説明

鉱物質結合剤において櫛形ポリマーを安定化させるための鉄(III)−錯化剤

本発明は、櫛形ポリマーと、チオシアネート、縮合ホスフェート、アミン、アミノ酢酸、オキシカルボン酸および式(V)の化合物を含む群から選択されるFe(III)-錯化剤Xとを含む組成物に関する。加えて、本発明は、このようなFe(III)-錯化剤Xを使用して、Fe(III)の存在下で櫛形ポリマーを安定化させるための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用の添加剤の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント製造で使用される原材料が、多少ともかなりのクロムを含有し得ることは古くから知られている。より詳細には、セメント粉末中に水溶性クロム(VI)が存在すると、皮膚と長期間接触した後に、皮膚発疹、特に、いわゆるれんが職人の湿疹の原因になる恐れがあり、それ故その存在は望ましくない。望ましくない可溶性クロム(VI)の含量を低減し、それを低いレベルで固定するための方法および方策も知られている。この目的で、例えば、硫酸鉄(II)が使用され、セメント中の水溶性クロム塩の部分が硫酸鉄(II)によって3価のクロムに還元され、鉄(II)イオンが鉄(III)イオンに酸化される。
【0003】
しかし、乾燥セメント粉末に公知の鉄(II)化合物を添加すると、硫酸鉄(II)が大気中の酸素によって鉄(III)化合物に酸化されるため、比較的短時間後にその還元効果が既に失われてしまうことがしばしばある。その理由は、公知の鉄(II)化合物が既に空気を取り込んでしまうことによって不活性な鉄(III)化合物に酸化され得るからである。鉄(III)化合物の具体的な欠点は、それが、例えば、大気中の酸素による有機化合物の鉄(III)触媒酸化によって、セメント中に存在する有機化合物、特に、櫛形ポリマーに損傷を与え得ることである。
【0004】
こうした理由のために、クロムを安全なレベルまで確実に還元するためには、鉄(II)化合物はかなりの量で、通常、セメントに対して0.4体積%の量で鉄(II)化合物を添加しなければならない。したがって、このために、潜在的な鉄(III)化合物の割合が大きくなることになる。
【0005】
櫛形ポリマーは、分散剤として、特に、その大きな減水特性のために高速凝縮剤としてコンクリート技術分野で既にかなり以前から使用されてきた。
【0006】
櫛形ポリマーは、高い温度では一定の条件下でのみ安定であり、数日間以内に破壊されて、もはやいかなる効果も発揮することができなくなる。より詳細には、櫛形ポリマーの有効性は、無機粉末、特に、水硬性結合剤の存在下で高い温度で鉄(III)化合物と一緒に使用されると、顕著に低減することが明らかとなっている。こうした問題は、例えば、水硬性結合剤の貯蔵または水硬性結合剤の粉砕の際に問題となる。
【0007】
貯蔵中、水硬性結合剤は、通常、80℃超、しばしば、120℃超でサイロ内で保存される。加えて、高圧が、サイロ内、特に、塔型サイロ内で発生する場合があり、そのためにポリマーを安定化させることが困難になる。櫛形ポリマーを結合剤に事前に添加することは、特に、セメントレディーミックスなどのレディーミックスを製造する際に望ましいが、これを行うと、櫛形ポリマーの有効性は、高温で貯蔵した後に大きく低減する。
【0008】
櫛形ポリマーは、例えば、WO 2005/123621A1に記載されているように、水硬性結合剤、例えば、クリンカーを粉砕する際に粉砕助剤としてもある程度使用される。粉砕により高温も発生するため、大部分の櫛形ポリマーが破壊され、もはや有効でなくなる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 2005/123621A1
【特許文献2】WO 2006/133933 A2
【特許文献3】US 2002/0002218 A1
【特許文献4】US 6,387,176 B1
【特許文献5】US 2006/0004148 A1
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「CD Roempp's Encyclopedia of Chemistry」、第9版、version 1.0、George Thieme Publisher、Stuttgart
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、特に鉱物質結合剤中で、および特に高い温度で、鉄(III)化合物の存在下、鉄(III)化合物によって引き起こされる損傷から櫛形ポリマーを保護する組成物および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、これは、請求項1に記載の組成物によって実現できることが判明した。櫛形ポリマーと、チオシアネート、縮合ホスフェート、アミン、アミノ酢酸、オキシカルボン酸および式(V)の化合物からなる群から選択される少なくとも1種のFe(III)-錯化剤Xとを含む組成物であって、鉄(III)化合物の存在下で、高い温度でも長期間にわたってその有効性を維持できる組成物によって、櫛形ポリマーを鉄(III)化合物により引き起こされる損傷から保護することができることが分かった。
【0013】
櫛形ポリマーと、少なくとも1種のFe(III)-錯化剤Xとを含み、加えて抗酸化剤を含む組成物が、鉄(III)化合物により引き起こされる損傷から櫛形ポリマーを保護するために特に適していることは、特に驚くべきことである。
【0014】
さらには、このような方法で保護された櫛形ポリマーは、粉砕工程中に高温に曝露された後でも、あるいは長期の貯蔵後でも、粉砕助剤および/または分散剤、特に、凝縮剤としてその有効性を維持することができることが明らかになった。
【0015】
本発明の他の態様は、さらなる独立請求項の主題である。本発明の特に好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、櫛形ポリマーと、チオシアネート、縮合ホスフェート、アミン、アミノ酢酸、オキシカルボン酸および式(V)の化合物からなる群から選択される少なくとも1種のFe(III)-錯化剤Xとを含む組成物に関する。
【0017】
「Fe(III)-錯化剤」という用語は、本明細書を通して、いわゆる配位子としてそれ自体をいわゆる中心イオンであるFe(III)に結合させて、「CD Roempp's Encyclopedia of Chemistry」、第9版、version 1.0、George Thieme Publisher、Stuttgartに記載されているような錯化合物を形成するのに適した中性分子および/またはイオンを指す。
【0018】
Fe(III)-錯化剤Xが、Fe(II)に対する錯化定数より10倍、特に1000倍大きいFe(III)に対する錯化定数を有することが有利である。これは、Fe(III)-錯化剤XのFe(II)との錯体形成が弊害をもたらす場合に特に有利である。
【0019】
「錯化定数」という用語は、本明細書を通して、周囲温度で水中で測定した場合の、それぞれFe(III)またはFe(II)(中心イオン)と、Fe(III)-錯化剤X(配位子)とからなる錯化合物の形成のための平衡定数K1を指す。
【0020】
2-ニトロ-4-チオシアナトアニリンおよびベンジルチオシアネート、特に、ベンジルチオシアネートが、チオシアネートとして好ましい。
【0021】
ピロホスフェート、トリポリホスフェートおよびポリホスフェートが、縮合ホスフェートとして好ましい。
【0022】
アミンおよびアミノ酢酸は、Fe(III)との非常に安定な錯化合物を形成し得るため、有利である。
【0023】
トリエタノールアミン(TEA)、エチレンジアミン(EDA)、1-[2-(ビス(2-ヒドロキシプロピル)アミノ)エチル(2-ヒドロキシプロピル)アミノ]プロパン-2-オール(クアドロール)、N,N-ジ-(ヒドロキシエチル)-グリシン(DHEG)、ジエチレントリアミン(DETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、トリエチレンテトラミン(TETA)は、アミンとして好ましい。
【0024】
ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレングリコール-ビス(アミノエチルエーテル)-N,N,N'N'-四酢酸(EGTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)-エチレンジアミン-N,N,N'三酢酸(HEDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、グリシン、グルタミン酸、および/またはそれらの塩は、アミノ酢酸として好ましい。
【0025】
グリシンは、Fe(III)に対して6.3×1010、Fe(II)に対して2×104の安定度定数を有する。グルタメートは、Fe(III)に対して6.3×1013、Fe(II)に対して4×104の安定度定数を有する。NTAは、Fe(III)に対して8×1015の安定度定数を有する。EDTAは、Fe(III)に対して1.3×1025、Fe(II)に対して2×1014の安定度定数を有する。
【0026】
2,3-ジヒドロキシブタン二酸、2-ヒドロキシ-1,2,3-プロパントリカルボン酸(クエン酸)、グルコン酸、α-ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシコハク酸は、オキシカルボン酸として好ましい。
【0027】
グリコレートは、Fe(III)に対して5×103、Fe(II)に対して8×101の安定度定数を有する。マロネートは、Fe(III)に対して2×109、Fe(II)に対して5×105の安定度定数を有する。シトレートは、Fe(III)に対して3.2×1013、Fe(II)に対して5×105の安定度定数を有する。酒石酸は、Fe(III)に対して7.2×1011の安定度定数を有する。
【0028】
下記式(V)の化合物について、
【0029】
【化1】

