説明

銀イオンを含有するフォトルミネッセント材料

【課題】安定して入手できる原料で製造することができるフォトルミネッセント材料を提供すること。
【解決手段】銀イオンを含有するフォージャサイト型ゼオライトであり、紫外線の照射によって可視光を発光するフォトルミネッセント材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀イオンを含有するフォトルミネッセント材料に関する。ここで「フォトルミネッセント(photoluminescent)材料」とは、「フォトルミネセンス(photoluminescence、即ち、紫外線照射によって可視光を発光する現象)を利用する用途に用いられる材料」を意味する。
【背景技術】
【0002】
紫外線照射によって可視光(一般に、波長が380nm以上830nm未満の光)を発光するフォトルミネッセント材料は、照明装置や液相表示装置用バックライトなどに使用されている。このフォトルミネッセント材料としては、希土類元素を含有するものが多用されている(例えば特許文献1〜3)。また、イリジウム錯体をフォトルミネッセント材料として用いることも提案されている(例えば特許文献4)。しかし、希土類元素やイリジウムは、その埋蔵量が少ない、産出国が限定されている、分離精製コストが高いという問題がある。そのため、これら以外の元素を用いたフォトルミネッセント材料が求められている。
【0003】
一方、非特許文献1は、密封された銀クラスター含有A型ゼオライトがフォトルミネセンスを示すことを開示している。しかし、該文献には、この銀クラスター含有A型ゼオライトのフォトルミネセンスを保つためには、ガラスアンプルを用いて密封するか、またはスライドガラス、カバーガラスおよびエポキシ系接着剤を用いて密封する必要があることが記載されている。そして、密封せずに大気中に室温で長時間放置していた銀クラスター含有A型ゼオライトは、着色や発光が変化し続け、ついには発光が見られなくなったことが記載されている。そのため、該文献に記載の銀クラスター含有A型ゼオライトを、フォトルミネッセント材料として実用化するには問題がある。なお、非特許文献1では、銀を含有するA型ゼオライトを、500℃で24時間、熱処理して銀クラスターを形成させることによって、銀クラスター含有A型ゼオライトを製造している。
【0004】
また、特許文献5および6には、オリゴ原子金属クラスターを含有するモレキュラーシーブに非可視線(紫外線)を照射して、紫外線を可視光に変換することを利用する発明が記載されている。そして、特許文献5および6では、オリゴ原子金属クラスターとして銀クラスターが記載され、モレキュラーシーブとして、ゼオライト3Aなどの小孔ゼオライト、並びにフォージャサイトXおよびYなどのラージポアゼオライトが記載されている。しかし、特許文献5および6のいずれも、実際にフォトルミネセンスを確認しているのは、銀クラスターを含有するゼオライト3A(即ち、小孔ゼオライト)だけである。具体的には、特許文献5の実施例3および特許文献6の実施例1にて、非特許文献1と同様に、銀で交換された3Aゼオライトを、450℃で24時間、熱処理して銀クラスターを形成させることによって、銀クラスター含有3Aゼオライトを製造し、このゼオライトのフォトルミネセンスを確認しているだけである。そのため特許文献5および6では、銀クラスターを含有するラージポアゼオライト(例えば、フォージャサイトXおよびY)がフォトルミネセンスを示すことは確認されていない。この点、特許文献5の対応日本出願(特表2010−532911)では、2010年3月16日付けの手続補正書にて、出願当初の請求項1の「モレキュラーシーブ」が、ゼオライト3A等の小孔ゼオライトに限定され、フォージャサイトXおよびY等のラージポアゼオライトは特許請求の範囲から排除されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000−516296号公報
【特許文献2】特開2005−48107号公報
【特許文献3】特開2008−69290号公報
【特許文献4】特開2006−253641号公報
【特許文献5】国際公開第2009/006707号
