説明

銀めっき金属部材およびその製造法

【課題】電子部品の小型化に対応できる簡便・確実な手法を用いて、優れたワイヤーボンディング性と樹脂接着性を兼備しかつ耐食性と耐摩耗性にも優れた銀めっき金属部材を提供する。
【解決手段】少なくとも0.2μmの平均膜厚を有する銀めっき膜からなる下層と、前記銀めっき膜の表面上に形成された銀めっき層であって表面の平均結晶粒径が0.5μm以上好ましくは0.5〜1.5μm、表面粗さRmaxが10〜40μmである上層とで構成される銀めっき構造を最表面に持つ金属部材が提供される。前記上層は、例えば下層の銀めっき膜の表面上に析出させた島状または樹枝状の銀析出部と、さらにその上を覆うように形成させた銀めっき膜からなる銀めっき層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーボンディング性および樹脂接着性を兼備し、さらに耐食性、耐摩耗性を改善した銀めっき金属部材およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の小型化や複雑形状化により、金属部材内でのワイヤーボンディング性が要求されるエリアと樹脂接着性が要求されるエリアとが近接するようになった。
ワイヤーボンディング性を満たすためには、ワイヤーと被ボンディング部との実効接触面積を大きくするために一般的には被ボンディング部の表面が平滑な方が良い。例えば特許文献1では、多層銅めっき層を形成した樹脂成形品において最上層の銅めっき層のめっき粗さRmaxは10μm以下であることが望ましいとされている。
【0003】
一方、樹脂密着性に関しては、アンカー効果による密着力向上を目的として被ボンディング部の表面は粗い方が良い。このため、ワイヤーボンディングするエリアと樹脂接着するエリアとの表面処理法を変える必要がある。今後、電子部品の小型化がさらに進み、上記それぞれのエリアが狭くなり、近づいていくに従い、エリア精度の高い処理が必要となり、コストアップにつながる。
【0004】
特許文献2には、銀めっき表面に薄い銅皮膜層を設けて樹脂接着性とワイヤーボンディング性を両立させる方法が開示されている。この方法は金属の種類によって樹脂接着性が変化することを利用したもので、銀よりも樹脂接着性に優れる銅を最表面に薄く存在させることで樹脂接着性を向上させている。ワイヤーボンディング性に関しては銀めっき上の銅皮膜の厚さが非常に薄いため、劣化への影響はないとのことである。しかし、この処理法では新たに銅皮膜を形成させる工程が必要となる。
【0005】
特許文献3には、リードフレーム部材に施したパラジウムまたはパラジウム合金めっき上に金または銀めっきを施し、樹脂接着性が要求されるエリアのみ熱処理してパラジウムと金または銀の混合層を形成させる方法が開示されている。混合層においては樹脂接着性が向上し、熱処理を施していない部分はワイヤーボンディング性が維持される。しかし、この手法を小型の電子部材に適用するのは現実的ではない。なぜなら、金属は熱伝導性が良好であるため、所望の局所部分のみに熱処理を施すことは困難だからである。
【0006】
【特許文献1】特許第3529215号公報
【特許文献2】特開平10−335558号公報
【特許文献3】特開平11−040722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電子部品の小型化に対応できる簡便・確実な手法を用いて、優れたワイヤーボンディング性と樹脂接着性を兼備しかつ耐食性と耐摩耗性にも優れた銀めっき金属部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは詳細な検討の結果、銀めっきを最表面に持つ金属部材において、最表面の銀結晶の結晶粒径を大きくすることでワイヤーボンディング性が改善され、銀めっき表面の凹凸をある範囲内で大きくすることでアンカー効果により樹脂接着性が改善されることを見出した。さらに、ある程度の厚さを有する平滑な銀めっき膜を下層として存在させることによって耐食性と耐摩耗性が顕著に改善されることを見出した。
【0009】
すなわち本発明では、少なくとも0.2μmの平均膜厚を有する銀めっき膜からなる下層と、前記銀めっき膜の表面上に形成された銀めっき層であって表面の平均結晶粒径が0.5μm以上好ましくは0.5〜1.5μm、表面粗さRmaxが10〜40μmである上層とで構成される銀めっき構造を最表面に持つ金属部材が提供される。前記上層は、例えば下層の銀めっき膜の表面上に析出させた島状または樹枝状の銀析出部と、さらにその上を覆うように形成させた銀めっき膜からなる銀めっき層である。
