説明

銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法

【課題】油が付着した部分的な銀めっきが施された銅又は銅合金屑から安全に効率良く短時間にて銀めっきを剥離し、銀めっきが剥離された銅又は銅合金屑を銅又は銅合金の製造用原料として使用するリサイクル方法を提供する。
【解決手段】表面に部分的な銀めっきが施された銅又は銅合金屑に脱脂処理を施した後に、脱脂処理後の銀めっきが施された銅又は銅合金屑に防錆剤を付着することにより防錆処理を施し、防錆処理後の銀めっきが施された銅又は銅合金屑を、脂肪族有機酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも一種を含有する電解剥離液中に浸漬して銀めっきを電解剥離し、銀めっきが剥離された銅又は銅合金屑を銅又は銅合金屑の製造用原料として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀めっきが施された銅又は銅合金屑から効率良く銀を剥離し、銀めっきが剥離された銅又は銅合金屑を銅又は銅合金の製造用原料として使用するリサイクル方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ICやLSIなどの半導体装置、各種電子・電気部品に用いられるリードフレーム、端子、コネクタ等として、銅又は銅合金からなる銅条材の表面に部分的或いは全面にニッケル、錫、銅などのめっき層が形成されためっき付銅条材が広く使用されており、半導体チップ搭載部には部分的に銀めっきが施されることが多い。
この様なめっき付銅条材は打抜き成形にて加工して使用されることが多く、打抜き成形時に発生する多量の油が付着した屑は回収され、表面のめっきを剥離して銅又は銅合金の製造用原料として使用することが資源リサイクルの観点から重要となっている。
特に、銀めっきが施された銅又は銅合金屑からの銀の剥離時にはシアン化合物を使用することが多く、取り扱い面において大きな問題となっている。また、剥離に要する時間を短縮することもコスト面から求められている。
特許文献1では、脂肪族有機酸及びその塩の少なくとも一種を含有し、必要に応じて補助成分としてノニオン性界面活性剤を含有する銀の電解剥離剤、該電解剥離剤を含有する水溶液からなる銀の電解剥離液並びに該電解剥離液をpH4〜14とし、これに剥離対象物を浸漬し、該剥離対象物を陽極として、液温10〜80℃、電流密度0.5〜10A/dmの操作範囲で電解することを特徴とするシアン化合物を使用しない銀の電解剥離方法を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−88399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1に開示の方法では、必要部分の銀めっき部分を痛めることなく、不要部分の薄い銀皮膜を剥離することを目的としており、剥離浴もそれに最適な条件とされており、厚く銀めっきが部分的に施された油の付着した多量の銅又は銅合金屑から完全に短時間にて銀めっきを剥離し、銀めっきが剥離された銅又は銅合金屑を銅又は銅合金の製造用原料として使用するリサイクル方法には適していない。
【0005】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであり、油が付着した部分的な銀めっきが施された銅又は銅合金屑から安全に効率良く短時間にて銀を剥離し、銀めっきが剥離された銅又は銅合金屑を銅又は銅合金の製造用原料として使用するリサイクル方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究の結果、表面に油が付着した通常1〜10μm厚の銀めっきが部分的に施された銅又は銅合金屑から、シアン化合物を使用せずに、安全に効率良く短時間にて銀を剥離するには、その銅又は銅合金屑の表面の油を脱脂処理後に、防錆処理、即ち、防錆剤にて、銀めっきが施されていない銅又は銅合金部分の表面のみを薄く皮膜した後に(その防錆剤は銀めっきとは反応せず銀めっき上に皮膜を形成しない)、脂肪族有機酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも一種を含有する電解剥離液が入った電解槽中に、防錆処理がなされた銅又は銅合金屑を浸漬することにより、防錆皮膜で覆われた銅又は銅合金部は電解剥離液に電解せずに、銀めっき部のみが電解剥離されるので、安全に効率良く短時間にて銀めっきが剥離できることを見出した。また、その場合に、電解剥離液の脂肪族有機酸又はその塩の含有量が10〜300g/lとし、更に、電解剥離液のpHを4〜14とし、液温を10〜80℃として、電流密度0.1〜2A/dmにて電解剥離を行うと、特に効率良く短時間にて銀めっきが剥離できることを見出した。
