説明

銀イオン抗菌液の生成方法、その方法で生成される銀イオン抗菌液、又は銀イオン抗菌粉末の生成方法、その方法で生成される銀イオン抗菌粉末

【課題】本発明の課題は、原材料費が安く、高い安全性に優れる特性を有する銀ゼオライトを用いて、細菌の即効性能を有し、また、市販品のTINOSAN SDC(商品名)と同様のクエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液を安価に生成できる生成方法を提供することである。
【解決手段】本発明の銀イオン抗菌液の生成方法は、銀ゼオライトがA型又はX型の銀ゼオライトであり、該銀ゼオライトの0.1〜20.0重量%の範囲の配合量を秤量し、該銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が1.2以上の配合量を秤量して精製水に配合する処理と、上記精製水に配合した上記銀ゼオライトおよびクエン酸を撹拌し混合して、少なくともクエン酸銀錯体及びシリカ水和物を含む混合液を調製する処理と、上記混合液中に生成されるシリカ水和物を除去する処理とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性が高く、原材料費が低価格な銀ゼオライトを用いて、その結晶構造内に含有する銀イオンの溶出により生成される銀イオン抗菌液の生成方法、その方法で生成される銀イオン抗菌液、又は銀イオン抗菌粉末の生成方法、その方法で生成される銀イオン抗菌粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌は人体の分泌物を分解することで臭気を産生するといわれている。例えば、腋臭の臭気の原因は、皮膚のアポクリン汗腺から分泌する汗が原因であるが、その汗が皮膚上に分泌されると皮脂腺から分泌された脂肪分やエクリン汗腺から分泌された汗と混ざり、それが皮膚や脇毛の皮膚常在細菌により分解され、腋臭の臭気を発する物質が生成される。上記皮膚常在菌には黄色ブドウ球菌、アクネ菌等があり、臭気の成分には、酪酸、吉草酸等がある。臭いとしては、腋臭、汗臭、毛髪臭等がある。
【0003】
ところで、一般的な臭気の種類としては、脂肪酸系(体臭、汗など)、窒素化合物系(腐敗した尿など)、硫黄化合物系(糞便など)の三つのタイプに大きく分けられる。これらの臭気を防ぐ手段には、(1)香料によるマスキング、(2)活性炭、ゼオライト等による吸着、(3)酸、アルカリによる中和、(4)抗菌剤で細菌を殺菌する方法がある。(1)のマスキングは香料の揮発により一時的に臭気を感じさせないが、悪臭が再現されて根本的な臭気防止の効果はない。(2)の吸着法は吸着能力に限界があるために徐効性能に問題がある。(3)の中和法は特定の悪臭にしか適用できない、との問題がある。(4)の抗菌剤で細菌を殺菌する方法は、抗菌剤の種類によりアレルギーなどの刺激があり好ましくないものがあるが、銀系無機抗菌剤(銀ゼオライト)は、高い安全性、抗菌スペクトル、持続性等を有することが評価され、例えば、抗菌液、消臭液、化粧品、サニタリー製品等の製品に使用されている。
【0004】
そして、上記銀ゼオライトに関して様々な発明が提案されている。
例えば、イオン交換可能なイオンの一部又は全部を亜鉛イオン、アンモニウムイオン及び銀イオンの金属イオンでイオン交換した抗菌性ゼオライトと、シリコーンを含有した防臭化粧料が提案されており、該防臭化粧料の抗菌性ゼオライト((株)シナネンゼオミック製ゼオミックAJ10N、平均粒径約2.5μm)(銀ゼオライトの銀イオンを担持する重量;2.2重量%)をエアゾールタイプとして用いることが記載されている(特許文献1参照)。また、上記銀イオンの抗菌作用の喪失を抑制する試みとして、例えば、ゼオライトをアンモニウムイオン及び銀イオンで置換した銀ゼオライトに、シリコーンを配合することで耐変色性に優れた防臭化粧料が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
上記銀ゼオライトに即効性能のないことを指摘した特許文献3が知られている。特許文献3には、細菌や、かびに対して抗菌効果が長期間持続する抗菌剤として、亜鉛、銀、銅などの重金属のイオンを含むゼオライト系抗菌剤が一般的に使用されている。重金属イオンの種類としては、銀イオンが、安全性の点で特に優れていることから、近年広く使用されている。銀イオンは、処理直後の殺菌力および消臭力に関しては、塩素系殺菌剤などの酸化剤に比べると殺菌性能が不十分であることが記載されている。その問題を解決するために、ゼオライト系抗菌剤に代えて銀クロロ錯塩と酸化剤を含む抗菌剤が提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