【特許文献6】国際公開第2009/006709号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】星野ら,「大気中で密封された着色銀型ゼオライト12Ag−Aの発光」,弘前大学教育学部紀要.99,2008,p.55−62,発行日:2008年3月25日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、安定して入手できる原料で製造することができるフォトルミネッセント材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、非特許文献1等に記載の銀クラスターではなく、銀イオンを含有するフォージャサイト型ゼオライトがフォトルミネセンスを示すことを見出し、本発明を完成した。本発明は以下の通りである:
【0009】
[1] 銀イオンを含有するフォージャサイト型ゼオライトであり、紫外線の照射によって可視光を発光するフォトルミネッセント材料。
[2] 波長が200nm以上380nm未満である紫外線の照射によって、可視光を発光する上記[1]に記載のフォトルミネッセント材料。
[3] 銀イオン含有率が、フォトルミネッセント材料全体に対して1重量%超30重量%以下である上記[1]または[2]に記載のフォトルミネッセント材料。
[4] フォージャサイト型ゼオライトが、X型ゼオライトである上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載のフォトルミネッセント材料。
[5] さらに亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびカリウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも一つを含有する上記[1]〜[4]のいずれか一つに記載のフォトルミネッセント材料。
[6] さらにカルシウムイオンを含有する上記[1]〜[4]のいずれか一つに記載のフォトルミネッセント材料。
[7] 紫外光源および上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載のフォトルミネッセント材料を含む照明装置。
[8] 液晶表示装置用バックライトである上記[7]に記載の照明装置。
[9] 窒素酸化物の除去に使用するための上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載のフォトルミネッセント材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフォトルミネッセント材料は、銀およびフォージャサイト型ゼオライトを原料とするため、安定供給が可能である。また、本発明のフォトルミネッセント材料は、非特許文献1等に記載の銀クラスター含有A型ゼオライトと異なり、大気中に長期間放置していてもフォトルミネセンスを示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフォトルミネッセント材料は、銀イオンを含有するフォージャサイト型ゼオライトである。フォージャサイト型ゼオライトとしては、合成ゼオライトであるX型ゼオライトおよびY型ゼオライト、並びに天然ゼオライトであるフォージャサイトが挙げられる。これらの中で、X型ゼオライトおよびY型ゼオライトが好ましく、X型ゼオライトがより好ましい。なお、ゼオライトがフォージャサイト型ゼオライトであるか否かは、粉末X線回折法により回折ピークを測定する構造解析、または固体NMRでMAS(マジック角回転:Magic-Angle Spinning)NMRスペクトルを測定する構造解析などによって判定することができる。
【0012】
従来のフォトルミネッセント材料である希土類元素イオン含有ゼオライトは、ゼオライトが水分を吸着するため、希土類元素に基づくフォトルミネセンスが低下するという問題があった。この問題を解決するため、従来の希土類元素イオン含有ゼオライトでは、1000℃程度の温度で加熱処理を行うことによってゼオライトの結晶構造を破壊し、水分の吸着を防ぐことが行われている(例えば特許文献1および2)。これに対して本発明の銀イオン含有X型ゼオライトは、水分が存在する湿潤状態でもフォトルミネセンスを示すという特徴を有する。そのため銀イオン含有X型ゼオライトは、ゼオライトの銀イオン交換処理後に、乾燥を行わないか、または低温で乾燥するだけで、フォトルミネセンスを示すという利点を有する。さらに、銀イオン含有X型ゼオライトは水分が存在する条件下でもフォトルミネセンスを示すため、従来の希土類元素イオン含有ゼオライトに比べて、適用範囲が広いという利点を有する。
【0013】
また、本発明の銀イオン含有Y型ゼオライトも、下記実施例に示すように、銀イオン交換処理後に100℃で乾燥するだけで、フォトルミネセンスを示すという利点を有する。そのため、本発明の銀イオン含有Y型ゼオライトは、従来の希土類元素イオン含有ゼオライトに比べて、乾燥温度を低く設定することができ、製造時の省エネルギー化を図ることができる。
