説明

鉛蓄電池包装体

【課題】Sbを含まない、Pb−Ca系合金を正極および負極の格子体に用いた鉛蓄電池の保管中における自己放電を抑制すること。
【解決手段】正極板および負極板がPb−Ca系合金からなる格子体を備えた鉛蓄電池1を気密性を備えた包装体22で密閉包装する。この包装体として、耐酸性合成樹脂フィルムや、内面に耐酸性コート層を有した箱体を用いる。好ましくは、鉛蓄電池内の電解液量が正極板および負極板が電解液から露出する状態に設定し、さらに好ましくは、包装体内部を酸素を含まない、N2等の不活性ガスで置換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池の包装された鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジン始動用やバックアップ電源用といった様々な用途に鉛蓄電池が用いられている。鉛蓄電池はアルカリ蓄電池に比較して良好な自己放電特性を有している。しかしながら、その流通過程で長期間保管する間に自己放電が進行し、電池を使用する際に保充電が必要となる場合があった。したがって、鉛蓄電池において自己放電をさらに抑制することは、依然として重要な技術的課題である。
【0003】
鉛蓄電池の正極および負極の格子体として用いる合金として、主にPb−Sb系合金とPb−Ca系合金を代表とするSbを含まないPb合金の2種類がある。Pb−Ca系合金といった、Sbを含まないPb合金を格子体に用いることにより、鉛蓄電池の自己放電量をPb−Sb系合金を格子体に用いた電池の1/2〜1/3程度にまで低減することができる長期保存が可能なため今日、市場で多く使われるようになっている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、鉛蓄電池はその流通形態において、温度管理がなされない倉庫内で長期間在庫されることも多い。特に、温暖な地域では倉庫内の気温は30℃を超えるような高温となることもある。このような、高温雰囲気で鉛蓄電池を在庫する場合、格子合金として、Sbを含まないPb−Ca系合金等のPb合金を用いた場合であっても、自己放電量は多く、補充電が必要なある場合があり、さらに自己放電を低減することが要望されている。
【特許文献1】特開昭60−262365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記したような(Pb−Ca系)合金を格子体に用いた鉛蓄電池において、その流通過程等で長期間保管した場合における自己放電を抑制するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、正極板および負極板がPb−Ca系合金からなる格子体を備えた鉛蓄電池を気密性を有した包装体で密閉包装したことを特徴とする鉛蓄電池包装体を示すものである。
【0007】
また、本発明の請求項2に係る発明は、請求項1の鉛蓄電池包装体において、包装体として、耐酸性合成樹脂フィルムを用いたことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の請求項3に係る発明は、請求項3の鉛蓄電池包装体において、包装体として、内面が耐酸性コート層を有した箱体を用いたことを特徴とするものである。
【0009】
さらに、本発明の請求項4に係る発明は、請求項1〜3の鉛蓄電池包装体において、鉛蓄電池の電解液量が正極板および負極板が電解液から露出する状態に設定したことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の請求項5に係る発明は、請求項4の鉛蓄電池包装体において、電解液量を正極板および負極板の高さ寸法の40%以上が電解液から露出し、かつ正極板および負極板の少なくとも一部が電解液に浸漬した状態とすることを特徴とするものである。
【0011】
そして、本発明の請求項6に係る発明は、請求項1〜5の鉛蓄電池包装体において、包装体内部を酸素を含まない、N2等の不活性ガスで置換したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
前記した本発明の構成によれば、鉛蓄電池の保管中に発生する自己放電を抑制することができるため、工業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態による鉛蓄電池包装体に適用する鉛蓄電池1を示す図、図2は本発明の鉛蓄電池包装体21を示す図である。
