説明

鉱山機械の動態管理システム

【課題】鉱山において使用される車載無線通信装置又は中継器等の機器類の状態監視を行うこと、走行経路の状態監視を的確に行うこと、の少なくとも一方を実現すること。
【解決手段】情報収集装置10は、第2無線通信装置18を介して所定のタイミングでダンプトラック20の位置情報の送信を要求する位置情報要求命令を送信し、位置情報要求命令に対する応答に基づいて、ダンプトラック20、ダンプトラック20が有する第1無線通信装置から第2無線通信装置18への通信を中継する中継器3及びダンプトラック20の走行経路のうち少なくとも一つの状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱山機械の動態管理システムに係る技術であって、特に無線通信装置及び情報収集装置、さらに鉱山機械の走行経路の状態監視システムに係る技術である。
【背景技術】
【0002】
鉱山では、油圧ショベル、ダンプトラック等、様々な建設機械が稼働する。近年においては、無線通信によって建設機械の稼働情報を取得し、建設機械の動態管理が行われつつある。例えば、特許文献1には、移動体が通信可能エリア内から通信可能エリア外に接近していることを判定する判定手段を移動体に備え、判定手段によって移動体が通信可能エリア外に接近していると判定された場合に、その旨の情報を通信手段を介して端末装置に対して送信する移動体の通信装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−46423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、建設機械の動態管理を行うために、各建設機械の記憶装置に稼働情報を収集して記憶し、サービスマン等が各建設機械にアクセスして稼働情報をダウンロードする作業が行われている。しかし、複数の建設機械に対するダウンロード作業は煩雑であり、稼働情報を管理する側にとってはリアルタイム性に乏しい。したがって、無線通信手段を用いて各建設機械の稼働情報を取得して建設機械の動態管理を行う。建設機械が鉱山で稼働する場合を考えると、一般に鉱山は広大であるため、ダンプトラックといった建設機械の一種である鉱山機械が保持する稼働情報を、鉱山機械から無線通信により取得するための複数の中継器が、管理装置を備えた管理施設とは別個の場所に配置される。また、鉱山において、故障して稼働できない鉱山機械又は故障に至らないまでもメンテナンス又は点検が必要な鉱山機械に手当をせずに重大な故障を起こした鉱山機械は、鉱山の生産性を低下させる要因となる。したがって、可能な限りリアルタイムに鉱山機械の動態管理を行い、予防保全及び早期に故障を発見する必要がある。これを実現するためには、鉱山機械に搭載される無線通信装置等の機器類及び鉱山内に配置された中継器等の無線通信装置が正常に動作していることが不可欠である。上述した背景から、鉱山で使用される鉱山機械に搭載される無線通信装置などの機器類又は中継器等無線通信装置が正常に機能し、かつ故障等の異常が生じていないかといった状態監視を行うことが重要である。さらに、中継器の異常が生じていなくとも、中継器の配置位置が鉱山機械の走行経路の変更により移動されるべきといった判断も、可能な限りリアルタイムで行わなければ鉱山機械の動態管理を的確に行うことができない。
【0005】
さらに、鉱山で使用される無線通信装置等の機器類は、過酷な環境で使用されるため、無線通信装置等の機器類の状態を監視したり異常を検出したりする手段は、自身の故障により状態監視及び異常検出が行えなくなる可能性がある。このため、そのような手段を無線通信装置等の機器類側に組み込まない方が好ましい。特許文献1に記載された移動体の通信装置は、通信手段及び移動体が通信可能エリア内から通信可能エリア外に接近していることを判定する判定手段を移動体に備え、移動体が通信可能エリア外に接近していると判定されると、「通信可能エリア外に接近している」ことを示す情報が通信手段を介して端末装置に送信され、移動体と端末装置が通信不可能になった場合に、通信不能の原因は「通信可能エリア外」であると特定でき、そうでなければ「アンテナ等通信手段の故障」であると特定する。しかし、特許文献1に記載された移動体の通信装置は、鉱山で使用される無線通信装置等の機器類に対し、無線通信装置の状態監視において、無線通信の障害が発生した場合、それが鉱山機械の無線通信装置等の機器類が故障したことによるものか、中継器の故障によるものかについて判断することはできない。
【0006】
本発明は、鉱山において使用される車載無線通信装置又は中継器等の機器類の状態監視を行うこと、走行経路の状態監視を的確に行うこと、の少なくとも一方を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、鉱山機械に搭載されて、前記鉱山機械の稼働状態に関する稼働情報を収集する車載情報収集装置と、前記鉱山機械に搭載されて通信を行う第1無線通信装置と、
前記第1無線通信装置と通信する第2無線通信装置を介して前記稼働情報を収集する情報収集装置と、を含み、前記情報収集装置は、前記第2無線通信装置を介して所定のタイミングで前記鉱山機械の位置情報の送信を要求する位置情報要求命令を前記鉱山機械に対して送信し、前記位置情報要求命令に対する前記鉱山機械からの応答に基づいて、前記鉱山機械に搭載される機器と、前記第1無線通信装置から前記第2無線通信装置への通信を中継する中継器と、前記鉱山機械の走行経路とのうち少なくとも一つの状態を判定することを特徴とする鉱山機械の動態管理システムである。
【0008】
本発明において、前記情報収集装置は、前記応答を受信できた回数に基づいて、前記車載無線通信装置の異常を判定することが好ましい。
【0009】
本発明において、前記情報収集装置は、鉱山機械の稼働状態を受信したタイミングにおける前記応答に含まれている鉱山機械の位置情報と、前記稼働情報を受信した時刻とから、前記稼働情報を中継した中継器を特定するとともに、特定された中継器が前記稼働情報を中継した回数に基づいて、前記特定された中継器の異常を判定することが好ましい。
【0010】
本発明において、前記情報収集装置は、前記特定された中継器について、前記稼働情報を中継する回数が時系列にみて減少している場合、前記特定された中継器が前記応答を中継した回数に基づいて、前記特定された中継器の異常の有無又は前記鉱山機械の走行経路の変更の有無を判定することが好ましい。
【0011】
本発明において、前記情報収集装置は、前記鉱山機械の時系列に見た速さの変化に基づき、前記鉱山機械の走行経路が変更されたことを判定することが好ましい。
【0012】
本発明において、前記情報収集装置は、前記特定された中継器に異常が発生していない場合、前記稼働情報と前記応答とに基づいて、前記鉱山機械に搭載された機器の異常の有無を判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、鉱山において使用される車載無線通信装置又は中継器等の機器類の状態監視を行うこと、走行経路の状態監視を的確に行うこと、の少なくとも一方を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施形態1に係る無線通信装置及び情報収集機器、さらに鉱山機械の走行経路の状態監視システムを含む鉱山機械の動態管理システムの全体を示す図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る鉱山機械の動態管理システムが有する情報収集装置の機能ブロック図である。
