説明

鉛蓄電池

【課題】化成後の正極活物質密度とバリウムの添加量との適正な関係を見出して、寿命性能の向上に寄与できる鉛蓄電池を得る。
【解決手段】 化成後の正極板中に1枚当たりの平均値で10ppm以上、1000ppm以下のバリウムを含有し、かつ化成後の前記極板の活物質密度が1枚当たりの平均値で3.1g/cc以上、4.2g/cc以下であって、前記バリウムの含有量をX、前記活物質密度をYとしたときに、
−0.29logX+3.6≦Y≦−0.29logX+4.7
を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池に関するもので、さらに詳しく言えば、長寿命が求められる、病院やビルの停電時の非常用電源として用いられる鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記した鉛蓄電池に長寿命が求められるのは、このような鉛蓄電池は多数のセルが直列接続された組電池として用いられ、その自己放電を補うためにフロート充電という常時一定の電圧が印加された充電状態で、停電時の電力供給に備えられるからで、その寿命短縮の原因の一つとなるのが、正極格子体に一定の電圧が常時印加されることで生じる正極格子体の腐食である。
【0003】
一方、鉛蓄電池の長寿命化を図る方法としては、正極格子体の骨を太くして正極板を厚くすることで、正極格子体の耐食性を向上させることが知られている。
【0004】
しかしながら、上記のような厚い正極板を使用した場合には、正極活物質が内部まで放電に寄与し難くなって、正極活物質の量に見合うだけの放電容量が得られないという問題を生じることがあった。
【0005】
上記した問題を解決するものとして、特許文献1には、鉛−カルシウム−錫合金からなる格子に、活物質に10〜3000ppmのバリウムを添加したペーストを充填して正極板とする密閉型鉛蓄電池が開示され、また、特許文献2には、アンチモンを含まない鉛合金格子表面上に活物質層が形成されてなる正極を備え、該正極が鉛合金格子表面と活物質層との間に硫酸バリウムを含有した層を備えた鉛蓄電池が開示され、また、特許文献3には、正極活物質を格子体に保持して正極と負極とをセパレータを介して積層し、前記正極活物質に総量で0.5質量%以上、5質量%以下の硫酸バリウムが含有されており、前記正極活物質の表面に前記硫酸バリウムが濃縮し、かつ内部に向かって傾斜して疎なっている鉛蓄電池が開示され、また、特許文献4には、活物質に鉛酸バリウムを0.1〜2重量%含有させた鉛蓄電池用極板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3577709号公報
【特許文献2】特開2000−353518号公報
【特許文献3】特開2004−71210号公報
【特許文献4】特許第2553962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、正極活物質中にBaを添加することは、開放型鉛蓄電池では、活物質が軟らかくなって格子から脱落して短寿命になるが、密閉型鉛蓄電池では、活物質をセパレータが圧迫しているから、活物質の脱落は起こりにくく、Baを10〜3000ppmという微量に添加することで、活物質が適当に軟らかくなり、格子の腐食による体積膨張によってできる活物質と格子の間のクラックやボイドができにくくなって、格子腐食によって生成したPbO2の表面がPbSO4の絶縁層で覆われて早期に寿命に至らしめないようにすることは開示されているが、正極活物質密度との関係には言及されておらず、特許文献2には、アンチモンを含まない鉛合金格子は活物質と格子との密着性が悪いために充放電によって活物質が膨張収縮を繰り返すうちに活物質と格子との間に隙間が発生し、この隙間に電解液が入り込んで、生成した腐食層が先に放電して格子表面が硫酸鉛の絶縁層に覆われて放電できなくなることがあるため、正極に鉛合金格子表面と活物質層との間に硫酸バリウムを含有した層を備えさせて、これを防止することは開示されているが、正極活物質中に硫酸バリウムを含有させることには言及されておらず、特許文献3には、高密度に活物質を充填した正極板を使用した鉛蓄電池や電極積層群を高加圧状態で組み立てた密閉型鉛蓄電池に、総量で0.5質量%以上、5質量%以下の硫酸バリウムを添加し、正極活物質の表面に前記硫酸バリウムが濃縮し、かつ内部に向かって傾斜して疎なっているようにすることで、正極表面で緻密な硫酸鉛が形成されるのを抑制することは開示されているが、正極活物質密度との関係には言及されておらず、特許文献4には、活物質に耐酸性、耐酸化性および高い導電性を有し、しかも電池に対して有害な不純物を溶出しない鉛酸バリウムを0.1〜2重量%含有させることで、活物質の利用率の向上を図ることは開示されているが、正極活物質密度との関係には言及されていない。
【0008】
これに対し、本発明は、活物質中にバリウムを混合させることの効果を活物質密度との関係で検証した結果、それが正極板の厚さとの関係において、長寿命化に寄与することを見出すことで、上記した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、バリウムを含んだ正極活物質を保持した正極板を化成し、化成後の正極板中に1枚当たりの平均値で10ppm以上、1000ppm以下のバリウムを含有し、かつ化成後の前記極板の活物質密度が1枚当たりの平均値で3.1g/cc以上、4.2g/cc以下であって、前記バリウムの含有量をX、前記活物質密度をYとしたときに、
