説明

鉛蓄電池用ブッシング

【課題】電池蓋とブッシングとの間の密着性を向上させ、電解液の染み出しを防止する。
【解決手段】電極を保持する筒状のブッシング本体2の外周面に周方向に延びる複数の環状突起3A〜3Fを一体に備え、これら環状突起3A〜3Fが樹脂製の電池蓋30にインサートされる鉛蓄電池用のブッシング1において、隣接する環状突起3D,3Eの間に、ブッシング本体2の軸心Oから外側に向けて徐々に幅広となる楔型の突起6,6を一体に備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用や産業用などに用いられる鉛蓄電池に係り、特に、鉛蓄電池用ブッシングに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用や産業用などに用いられる鉛蓄電池は、合成樹脂製の電槽と、この電槽の上部に融着または接着されて当該電槽を閉じる合成樹脂製の電池蓋とを備えている。これら電槽および電池蓋は、ABS樹脂あるいはポリプロピレン(PP)樹脂などの合成樹脂で製作されている。通常、電池蓋の上部には端子部が設けられ、この端子部は、電槽内から外部へと延在する鉛合金製の極柱(電極)と、この極柱が挿入された鉛合金製のブッシングとを備えている。このブッシングはインサート成形により電池蓋に一体化され、極柱がブッシングに電槽の外部において溶接されて保持されている。
【0003】
インサート成形時には、極柱を保持するブッシング本体を電池蓋の樹脂材料内にインサートして成形される。しかし、ブッシングの金属材料と電池蓋の樹脂材料との間には実質的に接着力が生じることがない。このため、ブッシング本体の外周に環状突起を上下複数段に形成し、これら環状突起の形成部を電池蓋の樹脂内にインサートすることにより、電槽内の電解液が這い上がって端子部に染み出すことを防止している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−235050公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したように、ブッシング本体の外周に複数の環状突起を設けた場合であっても、ブッシングと電池蓋との境界面には微小な隙間が生じるため、時間の経過と共に、その隙間を通して電槽内の電解液が這い上がって端子部に染み出す虞があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、電池蓋とブッシングとの間の密着性を向上させ、電解液の染み出しを防止できるブッシング、及び、鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、電極を保持する筒状のブッシング本体の外周面に周方向に延びる複数の環状突起を一体に備え、これら環状突起が樹脂製の電池蓋にインサートされる鉛蓄電池用ブッシングにおいて、隣接する前記環状突起の間に、前記ブッシング本体の軸心から外側に向けて徐々に幅広となる楔型の突起を一体に備えたことを特徴とする。
【0007】
また、上記構成において、前記楔型の突起は、鋳型のパーティングライン上に、一対形成される構成としても良い。
また、前記楔型の突起は、前記環状突起のうち、下方に位置して隣接する環状突起の間に形成されている構成としても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、環状突起の間に、ブッシング本体の軸心から外側に向けて徐々に幅広となる楔型の突起を一体に備え、楔型の突起が樹脂製の電池蓋にインサートされる部分でアンカー効果が得られ、ブッシングと電池蓋との密着性が向上するため、電解液の染み出しを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係る鉛蓄電池用ブッシングを用いて構成した鉛蓄電池の端子部の断面図である。
【図2】鉛蓄電池用ブッシングの正面図である。
【図3】図1のIII−III断面図である。
【図4】図1のIV−IV断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係る鉛蓄電池について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るブッシング1を用いて構成した鉛蓄電池の端子部10の断面図である。
