説明

鉛蓄電池

【課題】鉛蓄電池のフロート寿命性能を低下させることなく、ハイレート放電容量を増大させる。
【解決手段】正極板1の極板面に対して垂直な方向に切断した正極板断面に、前記正極格子体2、前記正極活物質3及び空孔が含まれており、前記空孔が、前記正極活物質ペーストの水分蒸発により形成された細孔と、前記正極活物質ペースト3を前記正極格子体2に充填する際に形成された当該細孔よりも大きい空隙4とを有し、前記空隙4の断面積の総和を、前記正極板断面の断面積から前記正極格子体2の断面積を引いた面積に対して1%以上11%以下の面積比としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、据置鉛蓄電池などの鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばビルや病院などの非常用電源として据置鉛蓄電池が用いられている。この据置鉛蓄電池は、期待寿命を長期化するために極板を厚くしているが、1CA以上のハイレート放電容量が他の用途の鉛蓄電池よりも減少してしまうことが課題となっている。
【0003】
ここで据置用鉛蓄電池のハイレート放電容量を増やすためには、正極板を薄くして電解液量を増やすことや、或いは電解液比重を上げる方法がある。
【0004】
しかしながら、これらの方法では、ハイレート放電容量を増やすことができるものの、フロート寿命性能を低下させてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−173129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決すべくなされたものであって、鉛蓄電池のフロート寿命性能を低下させることなく、ハイレート放電容量を増大させることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る鉛蓄電池は、正極格子体に正極活物質ペーストを充填した正極板を備えた鉛蓄電池であって、前記正極板の極板面に対して垂直な方向に切断した正極板断面に、前記正極格子体、前記正極活物質及び空孔が含まれており、前記空孔が、前記正極活物質ペーストの水分蒸発により形成された細孔と、前記正極活物質ペーストを前記正極格子体に充填する際に形成された当該細孔よりも大きい空隙とを有し、前記空隙の断面積の総和を、前記正極板断面の断面積から前記正極格子体の断面積を引いた面積に対して1%以上11%以下の面積比としていることを特徴とする。
【0008】
細孔は、正極活物質ペーストにおける水分蒸発により形成される空孔であり、正極活物質ペースト中に均一に分散していた水分が蒸発することから、正極活物質中に均一に存在するものである。そして、細孔のサイズは平均0.5μm程度である。
【0009】
空隙は、正極格子体に正極活物質ペーストを充填する際に形成される空孔であり、空隙の外周輪郭に外接するように仮想矩形を形成した場合に、その仮想矩形の対角線の長さが0.05mm以上のものである。より細孔との区別を明確にするためには、前記仮想矩形の短辺の長さが0.05mm以上とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
このように構成した本発明によれば、正極板に充填された正極活物質に細孔とは異なる空隙を形成するとともに、当該空隙の正極板断面の断面積から正極格子体の断面積を引いた断面積を引いた面積に対して1%以上11%以下の面積比としていることから、鉛蓄電池のフロート寿命性能を低下させることなく、ハイレート放電容量を増大させることができる。なお、詳細な効果については以下の実験例により示す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係る正極板の構成を示す平面図及びA−A線断面図。
【図2】各正極板を用いた場合の1CA容量試験結果を示す図。
【図3】各正極板を用いた場合のフロート寿命試験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
本実施形態に係る正極板100は、鉛蓄電池に用いられるものであり、図1に示すように、Pb−Sb系やPb−Ca系等の鉛合金からなる格子状(障子桟状)の正極格子体2に、少なくとも酸化鉛と金属鉛とからなる鉛粉及び希硫酸を混錬して作製した正極活物質ペースト3を充填、保持させたものである。この正極板の極板厚みは、1.5mm以上6mm以下である。
【0014】
なお、鉛蓄電池は、前記正極板100と、鉛からなる負極活物質及び鉛又は鉛合金からなる負極集電体から構成される負極板とをセパレータを介して積層して構成される電極群を希硫酸からなる電解液内に浸漬したものである。