【0015】
鉛蓄電池1はPb−Ca合金からなる正極格子(図示せず)と負極格子(図示せず)を有している。これら格子体に活物質が充填され、それぞれ正極板2および負極板3が構成される。
【0016】
なお、鉛蓄電池1の構成例としては、正極板2および負極板3とセパレータ4とを組合せ、同極性極板の集電用耳部5,5´をストラップ13,13´で接合し、極板群とする。これら極板群の必要数が電槽6に収納され、蓋7で電槽6の開口部を覆っている。蓋7には電池内部へ電解液を注液するための注液口8が設けられている。注液口8から電解液を注液し、鉛蓄電池1の電槽化成を行う。この後液面調整等をへて、注液口8に電池内部のガスを排出するための排気用の小孔10が設けらた排気栓9が装着されたものを用いることができる。
【0017】
なお、図2の例では、注液口8毎に排気栓9が装着された例を示したが、複数の注液口に一括して装着される、一括排気栓を装着したものでもよい。
【0018】
本発明の鉛蓄電池包装体21は図2に示したように、鉛蓄電池1を気密性を有した包装体22で密封包装した構成を有する。
【0019】
包装体22としては、耐酸性を有した合成樹脂フィルムを用いることができる。耐酸性を有した合成樹脂フィルムとしては、ポリエチレン樹脂フィルムやポリプロピレン樹脂フィルムを用いることができる。これらの材質で袋状に構成した包装体22に鉛蓄電池1を収納し、開口部を密封する。
【0020】
密封の方法としては熱溶着によるものが簡便であり、好ましい。上記したポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂は熱可塑性樹脂であり、それ自体で熱溶着性を有するため、これらいずれかの合成樹脂の単層フィルムを用いることができる。また、フィルム自体の機械的強度や熱溶着部の強度を考慮し、ポリプロピレン樹脂層上にポリエチレン樹脂層を形成したものや、PET樹脂上にポリエチレン樹脂層を形成したものも用いることができる。
【0021】
包装体21は鉛蓄電池1を密封し、大気から遮断することによって、外気中の酸素の包装体21内への透過と、鉛蓄電池1内の電解液水分の包装体21外への透過を抑制し、鉛蓄電池の自己放電を抑制する。
【0022】
なお、包装体21の外面に電池品番表示やその他の表示を施すことにより、鉛蓄電池1を個別の外装箱に収納する必要がなくなるため、部品点数削減の面で好ましい。
【0023】
(第2の実施形態)
図3は本発明の第2の実施形態による鉛蓄電池包装体31を示す図である。鉛蓄電池包装体31は前述の鉛蓄電池1と密封する包装体として、内面が耐酸性コート層を有した箱体32を用いる。
【0024】
箱体32としては、紙(天然紙、合成紙)の表面にポリエチレン等の耐酸性樹脂の耐酸性コート層を有したものを用いる。そして、耐酸性コート層を熱可塑性樹脂で構成することにより、箱体32の開口部をヒートシールにより密閉でき、好適である。また、箱体32の形状として、例えば、日本テトラパック株式会社製「テトラ・ブリック・アセプティック」に準じた形状のものを用いることができる。
【0025】
また、第2の実施形態による鉛蓄電池包装体31も第1の実施形態によるものと同様、箱体32の外側に電池品番表示やその他の表示を行うことにより、個別の外装箱に収納する必要がなくなるため、部品点数削減の面で好ましい。
【0026】
箱体32も包装体21と同様、鉛蓄電池1を密封し、大気から遮断することによって、外気中の酸素の箱体32内への透過と、鉛蓄電池1内の電解液水分の箱体32外への透過を抑制し、鉛蓄電池の自己放電を抑制する。
【0027】
なお、第1の実施形態における包装体22および第2の実施形態における箱体32も水分透過や酸素透過をより抑制し、鉛蓄電池1の自己放電率をさらに低減するために、包装体22および箱体32の表面もしくは内部に蒸着等によりAlやSi等の水分透過および酸素透過を抑制する層を形成することが好ましい。
【0028】
(第3の実施形態)
第3の実施形態による鉛蓄電池包装体は、前記した第1および第2の実施形態による鉛蓄電池包装体において、鉛蓄電池1の電解液量が正極板および負極板が電解液から露出する状態に設定したものである。この場合、電解液面11aを境に上部の正極板2と負極板3が電解液11より露出し、下部が電解液11に浸漬した状態となる。
