説明

鉛蓄電池及びその製造方法

【構成】
正極格子と正極活物質とから成る正極板と、負極格子と負極活物質とから成る負極板と、電解液とを備える鉛蓄電池での、負極活物質は、化成済み負極活物質の乾燥時重量を基準として水銀圧入法で測定した全細孔容積が0.15cm3/g〜0.20cm3/gで、負極活物質の全細孔中で細孔直径が0.01μm〜1μmの細孔が占める割合が50vol%以上である。
【効果】
ハイレート充放電に対するサイクル寿命性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉛蓄電池とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活物質の多孔度は鉛蓄電池の性能に関与する要素の一つである。例えば特許文献1(JPH06-176761A)は、正極活物質の多孔度を増して正極活物質中に含まれる電解液量を増すと、高率放電容量を増すことができると記載している。特許文献1は、従来例として、吸水性高分子、シリカ、グラファイト、ガラス繊維等の保液性物質を添加することを指摘し、これらの保液性物質はコストが高く、かつ活物質との結合が弱いため活物質の強度を低下させることを指摘している。そして特許文献1は、杉の木粉を200-500℃で炭化した炭化木粉を鉛蓄電池の正極活物質に添加することを提案し、例えば32-42メッシュの炭化木粉を添加することにより、鉛蓄電池の容量が増すとしている。
【0003】
特許文献2(JP2003-86178A)は、未化成の負極活物質(熟成及び乾燥後の負極ペースト)の全細孔容積と平均細孔径との、大電流放電の持続時間への影響を検討している。特許文献2によると、全細孔容が0.11cm/g〜0.14cm/gで、平均細孔径が0.95μm〜1.3μmとすると、ハイレート放電特性が向上するとしている。また特許文献2では、平均細孔径を小さくすると全細孔容積が減少すると共に、ハイレート放電の持続時間も短くなるとのデータを記載している。
【0004】
ところで近年の鉛電池の使われ方として、アイドリングストップモード等の、満充電されていない状態で大電流で充放電を繰り返す使われ方が普及するようになった。満充電されていない状態で大電流での充放電を繰り返し行うと、負極活物質内に還元が困難な硫酸鉛が析出することにより、鉛蓄電池が早期に寿命を迎えるサルフェーションが主要な寿命要因の一つとなる。発明者らは、正極活物質の多孔度を増す従来技術と同様に、負極活物質の多孔度を増すことにより、大電流での充放電を伴う使われ方での、鉛蓄電池の性能を向上させることを検討した。以下、大電流での充放電をハイレート充放電という。この検討で、直径が0.01μm〜1μmの小さな細孔が占める割合を増すことにより、ハイレート充放電を繰り返した際の寿命性能を向上させることができることが判明し、この発明に到った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】JPH06-176761A
【特許文献2】JP2003-86178A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の課題は、ハイレート充放電に対する鉛蓄電池の寿命性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の鉛蓄電池は、正極格子と正極活物質とから成る正極板と、負極格子と負極活物質とから成る負極板と、電解液とを備える鉛蓄電池において、
前記負極活物質は、化成済み負極活物質の乾燥時重量を基準として水銀圧入法で測定した全細孔容積が0.15cm3/g〜0.20cm3/gで、負極活物質の全細孔中で細孔直径が0.01μm〜1μmの細孔が占める割合が50vol%以上であることを特徴とする。
【0008】
この発明の鉛蓄電池の製造方法は、負極格子に負極活物質ペーストを充填し負極板とするステップと、正極格子に正極活物質ペーストを充填し正極板とするステップと、充填済みの負極板と正極板とを熟成及び乾燥するステップと、熟成及び乾燥済みの負極板と正極板とに充電するステップ、とを行う鉛蓄電池の製造方法において、
前記負極活物質ペーストを充填するステップで、微粒子を含有する負極活物質ペーストを充填することにより、化成済み負極活物質の乾燥時重量を基準として水銀圧入法で測定した全細孔容積を0.15cm3/g〜0.20cm3/g、負極活物質の全細孔中で、細孔直径が0.01μm〜1μmの細孔が占める割合を50vol%以上とすることを特徴とする。
【0009】
従来技術の鉛蓄電池では、負極活物質中の細孔には直径が2〜3μm程度のものが多量に含まれており、直径1μm以下の細孔が占める割合は全細孔容積の30%程度である。これに対して、直径が0.01μm〜1μmの小さな細孔が占める割合を増すと、
・ 放電時に硫酸鉛が析出するサイトが増すことと、小さな細孔内で硫酸鉛の粒子が成長するため、硫酸鉛の粒子が微細になる。