【0007】
本発明の銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法は、表面に部分的な銀めっきが施された銅又は銅合金屑に脱脂処理を施した後に、前記脱脂処理後の銀めっきが施された銅又は銅合金屑に防錆剤を付着することにより防錆処理を施し、前記防錆処理後の銀めっきが施された銅又は銅合金屑を、脂肪族有機酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも一種を含有する電解剥離液中に浸漬して銀めっきを電解剥離し、銀めっきが剥離された銅又は銅合金屑を銅又は銅合金屑の製造用原料として使用することを特徴とし、剥離された銀も回収して再利用するものである。
本発明での部分的な銀めっきとは、銅又は銅合金条材表面上に90%未満の面積割合で施された銀めっきを意味する。90%以上では、銀めっきが施されていない銅又は銅合金部分の表面のみを防錆処理しても、剥離の効率は上がらず、経済的にも無駄である。
【0008】
また、本発明の銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法は、前記脱脂処理は、濃度が10〜200g/lであり、温度が20〜60℃である水酸化ナトリウム溶液中に、銀めっきが施された銅又は銅合金屑を、30秒〜300秒間浸漬することにより施されることを特徴とする。
水酸化ナトリウム溶液の濃度が10g/l未満では脱脂は充分ではなく、200g/l以上を超えても脱脂能力が飽和して費用の無駄となる。水酸化ナトリウム溶液の温度、浸漬時間についても同様であり、20℃未満、30秒未満では脱脂は充分ではなく、60℃、300秒を超えても脱脂能力が飽和して費用の無駄となる。浸漬時間は60秒から180秒であることがより好ましい。
【0009】
また、本発明の銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法は、前記防錆処理は、濃度が0.01〜5g/lであり、温度が20〜70℃である防錆剤溶液中に、前記脱脂処理が施された銅又は銅合金屑を、5秒〜180秒間浸漬することにより施されることを特徴とする。
この防錆処理により、銀めっきが施された銅又は銅合金屑の銀めっきが施されていない銅又は銅合金部分が、防錆剤により、膜厚50Å〜200Åにて均質に皮膜される。銀めっき部分は、防錆剤とは反応しないので皮膜は形成されない。従って、次の脂肪族有機酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも一種を含有する電解剥離液中に浸漬して銀めっきを電解剥離する際に、防錆剤により皮膜された銅又は銅合金部分は、電解剥離液中に電解することがないので、効率よく銀めっきのみが剥離されることとなる。基本的に電解剥離液は銀めっき剥離用の組成ではあるが、銅又は銅合金部分も少量ではあるが電解しており、今まで、この銅又は銅合金部分の電解を避けることはできなかった。この防錆処理により、銀めっき部分のみが電解剥離され、処理能力は従来の3倍から4倍アップすることとなる。
防錆剤の膜厚が50Å未満では、マスキング効果が充分ではなく、200Åを超えてもマスキング効果が飽和して経済的に無駄である。
防錆剤溶液の濃度が0.01g/l未満では被膜厚が不足し、5g/lを超えてもマスキング効果が飽和して費用の無駄となる。温度、浸漬時間についても同様であり、20℃未満、5秒未満では被膜厚が不足し、70℃、180秒を超えてもマスキング効果が飽和して費用の無駄となる。
【0010】
また、本発明の銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法は、前記電解剥離液中の脂肪族有機酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも1種の含有量が10〜300g/lであり、前記電解剥離液のpHを4〜14とし、液温を10〜80℃として、電流密度0.1〜2A/dmにて電解剥離を行うことを特徴とする。
電流密度が0.1A/dm未満であると、電解剥離に要する時間が長くなり、2A/dmを超えると、母材である銅の溶出が多くなり、電解剥離に悪影響を及ぼすとともに、溶出した銅が陰極上で銀と混合され銀のみの回収が難しくなる。電解剥離液のpHは7〜9、液温は20〜60℃として、電流密度は0.2〜0.45A/dmが特に好ましい。
