鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法及び処理方法
【課題】水道用器具における通水路の内周面から水への溶出量の低減を鉛及びニッケルの両者について実現可能な方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、めっき工程S10と、第1処理工程S11と、第2処理工程S12と、第3処理工程S13と、第4処理工程S14とを備えている。第1処理工程S11では、硝酸と塩酸との混酸水溶液を第1処理液として用意し、めっき工程S10後の第1ワークW1を第1処理液に浸漬して第2ワークW2を得る。第2処理工程S12では、BTA水溶液を第2処理液として用意し、第2処理液に第2ワークW2を浸漬して第3ワークW3を得る。第3処理工程S13では、水酸化ナトリウム水溶液を第3処理液として用意し、第3処理液に第3ワークW3を浸漬して第4ワークW4を得る。第4処理工程S14では、リン酸水溶液を第4処理液として用意し、第4処理液に第4ワークW4を浸漬する。
【解決手段】本発明の製造方法は、めっき工程S10と、第1処理工程S11と、第2処理工程S12と、第3処理工程S13と、第4処理工程S14とを備えている。第1処理工程S11では、硝酸と塩酸との混酸水溶液を第1処理液として用意し、めっき工程S10後の第1ワークW1を第1処理液に浸漬して第2ワークW2を得る。第2処理工程S12では、BTA水溶液を第2処理液として用意し、第2処理液に第2ワークW2を浸漬して第3ワークW3を得る。第3処理工程S13では、水酸化ナトリウム水溶液を第3処理液として用意し、第3処理液に第3ワークW3を浸漬して第4ワークW4を得る。第4処理工程S14では、リン酸水溶液を第4処理液として用意し、第4処理液に第4ワークW4を浸漬する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水栓金具や水道管等の水道用器具には耐腐食性、切削性等の観点から鉛含有銅合金である青銅や黄銅等が用いられている。このような鉛含有銅合金製の水道用器具は通常以下のように製造されていた。すなわち、まず、鋳造品、鍛造品、棒材又は管材からなる粗形品を用意する。この粗形品は、鉛含有銅合金からなり、水を通す通水路を有するものである。この粗形品に対し、切削加工を行った後、研磨加工を行う。そして、得られた基材に対し、外周面にニッケルめっき及びクロムめっきからなるめっき層を施すめっき工程を行う。
【0003】
一般的なめっき工程は、前処理工程の後、ニッケルめっき浴を用いたニッケルめっき工程を行う。これにより、基材の外周面にニッケルめっき層を施す。ニッケルめっき層は表面の平滑化及び優れた耐食性を実現する。この後、クロムめっき浴を用いたクロムめっき工程により、基材の外周面にクロムめっき層を施す。なお、各めっき工程間でめっき浴を水洗する水洗工程が存在する。そして、得られたワークを組み立て、水道用器具を得る。こうして得られた水道用器具は通水路内に水が通されて活用されることとなる。また、この水道用器具は、クロムめっき層の鏡面光沢により優れた装飾性を発揮する。
【0004】
しかし、近年、水に含有されている鉛による健康阻害が危惧されつつあり、鉛含有銅合金からなる水道用器具の通水路の内周面から水への鉛の溶出量を一層低減させたいという要望がある。このため、特許文献1には、めっき工程の後、ワークを脱鉛液に浸漬してワークの通水路の内周面の脱鉛処理を行う第1脱鉛工程と、脱鉛工程後のワークを不動態液に浸漬して通水路の内周面に不動態皮膜を形成する皮膜形成工程とを行う方法が提案されている。脱鉛液としては、活性アルカリ液が用いられている。不動態液としては、リン酸水溶液が用いられている。この方法によれば、通水路の内周面からの水への鉛の溶出量をより確実に低減できる。
【0005】
また、ニッケルめっき層に基づくニッケルについても、アレルギー等の問題や昨今の環境問題に関する規制強化の流れを考慮すると、溶出を防止することが望ましい。WHO飲料水水質ガイドラインによれば、ニッケルのガイドライン値は0.07mg/Lと定められており、今後、ニッケルが浸出基準対象となる可能性は高い。また、日本においては、ニッケルは水質管理目標設定項目の一つであり、ニッケルの水質管理目標値(0.01mg/L)を踏まえると、末端の給水栓のニッケル溶出量は0.001mg/L以下(補正値)に抑えることが望ましい。このため、特許文献2には、めっき工程後のワークにニッケル除去工程を行い、さらにワークの通水路に保護膜を形成する保護膜形成工程を行う方法が提案されている。ニッケル除去工程では、硝酸及び塩酸が混合された混酸が用いられている。保護膜形成工程では、ベンゾトリアゾール(BTA)水溶液が用いられている。この方法によれば、通水路の内周面から水へのニッケルの溶出量を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3866198号公報
【特許文献2】特開2008−255483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発明者らの試験結果によれば、上記従来の方法を単に組み合わせる場合、ニッケルの溶出は防止できても、鉛の溶出が増える場合がある。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、水道用器具における通水路の内周面から水への溶出量の低減を鉛及びニッケルの両者について実現可能な方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題解決のために鋭意研究を行い、めっき工程後に脱鉛工程を行う場合、脱鉛工程後にニッケルの溶出防止処理を行うよりも、脱鉛工程前にニッケルの溶出防止処理を行った方がより鉛及びニッケルの溶出量を少なくできることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法は、鉛含有銅合金からなり、水を通す通水路をもつ基材と、該基材の外周面に形成されたニッケルめっき及びクロムめっきからなるめっき層とを有する鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法であって、
前記基材に前記めっき層を施した第1ワークを得るめっき工程と、