・ 硫酸鉛の粒子が微細になると、大電流で硫酸鉛を金属鉛に還元する大電流充電が容易になる。
・ 従って、ハイレート充放電でのサイクル寿命性能を向上させることができる。
【0010】
好ましくは、前記負極活物質は、平均粒子径が0.02μm以上で0.1μm以下の微粒子を、2質量%以上で7質量%以下含有する。直径が0.01μm〜1μmの細孔が占める割合を増すための手法の一つは、微粒子を負極活物質に含有させることにより、大きな細孔を塞ぐとと共に、小さな細孔を大量に発生させることである。特に平均粒子径が0.02μm以上で0.1μm以下の微粒子を含有させることにより、細孔直径が0.01μm〜1μmの細孔が占める割合を増すことができる。そしてその含有量を2質量%以上で7質量%以下とすると、ハイレート充放電でのサイクル寿命性能を特に高くできる。微粒子は例えばTiO2、シリカ、アルミナ、カーボンブラック等とするが、その種類は任意である。この明細書において、鉛蓄電池に関する記載は鉛蓄電池の製造方法にもそのまま当てはまり、逆に鉛蓄電池の製造方法に関する記載は鉛蓄電池にもそのまま当てはまる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例(試料No.11 TiO2 0.05μm×4.0質量%)での細孔直径に対する微分空孔量を示す図
【図2】比較例(試料No.1 TiO2 1.0μm×0.1質量%)での細孔直径に対する微分空孔量を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
【実施例】
【0013】
微粒子として、電子顕微鏡を用いて実測した1次平均粒子径(以下単に、平均粒子径)が0.05μm,0.1μm,2μmのTiO2を負極活物質に含有させ、負極活物質の全細孔容積と細孔径の分布とを調整した。負極格子としてPb-Ca-Sn合金を用い、ボールミル法で製造した鉛粉にTiO2微粒子と、リグニンと硫酸バリウムとポリプロピレン繊維とを添加した。0〜8質量%のTiO2微粒子を含み、リグニン含有量は0.2質量%、硫酸バリウム含有量は0.6質量%、ポリプロピレン繊維含有量は0.1質量%となるように、鉛粉含有量を調整した。上記の組成の負極活物質原料粉体100質量%に対し、20℃で比重が1.40の硫酸20質量%とイオン交換水80質量%とを加えて混練し、負極活物質ペーストとした。負極活物質ペーストを上記の負極格子に充填し、50℃相対湿度50%で50時間熟成後に、50℃相対湿度20%で30時間乾燥させて、未化成の負極板とした。各負極活物質は、TiO2含有量が異なる他は同じ組成で、かつ負極板を化成するまでの条件も同じである。TiO2に替えて、シリカ、アルミナ、カーボンブラック等の他の微粒子を用いても良い。負極格子の組成、鉛粉の製造方法とその酸化度、微粒子以外の鉛粉への添加物等は任意である。また微粒子は負極活物質ペーストに添加しても良いが、鉛粉に微粒子を混合した後にペースト化すると、分散性が向上するので好ましい。
【0014】
定法に従い正極板を作成した。正極格子にはPb-Ca-Sn合金を用い、正極活物質ペーストとして、鉛粉に補強剤を加え硫酸とイオン交換水とを加えて混練したものを正極格子に充填し、熟成と乾燥とを施して、未化成の正極板とした。正極板の組成と製造条件は、全ての試験例で共通である。また正極板の組成と製造条件は任意である。
【0015】
未化成の負極板1枚をガラスセパレータで包み、両側から2枚の正極板で挟み、圧迫力を加えながら電槽に挿入した。次いで所定量の希硫酸を加え、0.1Aで20時間充電することにより、単セル型の化成済みの制御弁式鉛蓄電池を作成した。なお制御弁式に替えて液式の鉛蓄電池でも良く、電解液にはAl3+イオン、Na+イオン等を含有させても良い。
【0016】
負極活物質の重量、細孔容積の測定等では、化成済み(使用を開始した後の鉛蓄電池では再充電済み)の負極板から負極活物質を取り出し、水洗により電解液を洗い流した後に乾燥させたものを用いた。負極活物質の重量は乾燥後の重量で、全細孔容積と細孔径の分布は水銀圧入法で乾燥後の負極活物質に対して測定した。
【0017】
鉛蓄電池の5hR放電容量は0.6Ahで、この容量に対して3CAのハイレート放電を、25℃の水槽中で電圧が1.0Vを下回るまで行った。ハイレート放電後に0.06A×15時間の充電により満充電状態とし、次いで25℃の水槽中で3CA×5分間の放電と、3CA×5分間の充電とを繰り返し、放電の終期電圧が1.0Vを下回るまでのサイクル数を、ハイレート充放電サイクル寿命として測定した。これらの測定では、試料を3個ずつ用い、結果はその平均で表す。結果を表1に示し、寿命性能はハイレート充放電でのサイクル寿命を、試料No.1(比較例1)の性能を100とする相対値で示す。
【0018】
