説明

鉛蓄電池の硫酸鉛皮膜除去装置

【課題】鉛蓄電池の複数の異なる公称電圧および蓄電残容量に応じて、前記鉛蓄電池の電極板上に形成された硫酸鉛皮膜を除去するとともに、前記鉛蓄電池の過充電や過放電の抑制やパルスノイズ出力の低減を行う。
【解決手段】硫酸鉛皮膜除去装置10は電圧検出手段となるAD変換器106より鉛蓄電池の電圧値を読み込む。演算制御処理装置105は硫酸鉛皮膜除去装置10に接続された鉛蓄電池の公称電圧を前記鉛蓄電池の電圧値から判定する。また、前記鉛蓄電池の電圧値と前記公称電圧値から蓄電残容量を判定する。前記演算制御処理装置105は前記蓄電残容量から前記鉛蓄電池をパルス充放電するための所定時間に出力されるパルス数を蓄電残容量が高ければパルス数を増やし、前記硫酸鉛皮膜の除去速度を上げるとともに、過充電状態を素早く解消する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池の電極に形成された硫酸鉛皮膜を除去するパルス電流発生装置に係り、特に、鉛蓄電池の公称電圧および蓄電残容量に応じて、硫酸鉛皮膜除去速度の最適化と高速化および前記パルス電流の発生に伴うノイズ出力の低減を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
鉛電池の化学反応は図2に示すように、放電時は反応前の負の電極に相当する鉛(Pb)と正の電極に相当する二酸化鉛(PbO)と、前記負および正の電極間に満たされた硫酸(2HSO)が放電により反応し、前記電極上に化学反応により生成される硫酸鉛(2PbSO)と水(HO)に変化する。充電時には前記硫酸鉛は還元され前記反応と逆の反応が起こる。
【0003】
鉛蓄電池は直列接続された公称電圧2Vの単位電池を直列接続したものを一体化した電池として構成され、前記一体化した鉛蓄電池の公称電圧は12V、24V、36V、48V、72Vなどと言った系列からなる。
【0004】
鉛蓄電池は充放電の繰り返しや、過度の放電や、長期放置による自己放電などにより、電極表面に形成された硫酸鉛皮膜は非電導性結晶皮膜となり、通常の定電流や定電圧による充電では反応前の状態へ戻らなくなる。
【0005】
この結果、前記硫酸鉛皮膜により、鉛蓄電池の内部抵抗の増加と充電後の硫酸濃度の低下により、鉛蓄電池の充放電反応は著しく低下する。
【0006】
前記硫酸鉛皮膜にパルス電流を印加することにより前記硫酸鉛皮膜を除去する従来技術として特許文献1〜3の硫酸鉛皮膜除去装置がある。
【0007】
また前記特許文献の従来技術として、1つの閾値電圧と比較することによりパルス出力の動作・非動作を切り替える回路がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−342567号公報
【特許文献2】特許第3902212号公報
【特許文献3】特開2003−68371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
鉛蓄電池は充電直後には蓄電残容量が適正値よりも増大し過充電状態となり、この結果前記鉛蓄電池内の硫酸濃度が適正値よりも上がり、この状態が長時間続くと鉛蓄電池の電極を剥離させる物理的破損を起こし、鉛蓄電池の充放電反応を低下させる原因になる。特に前記現象は、鉛蓄電池の急速充電や均等充電において顕著となる。
【0010】
また、逆に鉛蓄電池の使用により蓄電残容量が減少し終止電圧を下回ると、前記硫酸鉛皮膜が非電導性結晶皮膜に急速に変化することが知られている。これも鉛蓄電池の充放電反応を低下させる原因になる。
【0011】
前記特許文献は硫酸鉛皮膜除去のためのパルス電流の形状や周波数、また1つの閾値比較によるパルス出力の動作・非動作については述べられているが、鉛蓄電池の充電状態や使用状態における蓄電残容量に応じた所定時間に出力されるパルス数の増減について考慮されていなかった。
【0012】
