説明

銀の三元合金

火焼け ( firestain ) および曇りに耐性のある、銀、銅およびゲルマニウムの三元合金であって、 93.5wt% よりも多く、 95.5wt% までの Ag 、 0.5〜3wt% の Ge 、ならびに、(存在するならば)夾雑物、不純物および結晶微細化剤を除いたその残余分として、銅を含む合金。前記合金から製造した製品をさらに保護するために、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドによる表面処理を施すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀、銅およびゲルマニウムの三元合金に関し、且つ、前記合金からつくられた完成品もしくは半完成品である成形製品に関し、且つ、前記合金の表面処理のためのアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
混ぜ物の無い'純粋な'銀は柔らかすぎて実用に耐えないということは、古代より知られており、卑金属を混ぜ加えて硬度と強度を増進することが行われてきた。英国においては、14世紀から存在する法律により、銀製品として販売できる製品が含む最小限の比率は、 92.5%(標準スターリングシルバー)もしくは 96%(標準ブリタニアシルバー; the Britannia standard )と定められているが、卑金属成分については規定が無い。古代の銀細工師は、入手可能な金属のうち、銅が(銀に加える)もっとも適切な金属であることを経験的に知っていた。現代の銀板金( silver-sheet )製造業者も、より大きな延性を得るために銅の代わりにカドミウムを加えたりすることがあるものの、一般的にはこの組成物にこだわっている。合金が熔融状態になると、有毒なカドミウムの蒸気が発生するために、カドミウムの使用が減っているにもかかわらず、 2.5% のカドミウムを含むスターリングシルバーは、英国において紡績および型打に用いられる標準物質である。この理由により、大陸ヨーロッパにおいては、93.5wt% の銀を含む特定の合金組成物が製造されている。これは、深絞り( deep drawing )もしくは紡績作業用に拡張された成形特性を備えたスターリング品位の合金として販売されている。銀成分の含有率が高くなることによって、合金の硬度は下がるが、最終生産物が操作によって過度の損傷を受けるほどに柔らかくなることはない。したがって、カドミウムフリーの紡績用品位(の合金)を提供し、英国で入手可能なカドミウム含有銀の品位に対する成形工程と類似した成形工程を行うために販売することができる。
【0003】
種々の品位の他の合金内の構成要素と較べて、銀に相対的に高い価値が充てられているということは、製造業者が、法的に最小限である銀成分に可能な限り近づけるように合金を製造しようとすることを意味する。このことは、独立した外部の証明手段 ―― the Assay Office System によって、最小限の銀成分を確証する英国の保証システムとしても結実した。
【0004】
最大規模の製造会社における場合を除き、組み立てが完了/半完了した製品に対する焼き鈍し( アニーリング; annealing )と半田づけの作業のほとんどは、空気式ブロートーチの炎によって行なう。前記炎の酸化性もしくは還元性、ならびに前記製品の温度は、銀細工師の技術によってのみ制御されている。純銀は、特に赤熱するまで加熱されたときに、酸素を容易に透過する。銀は大気中では酸化されないが、銀/銅合金中の銅は酸化されて酸化第一銅( 酸化銅(I); cuprous oxide )もしくは酸化第二銅 ( 酸化銅(II); cupric oxide ) になる。製品の酸化された表面を熱希硫酸で酸洗( pickling )することにより、表層は除去できるが、内部に沈潜する酸化銅は除去することができないため、製品では、銀/銅酸化物の混合物の層を、純銀もしくは非合金の銀から成る表面が包んでいるかたちとなっている。さらなる加熱によって純銀はたやすく透過され、表面下の深部にある銅が酸化されることになる。連続的な焼き鈍し・冷間加工( コールドワーキング; cold working )・酸洗によって、軽い研磨によって純銀光沢を出せる表面をつくることができるが、しっかり研磨すると、'火焼け'( 'firestain' )もしくは'火傷'( 'fire' )と言われる黒ずんだ醜い染みが顕われてしまう。より高温を伴う半田づけ作業では、さらに多くの深い火焼けをつくってしまう可能性がある。火焼けの深さが 0.025mm(0.010インチ)に達すると、合金は割れやすくなり、且つ、酸化物の表面が半田に濡れなくなって適切な金属結合が形成されなくなるために、半田づけしづらくなってしまう。
【0005】
第二に、銀および銀合金は、空気中に連日曝すことにより、曇り、として知られる、光沢を損なう黒ずんだ薄膜を生じることが公知である。
銀合金へのゲルマニウムの添加が、これらの問題の両方を解決できることが発見された。特許 GB-B-2255348(Rateau, Albert and Johns; Metaleurop Recherche)は、銅成分の酸化されやすさから来る問題を低減しつつ、 Ag-Cu 合金固有の硬度と光沢を保持する、新規な銀合金を開示している。前記合金は、 Ag-Cu-Ge の三元合金であって、 92.5wt% 以上の Ag 、 0.5〜3wt% の Ge 、および、不純物を除く残りとして銅を含んでいる。前記合金は、従来技術による製造、塑造、および仕上げ作業の間に大気中で銹ることがなく、冷却しても容易に変形することができ、また、容易に鑞づけ( brazed )することができ、また、鋳造時に大きく収縮することがない。さらに優れた延性と引っ張り強さも示し、また、所望の硬度になるよう焼き鈍すこともできる。ゲルマニウムは、前記の新規な合金が呈する特性の有用な組み合わせによる保護機能を顕わし、また、銀相および銅相の双方に固溶している。前記合金の微細構造は、繊維状ゲルマニウム=銀=銅固溶体に囲まれた、銀の中のゲルマニウム=銅固溶体という二つの相から構成されていると言われている。銅リッチ相内のゲルマニウムは、鑞づけおよび火炎焼き鈍しの間に、高温で銅が酸化されて火焼けが顕在化することを抑える GeO もしくは GeO2 の保護薄膜を形成することにより、表面酸化を抑止する。さらに、ゲルマニウムの添加によって、曇りの拡大を大幅に遅らせることができ、表面が黒よりも若干黄みがかったようになり、曇りは普通の水道水で容易に除去できる。前記合金は、とりわけ宝飾品類に有用である。しかしながら、上記の特許に開示されている合金は、結晶粒度が大きくなると、変形特性が劣るようになり、且つ、合金がエアトーチの熱を受けて局所的に表面が融けた際に生じる低融点共晶によって、大きな液溜まり( large pools )ができてしまう。