【0014】
フォージャサイト型ゼオライトの粒子径は、好ましくは0.1〜2μm、より好ましくは0.5〜1.5μmである。この粒子径は、レーザ回折およびレーザ散乱法によって測定することができる。この測定には、例えば、(株)島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置:「SALD−2100」などを使用することができる。
【0015】
フォージャサイト型ゼオライト(フォージャサイト、X型ゼオライトおよびY型ゼオライト)は市販されており、容易に入手することができる。例えば、下記実施例で使用するX型ゼオライトおよびY型ゼオライトは、東ソー社から入手することができる。
【0016】
本発明のフォトルミネッセント材料は、高温で長時間の熱処理により生成する銀クラスターではなく、銀イオンを含有することを特徴の一つとする。銀イオン含有率は、フォトルミネッセント材料全体に対して、好ましくは1重量%超、より好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上であり、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下である。銀イオン含有率は、下記実施例に示すようにして測定することができる。
【0017】
本発明のフォトルミネッセント材料は、本発明の効果(フォトルミネセンス)を阻害しない範囲で、銀イオン以外の金属イオン(以下「他の金属イオン」と略称することがある。)を含有していてもよい。他の金属イオンは、1種だけでもよく、2種以上であってもよい。他の金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン;並びにカルシウムイオン、マグネシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン;亜鉛イオン等が挙げられる。これらの他の金属イオンの中でも、カルシウムイオンが好ましい。銀イオンに加えて、カルシウムイオンを含有する本発明のフォトルミネッセント材料は、発光強度が増大する傾向がある。
【0018】
本発明のフォトルミネッセント材料は、後述するように、フォージャサイト型ゼオライトのイオン交換によって製造することができる。そのため、他の金属イオンは、イオン交換前の元のフォージャサイト型ゼオライトが有していたイオン(例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン)でもよい。また、他の金属イオンを含む金属塩水溶液を用いるイオン交換によって、本発明のフォトルミネッセント材料に、他の金属イオンを導入してもよい。
【0019】
他の金属イオンを含有する場合、それらの各含有率は、フォトルミネッセント材料全体に対して、好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上であり、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。他の金属イオンの含有率は、下記実施例に示すようにして測定することができる。
【0020】
本発明のフォトルミネッセント材料は、上述したように、フォージャサイト型ゼオライトのイオン交換によって製造することができる。このイオン交換は、銀イオン含有水溶液中でフォージャサイト型ゼオライトを撹拌・保持することによって行うことができる。銀イオン含有水溶液としては、例えば、硝酸銀水溶液などが挙げられる。また、銀イオン含有水溶液の濃度は、下記実施例に示すように、本発明のフォトルミネッセント材料の銀イオン含有率の設計値に応じて、適宜調整することができる。イオン交換は室温で行うことができ、その時間(即ち、銀イオン含有水溶液中のゼオライトの撹拌・保持時間)は、通常、1時間以上10時間以下であり、好ましくは5時間以下である。
【0021】
イオン交換によって得られた銀イオン含有フォージャサイト型ゼオライトは、分散水からろ過し、水洗した後、乾燥することが好ましい。乾燥は、大気雰囲気下、不活性ガス(例えば窒素ガス)雰囲気下または減圧雰囲気下で行うことができる。これらの中でも操作を簡便に行うことができる、大気雰囲気下での乾燥が好ましい。乾燥時間は、通常、1時間以上10時間以下であり、好ましくは5時間以下である。乾燥温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下であり、好ましくは50℃以上、より好ましくは100℃以上である。但し、銀イオン含有X型ゼオライトは、乾燥なしの湿潤状態でもフォトルミネセンスを示す。