【図3】図3は、ダンプトラックの構成を示す図である。
【図4】図4は、車載情報収集装置及びその周辺機器を示す機能ブロック図である。
【図5】図5は、実施形態1に係る状態判定制御の手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、ブロードキャストに対する応答回数の集計の一例を示す図である。
【図7】図7は、実施形態2に係る状態判定制御の手順を示すフローチャートである。
【図8】図8は、中継器が稼働情報を中継した回数(中継回数)の集計の一例を示す図である。
【図9】図9は、中継器がブロードキャストを中継した回数(中継数)の集計の一例を示す図である。
【図10】図10は、ダンプトラックの走行経路が変更された例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0016】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る無線通信装置及び情報収集機器、さらに鉱山機械の走行経路の状態監視システムを含む鉱山機械の動態管理システム1の全体を示す図である。鉱山機械の動態管理システム1は、鉱山で稼働するダンプトラック及び油圧ショベル等の各種鉱山機械の稼働状態を管理するものである。鉱山機械の動態管理システム1に組み込まれる無線通信装置及び情報収集機器の状態監視システムは、無線通信装置等の機器類の状態を監視することを主に実行し、さらには無線通信装置等の機器類の状態監視を通じて鉱山内の状態(例えば、排土場の位置の変更、走行経路の変更等)を把握したりする。鉱山で使用される無線通信装置等の機器類とは、例えば、鉱山機械に搭載される車載情報収集装置や車載無線通信装置、鉱山内の複数個所に設置される中継器及びアンテナ等を示す。これら機器類の詳細については後述する。
【0017】
鉱山機械とは、鉱山において各種作業に用いる機械類の総称である。本実施形態において、鉱山機械としては、砕石又は砕石の掘削時に発生した土砂若しくは岩石等を運搬する運搬車両として機能するダンプトラック20を例とするが、これに限定されるものではない。鉱山において、ダンプトラック20は、積載場LAで油圧ショベル又はホイールローダ等の積込機4によって砕石又は土砂等が積載される。そして、ダンプトラック20は、排土場DAで積載した岩石又は土砂等を排出すべく降ろす。
【0018】
<鉱山機械の動態管理システムの概要>
鉱山機械の動態管理システム(以下、必要に応じて状態監視システムという)1は、情報収集装置10が、鉱山機械(本実施形態ではダンプトラック20)の稼働情報を、各ダンプトラック20から収集するものである。情報収集装置10は、移動体であるダンプトラック20とは異なり、例えば、鉱山の管理施設に設置されている。このように、情報収集装置10は、原則として移動しないものである。情報収集装置10が収集したダンプトラック20の稼働情報とは、ダンプトラック20の稼働状態に関する情報であり、例えば、走行時間、走行距離、エンジン水温、異常の有無、異常の箇所、燃料消費率又は積載量等である。稼働情報は、主としてダンプトラック20の予防保全又は異常診断等に用いられる。したがって、稼働情報は、鉱山の生産性向上又は鉱山のオペレーションの改善といったニーズに応えるために有用である。
【0019】
情報収集装置10が鉱山で稼働する各ダンプトラック20の稼働情報を収集するために、情報収集装置10には、アンテナ18Aを有する第2無線通信装置18が接続されている。ダンプトラック20は、稼働情報の送信及び情報収集装置10との相互通信を行うために、車載無線通信装置27とともにGPS用アンテナ28Aを有している。また、ダンプトラック20は、GPS(Global Positioning System:全方位測位システム)衛星5A、5B、5Cからの電波をGPS用アンテナ28Bで受信し、自己位置を測位することができる。なお、自身の位置を計測するためには、GPS衛星に限らず他の測位用衛星によるものでもよい。すなわち、GNSS(全地球航法衛星システム:Global Navigation Satellite Systems)による位置計測ができればよい。
【0020】
ダンプトラック20がアンテナ28Aから送信する電波の出力は、鉱山全域をカバーできるほどの通信可能範囲を有していない。また、アンテナ28Aから送信する電波は、波長の関係から高い山等の障害物を越えて遠方まで送信することができない。このため、ダンプトラック20がアンテナ28Aから送信する電波の到達範囲には限界がある。したがって、ダンプトラック20と情報収集装置10との距離が離れていたり、ダンプトラック20と情報収集装置10との間に山M等の障害物が存在していると、第2無線通信装置18は、ダンプトラック20から発信される電波を受信することができない。もちろん、高出力な電波を出力できる無線通信装置を用いれば、このような通信障害を回避できるが、コストや管理等の面から、無線LAN(Local Area Network)のような通信システムを用いることが適切である。しかし、無線LANは、近距離通信には適するが遠距離通信が不可能であり、広大な鉱山で無線LANの通信システムを構築してダンプトラック20と情報収集装置10との相互の無線通信を良好にするためには仕組みが必要である。そこで、状態監視システム1は、ダンプトラック20がアンテナ28Aから送信する電波を中継して、第2無線通信装置18に稼働情報等を送信するための中継する中継器3(3A、3B、・・・)を複数個備える。鉱山内の複数箇所に中継器3を設置することより、情報収集装置10は、自身から離れた位置で稼働しているダンプトラック20から、無線通信により稼働情報等を収集することができる。
【0021】
中継器3の配置場所と第2無線通信装置18までの設置場所(管理施設)との距離が、無線通信による確実な通信を確保するには遠いと設計上の判断がなされる場合、中継器3と第2無線通信装置18との間に、両者を中継するための中間中継器6(6A、6B、・・・)が配置される。本実施形態において、中間中継器6は、中継器3と第2無線通信装置18とを中継するのみであり、ダンプトラック20がアンテナ28Aから送信する電波を中継するものではない。本実施形態において、中間中継器6は、対応する中継器3以外からは電波を中継しないようになっている。例えば、図1に示すように、給油所2の中継器3Aからの電波を中継するのは、1台の中間中継器6Aのみである。なお、中間中継器6は、図1では、一つの中継器3と一対一の関係であるように表現しているが、一対一の関係に限定するものではなく、各中間中継器6は、対応する複数の中継器3から送られる電波を中継することができる。
【0022】
中継器3の配置場所を中心とする周囲の所定領域(図1には円形で示す領域)は、ダンプトラック20に搭載された第1無線通信装置(車載無線通信装置27)が中継器3との間で相互に無線通信が可能な範囲、すなわち、通信可能範囲7である。通信可能範囲7に存在しているダンプトラック20は、中継器3等を介して第2無線通信装置18と相互に無線通信することができる。
