説明

鉱質コルチコイドレセプターの活性化のバイオマーカー

本発明は、患者における鉱質コルチコイドレセプター(MR)活性化のバイオマーカーとしての好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)および/またはSERPINA3の使用に関する。さらに特定すれば、本発明は、MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置に対する患者の反応性を予測するための方法であって、該患者から得られた生物学的試料中の、NGAL遺伝子および/またはSERPINA3遺伝子の発現レベルを決定することを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、患者における鉱質コルチコイドレセプター(MR)の活性化のバイオマーカーに関する。
【0002】
発明の背景
鉱質コルチコイドレセプター(MR)は、糖質コルチコイドレセプター(GR)、アンドロゲンレセプター(AR)、プロゲステロンレセプター(PR)、およびエストロゲンレセプター(ER)を含めた古典的ステロイドホルモンレセプターの1種である(Funder, 1997)。これらのレセプターは、器官の発生および分化から気分のコントロールおよびストレス反応におよぶ多種多様な生理学的過程をレギュレーションするホルモン活性化転写因子である(Beato et al., 1995)。MRに対する生理学的ホルモンは、副腎によって分泌されるステロイドホルモンである、アルドステロンである。
【0003】
MRは、血管、脳、および心臓の非上皮部位に位置している(Bonvalet JP. et al. 1995; Lombes M, et al. 1992; Tanaka J. et al. 1997)。過去10年にわたる数多くの研究から、鉱質コルチコイドの非上皮作用がそれらの血管および心筋の線維化効果および栄養効果を担うことが示唆されている(Brilla CG. et al. 1992, Ullian ME. et al. 1992; Young M. et al. 1994)。加えて、MRは、動物研究においてヒト上皮細胞および血管平滑筋細胞(VSMC)(Hatakeyama H. et al. 1994)および心筋細胞から見出されている(Silvestre JS.et al. 1988)。いくつかの研究(Brilla CG et al. 1992; Young M. et al. 1994)では、鉱質コルチコイドが、心筋細胞におけるコラーゲン形成の刺激を介した心筋線維症と関連づけられた。
【0004】
Farquharson CA.ら(2000)は、アルドステロンが、慢性心不全における内皮障害に役割を果たすおそれがあることを間接的に示した。したがって、MRは、特に高血圧および心不全を処置するための重要な薬物ターゲットである。
【0005】
例えば、アルドステロンのアンタゴニストであるスピロノラクトン(PFIZER製ALDACTONE(登録商標)としても知られている)は、鉱質コルチコイドレセプターに結合し、アルドステロンの結合を遮断する。このステロイド化合物は、一般にうっ血性心不全の処置に使用される。実際に、スピロノラクトンは、薬理学的に有効かつ認容性良好であって、死亡、進行性心不全による死亡、および心臓に起因する突然死の全般的なリスク、ならびに心臓に起因する入院のリスクを軽減することが示されている。無作為アルダクトン評価試験(RALES)で重症心不全患者へのスピロノラクトンの投与が評価された。RALESは、重症心不全および35%以下の左室駆出分画を有する参加者であって、典型的にはアンジオテンシン変換酵素阻害剤、ループ利尿薬、および場合によりジゴキシンを含めた標準的治療を受けている参加者を登録した無作為二重盲検プラセボ対照試験であった。スピロノラクトンで処置されたRALES被験者は、プラセボで処置された被験者に比べて死亡率および入院頻度が統計的に有意に低下した(Pitt B. et al. 1999)。
【0006】
同様に、エプレレノンは、鉱質コルチコイドレセプターにおけるアルドステロン結合の別の遮断剤の一例である。エプレレノンが、ヒト−リコンビナント糖質コルチコイドレセプター、プロゲステロンレセプターおよびアンドロゲンレセプターよりもヒト−リコンビナント鉱質コルチコイドレセプターに選好的に結合する点で、その作用は選択的である。エプレレノンの投与に関連する治療効果は、複数の臨床試験で実証されている。6600人を超える被験者が参加しているそのような一試験[急性心筋梗塞後心不全に対するエプレレノンの有効性および生存率の研究(EPHESUS)]において、エプレレノンは、心臓に起因する死亡リスクおよび心血管イベントに関する入院リスクを有意に低下させることが分かった(Pitt B. et al. 2003)。心臓に起因する突然死の率の低下もまた観察された。
【0007】
しかし、アルドステロンは、MRを活性化することが知られている唯一の内因性ホルモンではない。例えば、内因性糖質コルチコイドもまた、MRを活性化することができる。実際に、糖質コルチコイドは、心線維症の初期の発生段階で酸化ストレスおよび血管の炎症を生じさせることが示されている。このように、心血管系におけるMR活性化の有害作用は、高アルドステロン症の不在下でさえも起こるおそれがあり(Funder JW, 2006)アルドステロンの血漿中濃度は、心血管系におけるMR活性化に関する指標とならない。さらに、心不全、心筋梗塞または高血圧に関連する末端器官障害では、心臓または血管でMRの発現が増加する(Nagata K, et al. 2006; Takeda M. et al., 2007)。
【0008】
したがって、心血管系におけるMR活性化を評価するための正確で特異的な方法を開発する技術的必要性が、当技術分野においてまだ存在する。
【0009】
さらに、患者におけるMRアンタゴニストの投与は、高カリウム血症などの重篤な有害副作用を併発するおそれがある。実際に、RALES試験の公表後に、重篤な高カリウム血症の報告がいくつもあった。そのような一報告で、緊急治療室で処置しなければならなかったスピロノラクトン関連高カリウム血症の患者のエピソードが25件以上記載された(Schepkens H. et al. 2001)。25人の患者のうち4人は、心血管蘇生術を必要とし、25人の患者のうち2人は死亡した。臨床的に有意な高カリウム血症の発生率がこのMRアンタゴニストを投与されている患者の約10%にのぼることを、数人の著者が評価している。
【0010】
したがって、そのような処置の有害副作用を予防または限定するために、MRアンタゴニストを用いた処置に対する心不全の患者の反応性を予測するための正確かつ特異的な方法を開発する目下の必要性も、当技術分野において存在する。
【0011】
発明の概要
本発明は、患者から得られた生物学的試料中の、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを決定することを含む、該患者における鉱質コルチコイドレセプター(MR)の活性化を評価する方法方法に関する。
【0012】
本発明は、また、MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置に対する患者の反応性を予測するための方法であって、該患者から得られた生物学的試料中の、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを決定することを含む方法に関する。
【0013】
本発明は、また、心血管疾患、糖尿病、肥満または代謝症候群の患者であって、本発明の方法によるレスポンダーとして分類される患者を処置するためのMRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤の使用に関する。
【0014】
発明の詳細な説明
定義:
「MR」という用語は、鉱質コルチコイドレセプターを表す。本明細書に使用されるような「MR活性化」という用語は、鉱質コルチコイド(すなわちアルドステロン)または糖質コルチコイドによる鉱質コルチコイドレセプターの活性化を表す。
【0015】
「MRアンタゴニスト」という用語は、MRの生物学的活性化を(部分的または完全に)阻害する能力をもつ、天然または天然でない化合物を表す。スピロノラクトン、エポキシメキスレノン(epoxymexrenone)およびエプレレノンを含めたいくつかのMRアンタゴニストが公知である。本発明の範囲には、公知ではない全てのMRアンタゴニストおよび将来発見されるMRアンタゴニストが含まれる。アルドステロンアンタゴニストは、スピロノラクトン型化合物(スピロノラクトン、スピロノラクトンの活性代謝物(カンレノンまたはカンレノ酸カリウムのようなその塩など))でありうる。アルドステロンアンタゴニストは、また、エポキシ−ステロイド系アルドステロンアンタゴニストでありうる。別の系列のステロイド型MRアンタゴニストの一例は、エポキシ含有スピロノラクトン誘導体である。例えば、米国特許第4,559,332号は、MRアンタゴニストとしてスピロノラクトン誘導体を記載している。さらなるMRアンタゴニストは、スピロノラクトンのアナログのドロスピレノン(DRSP)でありうる。
【0016】
「アルドステロンシンターゼ阻害剤」という用語は、コルチコステロンをヒドロキシル化して18−OH−コルチコステロンを形成させ、18−OH−コルチコステロンをアルドステロンにすることによってコルチコステロンをアルドステロンに変換するアルドステロンシンターゼ酵素を阻害する化合物または薬剤を含むことが意図される。いくつかのアルドステロンシンターゼ阻害剤が、当技術分野において周知である。本発明の範囲には、現在公知の全てのアルドステロンシンターゼ阻害剤および将来発見されるアルドステロンシンターゼ阻害剤が含まれる。該アルドステロンシンターゼ阻害剤は、ステロイド系または非ステロイド系アルドステロンシンターゼ阻害剤でありうる。アルドステロンシンターゼ阻害剤は、非ステロイド系またはステロイド系アロマターゼ阻害剤でありうる。非ステロイド系アロマターゼ阻害剤には、アナストロゾールおよびファドロゾール(その(+)−鏡像異性体を含む)が含まれうる。ステロイド系アロマターゼ阻害剤の一例は、エキセメスタンである。別の非ステロイド系アルドステロンシンターゼ阻害剤は、Fiebeler A.ら(2005)にも記載されているようなファドロゾール塩酸塩の(+)−鏡像異性体である(米国特許第4617307号および第4889861号)。
【0017】
