説明

銀−銅複合ナノ粒子の製造方法

【課題】同一粒子内に銀と銅が存在する銀−銅ナノ粒子を提供する。
【解決手段】水溶性高分子の存在下、銀塩と銅塩を多価アルコール溶液中において、アンモニアボラン錯体により同時還元することを含む、水溶性高分子中に分散された、平均粒径が20nm以下である銀−銅複合ナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀−銅複合ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
制御されたサイズ゛を有する金属ナノ粒子は、化学的性質及び物理的性質に関してバルクの金属とは異なる性質を有することが知られており、導電材料、着色材料、触媒材料、磁性材料、光学材料等への利用が期待されている。
【0003】
このような金属ナノ粒子のうち、銅ナノ粒子は高い導電性、触媒特性を有し、かつ安価な材料であるが、容易に酸化して所望の特性を得ることができない。
【0004】
また、銅は紫外〜可視域の光電場とプラズモンがカップリングして光吸収(表面プラズモン共鳴)が起こり、鮮やかな色調を呈することが知られている。この吸収波長域は、粒子径、あるいは他の元素と組み合わせることによる銅の周辺環境変化により変化する。これらの表面プラズモン吸収を有する元素は、銅のほかに銀及び金が知られているが、各々単独でカバーできる光吸収波長域は限定されており、単独の金属以外の吸収域をもつ材料の研究が進められている。
【0005】
以上の背景から、金、銀、銅を組み合わせたナノ粒子が注目され広く研究が行われている。このうち、銀と銅の組み合わせは合金を形成しない組み合わせであり、合金ナノ構造に関する情報はほとんど得られていないが、銀と銅を組み合わせたナノ粒子の合成についてはいくつか報告されている。
【0006】
特許文献1には、あらかじめ銀ナノ粒子を合成、精製した後、アルキルアミン化合物により銀表面に銅を還元析出させる方法が提案されている。特許文献2には、あらかじめ脂肪酸銀と脂肪酸銅を合成し、上記と同様に銀ナノ粒子を合成後に銅を還元析出させる方法が提案されている。特許文献3には、アミン化合物を還元剤、保護剤として用い、二段階の工程を経て合成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−068936号公報
【特許文献2】特開2008−248298号公報
【特許文献3】特開2007−224420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
引用文献1に記載の方法では、銀ナノ粒子の合成工程と銅の還元工程に分かれ、工程が多段階であるために経済性に対して不利であり、アルキルアミン類をナノ粒子の保護剤として用いていることから、分散媒は有機溶媒に限られるという問題がある。引用文献2に記載の方法においても、還元工程が二段階に分かれ、かつ脂肪酸銀と脂肪酸銅を合成するために反応プロセスが複雑であるという問題がある。さらに、引用文献3に記載においても、二段階の工程を経て合成され、プロセスが複雑であるうえに、得られる粒子の平均粒径は100nmであり、光学材料、触媒材料として使用するためにはさらに微細な、表面積の大きな粒子が望まれる。
【0009】
この銀−銅複合ナノ粒子は、銀と複合化することにより銅の酸化が抑制され、導電材料等として良好な特性を示すことが報告されているが、この銀−銅複合ナノ粒子の合成は、複数のプロセスからなるため複雑であり、かつ親油性の保護剤を用いるために扱うことができるのは有機溶剤に分散させた形態においてのみという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明によれば、水溶性高分子の存在下、銀塩と銅塩を多価アルコール溶液中において、アンモニアボラン錯体により同時還元することを含む、水溶性高分子中に分散された、平均粒径が20nm以下である銀−銅複合ナノ粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により得られる銀−銅複合ナノ粒子は、銀と銅が同一分子内に存在しており、空気中においても銅の酸化が抑制され、分散液中においても安定的に取り扱うことができ、水分散液の状態で取り扱うことができる。また、本発明の方法では、銀と銅を一段階で同時に還元して析出させており、簡便に銀−銅複合ナノ粒子を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の方法により得られる銀−銅複合ナノ粒子の模式図である。
【図2】実施例及び比較例において製造したナノ粒子の吸収スペクトルの測定結果を示す。
【図3】銀−銅複合ナノ粒子のSTEM観察結果を示す。
【図4】銀−銅複合ナノ粒子のEDX組成分析結果を示す。
【図5】銀−銅複合ナノ粒子のXRD測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法により得られる銀−銅複合ナノ粒子は、図1に示すように、銀2と銅3が同一粒子1内に存在しており、銀クラスターと銅クラスターが混在している構成であると考えられる。ここで粒子1の平均粒径は、20nm以下であり、好ましくは10nm以下である。また、この粒子1中の銀2及び銅3の個々の粒子の平均粒径は、好ましくは5nm以下、さらに好ましくは1〜2nmである。なお、この平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって撮影された粒子の写真を用い、ここの粒子のうち最も長い部分の長さを測定し、その平均値を算出することにより求めた値である。