【0030】
R10およびR11は、互いに独立に、H、ハロゲン原子、NO2、または、分枝であってもよい1〜25個のC原子を有する飽和もしくは不飽和アルキル基、6〜14個のC原子を有するアリール基、1〜10個のC原子を有するアシル基、1〜10個のC原子を有するカルボニル基、または1〜10個のC原子を有するカルボキシル基を表すか、あるいは
R10およびR11は、芳香族環もしくは脂環式環、特に、芳香族6員環の一部である。
【0031】
式(V)の化合物の例は、2-アミノ-5-ブロモチアゾール、2-アミノ-5-クロロチアゾール、2-アミノ-5-ニトロチアゾール、2-アミノチアゾール、2-アミノチアゾール-5-カルボキサルデヒド、2-アミノ-4-チアゾールカルボン酸、2-アミノ-5-メチルチアゾール、2-アミノ-4-(トリフルオロメチル)チアゾール-5-カルボン酸、2-アミノ-4-チアゾール酢酸、2-アミノ-4,5-ジメチルチアゾール、2-アミノ-α-(メトキシイミノ)-4-チアゾール酢酸、5-アセチル-2-アミノ-4-メチルチアゾール、5-アセチル-2-アミノ-4-メチルチアゾール、メチル-2-アミノ-4-チアゾールアセテート、メチル-2-アミノ-4-チアゾールアセテート、2-アミノ-4,6-ジフルオロベンゾチアゾール、2-アミノ-5-ブロモベンゾチアゾール、2-アミノ-6-ブロモベンゾチアゾール、2-アミノ-4-クロロベンゾチアゾール、2-アミノ-6-クロロベンゾチアゾール、2-アミノ-6-フルオロベンゾチアゾール、2-アミノ-6-ニトロベンゾチアゾール、2-アミノベンゾチアゾール、エチル-2-アミノ-α-(ヒドロキシイミノ)-4-チアゾールアセテート、エチル-2-アミノ-4-メチルチアゾール-5-カルボキシレート、エチル-2-アミノチアゾール-4-アセテート、エチル-2-アミノチアゾール-4-アセテート、2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾチアゾール、2-アミノ-6-(トリフルオロメチル)ベンゾチアゾール、2-アミノ-6-チオシアナトベンゾチアゾール、2-アミノ-4-メトキシベンゾチアゾール、2-アミノ-6-メトキシベンゾチアゾール、2-アミノ-4-メチルベンゾチアゾール、2-アミノ-6-メチルベンゾチアゾール、2-アミノ-4-(3,4-ジフルオロフェニル)チアゾール、2-アミノ-4-(4-ブロモフェニル)チアゾール、2-アミノ-4-(4-クロロフェニル)チアゾール、2-アミノ-4-(4-ニトロフェニル)チアゾール、2-アミノ-4-フェニルチアゾール、2-アミノ-4-フェニルチアゾール、2-アミノ-6-エトキシベンゾチアゾール、2-アミノ-5,6-ジメチルベンゾチアゾール、2-アミノ-4(p-トリル)チアゾール、2-アミノ-5-メチル-4-フェニルチアゾール、4-(4-アセトアミドフェニル)-2-アミノチアゾール、エチル-2-アミノ-4-(4-ブロモフェニル)チアゾール-5-カルボキシレート、エチル-2-アミノ-4-フェニルチアゾール-5-カルボキシレート、2-アミノ-4-フェニル-5-テトラデシルチアゾールである。
【0032】
2-アミノチアゾールは、特に好ましい。
【0033】
好ましくは、Fe(III)-錯化剤Xは、式(V)の化合物である。
【0034】
Fe(III)-錯化剤Xが、鉱物質結合剤中で使用される場合、臭気問題をもたらす材料からなっていない場合、やはり特に有利である。
【0035】
Fe(III)-錯化剤Xが、Fe(III)をFe(II)に還元する効果を有する場合、特に有利である。
【0036】
可溶性クロム(VI)を還元するための鉄(II)化合物は、セメント製造中にセメント添加剤としてセメントに添加しても、コンクリート製造中にコンクリート添加剤として使用してもよい。粉砕用添加剤として使用する場合、その用量は、可溶性クロム(VI)含量に合わせて調整することができる。製造されたセメントが、指示書2003/53/ECの要件を満たすように、通常、(セメントに対して)0.4体積%の硫酸鉄(II)が添加される。コンクリート製造中にコンクリート添加剤として使用する場合、鉄(II)化合物の添加量は、セメントのクロム(VI)含量に合わせて調整することができない。その理由は、セメントのクロム(VI)含量は、通常、分かっていないからである。ドイツでは、クロム(VI)含量は、2mg/kgにも達する場合がある。
【0037】
硫酸鉄(II)が、通常、鉄(II)化合物として使用されるが、他の鉄(II)化合物、特に、鉄(II)塩を使用することも可能である。
【0038】
鉄(III)イオンは、通常、特に大気中の酸素またはクロム(VI)イオンによる、前述した鉄(II)化合物の鉄(II)イオンの酸化によってもたらされる。しかし、鉄(III)イオンはまた、異なる起源によってもたらされる場合もある。すなわち、鉄(III)イオンは、例えば、鉄(III)化合物、特に、鉄(III)塩から来る場合がある。
【0039】
本明細書において「櫛形ポリマー」という用語は、側鎖がエステル基またはエーテル基を介して結合した直鎖状のポリマー鎖(=主鎖)からなる櫛形ポリマーを指す。この場合、側鎖は、いわば、「櫛」の「歯」を形成する。
【0040】
少なくとも1種の櫛形ポリマーは、好ましくは、エステル基またはエーテル基を介して主鎖に結合した側鎖を有する櫛形ポリマーKPである。
【0041】
一方では、櫛形ポリマーKPとして適切なものは、エーテル基を介して直鎖状ポリマー骨格に結合した側鎖を有する櫛形ポリマーである。
【0042】
エーテル基を介して直鎖状ポリマー骨格に結合した側鎖は、ビニルエーテルまたはアリルエーテルの重合によって挿入することができる。
【0043】
かかる櫛形ポリマーは、例えば、その内容を参照により本明細書に明確に組み込むWO 2006/133933 A2に開示されている。これらのビニルエーテルまたはアリルエーテルは、より詳細には、以下の式(II)を有する。
【0044】
【化2】

