説明

鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法

【課題】鉛の溶出濃度を十分に抑制し、安価な、鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法を提供すること。
【解決手段】SiO系の鉛含有ガラスを減粘剤及び還元剤とともに溶融し、鉛を主成分とする金属相とSiOを主成分とする残渣とを分離する還元溶融工程と、前記還元溶融工程で得られた前記残渣を、酸化剤とともに溶融して、残渣中に残存した鉛成分を不溶化する酸化溶融工程と、を有する鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブラウン管などに使用される鉛含有ガラスの、鉛溶出抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ブラウン管式テレビから液晶テレビ、プラズマテレビへの転換に伴い、ブラウン管ガラスカレットが大量に発生している。しかし、ブラウン管ガラスのファンネルガラス中には、20質量%前後の酸化鉛(PbO)が含有されているため、ブラウン管ガラス以外へのリサイクルは限定される。また、鉛含有ガラスを埋立処分した場合、鉛の溶出による環境への影響が問題となる。そのため、鉛を含有するガラスの、鉛溶出を抑制する技術開発が進められている。
【0003】
鉛溶出を抑制するためのアプローチ手段としては、主に次の二つが挙げられる。ひとつは、鉛含有ガラスから鉛を除去することであり、還元溶融法を利用する手法(例えば、特許文献1)、及び、その他の手法(例えば、塩化揮発法、アルコール浸出法、非加熱分解法)を利用するものなどが考案されている。もうひとつは、ガラス中の鉛を不溶化することであり、薬剤を利用するもの(例えば、特許文献2、特許文献3)、ガラス融液の空冷処理を利用するもの(例えば、特許文献4)が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開1995−96264号公報
【特許文献2】特開平8−187481号公報
【特許文献3】特開2001−293463号公報
【特許文献4】特開平9−208243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
還元溶融法を利用する手法は、大量の鉛含有ガラスを効率よく処理することができるが、得られるガラス中に鉛成分が比較的多く残留するので、土壌環境基準(環境省告示19号法及び、環境庁告示46号法)における鉛の溶出濃度を満足することが困難である。このため、還元溶融によって得られるガラス残渣は、土木資材としてリサイクルすることができていない。
【0006】
また、薬剤を利用する手法は、鉛含有ガラス中の鉛を不溶化することができるが、鉛を多く含む材料を原料として使用する場合、特許文献2では薬剤投入量が多くなるため、処理後の薬剤の処理にかかるコストが高くなる。また、特許文献3の方法で処理された鉛含有廃棄物は、環境の変化に弱く、条件によっては鉛が再溶出することがある。ガラス融液の空冷処理を利用する手法は、鉛含有ガラスからの鉛溶出を抑制することはできるものの、その効果は十分とは言えない。
【0007】
そこで本発明では、鉛の溶出濃度を十分に抑制し、安価な、鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
SiO系の鉛含有ガラスを減粘剤及び還元剤とともに溶融し、鉛を主成分とする金属相とSiOを主成分とする残渣とを分離する還元溶融工程と、
前記還元溶融工程で得られた前記残渣を、酸化剤とともに溶融して、残渣中に残存した鉛成分を不溶化する酸化溶融工程と、
を有する鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法、が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
【0010】
鉛の溶出濃度を十分に抑制し、安価な、鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、還元溶融処理で脱鉛する場合における、装置の一例を示す概略図である。
【図2】図2は、酸化溶融処理で鉛を不溶化する場合における、装置の一例を示す概略図である。