【0022】
上記のようにして得られた銀イオン含有フォージャサイト型ゼオライトを他の金属イオンを含有する水溶液中に撹拌・保持するイオン交換処理によって、他の金属イオンをさらに含有させることができる。他の金属イオンを含有する水溶液としては、例えば、硫酸亜鉛水溶液、硝酸カルシウム水溶液、硫酸マグネシウム水溶液および硫酸カリウム水溶液などが挙げられる。他の金属イオンの交換処理の条件は、上述した銀イオンの交換処理の条件と同様である。
【0023】
本発明のフォトルミネッセント材料に照射する紫外線の波長は、好ましくは200nm以上、より好ましくは220nm以上、さらに好ましくは250nm以上であり、好ましくは380nm未満、より好ましくは370nm以下である。また、本発明のフォトルミネッセント材料は、波長が254nmである紫外線の照射によって、ピーク波長が好ましくは370〜720nm、より好ましくは400〜550nmの範囲内にある可視光を発光することができ、波長が365nmである紫外線の照射によって、ピーク波長が好ましくは390〜680nm、より好ましくは450〜600nmの範囲内にある可視光を発光することができる。
【0024】
本発明のフォトルミネッセント材料を、照明装置に用いることができる。また、本発明のフォトルミネッセント材料を、紙幣、金券またはカードなどの偽造防止のための発光塗料に用いることができる。特に本発明の銀イオン含有X型ゼオライトは、水が存在する条件下でもフォトルミネセンスを示すので、多様な環境に曝される紙幣等に用いられる発光塗料として有用である。
【0025】
また、繊維と一体化させた本発明のフォトルミネッセント材料を、フォトルミネッセント繊維(例えば、蛍光繊維)として、糸、紙、不織布および織物などに利用することもできる。なお、繊維と一体化させた本発明のフォトルミネッセント材料は、例えば、特開平10−120923号公報および特開2003−34753号公報に記載されているような方法で、繊維と一体化させたX型ゼオライトまたは繊維と一体化させたY型ゼオライトを製造し、次いでこれらに銀イオン、および必要に応じて他の金属イオンを含有させることによって製造することができる。
【0026】
本発明のフォトルミネッセント材料は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、本発明のフォトルミネッセント材料を、他のフォトルミネッセント材料と組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本発明は、紫外光源および本発明のフォトルミネッセント材料を含む照明装置も提供する。本発明の照明装置では、公知の紫外光源、例えば水銀ランプやLEDを使用することができる。紫外光源としては、環境汚染の原因となる水銀を使用せず、且つエネルギー効率の高いLEDが好ましい。
【0028】
照明装置中でのフォトルミネッセント材料の使用方法に特に限定はない。例えば、紫外光源をガラスで覆い、バインダー(例えば透明のエポキシ樹脂)を使用して該ガラスの内側または外側にフォトルミネッセント材料を固定することができる。特に、本発明のフォトルミネッセント材料は、フォトルミネセンス機能以外に、窒素酸化物などを除去する能力を有するので、ガラスの外側にフォトルミネッセント材料を固定することによって、照明機能に加えて、空気清浄機能を有する照明装置を製造し得る。また、本発明のフォトルミネッセント材料を練りこんだガラスで、紫外光源を覆ってもよい。さらに、本発明のフォトルミネッセント材料を練りこんだ紙で紫外光源を覆うことによって、行灯のようなやわらかな光を照射する照明装置を製造し得る。
【0029】
本発明の照明装置は、蛍光灯のような日常生活に用いられる照明器具や液晶表示装置用バックライトなどに用いることができる。また、果物や野菜の害虫であるヤガ類の吸汁活動や産卵は黄色光によって抑えることができるので、ヤガ類の被害を防止するために、下記実施例に示すような黄色光を発光する本発明のフォトルミネッセント材料を含む照明装置を用いることができる。
【0030】