銅及び鉛を溶解可能であるとともにニッケルを活性可能な第1処理液を用意し、該第1処理液に該第1ワークを浸漬して第2ワークを得る第1処理工程と、
銅に対しては保護膜を形成し、鉛に対しては保護膜を形成しない第2処理液を用意し、該第2処理液に該第2ワークを浸漬して第3ワークを得る第2処理工程と、
鉛を選択的に除去可能な第3処理液を用意し、該第3処理液に該第3ワークを浸漬して第4ワークを得る第3処理工程と、
不動態皮膜を形成可能な第4処理液を用意し、該第4処理液に該第4ワークを浸漬する第4処理工程とを備えていることを特徴とする(請求項1)。
【0011】
また、本発明の鉛含有銅合金製水道用器具の処理方法は、水道用器具からニッケル及び鉛の溶出を防止する水道用器具の処理方法であって、
前記水道用器具は、鉛含有銅合金からなり、水を通す通水路をもつ基材と、該基材の外周面に形成されたニッケルめっき及びクロムめっきからなるめっき層とを有し、
前記基材に前記めっき層を施した第1ワークと、銅及び鉛を溶解可能であるとともにニッケルを活性可能な第1処理液とを用意し、該第1処理液に該第1ワークを浸漬して第2ワークを得る第1処理工程と、
銅に対しては保護膜を形成し、鉛に対しては保護膜を形成しない第2処理液を用意し、該第2処理液に該第2ワークを浸漬して第3ワークを得る第2処理工程と、
鉛を選択的に除去可能な第3処理液を用意し、該第3処理液に該第3ワークを浸漬して第4ワークを得る第3処理工程と、
不動態皮膜を形成可能な第4処理液を用意し、該第4処理液に該第4ワークを浸漬する第4処理工程とを備えていることを特徴とする(請求項3)。
【0012】
発明者らの試験結果によれば、めっき工程後の第1ワークに対し、第1処理工程及び第2処理工程を行った後で第3処理工程及び第4処理工程を行うことにより、第3処理工程及び第4処理工程を行った後で第1処理工程及び第2処理工程を行うよりも、より鉛及びニッケルの溶出量を少なくできる。
【0013】
したがって、本発明の製造方法及び処理方法によれば、水道用器具における通水路の内周面から水への溶出量の低減を鉛及びニッケルの両者について実現することが可能である。つまり、本発明の製造方法によれば、鉛及びニッケルの溶出量を低減した水道用器具を製造することが可能である。また、本発明の処理方法によれば、水道用器具からニッケル及び鉛の溶出を防止することが可能である。
【0014】
第1処理工程では、銅及び鉛を溶解可能であるとともにニッケルを活性可能な第1処理液を用意し、第1処理液に第1ワークを浸漬して第2ワークを得る。第1処理工程は上記特許文献2のニッケル除去工程に相当し得る。第1処理液としては、特許文献2に記載のように、硝酸とハロゲン酸(フッ化水素酸、塩酸及び/又は臭化水素酸)との混酸、この混酸を水道水或いは純水に混入したもの、硝酸等の酸を水道水或いは純水に混入したもの等を採用することが可能である。硝酸と塩酸との混酸水溶液を採用する場合には、硝酸0.5〜7.0質量%及び塩酸0.05〜0.7質量%の混酸水溶液を第1処理液とし、第1処理液に第1ワークを5〜30分間浸漬することが可能である。
【0015】
第2処理工程では、銅に対しては保護膜を形成し、鉛に対しては保護膜を形成しない第2処理液を用意し、第2処理液に第2ワークを浸漬して第3ワークを得る。第2処理工程は上記特許文献2の保護膜形成工程に相当し得る。第2処理液は、特許文献2に記載のように、保護膜形成成分とこの保護膜形成成分を水に溶解させる溶剤成分とを含み得る。保護膜形成成分はアミン物質及び有機酸の少なくとも一方を含み得る。保護膜形成剤は、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体及び直鎖脂肪酸等の有機酸の少なくとも1種を含み得る。
【0016】
第3処理工程では、鉛を選択的に除去可能な第3処理液を用意し、第3処理液に第3ワークを浸漬して第4ワークを得る。第3処理工程は上記特許文献1の脱鉛工程に相当し得る。第3処理液としては、特許文献1に記載のように、酸性液やアルカリ液を用いることができるが、銅は酸に反応するのに対し、両性金属である鉛は酸にもアルカリにも反応するので、アルカリ液を用いることが好ましい。特に、活性アルカリ液を第3処理液として採用することが好ましい。その活性アルカリ液はpHが12〜14の範囲を示すようなアルカリ液をいう。pHがこの範囲の活性アルカリ液によれば、その活性アルカリ液は内周面の鉛と化学反応を起こしやすいので、その鉛を溶解して除去しやすい。このような活性アルカリ液は、主に炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、オルケイ酸ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液である。
【0017】
第4処理工程では、不動態皮膜を形成可能な第4処理液を用意し、第4処理液に第4ワークを浸漬する。第4処理工程は上記特許文献1の皮膜形成工程に相当し得る。第4処理液としては、特許文献1に記載のように、リン酸又はリン酸塩を含む水溶液を採用することができる。第4処理工程で形成した不動態皮膜が鉛の浸出を防止する。本発明に係るリン酸とは、五酸化リン(P2O5)が種々の程度に水化して生じる一連の酸(P2O5・nH2O)である。例えば、オルトリン酸(H3PO4(0.5P2O5・1.5H2O))、メタリン酸(HPO3(0.5P2O5・0.5H2O))等である。また、本発明に係るリン酸塩としては、リン酸亜鉛系、リン酸マンガン系、リン酸鉄系、リン酸亜鉛・カルシウム系等を採用することができる。リン酸亜鉛系としては、第1リン酸亜鉛(Zn(H2PO4)2)を主成分とするもの等がある。その他、リン酸ナトリウム(NaH2PO4、Na2HPO4等)、リン酸アルミニウム(Al(H2PO4)3等)、リン酸アンモニウム(NH4H2PO4等)等がある。
【0018】
第1処理液は塩酸及び硝酸を含む水溶液であり、第2処理液はベンゾトリアゾールを含む水溶液であり、第3処理液は水酸化ナトリウムを含む水溶液であり、第4処理液はリン酸を含む水溶液であることが好ましい(請求項2、4)。発明者らはこの組み合わせにおいて本発明の効果を確認している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例の製造方法又は処理方法を示す工程図である。