【図3】図3は、還元溶融処理に次いで、酸化溶融処理を同じ炉で連続して行う場合における、装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の概要を簡単に説明する。
【0013】
本発明では、まず、SiO系の鉛含有ガラスを、減粘剤及び還元剤とともに溶融し、鉛を主成分とする金属相と、SiOを主成分とする残渣と、を分離する還元溶融処理を行う(還元溶融工程)。その後、還元溶融工程で得られた、溶融ガラス(SiOを主成分とする残渣)を、酸化剤とともに溶融して、溶融ガラス中に残存した鉛成分を不溶化する酸化溶融処理を行う(酸化溶融工程)。
【0014】
SiO系の鉛含有ガラスに対して、還元溶融処理と酸化溶融処理をハイブリッドに組み合わせることで、鉛含有ガラスを効率よく安定化し、後述する鉛溶出試験においても、鉛の溶出を抑制することができる。
【0015】
次に、本発明の還元溶融工程及び酸化溶融工程について、より詳細に説明する。
【0016】
[還元溶融工程]
還元溶融工程は、SiO系の鉛含有ガラスに、還元剤及び減粘剤を混合して加熱溶融処理することにより、鉛含有ガラス中の酸化鉛を鉛に還元して沈殿させ、得られた鉛と溶融ガラスを分離する工程である。
【0017】
還元溶融工程により、鉛含有ガラス中の酸化鉛(及び、後述するその他不純物成分の一部)は、還元されて、鉛を主成分とする金属相となる。SiO系の鉛含有ガラスでは、鉛が最も還元されやすい成分であるため、還元溶融工程を経て得られる金属相も鉛が主成分となる。
【0018】
(鉛含有ガラス)
一般的に、ブラウン管のファンネルガラスは、高いX線吸収能が必要とされるため、SiOを主成分とするガラスに、20質量%前後のPbOが含有されている。他にも、Al、NaO、MgO、KO、CaO、SrO、BaOなどの成分を含んでいる。
【0019】
(還元剤)
酸化鉛を還元剤Rで還元して鉛を得る場合、一般的には(式1)に示す反応式に従って反応が進行する。
n PbO + m R → n Pb + R (式1)
還元剤の種類としては、酸化鉛を鉛に還元できるものであれば、特に制限はなく使用可能である。具体的には、炭素、亜鉛、ナトリウム、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、フェロシリコンなどの公知の還元剤及び、小麦粉、プラスチックなどの炭素化合物を使用することができる。
【0020】
熱力学的には、式1の反応の標準ギブスエナジーΔGが負である還元剤を選択することが好ましい。一方で、式1の反応の標準ギブスエナジーΔGの負の値が大きい場合、反応の発熱量が大きくなるため、反応の制御が困難になることがある。
【0021】
上述の還元剤の中では、ハンドリングの容易さとコストの面から、炭素又は炭素化合物を使用することが好ましい。
【0022】
還元溶融工程における還元剤の添加量は、鉛含有ガラス中の鉛の質量に対して6〜75質量%であることが好ましい。還元剤の添加量が鉛含有ガラス中の鉛の質量に対して6質量%より少ない場合、還元反応が十分に進行しないことがある。
【0023】
(減粘剤)
還元溶融工程では、還元剤とともに減粘剤を加えることが好ましい。減粘剤を添加することにより、溶融ガラスの粘性が下がり、流動性が大きくなる。そのため、還元された鉛を主成分とする金属相が沈殿して、溶融ガラス相から容易に分離できるため好ましい。
【0024】
減粘剤の種類としては、酸化ナトリウム(NaO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸カリウム(KCO)、酸化カルシウム(CaO)などの公知の化合物を使用することができる。なお、減粘剤としてNaOを使用する場合、NaO源として、ソーダ灰を使用しても良い。また、減粘剤としてCaOを使用する場合、CaO源として、鉄鋼スラグ、セメント、石灰石、ドロマイト、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムなどを使用しても良い。
【0025】
NaOは、還元溶融時の粘性を大幅に低下させると共に、還元反応及び金属鉛の凝集を促進するため好ましいが、NaOの添加量が多い場合、溶融ガラスのネットワーク構造が脆弱化し、鉛の溶出が起こりやすくなる恐れがある。そのため、残渣のSiOとNaOの重量比SiO/(SiO+NaO)が、0.7以上1.0未満となるよう調整することが好ましい。より好ましくは0.75以上0.95以下であり、さらに好ましくは0.8以上0.95以下である。