【0006】
さらに、特許 US-A-6168071 および EP-B-0729398(Johns)は、銀を 77wt% 以上含み、ゲルマニウムを 0.4〜7% 含み、不純物を除く残りが主に銅であって、 0ppm よりも多く 20ppm よりも少ない濃度のホウ素元素を結晶微細化剤( grain refiner )として含む、銀/ゲルマニウム合金を開示している。 2wt% のホウ素元素を有する銅/ホウ素のマスター合金中のホウ素を与えることによって、前記の合金のホウ素成分が実現できる。このような低濃度のホウ素により、銀/ゲルマニウム合金を良好に結晶微細化することができ、ホウ素を含まない銀/ゲルマニウム合金に較べ、より大きな強度と延性とを合金に加えることができると報告されている。合金中のホウ素は、宝石商が半田づけする温度における結晶成長を抑え、且つ、前記の合金を、従来の合金では合金中の銅/ゲルマニウム共晶が融け出す温度までくりかえし加熱しても、孔蝕 ( pitting ) に抗すると報告された例がある。合金の個々の元素の間に、二つの元素の自由表面 ( free surfaces ) の間に充填物質を用いることなく、強靭で美的に満足である熔接部 ( joint ) をつくることができ、また、拡散法 ( a diffusion process ) もしくは抵抗熔接 ( resistance welding ) もしくはレーザー熔接の技術によって、突き合わせ熔接部 ( butt joint ) もしくは重ね熔接部 ( lap joint ) をつくることができる。スターリングシルバーの熔接と比較すると、上述の合金の熔接は、結晶粒の大きさの平均値が小さくなっており、熔接における変形性および延性が改善されている。したがって品位830合金は、プラズマ熔接することができ、且つ、研磨に砥石(グラインダー)を要しない。上述の共晶に関しては、結晶粒径が小さくなることによって有害な影響が低減されているにもかかわらず、合金の結晶構造よりもその化学的組成によって左右されるところの、共晶の変形性、および変形後の加熱処理によって熔融する性質が保持されたままであることに留意されたい。
【0007】
GB-B-2255348 および EP-B-0729398 の開示している銀合金は、現在ヨーロッパとアメリカで、 "Argentium" という商標のものが購入可能であり、本願明細書において "Argentium" という語はこの合金のことを指す。品位 925 の Argentium 合金は、 92.5wt% (最小値)の Ag 、 1.1〜1.3wt% の Ge 、 6ppm の B 、および残りとして銅と不純物とを含む。前記合金は、過酷な条件下においても、優れた耐曇性を示す。不活性層はゲルマニウムによって構成されており、従来技術に係る銀合金の曇りの主な原因であるところの硫化銀の形成を大きく遅らせる。硫化水素雰囲気下においてさえも、従来技術に係る銀合金もしくは銀メッキ製品と較べて、曇りの程度と深さははるかに少ない。耐曇性の発揮と同様のメカニズムによって、大気中でトーチによる焼き鈍しの際に合金に生じる'火焼け'もしくは'火傷層' ( 'fire layer' )の深さを大幅に低減する不活性層が形成される。 Argentium 銀合金に較べ、従来技術に係る銀合金では前記の'火焼け'の深さが三倍にも達することが実験によって示された。これにより、合金に必要な研磨の量が低減され、また、製造における他の相当のコストを削減することが可能となっている。
【0008】
現在の Argentium 合金の品位の利点にもかかわらず、前記合金には、加熱処理下における安定性、特に、焼き鈍しまたは接合における加熱時の孔蝕および/もしくは陥没に対する抵抗力に関して、さらなる改善を要する。合金には、硬度および耐曇性に関して有利な特性を組み合わせる必要もある。さらに合金は、インベストメント鋳造において、「ホットショート」 ( "hot short" ) (割れ)欠陥の形成されやすさを低減することも必要とされる。
【0009】
さらに、長持ちする耐曇性に関して述べると、スターリングシルバー、および銀の他の公知の品位から、曇りを除去するおよび/もしくは曇りの形成を阻害するために、清掃もしくは保護についてのさまざまな提案がなされてきた。 GB-A-1130540 は、製造工程中の一ステップとしての、スターリングシルバーもしくはブリタニアシルバー ( Britannia silver ) の仕上げ済表面の保護に関しており、以下のステップを含む方法を開示している。
【0010】
99wt% の揮発性有機溶媒(例えば、トリクロロエチレンもしくは 1,1,1-トリクロロエタン)、ならびに、無色透明の保護層を銀表面に形成する能力を有する 0.1〜1.8wt% の -SH 基を含む有機溶質(例えば、ステアリルメルカプタン、セチルメルカプタン、ステアリルチオグリコラート、もしくはセチルチオグリコラート)、を含む溶液で、製品の清浄な銀表面を湿し、
前記溶液と前記表面とを化合させ、前述の層を形成して、前記溶液を蒸発させ、且つ、
前記表面を洗浄液で洗い、湯で濯ぎ、乾燥させる。上述の方法は、前記製品がユーザーのもとに届けられるまでの間の予定保存期間中に持続する、"長持ち仕上げ" ( "long-term finish" ) を提供すると述べられている。
【0011】
上述したような類の処理は、硫黄原子が金属表面に接し、アルキル基末端が前記金属表面から離れる方向に向いている、チオール化合物から誘導された自己組織化型被膜 ( a self-assembled coating ) の形成によるものであると思われる。 US-A-6183815 (Enick)を参照のこと。 Yousong Kim et al., http://www.electrochem.org/meetings/past/200/abstracts/symposia/h1/1026.pdf は、以下の反応式に示すアノード酸化反応によってチオール類の銀への吸着が進行し、以下の反応式によって、基金属の開回路電位 ( open circuit potential ) が負方向へシフトするか、もしくは、前記電位が固定された場合にはアノード電流がピークとなることを報告している。
【0012】
RSH + M(0) -> RS-M(I) + H+ + e-(M) (M = Au or Ag)