「リポカリン2」または「NGAL」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味をもち、Schmidt-Ott KM.ら(2007)に記載されているような好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンを表す。NGALは、任意の起源でありうるが、典型的には哺乳動物(例えばヒトおよび非ヒト霊長類)NGAL、特にヒトNGALである。「NGAL遺伝子」という用語は、NGALのmRNAおよびタンパク質をコードする、例えばゲノムDNA配列および任意の天然NGALならびにその変異体および改変形をコードする、任意のヌクレオチド配列を表す。それは、また、NGALのmRNAおよびタンパク質をコードするcDNAなどの人工配列を包含しうる。ネイティブなヒトNGALヌクレオチド配列の一例は、GenBankデータベースにアクセッションナンバーNM_005564で提供されている。「NGAL mRNA」という用語は、当技術分野において一般的な意味をもち、NGAL遺伝子が発現したときに合成されるメッセンジャーRNAを表す。「NGALタンパク質」という用語は、NGAL遺伝子の発現に起因するアミノ酸配列、ならびに任意の天然NGALおよびその変異体および改変形を表す。ネイティブなヒトNGALアミノ酸配列の一例は、GenPeptデータベースにアクセッションナンバーNP_005555で提供されている。本明細書に使用されるような「NGALタンパク質」という用語は、また、NGALおよびメタロプロテイナーゼMMP−9(ゼラチナーゼB、92kDa IV型コラゲナーゼ、92kDaゼラチナーゼおよびV型コラゲナーゼとしても知られている)から形成されるヘテロ二量体複合体を包含する(Kjeldsen et a., 1993)。
【0018】
「抗NGAL抗体」という用語は、NGALを認識する抗体またはそのフラグメントを表す。
【0019】
「SERPINA3」遺伝子という用語は、当技術分野においてその一般的な意味をもち、CT;AACT;GIG24;GIG25;MGC88254としても知られている。この遺伝子の公式な正式名称は、セルピンペプチダーゼインヒビター、クレードA(α−1アンチプロテイナーゼ、アンチトリプシン)、メンバー3である。SERPINA3は、任意の起源であってもよいが、典型的には哺乳動物(例えばヒトおよび非ヒト霊長類)SERPINA3、特にヒトSERPINA3である。「SERPINA3遺伝子」という用語は、SERPINA3のmRNAおよびタンパク質、例えばゲノムDNA配列および任意の天然SERPINA3ならびにその変異体および改変形をコードする任意のヌクレオチド配列を表す。それは、また、SERPINA3のmRNAおよびタンパク質をコードするcDNAなどの人工配列を包含しうる。「SERPINA3 mRNA」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味をもち、SERPINA3遺伝子が発現したときに合成されるメッセンジャーRNAを表す。「SERPINA3タンパク質」という用語は、SERPINA3遺伝子の発現に起因するアミノ酸配列、ならびに任意の天然SERPINA3およびその変異体および改変形を表す。
【0020】
「SERPINA3抗体」という用語は、SERPINA3タンパク質を認識する抗体またはそのフラグメントを表す。
【0021】
「心血管系」という用語は、当技術分野においてその一般的な意味をもち、心臓、血管、または血管系、ならびに血管を構成する細胞および血漿から成り立つ系を意味する。
【0022】
「心血管疾患」という用語は、当技術分野においてその一般的な意味をもち、身体の心臓、心臓弁、血液、および血管系に影響を与える数多くの状態を分類するために使用される。心血管疾患には、内皮障害、冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、うっ血性心不全、高血圧、脳血管疾患、卒中、一過性脳虚血発作、深部静脈血栓症、末梢動脈疾患、心筋症、不整脈、大動脈狭窄症、および動脈瘤が挙げられる。
【0023】
本明細書に使用されるように、「バイオマーカーの予備決定値」は、一般集団または選択された被験者集団から得られた生物学的試料中のバイオマーカーの量を表わす。例えば、選択された集団は、心血管疾患の存在を示す徴候も症状も以前に全く示していない個体などの、健康と見受けられる被験者から成ってもよい。別の例では、予備決定値は、確立した心血管疾患を有する被験者から得られたバイオマーカーの量の予備決定値であってもよい。予備決定値は、しきい値または範囲でありうる。予備決定値は、外見上健康な被験者と、確立した心血管疾患を有する被験者の間の比較測定に基づいて確立することができる。
【0024】
本明細書に使用されるように「患者」という用語は、齧歯類、ネコ、イヌおよび霊長類などの哺乳動物を意味する。好ましくは、本発明による患者は、ヒトである。
【0025】
MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置への「レスポンダー」または処置に「反応性の」患者または患者群は、それぞれMRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いて処置した場合に、心血管疾患に臨床的に有意な軽減を示すかまたは示すであろう患者または患者群を表す。本発明の方法によると、患者における好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現が、一般集団または健康被験者から得られた予備決定値と有意に異なるならば、その患者は処置へのレスポンダーとして分類される。好ましくは、患者における好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルが、一般集団または健康被験者から得られた予備決定値よりも高いならば、その患者はレスポンダーである。
【0026】
典型的には、患者における該一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルの比が予備決定値に対して1.2、好ましくは1.5、なおさらに好ましくは2、なおさらに好ましくは5、10または20よりも高い場合に、該患者における該一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルが、一般集団または健康被験者から得られた該予備決定値よりも高いと見なされる。
【0027】
本明細書に使用されるように「健康被験者」という用語は、任意の公知の状態を患わない、特に心血管疾患も、糖尿病も、肥満も、代謝症候群も全く患わない、被験者集団を表す。
【0028】
「生物学的試料」という用語は、患者由来の任意の生物学的試料を意味する。そのような試料の例には、体液、組織、細胞試料、器官、生検材料などが挙げられる。好ましい生物学的試料は、細胞または組織試料である。好ましい生物学的試料は、全血、血清、血漿または尿である。
【0029】
本明細書に使用されるように「バイオマーカー」という用語は、一般に、患者由来の生物学的試料における発現が、当技術分野で標準的な方法によって検出することができ、それが得られた患者の状態を予測または明示する分子、すなわち遺伝子(または該遺伝子をコードする核酸)、タンパク質を表す。
【0030】
本発明の予測法:
本発明は、患者から得られた生物学的試料中の、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを決定することを含む、該患者におけるMR活性化を評価するための方法に関する。
【0031】
特定の態様では、本発明は、該患者から得られた生物学的試料中の、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを決定することを含む、該患者の心血管系におけるMR活性化を評価するための方法に関する。
【0032】
本発明は、また、MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置に対する患者の反応性を予測するための方法であって、該患者から得られた生物学的試料中の、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを決定することを含む方法に関する。
【0033】
特定の態様では、患者は心血管疾患を患う。さらに特定すれば、該患者は、内皮障害、冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、うっ血性心不全、高血圧、脳血管疾患、卒中、一過性脳虚血発作、深部静脈血栓症、末梢動脈疾患、心筋症、不整脈、大動脈狭窄症、または動脈瘤を患う。特定の態様では、該患者は、うっ血性心不全または高血圧を患う。
【0034】
特定の態様では、心血管疾患の患者は、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、利尿薬、血管拡張薬、β遮断薬、ジギタリス、および抗凝固薬から成る群より選択される標準的な処置ですでに処置されている。
【0035】
別の特定の態様では、患者は、肥満、糖尿病または代謝症候群を患う。実際に、MRの活性化が肥満および代謝症候群の病態生理学的発生に関連したことが示されている(Caprio M. et al. 2007; Lamounier-Zepter V. et al. 2005)。
【0036】
一態様では、本発明は、患者から得られた細胞または組織試料中の一つまたは二つのバイオマーカーのmRNAの量を決定することを含む、該患者におけるMR活性化を評価するための方法に関する。
【0037】
本発明は、また、MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置に対する患者の反応性を予測するための方法であって、該患者から得られた細胞または組織試料中の一つまたは二つのバイオマーカーのmRNAの量を決定することを含む方法に関する。
【0038】
末梢血単核細胞(PBMC)、マクロファージ、多核細胞、および内皮細胞および内皮プロモーター細胞(EPC)が、好ましい細胞である。なおさらに好ましくは、本発明による細胞は、PBMCまたは内皮細胞である。総RNAは、それから容易に抽出することができる。例えば核酸を入手可能にするために、細胞または組織試料を使用する前にそれを処理してもよい。細胞またはタンパク質の溶解のための技法、核酸の濃度または希釈は、技術者に公知である。
【0039】
遺伝子の発現レベルの決定は、多様な技術により行うことができる。一般に、決定されるような発現レベルは、相対発現レベルである。
【0040】
さらに好ましくは、決定は、プローブ、プライマーもしくはリガンドなどの選択試薬と試料を接触させることによってその存在を検出すること、または本来試料中の、関心がもたれる核酸の量を測定することを含む。
【0041】
好ましい態様では、mRNAの量を決定することによって、発現レベルを決定してもよい。
【0042】