【0045】
式中、R'は、H、または1〜20個のC原子を有する脂肪族炭化水素基、5〜8個のC原子を有する脂環式炭化水素基、または6〜14個のC原子を有する置換されていてもよいアリール基を表す。R"は、H、またはメチル基を表し、R’’’は、非置換もしくは置換アリール基、特に、フェニル基を表す。
【0046】
また、pは、0または1を表し、mおよびnは、互いに独立に、それぞれ2、3または4を表し、x、y、およびzは、互いに独立に、0〜350の範囲の値を表す。
【0047】
式(II)でs5、s6、およびs7として記載された部分構造要素の順序は、この場合、交互に、ブロック状に、あるいはランダムに配列することができる。
【0048】
より詳細には、かかる櫛形ポリマーは、ビニルエーテルまたはアリルエーテルと、マレイン酸無水物、マレイン酸、および/または(メタ)アクリル酸とのコポリマーである。
【0049】
他方では、櫛形ポリマーKPとして適切なものは、エステル基を介して直鎖状ポリマー骨格に結合した側鎖を有する櫛形ポリマーである。この型の櫛形ポリマーKPは、エーテル基を介して直鎖状ポリマー骨格に結合した櫛形ポリマーより好ましい。
【0050】
特に好ましい櫛形ポリマーKPは、以下の式(I)のコポリマーである
【0051】
【化3】