脂肪族有機酸又はその塩の含有量が10g/l未満では剥離速度が低くて完全に剥離するまでに時間がかかり、一方、300g/lを超えても飽和して効果の増大は期待できず、不経済である。より好ましい含有量としては100〜200g/lの範囲とされる。
【0011】
また、本発明の銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法は、前記脂肪族有機酸又はその塩が、酢酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸及びグリコール酸並びにそれらのアルカリ金属塩の中の少なくとも1種であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法は、前記防錆剤が、ベンゾトリアゾール、トルトライアゾール、ベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2・5ジメチルカプトチアゾール、ベンズイミダゾールチオールの中から選ばれる少なくとも1種或いは2種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリサイクル方法により、油が付着した部分的な銀めっきが施された銅又は銅合金屑から安全に効率良く短時間にて銀を剥離し、銀めっきが剥離された銅又は銅合金屑を銅又は銅合金の製造用原料として使用するリサイクル方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の銀めっきが施された銅又は銅合金屑からの銀めっきを剥離する方法を実施するための装置全体図である。
【図2】(a)が防錆処理前の銀めっきが施された銅又は銅合金屑、(b)が防錆処理後の銀めっきが施された銅又は銅合金屑をそれぞれ示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明のリサイクル方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は銀めっき剥離装置の全体構成を示しており、この銀めっき剥離装置1は、脱脂液Fを貯留した脱脂処理槽2、防錆液Gを貯留した防錆処理槽3、電解剥離液Eを貯留した電解槽4を備えており、脱脂処理槽2内にはリサイクル対象の部分的な銀めっきが施された銅又は銅合金屑Dを入れるドラム籠5が浸漬され、防錆処理槽3内には脱脂処理が済んだリサイクル対象の銅又は銅合金屑Kを入れるドラム籠6が浸漬され、電解槽4内には、防錆処理が済んだリサイクル対象の銅又は銅合金屑Cを入れるドラム籠7と、カソード8とが浸漬され、これらドラム籠7とカソード8との間に、整流器9を介して電源(図示略)が接続されている。
本発明のリサイクル方法による、銀めっき剥離は、脱脂処理槽2、防錆処理槽3、電解槽4の順に部分的に銀めっきが施された銅又は銅合金屑を処理することによりなされる。
本発明での部分的な銀めっきとは、銅又は銅合金条材表面上に90%未満の面積割合で施された銀めっきを意味する。90%以上では、銀めっきが施されていない銅又は銅合金部分の表面のみを防錆処理しても、剥離の効率は上がらず、経済的にも無駄である。
【0016】
脱脂処理は、脱脂液Fを貯留した脱脂処理槽2中にリサイクル対象の銅又は銅合金屑Dを入れるドラム籠5を浸漬することにより行われる。脱脂液Fは濃度が10〜200g/lであり、温度が20〜60℃である水酸化ナトリウム溶液であり、浸漬時間は30秒〜300秒間である。水酸化ナトリウム溶液の濃度が10g/l未満では脱脂は充分ではなく、200g/lを超えても脱脂能力が飽和して費用の無駄となる。水酸化ナトリウム溶液の温度、浸漬時間についても同様であり、20℃未満、30秒未満では脱脂は充分ではなく、60℃、300秒を超えても脱脂能力が飽和して費用の無駄となる。浸漬時間は60秒から180秒であることがより好ましい。
また、同時に、リサイクル対象の銅又は銅合金屑Dを陰極、SUSを陽極として前記水酸化ナトリウム溶液中にて電解脱脂を施しても良く、その場合は、電流密度は0.1〜2A/dmであることが好ましい。
脱脂液Fとドラム籠5内の銅又は銅合金屑Dとの接触面積を増すため、脱脂処理槽2内でドラム籠5を回転させても良い。
【0017】
防錆処理は、防錆液Gを貯留した防錆処理槽3中に、脱脂処理が済んだリサイクル対象の銅又は銅合金屑Kを入れるドラム籠6を浸漬することにより行われる。防錆液Gは、濃度が0.01〜5g/lであり、温度が20〜70℃であり、浸漬時間は5秒〜180秒間である。防錆液Gとドラム籠6内の銅及び銅合金屑Kとの接触面積を増すため、防錆処理槽3内でドラム籠6を回転させても良い。