【0010】
このような銀めっき金属部材の製造法として、金属表面に、少なくとも0.2μmの平均膜厚を有し、表面粗さRaが0.5μm以下である銀めっき膜を形成させる第1電気めっき工程、前記銀めっき膜の表面上に第1電気めっき工程より大きい電流密度で島状または樹枝状の銀析出部を形成させる第2電気めっき工程、さらにその上に第2電気めっき工程より小さい電流密度で銀めっき膜を形成させることにより最表面の平均結晶粒径を0.5μm以上好ましくは0.5〜1.5μmとし、かつ表面粗さRmaxを10〜40μmに制御する第3電気めっき工程を有する製造法が提供される。より具体的には、例えば第1電気めっき工程では電流密度15A/dm2未満で銀めっきを行い、第2電気めっき工程では電流密度20A/dm2以上で銀めっきを行い、第3電気めっき工程では電流密度15A/dm2未満で銀めっきを行う条件が採用できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ワイヤーボンディング性と樹脂接着性を両立させ、さらに耐食性および耐摩耗性を向上させた銀めっき金属部材が提供可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明者らは、銀めっき金属部材のワイヤーボンディング性と樹脂接着性を改善させるために、詳細な実験を重ねてきた。その結果、銀めっきの表面における結晶粒径がワイヤーボンディング性に大きく影響すること、および銀めっき表面の表面粗さRmaxが樹脂接着性に大きく影響することを突き止めた。
【0013】
図1に、平均結晶粒径とワイヤーボンディング性の関係を示すデータを例示する。これは、金属基材として銅材を使用し、後述の実施例1に示すような条件で前処理、ニッケルめっき、銀ストライクめっき、および銀めっきを順次施した多くの実験例のデータをプロットしたものである。ただし、これらの実験例は表面の平均結晶粒径の影響を把握することを趣旨としたものであることから、下層を形成するための第1電気めっき工程は省略してある。第2電気めっき工程および第3電気めっき工程の通電時間を調整することで種々の平均結晶粒径にコントロールした。ワイヤーボンディング性の評価は、ワイヤーボンダー(WEST BOND製5400−45G ウェッジ−ウェッジ型ボンダー)を用い、ボンディング条件を、金ワイヤーΦ25μm使用、荷重80g、温度120℃、超音波出力800mW、時間70msecとし、ボンディング強度をハイソル製簡易型プルテスターWPT300を用いて測定することによって行った。平均結晶粒径は実施例に記載の方法で求めた。
【0014】
図1に見られるように、銀めっき表面の平均結晶粒径が0.5μmより小さいときは、ワイヤーボンディング性が低下してしまう。したがって、優れたワイヤーボンディング性を安定して確保するためには、平均結晶粒径を0.5μm以上となるように管理する必要がある。なお、平均結晶粒径が1.5μmを超えて大きくなってもワイヤーボンディング性は維持されるが、この場合、表面粗度Rmaxを安定して40μm以下に制御することが難しくなり、後述の図2に示すように樹脂接着性が低下しやすい。このため、銀めっき表面の平均結晶粒径は0.5〜1.5μmとすることがより好ましい。
【0015】
図2に、表面粗さRmaxと樹脂接着性の関係を示すデータを例示する。これも、金属基材として銅材を使用し、後述の実施例1に示すような条件で前処理、ニッケルめっき、銀ストライクめっき、および銀めっきを順次施した多くの実験例のデータをプロットしたものである。ただし、これらの実験例は表面粗さの影響を把握することを趣旨としたものであることから、下層を形成するための第1電気めっき工程は省略してある。第2電気めっき工程および第3電気めっき工程の電流密度および通電時間を調整することで種々の表面粗さにコントロールした。評価方法は実施例に記載のとおりである。
【0016】
図2に見られるように、銀めっき表面のRmaxが10μm未満の場合、および40μmを超える場合には、いずれも樹脂接着性が低下する。したがって、優れた樹脂密着性を維持するためには銀めっき表面のRmaxを10〜40μmに制御することが重要である。
【0017】