上記したこれらの銀ゼオライトは、銀ゼオライトの銀イオンの溶出を利用する発明であって、アルミノケイ酸塩による三次元骨格構造、即ちケイ素(Si)とアルミニウム(Al)が酸素(O)を介して結合したSi-O-Al-O-Siの三次元骨格構造を有しており、アルミニウム(+3価)とケイ素(+4価)が酸素(-2価)を互いに共有するため、ケイ素の周りは電気的に中性となり、アルミニウムの周りは-1価(Al-)となる。この負電荷を補償するために、通常はナトリウムイオン(Na+)を保持している。上記銀ゼオライトは、上記骨格中のナトリウムイオンの一部を抗菌性を有する銀イオン(Ag+)で置き換えたものである。その銀イオンが上記骨格中に静電気的に結合した構造を有しており、その構造を有しているが故に、イオン交換作用により上記銀イオンが溶出して細菌を殺菌し、優れた徐放性能(長時間に抗菌作用を発揮する性能)を有しているといわれている。
しかしながら、上記銀ゼオライトは、水中に存在するカチオンとのイオン交換による銀イオンの溶出を利用しているために、徐々に溶出した銀イオンが細菌を殺菌するので長い時間がかかる。即ち細菌を短時間に殺菌する即効性能がないことが問題として指摘されている(非特許文献1参照)。
【0007】
ところが、特許文献4には、電気分解装置を用いて殺菌の即効性能を有する水性の殺菌剤が提案されている。その水性の殺菌剤は、クエン酸水溶液中で銀電極を備えた電気分解装置で生成した銀イオンと、上記クエン酸からクエン酸銀錯体が生成できることが開示されている。その電気分解装置は、図6に示すように、流量制御インゼクタ40、クエン酸タンク50、イオン室70、直流電源80、沈殿タンク90、パージタンク100および粒子フィルタ110から構成された装置である。上記イオン室70には、陽極71および陰極72が設置され、それら陽極71および陰極72は、互いに離れており、陽極71と陰極72との間にクエン酸の希釈溶液62が通ることができる。陽極71および陰極72のそれぞれは、99.9999%の純度の銀から形成されている。そして、上記電気分解装置で生成した銀イオンの化学構造を調べるために、試料を核磁気共鳴テスト(1H NMR)で測定してみたら、試料は圧倒的に過多のクエン酸を示し他のアニオンはほとんど存在しなかったので、銀イオンに対する錯結合が複合化していると考えられる旨の記載がある(特許文献4参照)。この記載は銀イオンとクエン酸で生成されるものは、その具体的な構造を特定することが困難であることを示唆している。
以上のように、特許文献4には、クエン酸水溶液中に銀電極を備える電気分解装置によってクエン酸銀錯体が生成できることが開示されている。
【0008】
そして、Ciba Specialty Chemicals社は、TINOSAN SDC(商品名)として、上記クエン酸銀錯体を含有する溶液を販売しており、このINCI(「化粧品原料の国際命名法(International Nomenclature of Cosmetic Ingredients)」)の名称は、Citric acid and silver citrateとして公表されている。そして、そのTINOSAN SDCは、スキンケアのための抗菌性銀であり、銀とクエン酸を用いてユニークな電気的処理により生産された銀錯体であることを報告している(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−092051号公報
【特許文献2】特開昭63−265809号公報
【特許文献3】国際公開第99/065317号
【特許文献4】特表2001−519361号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「人体常在菌のはなし」、青木皐著、集英社新書、第182〜183頁、2009年12月20日(第9刷発行)
【非特許文献2】http://www.texasnaturalsupply.com/productinfo.aspx?productid=TSDCP
