説明

銀−ヒスチジン多核錯体およびその製造方法

【課題】安定性および殺菌・抗菌性がともに優れた、新規な銀−ヒスチジン多核錯体を工業的に有利に製造できる方法を提供する。
【解決手段】銀化合物とヒスチジンとを、銀イオン1モル部に対してヒスチジン1〜5モル部の割合で、水に溶解させて水溶液を得、 該水溶液を30℃〜70℃に加熱して析出混合液を得、 該析出混合液を固相と液相とに分離し、 次いで該固相を乾燥させることを含む製造方法によって銀−ヒスチジン多核錯体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀−ヒスチジン多核錯体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
殺菌剤あるいは抗菌剤として、銀−ヒスチジン錯体が知られている。
銀−ヒスチジン錯体の製造方法として、例えば、特許文献1に、酸化銀(I)の水溶液をヒスチジン水溶液に添加し、2時間攪拌し、次いで、未反応の酸化銀をろ過して除去し、ろ液をエタノールに滴下し、生じた沈澱物をメンブランフィルターにて回収し、次いでエーテルで洗浄し、減圧下で乾燥する方法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、酸化銀(I):L−ヒスチジンをモル比1:4で水に溶解させ、該水溶液中で2時間反応させ、得られた黄色透明溶液をスローエバポレーションすることを含む、銀−ヒスチジン錯体の製法が開示されている。
また、非特許文献1は、上記と同じ黄色透明溶液を12時間以上、室温で撹拌し続けることによって、水不溶性の白色粉末が得られると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−256365号公報
【特許文献2】特開2001−335405号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nomiya et al.; Inorganic Chemistry, Vol. 39, No. 15, 3301-3311 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
銀−ヒスチジン錯体溶液をエタノールに滴下して析出させる方法によって得られる銀−ヒスチジン錯体は、水溶性で且つ有機溶媒に不溶の白色粉末である。特許文献1によれば、この水溶性粉末は発熱ピークを197℃に持ち、吸熱ピークを91℃と255℃に持ち、高い抗菌活性を有する。但し、特許文献1の製法は、エタノールやエーテルなどの有機溶媒を多量に使用する。
【0007】
一方、銀−ヒスチジン錯体溶液をスローエバポレーションすることによって得られる銀−ヒスチジン錯体は、水不溶性の無色板状結晶である。特許文献2によれば、この水不溶性結晶は発熱ピークを213℃、240℃および403℃に持ち、抗菌活性を有する。特にペニシリウム菌などに対しては上記の水溶性粉末より抗菌活性が高い。しかしながら、特許文献2の製法は、製造に要する時間が長く、工業的生産には不向きである。
【0008】
本発明は、安定性および殺菌・抗菌性がともに優れた、新規な銀−ヒスチジン多核錯体を提供すること、および該銀−ヒスチジン多核錯体を工業的に有利に製造できる方法を提供することが、課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、銀化合物とヒスチジンとを、銀イオン1モル部に対してヒスチジン1〜5モル部の割合で、水に溶解させて水溶液を得、該水溶液を30℃〜70℃に加熱して析出混合液を得、該析出混合液を固相と液相とに分離し、次いで該固相を乾燥させることによって、新規な銀−ヒスチジン多核錯体が得られることを見出した。そして、この銀−ヒスチジン多核錯体は、特許文献1に記載の水溶性銀−ヒスチジン錯体や特許文献2に記載の水不溶性銀−ヒスチジン多核錯体に匹敵する優れた殺菌・抗菌効果を発揮することを見出した。
本発明は、この知見に基づきさらに検討を加えて、完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち本発明は、以下のものを含む。
〔1〕 銀イオン1モル部とヒスチジン1〜5モル部とを含有する水溶液から、温度30℃〜70℃にて、析出させてなる、銀−ヒスチジン錯体。
〔2〕 銀イオンが酸化銀に由来するものである前記〔1〕に記載の銀−ヒスチジン錯体。
【0011】
〔3〕 銀化合物とヒスチジンとを、銀イオン1モル部に対してヒスチジン1〜5モル部の割合で、水に溶解させて水溶液を得、
該水溶液を30℃〜70℃に加熱して析出混合液を得、
該析出混合液を固相と液相とに分離し、
次いで該固相を乾燥させることを含む、銀−ヒスチジン錯体の製造方法。
〔4〕 銀化合物が酸化銀である前記〔3〕に記載の銀−ヒスチジン錯体の製造方法。