mRNAの量を決定するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、試料(例えば患者から調製された細胞または組織)中に含有される核酸を、標準法により、例えば溶解酵素もしくは化学溶液を使用して最初に抽出するか、または製造業者の説明書に従って核酸結合樹脂によって抽出する。次に、抽出されたmRNAをハイブリダイゼーション(例えばノーザンブロット分析)および/または増幅(例えばRT−PCR)によって検出する。好ましい態様では、一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを、RT−PCR、好ましくは定量または半定量RT−PCR、なおさらに好ましくはリアルタイム定量または半定量RT−PCRによって決定する。好ましい態様では、NGAL遺伝子の発現レベルを、フォワードプライマー5’−GGACCAGGGCTGTCGCTACT−3’(配列番号1)およびリバースプライマー5’−GGTGGCCACTTGCACATTGT−3’(配列番号2)、またはフォワードプライマー5’−TCACCCTGTACGGAAGAACC−3’(配列番号3)およびリバースプライマー5’−GGTGGGAACAGAGAAAACGA−3’(配列番号4)を使用する、定量PCRによって評価する。
【0043】
増幅の他の方法には、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写介在増幅(TMA)、鎖置換増幅(strand displacement amplification)(SDA)および核酸配列ベース増幅(NASBA)が挙げられる。
【0044】
少なくとも10個のヌクレオチドを有し、本明細書において関心がもたれるmRNAに相補的または相同な配列を示す核酸には、ハイブリダイゼーションプローブまたは増幅プライマーとしての有用性が見つかる。そのような核酸は、同一である必要はないが、典型的には匹敵するサイズの相同領域と少なくとも約80%同一、さらに好ましくは85%同一、なおさらに好ましくは90〜95%同一であることが了解されている。ある態様では、ハイブリダイゼーションを検出するための検出可能なラベルなどの適切な手段と共に核酸を使用することが、有利であろう。蛍光、放射性、酵素または他のリガンド(例えばアビジン/ビオチン)を含めた豊富な種類の適切な指標が、当技術分野において公知である。
【0045】
プローブは、典型的には10〜1000、例えば10〜800、さらに好ましくは15〜700、典型的には20〜500ヌクレオチド長の一本鎖核酸を含む。プライマーは、典型的には、増幅される、関心がもたれる核酸と完全またはほぼ完全にマッチするように設計された、10〜25ヌクレオチド長の比較的短い一本鎖核酸である。プローブおよびプライマーは、ハイブリダイゼーションする核酸に「特異的」であり、すなわちそれらは、好ましくは高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件(最高の融解温度Tm、例えば50%ホルムアミド、5×または6×SCCに対応する。SCCは、0.15M NaCl、0.015Mクエン酸Naである)でハイブリダイゼーションする。
【0046】
上記増幅および検出法に使用される核酸プライマーまたはプローブは、キットとして集合させてもよい。そのようなキットは、コンセンサスプライマーおよび分子プローブを包含する。好ましいキットには、また、増幅が起こったかどうかを決定するために必要な構成要素を包含する。キットは、また、例えばPCR緩衝液および酵素;陽性対照配列、反応対照プライマー;および特異的配列を増幅および検出するための説明書を包含してもよい。
【0047】
別の態様では、本発明は、患者から得られた生物学的試料中の一つまたは二つのバイオマーカータンパク質の濃度を測定することを含む、該患者のMR活性化を評価するための方法に関する。
【0048】
別の態様では、本発明は、患者から得られた生物学的試料中の一つまたは二つのバイオマーカータンパク質の濃度を測定することを含む、MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置に対する該患者の反応性を予測するための方法に関する。
【0049】
好ましい態様では、一つまたは二つのバイオマーカータンパク質の濃度は、該患者から得られた血液試料、血漿試料、血清試料または尿試料から測定される。
【0050】
特定の態様では、本発明の方法は、生物学的試料を、その生物学的試料中に存在する一つまたは二つのバイオマーカータンパク質と選択的に相互作用できる結合パートナーと接触させることを含む。結合パートナーは、ポリクローナルまたはモノクローナル、好ましくはモノクローナルでありうる抗体であってもよい。別の態様では、結合パートナーはアプタマーであってもよい。
【0051】
本発明のポリクローナル抗体またはそのフラグメントは、例えば数ある中でブタ、ウシ、ウマ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、およびマウスより選択されるホスト動物に、適切な抗原またはエピトープを投与することによって、公知の方法により産生させることができる。抗体産生を高めるために、当技術分野で公知の様々なアジュバントを使用することができる。本発明の実施に有用な抗体はポリクローナルであってもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。
【0052】
本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、培養継代細胞系による抗体分子の産生に対応する任意の技法を用いて調製および単離することができる。産生および単離のための技法には、非限定的にKohlerおよびMilstein(1975)によって本来記載されたハイブリドーマ技法;ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(Cote et al., 1983);およびEBV−ハイブリドーマ技法(Cole et al. 1985)が挙げられる。
【0053】
または、一本鎖抗体の産生のために記載された技法(例えば米国特許第4,946,778号参照)を、抗NGALまたは抗SERPINA3一本鎖抗体を産生させるために適用してもよい。本発明の実施に有用な抗体には、また、抗NGALまたは抗SERPINA3フラグメントが挙げられ、それらには、非限定的にF(ab’)2フラグメント(インタクトな抗体分子のペプシン消化によって産生しうる)、およびFabフラグメント(F(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによって産生しうる)が挙げられる。または、Fabおよび/またはscFv発現ライブラリーを構築して、NGALまたはSERPINA3に対して所望の特異性を有するフラグメントを迅速に同定させることができる。例えば、抗体のファージディスプレイを使用してもよい。そのような方法では、適切なバクテリオファージ、例えばM13の表面に一本鎖Fv(scFv)またはFabフラグメントを発現させる。簡潔には、タンパク質を免疫処置した適切なホスト、例えばマウスの脾臓細胞を取り出す。そのタンパク質に対する所望の抗体を産生している細胞から、VLおよびVH鎖のコード領域を得る。次に、ファージ配列の末端にこれらのコード領域を融合させる。いったんファージが適切な担体、例えば細菌に挿入されたならば、そのファージは抗体フラグメントを提示する。抗体のファージディスプレイは、また、当業者に公知のコンビナトリアル法によって提供してもよい。次に、ファージによって提示される抗体フラグメントを、イムノアッセイの一部として使用してもよい。
【0054】
NGALに対するモノクローナル抗体は、例えばKjeldsenら(1996)に記載されている。NGALに対する市販のモノクローナル抗体の例には、HYB−211−01、HYB−211−02、およびNYB−211−05のような、Antibody Shop, Copenhagen, Denmarkから得られる抗体が挙げられる。典型的には、HYB−211−01およびHYB−211−02は、その還元型および非還元型のNGALと共に使用することができる。NGAL抗体は、また、R&D Systemsから参照番号AF1857で購入することができる。
【0055】
SERPINA3に対する市販のモノクローナル抗体の例には、Abgent, Inc. San DiegoおよびSigma-Aldrich Coから得られる抗体が挙げられる。
【0056】
別の態様では、結合パートナーはアプタマーであってもよい。アプタマーは、分子認識に関して抗体の代替となる種類の分子である。アプタマーは、高い親和性および特異性で事実上任意の種類のターゲット分子を認識する能力をもつオリゴヌクレオチドまたはオリゴペプチド配列である。そのようなリガンドは、Tuerk C. 1997に記載されたように、ランダム配列ライブラリーの試験管内進化法(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)(SELEX)により単離することができる。ランダム配列ライブラリーは、DNAのコンビナトリアル化学合成によって入手可能である。このライブラリーでは、各構成配列は、ユニーク配列の直鎖オリゴマー(場合により化学的に改変されているもの)である。この種の分子の可能な改変、使用および利点は、Jayasena S.D., 1999に総説されている。ペプチドアプタマーは、E. coli チオレドキシンAなどのプラットフォームタンパク質により提示される、コンホメーションが束縛された抗体可変領域から成り、その抗体可変領域は、ツーハイブリッド法によりコンビナトリアルライブラリーより選択される(Colas et al., 1996)。
【0057】
抗体またはアプタマーなどの本発明の結合パートナーに、蛍光分子、放射性分子または当技術分野において公知の任意の他のラベルなどの検出可能な分子または物質をラベルしてもよい。ラベルは、一般にシグナルを(直接的または間接的のいずれかで)与えることが当技術分野において公知である。
【0058】
本明細書に使用されるように、抗体に関して「ラベルされた」という用語は、抗体またはアプタマーに放射性薬剤またはフルオロフォア(例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)またはフィコエリトリン(PE)またはインドシアニン(Cy5))などの検出可能な物質をカップリング(例えば物理的に結合)させることによるその抗体またはアプタマーの直接的ラベルと同様に、検出可能な物質との反応性によるそのプローブまたは抗体の間接的ラベルを包含することが意図される。本発明の抗体またはアプタマーに、当技術分野で公知の任意の方法によって放射性分子をラベルしてもよい。例えば放射性分子には、非限定的にI123、I124、In111、Re186、Re188などのシンチグラフィー研究のための放射性原子が挙げられる。