【0023】
情報収集装置10が無線通信によってダンプトラック20から稼働情報を収集する場合、ダンプトラック20からの稼働情報を情報収集装置10に送信する。この場合、稼働情報の送信中にダンプトラック20が走行して移動することによって、ダンプトラック20が通信可能範囲7から出てしまい、情報収集装置10に送信すべき稼働情報のすべてを送信する前に通信が中断してしまうことがある。このため、情報収集装置10が稼働情報を受信している間、言い換えればダンプトラック20が稼働情報を送信している間は、ダンプトラック20が通信可能範囲7に存在することが好ましい。しかし、ダンプトラック20の運転者は、目に見えない通信可能範囲7を意識しながら運転することは不可能であり、仮に通信可能範囲7をダンプトラック20の運転室内のディスプレイなどに地図表示するなどの手段を講じていたとしても、この地図表示を見ながら運転することは煩わしい。したがって、ダンプトラック20が、確実に通信可能範囲7に、ある程度の時間(送信すべき稼働情報のすべてを送信できる程度の時間以上の時間)停車することが行われる場所で、ダンプトラック20から稼働情報を中継器3に向けて送信するように制御することが好ましい。
【0024】
したがって、本実施形態では、例えば、給油所2に中継器3を設置する。給油所2では、ダンプトラック20のエンジンを駆動するための燃料を給油するために、ダンプトラック20はある程度の時間の停車をすることが見込まれる。このため、情報収集装置10が給油中のダンプトラック20から稼働情報を確実に受信するための時間の間、ダンプトラック20は通信可能範囲7に滞在した状態を維持することができる。その結果、情報収集装置10は、無線通信によってダンプトラック20から稼働情報を確実に収集することができる。このような、ダンプトラック20がある程度の時間の停車をすることが見込まれる場所としては、鉱山の場合、油圧ショベル等の積込機4によって積荷が積み込まれる場所である積込場LA又は積み込まれた積荷を排出する場所である排土場DA等があり、これらの場所に中継器3を設置することが好ましい。なお、鉱山は広大であるため、給油所2以外にもダンプトラック20の走行経路の近傍に複数の中継器3又は中間中継器6を配置して、稼働中のダンプトラック20から稼働情報を収集するようにする。次に、情報収集装置10について、より詳細に説明する。
【0025】
<情報収集装置>
図2は、実施形態1に係る鉱山機械の動態管理システム1が有する情報収集装置10の機能ブロック図である。処理装置12と、記憶装置13と、入出力部(I/O)15とを含む。情報収集装置10は、入出力部15に、表示装置16と、入力装置17と、第2無線通信装置18とで構成される。情報収集装置10は、入出力部15に、表示装置16と、入力装置17と、第2無線通信装置18とが接続されている。情報収集装置10は、例えば、コンピュータ若しくはサーバー又はこれらを組み合わせて構成されるものである。処理装置12は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の数値演算装置である。記憶装置13は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ若しくはハードディスクドライブ等又はこれらを組み合わせて構成されている。入出力部15は、処理装置12と、処理装置12の外部に接続する表示装置16、入力装置17及び第2無線通信装置18との情報の入出力(インターフェース)に用いられる。
【0026】
記憶装置13は、ダンプトラック20の稼働情報を収集するための稼働情報収集用コンピュータプログラム、ダンプトラック20の無線通信装置等の機器類及び中継器3等の状態を判定するための状態判定用コンピュータプログラム、ダンプトラック20が有する車載無線通信装置(第1無線通信装置)27の通信可能範囲7が格納された通信可能範囲データベース(DB)14等が記憶されている。通信可能範囲データベース14は、ダンプトラック20に備えられた車載無線通信装置27が中継器3と通信可能な範囲の位置情報を示すデータ群であり、例えば、中継器3毎に複数の座標の集合で記述されている。さらに、各中継器3の配置場所は、予めGPSセンサ等で計測しておき、その配置場所を示すデータを通信可能範囲データベース14に記憶しておく。
【0027】
例えば、図1に示す中継器3(3A、3B)を中心とした半径Rの円の内側が通信可能範囲7であるとする。中継器3の配置位置を原点としたX−Y座標系を考えると、通信可能範囲7は、X+Y≦Rの範囲となる。通信可能範囲7は、電波強度を計測可能な計測機等を用いた実測によって求めることができる。また、通信可能範囲7は、中継器3及び車載無線通信装置27の仕様から求めることもできる。さらに、実測と車載無線通信装置27等の仕様とを併用して求めることもできる。
【0028】
情報収集装置10がダンプトラック20の稼働情報を収集する場合、処理装置12は、例えば、次のような処理を実行する。まず、第2無線通信装置18を介して所定のタイミング(一定周期)でダンプトラック20の位置情報の送信を要求する位置情報要求命令(必要に応じてブロードキャストという)を各ダンプトラック20に対して送信する。鉱山で作業する複数のダンプトラック20のうち、ブロードキャストを受信したダンプトラック20、より具体的には車載無線通信装置27は、情報収集装置10に対して「応答」を送信する。この応答に含まれる情報としては、少なくともダンプトラック20に搭載された位置情報検出装置29で測位された、自身の位置情報を含む。応答に含まれる情報として、さらに、ダンプトラック20の車速(速さ)、進行方向及び複数のダンプトラック20を識別するための識別子のうち少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0029】
第2無線通信装置18が応答を受信し、その応答に対応するダンプトラック20を、処理装置12で特定できたダンプトラック20は、少なくとも第2無線通信装置18が応答を受信した時点(ダンプトラック20が応答を送信した時点)においては通信可能範囲7内に存在すると判断することができる。処理装置12は、そのような通信可能範囲7内にダンプトラック20が存在する限りは稼働情報を収集することができる。
【0030】
稼働情報収集用コンピュータプログラムは、上述したような処理を実行するための命令が記述されている。情報収集装置10が各ダンプトラック20の稼働情報を収集する場合、処理装置12は、稼働情報収集用コンピュータプログラム及び通信可能範囲データベース14を記憶装置13から読み込み、稼働情報収集用コンピュータプログラムに記述された命令を実行することにより、ダンプトラック20の稼働情報を収集して、記憶装置13に記憶させる。
【0031】