【0026】
一方、CaOも、溶融還元時において、溶融ガラスの粘性を低下させることができ、工業的にも非常に安価な原料であるため、NaOの代わりに使用できる。しかしながら、CaOの添加量が多すぎると残渣全体の総量が多くなる。そのため、CaOを減粘剤として用いる場合は、残渣のSiOとCaOの重量比SiO/(SiO+CaO)が、0.4以上0.8以下となるよう調整することが好ましい。より好ましくは0.45以上0.75以下であり、さらに好ましくは0.5以上0.7以下であり、特に好ましくは0.5以上0.65以下である。
【0027】
減粘剤の添加量は、鉛含有ガラス中のSiOの質量に対して、20〜100質量%であることが、鉛の分離が容易となるため好ましい。
【0028】
(残渣中成分濃度の調整方法)
還元溶融工程後の残渣における、減粘剤の構成成分の成分濃度(組成)を調整する方法について説明する。まず、還元溶融処理前の鉛含有ガラスの成分濃度を、蛍光X線分析や湿式分析などにより測定する。得られた測定結果に基づき、減粘剤等の構成成分が、所定の成分濃度範囲に収まるよう、添加量を計算により求める。
【0029】
但し、還元溶融工程と、後述する酸化溶融工程とを、連続して行う場合、還元溶融工程後に得られる残渣を、定期的にサンプリングして、組成をフィードバックする必要がある。そのため、還元溶融処理(続いて酸化溶融処理)を行う装置に、サンプリング用の孔を設けることが好ましい。
【0030】
(還元溶融工程の温度)
還元溶融工程の温度(以後、還元溶融工程温度と呼ぶことがある)としては、特に制限はないが、鉛含有ガラスの軟化点以上であることが好ましい。一般的に、ブラウン管のファンネルガラスの軟化点は、600〜700℃である。溶融ガラスの粘性を下げ、かつ、還元反応を促進するために、鉛含有ガラスの軟化点より300℃以上高温であることがより好ましい。一方で、還元溶融工程の温度が高過ぎる場合、装置の寿命が短くなることや、エネルギー消費量が増大することから、1600℃以下であることが好ましい。1200℃から1400℃の範囲内であると、反応速度と経済性を両立できる点で好ましく、本実施の形態では、上記の温度域で行った。
【0031】
[酸化溶融工程]
前記還元溶融工程では、効率よく鉛含有ガラスから鉛成分を除去することができるが、得られる溶融ガラス中に鉛成分が1質量%程度残存する。
【0032】
そのため、酸化溶融工程では、前記還元溶融工程で得られた溶融ガラス中に残存した鉛成分を、酸化溶融処理してガラスのネットワーク中に組み込むことにより鉛を安定化させ、酸や水に溶出する鉛量を低減する。
【0033】
(酸化剤)
金属鉛を酸化剤Oxで酸化する場合、一般的には(式2)に示す反応式に従って反応が進行する(式2中、Redは酸化剤Oxが還元されたもの)。
Pb + Ox → Pb2+ + Red (式2)
(式2)の反応により酸化された鉛は、ガラス融液中に溶解する。その結果、ガラスのネットワーク中に鉛が組み込まれ、鉛の不溶化が進行する。
【0034】
酸化剤としては、熱力学的には、(式2)の反応の標準ギブスエナジーが負となるような酸化剤であることが好ましいが、溶融ガラス中の鉛成分を酸化できるものであれば、特に制限はない。例えば、空気などの酸素ポテンシャルが高い酸化性ガスを使用することができる。この時、例えば、単に空気雰囲気で酸化溶融処理しても良く、空気を吹き込みながら酸化溶融処理しても良い。他にも、硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)、硝酸リチウム(LiNO)、硝酸ルビジウム(RbNO)、硝酸セシウム(CsNO)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)等の硝酸化合物を使用しても良い。これらは、1種類を単独で使用しても良く、2種類以上を併用して使用しても良い。
【0035】
上述した酸化剤の中では、アルカリ金属の硝酸化合物であるNaNO、KNO又はLiNOを使用することが好ましく、硝酸化合物の取り扱いの容易さやコストの観点からNaNOを使用することがより好ましい。
【0036】