【図2】比較例の製造方法又は処理方法を示す工程図である。
【図3】実施例に係り、めっき工程後の第1ワークの模式拡大断面図である。
【図4】実施例に係り、第1処理工程後の第2ワークの模式拡大断面図である。
【図5】実施例に係り、第2処理工程後の第3ワークの模式拡大断面図である。
【図6】実施例に係り、第3処理工程後の第4ワークの模式拡大断面図である。
【図7】実施例に係り、第4処理工程後の水道用器具の模式拡大断面図である。
【図8】比較例に係り、めっき工程後の第1ワークの模式拡大断面図である。
【図9】比較例に係り、第3処理工程後の第2ワークの模式拡大断面図である。
【図10】比較例に係り、第4処理工程後の第3ワークの模式拡大断面図である。
【図11】比較例に係り、第1処理工程後の第4ワークの模式拡大断面図である。
【図12】比較例に係り、第2処理工程後の水道用器具の模式拡大断面図である。
【図13】比較例に係り、水道用器具の模式拡大断面図である。
【図14】試験1に係り、ニッケルの増減量を示すグラフである。
【図15】試験1に係り、鉛の増減量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施例を比較例とともに図面を参照しつつ説明する。
【0021】
実施例及び比較例は胴長横水栓(内容量50ml)の製造方法又は処理方法である。実施例の方法を図1に示し、比較例の方法を図2に示す。
【0022】
まず、鋳造等した粗形品を用意する。この粗形品に対し、切削加工を行った後、研磨加工を行う。こうして、図3及び図8に示すように、胴長横水栓の本体形状の基材1を得る。この基材1は、粗形品がJISCAC406(青銅6種)の鉛含有銅合金からなるため、主として、銅からなる母材1a内に鉛1bを有している。また、この基材1は、水を通す通水路1cを有している。
【0023】
(実施例)
図1に示す実施例の方法では、基材1に対し、めっき工程S10を行う。めっき工程S10は、前処理工程、ニッケルめっき工程、洗浄工程、クロムめっき工程及び洗浄工程からなる。これにより、図3に示すように、基材1にめっき層2を施した第1ワークW1を得る。第1ワークW1では、基材1の外周面及び通水路1cの一部にニッケルめっき及びクロムめっきからなるめっき層2が形成されている。この際、表面に剥き出しとなっている鉛1b上にはめっき層2は形成され難い。
【0024】
第1ワークW1に対して脱脂工程を行った後、図1に示すように、第1処理工程S11を行う。ここでは、まず硝酸4質量%及び塩酸0.4質量%を含み、処理温度25°Cの混酸水溶液を第1処理液として用意する。そして、第1処理液に第1ワークW1を15分間浸漬する。これにより、図4に示す第2ワークW2を得る。第2ワークW2では、第1処理液が銅及び鉛を溶解可能であるため、母材1a及び鉛1bが溶解されている。また、めっき層2のニッケルが第1処理液によって活性化されている。
【0025】
次いで、図1に示すように、第2ワークW2に対し、第2処理工程S12を行う。ここでは、まずベンゾトリアゾール0.5質量%、ステアリン酸0.7質量%及びオレイン酸0.3質量%を含み、処理温度50°Cの第2処理液を用意する。そして、第2処理液に第2ワークW2を5分間浸漬する。これにより、図5に示す第3ワークW3を得る。第3ワークW3では、第2処理液が銅に対しては保護膜を形成するため、第1処理工程S11で剥き出しとなった母材1aに保護膜3が形成されている。しかし、第2処理液は、鉛に対しては保護膜を形成しないため、第1処理工程S11で剥き出しとなった鉛1bには保護膜3が形成されていない。また、めっき層2上には保護膜3が形成されている。
【0026】
洗浄及び乾燥後、図1に示すように、第3ワークW3に対し、第3処理工程S13を行う。ここでは、まず水酸化ナトリウム5質量%を含み、処理温度50°Cの第3処理液を用意する。そして、第3処理液に第3ワークW3を5分間浸漬する。これにより、図6に示す第4ワークW4を得る。第4ワークW4では、第3処理液が鉛を選択的に除去可能であるため、第1処理工程S11で剥き出しとなった鉛1bが除去される。
【0027】
この後、図1に示すように、第4ワークW4に対し、第4処理工程S14を行う。ここでは、まずリン酸0.9質量%を含み、処理温度50°Cの第4処理液を用意する。そして、第4処理液に第4ワークW4を3分間浸漬する。これにより、図7に示す処理品W5を得る。処理品W5では、第4処理液が不動態皮膜を形成可能であるため、第1処理工程S11で剥き出しとなった母材1aに不動態皮膜4が形成される。
【0028】
得られた処理品W5を洗浄、乾燥後、組み立てを行い、胴長横水栓の本体を得る。得られた胴長横水栓は通水路1c内に水が通されて活用されることとなる。
【0029】
(比較例)
図2に示す比較例の方法では、めっき工程S10後、洗浄を行った後、第3処理工程S13及び第4処理工程S14を行う。そして、洗浄、脱脂後、第1処理工程S11及び第2処理工程S12を行う。他の条件は実施例と同様である。
【0030】
めっき工程S10後のワークW11を図8に示す。このワークW11は図3に示す第1ワークW1と同様である。
【0031】
第3処理工程S13後のワークW12を図9に示す。このワークW12は、ワークW11を第3処理液に浸漬しているため、表面に剥き出しとなっている鉛1bが除去されている。母材1aは溶解されてはいない。
【0032】
第4処理工程S14後のワークW13を図10に示す。このワークW13は、ワークW12を第4処理液に浸漬しているため、表面に剥き出しとなっている母材1aに不動態皮膜4が形成されている。
【0033】
第1処理工程S11後のワークW14を図11に示す。このワークW14は、ワークW13を第1処理液に浸漬しているため、母材1a及び鉛1bばかりでなく、せっかく形成した不動態皮膜4も溶解されてしまっている。
【0034】
第2処理工程S12後のワークW15を図12に示す。このワークW15は、ワークW14を第2処理液に浸漬しているため、第1処理工程S11で剥き出しとなった鉛1bに保護膜3が形成されていない。このため、鉛が通水路1cに溶出し易い。また、図13に示すように、鉛1bの溶出がほぼ消えた後には、めっき層2からニッケルの溶出も生じる。
【0035】
(試験1)
