説明

銀の粒子粉末および分散液

【課題】微細な回路パターンを形成するための配線形成用材料,特にインクジェット法による配線形成用材料として好適な銀のナノ粒子粉末を得る。
【解決手段】TEM観察により測定される平均粒径(DTEM) が30nm以下,アスペクト比が1.5未満,X線結晶粒子径(Dx)が30nm以下,単結晶化度〔(DTEM)/(Dx)〕が5.0以下好ましくは1.0以下,およびCV値〔=100×標準偏差(σ)/個数平均粒径(DTEM)〕が40%未満の銀のナノ粒子粉末であって,粒子表面に分子量100〜400の有機保護剤が被着している銀のナノ粒子粉末である。このナノ粒子粉末は,沸点が85〜150℃のアルコール中で銀塩を有機保護剤の共存下で85〜150℃の温度で還元処理することによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,銀の粒子粉末に係り,詳しくは,微細な回路パターンを形成するための配線形成用材料,特にインクジェット法による配線形成用材料として好適な銀のナノ粒子粉末に関する。本発明の銀の粒子粉末は,LSI基板の配線やFPD(フラットパネルディスプレイ)の電極と配線形成,さらには微細なトレンチ,ビアホール,コンタクトホールの埋め込みなど等の配線形成材料としても好適であり,さらに車の塗装などの色材としても適用でき,また不純物が少なく毒性が低いので医療・診断・バイオテクノロジー分野において生化学物質等を吸着させるキャリヤーにも適用できる。
【背景技術】
【0002】
固体物質の大きさがナノメートルオーダーの超微粒子(以下,ナノ粒子とよぶ)になると比表面積が非常に大きくなるために,固体でありながら気体や液体の界面が極端に大きくなる。したがって,その表面の特性が固体物質の性質を大きく左右する。
【0003】
金属ナノ粒子の場合は,融点がバルク状態のものに比べ劇的に低下することが知られている。そのため,従来のミクロンオーダーの粒子に比べ,微細な配線が描画できるという特徴以外にも,低温焼結できるなどの特徴を有する。金属ナノ粒子の中でも,銀のナノ粒子は低抵抗でかつ高い耐候性をもち,その価格も他の貴金属と比較すると安価であることから,微細な配線幅をもつ次世代の配線材料として特に期待されている。
【0004】
ナノメートルオーダーの銀のナノ粒子の製造方法としては大別して気相法と液相法が知られている。気相法ではガス中での蒸着法が普通であり,特許文献1にはヘリウム等の不活性ガス雰囲気でかつ0.5Torr程度の低圧中で銀を蒸発させる方法が記載されている。液相法に関しては,特許文献2では,水相で銀イオンをアミンで還元し,得られた銀の析出相を有機溶媒相(高分子量の分散剤)に移動して銀のコロイドを得る方法を開示した。特許文献3には,溶媒中でハロゲン化銀を還元剤(アルカリ金属水素化ホウ酸塩またはアンモニウム水素化ホウ酸塩)を用いてチオール系の保護剤の存在下で還元する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−35255号公報
【特許文献2】特開平11−319538号公報
【特許文献3】特開2003−253311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の気相法で得られる銀粒子は,粒径が10nm以下で溶媒中での分散性が良好である。しかし,この技術は特別な装置が必要である。このため産業用の銀ナノ粒子を大量に合成するには難がある。これに対して液相法は,基本的に大量合成に適した方法であるが,液中では金属ナノ粒子は極めて凝集性が高いので単分散したナノ粒子粉末を得難いという問題がある。一般に,金属ナノ粒子を製造するためには分散剤としてクエン酸を用いる例が多く,また液中の金属イオン濃度も10mmol/L(=0.01mol/L)以下と極めて低いのが通常であり,このため,産業上の応用面でのネックとなっている。
【0007】
特許文献2は,前記した方法で0.1mol/L以上の高い金属イオン濃度と,高い原料仕込み濃度で安定して分散した銀ナノ粒子を合成しているが,凝集を抑制するために数平均分子量が数万の高分子量の分散剤を用いている。高分子量の分散剤を用いたものでは,当該銀ナノ粒子を着色剤として用いる場合は問題ないが,回路形成用途に用いる場合には,高分子の沸点以上の焼成温度が必要となること,さらには焼成後も配線にポアが発生しやすいこと等から高抵抗や断線の問題が生じるので,微細な配線用途に好適とは言えない。