また、前記特許文献では鉛蓄電池の公称電圧の違いにより前記パルス電流の形状や大さやパルス出力周波数を可変するための回路素子パラメータを個々に製作適用する必要があった。
【0013】
また、前記特許文献では前記パルス電流のパルス出力周波数を固定化することにより、外部への放射ノイズ出力が前記出力周波数に固定され、前記鉛蓄電池に接続された他の機器や、電磁誘導による電波発生による隣接する電波受信機器等の他の機器等への妨害電磁波ノイズ源となる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明はこのような問題を解決するため、本発明に係る第1の発明では、前記演算制御処理装置は、前記電圧検出手段により得られる前記鉛蓄電池の電圧値と前記鉛蓄電池の蓄電残容量を判別するための値を演算比較することで、前記鉛蓄電池の蓄電残容量を判定する。
【0015】
前記判定結果から前記演算制御処理装置は前記蓄電残容量が大きければ所定時間に出力されるパルス数を増やす。前記パルス数を増やすことで前記硫酸鉛皮膜除去装置の消費電力は増えるが、前記硫酸鉛皮膜の除去速度を速めるとともに前記過充電状態を素早く解消できるという利点をもたらす。また、前記演算制御処理装置は前記蓄電残容量が少なければ所定時間に出力されるパルス数を減らし、前記鉛蓄電池が過放電にならないように前記硫酸鉛皮膜除去装置の消費電力を抑えるように働く。
【0016】
また、前記演算制御処理装置は前記蓄電残容量が低下し前記鉛蓄電池の終止電圧に近づくと、前記パルス出力を止め、前記硫酸鉛皮膜除去装置の消費電力をほぼゼロとし、前記鉛蓄電池の過放電への移行を防ぐように働く。
【0017】
また、第2の発明では、前記演算制御処理装置は、前記鉛蓄電池の電圧を検出する電圧検出手段から得られる電圧値と、前記記憶手段に記憶された複数の異なる鉛蓄電池の公称電圧を判別するための値とを演算比較し、鉛蓄電池の未知の公称電圧を自動判別する処理を含み、前述した第1の発明の動作を行う。
【0018】
また、第3の発明では、前記第1または第2の発明に加え、前記硫酸鉛皮膜除去装置が動作を開始してから所定時間経過後に、前記所定時間毎に出力されるパルス数を減少または固定化することで前記硫酸鉛皮膜の除去速度を落とし、外部へのパルスノイズ発生の抑制や、前記鉛蓄電池の電力消耗を防ぐように働く。
【0019】
また、第4の発明では、前記パルス発生手段から発生するパルスを時間不均一にすることで、前記パルス発生手段から外部へ放射するノイズスペクトルを周波数拡散させることができ、前記鉛蓄電池に接続された他の機器や、電磁誘導による電波発生による隣接する電波受信機器等の他の機器等へ与える妨害電磁波ノイズの低減を図ることができる。
【0020】
また、第5の発明では、前記パルス発生手段は前記鉛蓄電池に直列接続される前記パルス電流を充放電するためのスイッチ素子を備え、前記スイッチ素子により行われる前記パルス電流の放電電流を緩やかに、充電電流を急峻にするための波形整形回路を設けるとともに、前記放電電流の最大値を所定の電流値に制限するための電流制限回路を具備することにより、前記鉛蓄電池の電源電圧によらず安定した充放電パルスを発生することができる。また、前記パルスの充放電回路はインダクタを含まない回路構成により短時間で放電電流を安定化できるため、所定時間当たりのパルス出力数をインダクタを含む回路よりも増やすことができ、前記硫酸鉛皮膜除去の高速化が可能となる。また、パルスの充電電流のみを極大化した前記硫酸鉛皮膜の除去に有効なパルス電流を発生することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、鉛蓄電池の複数の異なる公称電圧および蓄電残容量に応じて、前記鉛蓄電池の電極板上に形成された硫酸鉛皮膜を除去する充放電パルスの所定時間に出力されるパルス数を増減または停止することで、前記硫酸鉛皮膜の除去速度の最適化と高速化を図るとともに、前記鉛蓄電池の過充電や過放電を抑制することができ、また外部へのノイズ出力の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る硫酸鉛皮膜除去装置の内部ブロック図である。