【0052】
式中、Mは、互いに独立に、H+、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、2価もしくは3価の金属イオン、アンモニウムイオン、または有機アンモニウム基を表す。本明細書において「互いに独立に」という用語は、それぞれの場合において、同じ分子内で、使用可能であると記載されている異なる置換基であってよいことを意味する。したがって、例えば、式(I)のコポリマーは、カルボン酸基とカルボン酸ナトリウム基を同時に有することができ、すなわち、この場合、H+およびNa+は、Mに対する、互いに独立した、異なる記載である。
【0053】
当業者には、一方では、このことはイオンMが結合するカルボキシレートにより決まり、他方では、多価イオンMの場合、電荷が対イオンによってバランスされなければならないことが理解されよう。
【0054】
また、置換基Rは、互いに独立に、水素またはメチル基を表す。
【0055】
さらには、置換基R1は、互いに独立に、-[AO]q-R4を表す。置換基R2は、互いに独立に、C1〜C20アルキル基、シクロアルキル基、アルキルアリール基、または-[AO]q-R4を表す。両方の場合において、置換基Aは、互いに独立に、C2〜C4アルキル基を表し、R4は、C1〜C20アルキル基、シクロアルキル基、またはアルキルアリール基を表し、qは、2〜250、特に、8〜200、特に好ましくは、11〜150の値を表す。
【0056】
また、置換基R3は、互いに独立に、-NH2、-NR5R6、-OR7NR8R9を表す。式中、R5およびR6は、互いに独立に、C1〜C20アルキル基、シクロアルキル基、アルキルアリール基、アリール基、ヒドロキシアルキル基、アセトキシエチル-(CH3-CO-O-CH2-CH2)、ヒドロキシル-イソプロピル-(HO-CH(CH3)-CH2)、またはアセトキシイソプロピル基(CH3-CO-O-CH(CH3)-CH2)を表すか、あるいは、R5およびR6は、一緒になって、その環の窒素が一部分として存在する環であるモルホリンまたはイミダゾリン環を形成する。
【0057】
置換基R7は、C2〜C4アルキレン基を表す。
【0058】
さらには、置換基R8およびR9は、互いに独立に、C1〜C20アルキル基、シクロアルキル基、アルキルアリール基、アリール基、またはヒドロキシアルキル基を表す。
【0059】
式(I)でs1、s2、s3およびs4として記載された部分構造要素の順序は、この場合、交互に、ブロック状に、あるいはランダムに配列することができる。
【0060】
最後に、指数a、b、cおよびdは、構造単位s1、s2、s3およびs4のモル比を表す。これらの構造成分は、a+b+c+d=1という条件下で、相互に以下の関係、
a/b/c/d=(0.1〜0.9)/(0.1〜0.9)/(0〜0.8)/(0〜0.3)、
特に、a/b/c/d=(0.1〜0.9)/(0.1〜0.9)/(0〜0.5)/(0〜0.1)、
好ましくは、a/b/c/d=(0.1〜0.9)/(0.1〜0.9)/(0〜0.3)/(0〜0.06)
を有する。和c+dは、好ましくは、0より大きい。
【0061】
式(I)の櫛形ポリマーKPの生成は、一方では、式(III)a、(III)b、(III)cおよび/または(III)dのそれぞれのモノマーのラジカル重合によって行うことができ、次いでこれによって構造成分である構造単位s1、s2、s3およびs4がもたらされるか、
【0062】
【化4】

【0063】
あるいは、式(I)の櫛形ポリマーKPの製造は、他方では、式(IV)のポリカルボン酸のいわゆるポリマー類似体変換によって行うことができる。
【0064】
【化5】