【0029】
正極板2および負極板3の格子合金にPb−Ca系合金を用いた鉛蓄電池は、自己放電を促進するSbを含まないため、Pb−Sb系合金を格子合金に用いた鉛蓄電池と比較して、自己放電は抑制されるが、本実施形態のように、電解液を減らした状態とすることにより、正極板2および負極板3と電解液11とが接している部分が少ないため、自己放電をさらに抑制できる。
【0030】
第3の実施形態において、鉛蓄電池1は、電槽化成終了後、電池本体を反転したり、吸出し等の方法により注液口8を介して適当量の電解液を電池外に排出すればよい。
【0031】
なお、電解液排出後の電解液面11aは、図4に示したように、正極板および負極板の高さ寸法(H)の20%以上が電解液から露出した状態、すなわち、露出部の高さ方向の寸法(x)の高さ寸法(H)の比率を20%以上とし、かつ正極板および負極板の少なくとも一部が電解液に浸漬した設定することにより、自己放電をより顕著に低減することができる。
【0032】
なお、電解液面11aから正極板2および負極板3が露出状態とする場合、電池の使用に先立って、電解液を所定位置(通常はストラップ13,13´上)に調整する。さらに、正極板2と負極板3の少なくとも一部は電解液11に浸漬した構成とする。Sbを有さない、Pb−Ca合金格子を有する正極板をすべて電解液11から露出した状態で保存した場合、電池容量が急激に低下する場合があるため、避けるべきである。
【0033】
このような第3の実施形態では、鉛蓄電池の自己放電がさらに抑制されるとともに、電池重量も低減するため、輸送・保管コストを低減する上で好ましい。
【0034】
なお、上述した第1〜第3の実施形態において、包装体22(箱体32)内を窒素ガスあるいはアルゴンガスといった酸素を含まない、電池活物質や電解液に対して不活性のガスを封入・置換することにより、包装体22(箱体32)の酸素量を低減できるため、自己放電抑制に有効である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により、本発明における効果を説明する。
【0036】
以下に示すような構成でJIS D5301「始動用鉛蓄電池」で規定された55D23形の電池S1〜S8および電池T1〜T8を組み立て、これら電池S1〜S8および電池T1〜T8を用いて電池包装体を作成し、40℃雰囲気下で6ヶ月保存し、保存後の5時間率放電持続時間を測定した。なお、本実施例では、鉛蓄電池が輸送された後に倉庫保管された場合を想定し、電池包装体に振動を加え、その後保存を行った。
【0037】
電池包装体に加える振動は、電池の上下方向に複振幅2.3〜2.5mm、加速度29.4m/s2とし、振動時間を2時間とした。なお、この振動条件はJIS D5301(1999)で規定された耐振動性における振動条件と同一である。
【0038】
(本実施例に用いる電池S1〜電池S8の構成)
本実施例に用いる電池S1は、正極にPb−0.06wt%Ca−1.30wt%Sn合金、負極にPb−0.06wt%Ca−0.30wt%Sn合金のエキスパンド格子をそれぞれ使用した正極板および負極板を用い、正極板5枚および負極板6枚で極板群を構成したものである。
【0039】
セパレータとして孔径数μm以下の微孔を有したポリエチレン製袋状セパレータに負極板を収納した。電槽化成後、電解液量を通常使用されるときの状態の所定電解液量としたものである。この状態において、正極板、負極板およびこれらを集合溶接するストラップはすべて電解液に浸漬された状態であり、1セル当たり700ccとしている。なお、注液口には排気栓を装着した。排気栓には電池内部のガスを排出するための排気用の小孔が設けられている。
【0040】
さらに、電池S1から電解液を抜き出した電池S2〜電池S8を作成した。ここで、図4に示した、電解液11から露出した部分の高さ方向の寸法(x)の高さ寸法(H)に対する比率を露出率とし、この露出率を、電池S2で15%、電池S3で40%、電池S4で55%、電池S5で70%、電池S6で85%、電池S7で99%、電池S8で100%として排気栓を装着した。なお、電池S1における正極板と負極板の電解液からの露出率は0%である。
【0041】
なお、電池S1の電解液量は700ccであり、各電池の電解液量は電池S2で420cc(電池S1の60%)、電池S3で280cc(電池S1の40%)、電池S4で210cc(電池S1の30%)、電池S5で140cc(電池S1の20%)、電池S6で70cc(電池S1の10%)、電池S7で7cc(電池S1の1%)、電池S8で0cc(電池S1の0%)とした。