本発明では、上記のように表面の平均結晶粒径とRmaxが調整された銀めっき層(上層)を最表面に有するものが対象となるが、その上層の下には、少なくとも0.2μmの平均膜厚を有する銀めっき膜からなる下層が存在している必要がある。この下層は、銀めっき金属部材の耐食性と耐摩耗性とを改善させる機能を有する。耐食性の向上は、ピンホールの少ない平滑な下層の形成によってもたらされる効果だと考えられる。また耐摩耗性の向上に関しては、下層が、下地(例えばニッケルめっき層)と上層銀めっき層との間の緩衝材として機能していることが1つの要因になっているのではないかと推察される。平均膜厚が0.2μm未満だと、これらの特性を安定して十分に発揮せることが難しくなる。下層の銀めっき膜厚の上限は特に制限されないが、過度に厚い銀めっきは経済性を損なうので例えば下層は平均膜厚2μm以下の範囲とすればよい。また、この銀めっき膜は表面ができるだけ平滑であることが望ましい。具体的には表面粗さRaが0.5μm以下であるように成膜されていることが望ましい。それより表面粗さが大きいと、耐食性、耐摩耗性が低下しやすい。
【0018】
銀めっきを施すための金属基材としては、材質に特に制限はなく、種々の金属材料が採用できる。電子部品用であれば、銅、銅合金、ニッケル合金等が好適な対象となる。上記の下層と上層からなる銀めっき構造を最表面に形成するための下地処理を、金属基材の種類に応じて適宜実施することが好ましい。例えば、下地にはニッケルめっきや銅めっきを施すことができる。また、上記銀めっき構造の直下には、置換析出防止を目的として銀ストライクめっき(例えば平均膜厚は0.05μm以下)を施すことができる。
【0019】
上記の下層および上層からなる銀めっき構造は、例えば同じ電気銀めっき浴中で順次電流密度を変化させることによって形成させることができる。
下層を構成する銀めっき膜を形成するための工程を本明細書では「第1電気めっき工程」と呼ぶ。第1電気めっき工程では、15A/dm2未満の電流密度により、できるだけ均一に成膜することが望ましい。10A/dm2以下で行うことがより好ましい。ただし、あまり電流密度が低いと必要な平均膜厚0.2μm以上を確保するための時間が長くなり不経済である。このため1A/dm2以上で行うことが望ましい。
【0020】
次いで、電流密度を第1電気めっき工程よりも上昇させ、下層の銀めっき膜の表面上に不均一な銀の析出を生じさせる。この工程を「第2電気めっき工程」と呼ぶ。第2電気めっき工程では、平滑な銀めっき膜が成膜される条件ではなく、不均一な銀の析出が生じるような大電流密度で銀の電解析出を行う。このとき、銀は島状に析出し、次第に樹枝状に成長していく。このような島状または樹枝状の析出形態を「粒子状」と言うこともある。この粒子状の銀析出部は続く第3電気めっき工程での銀析出サイトとなり、銀めっき表面の結晶粒径を増大させる機能を有する。第2電気めっき工程での電流密度は20A/dm2以上とすることが望ましい。液温等の条件にもよるが、通常、20〜60A/dm2の範囲で設定することができる。電解時間は数秒以内の短時間とすればよい。あまり長時間になると樹枝状の銀析出部が過度に発達し、最終的に所望の表面粗さが実現できなくなる。
【0021】
その後、再び電流密度を低下させて、銀めっき膜を形成させる。この工程を「第3電気めっき工程」と呼ぶ。ここで成膜される銀めっき膜は、前記島状または樹枝状の銀析出部とともに上層を構成する。その成膜過程では、島状または樹枝状の銀析出部を核として結晶成長する。第3電気めっき工程の電流密度は、第1電気めっき工程と同様、15A/dm2未満とすることが望ましく、1〜10A/dm2で設定することがより好ましい。
【実施例】
【0022】
《実施例1》
縦50mm、横50mm、厚さ0.3mmの銅材を金属基板として、これに常法により脱脂および活性化処理(併せて前処理と言う)を施した後、電気めっき法を用いてニッケルを所定の厚さに成膜し、その上に電気めっき法で銀ストライクめっきを施した。銀ストライクめっきは、この後に行われる銀めっきの置換析出を防ぐ目的で施されるものであり、銀濃度の低い浴中で短時間通電し薄い皮膜を形成するものである。さらにその上に電気めっき法で銀めっきを、まず低電流密度、次に高電流密度、さらに低電流密度で所定の厚さに成膜して銀めっき金属部材を作製た。得られた銀めっき金属部材について、ワイヤーボンディング性、樹脂接着性、耐食性、耐摩耗性を評価した。以下に前処理と各めっきの条件および評価方法を示す。
【0023】
〔前処理〕