酸化剤として硝酸化合物を用いる場合、例えば、NaNOは380℃以上で分解して酸素が発生する。この酸素を利用することで、溶融ガラス中の鉛成分を酸化するために必要な酸素ポテンシャルを確保することができる。
【0037】
酸化剤として硝酸化合物を用いる場合、酸化剤の添加量は、還元溶融工程後の溶融ガラス中の鉛の質量に対して40〜800質量%であることが好ましい。酸化剤の添加量が、還元溶融工程後の溶融ガラス中の鉛の質量に対して40質量%より少ない場合、酸化反応が十分に進行しないことがある。また、酸化剤の添加量が還元溶融工程後の溶融ガラス中の鉛の質量に対して800質量%より多い場合、ガラス残渣の発生量も多くなるため、好ましくない。
【0038】
(ガラスネットワーク形成剤)
前述の還元溶融工程において、CaOやNaO等の減粘剤の投入量が多い場合、得られる溶融ガラスが脆弱化し、酸化溶融工程において鉛が不溶化しにくくなることがある。そのため、酸化溶融工程では、下記で説明するガラスネットワーク形成剤を加えることが好ましい。ガラスネットワーク形成剤とは、代表的な網目形成酸化物であるSiOの組成(モル%)が、還元溶融工程時に分離した溶融ガラス中に含まれるSiOの組成(モル%)より大きく、かつ代表的な網目修飾酸化物であるNaOの組成(モル%)が、前記溶融ガラス中に含まれるNaOの組成(モル%)より小さい、複合酸化物である。
【0039】
ガラスネットワーク形成剤を加えることにより、ガラス構造が強化され、ガラスの溶出性が低下する。これに伴い、鉛の不溶化も促進できるため、好ましい。
【0040】
ガラスネットワーク形成剤としては、例えば、ガラスカレット、鉄鋼スラグ、砂、石粉、砕石粉又は石炭灰を使用することができる。
【0041】
ガラスネットワーク形成剤を加える場合、その添加量としては、還元溶融工程後の溶融ガラス中における、NaOの質量に対して0〜800質量%であることが好ましい。一方、添加量が800質量%より多い場合、ガラス残渣の発生量も多くなるため、好ましくない。なお、減粘剤としてCaOを使用する場合も、ガラスネットワーク形成剤の添加量は、上述のNaOの質量に準じて決定することが好ましい。しかしながら、CaOは、NaOに比べてガラスネットワークの脆弱化が起こりづらく、必ずしも添加する必要はない。
【0042】
酸化溶融工程後の溶融ガラスにおいて、SiOはネットワーク構造を有する。ガラスネットワーク形成及び耐水性の観点においては、酸化溶融工程後の溶融ガラス中におけるSiOの含有量は、多い方が好ましい。しかしながら、酸化溶融工程前の溶融ガラス中にSiOが多量に存在する場合、酸化溶融時の溶融ガラスの粘性が高くなる。そのため、酸化溶融工程前の溶融ガラスにおける、SiOの濃度は、35〜65質量%であることが好ましい。より好ましくは40〜60質量%であり、さらに好ましくは45〜60質量%である。
【0043】
(耐水性向上剤)
酸化溶融工程では、酸化剤とガラスネットワーク形成剤とともに、下記に挙げる耐水性向上剤を加えることが好ましい。耐水性向上剤を加えることにより、酸化溶融処理中における溶融ガラスの粘性を高めることなく、酸化溶融処理後の溶融ガラスの耐水性を向上することができる。
【0044】
耐水性向上剤としては、Al、MgO、TiO又はZrO等を使用することができ、これらは1種類を単独で使用しても良く、2種類以上を併用して使用しても良い。Al源として長石、高炉スラグ、セメント又はアルミナを、MgO源としてドロマイト、水酸化マグネシウム、高炉スラグを、TiO源としてルチル鉱石又は酸化チタンを、ZrOとしてジルコンフラワー、酸化ジルコニウムを使用することが、工業的に比較的安価であり、かつ、取り扱いやすいという理由から好ましい。また、耐水性向上剤は、上述の成分を主成分として含む化合物であれば、他の成分を含んでも良い。
【0045】
Alを添加する場合、耐水性向上剤の組成及び添加量は、酸化溶融処理後の溶融ガラス中の濃度が20質量%以下となるよう調整することが好ましい。また、2〜15質量%であることがより好ましく、3〜10質量%以下であることがさらに好ましい。残渣中の濃度が20質量%を越える量のAlを添加する場合、酸化溶融時の粘性が高くなることがある。
【0046】
MgOを添加する場合、耐水性向上剤の組成及び添加量は、酸化溶融処理後の溶融ガラス中の濃度が20質量%以下となるよう調整することが好ましい。また、2〜18質量%であることがより好ましく、3〜15質量%以下であることがさらに好ましい。残渣中の濃度が20質量%を越える量のMgOを添加する場合、液相線温度が高くなり、酸化反応が阻害されることがある。