また、本実施形態において、情報収集装置10は、ブロードキャストに対する応答に基づいて、各ダンプトラック20に搭載された車載無線通信装置27、車載無線通信装置27(第1無線通信装置27)から第2無線通信装置18への通信を中継する中継器3、さらには各ダンプトラック20の走行経路、といった三者のうち少なくとも一つの状態を判定する。車載無線通信装置27の状態の判定とは、例えば、処理装置12が、ブロードキャストに対する応答を受信できた回数に基づいて、車載無線通信装置27の異常の有無を判定することである。また、中継器3の状態の判定とは、処理装置12が、第2無線通信装置18が受信したタイミングにおけるブロードキャストに対する各ダンプトラック20からの応答に含まれている、各ダンプトラック20の位置情報と、稼働情報を受信した時刻とから、稼働情報を中継した中継器3がいずれの中継器3であるかを特定するとともに、特定された中継器3が稼働情報を中継した回数に基づいて、特定された中継器3の異常の有無を判定することである。
【0032】
さらに、処理装置12は、稼働情報を中継した中継器3を上述したように特定するとともに、特定された中継器3が稼働情報を中継する回数が減少している場合、処理装置12は、特定された中継器3がブロードキャストに対する各ダンプトラック20からの応答を受信した回数に基づいて、特定された中継器3の異常の有無又はダンプトラック20の走行経路の変更を判定(走行経路の状態の判定)する。また、処理装置12は、稼働情報を中継した中継器3を上述したように特定するとともに、特定された中継器3に異常が発生していない場合、稼働情報とブロードキャストに対する応答とに基づいて、車載無線通信装置27の異常を判定する。
【0033】
状態判定用コンピュータプログラムは、例えば、上述したような車載無線通信装置27、中継器3等の状態を判定するための処理を実行する命令が記述されている。情報収集装置10が各ダンプトラック20の車載情報収集装置等の状態を判定する場合、処理装置12は、状態判定用コンピュータプログラムを記憶装置13から読み込み、稼働情報収集用コンピュータプログラムに記述された命令を実行することにより、無線通信装置27等の状態を判定して、その判定結果を記憶装置13に記憶させたり表示装置16に表示させたりする。鉱山の管理者は、その判定結果を基に、各ダンプトラック20の車載無線通信装置27又は車載情報収集装置30等の機器の保守管理や中継器3の保守管理を行う。
【0034】
表示装置16は、例えば、液晶ディスプレイ等であり、各ダンプトラック20の稼働情報を収集する際に必要な情報を表示する。また、表示装置16は、上述したように、車載無線通信装置27等の機器類の状態の判定結果を表示する。入力装置17は、例えば、キーボード、タッチパネル又はマウス等であり、各ダンプトラック20の稼働情報を収集する際に必要な情報を入力する。第2無線通信装置18は、アンテナ18Aを有しており、中継器3を介して各ダンプトラック20の車載無線通信装置27との間で相互の無線通信を実行する。次に、ダンプトラック20について、より詳細に説明する。
【0035】
<ダンプトラック>
図3は、ダンプトラック20の構成を示す図である。ダンプトラック20は、積荷を積載し、所望の場所でその積荷を排出する。ダンプトラック20は、車両本体21と、ベッセル22と、車輪23と、サスペンションシリンダ24と、回転センサ25と、サスペンション圧力センサ(圧力センサ)26と、アンテナ28Aが接続された車載無線通信装置(第1無線通信装置)27と、GPS用アンテナ28Bが接続された位置情報検出装置(本実施形態ではGPS受信機)29と、車載情報収集装置30と、を有する。なお、ダンプトラック20は、上記構成以外にも一般的な運搬機又は運搬車両が備えている各種の機構及び機能を備えている。なお、本実施形態では、前輪(車輪23)で操舵するタイプのダンプトラック20を示しているが、ダンプトラック20に代えて、車体を前部と後部に分割しそれらを自由関節で結合したアーティキュレート式ダンプトラックにも本実施形態は適用可能である。
【0036】
ダンプトラック20は、ディーゼルエンジン等の内燃機関が発電機を駆動することによって発生した電力で電動機を駆動し、電動機の出力軸に機械的に連結された車輪23を駆動する。このように、ダンプトラック20は、いわゆる電気駆動方式であるが、ダンプトラック20の駆動方式はこれに限定されるものではない。ベッセル22は、積荷を積載する荷台として機能するものであり、車両本体21の上部に配置されている。ベッセル22には、積荷として、砕石又は岩若しくは土砂等が油圧ショベルなどの積込機4によって積載される。車輪23は、タイヤとホイールとで構成され、車両本体21に装着されており、上述したように車両本体21から動力が伝達されることで駆動される。サスペンション24は、車輪23と車両本体21との間に配置されている。車両本体21及びベッセル22、それらに加えて積荷が積載された際の積荷の重量に応じた負荷が、サスペンションシリンダ24に作用する。
【0037】
回転センサ25は、車輪23の回転速度を検出することで車速を計測する。サスペンション圧力センサ(必要に応じて圧力センサともいう)26は、サスペンションシリンダ24に作用する負荷を検出する。すなわち、サスペンションシリンダ24は、内部に作動油が封入されており、積荷の重量に応じて伸縮動作する。なお、圧力センサ26は、ダンプトラック20の各サスペンションシリンダ24に設置されており、その作動油の圧力を検出することで積荷の重量(積載量)を計測することができる。GPS用アンテナ28Bは、GPS(Global Positioning System)を構成する複数のGPS衛星5A、5B、5C(図1参照)から出力される電波を受信する。GPS用アンテナ28Bは、受信した電波を位置情報検出装置29に出力する。位置情報検出装置29は、GPS用アンテナ28Bが受信した電波を電気信号に変換し、自身の位置情報、すなわちダンプトラック20の位置情報を算出(測位)する。車載無線通信装置27は、アンテナ28Aを介して図1に示す中継器3との間で無線通信を行う。車載無線通信装置27は、車載情報収集装置30に接続されている。このような構造により、車載情報収集装置30は、アンテナ28Aを介して情報収集装置10との間で各情報の送受信を行う。次に、車載情報収集装置30及びその周辺機器について説明する。
【0038】
<車載情報収集装置及びその周辺機器>
図4は、車載情報収集装置30及びその周辺機器を示す機能ブロック図である。ダンプトラック20が有する車載情報収集装置30は、車載記憶装置31と、車載無線通信装置27と、位置情報検出装置29と、鉱山機械情報取得装置32とが接続されている。車載情報収集装置30は、例えば、CPU(Central Processing Unit)とメモリとを組み合わせたコンピュータである。車載情報収集装置30は、鉱山機械情報取得装置32から、ダンプトラック20の稼働状態に関する稼働情報を収集する。
【0039】
車載記憶装置31は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ若しくはハードディスクドライブ等又はこれらを組み合わせて構成されている。車載記憶装置31は、車載情報収集装置30が稼働情報を収集するための命令が記述されたコンピュータプログラムを記憶している。車載情報収集装置30は、前記コンピュータプログラムを読み出し、所定のタイミングで鉱山機械情報取得装置32から稼働情報を取得して、車載記憶装置31へ一時的に記憶させる。ここで、所定のタイミングとは、エンジン水温等のように定常的に監視するものは所定の周期を意味し、異常を示す状態(例えば作動油温度の過昇温異常)が発生した場合は、その発生時を意味する。このとき、車載情報収集装置30は、同一項目の情報について平均値、最頻値又は標準偏差等を求める統計処理を施したりしてもよい。
