果を有している。Pの添加により濡れ性向上の効果が大きくなる理由は、Pは還元性が強く、自ら酸化してはんだ合金表面の酸化を抑制することによる。当然、Geを含有させることによってはんだの濡れ性が問題ないレベルにあれば、敢えてPを含有させる必要はない。Pは還元性が強く、自らが酸化した後に気化してはんだ中に残存しないという非常に優れた面を持つ一方、Bi系はんだ中に安定して含有させることに工夫を要する。すなわち、Pは発火しやすいため、例えば不活性ガス中ではんだ原料を溶解してもわずかに存在する酸素と反応し、はんだ中に安定して残りづらいのである。さらにPはBiなどの金属より比重が小さく、溶融金属中で表面に浮いてしまうことも発火のし易さに繋がっており、Pをはんだ中に使用しづらい要因となっている。したがって、このようなはんだ中に含有させ易かったり、組成バラツキ等が少ないGeの方が使用し易い。当然、Pの場合は含有量がばらついていてもある適量範囲に入っていれば、接合時に大部分は気化してしまうため、問題にならないことも多く、コスト面から考えればPの方が安価であり有利である。従って、状況に応じて、Pを含有させた方がメリットが大きい場合に含有させればよい。
【0027】
更に、Pを含有させるメリットとして、はんだの接合時にボイドの発生を低減させる効果を挙げることができる。即ち、前述したようにPは自らが酸化しやすいため、接合時にはんだの主成分であるBiよりも、更にはZnよりも優先的に酸化が進む。その結果、はんだ母相の表面酸化を防ぎ、気泡を包み込むようなことなく接合できるとともに濡れ性を確保することができるため、良好な接合が可能となり、ボイドの生成は起こり難くなるのである。
尚、Pは前述したように非常に還元性が強いため、微量の添加でも濡れ性向上の効果を発揮する。逆に、ある量以上になると添加しても濡れ性向上の効果は変わらず、過剰な添加ではPの酸化物がはんだ表面に生成されたり、Pが脆弱な相を作り脆化したりする恐れがある。従って、Pを添加する場合、その添加量は微量であることが好ましい。
具体的には、本発明のPbフリーはんだ合金におけるPの含有量は、0.500質量%以下とすることが好ましい。Pの含有量が0.500質量%を超えると、Pの酸化物がはんだ表面を覆い、逆に濡れ性を低下させる恐れがある。更に、PはBiへの固溶量が非常に少ないため、含有量が多いと脆いP酸化物が偏析するなどして信頼性を低下させる。特にワイヤに加工する場合には断線の原因になりやすいことを確認している。ただし、Pの含有量が0.001質量%より少なくなると、期待する還元効果が得られない場合がある。
【0028】
<Ag>
Agは本発明の第四元素群の一つであり、上記したPと同様に、必要に応じて添加することによって、はんだ合金の濡れ性及び接合性を更に向上させることができる。Agは半導体パッケージやCu基板の最上層に形成されることからも分かるように濡れ性向上の効果が大きく、本発明においてもAgの添加は濡れ性の向上を目的としている。即ち、Agは酸化し難く、はんだ表面の酸化を防ぐことによって濡れ性を向上させる。従って、濡れ性が不足する場合、Agの添加により濡れ性を向上させることができる。
一方、AgはBiとNiの過剰反応を促進してしまうため、添加量には十分配慮しなければならない。Agは濡れを向上させ、はんだと半導体パッケージ等の接合面を合金化しやすくするが、このためにBiとNiの過剰反応も進み易くなると考えられる。しかし、適切な量の含有であれば、BiとNiの過剰反応が抑制された状態で、同時に濡れ性を向上させることが可能となる。
【0029】
具体的には、本発明のPbフリーはんだ合金におけるAgの含有量は、3.00質量%以下とすることが好ましい。Agの含有量が3.00質量%を超えると、ZnやAlが多量に添加されていたとしても、BiとNiの反応が進み、脆いBi−Ni合金を生成したり、NiがBi中に拡散したりする恐れがある。ただし、Agの含有量が0.01質量%より少なくなると、期待する還元効果が得られない場合がある。
【0030】
<Cu>
CuはAgとともに本発明の第四元素群の一つであり、その効果はAgと同様であり、必要に応じて添加することによって、はんだ合金の濡れ性及び接合性を更に向上させることができる。CuはBiより酸化しづらい。さらにBiより比重が小さく(比重:Cu=8.9、Bi=9.8)、Bi中への固溶量も少ないため、はんだ溶融時には比較的はんだ表面付近に存在する。これらの要因によってはんだ表面の酸化を抑制し濡れ性を向上させるのである。Cuの含有量は0.01質量%以上1.8質量%以下が適当である。Cuの含有量が0.01質量%未満だと含有量が少なすぎてCuの効果が表れず、1.8質量%を超えてしまうと偏析等を起こしてしまい接合性を低下させてしまう。
【実施例】
【0031】
次に実施例と比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