〔5〕 前記〔1〕または〔2〕に記載の銀−ヒスチジン錯体を含有する殺菌剤組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長期保存、特に光照射下等でも品質変化を起こさず、しかも顕著な殺菌・抗菌効果を示す、新規な銀−ヒスチジン多核錯体を、工業的に有利な方法で製造することができる。
本発明に係る銀−ヒスチジン多核錯体は、急性経口毒性、皮膚刺激性、粘膜刺激性などの毒性が低い。また、施用対象の素材の品質に影響を及ぼさない。さらに、抗菌性、殺菌性、抗カビ性、抗ウイルス性等の効果が長期間にわたり持続する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られた銀−ヒスチジン錯体の空気流中における熱分析結果を示す図である。
【図2】実施例1で得られた銀−ヒスチジン錯体の窒素流中における熱分析結果を示す図である。
【図3】比較例1で得られた銀−ヒスチジン錯体の空気流中における熱分析結果を示す図である。
【図4】比較例1で得られた銀−ヒスチジン錯体の窒素流中における熱分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(銀−ヒスチジン多核錯体)
本発明の銀−ヒスチジン多核錯体は、銀イオン1モル部とヒスチジン1〜5モル部とを含有する水溶液から、温度30℃〜70℃にて、析出させてなるものである。
本発明の銀−ヒスチジン多核錯体の製造方法は、銀化合物とヒスチジンとを、銀イオン1モル部に対してヒスチジン1〜5モル部の割合で、水に溶解させて水溶液を得、 該水溶液を30℃〜70℃に加熱して析出混合液を得、 該析出混合液を固相と液相とに分離し、 次いで該固相を乾燥させることを含むものである。
【0015】
銀イオンの供給源となる銀化合物は、特に限定されないが、酸化数1の銀化合物が好ましい。例えば、硝酸銀、酸化銀、塩化銀が挙げられる。これらのうち酸化銀(I)が好ましい。該銀化合物は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
ヒスチジンは、別名を2−アミノ−3−(1H−イミダゾ−4−イル)プロピオン酸といい、式(I)で表わされるアミノ酸である。ヒスチジンには、L体とD体の光学異性体が存在する。本発明においては、D−ヒスチジン単独で、L−ヒスチジン単独で、またはD−ヒスチジンとL−ヒスチジンとの混合物で使用することができる。
【0017】

【0018】
銀イオンとヒスチジンとを含有する水溶液においては、銀イオン1モル部に対してヒスチジン1〜5モル部、好ましくは銀イオン1モル部に対してヒスチジン1〜3モル部、より好ましくは銀イオン1モル部に対してヒスチジン1〜2モル部で、銀イオンとヒスチジンとを含有する。
【0019】
銀イオンとヒスチジンとを含有する水溶液は、その調製方法によって、特に限定されない。例えば、硝酸銀などの水溶性銀化合物を水に溶解させ、これにヒスチジンをそのまま若しくは水に溶解させて添加混合することによって調製することができる。また、ヒスチジンを水に溶解若しくは懸濁させ、これに酸化銀や塩化銀などの水難溶性銀化合物を添加し、撹拌することによって調製することができる。溶解もしくは懸濁させる際の水の温度は特に限定されず、例えば、室温でもよいし、30〜70℃でもよい。
【0020】
次に、銀イオンとヒスチジンとを含有する水溶液を、30〜70℃、好ましくは30〜50℃、さらに好ましくは35〜40℃に加熱する。そして、この温度にて、銀−ヒスチジン多核錯体を固体として析出させる。
【0021】
析出温度を調整するための加熱手段は、特に限定されず、例えば、恒温槽や油浴を用いる加熱、電磁誘導の原理を利用した誘導加熱、マイクロ波等を使用した誘電加熱等が挙げられる。加熱中は水溶液を均一に保つために撹拌することが好ましい。加熱時間は、特に限定されない。前記液中の銀−ヒスチジン多核錯体の析出がほぼ完了するまで行うことができる。ただし、生産効率の観点から72時間以内、好ましくは48時間以内で、加熱を終了することが好ましい。
【0022】
次に、30〜70℃の析出温度下で得られた析出混合液を固相と液相とに分離する。固相には銀−ヒスチジン多核錯体が含まれている。分離方法は特に限定されない。例えば、ろ過、遠心分離、デカンテーションなどが挙げられる。分離された固層は、水や有機溶媒等で洗浄してもよい。最後に、分離された固相を乾燥させる。乾燥方法は特に限定されない。例えば、熱風、赤外線、高周波などによる加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。これらのうち、銀−ヒスチジン多核錯体の熱分解を抑制するという観点から、減圧乾燥が好ましい。さらに、乾燥後、粉砕、分級などの公知の粉粒取扱操作を行うことができる。
【0023】