【0042】
(本実施例に用いる電池T1〜電池T8の構成)
本実施例に用いる電池T1は、前記した電池1において、正極格子および負極格子をPb−2.5%Sb合金の鋳造格子としたものであり、その他の構成は電池1と同様の構成を有する。なお、電池T1における正極板と負極板の電解液からの露出率は0%である。
【0043】
さらに、電池S2〜S8と同様にして、電池T1から電解液を抜き出した電池T2〜電池T8を作成した。ここで、前記した露出率を、電池T2で15%、電池T3で40%、電池T4で55%、電池T5で70%、電池T6で85%、電池T7で99%、電池T8で100%として排気栓を装着した。
【0044】
なお、電池T1の電解液量は700ccであり、各電池の電解液量は電池T2で420cc(電池T1の60%)、電池T3で280cc(電池T1の40%)、電池T4で210cc(電池T1の30%)、電池T5で140cc(電池T1の20%)、電池T6で70cc(電池T1の10%)、電池T7で7cc(電池T1の1%)、電池T8で0cc(電池1の0%)とした。
【0045】
(電池包装体A1〜A8)
比較例の電池包装体A1〜A8は、電池S1〜S8をそれぞれ従来より一般的な電池の包装形態である、ダンボール箱に梱包したものである。ダンボール箱は気密性を有さず、ダンボール箱外と電池内部とは排気栓を通じて導通状態にある。電池S1と電池包装体A1、電池S2と電池包装体A2、電池S3と電池包装体A3、電池S4と電池包装体A4、電池S5と電池包装体A5、電池S6と電池包装体A6、電池S7と電池包装体A7および電池S8と電池包装体A8が互いに対応している。
【0046】
(電池包装体B1〜B8)
比較例の電池包装体B1〜B8は、比較例の電池包装体A1〜A8において、ダンボール箱内に収納された電池S1〜S8の排気栓9上にポリプロピレン粘着テープを貼り付け、排気栓9の小孔をテープで閉塞することにより、電池外部と内部とを密封したものである。ここでは、電池S1と電池包装体B1、電池S2と電池包装体B2、電池S3と電池包装体B3、電池S4と電池包装体B4、電池S5と電池包装体B5、電池S6と電池包装体B6、電池S7と電池包装体B7および電池S8と電池包装体B8が互いに対応している。
【0047】
(電池包装体C1〜C8)
電池包装体C1〜C8は、図2に示したように、鉛蓄電池1としてそれぞれ電池S1〜S8を用い、ポリエチレン樹脂層/Al金属蒸着層/PET樹脂層が積層されたラミネートフィルムの包装体22で密封包装したものである。なお、電池S1と電池包装体C1、電池S2と電池包装体C2、電池S3と電池包装体C3、電池S4と電池包装体C4、電池S5と電池包装体C5、電池S6と電池包装体C6、電池S7と電池包装体C7および電池S8と電池包装体C8が互いに対応している。
【0048】
(電池包装体D1〜D8)
電池包装体D1〜D8は、図3に示したように、鉛蓄電池1としてそれぞれ電池S1〜S8を用い、紙を耐酸性樹脂としてのポリエチレン樹脂層をコートした箱体32で密封したものである。なお、電池S1と電池包装体D1、電池S2と電池包装体D2、電池S3と電池包装体D3、電池S4と電池包装体D4、電池S5と電池包装体D5、電池S6と電池包装体D6、電池S7と電池包装体D7および電池S8と電池包装体D8が互いに対応している。
【0049】
(電池包装体E1〜E8)
電池包装体E1〜E8は、電池包装体C1〜C8において、電池内および包装体22内を窒素ガスで置換した後、密封したものである。なお、電池S1と電池包装体E1、電池S2と電池包装体E2、電池S3と電池包装体E3、電池S4と電池包装体E4、電池S5と電池包装体E5、電池S6と電池包装体E6、電池S7と電池包装体E7および電池S8と電池包装体E8が互いに対応している。
【0050】
(電池包装体F1〜F8)
電池包装体F1〜F8は、図2に示したように、鉛蓄電池1としてそれぞれ正負極格子にPb−Sb合金を用いた電池T1〜S8を用い、ポリエチレン樹脂層/Al金属蒸着層/PET樹脂層が積層されたラミネートフィルムの包装体22で密封包装したものである。なお、電池T1と電池包装体F1、電池T2と電池包装体F2、電池T3と電池包装体F3、電池T4と電池包装体F4、電池T5と電池包装体F5、電池T6と電池包装体F6、電池T7と電池包装体F7および電池T8と電池包装体F8が互いに対応している。