【0015】
そして、図1のA−A線断面図及びその部分拡大断面図に示すように、正極板100の極板面に対して垂直な方向に切断した正極板断面に、正極格子体2、正極活物質3及び空孔が含まれている。空孔は、正極活物質ペースト3の水分蒸発により形成された細孔(微細なため不図示)と、正極活物質ペースト3を正極格子体2に充填する際に形成された細孔よりも大きい空隙4とからなる。なお図1の正極板断面(A−A線断面)は、正極板100の上下における中央位置での断面であったが、極板面に対して垂直な方向であれば、いずれの位置の断面であっても良い。但し、格子桟に沿った格子桟上の断面とならないようにする。
【0016】
細孔は、正極活物質ペースト3における水分蒸発等のように正極活物質ペースト3の物理的、化学的変化により形成される空孔であり、正極活物質ペースト3中に均一に分散していた水分が蒸発することから、正極活物質3中に均一に存在する。そして、細孔のサイズは平均0.5μm程度である。
【0017】
空隙は、正極格子体2に正極活物質ペースト3を充填する際に構造的に形成される空孔であり、空隙の外周輪郭に外接するように仮想矩形を形成した場合に、その仮想矩形(長方形)の対角線の長さが0.05mm以上のものである。より細孔との区別を明確にするためには、仮想矩形(長方形)の短辺の長さが0.05mm以上のものを空隙とする。
【0018】
このような正極板100において、正極板断面における空隙4の断面積の総和Sを、正極板断面の断面積Aから正極格子体2の断面積Bを引いた面積(A−B)に対して1%以上11%以下の面積比(S/(A−B)×100%)としている。
【実施例】
【0019】
次にペースト式極板である正極板の中に空隙を形成して、正極板内の電解液量を増やすことを検討した。
【0020】
まず、正極活物質ペーストを片側の面から充填した極板厚み4mmの正極板を従来例とし、従来例と同じ充填方法で極板厚みを半分にした極板厚み2mmの正極板を比較例1(薄型)とした。
【0021】
空隙を有した正極板は、まず正極活物質ペーストを2等分して、正極格子の両面から2等分した正極活物質ペーストをそれぞれ充填して作製し、極板厚みは従来例と同じ4mmとした。空隙を有する正極板を充填量を変えることで9種類作製した。正極活物質ペーストの充填量は異なるものの、極板厚みを4mmになるようにしたため、空隙を有した正極板の10hR容量は従来例とほぼ同じであった。ここで両面から充填したのは、片面から正極活物質ペースト量を減じて充填した場合には、充填面とは反対面に正極活物質ペーストが回りこまず、所定量の空隙を形成できないためである。
【0022】
(供試電池)
これら正極板を用いて据置鉛蓄電池を作製した。極板厚み4mmの正極板を用いた電池は、+6/−7(正極板6枚/負極板7枚)の構成とした(2V 24Ah/10hR +6/−7 比重s.g.1.27@20℃)。一方、極板厚み2mmの正極板を用いた電池は、正極活物質量を従来例に揃えるため、正極板枚数2倍の+12/−13(正極板12枚/負極板13枚)の構成とした(2V 24Ah/10hR +12/−13 比重s.g.1.27@20℃)。電池は各3Nずつ作製し、1Nを正極板断面の空隙観察用、1Nをハイレート放電用、1Nをフロート寿命試験用とした。
【0023】
(空隙の観察)
正極板断面の空隙観察用の電池で、正極理論容量比300%の電槽化成を実施した後、正極板を取り出して水洗乾燥してポリスチレン樹脂を含浸して硬化させた。
【0024】
そして、正極板を極板面と垂直な方向において任意な位置を切断し、正極板断面をマイクロスコープ(キーエンス社製VH−8000)で観察した。正極板断面の中央付近にある空孔の大きさを測定したところ、およそ0.05mmだった。そこで、正極板内の空孔を正極活物質ペーストを両面から充填することで形成された空隙と、正極活物質ペースト中の水分蒸発等で形成された細孔とに区別した。ここで、正極板断面の空孔に短辺が最も短くなり、かつ、空孔の断面輪郭に外接する長方形を作った時に、その長方形の短辺が0.05mm以上になる空孔を空隙とした。一方、空孔から空隙を除いたものを、細孔とした。
【0025】
正極板断面に対する空隙の比率は、まず上記方法で定めた空隙自体の面積の総和を、正極板断面の幾何学的面積から格子を除いた面積を100%とした面積比で表した。正極活物質ペースト充填量を変えて作製した正極板の空隙の断面積の面積比は、それぞれ0.3%、0.8%、1%、3%、6%、10%、11%、13%、18%だった。
【0026】
(ハイレート放電)