【0008】
特許文献3は,前記した方法で仕込み濃度も0.1mol/L以上の比較的高い濃度で反応させ,得られた10nm以下の銀粒子を分散剤で分散させている。特許文献3では好適な分散剤としてチオール系の分散剤が提案されており,このものは分子量が200程度と低いことから,配線形成時に低温焼成で容易に揮発させることができる。しかし,チオール系界面活性剤には,硫黄(S)が含まれており,この硫黄分は,配線やその他電子部品を腐食させる原因となるため,配線形成用途には,不適な元素である。したがって配線形成用途には好ましくはない。
【0009】
したがって,本発明はこのような問題を解決し,微細な配線形成用途に適した銀のナノ粒子粉末とその分散液を安価にかつ大量に得ることを課題としたものである。また,粒径の揃った球形の銀のナノ粒子が良好に単分散しているのが好ましいことから,このような銀粒子の分散液を得ることを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題の解決を目的とした本発明によれば,TEM観察により測定される平均粒径(DTEM) が30nm以下,アスペクト比が1.5未満,X線結晶粒子径(Dx)が30nm以下,単結晶化度〔(DTEM) /(Dx)〕が5.0以下好ましくは1.0以下,CV値〔=100×標準偏差(σ)/個数平均粒径(DTEM)〕が40%未満の銀の粒子粉末であって,粒子表面に分子量100〜400の有機保護剤(代表的にはアミノ化合物,特に第一級アミン)が被着している銀の粒子粉末を提供する。さらに本発明によれば,この銀の粒子粉末を有機溶媒に分散させた銀粒子の分散液であって,動的光散乱法による平均粒径(D50)が100nm以下および分散度=(D50)/(DTEM) が5.0以下である銀粒子の分散液を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の銀粒子は,図1の写真に見られるように粒径が揃った球状であり,その分散液中では各粒子は一定の間隔を開けて単分散した状態にある。この銀のナノ粒子粉末は前記の有機保護剤が表面に被着した状態にあり,分散剤に良好に分散させることができるので,微細な回路パターンを形成するための配線形成用材料,特にインクジェット法による配線形成用材料として好適な材料である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の銀のナノ粒子粉末の電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図2】図1のものとは倍率が異なる本発明の銀のナノ粒子粉末の電子顕微鏡(TEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の銀粒子粉末の特徴的事項を以下に個別に説明する。
【0014】
〔TEM粒径(DTEM) 〕
本発明に従う銀粒子は,TEM(透過電子顕微鏡)観察により測定される平均粒径(DTEM) が30nm以下である。TEM観察では60万倍に拡大した画像から重なっていない独立した粒子300個の径を測定して平均値を求める。アスペクト比とCV値も同様の観察結果から求める。
【0015】
〔アスペクト比〕
本発明の銀粒子粉末のアスペクト比(長径/短径の比)は1.5未満,好ましくは1.2以下,さらに好ましくは1.1以下である。図1の写真のものはほぼ球形であり,そのアスペクト比(平均)は1.05以下である。このため配線形成用途に好適である。アスペクト比が1.5を超える場合には,その粒子の分散液を基板に塗布して乾燥したときに粒子の充填性が悪くなり,焼成時にポアが発生して抵抗が高くなり,場合によっては断線が起きることがある。
【0016】
〔CV値〕
CV値は粒径のバラツキを示す指標であり,CV値が小さいほど粒径が揃っていることを示す。CV値=100×標準偏差σ/個数平均粒径で表される。本発明の銀粒子粉末のCV値は40%未満,好ましくは25%未満,さらに好ましくは15%未満である。CV値が40%未満の銀ナノ粒子粉末は配線用途に好適である。CV値が40%以上では前記と同様に粒子の充填性が悪く焼成時のポアの発生による高抵抗化や断線が起きる可能性がある。
【0017】
〔X線結晶粒径(Dx)〕
本発明の銀ナノ粒子は結晶粒子径が30nm以下である。銀粒子粉末の結晶粒子径はX線回折結果からScherrerの式を用いて求めることができる。このため,結晶粒子径は本明細書ではX線結晶粒径(Dx)と呼ぶ。その求め方は,次のとおりである。