Kwan Kim, Adsorption and Reaction of Thiols and Sulfides on Noble Metals, Raman SRS-2000, 14-17 August 2000, Xaimen, Fujian, China, http://pcoss.org/icorsxm/paper/kuankim.pdf も、自己組織化型単分子膜の構造を開示しており、また、銀表面上において、二つの Ag-S 結合を形成してジチオラート類を形成する脂肪族ジチオール類とともに、アルカンチオール類、ジアルキル=スルフィド類、およびジアルキル=ジスルフィド類が自己組織化することを開示している。対照的に、ゲルマニウム上のアルキルチオール類の構造についての文献は比較的乏しい。アルカンチオール類が Ge と反応して高品質の単分子膜を形成することは、 Han et al., J. Am. Chem. Soc., 123, 2422 (2001) に、半導体およびナノテクノロジーの文脈で報告されている。実験の節において、アルカンチオールのイソプロパノール溶液に浸漬してプロパノール中で超音波処理して乾燥した Ge(111) ウェハを、アセトン中で超音波処理して有機不純物を溶かし、濃 HF に浸漬して残留酸化物を除いて水素終端面 ( a hydrogen-terminated surface ) をつくる、と記載されている。
【発明の開示】
【0013】
GB-B-2255348 が、スターリングシルバーからブリタニアシルバーに至る銀成分の範囲を開示しているとは言え、前述したように、当業者は、用いようとする品位に関して、銀のコストを考慮するために法的な最小限度よりも多くの銀成分を使おうとは考えないものである。当業者が中間量の銀成分を採用することを促すようなものは、先述の特許、もしくは前記三元合金に関連するその後の特許が開示するところには無い。しかしながら、スターリング品位の銀含有率とブリタニア品位の銀含有率との中間の銀含有率を有する銀-銅-ゲルマニウム三元合金は、鋳造、熔接および銀製品製造業で用いられる他の加熱処理における、有用な特性を持つことが知られている。
【0014】
特に、出願人は、上述した融点 554℃の銅-ゲルマニウム二元共晶の形成および/もしくは熔融を低減または回避したいと考えるようになった。例えば 925 Argentium silver 合金は、平衡冷却条件下において 640℃以下で結晶化が完了するため、 925 Argentium silver 合金の製造の間に、鋳造条件を慎重に制御することによってこの相の形成を回避することができる。しかし、例えば概して融点が 680〜750℃の範囲である鑞づけ合金 ( brazing alloys ) の使用、および、典型的には 700〜750℃で半製品が穏やかに赤熱するまで加熱することを含む、トーチによる焼き鈍し ( トーチアニーリング; torch annealing ) といった、後続の合金の加熱処理の間に、この二元相が問題を引き起こすことがありうる。半製品をこれらの温度まで加熱、もしくはこれらの温度を超えて加熱すると、大部分は安定なままであるが、この二元相に対応する少量の物質が熔融し始め、熔解の兆候が見られる。前記半製品を室温に戻すと、液化していた合金の部分が多孔度を増す。これによって、合金は脆くなり、且つ、例えば GB-B-2255348 に註記されているように接合もしくは焼き鈍し作業のために加熱すると陥没しやすくなる。 US-A-6168071 および EP-B-0729398 に係るホウ素結晶微細化剤の使用によって、前記二元共晶の形成および熔融の結果として起こる孔蝕および陥没を大幅に低減できるとは言え、前述したように、前記二元共晶の形成および熔融を無くすことはできず、前記三元合金においてはその孔蝕・陥没の特性を改善するさらなる余地がある。スターリングシルバーのレベルよりも高く、且つブリタニアシルバーのレベルよりは低くなるように銀含有率を増大させることにより、上述の二元共晶が形成されることが無く、且つ後続の加熱処理における、いったんは低減された問題をふたたび増大させてしまうことも無い、合金を製造することが可能である。これによって、加熱処理に対する生来のより高い安定性を備えた合金が提供される。ゲルマニウムの添加によって、この組成の銀-銅合金に見られる硬度の低下が抑えられる。前記合金は、過酷なテスト条件下においても耐曇性も示す。
【0015】
したがって本発明は、銀、銅およびゲルマニウムの三元合金であって、 93.5wt% よりも多く 95.5wt% までの Ag 、 0.5〜3wt% の Ge 、 および、夾雑物と不純物と結晶微細化剤とを除いた残りとして銅、を含む三元合金を提供する。
【0016】
典型的に好適な合金は、約 94.5wt% の Ag 、約 4.3wt% の Cu 、および約 1.2wt% の Ge を含むということが見出された。上述の合金においては、 Cu と Ge との重量比は約 3.6:1 であり、一方、現在の 925 品位の Argentium においては、この重量比は 5.8:1 (1.1wt% Ge)から 4.8:1 (1.3wt% Ge)の範囲である。出願人は、 Cu:Ge 重量比を減らすことにより、 CuGe 共晶が形成されることが無く、また、熔融後の加熱処理の間に大量の損失とともに CuGe 共晶が形成されることも無く、加熱処理の問題を低減することにつながると考えた。特に、重量比は好ましくは 4:1〜3:1 の範囲であって、より好ましくは 3.5:1 である。 4:1 よりも高くなると、前記合金は火焼けしやすくなってしまい、一方、 3:1 よりも低くすると、高濃度のゲルマニウム成分によって成形上の問題が生じてくる。
【0017】
上述の合金においては、好ましい Ag 成分の範囲は約 94.0〜95.5wt% であって、用いる銀の費用を減らす意味で、低い値であるのが好ましい。 Ag 成分を 96wt% まで増大させると、たとえ高濃度の Ge 成分が在っても、火焼けの回避が難しくなることがわかった。 Ge に関しては、 1.0〜2.0wt% を含むことが好ましい。 Ge が 1.0wt% よりも少ないと、火焼けおよび曇りへの一貫した耐性が得られず、一方、 Ge が 2wt% よりも多いと、合金の脆化のリスクが増大してしまう。さらに、 Ge は高価であり、その費用から言って含有量は最小限にするのが望ましい。出願人は、 Ge 成分が 1.1〜1.3wt% のときに、火焼けおよび曇りへの一貫した耐性が得られることを発見した。前記合金は、結晶微細化剤として機能するに足る量(概して 1〜40ppm 、好ましくは 5〜10ppm)のホウ素をさらに含むのが好ましい。余剰のホウ素が在ると、ボロンハードスポット ( ホウ素硬点; boron hard spot ) が増加するが、鋳造のために供給されるこの合金の場合には、再熔融における損失を補償する意味で、比較的多量のホウ素を組み合わせることが望ましいことがある。