【0040】
車載情報収集装置30は、図2に示す情報収集装置10からの要求を受けて、車載無線通信装置27を介して、収集した稼働情報を情報収集装置10へ送信する。また、車載情報収集装置30は、位置情報検出装置29からダンプトラック20の位置情報を取得し、この位置情報の場所における車速及び進行方向の情報とともに車載無線通信装置27を介して図2に示す情報収集装置10へ送信する。なお、車速は、位置情報検出装置29で検出してもよいし、ダンプトラック20に搭載されている車速センサ(回転センサ25等のセンサ)によって検出してもよい。進行方向は、例えば、所定時間における位置情報の変化から求めてもよいし、加速度センサを備えて加速度センサで検出した加速度の向きを進行方向としてもよいし、両者を組み合わせて進行方向を求めてもよい。
【0041】
鉱山機械情報取得装置32は、回転センサ25、圧力センサ26、ベッセル22を昇降させるホイストシリンダーの作動油の圧力変化を検出する油圧センサ33A、ベッセル22を昇降させるために運転者が操作するダンプレバーの動作を検知するセンサ33B、燃料センサ33C等で構成される。また、鉱山機械情報取得装置32には、各種センサ類の他に、各種センサ類の出力信号やオペレータのアクセル操作などにより生成される指令信号等の情報を取得してダンプトラック20のエンジンを制御するエンジン制御装置35A、電動機制御装置35B及び油圧制御装置35C等の各種制御装置が含まれる。車載情報収集装置30は、これらの各種センサ類及び各種制御装置から得られた情報を、ダンプトラック20の稼働情報として収集する。次に、本実施形態において、状態監視システム1が車載無線通信装置27、中継器3等の状態を判定する制御(状態判定制御)の一例を説明する。
【0042】
<状態判定制御>
図5は、実施形態1に係る状態判定制御の手順を示すフローチャートである。図6は、ブロードキャストに対する応答回数の集計の一例を示す図である。本実施形態に係る状態判定制御は、鉱山の管理施設に設置された情報収集装置10が、無線通信を介して、移動体である各ダンプトラック20から稼働情報を収集するとともに車載無線通信装置27の異常の有無を判定するものである。ステップS101において、情報収集装置10は、ブロードキャストを各ダンプトラック20に対して送信する。
【0043】
車載無線通信装置27がブロードキャストを受信したダンプトラック20は、アンテナ28Aを介して情報収集装置10に対して応答を送信する。車載無線通信装置27がブロードキャストを受信しなかったダンプトラック20は、情報収集装置10に対して応答を送信しない。ブロードキャストは、所定の周期、具体的には比較的短い周期(例えば、1秒に1回)で発信されるように設定されている。鉱山で稼働するすべてのダンプトラック20(より具体的には車載情報収集装置30)からは、車載無線通信装置27及び中継器3等の各機器類が正常動作を行っていれば、ブロードキャストの数に相当する応答が情報収集装置10に対して送信される。
【0044】
ステップS102において、車載無線通信装置27から送信された応答を、中継器3、さらには中間中継器6を介して情報収集装置10に接続されている第2無線通信装置18が受信して、応答は情報収集装置10に送信される。次に、ステップS103に進み、情報収集装置10は、受信した応答を記憶装置13に保存する。このとき、情報収集装置10は、図6に示すように、第2無線通信装置18が応答を受信できた回数、すなわち応答回数を1日毎に集計して、ダンプトラック20毎に対応付けて記憶装置13に保存する。例えば、図6は、Aというダンプトラック20から、y1.m1.d1という日に42,022回の応答があったことを示している。
【0045】
次に、ステップS104に進み、情報収集装置10は、それぞれのダンプトラック20の日々における応答回数について、前日との差の絶対値(応答回数差)を求め、応答回数差と所定の閾値NRcとを比較する。所定の閾値NRcは、車載無線通信装置27の異常を判定するためのものであり、例えば、前日の応答回数の半分の値に設定したり、前日以前の所定期間における平均値に設定したりすることができる。また、所定の閾値NRcは、統計値又は経験値等から設定してもよい。所定の閾値は、予め記憶装置13に記憶されている。本実施形態において、所定の閾値NRcは、前日の応答回数の半分の値としている。なお、ステップS104においては、応答回数差ではなく、1日における応答回数と所定の閾値とを比較してもよい。
【0046】
図6に示す例では、ダンプトラックA、Cの応答回数差(y1.m1.d1という日の応答回数とy1.m1.d2という日の応答回数との差)がそれぞれ2,654、2,660、所定の閾値NRc(前日の応答回数の半分の値を閾値NRcとする場合)がそれぞれ21,011、20,631であるのに対し、ダンプトラックBの応答回数差(y1.m1.d1という日の応答回数とy1.m1.d2という日の応答回数との差)は44,004、所定の閾値NRc(前日の応答回数の半分の値を閾値NRcとする場合)は22,003である。この結果から、ダンプトラックBの応答回数差(44,004)が所定の閾値NRc(22,003)より大きくなっていることが分かる。
【0047】
応答回数差が所定の閾値NRcより大きい場合(ステップS104、Yes)、ステップS105に進み、応答回数差が所定の閾値NRc以下である場合(ステップS104、No)、ステップS106に進む。ステップS105において、情報収集装置10は、応答回数差が所定の閾値NRcより大きいダンプトラック20(この例ではダンプトラックB)の車載無線通信装置27に異常が発生したと判定する。この場合、例えば、情報収集装置10は、図2に示す表示装置16にその旨を、メッセージ又はエラーマークの表示形態とともに、どのダンプトラック20の車載無線通信装置27に異常が発生しているかを管理者が認識できるように識別表示させる。ステップS106において、情報収集装置10は、応答回数差が所定の閾値NRc以下のダンプトラック20(この例ではダンプトラックA、C)の車載無線通信装置27は正常であると判定する。
【0048】
このように、情報収集装置10は、ブロードキャストに対する応答回数に基づき、車無線通信装置27の異常の有無を判定するので、鉱山で稼働する各ダンプトラック20と管理施設との相互の無線通信が良好に行われているか否かを把握することができる。すなわち、情報収集装置10は、鉱山において使用される車載無線通信装置27等の機器類の状態監視を行うことができる。その結果、いずれかのダンプトラック20の車載無線通信装置27に異常が発生した場合、早期に対策を講じて迅速に鉱山機械の動態管理システム1を復旧させることができるので、安定的に稼働情報の収集を実現でき、鉱山機械の稼働現場の生産性の低下を抑止することができる。鉱山で使用されるダンプトラック20は、粉塵、振動又は風雨といった過酷な環境下で稼働するので、車載無線通信装置27にも故障等の異常が発生するおそれがあるため、本実施形態に係る状態監視システム1は有効である。