上記実施例及び比較例の各4点の胴長横水栓の本体について、JISS3200−7(1997年)「水道用器具−浸出性能試験方法」により浸出試験を行った。
【0036】
すなわち、実施例及び比較例の各本体を洗浄した後、浸出液を満たした状態で16時間静置し、試料液として採取する。試料液が浸出基準を満たした場合は、試験に合格したものとみなし、コンディショニングを行わない。試料液が浸出基準を満たさない場合は、コンディショニングを行う。コンディショニングは、各本体にて水の入れ替えと封水とを3週間繰り返す作業である。コンディショニングを実施した後、浸出液を満たした状態で16時間静置し、試料液として採取する。この試料液が浸出基準を満たせば、試験に合格したものとみなす。
【0037】
試験1では、実施例と比較例とで効果の相違を調べるため、コンディショニングを実施しない浸出試験を行った。結果を表1並びに図14及び図15に示す。表1では、比較例の各本体を試験品1−1〜1−4とし、実施例の各本体を試験品1−5〜1−8としている。図14がニッケルの増減量を示し、図15が鉛の増減量を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1並びに図14及び図15から、実施例の方法の方が比較例の方法よりもニッケル及び鉛の低減効果が高いことがわかる。
【0040】
したがって、実施例の製造方法及び処理方法によれば、胴長横水栓における通水路1cの内周面から水への溶出量の低減を鉛及びニッケルの両者について実現することが可能である。つまり、実施例の製造方法によれば、鉛及びニッケルの溶出量を低減した胴長横水栓を製造することが可能である。また、実施例の処理方法によれば、胴長横水栓からニッケル及び鉛の溶出を防止することが可能である。
【0041】
(試験2)
処理条件の詳細を検討した。すなわち、試験2では、胴長横水栓の本体について、実施例の第3処理工程の処理時間を変えて浸出試験を行い、ニッケル及び鉛の浸出量を測定した。第3処理工程の処理時間以外の条件は上記実施例と同一である。結果を表2に示す。表2では、処理時間に応じた試験品2−1〜2−7について試験を行った。
【0042】
【表2】
【0043】
表2より、上記第3処理液を用いる場合には、第3処理工程の処理時間を20分とすれば、ニッケルの浸出量を最も小さくできることがわかる。
【0044】
(試験3)
試験2の結果を踏まえ、第3処理工程の処理時間を20分とし、他の条件を上記実施例と同一とした最適条件により、本発明の効果を確認した。
【0045】
また、鉛含有銅合金には不純物としてカドミウムが不可避に含まれるおそれがあり、カドミウムは鉛と同等又は同等以上に健康阻害が危惧される元素である。この点、発明者らの試験結果によれば、本発明によって水道用器具における通水路の内周面から水へのカドミウムの溶出量の低減を実現することが可能である。製品1〜3について行った結果を表3に示す。製品1は通水路の内容量が50ml、製品2、3は通水路の内容量が100mlである。
【0046】
【表3】
【0047】
表3から、最適条件で処理を行うことにより、製品1、2について、ニッケルの溶出量を0.001mg/L以下、鉛の溶出量を浸出基準値の0.007mg/L以下に抑えられることがわかる。
【0048】
また、最適条件で処理を行うことにより、製品3について、カドミウムの溶出量を0.00002mg/L以下に抑えられることもわかる。発明者らの推論によれば、カドミウムは鉛含有銅合金中で鉛と共存しており、本発明によって鉛の溶出を抑制できることから、同時にカドミウムの溶出を抑制できるものと思われる。
【0049】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、水道用バルブ、給水給湯用バルブ、管継手、ストレーナ、水栓金具、ポンプ用品、水道メーター、浄水器、給水給湯器等の水道用器具の製造方法又は処理方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…基材
1c…通水路
2…めっき層
W1…第1ワーク
S10…めっき工程
W2…第2ワーク
S11…第1処理工程
3…保護膜
W3…第3ワーク
S12…第2処理工程
W4…第4ワーク
S13…第3処理工程
4…不動態皮膜
S14…第4処理工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水栓金具や水道管等の水道用器具には耐腐食性、切削性等の観点から鉛含有銅合金である青銅や黄銅等が用いられている。このような鉛含有銅合金製の水道用器具は通常以下のように製造されていた。すなわち、まず、鋳造品、鍛造品、棒材又は管材からなる粗形品を用意する。この粗形品は、鉛含有銅合金からなり、水を通す通水路を有するものである。この粗形品に対し、切削加工を行った後、研磨加工を行う。そして、得られた基材に対し、外周面にニッケルめっき及びクロムめっきからなるめっき層を施すめっき工程を行う。
【0003】
一般的なめっき工程は、前処理工程の後、ニッケルめっき浴を用いたニッケルめっき工程を行う。これにより、基材の外周面にニッケルめっき層を施す。ニッケルめっき層は表面の平滑化及び優れた耐食性を実現する。この後、クロムめっき浴を用いたクロムめっき工程により、基材の外周面にクロムめっき層を施す。なお、各めっき工程間でめっき浴を水洗する水洗工程が存在する。そして、得られたワークを組み立て、水道用器具を得る。こうして得られた水道用器具は通水路内に水が通されて活用されることとなる。また、この水道用器具は、クロムめっき層の鏡面光沢により優れた装飾性を発揮する。
【0004】
しかし、近年、水に含有されている鉛による健康阻害が危惧されつつあり、鉛含有銅合金からなる水道用器具の通水路の内周面から水への鉛の溶出量を一層低減させたいという要望がある。このため、特許文献1には、めっき工程の後、ワークを脱鉛液に浸漬してワークの通水路の内周面の脱鉛処理を行う第1脱鉛工程と、脱鉛工程後のワークを不動態液に浸漬して通水路の内周面に不動態皮膜を形成する皮膜形成工程とを行う方法が提案されている。脱鉛液としては、活性アルカリ液が用いられている。不動態液としては、リン酸水溶液が用いられている。この方法によれば、通水路の内周面からの水への鉛の溶出量をより確実に低減できる。
【0005】