【0018】
前記合金は、銀合金の製造において、物理的な強度、耐曇性、および他の物性に対してそれ自体は無害であることが知られている量のひとつもしくは複数の夾雑成分を、含むことができる。前記合金の融点を下げるため、白っぽさを加えるため、銅の代わりとするため、脱酸素剤とするため、および前記合金の流動性を改善するために、例えば、亜鉛を例えば約 0.5wt% 添加することができる。カドミウムも、現在使用が好ましくはないが、同様の量を添加することができる。錫を典型的には 0.5wt% 添加することができる。インジウムを、例えば結晶微細化剤として、および前記合金の濡れ性 ( ウェッタビリティ; wettability ) を改善するために、少量添加することができる。珪素を例えば 0.1〜1wt% 添加することもできる。
【0019】
前記合金は、連続鋳造によって製造することもできる。最初の鋳造条件は、添加ゲルマニウムを除いて等価な銀-銅品位のものに対する条件とすることができ、前記添加ゲルマニウムによって、前記の等価な銀-銅合金よりも、固相温度および液相温度が約 15℃下がることになる。ゲルマニウム成分は、前記合金の放射率も変える。これは、熱をダイ ( 金型; die ) から除去できるレート(連続鋳造の場合)、もしくは、余熱時間 ( standing time ) (静的鋳造の場合)に影響することになる。本発明に係る三元合金を鋳造する際には、赤外光高温計を再キャリブレートするのが望ましい。これは、ゲルマニウム成分によって前記合金が異なる放射率を有するようになるためである。調整しなかった場合、典型的には、センサーは実際の温度よりも低い温度の読み取り値を与えることになる。連続鋳造スラブ ( continuously cast slabs ) から金属塊を製造している間は、ダイに接触している表層を除去する必要がある。これは、金属の固化の開始点となる層であり、もっとも多くの不純物を含んでいる。この層を除去するにあたっては、鋳造スラブの両側から最小で 0.01mm を、物理的にもしくは研磨技術によって除去するべきである。
【0020】
銀細工師によるさらなる使用に適する内部構造を有する板金を製造するにあたっては、最小で 50% の減を二回と、二回の焼き鈍しとを含む圧延切削 ( rolling regime ) をすることを推奨する。これによって、「鋳造後」結晶構造 ( 'as-cast' grain structure ) を取り除くことができ、また、銀細工師が前記板金を成形する際に、オレンジピール効果 ( orange peel effects ) をすべて抑制することができる。一例として、 2.5mm 厚の板金を製造するにあたっての最小限の圧延の必要条件を以下に示す。
【0021】
開始サイズ 10mm厚
圧延して焼き鈍した後 5.0mm厚 (50%減)
圧延して焼き鈍した後 2.5mm厚 (50%減)
クロス圧延 ( cross-rolling ) して板金の幅を増す際には、クロス圧延切削の終わりにおいて、通常の圧延予定の開始のために前記板金を焼き鈍すべきである。
【0022】
前記合金をワイヤー状に引き抜き加工する際には、要求される引き抜き加工シーケンスは、開始物質の初期結晶構造に依存する。これは、前記ワイヤーは、冷間加工もしくは温間加工 ( warm working operation ) (例えば射出成形)のいずれかである二つのありうる源から得ることができる、あるいは、「鋳造後」ワイヤーサイズ(例えば、「ミニ」キャスティングシステム ( a 'mini' casting system ) )から得ることができるためである。事前の冷間加工源から生じた物質については、各焼き鈍しのために、最小で 25% の冷間加工をすることのみが強制される。これは、余分な結晶生長を抑止することになる。各焼き鈍しの間に、最大で 60% の冷間加工をすることを推奨する。事前の冷間加工源から得られたワイヤーには、例えば、以下に示す作業手順が適用される。
【0023】
開始サイズ 6mm径
引き抜き加工後 5.2mm径 (25%減)
もしくは
開始サイズ 6mm径
引き抜き加工して焼き鈍した後 3.8mm径 (60%減)
引き抜き加工して焼き鈍した後 2.4mm径 (60%減) など。
【0024】
鋳造源から得られた物質は、その後に、二回の最小で 50% の減、および、銀細工師のさらなる作業のために結晶粒径を適切にするために推奨される二回の焼き鈍し、を含む引き抜き加工シーケンスにかけられる。作業手順は、上述したものと同様となる。
【0025】
前記合金を焼き鈍す際には、溶鉱炉ガス ( furnace gas ) が、(保護層とは言え)ゲルマニウム表層を減耗させて、前記合金の耐曇性および「火焼け」への耐性を低減させてしまわないことが重要である。前記ゲルマニウム表層は、酸化ゲルマニウムの形成能を有し、酸化物層へのさらなる貫入を妨げる障壁、もしくは曇り生成物の蓄積を阻害する障壁として機能する。この理由により、クラッキングから製造したアンモニア ( cracked ammonia ) に基づく溶鉱炉雰囲気は推奨しない。前記合金の表面からのゲルマニウムの減耗を阻害するためには、少量の酸素を含むか、もしくは若干「ウェット」な、溶鉱炉雰囲気が有効である。典型的には、溶鉱炉雰囲気は約 0.1〜0.5% の酸素を含み、 20〜40℃の露点を有すべきである。これらの値の精密なバランスは使用されている溶鉱炉の型に依存する。このバランスは、逆に前記合金の銅成分を酸化させてしまうような方向に行き過ぎないようにすることが重要である。焼き鈍し温度は、 620〜650℃の範囲内とすることができ、最大値が 650℃を超えないことが好ましい。この温度範囲における焼き鈍し時間は、 30〜45分間である。
【0026】
洗浄方法に関して、 GB-A-1130540 は長持ち仕上げを提供すると謳っているが、本願発明者の経験から言うと、このタイプの処理では、製造から最終購買者もしくはユーザーに供給されるまでの期間における曇りに因る難事を完全に解決するには至らず、数々の欠点により損われてしまう。曇りの無い状態で銀製品が小売店に届いたとしても、それは、空気から製品を保護する、製造業者による包装の結果に因るところが大である。包装が解かれ、外気と人工照明の熱を浴びる、ホテルのディスプレイケースのような小売環境に製品が展示されると、従来のスターリングシルバーの製品は、一週間程度で再研磨が必要となり、二週間後には販売できないほどに曇ってしまっているのが普通である。展示においては、展示される製品が相当に曇ってしまうまでの寿命は、 3〜4日間程度しかないこともありうる。再研磨を行うと、擦瑕と、手による細かい掻瑕とができてしまい、製品がすぐに売れないと新品同様の外観は失なわれてしまう。展示した銀の研磨を頻繁に行う必要があると、在庫を清掃するためには雇用されてはいない製品の販売のための職員を管理する宝石商もしくは他の販売組織の労務費が嵩んでしまう。したがって、販売もしくは展示の際の曇りは深刻な問題であり、銀製品の貯蔵と展示を行う流通網の携わる人の意気を消耗させており、いまだ充分に解決されていない。