【0065】
ポリマー類似体変換では、式(IV)のポリカルボン酸は、それぞれのアルコールまたはアミンでエステル化またはアミド化され、次いで、必要なら中和、または部分中和される(基Mの型に応じて、例えば、金属水酸化物またはアンモニアを使用して中和される)。ポリマー類似体変換の詳細は、例えば、US 2002/0002218 A1の頁5の段落[0077]〜[0083]およびその実施例、またはUS 6,387,176 B1の頁5の18〜58行目およびその実施例に開示されている。US 2006/0004118 A1の頁1の段落[0011]〜頁3の段落[0055]および実施例に記載されている改変例では、式(I)の櫛形ポリマーKPは、固体凝集状態で製造することができる。ここで言及した特許の開示は、参照により本明細書に明確に組み込む。
【0066】
式(I)の櫛形ポリマーKPの特に好ましい実施形態は、c+d>0、特にd>0であるものであることが判明した。-NH-CH2-CH2-OHは、基R3として特に有利であることが実証された。
【0067】
特に有利な櫛形ポリマーKPは、商標ViscoCrete(登録商標)シリーズでSika Schweiz AGから市販されているものであることが実証された。
【0068】
典型的には、Fe(III)-錯化剤Xの質量部は、櫛形ポリマーの全質量に対して0.01〜50質量%、好ましくは、0.05〜20質量%、特に好ましくは、0.1〜5質量%の量である。
【0069】
組成物は、さらに少なくとも1種の抗酸化剤を、特に、櫛形ポリマーの全質量に対して0.01〜50質量%、好ましくは、0.05〜10質量%、特に好ましくは、0.1〜5質量%の間の量で有することも有利である。
【0070】
適切な抗酸化剤は、例えば、置換フェノール、特に、立体障害フェノール;置換ハイドロキノン、特に、立体障害ハイドロキノン;ジアリールアミンなどの立体障害芳香族アミン;アリールアミン-ケトン縮合生成物;ジアルキルジチオカルバミン酸またはジアルキルジチオホスファイトなどの有機イオウ化合物;ホスファイトまたはホスホナイトなどの有機リン化合物;トコフェロールおよびその誘導体;没食子酸およびその誘導体、ならびにバニリンからなる群から選択される。
【0071】
少なくとも1種の置換フェノール、置換ハイドロキノン、または置換芳香族アミンを含む抗酸化剤が特に適切である。また非常に適切なのは、立体障害フェノール、立体障害ハイドロキノン、または立体障害芳香族アミンである。
【0072】
立体障害フェノールの例は、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ(t-ブチル)-4-メチルフェノール(ブチルヒドロキシトルエン、BHT)、2-t-ブチル-4-メトキシフェノール(ブチルヒドロキシアニソール、BHA)、ペンタエリトリチル-テトラキス-[3(3,5-ジtert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート](Irganox(登録商標)1010)、2,6-ジオクタデシル-4-メチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、オルト-tert-ブチルフェノール、3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシベンゼン-プロピオン酸のC4〜C22アルコールエステル、4,4'-ブチリデン-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、4,4'-メチリデン-ビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、3,5-ビス(1,1-ジtert-ブチル)-4-ヒドロキシフェニル-プロピオン酸のC4〜C22アルコールエステル、2,2'-メチレン-ビス-(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-プロパン(ビスフェノールA)、4,4'-メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、1,1-ビス-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)-ブタン、2,2'-メチレン-ビス-[4-メチル-6-(1-メチルシクロヘキシル)-フェノール]、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン、N,N'-ヘキサメチレン-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナメートアミド)、オクタデシル-3-(3,5-di-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、1,3,5-トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,1,3-トリス(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)-ブタン、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)メシチレン、エチレングリコールビス[3,3-ビス(3'-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)ブチレート]、ジ-(3-t-ブチル-4'-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ジシクロペンタジエン、2,2'-メチレン-ビス-(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、1,3,5-トリ-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン(Irganox(登録商標)1330)、1,3,5-トリス-(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)-イソシアヌレート、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル-プロピオン酸エステル、5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル-プロピオン酸エステル、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオン酸アミド、3,5-ジ-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシベンゾルプロピオン酸エステル、1,6-ヘキサンジオール-ビス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール-ビス-3-(t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオネート、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,2'-チオ-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2-メチル-4,6-ビス-((オクチルチオ)-メチル)フェノール(Irganox(登録商標)1520)、4.4'-チオ-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、2,2'-チオジエチル-ビス-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートである。
【0073】
好ましいのは、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'-メチレン-ビス-(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,2'-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス-3-(t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオネート、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、およびテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン、あるいは、Ciba Spezialitatenchemie社から商標Irganox(登録商標)で通常販売されている抗酸化剤、特に、2-メチル-4,6-ビス-((オクチルチオ)-メチル)フェノール(Irganox(登録商標)1520)、ペンタエリトリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジtert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート](Irganox(登録商標)1010)、または1,3,5-トリ-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン(Irganox(登録商標)1330)である。
【0074】
立体障害ハイドロキノンの例は、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノール、2,5-ジ-t-ブチル-ハイドロキノンである。
【0075】