この防錆処理により、脱脂処理が済んだリサイクル対象の銅又は銅合金屑Kの銀めっきが施されていない銅又は銅合金部分が、防錆剤により、膜厚50Å〜200Åにて均質に皮膜される。銀めっき部分は、防錆剤とは反応しないので皮膜は形成されない。図2は、防錆処理の前後の銀めっきが施された銅又は銅合金屑の断面を模式的に示したものであり、図2(a)に示すように、防錆処理前の銅又は銅合金屑Kにおいては、銅又は銅合金材21の表面の一部に銀めっき膜22が形成されており、防錆処理を施すと、同図(b)に示すように、銅又は銅合金材21の表面の銀めっき膜22が形成されていない部分の表面に防錆剤皮膜23が形成された銅又は銅合金屑Cとなる。
【0018】
これにて、次の工程での脂肪族有機酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも一種を含有する電解剥離液中に浸漬して銀めっきを電解剥離する際に、防錆剤により皮膜された銅又は銅合金部分は、電解剥離液中に電解することがないので、効率よく銀めっきのみが剥離されることとなる。基本的に電解剥離液は銀めっき剥離用の組成ではあるが、銅又は銅合金を少量ではあるが電解することは避けられなかったが、この防錆処理により、銀めっき部分のみが電解剥離され、処理能力は従来の3倍から4倍アップすることとなる。
防錆剤皮膜23の膜厚が50Å未満では、マスキング効果が充分ではなく、200Åを超えてもマスキング効果が飽和して経済的に無駄である。
防錆剤溶液の濃度が0.01g/l未満では被膜厚が不足し、5g/lを超えてもマスキング効果が飽和して費用の無駄となる。温度、浸漬時間についても同様であり、20℃未満、5秒未満では被膜厚が不足し、70℃、180秒を超えてもマスキング効果が飽和して費用の無駄となる。
防錆液Gは、ベンゾトリアゾール、トルトライアゾール、ベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2・5ジメチルカプトチアゾール、ベンズイミダゾールチオールの中から選ばれる少なくとも1種或いは2種以上であることが好ましい。
【0019】
電解剥離処理は、電解槽4で行われ、防錆処理が済んだリサイクル対象の銅又は銅合金屑Cを入れるドラム籠7と、カソード8とを浸漬し、これらドラム籠7とカソード8との間に、整流器9を介して電源(図示略)が接続し、銀めっきの電解剥離を行う。
ドラム籠7はSUS等により形成され、カソード8はSUS、Cu等の金属から構成される。このカソード8は、ろ布又はイオン交換膜からなる袋10に覆われている。また、電解槽4内には、電解剥離液Eを攪拌するための攪拌機11が設けられている。
なお、電解剥離液Eとドラム籠7内の銅及び銅合金屑Cとの接触面積を増すため、電解槽4内でドラム籠7を回転させても良い。
また、電解槽4とは別にタンクを設けて、そのタンクと電解槽4との間で電解剥離液Eを循環するなどにより、前述の部分的な攪拌を受け持つ攪拌機11とは別に、全体的に攪拌されるようにしてもよい。
【0020】
電解槽4内に貯留される電解剥離液Eは、脂肪族有機酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも一種を含有する水溶液である。
脂肪族有機酸又はその塩は単独でもよいし、二種以上を混合したものでもよい。具体的には、酢酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸及びグリコール酸並びにそれらのアルカリ金属塩の中から選択でき、酢酸、酒石酸、クエン酸が特に好適である。この場合、脂肪族有機酸又はその塩の含有量は10〜300g/lとされる。その含有量が10g/l未満では剥離速度が低くて完全に剥離するまでに時間がかかり、一方、300g/lを超えても飽和して効果の増大は期待できず、不経済である。より好ましい含有量としては100〜200g/lの範囲とされる。
【0021】
このような組成を有する電解剥離液Eは、そのpHが4〜14に調整される。このpHを4以上とすることにより、素材の銅又は銅合金をエッチングすることなく安定した剥離を得ることができる。このpHの調整剤として、必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属等を添加してもよい。
【0022】
次に、このような銀めっき剥離装置1を使用して、部分的に銀めっきがされた銅又は銅合金屑Dから銀めっきを剥離する方法について説明する。