【0047】
TiOを添加する場合、耐水性向上剤の組成及び添加量は、酸化溶融処理後の溶融ガラス中の濃度が15質量%以下となるよう調整することが好ましい。また、0〜13質量%であることがより好ましく、0〜10質量%以下であることがさらに好ましい。残渣中の濃度が15質量%を越える量のTiOを添加する場合、液相線温度が高くなり、酸化反応が阻害されることがある。また、TiOは工業的に高価であり、コストが高くなるため、好ましくない。
【0048】
ZrOを添加する場合、耐水性向上剤の組成及び添加量は、酸化溶融処理後の溶融ガラス中の濃度が15質量%以下となるよう調整することが好ましい。また、0〜12質量%であることがより好ましく、0〜10質量%以下であることがさらに好ましく、0〜8質量%であることが特に好ましい。残渣中の濃度が15質量%を越える量のZrOを添加する場合、液相線温度が高くなり、酸化反応が阻害されることがある。また、ZrOは工業的に高価であり、コストが高くなるため、好ましくない。
【0049】
(酸化溶融工程の温度)
酸化溶融工程の温度(以後、酸化溶融工程温度と呼ぶことがある)は、溶融ガラス中の鉛成分を十分に酸化し、かつ、酸化された鉛が溶融ガラス中に溶解すれば、特に制限はない。例えば、酸化剤として硝酸ナトリウムを使用する場合、硝酸ナトリウムが分解して酸素が発生する温度が380℃である。また、一般的に、ブラウン管のファンネルガラスの軟化点は、600〜700℃である。溶融ガラスの粘性を下げ、かつ、還元反応を促進するために、鉛含有ガラスの軟化点より300℃以上高温であることがより好ましい。また、還元溶融工程と同様に、装置の寿命及びエネルギー消費量の面から、1600℃以下であることが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0051】
実施例においては、鉛含有ガラスを、還元溶融処理、次いで、酸化溶融処理し、得られたガラスについて、鉛溶出試験による評価を行った。比較例においては、実施例と同じ組成の鉛含有ガラスに対して、還元溶融処理のみを施し、得られたガラスについて、鉛溶出試験による評価を行った。なお、実施例及び比較例における還元溶融処理は、使用した還元剤及び減粘剤の使用量、還元溶融温度を変更した以外は、全て同じ手順で行った。表1に、各実施例及び比較例の実施条件を示す。
【0052】
【表1】

[実施例及び比較例]
(還元溶融工程)
表2に還元溶融工程で使用した鉛含有ガラスの組成の一例を示す。表2の組成は、蛍光X線分析装置(Rigaku, ZSX PrimusII)を用いて測定した平均値を示している。還元溶融工程で使用した鉛含有ガラスの軟化点は660℃である。
【0053】
【表2】

図1に、還元溶融処理で脱鉛する場合における、装置の一例を示す概略図を示す。粒径1mm以下に粉砕したブラウン管のファンネルガラスの粉末と、粉末状の活性炭と、炭酸ナトリウムとを乳鉢中で混合した。得られた混合試料1をアルミナるつぼ2(Al;95質量%、30ml)に入れ、予め電気炉3A内に設置したセラミック製の台4Aに乗せた。
【0054】
電気炉内を室温から毎分5℃で昇温し、還元溶融温度となるまで昇温した。電気炉内の温度を1時間保持した後、約7時間かけて炉内を室内まで降温した。
【0055】
表3に還元溶融工程後の残渣(溶融ガラス)の組成の一例を示す。表3には、実施例1における、還元溶融工程、次いで、後述する酸化溶融工程を施した後の残渣(溶融ガラス)の組成も同時に示している。なお、表3の組成も表2と同様、蛍光X線分析装置(Rigaku, ZSX PrimusII)を用いて測定した平均値を示している。
【0056】
【表3】

(酸化溶融工程)
上記還元溶融によって得られた生成物をガラス塊と金属鉛塊とに分離した。得られたガラス塊9gを粉末状にし、酸化剤としてNaNOを0.9g(還元溶融工程後のガラス塊の鉛量に対して、およそ770質量%に相当)、ガラスネットワーク形成剤としてSiO2を8g、耐水性向上剤としてAlを0.8g、MgOを1g加え、乳鉢中で混合した。得られた混合試料10をアルミナるつぼ11(Al;95質量%、30ml)に入れ、電気炉3B内の台4Bに乗せた。
【0057】