【0059】
上記アッセイは、一般に固体支持体に結合パートナー(すなわち抗体またはアプタマー)を結合させることを伴う。本発明の実施に使用することができる固体支持体には、ニトロセルロース(例えばメンブレンまたはマイクロタイターウェルの形態のもの);ポリ塩化ビニル(例えばシートまたはマイクロタイターウェル);ポリスチレンラテックス(例えばビーズまたはマイクロタイタープレート);ポリフッ化ビニリデン;ジアゾ化紙;ナイロンメンブレン;活性化ビーズ、磁気反応性ビーズなどのような基材が挙げられる。
【0060】
一つまたは二つのバイオマーカータンパク質の濃度は、競合アッセイ、直接反応アッセイ、またはサンドイッチ型アッセイなどのイムノアッセイを含めた、標準的な免疫診断技法を用いることによって測定してもよい。そのようなアッセイには、非限定的に凝集検査;ELISAなどの酵素ラベル介在イムノアッセイ;ビオチン/アビジン型アッセイ;ラジオイムノアッセイ;免疫電気泳動;免疫沈降が挙げられる。
【0061】
さらに特定すれば、該一つまたは二つのバイオマーカータンパク質を認識する抗体セットでマイクロタイタープレートのウェルをコーティングするELISA法を用いることができる。次に、コーティングされたウェルに、該一つまたは二つのバイオマーカータンパク質を含有するか、または含有する疑いのある生物学的試料を加える。抗体−抗原複合体を形成させるのに十分な時間インキュベーションした後に、プレートを洗浄して未結合成分を除去し、そして検出可能にラベルされた二次結合分子を添加することができる。捕捉された任意の試料マーカータンパク質と二次結合分子を反応させ、プレートを洗浄し、二次結合分子の存在を当技術分野で周知の方法を用いて検出する。
【0062】
NGALの検出に適したELISA法は、Kjeldsen ら(1996)、 Mishra J.ら(2005)およびWangら(2007)に記載された。NGALを検出するためのサンドイッチ酵素イムノアッセイは、Blaser J.ら(1995)によって記載された。NGALを検出するためのラジオイムノアッセイは、Xu SY.ら(1994)によって記載された。
【0063】
NGALを検出するためのELISAキットは、AntibodyShop(Grusbakken 8 DK-2820 Gentofte - Denmark)から参照番号KIT036またはKIT037で、R&D Systems Europe(Lille - France)から参照番号DLCN20で、MBL International(Woburn, MA 01801, USA)から参照番号CY−8070で市販されている。NGAL/MMP9複合体濃度を定量するためのイムノアッセイは、R&D Systems Europe(Lille - France)から参照番号DM9L20で市販されている。
【0064】
(イムノアッセイに基づく方法を用いたまたは用いない)一つまたは二つのバイオマーカータンパク質の濃度測定は、また、化合物の分離:化合物の分子量に基づく遠心分離;質量および電荷に基づく電気泳動;疎水性に基づくHPLC;サイズに基づくサイズ排除クロマトグラフィー;および使用される特定の固相に対する化合物の親和性に基づく固相親和性を含んでもよい。いったん分離されると、該一つまたは二つのバイオマーカータンパク質は、標準的な技法を用いて測定された、その化合物に対する公知の「分離プロファイル」、例えば保持時間に基づいて同定してもよい。
【0065】
または、分離された化合物は、例えば質量分析機により検出および測定してもよい。
【0066】
一態様では、本発明の方法は、さらに、該一つまたは二つのバイオマーカータンパク質の濃度を予備決定されたしきい値と比較する段階を含んでもよい。該比較は、患者におけるMR活性化またはMRアンタゴニストを用いた処置に対する患者の反応性を示す。典型的には、処置前のNGALタンパク質の血中濃度が70μg/lよりも高い、好ましくは80μg/lよりも高い、なおさらに好ましくは85μg/l、90μg/l、95μg/l、100μg/l、125μg/l、150μg/lまたは200μg/lよりも高い場合に、ヒト患者は、処置に対してレスポンダーであると見なすことができる。
【0067】
本発明のキット
本発明のさらなる態様は、患者におけるMR活性化を評価するための方法およびMRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置に対する患者の反応性を予測するための方法を実施するために有用な材料を備えるキットを提供する。これらの方法を、診断検査室、実験研究室または専門家が行うことができる。本発明は、これらの異なる設定で使用されうるキットを提供する。
【0068】
生物学的試料中のNGALおよび/またはSERPINA3を検出するための材料および試薬を、キットの中に一緒にまとめてもよい。
【0069】
本発明の一態様は、
a)NGALタンパク質を検出するための手段;および
b)SERPINA3タンパク質を検出するための手段
を含むキットに関する。
【0070】
典型的には、該キットは、
a)NGALタンパク質の結合パートナー;および
b)SERPINA3タンパク質の結合パートナー
を含む。
【0071】
典型的には、該結合パートナーは抗体である。
【0072】
結合パートナーは、より容易な検出のためにタグ付けすることができる。それは、支持体(例えばビーズ、アレイなどの)表面に固定化してもよいか、または固定化しなくてもよい。典型的には、支持体表面(例えばメンブレン)は、(例えばゲル電気泳動およびメンブレンへの移行による)結合パートナーの固定化のためにキットに包含されていてもよい。
【0073】
加えて、本発明のキットは、一般にまた、キットに含まれる結合パートナーと本発明のバイオマーカーとの間の複合体を検出するための、少なくとも一つの試薬を含む。
【0074】
手順に応じて、キットは、さらに、抽出緩衝液および/または試薬、ウエスタンブロッティング緩衝液および/または試薬、ならびに検出手段のうち一つまたは複数を含んでもよい。異なる段階の手順を行うためにこれらの緩衝液および試薬を使用するためのプロトコールが、キットに包含されていてもよい。
【0075】
本発明のキットに包含される、異なる試薬は、固体(例えば凍結乾燥)または液体状態で供給してもよい。本発明のキットは、場合により個別の緩衝液および/または試薬毎に異なる容器(例えばバイアル、アンプル、試験管、フラスコまたはボトル)を備えてもよい。各構成要素は、一般にそのそれぞれの容器に小分けするときに適するか、または濃縮形で提供される。ある段階の開示された方法を実施するために適する他の容器もまた提供してもよい。キットの個別の容器は、好ましくは、販売のために密閉して維持される。
【0076】
ある態様では、キットは、本発明の方法により被験者における心不全リスクを予測するためにその構成要素を使用するための説明書を備える。本発明の方法によりキットを使用するための説明書は、その被験者から得られた生物学的試料を処理するためおよび/もしくはその検査を行うための説明書または結果を解釈するための説明書を備えてもよい。キットは、また、医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制している政府機関により指示された形式の通知を含んでもよい。
【0077】
本発明の治療法:
本発明の方法は、心血管疾患の患者を分類するために有用でありうることから、該患者に的確な処置を選択するために使用してもよい。このように例えば、レスポンダーまたは非レスポンダーとして分類される患者に、MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤の適切な量を投与してもよい。それゆえに、そのような方法は、医師が治療的処置を選択することを助けることができる。したがって、処置のコストを患者のリスクに適合させることができる。
【0078】
このように、本発明の別の局面は、疾患のある患者を治療するため、および/または疾患のリスクのある患者において予防するための方法であって、
a)該患者における該一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルが一般集団または健康被験者から得られた予備決定値よりも高いならば、その患者をレスポンダーとして分類する、本発明により該患者の反応性を予測するためのインビトロ法を行うことによって、該患者がMRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置に対してレスポンダーまたは非レスポンダーであるかどうかを決定すること、および
b)該患者が段階a)でレスポンダーとして決定されたならば、MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を該患者に投与すること
にある工程を含む方法に関する。
【0079】
好ましい態様では、該疾患は心血管疾患である。
【0080】
別の態様では、該疾患は、代謝症候群、肥満または糖尿病である。
【0081】
MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤は、薬学的組成物の形で投与してもよい。好ましくは、該アンタゴニストまたは阻害剤は、治療有効量で投与される。
【0082】
「治療有効量」によって、任意の医学的処置に適用可能な,妥当な利益/リスク比で心血管疾患を治療および/または予防するために十分な量のMRアンタゴニストまたは阻害剤を意味する。
【0083】
本発明の化合物および組成物の合計1日使用量は、健全な医学的判断の範囲内で担当の医師によって決定されることが理解されよう。任意の特定の患者についての特異的治療有効用量レベルは、処置されている障害および障害の重症度;採用される特異的化合物の活性;採用される特異的組成物、患者の年齢、体重、全身の健康状態、性別および食事;採用される特異的化合物の投与時間、投与経路、および排泄速度;処置期間;採用される特異的ポリペプチドと組合せてまたは同時に使用される薬物などの、医学分野で周知の要因を含めた多様な要因に依存するであろう。例えば、所望の治療効果を達成するために、そして所望の効果が達成されるまで投薬量を徐々に増加させるために必要な用量よりも低いレベルで、化合物の用量を開始することは、十分に当該分野の技術の範囲内である。しかし、製品の1日投薬量は、大人1人につき1日に0.01〜1000mgの広い範囲を変動しうる。好ましくは、組成物は、処置される患者への投薬量を症状に応じて調整するために0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250および500mgの活性成分を含有する。医薬は、典型的には約0.01mg〜約500mgの活性成分、好ましくは1mg〜約100mgの活性成分を含有する。薬物の有効量は、通常、1日あたり0.0002mg/kg体重〜約20mg/kg体重、特に1日あたり約0.001mg/kg体重〜7mg/kg体重の投薬レベルで供給される。