先ず、原料として、それぞれ純度99.9質量%以上のBi、Zn、Al、Ge、Ag、Cu及びPを準備した。大きな薄片やバルク状の原料については、溶解後の合金においてサンプリング場所による組成のバラツキがなく、均一になるように留意しながら切断及び粉砕等を行い、3mm以下の大きさに細かくした。
【0032】
次に、これらの各原料金属から所定量を秤量して、高周波溶解炉用のグラファイトるつぼに入れた。るつぼを高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素を原料1kg当たり0.7リットル/分以上の流量で流し、この状態で溶解炉の電源を入れて原料を加熱溶融させた。原料が溶融しはじめたら混合棒でよく撹拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混合した。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかにるつぼを取り出し、るつぼ内の溶湯をはんだ合金用の鋳型に流し込んだ。鋳型としては、はんだ合金の製造の際に一般的に使用されている形状と同様のものを使用した。
【0033】
このようにして試料1〜22の各はんだ合金を作製した。得られた試料1〜22の各はんだ合金について、それぞれ組成をICP発光分光分析器(SHIMAZU製、S−8100)を用いて分析した。さらに示差走査熱量計(島津製作所製、型式:DSC−60)によって各試料の固相線温度を測定した。得られた分析結果を下記表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
次に、上記表1に示す試料1〜22の各はんだ合金に対して、下記に示すワイヤ加工性の評価、濡れ性評価(接合性評価)、EPMAライン分析(Ni拡散防止効果の評価)、及びヒートサイクル試験、及び最適リフロー温度の測定を行った。
尚、はんだの濡れ性や接合性等の評価については、通常はんだ形状に依存しないため、ワイヤ、ボール、ペーストなどいずれの形状で評価してもよいが、本実施例ではワイヤに成形して評価した。
【0036】
<ワイヤ加工性の評価>
上記表1に示す試料1〜22の各はんだ合金を、予め各はんだ組成に適した温度に加熱した押出機を使用し、油圧で圧力を上げて外径0.70mmのワイヤに加工した。押出機出口から押し出されるワイヤ状のはんだは、まだ熱く酸化が進行し易いため、押出機出口は密閉構造とし、その内部に不活性ガスを流すことにより、可能な限り酸素濃度を下げて酸化が進まないようにした。ワイヤの押出速度は市販のはんだワイヤが切れたり変形したりしないように予め調整しておいた通常の速度(17m/分)とし、同時に自動巻取機を用いて同じ速度で巻き取るようにした。
このようにしてワイヤ状に加工すると共に自動巻取機で70mを巻き取ったとき、1度も断線しなかった場合を「○」、1〜3回断線した場合を「△」、4回以上断線した場合を「×」としてワイヤ加工性を評価した。
【0037】
<濡れ性評価(接合性評価)>
濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機を起動し、ヒーター部分に2重のカバーをしてヒーター部の周囲4箇所から窒素を流した(窒素流量:各12リットル/分)。その後、ヒーター設定温度を340℃にして加熱した。340℃に設定したヒーター温度が安定した後、表面にNiめっき層(膜厚:0.4μm)を備えたCu基板(板厚:約0.70mm)をヒーター部にセットして25秒間加熱した。
次に、この加熱したCu基板の上に各はんだ合金を載せ、25秒間加熱した。加熱が完了した後、Cu基板をヒーター部から取り上げ、その横の窒素雰囲気が保たれている場所に一旦設置して冷却した。十分に冷却させた後、大気中に取り出して接合部分を目視により確認した。
目視確認により、はんだ合金がCu基板に接合できなかった場合を「×」、接合できたが濡れ広がりが悪かった場合(はんだが盛り上がった状態)を「△」、接合でき且つ濡れ広がった場合(はんだが薄く濡れ広がった状態)を「○」として濡れ性を評価した。
【0038】
<EPMAライン分析(Ni拡散防止効果の評価)>
Cu基板に設けたNiめっき層がBiと反応して薄くなったり、NiがBi中に拡散したりしていないか確認するため、EPMAによるライン分析を行った。尚、EPMAライン分析は、上記濡れ性評価と同様にして得た試料1〜22のうち、はんだ合金が接合されたCu基板を用いて行った。
即ち、上記濡れ性評価の場合と同様にして得た試料17、19を除く、試料1〜22のはんだ合金が接合された各Cu基板を樹脂に埋め込み、研磨機により粗い研磨紙から順に細かいものを用いて研磨し、最後にバフ研磨を行った。その後、EPMA(SHIMADZU製、EPMA−1600)を用いてライン分析を行い、Niの拡散状態等を調べた。