【図2】鉛蓄電池の充放電における化学反応を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る硫酸鉛皮膜除去装置と鉛電池との接続状態の一例を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る硫酸鉛皮膜除去の制御フローの一例を示す図である。
【図5】図4の制御フローの一部を置き換えた、本発明の第2実施形態に係る硫酸鉛皮膜除去の制御フローの一例を示す図である。
【図6】図4の制御フローの一部を置き換えた、本発明の第3実施形態に係る硫酸鉛皮膜除去の制御フローの一例を示す図である。
【図7】図4の制御フローの一部(図6と異なる部分)を置き換えた、本発明の第3実施形態に係る硫酸鉛皮膜除去の制御フローの一例を示す図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る硫酸鉛皮膜除去装置が具備するパルス発生手段におけるパルス発生回路の出力電圧波形、放電時の電流波形および鉛蓄電池への充放電電流波形の一例を示す図である。
【図9】鉛蓄電池の公称電圧別の蓄電残容量と出力電圧の関係および、本発明の第1実施形態に係る蓄電残容量に対するパルス発生手段から1秒間に出力されるパルス数の関係の一例を示す図である。
【図10】図9の各公称電圧の終止電圧と充電電圧をバーグラフで併記した図である。
【図11】本発明の第4実施形態に係る硫酸鉛皮膜除去のパルス発生手段となる回路の一例を示す図である。
【図12】本発明の第5実施形態に係る硫酸鉛皮膜除去のパルス発生手段におけるパルス発生回路を疑似乱数発生回路としたときのパルス出力電圧波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の実現手段としての一例であり、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で下記実施形態を修正又は変形したものに適用可能である。
【0025】
図3は、鉛蓄電池BTに本発明の硫酸鉛皮膜除去装置10を接続した図である。鉛蓄電池BTは出力端子となる正側端子S1および負側端子S2を備えている。正側端子S1に前記硫酸鉛皮膜除去装置10の接続端子P1が、負側端子S2には接続端子P2が電気的に接続される。これにより、硫酸鉛皮膜除去装置10は鉛蓄電池BTから電力を得ることにより動作を開始する。
【0026】
以下、第1実施形態の一例について説明する。図1に、硫酸鉛皮膜除去装置10のブロック図を示す。端子P1、P2は鉛蓄電池BTの正側端子S1および負側端子S2への接続端子、ケーブルL1、L2は硫酸鉛皮膜除去装置10へ接続された電線ケーブルであり、鉛蓄電池へのパルスを発生するためのインダクタの役割を担う。硫酸鉛皮膜除去装置10の電力は鉛蓄電池BTから、端子P1、P2を通して電源回路101より供給される。
【0027】
図1において、電源回路101は安定化した電源Vccを得るための昇圧、降圧、または昇降圧を行う回路である。具体的には、3端子レギュレータや、DC-DCコンバータを含む回路などになる。なお、電源回路101には端子P1、P2が鉛蓄電池BTに対して逆電圧に接続されたときの保護回路となるダイオードを直列に設けても良い。
【0028】