Scherrerの式は,次の一般式で表現される。
D=K・λ/βcosθ
式中,K:Scherrer定数,D:結晶粒子径,λ:測定X線波長,β:X線回折で得られたピークの半価幅,θ:回折線のブラッグ角をそれぞれ表す。
Kは0.94の値を採用し,X線の管球はCuを用いると,前式は下式のように書き換えられる。
D=0.94×1.5405/βcosθ
【0018】
〔単結晶化度〕
単結晶化度はTEM粒径/X線結晶粒径の比(DTEM) /(Dx)で表される。単結晶化度は1個の粒子中に存在する結晶の数に概略相当する。単結晶化度が大きいほど多結晶からなる粒子であると言える。本発明の銀粒子の単結晶化度は5.0以下,好ましくは,3.0以下,さらに好ましくは1.0以下である。このため,粒子中の結晶粒界が少ない。結晶粒界が多くなるほど電気抵抗が高くなるが,本発明の銀粒子粉末は単結晶化度が低いので抵抗が低く,導電部材に用いる場合に好適である。
【0019】
〔動的光散乱法による平均粒径〕
銀粒子粉末と有機溶媒を混合して得られた本発明の分散液は,動的光散乱法による平均粒径(D50)が60nm以下であり,分散度=(D50)/(DTEM) が5.0以下である。
【0020】
本発明の銀粒子は容易に有機溶媒(分散媒)中に分散し,かつその分散媒中において安定な分散状態をとり得る。分散媒中での銀粒子の分散状態は動的散乱法によって評価でき,平均粒径も算出できる。その原理は次のとおりである。一般に粒径が約1nm〜5μmの範囲にある粒子は液中で並進・回転等のブラウン運動によってその位置と方位を時々刻々と変えているが,これらの粒子にレーザー光を照射し,出てくる散乱光を検出すると,ブラウン運動に依存した散乱光強度の揺らぎが観測される。この散乱光強度の時間の揺らぎを観測することで,粒子のブラウン運動の速度(拡散係数)が得られ,さらには粒子の大きさを知ることができる。この原理を用いて,分散媒中での平均粒径を測定し,その測定値がTEM観察で得られた平均粒径に近い場合には,液中の粒子が個々に単分散していること(粒子同士が接合したり凝集したりしていないこと)を意味する。すなわち,分散媒中において各粒子は互いに間隔をあけて分散しており,個々単独に独立して動くことができる状態にある。
【0021】
本発明に従う分散液中の銀のナノ粒子粉末に対して行った動的光散乱法による平均粒径はTEM観察による平均粒径に対してそれほど違わないレベルを示す。すなわち,本発明に従う分散液について測定した動的光散乱法による平均粒径は60nm以下,好ましくは30nm以下,さらに好ましくは20nm以下であり,TEM観察の平均粒径とは大きくは異ならない。したがって,単分散した状態が実現しており,本発明によれば銀のナノ粒子粉末が独立分散した分散液を提供する。
【0022】
なお、分散媒中において粒子が完全に単分散していても測定誤差等により、TEM観察の平均粒径とは違いが生ずる場合がある。例えば測定時の溶液の濃度は測定装置の性能・散乱光検出方式に適していることが必要であり、光の透過量が十分に確保される濃度で行わないと誤差が発生する。またナノオーダーの粒子の測定の場合には得られる信号強度が微弱なため、ゴミや埃の影響が強く出て誤差の原因となるので、サンプルの前処理や測定環境の清浄度に気を付ける必要がある。ナノオーダーの粒子測定には、散乱光強度を稼ぐためにレーザー光源は発信出力が100mW以上のものが適する。さらに、粒子に分散媒が吸着している場合には、その分散媒の吸着層の影響もでるため、完全に分散していても粒径が大きくなることが知られている。特に粒径が10nmをきったあたりから特に影響が顕著になる。そのため、分散した粒子でもTEM観察で得られた値とは全く同じにならないが、分散度=(D50)/(DTEM) が5.0以下,好ましくは3.0以下であれば良好な分散が維持されていると見てよい。
【0023】
〔製造法〕
本発明の銀粒子粉末は,沸点が85〜150℃のアルコール中で銀塩を有機保護剤の共存下で85〜150℃の温度で還元処理することによって製造することができる。
【0024】
本発明で使用する溶媒兼還元剤としてのアルコールは沸点が85℃〜150℃のものであれば特に制限はない。沸点が85℃未満のものはオートクレーブのような特殊な反応機でないかぎり,反応温度を85℃以上にすることが困難である。好ましいアルコールとしてイソブタノール,n−ブタノール,s−ブタノール,t−ブタノールのいずれか1種または2種以上の混合物を挙げることができる。銀塩としては,アルコールに溶解する銀塩を使用する。安価でかつ供給の安定している硝酸銀が実用的見地から好ましい。