測定方法は、はんだ合金が接合されたCu基板の断面を見たときのCu基板とNi層の接合面を原点0とし、はんだ側をプラス方向とした。測定においては、任意に5箇所を測定して最も平均的なものを採用した。この測定結果とNiのはんだ中への拡散状態から、Ni層が反応して明らかに薄くなっているか、Niがはんだ中に拡散していたりする場合を「×」、Ni層の厚みが初期状態とほとんど変わらず、Niがはんだ中に拡散していない場合を「○」としてNi拡散防止効果を評価した。
【0039】
<ヒートサイクル試験>
はんだ接合の信頼性を評価するために、ヒートサイクル試験を行った。尚、このヒートサイクル試験は、上記濡れ性評価と同様にして得た試料17、19、21を除く、試料1〜21の各はんだ合金が接合されたCu基板を用いて行った。即ち、はんだ合金が接合された各Cu基板に対して、−50℃の冷却と+125℃の加熱を1サイクルとし、このサイクルを300回と500回繰り返した。
上記ヒートサイクル試験終了後、はんだ合金が接合された各Cu基板を樹脂に埋め込み、断面研磨を行い、SEM(HITACHI製、S−4800)により接合面の観察を行った。
接合面に剥がれが生じるか、はんだにクラックが入っていた場合を「×」、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」とした。
【0040】
【表2】

【0041】
上記の結果から分かるように、本発明による試料1〜15の各はんだ合金は、各評価項目において良好な特性を示している。即ち、ワイヤに加工しても、切れることなく自動巻取ができ、良好な加工性を有していた。また、試料1〜15の各はんだ合金は、全て濡れ性も非常に良好であり、Cu基板上に薄く濡れ広がった。更に、Niの拡散はなく、信頼性に関するヒートサイクル試験においても500回経過後も不良は現れず、良好な結果が得られた。
【0042】
一方、比較例である試料16〜22の各はんだ合金は、ワイヤへの加工性、濡れ性、EPMAライン分析(Ni拡散防止効果)及びヒートサイクル試験をいずれか2つ以上において好ましくない結果となった。特に試料18、19、22は濡れ性が非常に悪く、Cu基板に接合できなかったため、EPMAライン分析とヒートサイクル試験を行わなかった。またヒートサイクル試験を行った試料16、17、20、21の各はんだ合金においても、全て300回までに不良が発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.02質量%以上3.00質量%以下のAl及び0.001質量%以上1.000質量%以下のGeを含み、残部がBi及び不可避的不純物からなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
【請求項2】
Al含有量が0.03質量%以上1.00質量%以下で、Ge含有量が0.003質量%以上0.500質量%以下で、残部がBi及び不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項3】
0.03質量%以上1.00質量%以下のAl、0.003質量%以上0.500質量%以下のGeを含み、さらに0.01質量%以上3.00質量%以下のAgもしくは0.01質量%以上1.8質量%以下のCuのうち少なくとも1種を含み、残部がBi及び不可避的不純物からなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
【請求項4】
0.02質量%以上3.00質量%以下のAl、0.2質量%以上13.5質量%以下のZn、および0.001質量%以上1.000質量%以下のGeを含み、残部がBi及び不可避的不純物からなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
【請求項5】
0.03質量%以上1.00質量%以下のAl、0.4質量%以上5.0質量%以下のZn、0.003質量%以上0.500質量%以下のGeを含み、さらに0.01質量%以上3.00質量%以下のAgもしくは0.01質量%以上1.8質量%以下のCuのうち少なくとも1種を含み、残部がBi及び不可避的不純物からなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
【請求項6】
0.500質量%未満のPを含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金。

【公開番号】特開2013−22638(P2013−22638A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162512(P2011−162512)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】