それぞれの電池で、放電電流1CA、放電終止電圧(F.V.)1.0Vのハイレート放電を行った。その結果、空隙の面積比0.3%及び0.8%のハイレート放電容量は従来例と変わらなかった。ハイレート放電容量の向上には、正極活物質内部の硫酸量が大きく寄与すると考えられるが、空隙の面積比が小さかったためと従来例と変わらなかったと考えられる。
【0027】
しかし、空隙の面積比を1%から11%とした電池のハイレート放電容量は、従来例よりそれぞれ増え、特に3%から10%としたものはハイレート放電容量の向上の効果が大きかった。
【0028】
一方、空隙の面積比が13%及び18%になると、ハイレート放電容量はかえって従来例より減った。正極板断面の断面積から正極格子体の断面積を引いた断面積を引いた面積に対する空隙の面積比が大きくなりすぎて、正極活物質同士の接点が減ったため、また活物質量そのものが少なくなったためと考えられる。
【0029】
(フロート寿命試験)
60℃気相でフロート寿命試験を行った。その結果、ハイレート放電容量が従来例より増えた空隙の面積比1%、6%及び11%のフロート寿命性能は、従来例と同等だった。一方、極板厚みを半分に薄くした正極板を用いた比較例における寿命までの試験期間は、従来例より短くなった。これらのフロート寿命性能の違いとして、いずれの電池も寿命要因は正極格子体の腐食であり、極板厚みを薄くした正極板を用いた電池は正極格子体が薄いためにフロート寿命性能が悪かったと考えられる。一方、空隙をもった正極板の正極格子体は、従来例の正極格子体と同じであるため、従来例並みの寿命性能を維持することができたと考えられる。
【0030】
(まとめ)
正極板内に面積比で少なくとも1%〜11%の比率の空隙を有した正極板を用いた据置鉛蓄電池は、ハイレート放電容量を増やしながらフロート寿命性能を維持することができた。
【0031】
(他の極板厚みでの確認)
極板厚みを1.5mmおよび6mmの正極板で同様な試験を実施したところ、極板厚み4mmを用いた正極板と同様な結果が得られた。
【0032】
(他の空隙作製方法)
空隙を作る方法として、本特許では格子両面から正極活物質ペーストを充填したが、正極活物質にグラファイトなどを添加して電槽化成中に電気分解させて活物質内のガス発生により空隙を生じさせる方法、あるいは、サイクル中の充放電反応による活物質の膨脹などで、同様な空隙を生じさせることができればこの限りでない。
(観察のタイミング)
また、本特許では、正極板断面の空隙を電槽化成後に観察したが、容量試験後、寿命試験中(寿命試験初期)などでも同様の傾向が観察できる。
【符号の説明】
【0033】
100・・・鉛蓄電池用正極板
2・・・正極格子体
3・・・正極活物質
4・・・空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極格子体に正極活物質ペーストを充填した正極板を備えた鉛蓄電池であって、
前記正極板の極板面に対して垂直な方向に切断した正極板断面に、前記正極格子体、前記正極活物質及び空孔が含まれており、
前記空孔が、前記正極活物質ペーストの水分蒸発により形成された細孔と、前記正極活物質ペーストを前記正極格子体に充填する際に形成された当該細孔よりも大きい空隙とを有し、
前記空隙の断面積の総和を、前記正極板断面の断面積から前記正極格子体の断面積を引いた面積に対して1%以上11%以下の面積比としている鉛蓄電池。
【請求項2】
前記空隙の外周輪郭に外接する仮想矩形の対角線の長さが、0.05mm以上である請求項1記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記正極板の極板厚みが、1.5mm以上6mm以下である請求項1記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
正極格子体に正極活物質ペーストを充填した鉛蓄電池用正極板であって、
前記正極板の極板面に対して垂直な方向に切断した正極板断面に、前記正極格子体、前記正極活物質及び空孔が含まれており、
前記空孔が、前記正極活物質ペーストの水分蒸発により形成された細孔と、前記正極活物質ペーストを前記正極格子体に充填する際に形成された空隙とを有し、
前記空隙の断面積の総和を、前記正極板断面の断面積から前記正極格子体の断面積を引いた面積に対して1%以上11%以下の面積比としている鉛蓄電池用正極板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−54865(P2013−54865A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191058(P2011−191058)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】