−0.29logX+3.6≦Y≦−0.29logX+4.7
を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、正極活物質中に微量のバリウムを含ませることで、正極活物質が適度に軟らかくなって、格子−活物質界面の隙間を埋めて過充電寿命性能の向上や早期容量低下の抑制が可能であることは特許文献1等に開示されたとおりであるが、化成後の正極板の活物質密度が変化すれば、それに応じて含有させるバリウムの量を変化させなければならないことに着目して、上述した効果が得られる、バリウムの含有量と正極活物質密度との関係を見出した結果、活物質の増加に見合うだけの放電容量の増大に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】バリウムの含有量を横軸(X軸)に、化成後の正極活物質密度を縦軸(Y軸)にして、試料ごとにプロットし、サイクル数を併記した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の詳細について、一実施形態により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
(鉛蓄電池の作製)
酸化度が75%の鉛粉に硫酸バリウム(ナカライテスク社製、試薬一級)を乾式混合した後、水と希硫酸を適宜加えて混練して作製した正極ペースト150gを、高さが125mm、幅が110mm、厚さが3.8mmの鋳造によって作製したPb−0.1質量%Ca−1.0質量%Snからなる正極格子体に充填して、厚さが4.0mmの未化成の正極板を作製し、別途、公知の方法で作製した3枚の負極板の間に前記正極板を1枚ずつ介在させるとともに、負極板と正極板との間に公知のセパレータを介在させて極板群を作製し、公知の方法で電槽化成を行って定格電圧が2V、公称容量が20Ah(10時間率)の制御弁式鉛蓄電池を2個ずつ作製し、1個をバリウムの含有量の測定用と化成後の正極活物質密度の測定用として、誘導結合プラズマ質量分析計(アジレント・テクノロジー株式会社製、型式7700S)で化成後の正極活物質中のバリウムの含有量を測定するとともに、細孔分布測定装置(株式会社島津製作所製、オートポアIII9405)で化成後の正極活物質密度を測定し、測定結果を表1に示した。なお、表1のバリウムの含有量と正極活物質密度は2枚の正極板の平均値で示している。また、別途、バリウムを含まず、化成後の正極活物質密度が4.2g/ccになるようにしたものも作製した。表1はバリウムの含有量に対してa〜tの符号を付し、正極活物質密度に対して1〜15の数字を付して、符号と数字の組合せによって各サンプルを示している。
【0014】
【表1】

【0015】
次に、もう1個をサイクル寿命試験用として、25℃の雰囲気下で、0.07CA(Cは公称容量に対応する電流値)の定電流で3時間の放電を行った後、2.23Vの定電圧で69時間の充電を行うサイクルを1サイクルとし、放電終了時の電圧が1.8Vを下回ったときのサイクル数を測定し、結果を表2に示す。
【0016】
【表2】

【0017】
上記した表1と表2の結果を、バリウムの含有量を横軸(X軸)に、化成後の正極活物質密度を縦軸(Y軸)にして、サンプルごとにプロットし、サイクル数を併記したものが図1である。
【0018】
図1にプロットしたもののうち、バリウムを含まず、化成後の正極活物質密度が4.2g/ccになるようにしたサンプル(a13)のサイクル数が29であったことから、これを従来例として、バリウムの含有量と化成後の正極活物質密度との組合せで、サイクル数が29を超えるものを本発明とし、サイクル数が29以下のものを比較例として区別した結果、バリウムの含有量が10ppmで、正極活物質密度が3.3g/cc、3.8g/cc、4.2g/ccであるサンプル(d4、d9、d13)、バリウムの含有量が24ppmで、正極活物質密度が3.2g/cc、4.2g/ccであるサンプル(f3、f13)、バリウムの含有量が33ppmで、正極活物質密度が3.6g/ccであるサンプル(g7)、バリウムの含有量が52ppmで、正極活物質密度が3.1g/cc、4.2g/ccであるサンプル(h2、h13)、バリウムの含有量が110ppmで、正極活物質密度が4.1g/ccであるサンプル(j12)、バリウムの含有量が120ppmで、正極活物質密度が3.6g/ccであるサンプル(k7)、バリウムの含有量が210ppmで、正極活物質密度が3.1g/ccであるサンプル(m2)、バリウムの含有量が240ppmで、正極活物質密度が4.0g/ccであるサンプル(n11)、バリウムの含有量が320ppmで、正極活物質密度が3.4g/ccであるサンプル(o5)、バリウムの含有量が1000ppmで、正極活物質密度が3.1g/cc、3.4g/cc、3.8g/ccであるサンプル(r2、r5、r9)が本発明となり、バリウムの含有量が5ppmで、正極活物質密度が3.2g/ccであるサンプル(b3)、バリウムの含有量が6ppmで、正極活物質密度が3.6g/cc、4.2g/ccであるサンプル(c7、c13)、バリウムの含有量が11ppmで