【0025】
有機保護剤としては,銀に配位性の性質をもつ分子量が100〜400の金属配位性化合物を用いることが好ましい。銀に配位性のない又は配位性の低い化合物を使用すると,30nm以下の銀ナノ粒子を作成するのに大量の保護剤が必要となり実用的見地から好ましくない。金属配位性化合物の有機保護剤としてアミノ化合物が好適である。一般に,金属配位性化合物にはイソニトリル化合物,イオウ化合物,アミノ化合物,カルボキシル基をもつ脂肪酸などがあるが,イオウ化合物はイオウを含むため腐食の原因となり電子部品にとっては信頼性を下げる原因になる。脂肪酸などは硝酸銀が原料の場合,脂肪酸銀を生成してしまい,イソニトリル化合物は有毒である等の問題をもつ。本発明では分子量100〜400のアミノ化合物を有機保護剤として使用する。アミノ化合物の中でも第1級アミンが好ましい。第2級アミンまたは第3級アミンは,それ自体還元剤として働くため,既にアルコールを還元剤として用いる場合は,還元剤が2種類となり還元速度等の制御が困難になるという不都合がある。分子量が100未満のアミノ化合物では粒子の凝集抑制効果が低く,他方,分子量が400を超えるものは凝集抑制力は高いものの沸点も高いので,これが粒子表面に被着した銀ナノ粒子粉末を配線形成用材料として使用した場合に,焼成時に焼結抑制剤として働き,配線の抵抗が高くなってしまい,場合によっては,導電性を阻害するので好ましくないので,分子量100〜400のアミノ化合物を使用するのがよい。
【0026】
反応温度が85℃未満では銀のナノ粒子粉末の収率が極端に低くなり,他方150℃より高くしても収率の改善が観察されず,銀ナノ粒子の焼結による粗大化が顕著になってくるので好ましくない。したがって,85〜150℃の温度に維持してアルコールによる銀イオンの還元反応を行わせるが,この反応は還流器の付いた装置を用いて蒸発したアルコールを液相に戻しながら実施するのがよい。銀塩の仕込濃度は50mmol/L以上とするのがよく,これ以下の濃度ではコストがかかり産業的には好適ではない。
【0027】
反応終了後は,得られたスラリーを遠心分離機にかけて固液分離し,その殿物に分散媒例えばエタノールを加えて超音波分散機にかけて分散させる。得られた分散液を再度遠心分離し,再びエタノールを加えて超音波分散機で分散させる。このような固液分離→分散の操作を合計3回繰り返したあと,上澄み液を廃棄し,沈殿物を乾燥して本発明の銀ナノ粒子粉末を得る。本発明の銀ナノ粒子粉末を分散させる分散媒(有機溶媒)としては,ヘキサンをはじめ,トルエン,ケロシン,デカン,ドデカン,テトラデカン等の一般的な非極性溶媒もしくは極性が小さい溶媒が使用できる。得られた分散液は,その後,粗粒子や凝集粒子を除去する目的で遠心分離機にかける。その後,上澄みのみを回収し,この上澄みをサンプルとして,TEM,X線,粒度分布等の各種測定を実施する。
【0028】
得られたナノ粒子粉末は,これを真空乾燥機で乾燥(例えば200℃で12時間乾燥)し,乾燥品について重量法(硝酸溶解後,HClを添加して塩化銀沈殿物を作成し,その重量を測定)を適用して銀の純度を求めることができる。本発明に従う銀ナノ粒子粉末の純度は95%以上である。
【実施例】
【0029】
〔実施例1〕
溶媒兼還元剤としてのイソブタノール(和光純薬工業株式会社製の特級)200mLに,オレイルアミン(和光純薬工業株式会社製)132.74mLと硝酸銀結晶13.727gを添加し,マグネットスターラーにより攪拌して室温で溶解した。この溶液を還流器のついた容器に移してオイルバスに載せ,容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/minの流量で吹込みながら,該溶液をマグネットスターラーにより200rpmの回転速度で撹拌しつつ加熱し,100℃の温度で5時間の還流を行って,反応を終了した。100℃に至るまでの昇温速度は2℃/minである。
【0030】
反応終了後のスラリーを以下の手順で固液分離と洗浄を実施した。
1.反応後のスラリーを日立工機(株)製の遠心分離器CF7D2を用いて5000rpmで60分固液分離し,上澄みは廃棄する。
2.沈殿物にエタノールを加え,超音波分散機にかけて分散させる。
3.前記の1→2の工程を3回繰り返す。
4.前記の1を実施し,上澄みを廃棄して沈殿物を得る。
【0031】
