説明

鉛蓄電池用正極板と、その正極板を用いた鉛蓄電池

【課題】 鉛蓄電池の短寿命化の原因となる正極の格子体腐食による正極板の格子耳部の損壊が抑制できる形状の正極板の格子耳部を提供すると共に、このような格子耳部を備える正極板、及び、この正極板を備える制御弁式鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】 正極活物質が充填された格子部と、前記格子部と連続する集電を担う格子耳部から構成される格子体を備えた制御弁式鉛蓄電池用正極板において、前記格子耳部の厚みtが3mm以上で、前記格子耳部の幅w[mm]と厚みt[mm]の比;w/tが2.75以上、且つ、前記格子部に充填された正極活物質の理論容量C[Ah]と前記耳部の断面積S[mm]との比;C/Sが、2.75[Ah/mm]以上、5.00[Ah/mm]以下であることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池用正極板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池の長寿命化に関し、具体的には鉛蓄電池の短寿命化の原因となる正極の格子体腐食による正極板の格子耳部の損壊が抑制できる格子耳部の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
据置用や電力貯蔵用などの長寿命が求められる鉛蓄電池は、主に正極格子の腐食による変形、導電性低下で寿命となることが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
その際、格子耳部には応力が集中して、格子耳部が破損する場合や、破損しかかった格子耳部に電流が集中して、格子耳部の溶断を引き起こす場合があるため、格子耳部には一定の強度、すなわち断面積が確保されている。
【0003】
特に、格子体の腐食が主な寿命制限因子の場合、格子部の厚みを厚くすることでも寿命延伸を図ることもできるが、通常は、格子部を厚くするとともに格子耳部も同様に厚くして、その断面積を確保している。しかしながら、格子部や格子耳部の厚みが厚くなると、鋳造巣が形成されやすくなり、特に格子耳部の鋳造巣から腐食が進行して破断に至った場合、短寿命になってしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−30057号公報
【特許文献2】特開2004−253324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況に鑑み、本発明は鉛蓄電池の長寿命化を図るべく、鉛蓄電池の短寿命化の原因となる正極の格子体腐食による正極板の耳部の損壊が抑制できる形状の正極板の格子耳部を提供すると共に、この格子耳部を備える正極板、及び、この正極板を備える制御弁式鉛蓄電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の発明は、正極活物質が充填された格子部と、その格子部と連続する集電を担う格子耳部から構成される格子体を備えた制御弁式鉛蓄電池用正極板において、前記格子耳部の厚みtが3mm以上で、前記格子耳部の幅w[mm]と厚みt[mm]の比;w/tが2.75以上、且つ、前記格子体に充填された正極活物質の理論容量C[Ah]と前記格子耳部の断面積S[mm]との比;C/Sが、2.75[Ah/mm]以上、5.00[Ah/mm]以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明の第2の発明は、第1の発明における正極板を用いたことを特徴とする制御弁式鉛蓄電池(以下、VRLA電池とも称す。)である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、正極板の格子耳部を格子腐食に強い形状とした制御弁式鉛蓄電池の正極板を提供することによって、鉛蓄電池の長寿命化に大きく寄与し、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】制御弁式鉛蓄電池(VRLA電池)の正極板を構成する格子体の模式図である。
【図2】格子耳部の代表的な形状を示す図である。
【図3】本発明で規定した格子耳部の幅wを説明する図である。
【図4】格子耳部の幅−厚み関係における鋳造巣発生枚数のマッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、VRLA電池に使用される正極板を構成する格子体の模式図を示す。1は格子体、2は格子部、3は格子耳部である。
【0011】
また、格子体1の上端片側に、活物質からの集電をするための格子耳部3が設けられている。
この格子体1の格子耳部3によって形成される格子耳部の代表的な形状を図2に示す。図2において、tは格子耳部12の厚みを表しているが、通常格子耳部12は、その断面が両凸形状のように作製されるために、一義的に格子耳部の幅を決定できない。
そこで、本発明では、図3に示すように、体積を変化させないで格子耳部12の断面形状を長方形とした場合の格子耳部の幅を、格子耳部の幅wとし、格子耳部の幅wと厚みtを乗じたもの(w×t:wt)を、その断面積Sとして用いている。
【0012】
このような正極の格子体腐食について鋭意研究を重ねた結果、格子耳部の形状と格子部に充填する正極活物質量、即ち理論容量で表す値との関係を見出し、本発明に至ったものである。
具体的には、格子耳部の形状のうち、その幅w[mm]と厚みt[mm]、及び格子耳部の断面積S[mm]が、格子部に充填される正極活物質の理論容量C[Ah]との関係において、格子腐食に大きく係わることを見出したもので、特に格子耳部の幅wと厚みtの比;w/tと、格子部に充填される正極活物質の理論容量Cと格子耳部の断面積Sとの比;C/S[Ah/mm]との関係が腐食に対して大きな影響を与えていることを見出した。
【0013】
ところで、格子耳部の幅wと厚みtの比;w/tは耳部の扁平率を意味している。
一般に、鋳造において、内部に生じる欠陥である鋳造巣は、鋳型に流した溶湯(本願では鉛)が凝固する際の体積変化(収縮)によって形成されることが知られていて、例えば鋳型の形状が円形に近いほど鋳造物は外周部と内部の温度差が大きくなりやすいことから、このような鋳型を用いれば、外周部が冷えて固まる際には内部まで冷えておらず、内部が冷えて固まる際には外周部の鉛は既に凝固して収縮した状態になっているので、内部の鉛を凝固させるだけの体積を確保することができなくなって、その部分が鋳造巣となる。
【0014】
そこで、本発明では耳部形状における鋳造巣の発生し難さ、あるいは発生し易さの尺度として、耳部幅と厚みの比;w/t(耳部の扁平率)の範囲を規定した。
その範囲の下限は2.75で、耳部の厚みが3.0[mm]以上の場合に、2.75以上、望ましくは2.75以上、3.50以下である。w/tが小さいほど正方形に近い断面となり、それが大きいほど扁平な断面となって、極板が当接する面方向の曲げ強度が低下する。特に、正極板では、格子体の腐食が進行すると、極板は縦方向に伸びる傾向があるため、格子耳部やストラップに応力がかかりやすくなることを考慮しつつ物理的強度も考慮して、w/tの上限値に対応させてtの下限値を3mmとしたうえで、経験的に3.50とした。
なお、格子耳部の厚みが3[mm]未満の場合には、鋳造巣ができにくいので、w/tの値が規定した範囲を逸脱していても、格子耳部に形成される鋳造巣を原因とする格子耳部の損壊は防止できるが、格子耳部の物理的強度を考慮して上記範囲を満足させるようにすることが望ましい。
【0015】
一方、理論容量と耳部の断面積の比;C/Sが意味するところは、理論容量分の正極活物質量と鋳造巣ができにくい格子耳部の形状を関係付けるものである。
即ち、鋳造巣の発生を防ぐためには、鋳造時における格子耳部の内部の温度勾配を少なくする必要があり、そのための鋳造に係る理論容量と格子耳部の形状、特にその断面積を考慮して、そのC/S[Ah/mm]の範囲を、2.75以上、5.00以下とした。
格子耳部の物理的強度を考慮して、その上限を5.00[Ah/mm]とし、鋳造巣が形成されず、物理的強度も確保できることを考慮してその下限を2.75[Ah/mm]とした。
【0016】
さらに、鋳造巣が生じない格子耳部を形成するには、先に規定した格子耳部の幅と厚みの比;w/t、及び格子部に充填される正極活物質の理論容量と格子耳部の断面積の比;C/Sの両者の範囲を満足することが重要である。
即ち、格子耳部の幅と厚みの比;w/t(耳部の扁平率)の範囲が、2.75以上、3.50以下で、且つ理論容量と格子耳部の断面積との比;C/S[Ah/mm]の範囲が、2.75以上、5.00以下である。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を用いて本発明を詳細する。
【0018】
格子耳部3の各寸法が異なる、図1のような正極活物質の充填面の厚みが6mmの格子体1をそれぞれ作製した。その耳部寸法を表1に示す。
これらの正極活物質の充填面のデザインは、同一で理論容量242AhのPbOが充填できるものである。
【0019】
表1に示す寸法の格子体をそれぞれ100枚ずつ、その耳部断面を観察し、耳部断面に鋳造巣が発生している枚数を評価した。その結果を表1に併せて示す。
【0020】
【表1】