立体障害芳香族アミンおよびアリールアミンケトン縮合生成物の例は、N,N'-ビス-(1,4-ジメチル-ペンチル)-p-フェニレン-ジアミン、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、4-(p-トルエン-スルホンアミド)-ジフェニルアミン、4-n-ブチルアミノフェノール、4,4'-ジ-t-オクチルジフェニルアミン、4,4'-ジ-(α,αジメチルベンジル)-ジフェニルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、N-イソプロピル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン、および/またはフェニル-2-アミノナフタレンである。
【0076】
有機イオウ化合物の例は、2,2'-チオ-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2-メチル-4,6-ビス((オクチルチオ)-メチル)フェノール(Irganox(登録商標)1520)、4,4'-チオ-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、2,2'-チオジエチル-ビス-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ジ-ラウリル-3,3'-チオジプロピオネート、ジ-ステアリル-3,3'-チオジプロピオネート、ナトリウムジチオナイト、トルエンスルフィン酸またはその誘導体、例えば、ナトリウムヒドロキシメタンスルフィネート二水和物(Rongalit(登録商標)C)である。
【0077】
有機リン化合物の例は、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル-ホスホン酸-ジオクタデシルエステル、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリトリトジホスファイト、トリクロロエチレン-(ノニルフェニル)-ホスファイト、テトラキス-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル-4,4'-ビフェニレンジホスホナイト、トリクロロエチレン-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ネオペンチルグリコールトリエチレングリコールジホスファイト、ジイソデシルペンタエリトリトジホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリラウリルホスファイト、Na-ハイポホスファイトまたはトリフェニルホスファイトである。
【0078】
好ましい実施形態では、抗酸化剤は、置換フェノール、特に立体障害フェノールである。かかる抗酸化剤は、例えば、CibaからIrganox(登録商標)という名称で市販されている。好ましくは、置換フェノールは、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ビスフェノールA、ビスフェノールF、サリチル酸、ハイドロキノン、バニリン、ビフェニルジオール、例えば、4,4'-ビフェニルジオールまたは2,2'-ビフェニルジオール、ガレートおよびフェノール重縮合生成物からなる群から選択される。
【0079】
上述した組成物は、分散剤として、特に、凝縮剤として;粉砕助剤として、増粘剤としてまたはセメントリファイナー(cement refiner)として、液体形態でも固体形態でも、単独でもさらなる組成物の一体部分としても、使用することができる。
【0080】
上述した組成物は、他の成分も含むことができる。他の成分の例は、溶媒、または粉砕助剤などの添加剤、アルカノールアミン(例えば、グリコール、またはトリイソプロパノールアミン(TIPA)やトリエタノールアミン(TEA)など);凝縮剤(例えば、リグノスルホネート、スルホン化ナフタリン-ホルムアルデヒド縮合物、またはスルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物);凝結促進剤;遅延剤;収縮低減剤;消泡剤;発泡剤、または、新鮮なコンクリートの分離、特に水の排出(ブリード)を低減し、新鮮なコンクリートの凝集能力を改善する成分である。
【0081】
組成物が液体の形態で使用される場合、溶媒は、好ましくは、変換のために使用される。好ましい溶媒は、例えば、アルコール、特に、エタノールまたはイソプロパノール、および水であり、ここで水が最も好ましい溶媒である。その生成物は、組成物のタイプに応じて分散液または溶液である。溶液が好ましい。
【0082】
組成物はまた、固体凝集状態の形態であってもよい。固体凝集状態の組成物は、本発明の意味において、周囲温度で固体凝集状態で存在し、例えば、問題なくその形態で輸送および貯蔵が可能である粉末、フレーク、ペレット、顆粒または板状物である組成物と理解される。
【0083】
別の態様下では、本発明は、櫛形ポリマーと、鉱物質結合剤と、Fe(III)と少なくとも1種のFe(III)-錯化剤Xおよび必要ならその他の錯化剤とからなる錯体とを含み、そのFe(III)-錯化剤Xが、上述したFe(III)-錯化剤Xである組成物に関する。
【0084】
鉱物質結合剤は、典型的には、水硬性結合剤、潜在水硬性結合剤、または非水硬性結合剤であり、特に、セメント、好ましくは、ポルトランドセメント、または、ポルトランドセメントとフライアッシュ、シリカフューム、造粒高炉砂および石灰石フィラーとのブレンドである。
【0085】
典型的には、櫛形ポリマーの質量分率は、鉱物質結合剤の全質量に対して0.01〜10質量%、好ましくは、0.2〜2質量%である。
【0086】
別の態様下では、本発明は、Fe(III)の存在下で櫛形ポリマーを安定化するための方法であって、少なくとも1種のFe(III)-錯化剤Xを、櫛形ポリマーに添加する方法に関する。櫛形ポリマーおよびFe(III)-錯化剤Xは、上述した櫛形ポリマーおよびFe(III)-錯化剤Xに関する。
【0087】
「安定化」という用語は、より詳細には、櫛形ポリマーが、長期間にわたって分解されず、その効果、例えば、分散剤、粉砕助剤、増粘剤またはセメントリファイナーとしてのその効果が長続きすることを意味する。好ましくは、櫛形ポリマーの安定化は、少なくとも1週間、好ましくは、少なくとも4週間有効であり続ける。
【0088】
好ましくは、Fe(III)-錯化剤Xは、櫛形ポリマーの全質量に対して、0.01〜50質量%の間、特に、0.05〜20質量%の間の範囲の量で使用される。
【0089】
加えて、少なくとも1種の抗酸化剤が添加されることもまた有利である。抗酸化剤として適切であると上述した化合物は、抗酸化剤として適切である。
【0090】
好ましくは、少なくとも1種の抗酸化剤を、櫛形ポリマーの全質量に対して、0.01〜50質量%、特に、0.05〜10質量%の範囲の量で使用される。
【0091】
好ましくは、本方法は、少なくとも40℃、特に、80〜160℃の温度における方法である。
【0092】
好ましくは、本方法は、鉱物質結合剤においてFe(III)の存在下でポリマーを安定化させるための方法である。適切であると上述した化合物は、鉱物質結合剤として適切である。
【0093】
例えば、1000℃超の燃焼工程の後のセメントクリンカーは、通常、約100〜200℃の間の温度まで冷却され、通常、80〜150℃の間の温度、特に、約80〜120℃で、例えば、サイロ内で貯蔵される。したがって、本方法では、少なくとも40℃、好ましくは、80〜160℃の間の温度が、粉砕中、特に、セメントクリンカーをセメントまで粉砕する際、さらにはまた、鉱物質結合剤のその後の貯蔵および/または輸送中、特に、貯蔵、輸送または包装環境が太陽によって加熱される場合に生じることがある。したがって、本方法は、好ましくは、鉱物質結合剤においてかつ少なくとも40℃、好ましくは、80〜160℃の温度において、Fe(III)の存在下で櫛形ポリマーを安定化させるための方法であって、この温度が、鉱物質結合剤の粉砕中および/またはその後の貯蔵中に生じ得る方法である。
【0094】
櫛形ポリマーおよび/またはFe(III)-錯化剤Xおよび/または抗酸化剤は、同時にまたは異なる時期に鉱物質結合剤に添加することができる。
【0095】
櫛形ポリマーおよび/またはFe(III)-錯化剤Xおよび/または抗酸化剤の鉱物質結合剤に対する添加は、鉱物質結合剤の運搬中、特に、セメントを輸送する際に鉱物質結合剤に対して施用することができる。好ましくは、櫛形ポリマーおよび/またはFe(III)-錯化剤Xおよび/または抗酸化剤は、貯蔵場所(例えば、サイロ)または輸送手段(例えば、トラックなど)への、例えば、輸送チャネルでの輸送工程中に、鉱物質結合剤、特に、セメントに添加される。
【0096】
櫛形ポリマーおよび/またはFe(III)-錯化剤Xおよび/または抗酸化剤は、鉱物質結合剤を粉砕する前、特に、セメントクリンカーの粉砕前および/または粉砕中に、鉱物質結合剤に添加することもできる。
【0097】
好ましい実施形態では、Fe(III)-錯化剤Xを、櫛形ポリマーと、(必要であれば抗酸化剤と一緒に)予めブレンドし、次いで、このブレンドを、鉱物質結合剤、特に、セメントの製造工程中の望ましい時期、例えば、粉砕前、または鉱物質結合剤を輸送する場合は貯蔵前に、鉱物質結合剤と混合し、あるいは鉱物質結合剤に施用する。これによって、例えば、Fe(III)-錯化剤Xと櫛形ポリマー(およびおそらくは抗酸化剤)との混合物でコーティングされた鉱物質結合剤が得られる。この鉱物質結合剤は、当業者に公知の装置によって、例えば、輸送が空気中でかつ重力で行われる空気コンベアシュートを介して運搬または輸送することができる。粉砕工程は、通常、セメントミル内、例えば、ボールミル内で行われる。しかし、原理的にはセメント工業で公知の他のミルを使用することもできる。
【0098】
さらなる態様では、本発明は、Fe(III)の存在下で櫛形ポリマーを安定化させるためのFe(III)-錯化剤Xの使用に関する。
【0099】
櫛形ポリマーおよびFe(III)-錯化剤Xは、上述した櫛形ポリマーおよびFe(III)-錯化剤Xである。
【実施例】
【0100】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
1.使用した原材料
【0101】
【表1】