【0049】
また、ダンプトラック20は、ブロードキャストに対する応答を送信することのみで車載無線通信装置27の状態を管理者に知らせることができるため、ダンプトラック20に新たな監視手段又は異常判定手段を設ける必要はない。その結果、過酷な環境で使用される車載無線通信装置27にとっては、耐久性に係る信頼性を低下させる要因が付加されることがないため、耐久性に係る一定の信頼性を確保することができる。このような点からも、本実施形態に係る状態監視システム1は、鉱山で使用される無線通信装置等の機器類を備えたダンプトラック20に対して好適である。
【0050】
本実施形態は、情報収集装置10が、ダンプトラック20から送信された稼働情報又は応答を基に、ダンプトラック20の稼働状態及び車載無線通信装置27の状態を把握する。したがって、ダンプトラック20には、自身の稼働状態又は車載無線通信装置27の状態監視を行うための新たな監視手段又は異常判定手段を設ける必要はない。また、例えば、鉱山の走行経路の変更等によって中継器3の位置が変更され、通信可能範囲7が変化した場合であっても、情報収集装置10側で通信可能範囲データベース14を書き換えることでダンプトラック20の稼働状態及び車載無線通信装置27の状態を把握することができる。その結果、本実施形態に係る状態監視システム1は、鉱山のレイアウト(走行経路、積込場の位置、排土場の位置などを含むレイアウト)が変更されて中継器3の配置場所が変わった場合及び状態監視システム1の構成が変更された場合等でも、比較的容易に対応することができる。この点は、以下の実施形態でも同様である。
【0051】
(実施形態2)
実施形態1では、ダンプトラック20の車載無線通信装置27の異常の有無を判定する無線通信装置及び情報収集機器の状態監視システム(状態判定制御)について述べた。本実施形態は、さらに詳細な無線通信装置等の機器類の状態監視を行うことができ、さらに走行経路の変更が行われたか否かも判定が可能な状態監視システム1に関するものである。つまり、中継器3の異常の有無を含めた判定が可能で、通信障害が走行経路の変更に伴うものであるか否かまでも判定できる。次に、本実施形態に係る状態監視システム1について説明する。
【0052】
図7は、実施形態2に係る状態判定制御の手順を示すフローチャートである。図8は、各中継器3が稼働情報を中継した回数(中継回数)の集計の一例を示す図である。図9は、中継器3がブロードキャストを中継した回数(中継数)の集計の一例を示す図である。図10は、ダンプトラック20の走行経路が変更された例を示す図である。上述したように、実施形態2は、中継器3の状態、ダンプトラック20の走行経路の状態及び車載無線通信装置27又は車載情報収集装置30の状態を判定するものである。本実施形態において、ブロードキャストに対する車載情報収集装置30からの応答に含まれる情報は、応答の時刻情報、ダンプトラック20の位置情報、車速及び進行方向を含む。また、実施形態1と同様に情報収集装置10は、記憶装置13に各中継器3の配置場所に関する位置情報又は各中継器3の通信可能範囲7の情報(通信可能な範囲の位置情報)を記憶している。
【0053】
次に、図7を用いて、状態判定制御の手順を説明する。また、本実施形態においては、各中継器3が各ダンプトラック20の稼働情報を中継した回数を「中継回数」と定義し、各中継器3が各ダンプトラック20からのブロードキャストを中継した回数を「中継数」と定義する。ステップS201において、情報収集装置10は、ブロードキャストの応答の情報に含まれているダンプトラック20の位置情報と、応答の時刻情報と、稼働情報を取得した時刻とを比較する。そして、情報収集装置10は、稼働情報を受信した時刻におけるダンプトラック20の位置情報から、その位置情報に近い位置にある中継器3を抽出(特定)する。中継器3の配置場所に係る位置情報は、記憶装置13に予め記憶されているので、中継器3を抽出(特定)できるのである。ダンプトラック20の車載情報収集装置30は、中継器3を介して稼働情報を情報収集装置10に対して送信する。したがって、ダンプトラック20が稼働していた任意の場所において稼働情報を送信できた場合、その場所を通信可能範囲7として含む中継器3が、稼働情報を中継した中継器3となる。
【0054】
次に、ステップS202に進み、情報収集装置10は、各中継器3が中継した1日あたりの稼働情報の中継回数を集計し、記憶装置13に記憶させる。なお、集計のタイミングは、必ずしも1日単位でなくともよく、例えば、8時間毎といった所定の時間間隔でもよい。次に、ステップS203に進み、1日において各中継器3が中継した稼働情報の中継回数と、中継回数の閾値とを比較する。中継回数の閾値は、中継器3の異常を判定するためのものであり、例えば、前日の中継回数の半分の値に設定したり、前日以前の所定期間における平均値に設定したりすることができる。また、中継回数の閾値は、統計値又は経験値等から設定してもよい。中継回数の閾値は、記憶装置13に記憶されている。本実施形態において、中継回数の閾値NRcは、前日の中継回数の半分の値としている。
【0055】
ステップS204において、中継回数の閾値以下の中継器3がある場合(ステップS204、Yes)、ステップS205に進み、中継回数の閾値以下の中継器3がない場合(ステップS204、No)、ステップS209に進む。例えば、図8に示す例では、中継器3Eは、y1.m1.d30という日に、62回の中継回数をカウント(計数)したが、その後、y1.m2.d1という日には、4回しか中継回数をカウント(計数)しなかった。また、中継器3Gは、同様に中継回数が19回から0回へと減少している。すなわち、中継回数の閾値を「前日の中継回数の半分の値」と定めたならば、中継器3E、3Gの中継回数は、閾値以下に減少してている。次に、ステップS205において、情報収集装置10は、中継回数が閾値以下になっている中継器3(図8の場合、中継器3E、3G)のブロードキャストを中継した回数を記憶装置13から読み出す。ブロードキャストに対する応答の情報に含まれているダンプトラック20の位置情報からブロードキャストを中継した中継器3を特定することができるので、特定された中継器3がブロードキャストを中継した回数(中継数)をカウント(計数)することができる。
【0056】
次に、ステップS206において、情報収集装置10は、ステップS204で抽出された中継器3(稼働情報の中継回数が閾値以下になっている中継器であり、図8の場合、中継器3E、3G)に対して、ブロードキャストの中継数が0回か否かを判定する。例えば、稼働情報の中継回数が閾値以下になっている中継器3(図8の場合、中継器3E、3G)がブロードキャストを中継した回数(中継数)が、図9に示すような結果であったとする。中継器3Eは、日付が変わっても大きな中継数の変動はないが、中継器3Gは、y1.m2.d1という日に中継数は激減し、中継回数は0回になっている。
【0057】