硫酸鉛皮膜除去装置10はマイクロコンピュータ100を内蔵し、マイクロコンピュータ100の内部構成は、実行プログラムに従い各種演算や判定や入出力制御などを行う演算制御処理装置105、前記演算制御処理装置105の実行プログラムを格納したROM(Read-Only Memory)、前記演算制御処理装置105の演算結果の一時的な記憶手段となるRAM(Randam Access Memory)、鉛蓄電池の公称電圧値や蓄電残容量を判別するための値などを記憶保持するEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、時間の計時手段となるタイマー、鉛蓄電池BTの電圧検出手段となるAD変換器106、パルス発生手段の一部となるパルス発生の周期やデューティーや前記パルス発生周期内でのパルス発生時間を変更可能なパルス発生回路107、前記パルス発生回路107の出力や、前記AD変換器106の入力を行うための入出力端子、マイクロコンピュータ100をスリープさせ動作停止状態にて消費電力をほぼゼロとし、および所定時間後に動作を再開させるためのスリープタイマー、およびマイクロコンピュータ100に内蔵された上記デバイスの動作を行うための発振器などを具備する。なお、前記パルス発生回路107は所定時間に設定された数のパルスを出力する回路であればよいので、前記演算処理に基づくソフトウェアによるパルス発生やPWM(Pulse Width Moduration)回路やカウンター回路や疑似乱数発生回路であってもよい。
【0029】
鉛蓄電池BTの電圧は、抵抗素子R3およびR4により、前記AD変換器106の入力電圧範囲に対応可能なように分圧され、前記分圧された電圧を平滑化および安定化させるためのコンデンサーC3を設けている。前記分圧された電圧は、前記AD変換器106へ入力される。
【0030】
パルス発生手段120は、前記パルス発生回路107を含む、波形整形回路102、電流制限回路103、ダイオードD1、パルス出力抵抗R1、スイッチング素子となるNチャンネル型電界効果トランジスターQ1、鉛蓄電池の放電電流を検出するための電流検出抵抗R2、パルスをバイパスするためのコンデンサーC1およびC2から構成される。
【0031】
図8は、前記パルス発生回路107の出力波形、電流検出抵抗R2の電圧波形、鉛蓄電池BTへの充放電電流波形を示している。前記パルス発生回路107の出力波形および電流検出抵抗R2の電圧波形は、硫酸鉛皮膜除去装置10の電圧基準となるGND(グランド)端子を0Vとして表している。また、前記充放電電流波形は、鉛蓄電池BTから放電時の電流をマイナス方向、充電時の電流をプラス方向の波形として表している。
【0032】
図9の表は鉛蓄電池の公称電圧別の蓄電残容量と鉛蓄電池の出力電圧の関係の一例を示している。例えば公称電圧12Vの鉛蓄電池の場合、蓄電残容量10%のときの出力電圧は11.6V、蓄電残容量100%のときの出力電圧は12.8V、また、鉛蓄電池の充電直後の過充電状態における出力電圧は13.0Vになることを表している。なお、図9の蓄電残容量と各鉛蓄電池の公称電圧に基づく出力電圧の関係は鉛蓄電池の公称電圧や鉛蓄電池の特性により適宜変更されるものである。
【0033】
図8に示す前記パルス発生回路107の出力波形であるパルス出力周期T1秒とパルス幅Tw秒は、前記演算制御処理装置105により可変制御可能である。図9の表の最右端列に示すように公称電圧別の蓄電残容量に応じて1秒間に出力されるパルス数が変更制御される。この制御の過程を、図9の一例の公称電圧12Vの鉛蓄電池の場合について以下に説明する。
【0034】
図4は前記演算制御処理装置105の処理フローを示している。端子P1、P2が12Vの鉛蓄電池BTに接続されると、硫酸鉛皮膜除去装置10へ電力が供給されることにより処理を開始する(ステップS100)。
【0035】
前記演算制御処理装置105は前記AD変換器106より鉛蓄電池の分圧された電圧Vxを読み込む。前記電圧Vxは所定の計算により分圧前の鉛蓄電池BTの出力電圧に変換される(ステップS101)。ここでは、鉛蓄電池BTの公称電圧を既知の12Vとしているので、変数Vbtを12に設定する(ステップS102)。
【0036】