まず、銅又は銅合金屑Dをドラム籠5に入れて脱脂処理槽2の脱脂液F中に浸漬することにより、銅又は銅合金屑Dの表面に付着した油分を除去した後、この脱脂処理された銅又は銅合金屑Kを防錆処理槽3内の防錆液Gにドラム籠6に入れて浸漬する。前述したように、防錆剤は、銀めっきが施されていない銅又は銅合金部分に選択的に反応して皮膜を形成し、銀めっき部分は皮膜が形成されずに露出した状態となる。
【0023】
一方、電解槽4においては、脂肪族有機酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも1種の含有量を10〜300g/l、pHを4〜14に調整した電解剥離液Eを貯留し、液温を10〜80℃とする。この場合、液温は10℃未満であると、温度が低過ぎることから、剥離速度が遅くなり、一方、80℃を超えると、浴が不安定になり易い。また、攪拌機11を駆動して電解剥離液Eを攪拌しておく。
そして、防錆処理された銅又は銅合金屑Cをドラム籠7内に収容し、電解槽4内にドラム籠7とカソード8とを浸漬した状態でこれらの間に電源から整流器9を介して電流を流すことにより、ドラム籠7に接触している銅又は銅合金屑Cから銀を溶解して剥離する。このときの電流密度は0.1〜2A/dmで、電解の所要時間は30〜40分とされる。この電流密度が0.1A/dm未満であると、剥離速度が遅くて剥離に時間がかかり、一方、2A/dmを超えると母材である銅又は銅合金の溶出が多くなって電解剥離に悪影響を及ぼし、銅の回収量が減ることになってリサイクルとして損失である。また、電流密度が高すぎると、電解剥離液E中に溶出した銅が陰極4上で銀と混合されることから、銀のみの回収も難しくなる。このため、電流密度は0.1〜2A/dmが好ましい。
【0024】
以上のようにして、ドラム籠7を電解剥離液E内に浸漬してから所定時間後にドラム籠7とカソード8との間の通電を中止すると、ドラム籠7内の銅又は銅合金屑Cの銀めっきは溶解して剥離された状態となる。また、カソード8を覆っている袋10内には、銀粒子が捕集されている。
この銀めっきが剥離された銅又は銅合金屑は、その後、エッチング処理等を経ることなく、銅又は銅合金の溶解鋳造等の原料としてそのまま使用することができる。
また、袋10内に溜まった銀粒子は、銀精錬工場へ送られ、銀精錬の原料として利用される。
【0025】
この一連のリサイクル処理において、比較的厚肉(1〜10μm)の部分的な銀めっきを下地の銅又は銅合金から完全に剥離して、その銅又は銅合金と、貴金属である銀とをそれぞれ回収して新たな原料として利用することが可能であり、その場合に、毒性の強いシアン化合物を使用せずに効率良く電解剥離することができる。
【実施例】
【0026】
本発明の方法による効果の検証を行った。
図1に示すものと同様の剥離装置1を用い、銅又は銅合金屑Dのサンプルとして5μmの厚さの部分的な銀めっき(被めっき面積60〜80%)が両面に施された銅合金屑を使用した。これを2kgドラム籠5に入れ、脱脂液Fとして、濃度が10〜200g/lであり、温度が40℃である水酸化ナトリウム溶液を使用して、溶液中にサンプルDを80秒間浸漬した。次に、防錆液Gとして、濃度が1.0g/lであり、温度が50℃であるベンゾトリアゾール溶液を使用して、溶液中に脱脂処理がなされた銅又は銅合金屑Kを60秒間浸漬した。次に、電解剥離液Eとして、酒石酸を150g/l、ポリエチレングリコールを15g/l含有し、pHを8に調整したものを用い、浴温は50℃にて、防錆処理がなされた銅又は銅合金屑Cを電解剥離液Eに浸漬した。ドラム籠7を電解剥離液Eに浸漬させ、ドラム籠7とカソード8間に通電した。ドラム籠7は、SUS製のものを使用し、カソード8にもSUS電極を用いた。ドラム籠7は電解剥離液E中で所定速度にて回転させた。
【0027】
ドラム籠7を電解剥離液E内に浸漬してから20分後にドラム籠7とカソード8との間の通電を中止し、サンプルをドラム籠7内より取り出し、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)にて銅又は銅合金屑の表面を観察したところ、銀が完全に剥離されているのを確認した。
また、銀めっきが剥離された銅又は銅合金屑表面をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer:電子線マイクロアナライザ)にて分析したところ、硫黄(S)等の残存によるコンタミも無かった。この銀めっきが剥離された銅又は銅合金屑を銅合金製造用原料の一部として溶解鋳造に使用し、熱間圧延後の銅合金板を目視にて調べたところ割れは生じていなかった。