ステップS206において、ブロードキャストの中継数が0回である場合(ステップS206、Yes)、ステップS207に進み、情報収集装置10は、そのような中継器3(図9の場合、中継器3E)には異常が発生しているおそれがあるとして、例えば、表示装置16に異常の警告を表示させる。ステップS206において、ブロードキャストの中継数が0回でない場合(ステップS206、No)、ステップS208に進み、情報収集装置10は、ダンプトラック3の走行経路が変更されたとして、その旨の警告を表示装置16に表示させる。このとき、情報収集装置10は、ブロードキャストの応答の情報に含まれるダンプトラック20の位置、車速及び進行方向の集計値を表示装置16に表示させてもよい。
【0058】
図10に示すように、積込場LAの位置に変更はないが、図9のy1.m1.d30の日からy1.m2.d1の日に変わった際に、排土場DAの場所がDA1からDA2へ変更されたとする。この場合、排土場DAの場所がDA1の場所であるときには、ダンプトラック20の走行経路R1は、中継器3Eの通信可能範囲7を広い範囲で横切っている。このため、ダンプトラック20が走行中であっても、送信すべき稼働情報の通信に必要な通信時間を十分に確保できるので、図8に示すように、y1.m1.d30の日以前においては、中継器3Eの稼働情報の中継回数は同程度で推移している。
【0059】
排土場DAの場所がDA1からDA2に変更されると、ダンプトラック20の走行経路R2は中継器3Eの通信可能範囲7の外側に近い部分をかすめることになる。このため、ダンプトラック20が走行中である場合、ブロードキャストに対する応答の通信時間は確保できても、送信すべき稼働情報の通信に必要な通信時間は確保できない。また、通信可能範囲7の近傍における走行経路R1又は走行R2の向きは、後者の方が中継器3Eの方を向いていない。すなわち、走行経路R1は、通信可能範囲7の中心に向かってダンプトラック20が走行することとなるが、走行経路R2は、通信可能範囲7が示す円の外側に向かってダンプトラック20が走行することとなる。無線通信の指向性とダンプトラック20の進行方向とを考慮すると、走行経路R2を走行するダンプトラック20は、走行経路R1を走行するダンプトラック20と比較して、中継器3Eに対する通信の指向性が低下する。その結果、図8に示すように、y1.m2.d1の日において、中継器3Eの稼働情報の中継回数が急激に減少しているが、図9に示すように、中継器3Eがブロードキャストに対する応答を中継する回数(中継数)は、y1.m1.d30の日からy1.m2.d1の日に変わっても急激に減少していないといった結果が得られる。
【0060】
このように、本実施形態によれば、例えば、中継器3がブロードキャストに対する応答及び稼働情報の中継を行うこと及びブロードキャストに対する応答と稼働情報とでは後者の方が通信に必要な時間(中継時間)は長いことを利用して、中継器3の異常の有無とダンプトラック20の走行経路の変更の有無とを判定する。状態監視システム1が、ダンプトラック20の走行経路の変更がなされていると判定した場合(ステップS208)、中継器3の移動が必要となるので、情報収集装置10は、中継器3の移動を促す旨を表示装置16に表示させて、管理者に通知するようにしてもよい。
【0061】
中継器3の異常の有無とダンプトラック20の走行経路の変更の有無とを判定する手法は、上述したものに限定されない。例えば、稼働情報を送信するときにおけるダンプトラック20の車速に基づいて、中継器3の異常の有無とダンプトラック20の走行経路の変更の有無とを判定してもよい。一例として、稼働情報の送信時におけるダンプトラック20の車速は、ブロードキャストの応答の送信に対しては十分遅いが、送信すべき稼働情報を通信可能範囲7にダンプトラック7がいる間に送信させるには速過ぎる場合を考える。この場合、情報収集装置10は、ブロードキャストの応答は収集できるが、稼働情報は収集できない事象が発生する。ステップS208において、情報収集装置10は、ダンプトラック20の車速を示す情報に基づいて、ダンプトラック20の走行経路の変更を判定してもよい。すなわち、走行経路の変更前において、各ダンプトラック20は、送信すべき稼働情報の通信に必要な通信時間を確保できる程度の車速で、ある中継器3の通信可能範囲7内を走行していたが、走行経路の変更により、各ダンプトラック20は、その中継器3の通信可能範囲7内を高速で走行するようになり、送信すべき稼働情報の通信に必要な通信時間を確保できなくなった場合、情報収集装置10は、車速の時系列の変化から走行経路が変更されたと判定し、さらには中継器3の移動を促す旨を通知する(ステップS208)。
【0062】
次に、ステップS204に戻って説明する。中継回数の閾値以下の中継器3が抽出されない場合(ステップS204、No)、ステップS209に進み、情報収集装置10は、車載無線通信装置27及び車載情報収集装置30の異常の有無判定を開始する。ステップS210において、情報収集装置10は、稼働情報が収集できたダンプトラック20を抽出する。次に、ステップS211に進み、情報収集装置10は、稼働情報が収集できたダンプトラック20について前回と今回とを比較する。前回とは、過去のある一定期間で稼働情報を取得できたことであり、今回とは、その過去のある一定期間後であって、その一定期間と同じ時間が経過した時点までに稼働情報を取得できたことを示す。そして、ステップS212において、情報収集装置10は、前回は稼働情報が収集できていたが今回は収集できていないダンプトラック20が存在するか否かを判定する。
【0063】
今回は稼働情報を収集できていないダンプトラック20が存在する場合(ステップS212、Yes)、さらに情報収集装置10は、今回は稼働情報を収集できていないダンプトラック20について、ブロードキャストに対する応答の実績を確認する。そして、ステップS213において、今回は稼働情報を収集できていないダンプトラック20がブロードキャストに対しても応答していない場合(ステップS213、Yes)、情報収集装置10は、ステップS214において、車載情報収集装置30と車載無線通信装置27との少なくとも一方に異常が発生したとして、その旨の警告を表示装置16に表示する。すなわち、ステップS213において、今回は稼働情報を収集できていないダンプトラック20がブロードキャストに対しても応答していない場合(ステップS213、Yes)とは、ダンプトラック20が稼働情報そのものを取得できなかった(車載情報収集装置30の異常)か、稼働情報を収集できたが稼働情報を無線通信できなかった(車載無線通信装置27の異常)か、という異常が発生している可能性を示す。
【0064】
稼働情報の収集は、管理施設の情報収集装置10の処理装置12にスケジューリングがされており、例えば毎日の定時時刻又は一定の周期で各ダンプトラック20に対して稼働情報の送信を指示する指令信号を送信し、その指令信号を受けた各ダンプトラック20は、収集した稼働情報を情報収集装置10に対して送信する。したがって、今回は稼働情報を収集できていないダンプトラック20が存在する場合(ステップS212、Yes)であっても、電波状態等により偶然に収集できなかった可能性もある。しかし、ブロードキャストは高頻度(例えば1回/秒)で各ダンプトラック20に送信されるため、今回は稼働情報を収集できていないダンプトラック20が、さらにブロードキャストに対しても応答していない場合(ステップS213、Yes)、ダンプトラック20側の機器類、より具体的には車載情報収集装置30と車載無線通信装置27との少なくとも一方に異常が発生したと考えるのが妥当である。このため、ステップS213の判定結果が肯定(Yes)である場合、車載情報収集装置30と車載無線通信装置27との少なくとも一方に異常が発生したとする。このように、稼働情報の収集の有無の結果に加え、ブロードキャストに対する応答の有無の結果を利用することにより、ダンプトラック20側の機器類の異常の有無をより正確に判定することができる。