本発明のフォトルミネッセント材料は、フォトルミネセンス機能だけでなく、通常の金属イオン含有ゼオライトと同様に汚染物質(例えば、窒素酸化物など)を除去する機能を有する。そのため、本発明のフォトルミネッセント材料を窒素酸化物などの除去に使用することができる。また、下記実施例に示すように、本発明のフォトルミネッセント材料は、特定波長の紫外線照射によって窒素酸化物の除去機能が強まることから、汚染物質除去において光触媒機能を有すると考えられる。
【0031】
なお、窒素酸化物などの除去に本発明のフォトルミネッセント材料を使用し続けると、その除去機能が低下する。そして、この除去機能が低下した本発明のフォトルミネッセント材料は、発光が弱くなる、または消光することが確認された。そのため、本発明のフォトルミネッセント材料は、発光強度の低下または消光によって、窒素酸化物などの除去機能の低下を示すインジケーター機能も有する。
【0032】
さらに、本発明のフォトルミネッセント材料は、抗菌機能、消臭機能、スギ花粉不活化機能、放射性ヨウ素除去機能を有し得る。これらの機能は、銀と反応性の高いガス(例えば、硫化水素、メチルメルカプタン、エチルメルカプタンなど)と本発明のフォトルミネッセント材料との接触による銀硫化物などの生成によって失われるが、この機能消失は、発光強度の低下または消光によって、容易に判別することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
なお、以下では特に記載が無い限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0034】
実施例1(銀イオン含有X型ゼオライトの製造)
X型ゼオライト(東ソー社製:商品名「ゼオラム(登録商標)F−9、粉末」、粒子径:約1μm、イオン交換用の陽イオンとしてNa+イオンを含有、イオン交換容量:約4.8meq/g)(5g)を硝酸銀水溶液(500mL)中にて室温で1時間撹拌・保持して、銀イオン交換処理を行った。なお、得られる銀イオン含有X型ゼオライトの銀イオン含有率が、それぞれ、5%、15%および30%となるように、4.7mmol/L、14.1mmol/Lおよび23.5mmol/Lの濃度の硝酸銀水溶液を使用した。次いで銀イオン含有X型ゼオライトをろ過し、水洗して、湿潤状態の銀イオン含有X型ゼオライトを得た。また、水洗後の銀イオン含有X型ゼオライトを、大気雰囲気下にて50℃、100℃または180℃で5時間乾燥して、乾燥状態の銀イオン含有X型ゼオライトを得た。このようにして得られた銀イオン含有X型ゼオライト(0.1g)を1Nの硝酸(100mL)に溶かし、(株)日立ハイテクノロジーズ製の原子吸光光度計:「Z−2010」を使用する原子吸光法によって、その銀イオン含有率を測定した。また、得られた銀イオン含有X型ゼオライトに、VILBER LOURMAT社製の「VL−4LC」を使用して波長254nmまたは365nmの紫外線を照射し、その発光(即ちフォトルミネセンス)の有無および発光色を目視で観察した。また発光の開始波長、終了波長およびピーク波長を、日立社製の分光光度計F−4500を使用して測定した。これらの結果を下記表1−1および表1−2に示す。
【0035】
実施例2(銀イオン含有Y型ゼオライトの製造)
Y型ゼオライト(東ソー社製:商品名「HSZ−320NAA、粉末」、粒子径:約1μm、イオン交換用の陽イオンとしてNa+イオンを含有、イオン交換容量:約4.0meq/g)(5g)を硝酸銀水溶液(500mL)中にて室温で1時間撹拌・保持して、銀イオン交換処理を行った。なお、得られる銀イオン含有Y型ゼオライトの銀イオン含有率が、それぞれ、5%、15%および30%となるように、4.0mmol/L、12.0mmol/Lおよび20.0mmol/Lの濃度の硝酸銀水溶液を使用した。次いで銀イオン含有Y型ゼオライトをろ過し、水洗した後、大気雰囲気下にて100℃、180℃または1000℃で5時間乾燥した。このようにして得られた銀イオン含有Y型ゼオライトの銀イオン含有率およびフォトルミネセンスを、実施例1と同様にして測定した。これらの結果を下記表1−1および表1−2に示す。
【0036】
実施例3(銀イオンおよび他の金属イオン含有X型ゼオライトの製造)