本発明に係る銀−ヒスチジン多核錯体は、特許文献1や特許文献2に記載の銀−ヒスチジン錯体とは、分子構造が異なる。すなわち、本発明に係る銀−ヒスチジン多核錯体は、空気気流中での熱分析において500℃付近に燃焼に伴う発熱ピークを持つ。また、本発明に係る銀−ヒスチジン多核錯体は、窒素気流中での熱分析において171℃付近と210℃付近に発熱ピークを持つ。また、銀−ヒスチジン多核錯体の詳細な構造はよく判っていないが、複数のヒスチジン配位子間の結合によってポリマーになっていると推測される。
【0024】
本発明の銀−ヒスチジン多核錯体は、水不溶性であり、また有機溶媒にも不溶である。そのため、河川、海洋、地下水への流出で、人畜や農作物に対して害をもたらす恐れが非常に少ないと考えられる。
【0025】
本発明に係る銀−ヒスチジン多核錯体は、抗菌剤、殺菌剤、除菌剤、抗ウイルス剤、有害生物防除剤などとして有用である。本発明に係る銀−ヒスチジン多核錯体は、そのままで若しくは樹脂やゴム等に配合して用いることができる。また、本発明の銀−ヒスチジン多核錯体は、消毒薬、農薬、化粧品、接着剤、塗料、インキ、セメント混和剤、シーリング剤、目地剤等への添加剤として使用することができる。配合方法や添加方法は、銀−ヒスチジン多核錯体が分解しない方法であれば、特に限定されない。
【0026】
(殺菌剤組成物)
本発明の殺菌剤組成物は、本発明に係る銀−ヒスチジン多核錯体を含有するものである。
なお、本明細書において、「殺菌剤」は、細菌、カビ、藻類等の微生物を死滅させる機能を有する剤のみではなく、これらの微生物を取り除く或いは混入を抑制する(抗菌)機能、及び、増殖を抑制する(静菌)等の機能を有する剤をも含意する。
【0027】
本発明の殺菌剤組成物は、そのままで若しくは製剤化して、抗菌剤、殺菌剤、抗カビ剤、若しくは抗ウイルス剤として用いることができる。製剤の形態としては、懸濁剤、粉剤、粒剤、ペースト剤、マイクロカプセル剤等が挙げられる。
【0028】
本発明の殺菌剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を任意の割合で含有していてもよい。
他の成分としては、例えば、界面活性剤、増粘剤、酸化防止剤、光安定剤、pH調整剤、香料、消泡剤等が挙げられる。
界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ポリヘキサメチレンビグアニド等のカチオン性界面活性剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩、リグニンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、α−オレフィン脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸塩等のアニオン性界面活性剤;アルキルメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホベタイン等の両性界面活性剤などが挙げられる。
【0029】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム等が挙げられる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス[4−メチル−6−t−ブチルフェノール]、アルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−セバケート)等が挙げられる。
pH調整剤としては、硫酸、硝酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸塩等が挙げられる。
【0030】
また、本発明の殺菌剤組成物には、その目的及び用途に応じて、公知の殺菌防カビ剤、防腐剤、防藻剤等の活性成分が含有されていてもよい。
該活性成分としては、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC)、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート(DDAA)等の第4級アンモニウム塩系化合物、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、グルコン酸クロルへキシジン等のビグアナイド系化合物、セチルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムクロライド等のピリジニウム系化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、N−n−ブチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