、正極活物質密度が3.2g/cc、4.3g/ccであるサンプル(e3、e14)、バリウムの含有量が100ppmで、正極活物質密度が3.0g/ccであるサンプル(i1)、バリウムの含有量が160ppmで、正極活物質密度が4.4g/ccであるサンプル(l15)、バリウムの含有量が320ppmで、正極活物質密度が3.0g/ccであるサンプル(o1)、バリウムの含有量が490ppmで、正極活物質密度が4.0g/ccであるサンプル(p11)、バリウムの含有量が980ppmで、正極活物質密度が4.1g/ccであるサンプル(q12)、バリウムの含有量が1130ppmで、正極活物質密度が3.2g/ccであるサンプル(s3)、バリウムの含有量が1180ppmで、正極活物質密度が3.9g/ccであるサンプル(t10)が比較例となることがわかる。
【0019】
そして、図1から、バリウムの含有量が1枚当たりの平均値で10ppm以上、1000ppm以下で、化成後の正極活物質密度が1枚当たりの平均値で3.1g/cc以上、4.1g/cc以下の範囲のもののうち、
バリウムの含有量をX、前記活物質密度をYとしたときに、
−0.29logX+3.6≦Y≦−0.29logX+4.7
を満たすものがサイクル数29を超えることがわかった。
【0020】
図1から、バリウムの含有量が10ppm未満のもので、サイクル数が29以下であるサンプルb3(サイクル数=15)、サンプルc7(サイクル数=18)およびサンプルc13(サイクル数=21)は、バリウムによる正極活物質の軟化が不十分な状態で正極格子体の表面に硫酸鉛が生成して、早期に寿命性能が低下したことが考えられ、バリウムの含有量が1000ppmを超えても、同じ傾向が見られるサンプルs3(サイクル数=27)およびサンプルt10(サイクル数=25)は、正極活物質の軟化が進み過ぎて、正極活物質同士の結着性が低下して早期に寿命性能が低下したことが考えられる。
【0021】
また、図1から、化成後の正極活物質密度が3.1g/cc未満のもので、サイクル数が29以下であるサンプルi1(サイクル数=27)およびサンプルo1(サイクル数=28)は、正極活物質間に隙間が生じやすくなっていて、その隙間に正極格子体の表面に生成した硫酸鉛が入り込んで早期に寿命性能が低下したことが考えられ、化成後の正極活物質密度が4.2g/ccを超えても、同じ傾向が見られるサンプルe14(サイクル数=28)およびサンプルl15(サイクル数=22)は、正極活物質間に隙間が生じ難くなって、電解液の拡散が十分に行われずに正極活物質に充電不足が生じたことが考えられる。
【0022】
なお、図1において、バリウムの含有量が10ppm未満のサンプルb3、c7、c13も、バリウムの含有量が1000ppmを超えるサンプルs3、t10も、化成後の正極活物質密度が大きい程サイクル数が大きくなっているのは、化成後の正極活物質密度が大きいことによって、生成した硫酸鉛が隙間に入り込み難くなっているためであると考えられる。
【0023】
さらに、図1において、バリウムの含有量が約60ppm以下のサンプルe3(サイクル数=28)およびサンプルe14(サイクル数=28)は、化成後の正極活物質密度が3.1g/cc以上であっても、サイクル数が29以下になるのは、正極活物質間に隙間を生じ難くできるものの、バリウムの含有量が少ないために、生じた隙間に硫酸鉛が入り込むのを十分に抑制できなかったことが考えられ、バリウムの含有量が約60ppm以上のサンプルp11(サイクル数=28)およびサンプルq12(サイクル数=16)は、化成後の正極活物質密度が4.2g/cc以下であっても、サイクル数が29以下になるのは、電解液の拡散は十分に行われるものの、正極活物質の軟化が進み過ぎて、正極活物質同士の結着性が低下して早期に寿命性能が低下したことが考えられる。
【0024】
上記した試験は、厚さが4.0mmの正極板を用いて行ったが、厚さを2.0mmと6.0mmに代えて、同じ条件で試験をしても、ほぼ同じ結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
上記した如く、本発明は、化成後の正極活物質密度と正極活物質中のバリ.ウムの含有量との適正な関係を見出すことで、寿命性能の向上に寄与できる鉛蓄電池を得ることができるから、その産業上の利用可能性は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリウムを含んだ正極活物質を保持した正極板を化成し、化成後の正極板中に1枚当たりの平均値で10ppm以上、1000ppm以下のバリウムを含有し、かつ化成後の前記極板の活物質密度が1枚当たりの平均値で3.1g/cc以上、4.2g/cc以下であって、前記バリウムの含有量をX、前記活物質密度をYとしたときに、
−029logX+3.6≦Y≦−0.29logX+4.7
を満たすことを特徴とする鉛蓄電池。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−258531(P2011−258531A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134529(P2010−134529)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】