【0084】
本発明のさらなる目的は、心血管疾患、糖尿病、肥満または代謝症候群の患者であって、上記方法によりレスポンダーとして分類される患者を処置するための医薬を調製するための、MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤の使用である。
【0085】
本発明のさらなる目的は、心血管疾患、糖尿病、肥満または代謝症候群の患者であって、本発明の方法によりレスポンダーとして分類される患者を処置するためのMRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤に関する。
【0086】
したがって、本発明のさらなる目的は、心血管疾患、糖尿病、肥満または代謝症候群の患者であって、一般集団または健康被験者から得られた予備決定値よりも高い、一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを有する患者を処置するためのMRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤に関する。
【0087】
好ましい態様では、該患者は、心血管疾患を患う。
【0088】
好ましい態様では、該患者は、肥満を患う。
【0089】
好ましい態様では、該患者は、糖尿病を患う。
【0090】
好ましい態様では、該患者は、代謝症候群を患う。
【0091】
本発明の別の目的は、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーを、患者におけるMR活性化のバイオマーカーとして使用することである。
【0092】
本発明の別の目的は、MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた患者の処置をモニタリングするための方法であって、本発明の方法によりMR活性化を評価すること、および場合により該一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを、予備決定された段階のMR活性化を表す予備決定値と比較することを含む方法であるが、予備決定値に対する該一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルは、MR活性化の漸進的変化、すなわち処置の有効度を示す。
【0093】
本発明を図および実施例の点からさらに例示する。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1A】コンディショナルなMRの心臓過剰発現のモデルにおけるNGAL発現の経時変化を示す図である。Lcn2は、リポカリン2(NGAL)を意味する。HPRTは、対照ハウスキーピング遺伝子を意味する。Cntは、対照同腹仔マウスを意味する。DTは、hMRをコンディショナルに過剰発現しているダブルトランスジェニックマウスを意味する。
【図1B】MRの心臓におけるNGALタンパク質の発現を示す図である。Lcn2は、リポカリン2(NGAL)を意味する。GAPDHは、対照ハウスキーピングタンパク質を意味する。Cntは、対照同腹仔マウスを意味する。DTは、hMRをコンディショナルに過剰発現しているダブルトランスジェニックマウスを意味する。
【図2】GRを過剰発現しているマウスに比べた、MRを過剰発現しているマウスの心臓におけるNGAL発現を示す図である。Lcn2は、リポカリン2(NGAL)を意味する。HPRTは、対照ハウスキーピング遺伝子を意味する。Cntは、対照同腹仔マウスを意味する。DTは、hMRまたはhGRをコンディショナルに過剰発現しているダブルトランスジェニックマウスを意味する。
【図3】様々なモデルにおけるNGALの発現を示す図である。AおよびB:定量PCR;CおよびD:ELISA。Cntは、対照同腹仔マウスを意味する。DTは、hMRをコンディショナルに過剰発現しているダブルトランスジェニックマウスを意味する。Aldo−塩は、 アルドステロン注入処置され、1% NaClを飲用している一側性腎摘出マウスを意味する。内皮特異的なMR発現は、内皮のみにターゲティングされたコンディショナルなMRの発現によって得られる。
【図4A】ラットMRを安定発現しているラット心筋細胞(H9C2細胞)の細胞モデルにおけるNGALの発現を示す図である。Cntは、対照(希釈剤)を意味する。aldoおよびcorticoは、それぞれアルドステロンおよびコルチコステロンを意味する。RU28318は、MRアンタゴニストであり、RU486は、GRアンタゴニストである。βアクチンは、標準化のために使用されるハウスキーピング遺伝子である。
【図4B】ラットMRを安定発現しているラット心筋細胞(H9C2細胞)の細胞モデルにおけるNGALの発現を示す図である。Cntは、対照(希釈剤)を意味する。aldoおよびcorticoは、それぞれアルドステロンおよびコルチコステロンを意味する。RU28318は、MRアンタゴニストであり、RU486は、GRアンタゴニストである。βアクチンは、標準化のために使用されるハウスキーピング遺伝子である。
【図4C】ラットMRを安定発現しているラット心筋細胞(H9C2細胞)の細胞モデルにおけるNGALの発現を示す図である。Cntは、対照(希釈剤)を意味する。aldoおよびcorticoは、それぞれアルドステロンおよびコルチコステロンを意味する。RU28318は、MRアンタゴニストであり、RU486は、GRアンタゴニストである。βアクチンは、標準化のために使用されるハウスキーピング遺伝子である。
【図4D】ラットMRを安定発現しているラット心筋細胞(H9C2細胞)の細胞モデルにおけるNGALの発現を示す図である。Cntは、対照(希釈剤)を意味する。aldoおよびcorticoは、それぞれアルドステロンおよびコルチコステロンを意味する。RU28318は、MRアンタゴニストであり、RU486は、GRアンタゴニストである。βアクチンは、標準化のために使用されるハウスキーピング遺伝子である。
【図5A】II型糖尿病のマウスモデルにおけるNGALの発現を示す図である。Lcn2は、リポカリン2(NGAL)を意味する。Cntは、対照同腹仔マウスを意味する。db/dbは、糖尿病マウスを意味する。
【図5B】リポカリン2/NGALの血漿中濃度の進展を示す図である。カンレノ酸塩で17週間処置されたかまたは処置されていない対照およびdb/dbマウスにおける血漿中lcn2。
【図6】心不全ラットの心臓および血漿におけるリポカリン2/NGALのMR依存性誘導を示す図である。リポカリン2/NGALの発現は、悪液質誘導性心不全を有するラットの左心室で2倍に増加する。誘導は、有効用量のスピロノラクトン(50mg/Kg/日、心不全の症状を予防できる)により完全に阻止される。B.心不全を有するラットの血漿においてリポカリン2/NGALの血漿中濃度もまた増加する(図6B)。動物を50mg/Kg/jのspiroで処置すると増加は阻止される(HF+spiro 50mg/Kg/jとHFを比較)。
【図7】MRの心臓過剰発現のマウスモデルに関するマイクロアレイ解析で同定されたディファレンシャルな遺伝子の検証を示す図である。Serpina3の発現は、MRを過剰発現しているマウス(DT−MR)の心臓で有意に増加しているが、GRを過剰発現しているマウス(DT−GR)の心臓では改変されない。mRNAレベルの値を各試料中のubc mRNAレベルに対して標準化した。対照におけるこれらの値を各遺伝子について1に設定し、図に変化倍率を示す。Mann-WhitneyのU検定を用いたときに対照に対して、:p<0.05、**:p<0.01。
【図8】H9C2/MR細胞におけるserpina3の発現のMR特異性を示す図である。serpina3の発現は、特異的MRアンタゴニストであるRU28318を用いて示されるようなMR依存性メカニズムを介して、24時間の1nMアルドステロン(aldo)および10nMコルチコステロン(cortico)によって増加する。mRNAレベルの値を各試料中のβ−アクチンmRNAレベルに対して標準化した。対照(未処理細胞)におけるこれらの値を各遺伝子について1に設定し、図に変化倍率を示す。ANOVA分析を用いたとき対照(ステロイドなし)に対して、**:p<0.01。
【図9A】10nMアルドステロンで処理されたH9C2/MR細胞におけるSerpina3誘導の経時変化を示す図である。Serpina3の発現は、アルドステロンに24時間曝露後に高度に誘導される。mRNAレベルの値を各試料中のβ−アクチンのmRNAレベルに対して標準化した。対照(未処理細胞)におけるこれらの値を各遺伝子について1に設定し、図に変化倍率を示す。ANOVA分析を用いたとき対照(ステロイドなし)に対して、:p<0.05、**:p<0.01。
【図9B】アルドステロンを用いたSerpina3誘導の用量反応関係を示す図である。アルドステロンによるSerpina3の発現誘導は用量依存性である。mRNAレベルの値を各試料中のβ−アクチンのmRNAレベルに対して標準化した。対照(未処理細胞)におけるこれらの値を各遺伝子について1に設定し、図に変化倍率を示す。ANOVA分析を用いたとき対照(ステロイドなし)に対して、:p<0.05、**:p<0.01。
【図10】心不全を有するラットの心臓におけるSerpina3のMR依存性誘導を示す図である。Serpina3の発現は悪液質誘導性心不全を有するラットの左心室で高度に増加している。有効用量のスピロノラクトン(50mg/Kg/日、心不全の症状を予防できる)によって誘導は阻止される。ANOVA分析を用いたとき疑似処置に対して、**:p<0.01、プラセボ(心不全、プラセボ投与)に対して、#:p<0.05。
【0095】
実施例1
MRおよびGRトランスジェニックマウス:鉱質コルチコイドレセプター(MR)トランスジェニックマウスおよび糖質コルチコイドレセプター(GR)トランスジェニックマウスは、それぞれヒトMRまたはGRのコンディショナルな発現が可能であった。MRおよびGRトランスジェニックマウスは、適切なトランスアクチベーターマウスと交配したときにhMRまたはhGRをコンディショナルに誘導性発現可能となる、施設内で作出したアクセプターマウスの繁殖によって得られた。これらのコンディショナル-トランスジェニックモデルは、Ouvrard-Pascaudら(2005)およびSainte-Marieら(2007)に記載されている。心臓においてMRにより選択的にモデュレーションされる遺伝子を同定するために、MRおよびGRアクセプターマウスを、G. Fishman(Columbia University, NY, USA)により提供されたMHC−tTAトランスアクチベーターマウスと交配させ(Yu et al. 1996)、それぞれhMRおよびhGRを心筋細胞特異的に発現可能にした。この結果として、それぞれMRまたはGRコンディショナルマウスの心臓でのMRが対照同腹仔に比べて4倍に過剰発現するか、または糖質コルチコイドの結合が3倍に増加した。初期胚の死滅を避けるために、MR後代を妊娠から出生までDoxで処置し、生後7日までだけを発現可能にした。