前記変数Vbtに設定する値は鉛蓄電池BTの蓄電残容量を判別するための値となる。前記変数Vbtは図1に示す回路素子のバラツキを含む電圧降下分を補正した電圧値、例えば前記ケーブルL1、L2の持つ抵抗等による電圧降下等を含んだ電圧値をVbtの校正値として前記AD変換器から読込後、EEPROMに記憶および読み出し使用することも可能である。
【0037】
前記演算制御処理装置105は前記RAMに図9の表に基づく蓄電残容量に対応する出力電圧を閾値電圧として配列変数Vkに作成する(ステップS103)。ステップS103に示すように、この配列変数Vkは前記変数Vbtを所定の倍率演算により求めることで、ROMまたはEEPROMの記憶容量を削減することができる。
【0038】
次にパラメータの初期化を行い(ステップS104)、前記電圧Vxが蓄電残容量10%未満かを判定する(ステップS105)。前記蓄電残容量が10%未満と判定した場合、パルス発生回路出力を停止し(ステップS110)、マイクロコンピュータ100は前記スリープタイマー以外の全ての機能を停止して所定時間のスリープモードへ移行し、硫酸鉛皮膜除去装置10の消費電力を最小にした後、再び動作を開始する(ステップS111)。なお、ステップS101からステップS110までの処理は短時間で行われるため、パルス発生回路停止時の消費電力を大幅に削減できる。
【0039】
前記電圧Vxが蓄電残容量10%以上であると判定した場合、図9に示す閾値電圧として算出した前記配列変数Vkのどの範囲内であるかを判定する(ステップS106)。判定結果に基づき図9の表の最右端列に記載した1秒間に出力されるパルス数でパルス発生回路が駆動されるように、前記演算制御処理装置105はパルス発生回路パラメータとなる周期T1をセットする(ステップS107)。
【0040】
前記パルス発生回路107が停止中かどうかを判定する(ステップS108)。停止中ならばパルス発生回路107をスタートし(ステップS109)、パルス発生回路107から上述した処理過程でセットされた1秒間に出力されるパルス数で図8に示すパルス発生回路107の出力波形を出力させる。
【0041】
以上のように、前記演算制御処理装置105は前記蓄電残容量から鉛蓄電池BTをパルス充放電するための所定時間に出力されるパルス数を蓄電残容量が大きければパルス数を増やし、前記硫酸鉛皮膜の除去速度を上げるとともに、過充電状態を素早く解消する。また、前記蓄電残容量が少なければ所定時間に出力されるパルス数を減らし、鉛蓄電池BTが過放電にならないように、硫酸鉛皮膜除去装置10の消費電力を抑えるように働く。また、前記演算制御処理装置105は鉛蓄電池BTの蓄電残容量が低下し終止電圧に近づくと、前記パルス出力を止め過放電状態への移行を防ぐように働く。なお、蓄電残容量の判定は図9に示す有限の区切られた閾値電圧を用いているが、前記蓄電残容量に対する前記鉛蓄電池の出力電圧を算出する演算式を用いて連続的に前記パルス発生回路の1秒間に出力されるパルス数を可変しても良い。
【0042】
以下、第2実施形態の一例について、図5に基づいて説明する。なお、第2実施形態では、第1実施形態と異なる部分のみ説明し、同じ部分の説明を省略する。図5は図4のステップ102の処理をさらに改良した処理であり、鉛蓄電池の未知の公称電圧を判定するステップを設けたものである。
【0043】
図5の説明に先立ち、図9の各公称電圧別の終止電圧と充電電圧の範囲をバーグラフで表示した図を図10に示す。図10では、一般的に多用されている公称電圧が12V、24V、48Vとなる鉛蓄電池の充放電に伴う変化し得る電圧範囲を斜線で示している。図10から分かるように各終止電圧と充電後の過充電状態の電圧の取り得る電圧範囲は、鉛蓄電池が正常であれば互いに重なり合わないことが分かる。
【0044】