図2に、酸化溶融処理で鉛を不溶化する場合における、装置の一例の概略図を示す。酸化剤として空気を利用する場合は、図1と同様の実験装置を使用しても良い。本実施例においては、酸化剤として硝酸化合物を使用した。硝酸化合物は、一定温度以上で分解し、二酸化窒素ガスが発生する。そのため、二酸化窒素ガスを不活性化するため、図2のような実験装置を使用した。
【0058】
図2に示すように、前記アルミナるつぼ11に、例えば、直径8mmの穴が二箇所空いたアルミナ製のフタ12を取り付け、図示しないセラミック製の接着剤で固定した。フタの穴部分には、ガスの給気管13及び、排気管14を接続し、セラミック製の接着剤で固定した。ガスの給気管13をエアポンプ15と接続し、排気管14を二酸化窒素ガスの不活性化装置16に接続した。エアポンプ15は、酸化剤として空気と硝酸化合物を併用する場合に、使用することができる。
【0059】
次に、毎分6℃の割合で酸化溶融温度まで電気炉内を昇温した。電気炉内の温度を1時間保持した後、約7時間かけて炉内を室内まで降温した。
【0060】
本実施例においては、還元溶融工程と酸化溶融工程とを独立して行ったが、還元溶融工程後に、同じ炉内で酸化溶融工程を適用することもできる。図3に、還元溶融処理に次いで、酸化溶融処理を同じ炉で連続して行う場合における、装置の一例の概略図を示す。還元溶融工程および、酸化溶融工程の各々の工程に関しては、前述の方法と同様であるので、ここでは説明は省略する。
【0061】
図3において、装置20は、鉛含有ガラス、還元剤、減粘剤、酸化剤、ガラスネットワーク形成剤、耐水性向上剤の投入口21〜25を備えている。また、酸化溶融工程において硝酸化合物を利用した場合に発生する、二酸化窒素ガスの排出口26を備えている。さらに、装置の底部には還元溶融工程で生成し、沈殿した鉛を回収するための回収口27を備えている。
【0062】
図3に示すような装置を使用することで、還元溶融処理で得られる溶融ガラスと鉛とを容易に分離することができるため、還元溶融処理後の溶融ガラスに対して、連続して酸化溶融処理を施すことが可能となる。
【0063】
[評価法]
本発明の方法で得られるガラス質の材料を土木材料などの資源として再利用する場合、法律で定められた有害性判定試験をクリアする必要がある。
【0064】
鉛を含有する物質が経口摂取により体内に取り込まれた場合、胃酸で鉛が溶解し、血中に取り込まれることで健康被害を及ぼす。そのため、胃酸を想定した1N塩酸により固体試料中の鉛を抽出する試験法である環境省告示19号法に基づく鉛の溶出試験を行った。本試験における評価指標は、単位ガラス重量あたりに含まれる、1規定塩酸に溶解する鉛の量である。
【0065】
表1には、実施例及び比較例後に得られたガラスの溶出試験の結果も示している。また、参考例1として、未処理の鉛含有ガラスの溶出試験の結果もあわせて示している。本発明の溶出抑制方法により得られたガラス(実施例1)は、68mg/kgであり、法定基準150mg/kg以下を満たしていた。
【0066】
また、鉛を含有する物質を路盤材として使用した場合、雨水と接触することになる。路盤剤に含有した鉛成分が雨水によって溶出して地下水に侵入し、飲料水として人体に取り込まれる可能性がある。そのため、雨水を想定した水により、固体中の鉛を溶出させる試験法である、環境省告示46号法に基づく鉛の溶出試験を行った。本発明(実施例)で得られたガラスは、溶出液の鉛濃度が0.005mg/l以下であり、土壌汚染防止法に定められる土壌環境基準値(0.01mg/l以下)を満たしていた。
【0067】
本発明の処理を行った後に得られたガラス質の材料は、環境省告示19号法及び環境省告示46号法を満たしていた。即ち、鉛含有ガラスに対して、本発明の鉛溶出抑制方法を施すことにより、土木材料などの用途に再利用することが可能であるガラス質の材料を得ることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 混合試料
2 アルミナるつぼ
3 電気炉
4 台
10 混合試料
11 アルミナるつぼ
12 アルミナ製のフタ
13 給気管
14 排気管
15 エアポンプ
16 二酸化窒素ガスの不活性化装置
20 装置
21 鉛含有ガラスの投入口
22 還元剤の投入口
23 減粘剤の投入口
24 酸化剤の投入口
25 ガラスネットワーク形成剤の投入口