鉛蓄電池(不図示)は、合成樹脂製の電槽(不図示)と、この電槽の上部に融着されて当該電槽を閉じる合成樹脂製の電池蓋30と、この電池蓋30に設けられる一対の端子部10とを備えて構成され、上記電槽には複数の正極板と複数の負極板をセパレータを介して交互に積層してなる極板群が収納され、希硫酸等の電解液が満たされている。
端子部10は、電池蓋30を樹脂成形する際にインサート成形によって電池蓋30に一体化される鉛または鉛合金からなる中空円筒状のブッシング1と、ブッシング1に挿入されて溶接される柱状の電極11とを備えている。
【0011】
図2は、ブッシング1の正面図である。
ブッシング1は、図1及び図2に示すように、鉛合金からなる中空円筒状のブッシング本体2と、このブッシング本体2の外周に一体に上下複数段に突出形成された環状突起3とを備えている。各環状突起3は、ブッシング本体2の周方向に連続して延びる鍔形状の突起であり、互いに隣り合う環状突起3間は環状溝4となっている。
本実施形態では、環状突起3は、上下に並ぶ6段の環状突起3A〜3Fを有している。最上部の環状突起3Aは外径寸法がその下側の環状突起3B〜3Fの外径寸法よりも大きく形成されており、環状突起3B〜3Fの外径寸法は略等しく形成されている。環状溝4は、上から順に5段の環状溝4A〜4Eを有している。そして、最下段の環状溝4E内には、環状突起3Eの下面と環状突起3Fの上面とを上下に連結するリブ5を形成し、環状溝4D内には、環状突起3Dの下面と環状突起3Eの上面とを上下に連結するリブ6を形成している。
環状突起3A〜3Fが電池蓋30に埋め込まれることで、ブッシング1と電池蓋30との境界面の面積が増加し、ブッシング1の固定の強度及びシール性が確保されている。
【0012】
図3は、図1のIII−III断面図である。図3では、電池蓋30は一部分のみが示されている。
図1〜図3に示すように、最下段の環状溝4E内には、環状突起3Eの下面と環状突起3Fの上面とを上下に連結するリブ5,5が形成されている。リブ5,5は一対で設けられ、環状溝4E内で互いに対向する位置、すなわち、周方向に180°間隔となる位置に形成されている。
リブ5,5は、環状溝4Eの底面から径方向に突出する凸部であり、ブッシング1が電池蓋30に埋め込まれた状態では、リブ5の側面部5Aが電池蓋30のインサート成型部の境界面に当接し、ブッシング1の回り止めとして作用する。リブ5,5は、ブッシング1の軸心Oから外径側にかけて両側面部5A,5A間の幅が徐々に狭くなるように形成されており、先細りのテーパー形状となっている。この先細りのテーパー形状は、ブッシング1を鋳造する際に鋳型20(図4)からの抜き勾配として作用するため、容易にブッシング1を鋳型20から取り外すことができる。
【0013】
鉛蓄電池の端子部10には、例えば車両側のハーネス端子などの接続端子が所望の締め付けトルクによって接続される。端子部10は、締付けトルクに対しても空回りすることなく確実に端子部にハーネス端子が固着し、回り止めのリブ5,5を通じて電池蓋30で締付けトルクが受け止められるように構成される。これにより、締付けトルクに対する耐性が向上し、この締付けに伴うブッシング1と電池蓋30の境界面の隙間の広がりが抑制されるため、電解液の染み出しを防止できる。
通常鉛蓄電池の端子部にかかる力としては、ターミナル固定治具(通称ハーネスと呼ぶ)の取り付け時にかかる回転トルクが主であり、端子部にこれに対する抵抗力が要求される。本実施の形態では、締付けトルクに対しても、空回りすることなく確実に電池端子にハーネス端子が固着する。
【0014】
図4は、図1のIV−IV断面図である。図4では、電池蓋30は一部分のみが示されている。
下から2段目の環状溝4D内には、環状突起3Dの下面と環状突起3Eの上面とを上下に連結する突起6,6が形成されている。突起6,6は一対で設けられ、環状溝4D内で互いに対向する位置、すなわち、周方向に180°間隔となる位置に形成されている。また、各突起6は、ブッシング1の周方向において、隣接する各リブ5に対して90°だけ間隔を開けた位置に形成されており、全体として見ると、突起6及びリブ5は、周方向において90°毎に交互に配置されている。