まず、銅金属基板およびSUS(ステンレス鋼)板をアルカリ脱脂液中に浸漬し、銅金属基板をマイナス極、SUS板をプラス極として電圧5Vを加えて2分間保持した後、銅金属基板を脱脂液から取り出して純水で洗浄した。次いで5%濃度の硫酸水溶液中に30秒間浸漬した後、硫酸水溶液から取り出して再び純水で洗浄した。
【0024】
〔ニッケルめっき〕
スルファミン酸ニッケル(350g/L)、塩化ニッケル(10g/L)、ホウ酸(30g/L)および光沢剤(レベリング剤)からなるめっき浴中に前記のような前処理を行った銅金属基板とニッケル電極板とを浸漬して、銅金属基板をマイナス極、ニッケル電極板をプラス極に接続し、電流密度を5.0A/dm2に設定し、銅金属基板上に平均膜厚が1.0μmになるまでニッケルをめっきした。めっき操作中、スターラーを300rpmで回転させながらめっき浴を撹拌し、浴温を50℃に保持した。
【0025】
〔銀ストライクめっき〕
シアン化銀カリウム(3g/L)、およびシアン化カリウム(90g/L)からなるめっき浴中にニッケルめっき後の銅金属基板と白金でコーティングされたチタン電極板とを浸漬して、銅金属基板をマイナス極、電極板をプラス極に接続し、電流密度を4.0A/dm2に設定し、10秒間通電して銀ストライクめっきを施した。めっき操作中、スターラーを300rpmで回転させながらめっき浴を撹拌し、浴温を25℃に保持した。
【0026】
〔銀めっき〕
シアン化銀カリウム(150g/L)、およびシアン化カリウム(90g/L)からなるめっき浴中に銀ストライクめっき後の銅金属基板と銀電極板とを浸漬して、銅金属基板をマイナス極、銀電極板をプラス極に接続した。この状態で、まず、電流密度5A/dm2で16秒間通電した(第1電気めっき工程)。次に、電流密度40A/dm2で3秒間通電した(第2電気めっき工程)。その後、電流密度5A/dm2で16秒間通電した(第3電気めっき工程)。これら、第1〜第3の電気めっき工程の間、スターラーを300rpmで回転させながらめっき浴を撹拌し、浴温を25℃に保持した。
【0027】
〔平均結晶粒径〕
このような手順で得られた銀めっき金属部材について、銀めっきの最表面に露呈している結晶の平均結晶粒径を調べた。すなわち、銀めっきの表面を倍率1万倍でSEM観察し、得られた画像を画像処理することにより個々の結晶の平面面積を求め、その平均値から、結晶が円形であるとした場合の直径値を算出する方法で平均結晶粒径を求めた。5個の異なる視野による測定結果の平均値を当該試料の平均結晶粒径として採用した。
その結果、実施例1の平均結晶粒径は0.59μmであった。
【0028】
〔下層のRa〕
上記銀めっきの第1電気めっき工程を終了した時点のサンプルについて、表面粗さを測定し、下層である銀めっき膜表面のRaを求めた。その結果、実施例1の下層のRaは0.12μmであった。
【0029】
〔上層のRmax
得られた銀めっき金属部材の表面粗さを測定し、上層のRmaxを求めた。その結果、実施例1の上層のRmaxは20.1μmであった。
【0030】
〔ワイヤーボンディング性〕
ワイヤーボンダー(WEST−BOND製 MODEL7476Dマニュアルウエッジボンダー)を用い、ボンディング条件を、金ワイヤーΦ25μm使用、荷重25g、温度120℃、超音波出力300mW、時間40msecとし、ボンディング強度をハイマックス製UP−2デジタル表示式マニュアルワイヤーボンドプルテスターを用いて測定することによって評価した。結果を表1に示す(以下の各例において同じ)。
【0031】
〔樹脂接着性〕
巴川製紙所製のエポキシ系樹脂性接着シートTLF−Y20の上下両面に2枚の供試片を張り合わせた後、この2枚を上下に引っ張り、樹脂性接着シートから剥がれたときの力を測定することによって評価した。結果を表1に示す(以下の各例において同じ)。
【0032】
〔耐食性〕
JIS H8502に準拠した中性塩水噴霧試験を行い、ピンホール密度を測定して評価した。試験期間を7日間とし、n=3で試験を行い、平均値を採用した。結果を表1に示す(以下の各例において同じ)。
【0033】
〔耐摩耗性〕
山崎精機研究所製電気接点シミュレータCRS−1を用い、測定条件は荷重50g、摺動速度50mm/min、摺動距離1000μm、摺動回数50000回、圧子Agリベット、電流10mA、開放電圧100mVで行った。接触抵抗が上昇した時点で削れたと判断した。結果を表1に示す(以下の各例において同じ)。
【0034】
《比較例1》