26 二酸化窒素ガスの排出口
27 鉛を回収するための回収口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO系の鉛含有ガラスを減粘剤及び還元剤とともに溶融し、鉛を主成分とする金属相とSiOを主成分とする残渣とを分離する還元溶融工程と、
前記還元溶融工程で得られた前記残渣を、酸化剤とともに溶融して、残渣中に残存した鉛成分を不溶化する酸化溶融工程と、
を有する鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法。
【請求項2】
前記酸化剤は、空気又は硝酸化合物である、請求項1に記載の鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法。
【請求項3】
前記硝酸化合物は、NaNOである、請求項2に記載の鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法。
【請求項4】
前記酸化溶融工程において、
前記還元溶融工程後に得られる前記残渣のSiOの組成よりSiOの組成が大きく、
前記還元溶融工程後に得られる前記残渣のNaOの組成よりNaOの組成が小さい、
ガラスネットワーク形成剤を添加する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法。
【請求項5】
前記酸化溶融工程における前記ガラスネットワーク形成剤の添加量は、前記還元溶融工程後の前記残渣中のNaO量に対して0〜800質量%である、請求項4に記載の鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法。
【請求項6】
前記酸化溶融工程において、Al、MgO、TiO及びZrOの少なくとも1つを含む、耐水性向上剤を添加する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法。
【請求項7】
前記酸化溶融工程後に得られる溶融ガラスは、Alの組成が0〜20質量%、
MgOの組成が0〜20質量%、TiOの組成が0〜15質量%、ZrOの組成が0〜15質量%、となるように、前記耐水性向上剤の組成及び添加量を調整する、請求項6に記載の鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法。
【請求項8】
前記酸化溶融工程における前記酸化剤の添加量は、前記還元溶融工程後の前記残渣中の鉛量に対して40〜800質量%である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法。
【請求項9】
前記減粘剤は、酸化カルシウム(CaO)、酸化ナトリウム(NaO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸リチウム(LiCO)及び炭酸カリウム(KCO)の少なくとも1つを含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法。
【請求項10】
前記減粘剤にNaOを含む場合、前記減粘剤の添加量を、前記残渣におけるSiOとNaOの重量比SiO/(SiO+NaO)が0.7以上1.0未満になるよう調整する、請求項9に記載の鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法。
【請求項11】
前記減粘剤にCaOを含む場合、前記減粘剤の添加量を、前記残渣におけるSiOとCaOの重量比SiO/(SiO+CaO)が0.4以上0.8以下になるよう調整する、請求項9又は10に記載の鉛含有ガラスの鉛溶出抑制方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−245494(P2012−245494A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121212(P2011−121212)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(310010575)地方独立行政法人北海道立総合研究機構 (51)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】