【0096】
試料、RNA単離、ラベルおよびハイブリダイゼーション:5匹の1か月齢MRトランスジェニックマウス、5匹の1か月齢GRトランスジェニックマウスの全心臓からTRIZOL(登録商標)試薬(Life technologies)を用いて総RNAを単離した。MRトランスジェニックマウスについての参照試料は、MRトランスジェニックマウスの5匹の対照同腹仔(同齢、同系統)から抽出した全心臓の総RNAから成った。GRトランスジェニックマウスについての参照試料は、GRトランスジェニックマウスの5匹の対照同腹仔(同齢、同系統)から抽出した全心臓の総RNAから成った。Oligotex mRNAキット(Qiagen)を用いてmRNAを単離した。Agilent 2100バイオアナライザーを用いてRNAおよびmRNAの品質を評価した。MRトランスジェニックマウスからのmRNAをプールし、3回の別々の反応でそれにCy5をラベルした。MRトランスジェニックマウスについての参照からのmRNAをプールし、3回の別々の反応でそれにCy3をラベルした。GRトランスジェニックマウスからのmRNAを3個のプールになるように合わせ、2回の別々の反応でそれらにそれぞれCy5をラベルした。GRトランスジェニックマウスについての参照からのmRNAをプールし、6回の別々の反応でそれにCy3をラベルした。CyScribe cDNA Post Labeling Kit(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて、Cy3−およびCy5−ラベルcDNAを調製した。各マイクロアレイについて別々にラベル反応を行った。MRトランスジェニックマウスについて3回およびGRトランスジェニックマウスについて6回のマイクロアレイハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション混合物をヒトCot-I DNA(Gibco-BRL)、酵母tRNAおよびポリA RNAと共に予備インキュベーションし、マイクロアレイとハイブリダイゼーションさせた。
【0097】
マイクロアレイ:マイクロアレイは、50塩基長オリゴヌクレオチドプローブ(MWG Biotech(登録商標))を用いて施設内で調製した。エポキシシランをコーティングしたガラススライドに、Amersham製Lucidea Array Spotterを用いてプローブをスポットした。マイクロアレイに提示された5419個の遺伝子は、心血管および/または骨格筋の正常および病的機能への関与について選択された。選択は、1)サブトラクティブハイブリダイゼーション実験(Steenman et al. 2005)、2)全ゲノムマイクロアレイハイブリダイゼーション(Steenman et al. 2003)および3)文献データに基づいた。マイクロアレイは、マウス特異的オリゴヌクレオチドと、対応するマウス配列と少なくとも80%相同なヒトオリゴヌクレオチドとの両方を含んだ。各遺伝子プローブを3回の繰り返しでスポットした。
【0098】
生データの抽出および統合化(consolidation):ハイブリダイゼーションされたアレイを蛍光共焦点顕微鏡法(Scanarray 4000XL, GSI-Lumonics)により走査した。蛍光シグナルの測定値を、各蛍光色素について10μm/画素の分解能で別々に得た。ハイブリダイゼーションおよびバックグラウンドシグナルの強度、ならびに品質管理のパラメーターをGenePix Pro 5.0(Axon(登録商標))を用いて測定した。Lowessの標準化手順(Yang et al. 2002)を行って、技術的なバイアスを補正した。以前に記載されたように、その手順をチャンネル毎に適用した(Workman et al. 2002)。各マイクロアレイについて、全てのCy3−またはCy5−シグナル強度の中央値プロファイルとして定義されたプロトタイプに対してCy3−およびCy5−シグナル強度を個別に標準化した。
【0099】
マイクロアレイの統計解析:マイクロアレイ有意性解析(Significance Analysis of Microarray)(SAM)(Tusher et al. 2001)およびマイクロアレイデータに関する線形モデル(Linear Models for MicroArray data)(Limma)(Smyth 2004)を用いて、統計的に有意な、ディファレンシャルな発現を示す遺伝子を同定した。1クラスの解析を利用して、トランスジェニックマウスと参照マウスとの間でディファレンシャルに発現する遺伝子を同定し、2クラスの解析を利用して、両方のトランスジェニックマウスモデルの間でディファレンシャルに発現する遺伝子を同定した。MRトランスジェニックマウスの1クラスの解析の結果として、520個の遺伝子が同定され、それらは、SAM(FDR(誤検出率=0.05%)およびLimma(「FDR」−補正、p<0.01)の両方により同定された。GRトランスジェニックマウスの1クラス解析の結果として、1232個の遺伝子が同定され、それらは、SAM(FDR=0.03%)およびLimma(「FDR」−補正、p<0.01)の両方により同定された。2クラスの解析の結果として、529個の遺伝子が同定され、それらは、SAM(FDR=0.09%)およびLimma(「FDR」−補正、p<0.01)の両方により同定された。
【0100】
MRが活性化した様々なトランスジェニックマウスモデルまたは薬理学的マウスモデルにおけるNGALの発現:1、2および3か月齢のMRトランスジェニックマウスの心臓から抽出した2μgのDNA不含総RNAを使用して調製した25μlのRT−PCR液(Eurogentec製Sybr Green I用qPCR Coreキット使用)に関してフォワードプライマー5’−GGACCAGGGCTGTCGCTACT−3’(配列番号1)およびリバースプライマー5’−GGTGGCCACTTGCACATTGT−3’(配列番号2)を使用した定量PCR(Q−PCR、Light Cycler, Biorad)によりNGAL mRNAの定量的発現を分析し、マッチした同腹仔および2か月齢のGRトランスジェニックマウス(およびそれぞれの対照同腹仔)と比較した。特異的NGAL抗体(AF1857、R&D Systems)を使用して、2か月齢のMRマウスからの心臓タンパク質抽出物中のNGALタンパク質の発現を分析した。マウスNGAL特異的ELISAアッセイ(A. Xu, Hong-Kongが提供)を使用してNGALの血漿中濃度を推定した(Wang et al., 2007)。
【0101】
(一側性腎摘出のみの対照マウスに比べて)アルドステロン注入(60μg/kg/j、0.25μl/h ALZETミニポンプ)および飲料水中の1%塩で3週間処置された一側性腎摘出マウスの心臓における、および上記MRトランスジェニックマウスを内皮特異的トランスアクチベーターマウス(L. E. Benjamine, Harvard, USAが提供)と適切に交配(内皮のみにhMRをコンディショナルに発現可能)(Sun et al., 2005)後に得られた、内皮のみにヒトMRをコンディショナルに過剰発現する9か月齢のマウスの胸部大動脈における、NGAL mRNAの定量的発現もまた、Q−PCRによって分析した。
【0102】
(一側性腎摘出のみの対照マウスに比べて)アルドステロン注入(60μg/kg/j、0.25μl/h ALZETミニポンプ)および飲料水中の1%塩で3週間処置された3か月齢の一側性腎摘出マウスならびに(対照同腹仔に比べて)内皮特異的にMRを過剰発現している9か月齢のマウスの血漿中でも、NGALの血漿中濃度を測定した。
【0103】
ラットMRを安定的に過剰発現しているラット心筋細胞の細胞モデル(H9C2細胞)におけるNGALの発現(Fejes-toth, Endocrinology, 2007)
様々な濃度のアルドステロンまたは10−8Mコルチコステロンまたは10−6M MRアンタゴニストRU28318またはGRアンタゴニストRU486により単独でまたは組合せて処理したラットH9−C2/MR細胞から抽出した2μgのDNA不含総RNAを用いて調製した25μlのRT−PCR液(Eurogentec製Sybr Green I用qPCR Coreキット使用)に関してフォワードプライマー5’−TCACCCTGTACGGAAGAACC−3’(配列番号3)およびリバースプライマー5’−GGTGGGAACAGAGAAAACGA−3’(配列番号4)を用いた定量PCR(Q−PCR、Light Cycler, Biorad)によりNGAL mRNAの定量的発現を分析した。
【0104】
II型糖尿病のマウスモデル(レプチンレセプター遺伝子に自然突然変異をもつdb/dbマウス)におけるNGALの発現
薬理学的MRアンタゴニストであるカンレノ酸塩(カンレノ酸塩、Sigma-Alderich、飲料水中に100mg/Kg/日、45日間)で処置前後のdb/dbマウスにおけるマウスNGAL特異的ELISAアッセイ(A. Xu, Hong-Kong提供)(Wang et al., 2007)を用いてNGALの血漿濃度を推定した。
【0105】
結果:
ヒトMRをコンディショナルに過剰発現しているマウス(DT)の心臓では、対照同腹仔(Cnt)に比べて1、1.5または3か月齢でリポカリン2/NGAL mRNAが強く発現される(×60〜200)(図1A)。ヒトMRをコンディショナルに過剰発現している1.5か月齢マウス(DT)の心臓では、対照同腹仔(Cnt)に比べてリポカリン2/NGALタンパク質もまた強く誘導される(図1B)。対照同腹仔におけるリポカリン2/NGALの発現誘導が決して×1.3を超えないことから、これは高感度である。GRを過剰発現している2か月齢のマウスの心臓におけるリポカリン/NGALの発現を分析することによって、近縁GRに対する特異性を評価した(図2)。NGALの発現は、GRを過剰発現しているマウスよりもMRを過剰発現しているマウスの心臓で75倍大きく誘導された。
【0106】
リポカリン2/NGALの発現は、MRを薬理学的に3週間刺激されたマウス(aldo/塩モデル)の心臓と同様に内皮にターゲティングされたMRをコンディショナルに過剰発現する9か月齢のマウス(DT、同腹仔Cntに比べて)の大動脈で増加している(図3A〜C)。興味深いことに、リポカリン2/NGALの血漿中濃度もまた、これら二つのマウスモデルで増加し、これは、内皮壁からの分泌を示唆している(図3B〜D)。