よって鉛蓄電池の電圧を前記AD変換器により取得し、図9に示すどの公称電圧の終始電圧と過充電状態の電圧の電圧範囲に属しているかを判定することで、硫酸鉛皮膜除去装置10が取り付けられた鉛蓄電池の公称電圧を判定できる。例えば、前記ステップS101により得られた電圧Vxが10.5V以上かつ13.0V未満であれば、前記鉛蓄電池BTの公称電圧は12Vと判定できる。
【0045】
では、図5の説明を以下に述べる。前記演算制御装置105は前記EEPROMに記憶された複数の異なる公称電圧値を配列変数Vrefに読み込む(ステップS201)。パラメータを初期化し(ステップS202)、どの公称電圧に属するかを判定する(ステップS203)。なおステップS203の演算は比較する公称電圧に基づき前記終止電圧と前記過充電状態の電圧を求め、この範囲に属するかどうかを判定する処理である。これを全配列変数Vrefに対して順次判定する(ステップS205、ステップS206)。電圧VxがステップS203の条件に合致したとき、鉛蓄電池BTの公称電圧が確定され、これを変数Vbtへ代入し(ステップS204)、図4のステップS103から処理を再開することで、公称電圧Vbtを持つ鉛蓄電池の蓄電残容量に応じた前述したステップS103以降の処理を行うことができる。
【0046】
なお、全配列変数Vrefを判定しても図10に斜線で示す電圧範囲を検出できなかった場合は、取り付け対象の鉛蓄電池BTは過放電による異常な電圧降下を起こしているか、あるいは予め配列変数Vrefとして定められた公称電圧に属さない鉛電池であると判定し、ステップS206から図4のステップ110へ遷移する。
【0047】
以下、第3実施形態について、図6及び図7に基づいて説明する。なお、第3実施形態では、第1実施形態と異なる部分のみ説明し、同じ部分の説明を省略する。第3実施形態において、前記パルス充放電するための所定時間に出力されるパルス数を減少または固定化する制御について、図6および図7により説明する。図6は図4のステップS100とステップS101の間に設けた処理で、硫酸鉛皮膜除去装置10が起動直後に計時を行うタイマーをゼロセット後に計時を開始する処理を行う(ステップS301)。
【0048】
図7は図4のステップS107を置き換えた処理である。まず、前記したタイマー値の経過時間を判定し(ステップS302)、所定時間を経過していなければ、判定結果に基づき図9の表の最右端列に記載した1秒間に出力されるパルス数でパルス発生回路107が駆動されるように、前記演算制御処理装置105はパルス発生回路パラメータとなるパルス出力周期T1をセットする(ステップS303)。
【0049】
所定時間を経過したと判定すれば前記タイマーをストップし(ステップS304)、パルス発生回路パラメータのパルス出力周期T1を例えば50マイクロ秒とし、1秒間に出力されるパルス数を20000に固定セットするように働く。もしくは、パルス発生回路パラメータのパルス出力周期T1を図9の最右端列に示す1秒間に出力されるパルス数を表に記載の数の1/2にセットするというようにしても良い。
【0050】
以下、第4実施形態の一例について、図11に基づいて説明する。なお、第4実施形態では、第1実施形態と異なる部分のみ説明し、同じ部分の説明を省略する。第4実施形態において、図11の回路は図1の波形整形回路102、電流制限回路103の内部回路の一実施例を表しており、図11の回路の動作を図8の波形とともに以下に説明する。
【0051】
図11の点線で囲まれた部分110は電流制限回路であり、トランジスタQ4、抵抗R8により構成されている。抵抗R8は図1の接続ノードN1に接続され、電流検出抵抗R2に接続される。
【0052】
図11の点線で囲まれた部分を除く波形整形回路はNPNトランジスタQ2、PNPトランジスタQ3等によるプッシュプル回路により構成される。ノードN2は図1のパルス発生回路に接続されている。
【0053】