前記4で得られたペースト状の沈殿物を次のようにして測定に供した。
イ.TEM観察および動的光散乱による粒度分布の測定には,該沈殿物にケロシンを添加して分散液とし,その分散液を,遠心分離機にかけ,粗粒子・凝集粒子を沈殿後,沈殿物を取り除いた分散液を得た。その分散液について評価を行った。
ロ.X線回折並びに結晶粒子径の測定には,イで作成した粗粒子・凝集体を除去した分散液を濃縮し,ペースト状にしたものを無反射板に塗布してX線回折装置で測定した。
ハ.Ag純度と収率を求める場合には,該沈殿物を真空乾燥機で200℃で12時間乾燥し,その乾燥品の重量を測定して求めた。より具体的には,その乾燥品を重量法(硝酸溶解後,HClを添加して塩化銀沈殿物を作成し,その重量で純度を測定する方法)でAg純度を測定した。収率に関しては,1バッチ分の(反応後に実際に得られた乾燥品/添加した硝酸銀から計算により得られる収量)×100(%)により求めた。
【0032】
これらの測定の結果,TEM平均粒径はDTEM=6.6nm,アスペクト比=1.1,CV値=10.5%,結晶粒子径(Dx)=8.7nm,単結晶化度=(DTEM) /(Dx)=0.76であった。X線回折結果では銀に由来するピークしか観察されなかった。動的光散乱法(マイクロトラックUPA)で測定したD50=26.6nm,D50/DTEM=4.0であった。銀の純度は96.8%,銀の収率は93.1%であった。
【0033】
図1および図2は本例の銀ナノ粒子粉末のTEM写真(TEM平均粒径などを求めたときの写真)である。これらの写真に見られるように,球形の銀ナノ粒子が所定の間隔をあけて良好に分散していることが観察される。ごく一部に重なった粒子が観察されるが,平均粒径(DTEM) ,アスペクト比,CV値の測定時は,完全に分散している粒子について測定した。
【0034】
〔比較例1〕
溶媒兼還元剤としてプロパノールを使用し,反応温度を80℃とした以外は実施例1を繰り返した。その結果,銀の収率は1.1%と極めて低く,その沈殿物のX線回折では銀に由来するピークしか観察されなかったが,Dx=15.9nmであった。X線回折測定以外の測定は,サンプル量が少ないために実施できなかった。
【0035】
〔比較例2〕
溶媒兼還元剤としてエタノールを使用し,反応温度を75℃にした以外は実施例1を繰り返した。その結果は,銀の収率は0.9%と極めて低く,その沈殿物のX線回折では銀に由来するピークしか観察されなかったが,Dx=25.4nmであった。X線回折測定以外の測定は,サンプル量が少ないために実施できなかった。
【0036】
これらの比較例に見られるように,沸点が85℃以下のアルコールを使用しても,また反応温度が80℃未満でも,極端に銀の収率が低く生産性がよくない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TEM観察により測定される平均粒径(DTEM) が30nm以下,アスペクト比が1.5未満,X線結晶粒子径(Dx)が30nm以下,単結晶化度〔(DTEM) /(Dx)〕が5.0以下,およびCV値〔=100×標準偏差(σ)/個数平均粒径(DTEM)〕が40%未満の銀の粒子粉末であって,粒子表面に分子量100〜400の有機保護剤が被着している銀の粒子粉末。
【請求項2】
有機保護剤は,アミノ化合物である請求項1に記載の銀の粒子粉末。
【請求項3】
単結晶化度〔(DTEM) /(Dx)〕が1.0以下である請求項1または2に記載の銀の粒子粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の銀の粒子粉末を有機溶媒に分散させてなる銀粒子の分散液であって,動的光散乱法による平均粒径(D50)が100nm以下および分散度=(D50)/(DTEM) が5.0以下である銀粒子の分散液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−114547(P2009−114547A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32228(P2009−32228)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【分割の表示】特願2005−26805(P2005−26805)の分割
【原出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】