【0015】
突起6,6は、環状溝4Dの底面から径方向に突出する凸部であり、ブッシング1が電池蓋30に埋め込まれた状態では、側面部6Aが電池蓋30のインサート成型部の境界面に当接し、リブ5,5と同様にブッシング1の回り止めとして作用する。突起6,6は、ブッシング1の軸心Oから外径側にかけて両側面部6A,6A間の幅が徐々に広くなるように形成されており、先太りのテーパー形状となっている。すなわち、突起6,6は、ブッシング1の外側に向けて徐々に幅広となる楔型の突起である。
突起6の側面部6Aは、突起6の先端部の幅方向の端6B,6Bを超えて電池蓋30の樹脂が突起6の幅方向の内側に形成される入り込み部7となっている。
【0016】
ブッシング1は、所定形状の金型を用いて、例えば金型温度180〜240℃、鉛合金溶湯温度400〜440℃の条件で重力鋳造により製造される。
図4に2点鎖線で示すように、ブッシング1を製造する鋳型20は、縦割りの2分割で構成され、平面視においてブッシング1の半分の半円の部分に対応する金型20Aと、ブッシング1の残りの半分の半円の部分に対応する金型20Bと、中空円筒を形成用の棒状の金型(不図示)とを備えて構成され、金型20Aと金型20Bとを分割するパーティングラインLは、ブッシング1の軸心Oを通る直線である。
【0017】
突起6,6は、パーティングラインL上に一対で設けられている。詳細には、各突起6は、パーティングラインLを中心線にして対称形状となるように形成されており、鋳型20において1つの突起6の形成に対応する空間部は、金型20A,20Bの両方に形成されている。また、各突起6の基端部においてパーティングラインLに直交するように引いた直交線Nに対する各側面部6Aの角度Pは、90°よりも小さい。
一方、リブ5,5は、ブッシング1の軸心Oを通りパーティングラインLに直交する直線M上に形成されている。金型20A,20Bは、ブッシング1の凝固後に直線Mの延在方向に開かれ、その後、ブッシング1が取り出される。
【0018】
本実施の形態では、突起6,6をパーティングラインL上に設けたため、突起6,6が先太りの形状で入り込み部7を有する構成であっても、入り込み部7に対応する鋳型20の部位が離型の障害にならず、金型20A,20Bを開いて容易にブッシング1を離型できる。このため、金型の構造を複雑にしなくとも、先太りの形状の突起6,6をブッシング1に容易に形成できる。また、既存の金型に突起6,6に対応する部分を追加工することで、容易に突起6,6を形成できる。
また、リブ5,5がパーティングラインLに直交する直線M上に形成されるとともに、先細り形状であるため、ブッシング1を容易に離型できる。
【0019】
鉛蓄電池の使用に伴う発熱等によって端子部10に温度変化が生じると、鉛合金製のブッシング1及び合成樹脂製の電池蓋30の線膨張係数の違いによって、ブッシング1の環状突起3及び環状溝4と電池蓋30との境界面の隙間の大きさが変化し、この隙間を介して電解液が上方に染み上がることがある。
本実施の形態では、熱膨張量の違い等に起因して、突起6を電池蓋30の樹脂部からブッシング1の径方向に引き離すような力が作用したとしても、入り込み部7に電池蓋30の樹脂が入り込んでおりアンカー効果が得られるため、突起6の近傍の部分において電池蓋30の樹脂部とブッシング1との間の隙間が広がることを防止できる。このため、電池蓋30とブッシング1との密着性を確保でき、電解液の染み出しを効果的に防止できる。
【0020】
また、電池蓋30の下面側に近いブッシング1の下部に形成された環状溝4Dに突起6,6を設けたため、電槽内の電解液に近い部分において、電池蓋30を構成する樹脂とブッシング1との密着性を向上できるため、電解液の染み出しを防止できる。
また、突起6,6及びリブ5,5に対応する鋳型20の部位は、溶融した鉛合金(湯)の通り道となり、突起6,6及びリブ5,5が局所的に偏って設けられた場合、湯の流れが不均一になる可能性があるが、本実施の形態では、突起6,6とリブ5,5とを異なる段に設けたため、湯の流れを均一にでき、鋳造性が良い。