【0107】
リポカリン2/NGALの発現は、10−8Mアルドステロンで24時間処理されたH9C2/MR細胞中で増加している(図4A)。リポカリン2/NGALの発現のこの増加は、10−8Mアルドステロンに、GRアンタゴニストRU486ではなくMRアンタゴニストRU28318を添加することによって阻止される(図4A)。10−8Mコルチコステロン(糖質コルチコイドホルモン)もまた、H9C2/MR細胞におけるリポカリン2/NGAL発現を刺激した(図4B)。この増加もまた、GRアンタゴニストRU486ではなくMRアンタゴニストRU28318によって阻止され(図4B)、これは、コルチコステロンもまた、MRを介してリポカリン2/NGALの発現を刺激したことを示している。経時変化研究により、リポカリン2/NGALの発現が10−8Mアルドステロンの24時間後に誘導され、48時間の刺激後に持続したままであったことが示された(図4C)。リポカリン2/NGALの発現は、アルドステロンの濃度を増加させることによって刺激され、これは、特異的MR介在性作用を示している(図4D)。
【0108】
リポカリン2/NGALの血漿中濃度は、II型糖尿病マウスモデル(db/db)の血漿中でも増加する(図5Aおよび図5B、対照に比べたdb/db)。これらのマウスにおいて、17週間の薬理学的MR拮抗の作用もまた分析する。図5Bは、カンレノ酸塩で処置されたか、または処置されていない対照およびdb/dbマウスマウスにおけるリポカリン2/NGALの血漿中濃度を表す。db/dbマウスにおけるリポカリン2/NGALの血漿中濃度の増加は、db/dbマウスをMRアンタゴニストであるカンレノ酸塩で17週間インビボ処置することによって阻止される(図5B、db/db+カンレノ酸塩)。カンレノ酸塩は、対照マウスにおけるリポカリン2/NGALの血漿中濃度に作用を有さない(対照+カンレノ酸塩)。このことから、II型糖尿病におけるMRアンタゴニストの有効性を追跡するためにリポカリン2/NGALの血漿中濃度を使用することができることが実証される。
【0109】
悪液質に関連する心不全ラットモデル(HF)においてリアルタイムPCRにより推定されるような心臓リポカリン2/NGAL mRNAの発現は、最大2倍誘導される(疑似処置に比べたMI)(図6A)。心不全の症状の発生を予防するために有効な濃度までスピロノラクトンを投与すると(HF+spiro 50mg/Kg/jをHFと比較)、リポカリン2/NGAL mRNAの誘導は完全に阻止される(図6A)。リポカリン2/NGALの血漿中濃度は、また、心不全ラットの血漿中で増加する(図6B)。その増加は、動物をspiro 50mg/Kg/jで処置した場合に阻止される(HF+spiro 50mg/Kg/jをHFと比較)。
【0110】
したがって、MR活性化は、NGAL遺伝子の発現レベルを決定することによって特異的かつ効率的に評価することができる。MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置に対する患者の反応性は、該患者から得られた生物学的試料中のNGAL遺伝子の発現レベルを決定することにより予測することができる。
【0111】
実施例2
健康被験者集団におけるLcn2/NGALの血漿中濃度を測定した。
【0112】
過去7日間に急性病状を示さず、心血管処置を全く受けなかったという条件で、年齢18〜85歳の男女を研究に含めた。健康対照についてのさらなる排除基準は:既知の高血圧(140/90mmHgよりも高い、または65歳を超える場合は160mmHgよりも高い);既知の腎不全、既知の糖尿病、妊娠、過去5年以内に診断されたガンまたは進行性腫瘍(evolutive neoplasia)、慢性肝臓病変、結合組織炎(connectivitis)、クローン病、進行性結核(evolutive tuberculosis)、労作性狭心症、急性冠動脈症候群(acute coronarien syndrome)、冠動脈症(coronopathy)の病歴、頚動脈内膜摘除および既知の腹部大動脈瘤であった。
【0113】
健康被験者のLcn2/NGALの血漿中濃度は、一般に40〜80μg/mlの範囲に含まれた。
【0114】
心血管疾患、糖尿病、肥満または代謝症候群の患者のLcn2/NGALの血漿中濃度も測定する。それは、健康被験者の血漿中濃度よりも高い。
【0115】
実施例3
心筋細胞におけるMRまたはGRの慢性過剰発現は、短期コルチコステロイド処理により誘導されるものとは異なる、細胞の順応を表す、変化したシグナル伝達経路を導くおそれがある。心臓におけるインビボ慢性MR活性化の分子的影響を分析するために、本発明者らは、Cardiochips(登録商標)、すなわち心血管および/または骨格筋の正常および病的機能への関与について選択された5419個の遺伝子を含むマイクロアレイを用いて、MR−心臓マウスの心臓遺伝子発現を検討した。6週間にわたる心筋細胞のMR過剰発現は、約24個のアップレギュレーションされる遺伝子および23個のダウンレギュレーションされる遺伝子という結果となった。興味深いことに、それらの大部分は、GR−心臓マウスで平行して決定されたGRにより調節される遺伝子(約74個のGRによりアップレギュレーションされる遺伝子および70個のGRでダウンレギュレーションされる遺伝子)とは異なった。さらに、MRによりレギュレーションされる遺伝子の大部分は、GR−心臓マウスモデルでは変化しなかったことから、各ステロイドレセプターが、心筋細胞において別個の遺伝子発現パターンをコントロールしていることが示される。
【0116】
MRおよびGRトランスジェニックマウス:鉱質コルチコイドレセプター(MR)トランスジェニックマウスおよび糖質コルチコイドレセプター(GR)トランスジェニックマウスは、それぞれヒトMRまたはGRのコンディショナルな発現が可能であった。MRおよびGRトランスジェニックマウスは、適切なトランスアクチベーターマウスと交配したときにhMRまたはhGRをコンディショナルに誘導性発現可能となる、施設内で作出したアクセプターマウスの繁殖によって得られた。これらのコンディショナル-トランスジェニックモデルは、Ouvrard-Pascaudら(2005)およびSainte-Marieら(2007)に記載されている。心臓においてMRにより選択的にモデュレーションされる遺伝子を同定するために、MRおよびGRアクセプターマウスを、G. Fishman(Columbia University, NY, USA)により提供されたMHC−tTAトランスアクチベーターマウスと交配させ(Yu et al. 1996)、それぞれhMRおよびhGRを心筋細胞特異的に発現可能にした。この結果として、それぞれMRまたはGRコンディショナルマウスの心臓でのMRが対照同腹仔に比べて4倍に過剰発現するか、または糖質コルチコイドの結合が3倍に増加した。初期胚の死滅を避けるために、MR後代を妊娠から出生までDoxで処置し、生後7日までだけ発現可能にした。
【0117】
試料、RNA単離、ラベルおよびハイブリダイゼーション:5匹の1か月齢MRトランスジェニックマウス、5匹の1か月齢GRトランスジェニックマウスの全心臓からTRIZOL(登録商標)試薬(Life technologies)を用いて総RNAを単離した。MRトランスジェニックマウスについての参照試料は、MRトランスジェニックマウスの5匹の対照同腹仔(同齢、同系統)から抽出した全心臓の総RNAから成った。GRトランスジェニックマウスについての参照試料は、GRトランスジェニックマウスの5匹の対照同腹仔(同齢、同系統)から抽出した全心臓の総RNAから成った。Oligotex mRNAキット(Qiagen)を用いてmRNAを単離した。Agilent 2100バイオアナライザーを用いてRNAおよびmRNAの品質を評価した。MRトランスジェニックマウスからのmRNAをプールし、3回の別々の反応でそれにCy5をラベルした。MRトランスジェニックマウスについての参照からのmRNAをプールし、3回の別々の反応でそれにCy3をラベルした。GRトランスジェニックマウスからのmRNAを3個のプールになるように合わせ、2回の別々の反応でそれらにそれぞれCy5をラベルした。GRトランスジェニックマウスについての参照からのmRNAをプールし、6回の別々の反応でそれにCy3をラベルした。CyScribe cDNA Post Labeling Kit(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて、Cy3−およびCy5−ラベルcDNAを調製した。各マイクロアレイについて別々にラベル反応を行った。MRトランスジェニックマウスについて3回およびGRトランスジェニックマウスについて6回のマイクロアレイハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション混合物をヒトCot−I DNA(Gibco-BRL)、酵母tRNAおよびポリA RNAと共に予備インキュベーションし、マイクロアレイにハイブリダイゼーションさせた。
【0118】
マイクロアレイ:マイクロアレイは、50塩基長オリゴヌクレオチドプローブ(MWG Biotech(登録商標))を用いて施設内で調製した。エポキシシランをコーティングしたガラススライドに、Amersham製Lucidea Array Spotterを用いてプローブをスポットした。マイクロアレイ上に提示された5419個の遺伝子は、心血管および/または骨格筋の正常および病的機能への関与について選択した。選択は、1)サブトラクティブハイブリダイゼーション実験(Steenman et al. 2005)、2)全ゲノムマイクロアレイハイブリダイゼーション(Steenman et al. 2003)および3)文献データに基づいた。マイクロアレイは、マウス特異的オリゴヌクレオチドと、対応するマウス配列と少なくとも80%相同なヒトオリゴヌクレオチドの両方を含んでいた。各遺伝子プローブを3回の繰り返しでスポットした。
【0119】
生データの抽出および統合化:ハイブリダイゼーションされたアレイを蛍光共焦点顕微鏡法(Scanarray 4000XL, GSI-Lumonics)により走査した。蛍光シグナルの測定値を、各蛍光色素について10μm/画素の分解能で別々に得た。ハイブリダイゼーションおよびバックグラウンドシグナルの強度、ならびに品質管理のパラメーターをGenePix Pro 5.0(Axon(登録商標))を用いて測定した。Lowessの標準化手順(Yang et al. 2002)を行って、技術的なバイアスを補正した。以前に記載したように、その手順をチャンネル毎に適用した(Workman et al. 2002)。各マイクロアレイについて、全てのCy3−またはCy5−シグナル強度の中央値プロファイルとして定義されたプロトタイプに対してCy3−およびCy5−シグナル強度を個別に標準化した。