実施例1で製造した銀イオン含有X型ゼオライト(銀イオン含有率の設計値:30%、測定値:24.8%、乾燥温度:50℃)(1g)を、硫酸亜鉛水溶液、硝酸カルシウム水溶液、硫酸マグネシウム水溶液または硫酸カリウム水溶液(各100mL)中にて室温で5時間撹拌・保持して、他の金属イオン(即ち、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンまたはカリウムイオン)の交換処理を行った。なお、得られる銀イオンおよび他の金属イオン含有X型ゼオライトの他の金属イオン含有率が3%となるように、硫酸亜鉛水溶液、硝酸カルシウム水溶液、硫酸マグネシウム水溶液および硫酸カリウム水溶液の濃度を、それぞれ、4.7mmol/L、7.7mmol/L、12.6mmol/Lおよび7.8mmol/Lに調整した。次いで銀イオンおよび他の金属イオン含有X型ゼオライトを、ろ過し、水洗した後、大気雰囲気下にて50℃で5時間乾燥した。このようにして得られた銀イオンおよび他の金属イオン含有X型ゼオライト(0.1g)を1Nの硝酸(100mL)に溶かし、(株)日立ハイテクノロジーズ製の原子吸光光度計:「Z−2010」を使用する原子吸光法によって、他の金属イオン含有率を測定した。また、得られた銀イオンおよび他の金属イオン含有X型ゼオライトのフォトルミネセンスを実施例1と同様にして調べた。これらの結果を下記表1−1および表1−2に示す。
【0037】
比較例1(銀イオン含有A型ゼオライトの製造)
A型ゼオライト(東ソー社製:商品名「ゼオラム(登録商標)A−4、粉末」、粒子径約1μm)(5g)を硝酸銀水溶液(500mL)中にて室温で5時間撹拌・保持して、銀イオン交換処理を行った。なお、得られる銀イオン含有A型ゼオライトの銀イオン含有率が、それぞれ、5%、15%および30%となるように、5.3mmol/L、15.9mmol/Lおよび26.5mmol/Lの濃度の硝酸銀水溶液を使用した。次いで銀イオン含有A型ゼオライトをろ過し、水洗した後、大気雰囲気下にて50℃、100℃または180℃で5時間乾燥した。このようにして得られた銀イオン含有A型ゼオライトの銀イオン含有率およびフォトルミネセンスを実施例1と同様にして測定した。これらの結果を下記表2に示す。
【0038】
比較例2(銀イオン含有ZSM5型ゼオライトの製造)
ZSM5型ゼオライト(ユニオン昭和社製:商品名「アブセンツ3000粉末」、粒子径約1μm)(5g)を硝酸銀水溶液(500mL)中にて室温で5時間撹拌・保持して、銀イオン交換処理を行った。なお、得られる銀イオン含有ZSM5型ゼオライトの銀イオン含有率が3%となるように、4.7mmol/Lの濃度の硝酸銀水溶液を使用した。次いで銀イオン含有ZSM5型ゼオライトをろ過し、水洗した後、大気雰囲気下にて50℃で5時間乾燥した。このようにして得られた銀イオン含有ZSM5型ゼオライトの銀イオン含有率およびフォトルミネセンスを実施例1と同様にして測定した。これらの結果を下記表2に示す。なお、疎水性であるZSM−5型ゼオライトはイオン交換容量が小さく、下記表2に示すように、銀イオン含有率の測定値は設計値よりもかなり少なかった。
【0039】
【表1−1】

【0040】
【表1−2】

【0041】
【表2】

【0042】
上記表1−2で示されるように、実施例1〜3で製造した銀イオンを含有するX型ゼオライトおよびY型ゼオライトは、254nmおよび365nmの紫外線照射によって可視光を発光し、フォトルミネッセント材料として機能する。なお、これらの発光の開始波長から終了波長までに幅があるのは、実施例1〜3にて、発光波長が異なるフォトルミネッセント材料の混合物が得られているためであると推測される。特に、実施例2で製造した15Ag−Y−1000および30Ag−Y−1000は、365nmの紫外線照射(即ち照射2)によって、少し青みがかった白色光を発光した。一方、上記表2で示されるように、比較例1および2で製造した銀イオンを含有するA型ゼオライトおよびZSM5型ゼオライトは、いずれも、紫外線を照射しても可視光を発光しなかった。
【0043】
実験例1(二酸化窒素の除去実験)
実施例1で製造した銀イオン含有X型ゼオライト(略称:「30Ag−X−180」、銀イオン含有率の測定値:24.8%)、実施例2で製造した銀イオン含有Y型ゼオライト(略称:「30Ag−Y−180」、銀イオン含有率の測定値:15.8%)、および比較例1で製造した銀イオン含有A型ゼオライト(略称:「30Ag−A−180」、銀イオン含有率の測定値:27.5%)を、二酸化窒素の除去実験に使用した。詳しくは、ガスバッグ内に二酸化窒素濃度が100ppmであるガス(1.5L)を封入し、このガスバッグ内に銀イオン含有ゼオライト(0.2g)を入れて、室温下での二酸化窒素濃度を検知管にて測定した。ガスバッグ内に銀イオン含有ゼオライトを入れる前(実験前)の二酸化窒素濃度、並びに銀イオン含有ゼオライトを入れてから30分後、60分後および120分後の二酸化窒素濃度の値を下記表3に示す。
【0044】