さらに、環状溝4Dの突起6と環状溝4Eのリブ5とを周方向において90°毎に交互に配置し、突起6とリブ5とが離れており上下に連続していないため、電解液がリブ5から突起6を伝って上方に移動することを防止でき、電解液の染み出しを防止できる。
【0021】
以上説明したように、本発明を適用した実施の形態によれば、電極11を保持する筒状のブッシング本体2の外周面に周方向に延びる複数の環状突起3A〜3Fを一体に備え、これら3A〜3Fが樹脂製の電池蓋30にインサートされ、隣接する環状突起3Dと環状突起3Eとの間に、ブッシング本体2の軸心Oから外側に向けて徐々に幅広となる楔型の突起6,6を一体に備えたため、楔型の突起6,6が樹脂製の電池蓋30にインサートされる部分において入り込み部7でアンカー効果が得られ、ブッシング1と電池蓋30との密着性が向上する。このため、電解液の染み出しを効果的に防止できる。
【0022】
また、鋳型20のパーティングラインL上に一対の突起6,6が形成されるため、外側に向けて徐々に幅広となる楔型の突起6,6を備えたブッシング1であっても、簡単な金型の構造で製造できる。
なお、縦・横割りの4分割の鋳型を用いることで、パーティングラインL上以外にも、突起6、6を設けることが可能である。
また、突起6,6は、環状突起3A〜3Fのうち、下方に位置して隣接する環状突起3Dと環状突起3Eとの間に形成されているため、電槽内の電解液に近い部分において、電池蓋30を構成する樹脂とブッシング1との密着性を向上できるため、電解液の染み出しを防止できる。
【0023】
なお、上記実施の形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
上記の実施の形態では、突起6,6とリブ5,5とは異なる段に設けるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、突起6,6の周方向の位置はそのままにして最下段の環状溝4Eに突起6,6を移動し、リブ5,5及び突起6,6を最下段の環状溝4Eに設けても良い。
また、上記の実施の形態では、突起6,6は環状溝4Dに形成され、リブ5,5は環状溝4Eに形成されるものとして説明したが、これに限らず、突起6,6が環状溝4Eに形成され、リブ5,5が環状溝4Dに形成されても良い。
さらに、上記の実施の形態では、突起6,6は環状溝4Dに形成されるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、突起6,6は複数段に亘って形成されても良い。例えば、環状溝4D及び環状溝4Bに突起6,6をそれぞれ形成し、その間の環状溝4Cには突起6,6を形成しない構成とし、一段飛ばしで突起6,6を設けても良い。
【符号の説明】
【0024】
1 ブッシング
2 ブッシング本体
3 環状突起
6,6 突起
11 電極
20 鋳型
30 電池蓋
L パーティングライン
O 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を保持する筒状のブッシング本体の外周面に周方向に延びる複数の環状突起を一体に備え、これら環状突起が樹脂製の電池蓋にインサートされる鉛蓄電池用ブッシングにおいて、
隣接する前記環状突起の間に、前記ブッシング本体の軸心から外側に向けて徐々に幅広となる楔型の突起を一体に備えたことを特徴とする鉛蓄電池用ブッシング。
【請求項2】
前記楔型の突起は、鋳型のパーティングライン上に、一対形成されることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用ブッシング。
【請求項3】
前記楔型の突起は、前記環状突起のうち、下方に位置して隣接する環状突起の間に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の鉛蓄電池用ブッシング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−20912(P2013−20912A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155779(P2011−155779)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】