【0120】
マイクロアレイの統計解析:マイクロアレイ有意性解析(SAM)(Tusher et al. 2001)およびマイクロアレイデータに関する線形モデル(Limma)(Smyth 2004)を用いて、統計的に有意な、ディファレンシャルな発現を示す遺伝子を同定した。1クラスの解析を利用して、トランスジェニックマウスと参照マウスとの間でディファレンシャルに発現する遺伝子を同定し、2クラスの解析を利用して、両方のトランスジェニックマウスモデルの間でディファレンシャルに発現する遺伝子を同定した。MRトランスジェニックマウスの1クラスの解析の結果として、520個の遺伝子が同定され、それらは、SAM(FDR(誤検出率=0.05%)およびLimma(「FDR」−補正、p<0.01)の両方により同定された。GRトランスジェニックマウスの1クラスの解析の結果として、1232個の遺伝子が同定され、それらは、SAM(FDR=0.03%)およびLimma(「FDR」−補正、p<0.01)の両方により同定された。2クラスの解析の結果として、529個の遺伝子が同定され、それらをSAM(FDR=0.09%)およびLimma(「FDR」−補正、p<0.01)の両方により同定された。
【0121】
MRまたはGRが活性化したトランスジェニックマウスモデルにおけるserpina3の発現:1、2および3か月齢のMRトランスジェニックマウスの心臓から抽出した2μgのDNA不含総RNAを使用して調製した25μlのRT−PCR液(Eurogentec製Sybr Green I用qPCR Coreキット使用)に関してフォワードプライマー5’−CATCCCTGTGGGAAGTCAGT−3’(配列番号5)およびリバースプライマー5’−CTTTTGGGTGGAGGCAGATA−3’(配列番号6)を用いた定量PCR(Q−PCR、Light Cycler, Biorad)によってserpina3 mRNAの定量的発現を分析し、マッチした同腹仔と同様に2か月齢のGRトランスジェニックマウス(およびそれぞれの対照同腹仔)と比較した。
【0122】
ラットMRを安定的に過剰発現しているラット心筋細胞の細胞モデル(H9C2細胞)におけるSerpina3の発現(Fejes-toth, Endocrinology, 2007)
様々な濃度のアルドステロンまたは10−8Mコルチコステロンまたは10−6M MRアンタゴニストRU28318で、単独でまたは組合せて処理したラットH9−C2/MR細胞から抽出した2μgのDNA不含総RNAを使用して調製した25μlのRT−PCR液(Eurogentec製Sybr Green I用qPCR Coreキット使用)に関してフォワードプライマー5’−AGACAAGGGGACACAACTGG−3’(配列番号7)およびリバースプライマー5’−TGAGATGCTAAGTGGGGAGAA−3’(配列番号8)を使用した定量PCR(Q−PCR、Light Cycler, Biorad)によってSerpina3 mRNAの定量的発現を分析した。
【0123】
悪液質により誘導される心不全のラットモデルにおけるSerpina3の発現。
スピロノラクトンとの薬理学的MR拮抗の作用
左室から抽出した2μgのDNA不含総RNAを使用して調製した25μlのRT−PCR(Eurogentec製Sybr Green I用qPCR Coreキット使用)に関してフォワードプライマー5’−AGACAAGGGGACACAACTGG−3’(配列番号7)およびリバースプライマー5’−TGAGATGCTAAGTGGGGAGAA−3’(配列番号8)を使用した定量PCR(Q−PCR、Light Cycler, Biorad)によってSerpina3 mRNAの定量的発現を分析した。
【0124】
結果:
セリンプロテアーゼ阻害剤SERPINA3(またはα1−アンチキモトリプシン)のmRNA発現は、MR−心臓マウスの心臓で25倍にアップレギュレーションされたが、リアルタイムPCRにより決定されたように、GR−心臓マウスでは有意差が見られなかった。(図7)
【0125】
MRの慢性作用と初期に起こる作用の間の可能な結びつきを検討するために、MR−心臓マウスで同定された、MRによりインビボで調節される遺伝子のいくつかをH9C2/MR+細胞系で検査した。24時間の低用量アルドステロン(1nM)の存在下で、SERPINA3 mRNAは約8倍だけ誘導された(図8)。MRアンタゴニストRU28318の存在下で誘導は抑制され、これは、それがMRとの特異的相互作用を伴うことを実証している。注目すべきことに、10nMコルチコステロンは、アルドステロンに類似の効果を有し、それはMRアンタゴニストで阻止された(図8)。経時実験(図9A)から、serpina3がアルドステロン10nMにより10時間後に誘導され、24時間後強く(×15)誘導されることが示された。1nMのアルドステロンから濃度依存的な誘導が観察される(図9B)。
【0126】
悪液質に関連する心不全のラットモデル(HF)において、リアルタイムPCRによって推定されたように心臓Serpina3 mRNAの発現は、最大6倍に誘導される(疑似処置に比べたHF)(図10)。心不全の症状の発生を予防するために有効な濃度までスピロノラクトンを投与する場合(HF+spiro 50mg/Kg/jをHFと比較)、Serpina3 mRNAの誘導は完全に阻止される(図10)。
【0127】
MRを過剰発現しているマウスで見られるように、これらのデータは、SERPINA3が心筋細胞におけるアルドステロンに対する初期反応と同様に、強化したMRシグナル伝達への慢性順応に関与することを示している。serpina3は分泌型酵素であることから、MR活性化に結びついた心損傷のマーカーとして使用することができる。
【0128】
参考文献:
本出願全体で、本発明が属する技術の現状を様々な参考文献が説明している。これらの参考文献の開示は、この参照により本開示に組み入れられる。
【0129】
【表1】










【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者から得られた生物学的試料中の、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを決定することを含む、該患者における鉱質コルチコイドレセプター(MR)の活性化を評価するための方法。
【請求項2】
患者から得られた生物学的試料中の、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを決定することを含む、MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置に対する該患者の反応性を予測するための方法。
【請求項3】
一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルが、該一つまたは二つのバイオマーカーのmRNAの量を決定することによって決定され、生物学的試料が、細胞または組織試料である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
細胞試料が、末梢血単核細胞(PBMC)試料または内皮細胞試料である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルが、RT−PCRによって決定される、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルが、患者から得られた生物学的試料中の該一つまたは二つのバイオマーカータンパク質の濃度を測定することによって決定される、請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
生物学的試料が、血液試料、血清試料、血漿試料または尿試料である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
患者が、心血管疾患を患う、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
患者が、うっ血性心不全または高血圧を患う、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
患者が、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、利尿薬、血管拡張薬、β遮断薬、ジギタリス、および抗凝固薬から成る群より選択される標準的な処置で既に処置されている、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
患者が、肥満、糖尿病、または代謝症候群を患う、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
患者が、一般集団または健康被験者から得られた予備決定値よりも高い、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを有する、心血管疾患、糖尿病、肥満または代謝症候群を患う該患者の処置に使用するためのMRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤。
【請求項13】
患者が、一般集団または健康被験者から得られた予備決定値よりも高い、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを有する、心血管疾患、糖尿病、肥満または代謝症候群を患う該患者を処置するための医薬を調製するためのMRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤の使用。
【請求項14】
a)NGALタンパク質を検出するための手段;および
b)SERPINA3タンパク質を検出するための手段
を含むキット。
【請求項15】
a)NGALタンパク質の結合パートナー;および
b)SERPINA3タンパク質の結合パートナー
を含む、請求項14記載のキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−506245(P2012−506245A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532624(P2011−532624)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/063832
【国際公開番号】WO2010/046411
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【Fターム(参考)】