図8に示すように、パルス発生回路出力波形がLOW(0V)レベルからHI(Vcc)レベルへ変化すると図11のノードN2に接続されたトランジスタQ1、Q2へのベース電圧が入力抵抗R5、スピードアップコンデンサーC4を通じて上昇する。これによりトランジスタQ2はONになりトランジスタQ3はOFFになる。
【0054】
トランジスタQ2がONになるとトランジスタQ2のエミッタ電圧が上昇し抵抗R6からコンデンサーC5に向かって電流が流れ、トランジスタQ1のゲート電圧が上昇する。このとき、トランジスタQ1のゲート電圧は抵抗R6およびコンデンサーC5で決まる時定数により緩やかに上昇するため、トランジスタQ1は緩やかにONになり、トランジスタQ1に直列に接続された鉛蓄電池BTからの放電電流は緩やかに大きくなっていく。
【0055】
前記放電電流が流れ始めるとトランジスタQ1に直列に接続された電流検出抵抗R2の電圧は上昇する。これが図8に示す立ち上がりが緩やかな抵抗R2の電圧波形となる。放電電流は徐々に増加していくが、抵抗R2の電圧が図11に示す電流制限用トランジスタQ4がONになるベースエミッタ間電圧の約0.6V(図8のV2)に達するとトランジスタQ4はONになり、トランジスタQ2のベース電圧を引き下げる方向に働き、これによりトランジスタQ1のゲート電圧にネガティブなフィードバック制御が働くため、結果として抵抗R2に流れる電流I2がI2=約0.6V/R2の式で表せる値に達したとき放電電流は一定となる。
【0056】
上記した回路の動作により、前記放電電流は一定に制限することができるため、短時間で緩やかに、前記ケーブルL1、L2のインダクタ成分に一定の鉛蓄電池BTへの充電のためのパルス発生エネルギーを蓄積することが可能になる。
【0057】
次に、図8に示すように、パルス発生回路出力波形がHI(Vcc)レベルからLOW(0V)レベルへ変化すると図11のノードN2に接続されたトランジスタQ1、Q2へのベース電圧が入力抵抗R5、スピードアップコンデンサーC4を通じて下降する。これによりトランジスタQ2はOFFになりトランジスタQ3はONになる。
【0058】
トランジスタQ3がONになるとトランジスタQ3のエミッタ電圧は下降し、トランジスタQ3のエミッタ出力には抵抗が存在しないのでコンデンサーC5に蓄積された電荷を急峻に引き抜くことにより、トランジスタQ1のゲート電圧が急峻に下降する。このとき、トランジスタQ1は速やかにOFFになり、トランジスタQ1に直列に接続されたケーブルL1、L2のインダクタ成分に蓄積されたエネルギーが逆起電圧方向に鉛蓄電池BTを充電するためのパルス電流を発生する。
【0059】
上述したように図11の回路構成により鉛蓄電池BTへ安定した高速なパルス電流の充放電が可能となり、かつパルスの充電電流のみを極大化した硫酸鉛皮膜除去に有効なパルスを発生することができる。
【0060】
次に、第5実施形態の一例について、図12に基づいて説明する。なお、第5実施形態では、第1実施形態と異なる部分のみ説明し、同じ部分の説明を省略する。第5実施形態において、図12は前記パルス発生回路107を疑似乱数発生回路としたときの出力波形である。前記疑似乱数発生回路は前記周期T1内に必ず1つのパルスを含み、かつ図12中に記しているt1、t2、t3といったパルス発生時間を前記周期T1内でランダムにすることができる。これにより、外部へのノイズスペクトルの周波数拡散を行うことが可能になる。
【0061】
図1の表示器104は前記鉛蓄電池の蓄電残容量を表示するためのものであり、液晶表示器として残量数値を表示しても良いし、3原色LEDとして蓄電残容量に応じて点灯色を変化させても良い。
【0062】
なお、以上説明した各手段は上述した構成に限定されるものではなく、上記した各機能を有するものであれば、どのような構成や形態であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、鉛蓄電池の電極に形成された硫酸鉛皮膜を除去する硫酸鉛皮膜除去装置に適している。
【符号の説明】
【0064】