【0102】
2.モルタル試験
本発明による組成物の有効性をモルタルで試験した。
【0103】
第1のステップでは、ポルトランドセメント(スイスCEM 142.5R)を、ポルトランドセメントの質量に対して1質量%の櫛形ポリマー(Sika Switzerland AGから市販のSika(登録商標)ViscoCrete(登録商標)110 CH)と、必要な場合には、表2に指示した量(櫛形ポリマーの全質量に対する量)のFe(III)-錯化剤X(KB)、抗酸化剤(AntO)、または、Fe(III)-錯化剤Xおよび抗酸化剤とを、キッチンミキサ(Moulinex)内でブレンドすることによってコーティングした。このようにしてコーティングしたセメントを、直ちに、あるいは表2に指示した期間60℃で輸送コンテナ中に貯蔵してから、モルタルブレンドの製造において使用した。
【0104】
コーティングしたセメントから下記モルタル混合物を製造した。
【0105】
【表2】

【0106】
砂、フィラー、およびコーティングしたセメントを、ホバートミキサ内で1分間乾式混合した。混練水を30秒以内で添加した後、さらに2.5分間混合した。水/セメント値(w/c値)は0.46であった。有効性を求めるために、モルタルのスランプ(ABM)(表2)をEN 1015-3に準拠して0分後に決定した。使用したスランプ決定法は、スランプテーブルを持ち上げないで落下させるという点でEN 1015-3とは異なっていた。
【0107】
実施例1〜6は、本発明による実施例を表し、実施例7〜12は、比較例である。
【0108】
【表3】

【0109】
表2の結果は、本発明による組成物が、高い温度(60℃)でも櫛形ポリマーを安定化させるのに適していることを示す。
【0110】
3.クロメートの還元
2-アミノチアゾール(KB-1)の存在下における、硫酸鉄(II)7水和物(F2S)によるクロメートの還元の有効性を、コンクリートで試験した。
【0111】
セメント(CEM II/A-LL 42.5N)20g、水40g、および、場合により表3に列挙した添加剤を、磁気攪拌器で激しく攪拌しながら15分間ブレンドした後、Whatman 597 1/2ひだ付フィルターでろ別した。ろ液のCr(VI)含量を、Merck(ドイツ)によるクロメート試験法で、製造者の説明書に従って反射法で決定した。
【0112】
【表4】

【0113】
表3は、硫酸鉄(II)7水和物を使用してCr(VI)を還元することの有効性が、2-アミノチアゾールの添加によって阻害されないことを示す。
【0114】
4.Fe(III)のFe(II)への還元
水40g、硫酸Fe(III)水和物(F3S溶液)0.2g、および、場合によって2-アミノチアゾール(KB-1)0.6gを、磁気攪拌器で激しく攪拌しながら15分間ブレンドし、pHを5に設定した後、鉄(II)の検出をそれぞれ2分後および17時間後に実施した。鉄(II)の検出は、Merck(ドイツ)によるリフレクトカント(Reflectoquant)鉄(II)試験を使用し、製造者の手引書に従って行った。
【0115】
【表5】