実施例1の銀めっきにおいて、第3電気めっき工程を実施しなかった以外、実施例1と同一条件とした。すなわち40A/dm2の第2電気めっき工程を終了した時点の銀めっき金属部材を試料として特性を調べた。
【0035】
《比較例2》
実施例1の銀めっきにおいて、第2電気めっき工程を実施しなかった以外、実施例1と同一条件とした。すなわち5A/dm2の電気めっきのみで成膜した銀めっき金属部材を試料として特性を調べた。
【0036】
《比較例3》
実施例1の銀めっきにおいて、第1電気めっき工程を実施しなかった以外、実施例1と同一条件とした。
【0037】
《比較例4》
実施例1の銀めっきにおいて、第1電気めっき工程を実施せず、かつ第2電気めっき工程では通電時間を3秒から6秒に変更した以外、実施例1と同一条件とした。
【0038】
《比較例5》
実施例1の銀めっきにおいて、第1電気めっき工程を実施せず、かつ第3電気めっき工程では通電時間を16秒から32秒に変更した以外、実施例1と同一条件とした。
【0039】
《比較例6》
実施例1の銀めっきにおいて、第1電気めっき工程の電流密度を5A/dm2から20A/dm2に、通電時間を16秒から5秒に変更した以外、実施例1と同一条件とした。
【0040】
【表1】

【0041】
表1中に記載される「銀めっきトータル膜厚」は第1〜第3電気めっき工程で形成したトータルの銀めっき平均膜厚(通電条件から算出される値)である。
表1に見られるように、実施例1のものは平滑な下層銀めっき膜を形成し、かつ本発明で規定する最表面の平均結晶粒径および表面粗さRmaxに調整したことにより、ワイヤーボンディング性、樹脂接着性、耐食性、耐摩耗性の全てにおいて良好な結果が得られら。
【0042】
これに対し、比較例1は最表層に銀めっき膜が成膜されていないことによりワイヤーボンディング性を発揮できなかった。比較例2は第2電気めっき工程で島状または樹枝状の銀析出部を形成しなかったことにより表面粗さRmaxが低く、アンカー効果のある表面が得られなかったので樹脂接着性に劣った。比較例3〜5は下層を形成しなかったので耐食性および耐摩耗性に劣った。比較例6は第1電気めっき工程での電流密度が高すぎたことにより下層表面のRaが0.5μmを超えて大きくなり、結果的にピンホールの低減や緩衝材としての効果が十分に得られなかったことが考えられ、耐食性および耐摩耗性に劣った。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】銀めっき表面の平均結晶粒径とワイヤーボンディング性の関係を示すグラフ。
【図2】銀めっき表面のRmaxと樹脂接着性の関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも0.2μmの平均膜厚を有する銀めっき膜からなる下層と、前記銀めっき膜の表面上に形成された銀めっき層であって表面の平均結晶粒径が0.5μm以上、表面粗さRmaxが10〜40μmである上層とで構成される銀めっき構造を最表面に持つ金属部材。
【請求項2】
前記上層は、下層の銀めっき膜の表面上に析出させた島状または樹枝状の銀析出部と、さらにその上を覆うように形成させた銀めっき膜からなる銀めっき層である請求項1に記載の銀めっき構造を最表面に持つ金属部材。
【請求項3】
金属表面に、少なくとも0.2μmの平均膜厚を有し、表面粗さRaが0.5μm以下である銀めっき膜を形成させる第1電気めっき工程、前記銀めっき膜の表面上に第1電気めっき工程より大きい電流密度で島状または樹枝状の銀析出部を形成させる第2電気めっき工程、さらにその上に第2電気めっき工程より小さい電流密度で銀めっき膜を形成させることにより最表面の平均結晶粒径を0.5μm以上、かつ表面粗さRmaxを10〜40μmとする第3電気めっき工程を有する、銀めっき金属部材の製造法。
【請求項4】
第1電気めっき工程では電流密度15A/dm2未満で銀めっきを行い、第2電気めっき工程では電流密度20A/dm2以上で銀めっきを行い、第3電気めっき工程では電流密度15A/dm2未満で銀めっきを行う請求項3に記載の銀めっき金属部材の製造法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−88493(P2008−88493A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269374(P2006−269374)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】