一方、カソード8を囲っている袋10内には、30gの銀が得られ、IPC(Ion-Pair Chromatography)で分析したところ、Cu含有量100ppm以下で、他の金属元素は検出されなかった。
【0028】
以上のように、本発明の方法によると、部分的に銀めっきが施された銅又は銅合金屑から銀めっきを効率的に剥離し、剥離後にエッチング処理する必要はなく、銀めっきが剥離された銅又は銅合金屑を溶解鋳造等の原料としてそのままリサイクル可能であることがわかる。また、電解剥離液から銀粒子を効果的に分離採取することができ、有価物としてリサイクル可能であることが確認された。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることは可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 銀めっき剥離装置
2 脱脂槽
3 防錆槽
4 電解槽
5 ドラム籠
6 ドラム籠
7 ドラム籠
8 カソード
9 整流器
10 袋
11 攪拌機
21 銅又は銅合金素材
22 銀めっき膜
23 防錆剤皮膜
F 脱脂液
G 防錆液
E 電解剥離液
D 銅又は銅合金屑
K 脱脂処理がなされた銅又は銅合金屑
C 防錆処理がなされた銅又は銅合金屑

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に部分的な銀めっきが施された銅又は銅合金屑に脱脂処理を施した後に、前記脱脂処理後の銀めっきが施された銅又は銅合金屑に防錆剤を付着することにより防錆処理を施し、前記防錆処理後の銀めっきが施された銅又は銅合金屑を、脂肪族有機酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも一種を含有する電解剥離液中に浸漬して銀めっきを電解剥離し、銀めっきが剥離された銅又は銅合金屑を銅又は銅合金屑の製造用原料として使用することを特徴とする銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法。
【請求項2】
前記脱脂処理が、濃度が10〜200g/lであり、温度が20〜60℃である水酸化ナトリウム溶液中に、前記銀めっきが施された銅又は銅合金屑を、30秒〜300秒間浸漬することにより施されることを特徴とする請求項1に記載の銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法。
【請求項3】
前記防錆処理が、濃度が0.01〜5g/lであり、温度が20〜70℃である防錆剤溶液中に、前記脱脂処理が施された銅又は銅合金屑を、5秒〜180秒間浸漬することにより施されることを特徴とする請求項1又は2に記載の銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法。
【請求項4】
前記電解剥離液中の脂肪族有機酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも1種の含有量が10〜300g/lであり、前記電解剥離液のpHを4〜14とし、液温を10〜80℃として、電流密度0.1〜2A/dmにて電解剥離を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法。
【請求項5】
前記脂肪族有機酸又はその塩が、酢酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸及びグリコール酸並びにそれらのアルカリ金属塩の中の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法。
【請求項6】
前記防錆剤が、ベンゾトリアゾール、トルトライアゾール、ベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2・5ジメチルカプトチアゾール、ベンズイミダゾールチオールの中から選ばれる少なくとも1種或いは2種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の銀めっきが施された銅又は銅合金屑のリサイクル方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−140678(P2011−140678A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509(P2010−509)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】