図1(試料No.11 TiO2 0.05μm×4.0質量%)及び図2(試料No.1 TiO2 1.0μm×0.1質量%)は、TiO2微粒子の細孔容積分布への影響を示す。縦軸でのVは細孔容積を、Dは細孔直径を示す。TiO2微粒子の含有量が僅かな図2の比較例では、細孔容積は直径が2〜3μm付近に集中し、直径1μm以下の細孔が占める割合は30vol%である。またTiO2微粒子の含有量を0としても、細孔容積の分布は図2とほぼ同じで、含有量が0.1質量%以下の微粒子は負極活物質の細孔にほとんど影響を与えないことが分かった。これに対して、図1のようにTiO2微粒子を4質量%含有させると、細孔直径が2〜3μmのピークは消失し、分布のピークは直径が0.1μm付近へ移動し、ピークの0.1μmは含有させたTiO2の平均粒子径の0.05μmよりもやや大きい。また全細孔容積は0.12cm3/gから0.17cm3/gへと増加した。
【0019】
微粒子の影響を表1に示す。平均粒子径の影響を検討すると、微粒子の平均粒子径を2.0μmとした場合(試料No.15-No.16)、ハイレート充放電でのサイクル寿命性能の向上は僅かである。これに対して微粒子の平均粒子径を0.1μm及び0.05μmとすると、ハイレート充放電でのサイクル寿命性能が著しく向上する。図1から明らかなように、微粒子の平均粒子径よりもやや大きな細孔が増加し、この一方で平均粒子径が0.02μmよりも小さな微粒子は製造が難しいので、微粒子の平均粒子径は0.5μm〜0.02μmが好ましく、より好ましくは0.3μm〜0.02μmとし、特に好ましくは0.1μm〜0.02μmとする。
【0020】
【表1】

【0021】
微粒子の含有量の影響を検討すると、0.4質量%(試料No.1,2)ではハイレート充電でのサイクル寿命性能は不十分で、0.9質量%以上8質量%以下で寿命性能が向上し、特に2〜7質量%含有させると(試料No.4-7,No.10-13)、寿命性能は著しく向上する。従って、微粒子に関して最も好ましい条件は、平均粒子径が0.1μm〜0.02μmで、負極活物質中の含有量が2質量%〜7質量%であり、この時、直径が0.01〜1μmの細孔が全細孔容積に占める割合は61〜76vol%、全細孔容積は0.16cm3/g〜0.19cm3/gである。
【0022】
微粒子のハイレート充放電でのサイクル寿命性能への影響を、発明者は以下のように推定した。
(1) 図1のように、微粒子を含有させることにより大きな細孔が減少し、小さな細孔が細孔径分布の中心になると、放電時に硫酸鉛が生成するサイトが増すと共に細孔径が小さいので、硫酸鉛が大きな粒子まで成長し難くなる。
(2) 硫酸鉛が微細な粒子のままでとどまっていると、充電による金属鉛への還元が容易になり、サルフェーションが進行し難くなる。
【0023】
以上のように、実施例では平均粒径が0.1〜0.05μmのTiO2微粒子を0.9質量%以上で8質量%以下、好ましくは2.0質量%以上で7質量%以下含有させることにより、ハイレート充放電に対するサイクル寿命性能を向上させることができる。なおTiO2に替えて、例えば平均粒子径が0.08μmのシリカを負極活物質中に3質量%含有させても、同様にハイレート充放電寿命を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極格子と正極活物質とから成る正極板と、負極格子と負極活物質とから成る負極板と、電解液とを備える鉛蓄電池において、
前記負極活物質は、化成済み負極活物質の乾燥時重量を基準として水銀圧入法で測定した全細孔容積が0.15cm3/g〜0.20cm3/gで、負極活物質の全細孔中で細孔直径が0.01μm〜1μmの細孔が占める割合が50vol%以上であることを特徴とする、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記負極活物質は、平均粒子径が0.02μm以上で0.1μm以下の微粒子を、2質量%以上で7質量%以下含有することを特徴とする、請求項1の鉛蓄電池。
【請求項3】
負極格子に負極活物質ペーストを充填し負極板とするステップと、
正極格子に正極活物質ペーストを充填し正極板とするステップと、
充填済みの負極板と正極板とを熟成及び乾燥するステップと、
熟成及び乾燥済みの負極板と正極板とに充電するステップ、とを行う鉛蓄電池の製造方法において、
前記負極活物質ペーストを充填するステップで、微粒子を含有する負極活物質ペースト鉛粉を充填することにより、化成済み負極活物質の乾燥時重量を基準として水銀圧入法で測定した全細孔容積を0.15cm3/g〜0.20cm3/g、負極活物質の全細孔中で、細孔直径が0.01μm〜1μmの細孔が占める割合を50vol%以上とすることを特徴とする、鉛蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−89478(P2013−89478A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229426(P2011−229426)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】