【0014】
この粒子1中の銀2と銅3の比率は、99:1〜1:99であることが好ましく、目的とする用途もしくは特性に応じて決定される。
【0015】
本発明において、この銀−銅複合ナノ粒子は、水溶性高分子中に分散されていることを特徴とする。水溶性高分子中に分散されることにより、銀−銅複合ナノ粒子のコロイドは安定化し、この粒子の凝集・沈殿が抑制される。
【0016】
この水溶性高分子は金属イオンを配位することができるものであり、その例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、シクロデキストリン、アミノペクチン、メチルセルロース、ポリエチレンイミンセルロース又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。また、銀−銅複合ナノ粒子と水溶性高分子の単位モノマーあたりの割合は1:1〜1:50であることが好ましい。下限未満では粒子の保護力が低下し、粒子が肥大化するからであり、上限を超えると粒度が大きくなり、ハンドリングが悪化するからである。
【0017】
本発明の銀−銅複合ナノ粒子の製造方法は、水溶性高分子の存在下、銀塩と銅塩を多価アルコール溶液中において、アンモニアボラン錯体により同時還元することを含む。水溶性高分子は、金属イオンを配位することができる上記のものであり、その量は10〜30等量であることが好ましい。
【0018】
銀塩及び銅塩は、溶液中で銀イオン及び銅イオンを生成するものであり、銀塩としては、硝酸銀、酢酸銀等が例示され、銅塩としては、硝酸銅、酢酸銅等が例示される。銀塩と銅塩の比は、目的とする用途もしくは特性に応じて決定され、還元された銀と銅を、99:1〜1:99での比率で与えるように決定される。
【0019】
多価アルコールとしては、ポリエチレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール)、グリセリン等を用いることができる。
【0020】
本発明においては、銀イオン及び銅イオンを還元する還元剤としてアンモニアボラン錯体を用いることを特徴とする。還元条件は、銀イオン及び銅イオンを水溶液中において銀及び銅に還元することができる条件であればよく、好ましくは室温〜200℃において行う。
【0021】
本発明の方法において、反応溶液中の銀イオン及び銅イオンは水溶性高分子に配位し、分散して存在する。そして還元剤として用いるアンモニアボラン錯体は、従来用いられていた水素化ホウ素ナトリウム等のホウ素系還元剤よりも還元力が弱く、さらに銀と銅では還元電位が銀のほうが高いため、銀と銅がいっきに還元されるのではなく、還元されやすい銀が先に還元され、銀の核が分散された状態で生成する。多価アルコールはこの生成した銀の核を安定化し、凝集することを防ぐ。次いで、このように分散された状態の銀の核上において、銅の還元が起こり、これが成長することによって銀と銅が同一粒子内に存在するナノ粒子が得られるのである。
【実施例】
【0022】
実施例1
銀−銅複合ナノ粒子の合成
300mLのビーカーにテトラエチレングリコール120mLを入れ、ポリビニルピロリドン(PVP K-25、平均分子量35000)7.5g(67.5mmol)と硝酸銅3水和物411mg(1.70mmol)を添加して液温80℃で溶解させた。この溶液を室温に戻した後、テトラエチレングリコール40mLに溶解させた硝酸銀289mg(1.70mmol)を加えて溶解させた。窒素で10分間バブリングした後、テトラエチレングリコール40mLに溶解させたアンモニアボラン錯体628mg(20.4mmol)を加え、30分間室温で撹拌した。浴温を100℃に加熱した後、この温度で1時間加熱・撹拌を継続し、その後室温まで冷却した。反応溶液3Lをビーカーに移し、アセトンで10倍希釈した。この希釈溶液を遠心分離し(3000rpm×10分)、上澄みを留去した。得られた黒色沈殿を80mLのエタノールに再分散させた。
【0023】
比較例1
銀ナノ粒子の合成
300mLのビーカーにテトラエチレングリコール120mLを入れ、ポリビニルピロリドン(PVP K-25、平均分子量35000)7.5g(67.5mmol)を添加して液温80℃で溶解させた。この溶液を室温に戻した後、テトラエチレングリコール40mLに溶解させた硝酸銀578mg(3.40mmol)を加えて溶解させた。窒素で10分間バブリングした後、テトラエチレングリコール40mLに溶解させたアンモニアボラン錯体628mg(20.4mmol)を加え、30分間室温で撹拌した。浴温を100℃に加熱した後、この温度で1時間加熱・撹拌を継続し、その後室温まで冷却した。反応溶液3Lをビーカーに移し、アセトンで10倍希釈した。この希釈溶液を遠心分離し(3000rpm×10分)、上澄みを留去した。得られた沈殿を80mLのエタノールに再分散させた。
【0024】
比較例2
銅ナノ粒子の合成
300mLのビーカーにテトラエチレングリコール120mLを入れ、ポリビニルピロリドン(PVP K-25、平均分子量35000)7.5g(67.5mmol)と硝酸銅3水和物822mg(3.40mmol)を添加して液温80℃で溶解させた。この溶液を室温に戻した後、窒素で10分間バブリングし、テトラエチレングリコール40mLに溶解させたアンモニアボラン錯体628mg(20.4mmol)を加え、30分間室温で撹拌した。浴温を100℃に加熱した後、この温度で1時間加熱・撹拌を継続し、その後室温まで冷却した。反応溶液3Lをビーカーに移し、アセトンで10倍希釈した。この希釈溶液を遠心分離し(3000rpm×10分)、上澄みを留去した。得られた沈殿を80mLのエタノールに再分散させた。