系化合物、3−ヨード−2−プロピニル−ブチルカーバメート等の有機ヨウ素系化合物、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン等のピリジン系化合物、ジンクピリチオン、ナトリウムピリチオン等のピリチオン系化合物、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール系化合物、メチル−2−ベンズイミダゾールカーバメート、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール等のイミダゾール系化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド等のチオカーバメート系化合物、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル等のニトリル系化合物、N−(フルオロジクロロメチルチオ)−フタルイミド及びN−(フルオロジクロロメチルチオ)−N,N’−ジメチル−N−フェニル−スルファミド等のハロアルキルチオ系化合物、α−t−ブチル−α(p−クロロフェニルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール(慣用名テブコナゾール)等のトリアゾール系化合物、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(慣用名DCMU)等のフェニルウレア系化合物、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−S−トリアジン等のトリアジン系化合物等が挙げられる。
これらの活性成分は、1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて使用することができる。またこれら活性成分の配合割合は、用途に応じて任意に決定することができる。
【0031】
本発明の殺菌剤組成物は、抗菌性、殺菌性、抗カビ性、抗ウイルス性等の効果を必要とする素材に施用することができる。該素材としては、例えば、繊維、衛生加工品、医療用成形加工品、洗剤、化粧品、食品、青果物、種子、農作物、家畜、クリーンフィルム、包装材料、殺菌性材料、水性エマルション塗料、有機溶剤型塗料、エマルション樹脂、切削油等の金属加工油、合板、木材、皮革、カゼイン、でんぷん糊、にかわ、塗工紙、紙用塗工液、表面サイズ剤、接着剤、合成ゴムラテックス、印刷インキ、ポリビニルアルコールフィルム、塩化ビニルフィルム、プラスチック製品、セメント混和剤、シーリング剤、目地剤などが挙げられる。また、製紙パルプ工場や冷却水循環工程で使用される各種産業用水等にも用いることができる。
施用方法は、対象となる素材に応じて、適宜選択できる。例えば、素材に混ぜ合わせる方法、素材に浸み込ませる方法、素材表面に塗布する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0032】
次に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0033】
(試験方法)
得られた銀−ヒスチジン錯体について、示差熱天秤装置を用いた熱分析を行った。
具体的には、リガク社製差動型示差熱天秤装置TG8120を用い、アルミ開放パンにサンプル3〜4mgを入れ、室温〜500℃の温度範囲で、昇温速度20℃/min、窒素ガス500ml/minまたは空気500ml/minの雰囲気中で測定した。リファレンスとして、空のアルミ開放パンを用いた。
【0034】
実施例1
遮光したビーカーに蒸留水650mlを入れ、約20℃の室温にてマグネチックスターラーで撹拌しつつヒスチジン60g(0.38モル、協和発酵社製)を加えて懸濁させた。これに酸化銀(I)43g(銀0.37モル、和光純薬社製)を添加し、撹拌した。約60分後に淡褐色の透明溶液になった。この溶液をろ過して微量の黒褐色不溶物を除去した。
【0035】
該ろ液に蒸留水を加え体積を850mlに調整し反応液を得た。
該反応液を、撹拌翼(ステンレス製4枚羽根)を備えた1L容の反応器に入れ、それを槽内温度40℃(反応液温39℃)に調整された恒温恒湿槽内に入れて、撹拌速度300rpmで48時間撹拌した。
該反応液をろ過して、白色沈殿物および淡褐色の壁面付着物を回収した。それらを集めて蒸留水200mlで3回洗浄した。その後、40℃で乾燥させて、94gの銀−ヒスチジン多核錯体を得た。収率は98%であった。
得られた銀−ヒスチジン多核錯体の空気流中における熱分析結果を図1に、窒素流中における熱分析結果を図2に示す。
【0036】
比較例1
実施例1と同じ手法でろ液を6回分調製した。それらを合わせて、蒸留水で総体積10Lに調整し反応液を得た。