また、ニッケルめっき層に基づくニッケルについても、アレルギー等の問題や昨今の環境問題に関する規制強化の流れを考慮すると、溶出を防止することが望ましい。WHO飲料水水質ガイドラインによれば、ニッケルのガイドライン値は0.07mg/Lと定められており、今後、ニッケルが浸出基準対象となる可能性は高い。また、日本においては、ニッケルは水質管理目標設定項目の一つであり、ニッケルの水質管理目標値(0.01mg/L)を踏まえると、末端の給水栓のニッケル溶出量は0.001mg/L以下(補正値)に抑えることが望ましい。このため、特許文献2には、めっき工程後のワークにニッケル除去工程を行い、さらにワークの通水路に保護膜を形成する保護膜形成工程を行う方法が提案されている。ニッケル除去工程では、硝酸及び塩酸が混合された混酸が用いられている。保護膜形成工程では、ベンゾトリアゾール(BTA)水溶液が用いられている。この方法によれば、通水路の内周面から水へのニッケルの溶出量を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3866198号公報
【特許文献2】特開2008−255483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発明者らの試験結果によれば、上記従来の方法を単に組み合わせる場合、ニッケルの溶出は防止できても、鉛の溶出が増える場合がある。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、水道用器具における通水路の内周面から水への溶出量の低減を鉛及びニッケルの両者について実現可能な方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題解決のために鋭意研究を行い、めっき工程後に脱鉛工程を行う場合、脱鉛工程後にニッケルの溶出防止処理を行うよりも、脱鉛工程前にニッケルの溶出防止処理を行った方がより鉛及びニッケルの溶出量を少なくできることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法は、鉛含有銅合金からなり、水を通す通水路をもつ基材と、該基材の外周面に形成されたニッケルめっき及びクロムめっきからなるめっき層とを有する鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法であって、
前記基材に前記めっき層を施した第1ワークを得るめっき工程と、
銅及び鉛を溶解可能であるとともにニッケルを活性可能な第1処理液を用意し、該第1処理液に該第1ワークを浸漬して第2ワークを得る第1処理工程と、
銅に対しては保護膜を形成し、鉛に対しては保護膜を形成しない第2処理液を用意し、該第2処理液に該第2ワークを浸漬して第3ワークを得る第2処理工程と、
鉛を選択的に除去可能な第3処理液を用意し、該第3処理液に該第3ワークを浸漬して第4ワークを得る第3処理工程と、
不動態皮膜を形成可能な第4処理液を用意し、該第4処理液に該第4ワークを浸漬する第4処理工程とを備えていることを特徴とする(請求項1)。
【0011】
また、本発明の鉛含有銅合金製水道用器具の処理方法は、水道用器具からニッケル及び鉛の溶出を防止する水道用器具の処理方法であって、
前記水道用器具は、鉛含有銅合金からなり、水を通す通水路をもつ基材と、該基材の外周面に形成されたニッケルめっき及びクロムめっきからなるめっき層とを有し、
前記基材に前記めっき層を施した第1ワークと、銅及び鉛を溶解可能であるとともにニッケルを活性可能な第1処理液とを用意し、該第1処理液に該第1ワークを浸漬して第2ワークを得る第1処理工程と、
銅に対しては保護膜を形成し、鉛に対しては保護膜を形成しない第2処理液を用意し、該第2処理液に該第2ワークを浸漬して第3ワークを得る第2処理工程と、
鉛を選択的に除去可能な第3処理液を用意し、該第3処理液に該第3ワークを浸漬して第4ワークを得る第3処理工程と、
不動態皮膜を形成可能な第4処理液を用意し、該第4処理液に該第4ワークを浸漬する第4処理工程とを備えていることを特徴とする(請求項3)。
【0012】
発明者らの試験結果によれば、めっき工程後の第1ワークに対し、第1処理工程及び第2処理工程を行った後で第3処理工程及び第4処理工程を行うことにより、第3処理工程及び第4処理工程を行った後で第1処理工程及び第2処理工程を行うよりも、より鉛及びニッケルの溶出量を少なくできる。
【0013】
したがって、本発明の製造方法及び処理方法によれば、水道用器具における通水路の内周面から水への溶出量の低減を鉛及びニッケルの両者について実現することが可能である。つまり、本発明の製造方法によれば、鉛及びニッケルの溶出量を低減した水道用器具を製造することが可能である。また、本発明の処理方法によれば、水道用器具からニッケル及び鉛の溶出を防止することが可能である。
【0014】
第1処理工程では、銅及び鉛を溶解可能であるとともにニッケルを活性可能な第1処理液を用意し、第1処理液に第1ワークを浸漬して第2ワークを得る。第1処理工程は上記特許文献2のニッケル除去工程に相当し得る。第1処理液としては、特許文献2に記載のように、硝酸とハロゲン酸(フッ化水素酸、塩酸及び/又は臭化水素酸)との混酸、この混酸を水道水或いは純水に混入したもの、硝酸等の酸を水道水或いは純水に混入したもの等を採用することが可能である。硝酸と塩酸との混酸水溶液を採用する場合には、硝酸0.5〜7.0質量%及び塩酸0.05〜0.7質量%の混酸水溶液を第1処理液とし、第1処理液に第1ワークを5〜30分間浸漬することが可能である。
【0015】
第2処理工程では、銅に対しては保護膜を形成し、鉛に対しては保護膜を形成しない第2処理液を用意し、第2処理液に第2ワークを浸漬して第3ワークを得る。第2処理工程は上記特許文献2の保護膜形成工程に相当し得る。第2処理液は、特許文献2に記載のように、保護膜形成成分とこの保護膜形成成分を水に溶解させる溶剤成分とを含み得る。保護膜形成成分はアミン物質及び有機酸の少なくとも一方を含み得る。保護膜形成剤は、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体及び直鎖脂肪酸等の有機酸の少なくとも1種を含み得る。
【0016】