【0116】
表4は、2-アミノチアゾールがFe(III)からFe(II)への還元を引き起こしたことを示す。
【0117】
5.選択性
第1の試験では、硫酸Fe(II)7水和物(F2S)0.2gを磁気攪拌器で激しく攪拌しながら水40gに溶解した。その後鉄(II)含量を求めた。第2の試験では、硫酸Fe(II)7水和物(F2S)0.2gを磁気攪拌器で激しく攪拌しながら水40gに溶解した。その後2-アミノチアゾール(KB-1) 0.6gを添加した。その後鉄(II)含量を求めた。
【0118】
鉄(II)含量は、Merck(ドイツ)によるリフレクトカント(Reflectoquant)鉄(II)試験を使用し、製造者の手引書に従って求めた。
【0119】
【表6】

【0120】
表5は、特に表4と比較した場合、2-アミノチアゾールが、Fe(III)に対して起こすこととは逆に、Fe(II)とは錯体をほとんど形成せず、したがって、Fe(II)に対して選択的なFe(III)-錯化剤であることを示す。
【0121】
6.錯化
硫酸Fe(III)水和物(F3S)0.2gを磁気攪拌器で激しく攪拌しながら水140gに溶解し、pHを5に設定した。次いで、第1の試験では、ナトリウムチオシアネート(NaSCN)1gを添加し、1分後、その溶液の色が変化しているかどうかを調査した。次いで、2-アミノチアゾール(KB-1)1gを添加し、1分後、その溶液の色が変化しているかどうかを再度調査した。第2の試験では、(NaSCN)および(KB-1)を順序を逆にして添加した。
【0122】
【表7】

【0123】
表6は、2-アミノチアゾールがFe(III)-錯化剤として適しており、ナトリウムチオシアネートより強いFe(III)錯体を形成することを示す。
【0124】
当然のことであるが、本発明は、明示し、記載した実施形態の実施例に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
櫛形ポリマーと、チオシアネート、縮合ホスフェート、アミン、アミノ酢酸、オキシカルボン酸および次式(V)の化合物からなる群から選択される少なくとも1種のFe(III)-錯化剤Xとを含む組成物
【化1】

[式(V)の化合物において、R10およびR11は、互いに独立に、H、ハロゲン原子、NO2、分枝状であってもよい1〜25個のC原子を有する飽和もしくは不飽和アルキル基、6〜14個のC原子を有するアリール基、1〜10個のC原子を有するアシル基、1〜10個のC原子を有するカルボニル基、または1〜10個のC原子を有するカルボキシル基を表すか、あるいは
R10およびR11は、芳香族環もしくは脂環式環、特に芳香族6員環の一部である]。
【請求項2】
Fe(III)-錯化剤Xが、Fe(II)に対する錯化定数より10倍、特に1000倍大きいFe(III)に対する錯化定数を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Fe(III)-錯化剤Xが、Fe(III)からFe(II)への還元を引き起こすことを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項4】
Fe(III)-錯化剤Xの質量分率が、櫛形ポリマーの全質量に対して0.01〜50質量%、好ましくは、0.05〜20質量%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも1種の抗酸化剤を、特に、櫛形ポリマーの全質量に対して0.01〜50質量%、好ましくは、0.05〜10質量%の範囲の量でさらに有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
抗酸化剤が、置換フェノール、特に、立体障害フェノール;置換ハイドロキノン、特に、立体障害ハイドロキノン;ジアリールアミンなどの立体障害芳香族アミン;アリールアミンケトン縮合生成物;ジアルキルジチオカルバミン酸またはジアルキルジチオホスファイトなどの有機イオウ化合物;ホスファイトまたはホスホナイトなどの有機リン化合物;トコフェロールおよびその誘導体;没食子酸およびその誘導体;ならびにバニリンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
櫛形ポリマーと、鉱物質結合剤と、Fe(III)と少なくとも1種のFe(III)-錯化剤Xおよび場合によりその他の錯化剤との錯体と、を含む組成物であって、前記Fe(III)-錯化剤Xが、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物を構成するFe(III)-錯化剤Xであることを特徴とする、組成物。
【請求項8】
鉱物質結合剤が、水硬性結合剤、潜在水硬性結合剤、または非水硬性結合剤、特に、セメント、好ましくは、ポルトランドセメント、および/または、ポルトランドセメントとフライアッシュ、シリカフューム、スラグ砂および石灰石フィラーとのブレンドであることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
櫛形ポリマーの質量分率が、鉱物質結合剤の全質量に対して0.01〜10質量%、好ましくは、0.2〜2質量%であることを特徴とする、請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも1種のFe(III)-錯化剤Xを櫛形ポリマーに添加して、Fe(III)の存在下で櫛形ポリマーを安定化させるための方法であって、前記Fe(III)-錯化剤Xが、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物を構成するFe(III)-錯化剤Xであることを特徴とする、方法。
【請求項11】
少なくとも1種の抗酸化剤を添加することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも40℃、好ましくは、80〜160℃の温度における方法であることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
鉱物質結合剤における方法であることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
鉱物質結合剤において、かつ、少なくとも40℃、好ましくは、80〜160℃の温度において、Fe(III)の存在下で櫛形ポリマーを安定化させるための方法であって、前記温度が、前記鉱物質結合剤を粉砕する際に、かつ/あるいは、その後の貯蔵中に生ずることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項15】
Fe(III)-錯化剤Xが、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物を構成するFe(III)-錯化剤Xであることを特徴とする、Fe(III)の存在下で櫛形ポリマーを安定化させるためのFe(III)-錯化剤Xの使用。

【公表番号】特表2013−505317(P2013−505317A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529304(P2012−529304)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063907
【国際公開番号】WO2011/033127
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(504274505)シーカ・テクノロジー・アーゲー (227)
【Fターム(参考)】