【0025】
こうして得られた粒子について、得られた分散液をエタノールで希釈し、大塚電子製Photal MCPD-7000分光光度計において、光路長1cmの石英セルを用いて分光学的性質を測定した。吸収スペクトルの測定結果を図2に示す。本発明の方法により合成したナノ粒子の表面プラズモンの吸収極大は445nmに現れた。この吸収帯は、Ag単独のナノ粒子に由来する吸収(比較例1、405nm)よりも長波長側に位置しており、かつCu単独の粒子に由来する吸収(比較例2)とも異なっている。従って、AgとCuが共存することによる、誘電率、誘電損失の変化が吸収帯のシフトとして現れていると考えられる。
【0026】
銀−銅クラスターのSTEM−EDXによる構造解析
日立製HD-2000(加速電圧:200kV)を用いて、実施例1の銀−銅クラスターについてSTEM−EDXによる構造解析を行った。試料溶液をエタノールで希釈し、モリブデングリッドに滴下後乾燥させたものを測定した。
【0027】
図3に、実施例1で合成した銀−銅ナノ粒子のSTEM観察結果を示す。3〜10nmのナノ粒子が生成したことが確認された。また、図4にEDX組成分析結果を示す。図4中の1〜5のいずれの測定点からも、Ag及びCuの両元素が検出され、同一粒子内に共存することが確認された。
【0028】
銀−銅クラスターのXDRによる構造解析
リガク製RINT2000を用いて、実施例1の銀−銅クラスターについてXDRによる構造解析を行った。X線源:CuKα、サンプリング間隔:0.02deg、スキャン速度:2.4deg/min、発散スリット(DS):2/3deg、散乱スリット(SS):2/3deg、受光スリット(RS):RSmm、管電圧:50kV、管電流:300mAで測定し、測定試料は、ナノ粒子分散液をガラスプレートに滴下し、空気中で70℃で乾燥することにより作成した。
【0029】
図5に測定結果を示す。Cuの(111)回折ピークは43.4degに、Agの同ピークは38.2degに現れる。合成した粒子の回折ピークは43.4(Ag200とオーバーラップ)、38.2degに現れ、両回折の間に弱い回折像が観測された。これらのことから、形成した粒子はAgとCuの微結晶が組み合わされた粒子であることがわかった。35.3degに現れるCuOの回折ピークは確認されず、AgによりCuの酸化が抑制されることが確認された。
【0030】
比較例3
300mLのビーカーに水120mLを入れ、ポリビニルピロリドン(PVP K-25、平均分子量35000)7.5g(67.5mmol)と硝酸銅3水和物411mg(1.70mmol)を添加して液温80℃で溶解させた。この溶液を室温に戻した後、水40mLに溶解させた硝酸銀289mg(1.70mmol)を加えて溶解させた。窒素で10分間バブリングした後、水40mLに溶解させたアンモニアボラン錯体628mg(20.4mmol)を加え、30分間室温で撹拌した。浴温を100℃に加熱した後、この温度で1時間加熱・撹拌を継続し、その後室温まで冷却した。反応溶液3Lをビーカーに移し、アセトンで10倍希釈した。この希釈溶液を遠心分離し(3000rpm×10分)、上澄みを留去した。得られた沈殿を80mLのエタノールに再分散させた。得られた分散液の吸収スペクトルを測定した結果、極大吸収波長は405nmを示し、銀単独の極大吸収波長と同じであった。
【0031】
比較例4
300mLのビーカーにテトラエチレングリコール120mLを入れ、ポリビニルピロリドン(PVP K-25、平均分子量35000)7.5g(67.5mmol)と硝酸銅3水和物411mg(1.70mmol)を添加して液温80℃で溶解させた。この溶液を室温に戻した後、テトラエチレングリコール40mLに溶解させた硝酸銀289mg(1.70mmol)を加えて溶解させた。窒素で10分間バブリングした後、テトラエチレングリコール40mLに溶解させた水素化ホウ素ナトリウム771mg(20.4mmol)を加え、30分間室温で撹拌した。浴温を100℃に加熱した後、この温度で1時間加熱・撹拌を継続し、その後室温まで冷却した。反応溶液3Lをビーカーに移し、アセトンで10倍希釈した。この希釈溶液を遠心分離し(3000rpm×10分)、上澄みを留去した。得られた沈殿を80mLのエタノールに再分散させた。得られた分散液の吸収スペクトルを測定した結果、極大吸収波長は406nmを示し、銀単独の極大吸収波長と同じであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子の存在下、銀塩と銅塩を多価アルコール溶液中において、アンモニアボラン錯体により同時還元することを含む、水溶性高分子中に分散された、平均粒径が20nm以下である銀−銅複合ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
銀−銅複合ナノ粒子と水溶性高分子の単位モノマーあたりの割合が1:1〜1:50である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多価アルコールがテトラエチレングリコールである、請求項1又は2記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87341(P2013−87341A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229892(P2011−229892)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】