第3処理工程では、鉛を選択的に除去可能な第3処理液を用意し、第3処理液に第3ワークを浸漬して第4ワークを得る。第3処理工程は上記特許文献1の脱鉛工程に相当し得る。第3処理液としては、特許文献1に記載のように、酸性液やアルカリ液を用いることができるが、銅は酸に反応するのに対し、両性金属である鉛は酸にもアルカリにも反応するので、アルカリ液を用いることが好ましい。特に、活性アルカリ液を第3処理液として採用することが好ましい。その活性アルカリ液はpHが12〜14の範囲を示すようなアルカリ液をいう。pHがこの範囲の活性アルカリ液によれば、その活性アルカリ液は内周面の鉛と化学反応を起こしやすいので、その鉛を溶解して除去しやすい。このような活性アルカリ液は、主に炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、オルケイ酸ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液である。
【0017】
第4処理工程では、不動態皮膜を形成可能な第4処理液を用意し、第4処理液に第4ワークを浸漬する。第4処理工程は上記特許文献1の皮膜形成工程に相当し得る。第4処理液としては、特許文献1に記載のように、リン酸又はリン酸塩を含む水溶液を採用することができる。第4処理工程で形成した不動態皮膜が鉛の浸出を防止する。本発明に係るリン酸とは、五酸化リン(P2O5)が種々の程度に水化して生じる一連の酸(P2O5・nH2O)である。例えば、オルトリン酸(H3PO4(0.5P2O5・1.5H2O))、メタリン酸(HPO3(0.5P2O5・0.5H2O))等である。また、本発明に係るリン酸塩としては、リン酸亜鉛系、リン酸マンガン系、リン酸鉄系、リン酸亜鉛・カルシウム系等を採用することができる。リン酸亜鉛系としては、第1リン酸亜鉛(Zn(H2PO4)2)を主成分とするもの等がある。その他、リン酸ナトリウム(NaH2PO4、Na2HPO4等)、リン酸アルミニウム(Al(H2PO4)3等)、リン酸アンモニウム(NH4H2PO4等)等がある。
【0018】
第1処理液は塩酸及び硝酸を含む水溶液であり、第2処理液はベンゾトリアゾールを含む水溶液であり、第3処理液は水酸化ナトリウムを含む水溶液であり、第4処理液はリン酸を含む水溶液であることが好ましい(請求項2、4)。発明者らはこの組み合わせにおいて本発明の効果を確認している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例の製造方法又は処理方法を示す工程図である。
【図2】比較例の製造方法又は処理方法を示す工程図である。
【図3】実施例に係り、めっき工程後の第1ワークの模式拡大断面図である。
【図4】実施例に係り、第1処理工程後の第2ワークの模式拡大断面図である。
【図5】実施例に係り、第2処理工程後の第3ワークの模式拡大断面図である。
【図6】実施例に係り、第3処理工程後の第4ワークの模式拡大断面図である。
【図7】実施例に係り、第4処理工程後の水道用器具の模式拡大断面図である。
【図8】比較例に係り、めっき工程後の第1ワークの模式拡大断面図である。
【図9】比較例に係り、第3処理工程後の第2ワークの模式拡大断面図である。
【図10】比較例に係り、第4処理工程後の第3ワークの模式拡大断面図である。
【図11】比較例に係り、第1処理工程後の第4ワークの模式拡大断面図である。
【図12】比較例に係り、第2処理工程後の水道用器具の模式拡大断面図である。
【図13】比較例に係り、水道用器具の模式拡大断面図である。
【図14】試験1に係り、ニッケルの増減量を示すグラフである。
【図15】試験1に係り、鉛の増減量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施例を比較例とともに図面を参照しつつ説明する。
【0021】
実施例及び比較例は胴長横水栓(内容量50ml)の製造方法又は処理方法である。実施例の方法を図1に示し、比較例の方法を図2に示す。
【0022】
まず、鋳造等した粗形品を用意する。この粗形品に対し、切削加工を行った後、研磨加工を行う。こうして、図3及び図8に示すように、胴長横水栓の本体形状の基材1を得る。この基材1は、粗形品がJISCAC406(青銅6種)の鉛含有銅合金からなるため、主として、銅からなる母材1a内に鉛1bを有している。また、この基材1は、水を通す通水路1cを有している。
【0023】
(実施例)
図1に示す実施例の方法では、基材1に対し、めっき工程S10を行う。めっき工程S10は、前処理工程、ニッケルめっき工程、洗浄工程、クロムめっき工程及び洗浄工程からなる。これにより、図3に示すように、基材1にめっき層2を施した第1ワークW1を得る。第1ワークW1では、基材1の外周面及び通水路1cの一部にニッケルめっき及びクロムめっきからなるめっき層2が形成されている。この際、表面に剥き出しとなっている鉛1b上にはめっき層2は形成され難い。
【0024】
第1ワークW1に対して脱脂工程を行った後、図1に示すように、第1処理工程S11を行う。ここでは、まず硝酸4質量%及び塩酸0.4質量%を含み、処理温度25°Cの混酸水溶液を第1処理液として用意する。そして、第1処理液に第1ワークW1を15分間浸漬する。これにより、図4に示す第2ワークW2を得る。第2ワークW2では、第1処理液が銅及び鉛を溶解可能であるため、母材1a及び鉛1bが溶解されている。また、めっき層2のニッケルが第1処理液によって活性化されている。
【0025】
次いで、図1に示すように、第2ワークW2に対し、第2処理工程S12を行う。ここでは、まずベンゾトリアゾール0.5質量%、ステアリン酸0.7質量%及びオレイン酸0.3質量%を含み、処理温度50°Cの第2処理液を用意する。そして、第2処理液に第2ワークW2を5分間浸漬する。これにより、図5に示す第3ワークW3を得る。第3ワークW3では、第2処理液が銅に対しては保護膜を形成するため、第1処理工程S11で剥き出しとなった母材1aに保護膜3が形成されている。しかし、第2処理液は、鉛に対しては保護膜を形成しないため、第1処理工程S11で剥き出しとなった鉛1bには保護膜3が形成されていない。また、めっき層2上には保護膜3が形成されている。
【0026】
洗浄及び乾燥後、図1に示すように、第3ワークW3に対し、第3処理工程S13を行う。ここでは、まず水酸化ナトリウム5質量%を含み、処理温度50°Cの第3処理液を用意する。そして、第3処理液に第3ワークW3を5分間浸漬する。これにより、図6に示す第4ワークW4を得る。第4ワークW4では、第3処理液が鉛を選択的に除去可能であるため、第1処理工程S11で剥き出しとなった鉛1bが除去される。