この実験では、東芝ブラックライトブルー蛍光灯(FL20S/BL−B)を使用して、室温下で銀イオン含有ゼオライトに波長352nmの紫外線を照射した場合のガスバッグ内の二酸化窒素濃度も測定した。この際の紫外線照射距離(即ち、銀イオン含有ゼオライトと蛍光灯との距離)を14cmとし、紫外線強度を約0.4mW/cm2とした。なお、紫外線照射だけでは二酸化窒素が分解しないことを確認するために、銀イオン含有ゼオライトを使用しない紫外線照射だけのブランク実験を行い、その二酸化窒素濃度も測定した。結果を下記表3に示す。
【0045】
また、この実験前後で、銀イオン含有ゼオライトに波長352nmの紫外線を室温下で照射した際の発光を目視で観察した。その発光の有無および強弱を下記表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
本発明の銀イオン含有ゼオライト(30Ag−X−180および30Ag−Y−180)は、二酸化窒素の除去実験前には紫外線照射で強い発光を示していたが、この実験後には発光が弱くなった。また、発光が弱くなった本発明の銀イオン含有ゼオライトは、二酸化窒素の除去能力が低下していることを確認した。このことから、本発明の銀イオン含有ゼオライトを二酸化窒素の除去に用いれば、二酸化窒素の除去能力の低下を発光強度の低下によって知ることができる。即ち、本発明の銀イオン含有ゼオライトは、二酸化窒素の除去能力の低下を示すインジケーター機能も有する。一方、比較例の銀イオン含有ゼオライト(30Ag−A−180)は、そもそもフォトルミネセンスを示さず、インジケーター機能を有さない。
【0048】
また、本発明の銀イオン含有ゼオライト(30Ag−X−180および30Ag−Y−180)は、紫外線照射によって、二酸化窒素の除去能力が大幅に向上した。これは、二酸化窒素の除去において、本発明の銀イオン含有ゼオライトが光触媒機能を発揮するためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のフォトルミネッセント材料(銀イオン含有フォージャサイト型ゼオライト)は、紙幣等の偽造防止用の発光塗料や照明装置などに利用することができる。また、本発明のフォトルミネッセント材料は、汚染物質(例えば、窒素酸化物など)を吸着・除去するとフォトルミネセンスを示さなくなることから、汚染物質の除去能力の低下・消失を示すインジケーターとしても使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオンを含有するフォージャサイト型ゼオライトであり、紫外線の照射によって可視光を発光するフォトルミネッセント材料。
【請求項2】
波長が200nm以上380nm未満である紫外線の照射によって、可視光を発光する請求項1に記載のフォトルミネッセント材料。
【請求項3】
銀イオン含有率が、フォトルミネッセント材料全体に対して1重量%超30重量%以下である請求項1または2に記載のフォトルミネッセント材料。
【請求項4】
フォージャサイト型ゼオライトが、X型ゼオライトである請求項1〜3のいずれか一項に記載のフォトルミネッセント材料。
【請求項5】
さらに亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびカリウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも一つを含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のフォトルミネッセント材料。
【請求項6】
さらにカルシウムイオンを含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のフォトルミネッセント材料。
【請求項7】
紫外光源および請求項1〜6のいずれか一項に記載のフォトルミネッセント材料を含む照明装置。
【請求項8】
液晶表示装置用バックライトである請求項7に記載の照明装置。
【請求項9】
窒素酸化物の除去に使用するための請求項1〜6のいずれか一項に記載のフォトルミネッセント材料。

【公開番号】特開2012−52102(P2012−52102A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164754(P2011−164754)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000115980)レンゴー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】