10・・・ 硫酸鉛皮膜除去装置
100・・・ マイクロコンピュータ
101・・・ 電源回路
102・・・ 波形整形回路
103、110・・・ 電流制限回路
104・・・表示器
105・・・演算制御処理装置
106・・・AD変換器
107・・・パルス発生回路
120・・・パルス発生手段
BT・・・鉛蓄電池
S1・・・鉛蓄電池の正側出力端子
S2・・・鉛蓄電池の負側出力端子
P1・・・硫酸鉛皮膜除去装置の正側接続端子
P2・・・硫酸鉛皮膜除去装置の負側接続端子
L1・・・正側ケーブル
L2・・・負側ケーブル
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8・・・抵抗
C1、C2、C3、C4、C5・・・コンデンサ
Vcc・・・電源回路出力端子
GND・・・硫酸鉛皮膜除去装置の電圧基準端子
D1・・・ショットキーダイオード
Q1・・・Nチャンネル型電界効果トランジスター
Q2、Q3、Q4・・・バイポーラトランジスター
N1、N2・・・接続ノード
Tw・・・パルスON時間
T1・・・パルス周期
V2・・・抵抗R2に発生する電圧
I2・・・鉛蓄電池の放電電流値
IP・・・鉛蓄電池の充電電流の尖頭値
t1、t2、t3・・・パルス発生時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池にパルス電流を充放電して、パルス鉛蓄電池の電極に形成された硫酸鉛皮膜を除去する装置であって、前記鉛蓄電池の電圧を検出するための電圧検出手段と、前記鉛蓄電池にパルス電流を充放電するためのパルス発生手段と、前記パルス発生手段を制御するための演算制御処理装置と、前記鉛蓄電池の蓄電残容量を判別するための値を記憶した記憶手段を具備し、前記演算制御処理装置は、前記鉛蓄電池の電圧値と前記鉛蓄電池の蓄電残容量を判別するための値を演算比較し、比較結果から判定される結果に応じて前記パルス発生手段から所定時間に出力されるパルス数を増減または停止することを特徴とする硫酸鉛皮膜除去装置。
【請求項2】
前記記憶手段には複数の異なる鉛蓄電池の公称電圧を判別するための値が記憶され、前記演算制御処理装置は、前記鉛蓄電池の電圧値と前記複数の異なる鉛蓄電池の公称電圧を判別するための値を演算比較し、前記鉛蓄電池の公称電圧を自動判別することを特徴とする請求項1に記載の硫酸鉛皮膜除去装置。
【請求項3】
前記硫酸鉛皮膜除去装置は時間を計時する計時手段を具備し、前記硫酸鉛皮膜除去装置は所定時間後に、前記所定時間に出力されるパルス数を減少または固定化することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硫酸鉛皮膜除去装置。
【請求項4】
前記パルス発生手段から発生するパルスは時間不均一に発生するパルスであることを特徴とする請求項1及至請求項3のいずれか1項に記載の硫酸鉛皮膜除去装置。
【請求項5】
前記パルス発生手段は前記鉛蓄電池に直列接続される前記パルス電流を充放電するためのスイッチ素子を備え、前記スイッチ素子により行われる前記パルス電流の放電電流を緩やかに、充電電流を急峻にするための波形整形回路を具備するとともに、前記放電電流の最大値を所定の電流値に制限するための電流制限回路を具備することを特徴とする請求項1及至請求項4のいずれか1項に記載の硫酸鉛皮膜除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−77393(P2013−77393A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215264(P2011−215264)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(511236109)センシンテクノ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】