【0027】
この後、図1に示すように、第4ワークW4に対し、第4処理工程S14を行う。ここでは、まずリン酸0.9質量%を含み、処理温度50°Cの第4処理液を用意する。そして、第4処理液に第4ワークW4を3分間浸漬する。これにより、図7に示す処理品W5を得る。処理品W5では、第4処理液が不動態皮膜を形成可能であるため、第1処理工程S11で剥き出しとなった母材1aに不動態皮膜4が形成される。
【0028】
得られた処理品W5を洗浄、乾燥後、組み立てを行い、胴長横水栓の本体を得る。得られた胴長横水栓は通水路1c内に水が通されて活用されることとなる。
【0029】
(比較例)
図2に示す比較例の方法では、めっき工程S10後、洗浄を行った後、第3処理工程S13及び第4処理工程S14を行う。そして、洗浄、脱脂後、第1処理工程S11及び第2処理工程S12を行う。他の条件は実施例と同様である。
【0030】
めっき工程S10後のワークW11を図8に示す。このワークW11は図3に示す第1ワークW1と同様である。
【0031】
第3処理工程S13後のワークW12を図9に示す。このワークW12は、ワークW11を第3処理液に浸漬しているため、表面に剥き出しとなっている鉛1bが除去されている。母材1aは溶解されてはいない。
【0032】
第4処理工程S14後のワークW13を図10に示す。このワークW13は、ワークW12を第4処理液に浸漬しているため、表面に剥き出しとなっている母材1aに不動態皮膜4が形成されている。
【0033】
第1処理工程S11後のワークW14を図11に示す。このワークW14は、ワークW13を第1処理液に浸漬しているため、母材1a及び鉛1bばかりでなく、せっかく形成した不動態皮膜4も溶解されてしまっている。
【0034】
第2処理工程S12後のワークW15を図12に示す。このワークW15は、ワークW14を第2処理液に浸漬しているため、第1処理工程S11で剥き出しとなった鉛1bに保護膜3が形成されていない。このため、鉛が通水路1cに溶出し易い。また、図13に示すように、鉛1bの溶出がほぼ消えた後には、めっき層2からニッケルの溶出も生じる。
【0035】
(試験1)
上記実施例及び比較例の各4点の胴長横水栓の本体について、JISS3200−7(1997年)「水道用器具−浸出性能試験方法」により浸出試験を行った。
【0036】
すなわち、実施例及び比較例の各本体を洗浄した後、浸出液を満たした状態で16時間静置し、試料液として採取する。試料液が浸出基準を満たした場合は、試験に合格したものとみなし、コンディショニングを行わない。試料液が浸出基準を満たさない場合は、コンディショニングを行う。コンディショニングは、各本体にて水の入れ替えと封水とを3週間繰り返す作業である。コンディショニングを実施した後、浸出液を満たした状態で16時間静置し、試料液として採取する。この試料液が浸出基準を満たせば、試験に合格したものとみなす。
【0037】
試験1では、実施例と比較例とで効果の相違を調べるため、コンディショニングを実施しない浸出試験を行った。結果を表1並びに図14及び図15に示す。表1では、比較例の各本体を試験品1−1〜1−4とし、実施例の各本体を試験品1−5〜1−8としている。図14がニッケルの増減量を示し、図15が鉛の増減量を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1並びに図14及び図15から、実施例の方法の方が比較例の方法よりもニッケル及び鉛の低減効果が高いことがわかる。
【0040】
したがって、実施例の製造方法及び処理方法によれば、胴長横水栓における通水路1cの内周面から水への溶出量の低減を鉛及びニッケルの両者について実現することが可能である。つまり、実施例の製造方法によれば、鉛及びニッケルの溶出量を低減した胴長横水栓を製造することが可能である。また、実施例の処理方法によれば、胴長横水栓からニッケル及び鉛の溶出を防止することが可能である。
【0041】
(試験2)
処理条件の詳細を検討した。すなわち、試験2では、胴長横水栓の本体について、実施例の第3処理工程の処理時間を変えて浸出試験を行い、ニッケル及び鉛の浸出量を測定した。第3処理工程の処理時間以外の条件は上記実施例と同一である。結果を表2に示す。表2では、処理時間に応じた試験品2−1〜2−7について試験を行った。
【0042】
【表2】
【0043】
表2より、上記第3処理液を用いる場合には、第3処理工程の処理時間を20分とすれば、ニッケルの浸出量を最も小さくできることがわかる。
【0044】
(試験3)
試験2の結果を踏まえ、第3処理工程の処理時間を20分とし、他の条件を上記実施例と同一とした最適条件により、本発明の効果を確認した。
【0045】
また、鉛含有銅合金には不純物としてカドミウムが不可避に含まれるおそれがあり、カドミウムは鉛と同等又は同等以上に健康阻害が危惧される元素である。この点、発明者らの試験結果によれば、本発明によって水道用器具における通水路の内周面から水へのカドミウムの溶出量の低減を実現することが可能である。製品1〜3について行った結果を表3に示す。製品1は通水路の内容量が50ml、製品2、3は通水路の内容量が100mlである。
【0046】
【表3】
【0047】
表3から、最適条件で処理を行うことにより、製品1、2について、ニッケルの溶出量を0.001mg/L以下、鉛の溶出量を浸出基準値の0.007mg/L以下に抑えられることがわかる。
【0048】
また、最適条件で処理を行うことにより、製品3について、カドミウムの溶出量を0.00002mg/L以下に抑えられることもわかる。発明者らの推論によれば、カドミウムは鉛含有銅合金中で鉛と共存しており、本発明によって鉛の溶出を抑制できることから、同時にカドミウムの溶出を抑制できるものと思われる。
【0049】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、水道用バルブ、給水給湯用バルブ、管継手、ストレーナ、水栓金具、ポンプ用品、水道メーター、浄水器、給水給湯器等の水道用器具の製造方法又は処理方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…基材