【0027】
製品が最終購買者に届くときには、当然、曇りの除去作業はできるだけやらなくても済むことが望ましい。
上述した合金の表面処理のために、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを使用することができ、好ましくは、前記合金のサンプルを、 20%ポリ硫化アンモニウム溶液上に近接して設置しても、少なくとも 30分間、典型的には 45〜60分間、外面が概して曇らないままであるように、曇りを抑制する、もしくは曇りをさらに強力に抑制するために使用することができる。
【0028】
したがって本発明は、上述の銀-銅-ゲルマニウム合金の製品の曇り防止処理における、例えば炭素数 12〜24 のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドであるような、 -SH 結合もしくは -S-S- 結合を有する有機化合物の使用方法も含む。
【0029】
本発明は、炭素数 12〜24 のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドで処理された、上述の銀合金、もしくは前記銀合金から成形した成形製品をさらに提供する。
【0030】
上述した製品の曇り促成テストは、製品をポリ硫化アンモニウム溶液上に例えば 30mm の高さで吊り下げて、蒸散する硫化水素ガスに曝すものであって、これは製品が展示され、外気に露出して加温される可能性があるような販売環境に一年以上置かれた状態に相当する。前記合金のゲルマニウム成分の保護機能と、前記有機硫黄化合物によるさらなる保護との組み合わせが、観測されたような耐曇性の増強に係るものであると思われる。厳しい条件下で前記製品の外観が曇らずに保たれる期間は、有機硫黄化合物で処理していない製品の場合の期間の三倍以上にすることができ、これは、保護のためのゲルマニウムを含まない従来のスターリングシルバー製品に同一の条件下で曇り促成テストを行ったときには、有機硫黄化合物による処理の有無によっては曇るまでの寿命に充分な差が出ないことを鑑みると、予期せざる効果と言える。
【0031】
Argentium Sterling にポリ硫化アンモニウムを用いた曇り促成テストについては、 the Society of American Silversmiths によるレポートが在る。 (参照: http://www.silversmithing.com/1argentium4.htm ) 比較実験では、 Argentium Sterling は一時間後にも曇らないままであったが、従来のスターリングシルバーは15分未満で曇った。しかしながら、このテストは、 20%ポリ硫化アンモニウム溶液 0.5ml を蒸留水 200ml で希釈して行っているので、サンプルを 20%ポリ硫化アンモニウム溶液に曝した場合に較べてはるかに緩い条件となっている。 WO 02/095082 では、サンプルは 20%ポリ硫化アンモニウム溶液上に吊られているが、曝露時間は比較的短く、 3〜5分後に Ag-Cu-Ge 合金の黄変の徴候が見られたと報告されている。 WO 02/095082 の明細書で報告されている他のテストには、サンプルを、硫黄華 ( flowers of sulphur ) および硝酸カルシウムを収めたデシケータ内に入れるものが含まれており、これは前記のポリ硫化アンモニウムによるテストよりも緩い条件である。
【0032】
保護試薬としては、例えばアルカンチオール、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドである、長鎖アルキル基ならびに -SH 基もしくは -S-S- 基を含む化合物であって、前記長鎖は、好ましくは炭素数 10 以上であり、炭素数 12〜24 とすることができるような化合物が用いられる。多用されている前記の -SH 基もしくは -S-S- 基の化合物は、炭素鎖に 16〜24 個の炭素原子を含む直鎖飽和脂肪族化合物であり、例えば、以下の構造式である、ステアリルメルカプタン、セチルメルカプタン(オクタデシルメルカプタン)、ステアリルグリコラートおよびセチルチオグリコラートである。
【0033】
【化1】

【0034】
ステアリルメルカプタンは、白色〜淡黄色のワックス状固体であり、水に不溶である。前記保護試薬は、例えばメタノールもしくはエタノールであるアルコール、例えばアセトンもしくはメチルエチルケトン ( methyl ethyl ketone ) であるケトン、例えばジエチルエーテルであるエーテル、例えば n-ブチルアセタートであるエステル、炭化水素、例えば塩化メチレン、 1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、もしくは HCFC 141b であるハロカーボン、のような例えば非極性有機溶媒である溶媒の溶液として用いることができる。前記保護試薬は、前記溶媒の 0.1〜1wt% を含むことができる。臭化n-プロピル系溶媒は、現時点で、大気中寿命の短さ、他のハロカーボン類に較べて低毒性であること、化学的・物理的物性および沸点、比熱および蒸発時の潜熱、に鑑みて好ましい。
【0035】
US-A-5616549 は、以下を含む溶媒混合物を開示している。 90〜約96.5% の臭化n-プロピル、ならびに、 0〜約6.5% のテルペン類混合物であってそのうちの 35〜約50% の cis-ピナンおよび 35〜約50% の trans-ピナンを含むテルペン類混合物、ならびに、 3.5〜約5% の低沸点溶媒混合物であって、 0.5〜1% のニトロメタン、 0.5〜1% の 1,2-ブチレンオキシド、および 2.5〜3% の 1,3-ジオキソラン。前記の溶媒混合物は以下の利点を有する。
【0036】
(i) 空気の存在により前記混合物が酸化されて生じる遊離酸、および、水の存在により前記混合物が加水分解されて生じる遊離酸、および、高温の影響によって前記混合物が熱分解されて生じる遊離酸、のすべてに対して、完全に安定であること。