【0051】
(電池包装体G1〜G8)
電池包装体G1〜G8は、電池T1〜T8をそれぞれ従来より一般的な電池の包装形態である、ダンボール箱に梱包したものである。ダンボール箱は気密性を有さず、ダンボール箱外と電池内部とは排気栓を通じて導通状態にある。電池T1と電池包装体G1、電池T2と電池包装体G2、電池T3と電池包装体G3、電池T4と電池包装体G4、電池T5と電池包装体G5、電池T6と電池包装体G6、電池T7と電池包装体G7および電池T8と電池包装体G8が互いに対応している。
【0052】
表1および表2に上記の各電池の保存後の5時間率放電持続時間を示す。なお、電池の中であらかじめ電解液を抜いた電池については放電する前に排出した分の電解液を補充した後、放電を行った。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

表1および表2に示した結果から、まず所定電解液量で保存された電池包装体A1、B1、C1、D1、E1およびF1では、本発明例による電池包装体C1、D1およびF1は3.4時間以上放電することができ、比較例による電池包装体A1の120%以上の放電持続時間を有しており、自己放電特性が顕著に改善されている。
【0055】
電池包装体A1においては保存中に排気栓を通じて、電池外部より空気中の酸素が電池内に流入し電解液中に溶存することにより、負極板の自己放電を加速させたと推測できる。一方で、本発明例による電池包装体C1、D1およびF1は、空気中の酸素の電池内への流入が抑制され、これにより自己放電が抑制されたと考えられる。
【0056】
これは、特に、包装体内および電池内を窒素で置換した本発明例の電池包装体F1がより優れた残存放電持続時間を有していることからも推測できる。
【0057】
一方、電池包装体F1では、正負の格子体にPb−Sb合金を用いた、アンチモン系の電池が用いられているために、もともとの自己放電が大きく、包装体で密封してもPb−Ca合金を用いた場合に比べて、自己放電特性を抑制する効果が顕著ではない。
【0058】
また電池包装体A2〜A8および電池包装体G2〜G8を除く各電池包装体において、内部に収納する電池の残存電解液を減少させ、正極板および負極板が電解液面から露出した状態、かつ正極板および負極板の一部が電解液に浸漬された状態で保存したものでは、自己放電の原因となる硫酸量が減少し自己放電反応が抑制されるため自己放電が少なくなり、保存後の放電持続時間を長くすることができる。
【0059】
比較例の電池包装体A2〜A7およびG2〜G7のように、正極板と負極板の一部が電解液から露出し、かつ少なくとも一部が電解液に浸漬され、かつ、電池内部と外部を密封しない場合、保存中に外部酸素により負極板が酸化されるため、残存電解液量が少なくなるほど残存放電持続時間は著しく低下する。したがって、本発明において、特に電解液量を少なくし、正極板と負極板が電解液から露出させた状態で保存する形態において本発明の効果はさらに著しいものがある。
【0060】
ただし、Pb−Ca合金を用いた電池を用い、電池内部と外部とを密封した場合であっても、残存電解液を全く有さない電池包装体B8、C8、D8およびE8では、残存放電持続時間が低下する減少が見られた。したがって、残存電解液を有し、正極板および負極板の少なくとも一部が電解液に浸漬した状態であることが必要である。
【0061】
一方で、Pb−Sb合金を用いた電池では、残存電解液を全く有さない電池包装体F8およびG8では、残存電解液を有したものと比較して残存放電持続時間が増加していた。
【0062】
本発明においては、残存電解液量を少なくすることにより、正極板および負極板の電解液からの露出率を40%以上としたときに、特に残存放電持続時間が長くなり、より顕著に自己放電抑制効果を得ることができる。
【0063】
さらに、電池包装体E1〜E7のように、保存前の初期に包装体内部を不活性ガスである窒素と置換し、負極活物質が酸化される機会をさらに低減したために、保存後の残存放電持続時間をさらに改善することができる。
【0064】
なお、電池包装体B1〜B7については、電池包装体C1〜C7等の密閉機能を、排気栓上部をポリプロピレン粘着テープで塞ぐことによって、より簡便に得ようとしたものである。しかしながら、表1に示した結果を見ると、本発明による電池包装体に比較して、残存放電持続時間が短く、自己放電特性の面で劣っている。