【0065】
今回も稼働情報を収集できていないダンプトラック20は存在しない場合(ステップS212、No)又は今回は稼働情報を収集できていないダンプトラック20がブロードキャストに対して応答している場合(ステップS213、No)、車載情報収集装置30及び車載無線通信装置27は正常であるとして、本実施形態に係る状態判定制御は終了する。
【0066】
本実施形態は、中継器3、ダンプトラック20の車載無線通信装置27等の状態を判定するにあたり、中継器3が稼働情報及びブロードキャストを中継した回数と、稼働情報の収集の有無及び車載情報収集装置30からのブロードキャストに対する応答の有無とを時系列に取得して用いる。その結果、本実施形態は、中継器3の異常の有無、ダンプトラックの走行経路の変更及び車載無線通信装置27等の異常の有無を判定することができる。このように、本実施形態は、鉱山において使用される車載無線通信装置27、車載情報収集装置30又は中継器3等の機器類の状態監視を行うとともに鉱山の状態(この例ではダンプトラック20の走行経路)の状態監視を的確に行って鉱山の状態を把握することができる。また、そのような鉱山で使用される機器類に異常があった場合又は鉱山の状態に変更があった場合には、速やかにこれらの事象の情報を得ることができるので、早期に対策を講じて迅速に状態監視システム1を復旧させることができる。その結果、車載情報収集装置30から安定して稼働情報を収集できる。また、早期に対策を講ずることにより、鉱山の生産性の低下を最小限に抑えることができる。
【0067】
鉱山は、積込機4により砕石を掘削してダンプトラック20に積み込む場所(積込場)及び掘削された土砂等を排出する場所(排土場)等が変化するため、これに応じてダンプトラック20の走行経路が変更される。このため、無線通信によりダンプトラック20等の鉱山機械の稼働情報を収集するために中継器3を配置しても、走行経路の変更により通信可能範囲7とダンプトラック20との位置関係から稼働情報を収集できなくなることもある。本実施形態は、中継器3による稼働情報の中継回数及びブロードキャストの中継数を時系列に取得し用いて、走行経路が変更されたことを把握できる。このため、本実施形態は、時間の経過とともにダンプトラック20の走行経路が変化する鉱山での適用に好適である。
【0068】
また、中継器3の中継回数又は中継数を求める場合は、ダンプトラック20からの稼働情報及びブロードキャストに対する応答の結果を利用するため、中継器3に中継回数を計数する機器又は中継器3を監視したり異常を判定したりする手段を設ける必要はない。さらに、ダンプトラック20は、稼働情報及びブロードキャストに対する応答を送信できればよいので、新たな監視手段又は異常判定手段を設ける必要はない。その結果、過酷な環境で使用される機器類としてのダンプトラック20及び中継器3に、耐久性に係る信頼性を低下させる要因が付加されることがないので、耐久性に係る信頼性低下を抑制することができる。このような点からも、本実施形態に係る状態監視システム1は鉱山で使用される機器類に対して好適である。
【符号の説明】
【0069】
1 鉱山機械の動態管理システム(状態監視システム、無線通信装置及び情報収集装置、走行経路の状態監視システムを含む)
2 給油所
3 ダンプトラック
3、3A、3B、3E、3G 中継器
4 積込機
5A、5B、5C GPS衛星
6、6A、6B 中間中継器
7 通信可能範囲
10 情報収集装置
12 処理装置
13 記憶装置
14 通信可能範囲データベース
15 入出力部
16 表示装置
17 入力装置
18 第2無線通信装置
18A アンテナ
20 ダンプトラック
21 車両本体
22 ベッセル
23 車輪
24 サスペンションシリンダ
25 回転センサ
26 圧力センサ
27 車載無線通信装置
28A アンテナ
28B GPS用アンテナ
29 位置情報検出装置
30 車載情報収集装置
31 車載記憶装置
32 鉱山機械情報取得装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱山機械に搭載されて、前記鉱山機械の稼働状態に関する稼働情報を収集する車載情報収集装置と、
前記鉱山機械に搭載されて通信を行う第1無線通信装置と、
前記第1無線通信装置と通信する第2無線通信装置を介して前記稼働情報を収集する情報収集装置と、を含み、
前記情報収集装置は、
前記第2無線通信装置を介して所定のタイミングで前記鉱山機械の位置情報の送信を要求する位置情報要求命令を前記鉱山機械に対して送信し、
前記位置情報要求命令に対する前記鉱山機械からの応答に基づいて、前記鉱山機械に搭載される機器と、前記第1無線通信装置から前記第2無線通信装置への通信を中継する中継器と、前記鉱山機械の走行経路とのうち少なくとも一つの状態を判定することを特徴とする鉱山機械の動態管理システム。
【請求項2】
前記情報収集装置は、
前記応答を受信できた回数に基づいて、前記車載無線通信装置の異常を判定する請求項1に記載の鉱山機械の動態管理システム。
【請求項3】
前記情報収集装置は、
鉱山機械の稼働状態を受信したタイミングにおける前記応答に含まれている鉱山機械の位置情報と、前記稼働情報を受信した時刻とから、前記稼働情報を中継した中継器を特定するとともに、
特定された中継器が前記稼働情報を中継した回数に基づいて、前記特定された中継器の異常を判定する請求項1に記載の鉱山機械の動態管理システム。
【請求項4】
前記情報収集装置は、
前記特定された中継器について、前記稼働情報を中継する回数が時系列にみて減少している場合、前記特定された中継器が前記応答を中継した回数に基づいて、前記特定された中継器の異常の有無又は前記鉱山機械の走行経路の変更の有無を判定する請求項3に記載の鉱山機械の動態管理システム。
【請求項5】
前記情報収集装置は、
前記鉱山機械の時系列に見た速さの変化に基づき、前記鉱山機械の走行経路が変更されたことを判定する請求項4に記載の鉱山機械の動態管理システム。
【請求項6】
前記情報収集装置は、
前記特定された中継器に異常が発生していない場合、前記稼働情報と前記応答とに基づいて、前記鉱山機械に搭載された機器の異常の有無を判定する請求項3に記載の鉱山機械の動態管理システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−96198(P2013−96198A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242845(P2011−242845)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】