(ii) 不燃性且つ非腐蝕性であること。
(iii) 前記の溶媒混合物中の種々の化合物は U.S. Clean Air Act によって規制されてはいないこと。ならびに、
(iv) 前記の溶媒混合物中の種々の化合物のすべてが、発癌性薬品ではないこと(すなわち、前記の種々の化合物は N.T.I. 、 I.A.R.C. および California Proposition 65 にリストされているものが無く、 OSHA に規制されているものも無い)。
【0037】
さらに、前記溶媒混合物は、 120 よりも大きい、より好ましくは 125 よりも大きいカウリ=ブタノール値 ( KB値; a kauri-butanol value ) を示し、高い溶解力 ( solvency ) を有している。加えて、前記溶媒混合物は、 1,1,1-トリクロロエタン = 1 のとき、 0.96 以上の蒸発速度 ( evaporation rate ) を有する。蒸発する際に前記溶媒混合物が残す不揮発性残留物 ( non-volatile residue; NVR ) は 2.5mg 未満であり、より好ましくは、残渣は出ない。上述の特許に係る溶媒は、 Enviro-Tech International Inc of Melrose Park, Illinois, USA から、商標 EnSolv のもとに入手可能である。
【0038】
前記表面処理は、前記合金から成形製品を製造する製造段階が完了した後に行うことができる。前記製品は、平皿類、食器類もしくは宝飾品とすることができる。組立ステップ ( fabrication steps ) は、紡糸 ( spinning ) 、圧接 ( pressing ) 、鍛造 ( forging ) 、鋳造 ( casting ) 、彫金 ( chasing ) 、板金の鎚打 ( hammering from sheet ) 、均し ( planishing ) 、半田づけ・鑞づけ・熔接による接合 ( joining by soldering brazing or welding ) 、 焼き鈍し、ならびに、バフ/モップ ( buffs/mops ) および、酸化アルミニウムもしくはベンガラ ( 酸化鉄; rouge ) を用いた研磨、を含む。処理される製品は、処理槽内で超音波を用いて脱脂してから、例えば EnSolv である溶媒に溶けている例えば 1wt% のステアリルメルカプタンである前記処理試薬の入った槽内に浸漬して、前記溶媒のひとつもしくは複数の槽内で濯ぎ、蒸発によって乾燥させることができる。前記溶媒は、残留分を出さないか、もしくは残留分を実質的に出さないので、ひき続いて水もしくは水性溶媒による洗浄をする必要はなく、製品を乾燥させることができる。而して流通網への配送のために前記製品を包装することができる。これは、製品をひとつもしくは複数の保護シートにくるむこと、贈答用箱への収納、および、例えば熱収縮性樹脂フィルムである保護包装で前記贈答用箱を包むこと、を含むことができる。前述の -SH 基 もしくは -S-S- 基を含んだ有機化合物によって処理されて包装された製品は、販売拠点へと良好な状態で届けることができるというだけではなく、期待されるところでは 6ヶ月以上、ことによると 12ヶ月以上という長期間に亘り、重篤な曇りを生長させないままに例えば棚やキャビネットに展示しておくことができる。
【0039】
例えば軽工業における用途のような多くの目的に対しては、耐曇性処理を行うにあたって、優勢である水系溶媒システムを用いるのが好ましいと言える。この目的では、保護試薬は、例えば臭化n-プロピル系の溶媒である水不溶性有機溶媒 ( water-immiscible organic solvent ) に溶かすことができ、生成した溶液は、水を加えた後に、「キャリアー」 ( "carrier" ) としてはたらく、比較的濃い水系石鹸 ( water-based soap ) もしくは洗浄剤組成物と混合して、水性の処理浸漬液 ( aqueous treatment dip ) 、もしくは、脱脂液兼処理溶液とすることができる。このように、水性浸漬液には、溶液脱脂システムが不要であるという利点があるので、前記浸漬液は容易に製造でき、低温でも使用可能であり、浸漬した製品のすべての部分をステアリルメルカプタン他の処理試薬に接触させることができ、本発明に係る合金では浸漬液に 2分間浸漬するだけでよく、研磨した銀の表面が水をはじく程度にまで製品を洗浄・乾燥することも容易であり、また、前記浸漬液は、製品が小売に送られる前の製造工程環境においても簡単に使用することができる。
【0040】
好ましい水系洗浄剤は、アニオン性界面活性剤、アルコキシラート系非イオン性界面活性剤、もしくは水溶性カチオン性界面活性剤、またはこれらの混合物とすることができ、 pH は 7 もしくはその近傍の値であるのが好ましい。アニオン性界面活性剤は、硫酸アルキルおよびスルホン酸アルキルベンゼンであり、硫酸アルキルエトキシ類 ( alkyl ethoxy sulphates ) の共存もしくは使用により、長時間の皮膚曝露による刺戟を抑える(US-A-3793233, Rose et al.; 4024078 Gilbert; 4316824 Pancherni)。例えばベタイン類 ( betaines ) のような他の公知の界面活性剤が存在していてもよい(例えば、 US-A-4555360 (Bissett) を見よ)。 5〜15wt% の非イオン性界面活性剤と、 15〜30wt% のアニオン性界面活性剤とを含む、適切な組成物は、イギリスで商標 Fairy Liquid (Proctor & Gamble) として購入可能である。
【0041】
水性液は、前記処理試薬を無機溶媒に溶かし、例えば無希釈の Fairy Liquid のような比較的濃い洗浄液を加えてつくることもできる。これにより、以下のような多くの利点を持つ洗浄液が提供される。石鹸状液は容易に製造でき、湿したスポンジ/コットンウール/布などによって容易に 本発明に係る合金の製品に対して前記液を使うことができ、製品の、布が届かないような都合の悪い箇所へも前記液および石鹸泡によってステアリルメルカプタン他の処理試薬を入れこむことができ、研磨した銀の表面が水をはじく程度にまで製品を洗浄・乾燥することも容易であり、この方法は製品が小売に送られる前の製造工程環境においても簡単に用いることができ、また、小売もしくは家庭の環境でも簡単に使用することができる。
【0042】