1c…通水路
2…めっき層
W1…第1ワーク
S10…めっき工程
W2…第2ワーク
S11…第1処理工程
3…保護膜
W3…第3ワーク
S12…第2処理工程
W4…第4ワーク
S13…第3処理工程
4…不動態皮膜
S14…第4処理工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛含有銅合金からなり、水を通す通水路をもつ基材と、該基材の外周面に形成されたニッケルめっき及びクロムめっきからなるめっき層とを有する鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法であって、
前記基材に前記めっき層を施した第1ワークを得るめっき工程と、
銅及び鉛を溶解可能であるとともにニッケルを活性可能な第1処理液を用意し、該第1処理液に該第1ワークを浸漬して第2ワークを得る第1処理工程と、
銅に対しては保護膜を形成し、鉛に対しては保護膜を形成しない第2処理液を用意し、該第2処理液に該第2ワークを浸漬して第3ワークを得る第2処理工程と、
鉛を選択的に除去可能な第3処理液を用意し、該第3処理液に該第3ワークを浸漬して第4ワークを得る第3処理工程と、
不動態皮膜を形成可能な第4処理液を用意し、該第4処理液に該第4ワークを浸漬する第4処理工程とを備えていることを特徴とする鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法。
【請求項2】
前記第1処理液は塩酸及び硝酸を含む水溶液であり、前記第2処理液はベンゾトリアゾールを含む水溶液であり、前記第3処理液は水酸化ナトリウムを含む水溶液であり、前記第4処理液はリン酸を含む水溶液である請求項1記載の鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法。
【請求項3】
水道用器具からニッケル及び鉛の溶出を防止する水道用器具の処理方法であって、
前記水道用器具は、鉛含有銅合金からなり、水を通す通水路をもつ基材と、該基材の外周面に形成されたニッケルめっき及びクロムめっきからなるめっき層とを有し、
前記基材に前記めっき層を施した第1ワークと、銅及び鉛を溶解可能であるとともにニッケルを活性可能な第1処理液とを用意し、該第1処理液に該第1ワークを浸漬して第2ワークを得る第1処理工程と、
銅に対しては保護膜を形成し、鉛に対しては保護膜を形成しない第2処理液を用意し、該第2処理液に該第2ワークを浸漬して第3ワークを得る第2処理工程と、
鉛を選択的に除去可能な第3処理液を用意し、該第3処理液に該第3ワークを浸漬して第4ワークを得る第3処理工程と、
不動態皮膜を形成可能な第4処理液を用意し、該第4処理液に該第4ワークを浸漬する第4処理工程とを備えていることを特徴とする鉛含有銅合金製水道用器具の処理方法。
【請求項4】
前記第1処理液は塩酸及び硝酸を含む水溶液であり、前記第2処理液はベンゾトリアゾールを含む水溶液であり、前記第3処理液は水酸化ナトリウムを含む水溶液であり、前記第4処理液はリン酸を含む水溶液である請求項3記載の鉛含有銅合金製水道用器具の処理方法。
【請求項1】
鉛含有銅合金からなり、水を通す通水路をもつ基材と、該基材の外周面に形成されたニッケルめっき及びクロムめっきからなるめっき層とを有する鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法であって、
前記基材に前記めっき層を施した第1ワークを得るめっき工程と、
銅及び鉛を溶解可能であるとともにニッケルを活性可能な第1処理液を用意し、該第1処理液に該第1ワークを浸漬して第2ワークを得る第1処理工程と、
銅に対しては保護膜を形成し、鉛に対しては保護膜を形成しない第2処理液を用意し、該第2処理液に該第2ワークを浸漬して第3ワークを得る第2処理工程と、
鉛を選択的に除去可能な第3処理液を用意し、該第3処理液に該第3ワークを浸漬して第4ワークを得る第3処理工程と、
不動態皮膜を形成可能な第4処理液を用意し、該第4処理液に該第4ワークを浸漬する第4処理工程とを備えていることを特徴とする鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法。
【請求項2】
前記第1処理液は塩酸及び硝酸を含む水溶液であり、前記第2処理液はベンゾトリアゾールを含む水溶液であり、前記第3処理液は水酸化ナトリウムを含む水溶液であり、前記第4処理液はリン酸を含む水溶液である請求項1記載の鉛含有銅合金製水道用器具の製造方法。
【請求項3】
水道用器具からニッケル及び鉛の溶出を防止する水道用器具の処理方法であって、
前記水道用器具は、鉛含有銅合金からなり、水を通す通水路をもつ基材と、該基材の外周面に形成されたニッケルめっき及びクロムめっきからなるめっき層とを有し、
前記基材に前記めっき層を施した第1ワークと、銅及び鉛を溶解可能であるとともにニッケルを活性可能な第1処理液とを用意し、該第1処理液に該第1ワークを浸漬して第2ワークを得る第1処理工程と、
銅に対しては保護膜を形成し、鉛に対しては保護膜を形成しない第2処理液を用意し、該第2処理液に該第2ワークを浸漬して第3ワークを得る第2処理工程と、
鉛を選択的に除去可能な第3処理液を用意し、該第3処理液に該第3ワークを浸漬して第4ワークを得る第3処理工程と、
不動態皮膜を形成可能な第4処理液を用意し、該第4処理液に該第4ワークを浸漬する第4処理工程とを備えていることを特徴とする鉛含有銅合金製水道用器具の処理方法。
【請求項4】
前記第1処理液は塩酸及び硝酸を含む水溶液であり、前記第2処理液はベンゾトリアゾールを含む水溶液であり、前記第3処理液は水酸化ナトリウムを含む水溶液であり、前記第4処理液はリン酸を含む水溶液である請求項3記載の鉛含有銅合金製水道用器具の処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−12342(P2011−12342A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121980(P2010−121980)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】
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