該反応液を撹拌翼を備えた反応器に入れ、約20℃の室温で7日間撹拌した。
該反応液をろ過して、淡褐色沈殿物130g(乾燥重量;この段階で収率は22%)を回収した。反応液のろ液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、420g(乾燥重量)の白色結晶を回収した。
上記で回収された淡褐色沈殿物と白色結晶とを各々実施例1と同じ手法で洗浄、乾燥させ、混ぜ合わせ、銀−ヒスチジン錯体を得た。収率は92%であった。
該銀−ヒスチジン錯体の空気流中における熱分析結果を図3に、窒素流中における熱分析結果を図4に示す。
【0037】
実施例1で得られた銀−ヒスチジン錯体の窒素気流中での熱分析の結果、210℃付近に重量減少と発熱ピークが観測された。これは分解によって発生したガスの燃焼に起因するものではないかと推測する。また、ブロードなTG曲線と171℃付近に発熱ピークが観測された。さらに260℃付近にも重量減少と吸熱ピークが観測された。
一方、比較例1で得られた銀−ヒスチジン錯体では、210℃付近の重量減少および発熱ピークは鋭く、171℃付近に発熱ピークは観測されなかった。
【0038】
実施例1で得られた銀−ヒスチジン錯体の空気流中での熱分析の結果、210℃付近に重量減少と発熱ピークが観測された。250℃付近に発熱ピークが観測された。500℃付近に燃焼による大きな発熱ピークが観察された。
一方、比較例1で得られた銀−ヒスチジン錯体は、430℃付近に燃焼による重量減少と大きな発熱ピークとが観察された。
【0039】
以上の結果から、本発明に係る銀−ヒスチジン錯体は、スローエバポレーション品(比較例1)に比べ、空気中での燃焼開始温度が高いことが示唆される。
【0040】
(抗菌性試験)
実施例1および比較例1で作製した銀−ヒスチジン錯体試料を平均粒子径0.1〜0.2μmに粉砕して、水分散製剤に調剤した。これを純水で希釈し薬液とした。希釈濃度は、銀の最終濃度として50mg/L、25mg/L、13mg/L、6mg/L、3mg/L、1.5mg/L、0.7mg/L、及び0mg/Lの8濃度区を設定した。
試験菌株には、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、枯草菌(Bacillus subtilis)、大腸菌(Esherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の4種の細菌、及び酵母(Candida albicans)を使用した。
細菌の場合は、9mlのNB培地にコロニーを接種し、31℃で18時間振とう培養した。この培養菌液0.5mlをSCD培地(日本製薬社製「ダイゴ」)50mlに添加し希釈して接種源とした。
酵母の場合は、9mlのPD培地にコロニーを接種し、37℃(黄色ブドウ球菌)又は31℃(枯草菌、大腸菌又は緑膿菌)で18時間振とう培養した。この培養菌液0.5mlをGP培地(極東製薬工業社製)50mlに添加し希釈して接種源とした。
【0041】
上記試験菌株の接種源100μlと所定濃度の薬液50μlとを混合し、マイクロプレートにそれぞれ入れ、31±1℃で48時間静置培養した。
48時間経過後に目視観察し濁り状態で菌の増殖の有無を判断した。
判定基準: +:増殖が認められた −:増殖が認められなかった
【0042】
【表1】

【0043】
以上の結果より、本発明に係る銀−ヒスチジン錯体は、従来のスローエバポレーション品よりも2倍程度、抗菌活性が高いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオン1モル部とヒスチジン1〜5モル部とを含有する水溶液から、温度30℃〜70℃にて、析出させてなる、銀−ヒスチジン錯体。
【請求項2】
銀イオンが酸化銀に由来するものである請求項1に記載の銀−ヒスチジン錯体。
【請求項3】
銀化合物とヒスチジンとを、銀イオン1モル部に対してヒスチジン1〜5モル部の割合で、水に溶解させて水溶液を得、
該水溶液を30℃〜70℃に加熱して析出混合液を得、
該析出混合液を固相と液相とに分離し、
次いで該固相を乾燥させることを含む、銀−ヒスチジン錯体の製造方法。
【請求項4】
銀化合物が酸化銀である請求項3に記載の銀−ヒスチジン錯体の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の銀−ヒスチジン錯体を含有する殺菌剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−190227(P2011−190227A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59639(P2010−59639)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】