別の手法としては、前記製品は、界面活性剤と一体になった 1〜5wt% の有機硫黄化合物(例えば、ステアリルメルカプタン)と、溶媒に溶かされた例えば珪藻土である洗浄剤、とを含む研磨剤により単に研磨することもできる。さらに別の手法としては、例えばステアリルメルカプタンであるソガノイオウ化合物 ( sogano-sulphur compound ) をしみこませた布で単に研磨することもできる。清拭布 ( cleaning cloth ) の利点は、簡単に作ることができ、小売店や家庭の環境で簡単に使用でき、また、(使いたいならば)本発明に係る合金の製品の一般的な保全にも良好に使用できる、ということである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明を、後述の実施例に関連する図面を以って説明する。実施例において、ステアリルメルカプタンにより処理されたサンプルに対する "enhanced tarnish resistance" (強化された耐曇性)という語は、 EnSolv 765 による研磨と清掃以外の処理を施していない Argentium Silver のサンプルと対比して言うものである。
【実施例1】
【0044】
[(連続鋳造合金の製造および特性)]
銀-銅-ゲルマニウム三元合金( Ag = 94.5wt%, Ge = 1.2wt%, Cu = 4.1wt%, B= 0.0008wt%(8ppm) )を、窒素雰囲気下でともに 1050℃で熔融した銀、銅およびゲルマニウムに、できるだけ最後の方で銅-ホウ素マスター合金としてホウ素を加えることにより、創製した。前記の熔融混合物を、連続鋳造して幅 50mm 、厚さ 10mm のストリップ ( strip ) とした後、金工用鉋で表面から不純物リッチである表層を少なくとも 0.1mm 削り取った。前記のストリップ鋳片 ( cast strip ) を冷間圧延して、 5mm 厚とし、 0.1〜0.5% の酸素を含み、露点が 20〜40℃である若干ウェットな保護ガス雰囲気下において、 620〜650℃で 30〜45分間焼き鈍した。これらの条件は、銅を酸化銅に酸化させることなく、 GeO2 の形成を促進するために選ばれたものであって、 2.5mm 厚とするための二回目の圧延および二回目の焼き鈍しの後、「鋳造後」結晶構造は取り除かれており、また、邪魔なオレンジピール効果を呈することなく、前記板金を銀細工師が加工できる。
【0045】
前記の圧延・焼き鈍された板金は、測定された硬度で 64HV を有しており、これはスターリングシルバーのそれに匹敵する。前記の圧延・焼き鈍された板金のサンプルは、約 600℃まで加熱して焼き鈍した後に冷却する作業を六度くりかえすことができ、その後には前記サンプルは、若干の端部の割れ ( エッジクラッキング; edge cracking ) を別にすれば良好な状態であり、火焼けはまったく生じていない。このふるまいは、赤熱してから冷却すると割れを生じやすい標準スターリングシルバーのそれとは異なっており、また、冷却温度において銀-銅-ゲルマニウム低融点(554℃)三元共晶が液化しているために破砕することがある 925 Argentium のそれとも異なっている。
【実施例2】
【0046】
[(インベストメント鋳造合金の製造および特性)]
実施例1の熔融合金を、インベストメント鋳造でストリップに加工した。得られたストリップは、「ホットショート」欠陥および脆化を実質的に有さず、硬度 63.5HV である。
【実施例3】
【0047】
[溶媒浸漬液による洗浄(溶媒脱脂されたサンプル)]
EnSolv 765 (100ml) 中に溶かしたステアリルメルカプタン (0.1 、 0.5 および 1.0g) から溶液を調製した。研磨して EnSolv 765 中で2分間超音波脱脂した実施例1の圧延・焼き鈍された三元合金板金のサンプルを、前記のステアリルメルカプタン溶液のうちのひとつずつに、それぞれ 2分間、 5分間、 15分間浸漬した。その後、前記サンプルを清浄なコットンウールで磨いた。
【0048】
耐曇性を評価するために、前記合金のサンプルを、 20%ポリ硫化アンモニウム溶液の表面から約 25mm 離した上のヒュームカップボード ( fume cupboard ) のガラス側に置き、溶液から立ち上る硫化水素に曝されるようにした。 1時間のテストの間、すべてのサンプルは硫化水素に曝されてから 45分後にわずかに黄変したのみで、すべてのサンプルが良好な耐曇性を示した。サンプル上に生じた薄膜は、ステアリルメルカプタンを含ませた清拭布で簡単に除去できた。
【0049】
比較実験において、標準スターリングシルバーのサンプルは、上述したテストにかけるとすぐに変色し、 1時間後には深黒色の曇りが形成され、これはステアリルメルカプタンを含ませた清拭布で除去できなかった。
【実施例4】
【0050】
[溶媒洗浄による後処理の効果]
前記三元合金サンプルを、実施例3の方法においてサンプルを前記のメルカプタン処理の後にコットンウールで磨く代わりに、 EnSolv 765 中で 2分間超音波脱脂した。その後に前記サンプルを実施例3に記載した曇りテストにかけたところ、すべてのサンプルが強化された耐曇性を示した。前記のステアリルメルカプタン処理の保護能が、 EnSolv 中の超音波洗浄によっても損なわれないということから、耐曇性は、ステアリルメルアプタンと、おそらくは本発明に係る合金中のゲルマニウムとを必要とする界面反応に因るものであって、本発明に係る合金の表面上の油脂 ( grease ) もしくは油分 ( oil ) の層の形成に因るものではないということが示唆される。
【実施例5】
【0051】
[水性浸漬液の適用(溶媒脱脂されたサンプル)]
耐曇処理溶液を、以下の成分を用いて調製した。
ステアリルメルカプタン 1g
EnSolv 765 5ml
洗浄剤(Fairy Liquid) 40ml
脱イオン水 100ml
前記のステアリルメルカプタンを、前記の EnSolv 765 に溶かした後、できた溶液を洗浄剤(Fairy Liquid)と混合して、水で希釈して、水性浸漬液を得た。実施例1の三元合金のサンプルを研磨して EnSolv 765 中で 2分間超音波脱脂し、上記の水性浸漬液に室温で 2分間浸した後、水道水を流して濯いだ。研磨表面が水をすぐにはじくようになって、サンプルが乾いたままとなったことには留意するべきである。実施例3の曇りテストにおいて、すべてのサンプルが強化された耐曇性を示した。
【実施例6】
【0052】
[直接「スポンジ」塗布 ―― 希釈していない洗浄剤溶液(溶媒脱脂/水脱脂サンプル)]
以下の溶液を調製した。
【0053】
・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 40ml の洗浄剤(Fairy Liquid) (好ましい量)