【0065】
これから、排気栓部をテープで覆ったのみでは、テープおよびその周辺からの酸素の侵入を完全に抑えることが難しいためと考えられる。特に、本実施例にように、輸送を想定した振動が加わる場合、排気栓に付着した電解液の飛沫が排気用の小孔から滲出する場合がある。粘着テープは裏面の粘着剤層を介して、排気栓上部を覆っているものの、滲み出た電解液が粘着剤層に浸透し、気密性が低下すると推測される。
【0066】
また、この粘着テープで覆う方法では、保存中に電池内に滞留した酸素ガスが負極板で吸収されるため、電池内圧力が周囲と比べて低くなる。そのために保存中に電槽が変形する。このような内圧の低下による電槽の変形は、電槽本体とともに、電槽と蓋との接合部に応力が常にかかるため、好ましくない。
【0067】
このような電池内圧の低下は、また、吸収された酸素ガスの体積と電池内容積によって、変化するが、本発明では、電池内と包装体内とが連通しているため、電池内圧の低下量は酸素ガスの体積と包装体内の気体体積によって決定づけられる。したがって、電池内の気体体積に比較して、包装体内の気体体積はより大きく、このような電池内圧の低下を要請することができる。
【0068】
また、包装体内を酸素ガスを含まない、窒素ガス等の不活性ガスで置換することにより、このような電池内圧の低下をより抑制することができる。
【0069】
さらに本発明のもうひとつの大きな効果は、従来のようなダンボールでの包装形態と比べて、輸送中あるいは保管中に誤って転倒させたときにも電解液である希硫酸が外部に飛散することを防止でき、周囲を破損するのを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
前記したように、本発明によれば、電池保管中における自己放電を抑制できることから、始動用鉛蓄電池をはじめとする、様々な鉛蓄電池に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】鉛蓄電池を示す一部破載図
【図2】本発明の第1の実施形態による鉛蓄電池包装体を示す図
【図3】本発明の第2の実施形態による鉛蓄電池包装体を示す図
【図4】電解液面と極板との位置関係を示す図
【符号の説明】
【0072】
1 鉛蓄電池
2 正極板
3 負極板
4 セパレータ
5,5´ 集電用耳部
6 電槽
7 蓋
8 注液口
9 排気栓
10 小孔
11 電解液
11a 電解液面
13,13´ ストラップ
21 第1の実施形態による鉛蓄電池包装体
22 包装体
31 第2の実施形態による鉛蓄電池包装体
32 箱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板および負極板がPb−Ca系合金からなる格子体を備えた鉛蓄電池を気密性を有した包装体で密閉包装したことを特徴とする鉛蓄電池包装体。
【請求項2】
前記包装体として、耐酸性合成樹脂フィルムを用いたことを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池包装体。
【請求項3】
前記包装体として、内面が耐酸性コート層を有した箱体を用いたことを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池包装体。
【請求項4】
前記鉛蓄電池の電解液量が正極板および負極板が電解液から露出する状態に設定したことを特徴とする請求項1〜3に記載の鉛蓄電池包装体。
【請求項5】
前記電解液量を正極板および負極板の高さ寸法の40%以上が電解液から露出し、かつ正極板および負極板の少なくとも一部が電解液に浸漬した状態に設定したことを特徴とする請求項4に記載の鉛蓄電池包装体。
【請求項6】
前記包装体内部を酸素を含まない、N2等の不活性ガスで置換したことを特徴とする請求項1〜5に記載の鉛蓄電池包装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−269087(P2006−269087A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80948(P2005−80948)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】