【0021】
さらに、この表1の結果を「耳部幅−耳部厚」関係の散布図に、マッピングした結果を図4に示す。
表1および図4の結果から、w/tが2.75未満では、実施例の範囲内(2.5〜3.5)のC/Sにおいて、鋳造巣が発生しているが、C/Sの値が大きくなるにつれ、鋳造巣の発生は減少している。一方、C/Sが2.75未満では、実施例の範囲内(2.5〜3.5)のw/tにおいて、格子耳部に鋳造巣の発生が見られたが、w/tの増加と共に発生頻度は減少している。
【0022】
従って、格子耳部の幅w[mm]と、その厚みt[mm]は、その比;w/tが2.75以上で、且つ格子部に充填された正極活物質の理論容量C[Ah]と格子耳部の断面積S[mm]の比;C/Sが2.75[Ah/mm]以上であれば、鋳造巣が発生しない格子体が得られていることがわかる。
【符号の説明】
【0023】
1 格子体
2 格子部
3 格子耳部
12 格子耳部
w 格子耳部の幅
t 格子耳部の厚み
C 格子部に充填される正極活物資の理論容量
S 格子耳部の断面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質が充填された格子部と、前記格子部と連続した集電を担う格子耳部から構成される格子体を備えた制御弁式鉛蓄電池用正極板において、
前記格子耳部の厚みtが3mm以上で、前記格子耳部の幅w[mm]と厚みt[mm]の比;w/tが2.75以上、且つ、
前記格子部に充填された正極活物質の理論容量C[Ah]と前記格子耳部の断面積S[mm]との比;C/Sが、2.75[Ah/mm]以上、5.00[Ah/mm]以下であることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池用正極板。
【請求項2】
請求項1記載の正極板を用いたことを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−114870(P2013−114870A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259454(P2011−259454)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】