・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 40ml の石鹸(液体ハンドソープ)
前記のステアリルメルカプタンを、最初に前記の EnSolv 中に溶かした。その後、その溶液に前記洗浄剤を混合した。実施例1の圧延・焼き鈍された三元合金のサンプルを、研磨して EnSolv 765 中で 2分間超音波脱脂した。而して、前記のステアリルメルカプタン/EnSolv/洗浄剤の溶液を、前記のサンプルの表面に湿したコットンウールを用いて直接塗布し、石鹸泡で揉み洗いした。サンプルを水道水を流して濯いだ。それぞれの場合において、研磨面が水をはじいてサンプルが乾いたままとなったことに留意する。サンプルを希釈していない ( neat ) ポリ硫化アンモニウム溶液上に 1時間以上曝して、実施例3の曇りテストを行った。すべてのサンプルが強化された耐曇性を示した。上述したステアリルメルカプタンの「スポンジング」直接塗布法を、 2% Fairy Liquid 水溶液で脱脂した三元合金ストリップのサンプルでテストした。強化された耐曇性が再び得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀、銅、およびゲルマニウムの三元合金であって、 93.5wt% よりも多く 95.5wt% までの Ag と、 0.5〜3wt% の Ge とを含み、その残余分が、(存在するならば)夾雑物、不純物および結晶微細化剤を除いて銅であることを特徴とする、合金。
【請求項2】
Cu と Ge との重量比が 4:1〜3:1 であることを特徴とする、請求項1記載の合金。
【請求項3】
Cu と Ge との重量比が約 3.5:1 であることを特徴とする、請求項2記載の合金。
【請求項4】
Ge を 1.0〜1.5wt% 含むことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の合金。
【請求項5】
約 94.5wt% の Ag 、 約 4.3wt% の Cu 、および約 1.2wt% の Ge を含むことを特徴とする、請求項4記載の合金。
【請求項6】
結晶微細化に有効である量のホウ素をさらに含むことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の合金。
【請求項7】
1〜40ppm のホウ素を含むことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の合金。
【請求項8】
5〜20ppm のホウ素を含むことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の合金。
【請求項9】
上述の請求項のいずれか一項に記載の合金から成形されたことを特徴とする、完成品もしくは半完成品である成形製品。
【請求項10】
鋳造によって成形されたことを特徴とする、請求項9記載の製品。
【請求項11】
板金もしくはストリップから、少なくとも部分的に製造されたことを特徴とする、請求項9記載の製品。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の合金の表面処理に対することを特徴とする、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドの使用方法。
【請求項13】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドが、炭素数 12〜24 のアルキル基を有することを特徴とする、請求項12記載の使用方法。
【請求項14】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドは、有機溶媒中に在ることを特徴とする、請求項12もしくは13に記載の使用方法。
【請求項15】
前記溶媒が、概して中性である前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを含むことを特徴とする、請求項14記載の使用方法。
【請求項16】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドは、臭化n-プロピルに基づく溶媒中に在ることを特徴とする、請求項14もしくは15に記載の使用方法。
【請求項17】
(a) 前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを有機溶媒中に溶かし、前記溶液に比較的高濃度の水性石鹸もしくは洗浄剤を添加することにより、得ることができる組成物、あるいは、 (b) 前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを有機溶媒中に溶かし、前記溶液に比較的高濃度の水性石鹸もしくは洗浄剤を添加し、水で希釈することによって、得ることができる水系分散液、の中に前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドが在ることを特徴とする、請求項12もしくは13に記載の使用方法。
【請求項18】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドが、研磨剤に含まれているか、もしくは研磨布にしみこまされていることを特徴とする、請求項12もしくは13に記載の使用方法。
【請求項19】
前記のアルカンチオールもしくはアルキルチオグリコラートが、ステアリルメルカプタン、セチルメルカプタン(オクタデシルメルカプタン)、ステアリルチオグリコラート、および、セチルチオグリコラート、から選択されることを特徴とする、請求項12〜18のいずれか一項に記載の使用方法。

【公表番号】特表2007−535616(P2007−535616A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508380(P2006−508380)
【出願日】平成16年6月1日(2004.6.1)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002317
【国際公開番号】WO2004/106567
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(505436438)ミドルセックス シルバー カンパニー リミテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】MIDDLESEX SILVER CO.LIMITED
【Fターム(参考)】