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献4に記載のクエン酸銀錯体は、流量制御インゼクタ40、クエン酸タンク50、イオン室70、直流電源80、沈殿タンク90、パージタンク100および粒子フィルタ110から構成された電気分解装置の、上記イオン室70に高純度の銀で形成された陽極および陰極の間にクエン酸の希釈溶液を満たす容器中で生成されている。従って、電気分解装置を備えるための設備費や、高純度の銀で形成された陽極および陰極を消耗品としての銀を交換するための維持費等が高額となり、クエン酸銀錯体を生成する費用が高価であり、その費用を低廉にするのが難しい。そして、TINOSAN SDC(商品名)は、ユニークな電気的処理により生産された銀錯体である旨の報告がされているので、特許文献4と類似の電気分解装置と銀の電極によりクエン酸銀錯体を生成する方法で作製しているものと推測される。
【0012】
そして、市販品のTINOSAN SDC(商品名)は、スキンケア用の抗菌剤として防腐剤パラベンを使用しないパラベンフリー、アルコールを使用しないアルコールフリーで、誰でもが安心して使用できるので、優れた抗菌剤として評価されている。しかし、一般の消費者が日常的に使用するには非常に高価であることが難点となり、一般に普及していない。そこで、クエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液を生成するのに、低廉に生成できる方法が希求されている。
【0013】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点に鑑み、原材料費が安く、高い安全性に優れる特性を有する銀ゼオライトを用いて、細菌の殺菌の即効性能を有し、また、市販品のTINOSAN SDC(商品名)と同様のクエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液を安価に生成できる、銀イオン抗菌液の生成方法、その方法で生成される銀イオン抗菌液、又は銀イオン抗菌粉末の生成方法、その方法で生成される銀イオン抗菌粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従来の銀ゼオライトは、Si-O-Al-O-Siの三次元骨格中のAlが電気的にカチオンと結合する構造を有するので、イオン交換作用による徐放性能を奏することが評価されている。例えば、抗菌液、消臭液、化粧品、サニタリー製品等に使用されている。しかしながら、細菌の殺菌の即効性能がないことから、上記銀ゼオライトを原材料として用いて、細菌を短時間に殺菌できる銀イオンの生成方法について本発明者は鋭意検討を重ねた結果、上記Si-O-Al-O-Siの三次元骨格中の銀イオン(Ag)が電気的に結合するその骨格を崩壊させれば、該骨格から銀イオン(Ag)を溶出できると考えた。そこで三次元骨格を崩壊させるため安全性の高いクエン酸を選び、そのクエン酸と銀ゼオライトを精製水に配合して、上記骨格から溶出した銀イオンがクエン酸と反応してクエン酸銀錯体が生成されるか否かを確認するために、試行錯誤して様々な実験を行い、その結果、銀ゼオライトの配合量(重量%)に対して、クエン酸を配合する割合である配合比率が1.2以上であれば、クエン酸が銀ゼオライトのイオン交換サイトを形成する結晶構造を崩壊して、銀ゼオライトが含有していた全ての銀イオンを溶出することを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の銀イオン抗菌液の生成方法は、以下の通りのものである。
請求項1に係る発明の銀イオン抗菌液の生成方法は、銀ゼオライトから溶出する銀イオンを含有する銀イオン抗菌液の生成方法であって、前記銀ゼオライトがA型又はX型の銀ゼオライトであり、該銀ゼオライトの0.1〜20.0重量%の範囲の配合量を秤量し、該銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が1.2以上の配合量を秤量して精製水に配合する処理と、上記精製水に配合した上記銀ゼオライトおよびクエン酸を撹拌し混合して、少なくともクエン酸銀錯体及びシリカ水和物を含む混合液を調製する処理と、前記混合液中に生成されるシリカ水和物を除去する処理とからなることを特徴とする。
請求項2に係る発明の銀イオン抗菌液の生成方法は、前記銀ゼオライトの銀担持量が0.5〜5.0重量%であることを特徴とする。
請求項3に係る発明の銀イオン抗菌液は、請求項1又は2に記載の銀イオン抗菌液の生成方法で生成されることを特徴とする。
請求項4に係る発明の銀イオン抗菌液は、前記銀イオン抗菌液の銀イオン濃度が銀ゼオライトの配合量と銀担持量で任意に調製することができることを特徴とする。
請求項5に係る発明の銀イオン抗菌粉末の生成方法は、請求項1に記載の銀イオン抗菌液の生成方法のシリカ水和物を除去する処理の後に、上記シリカ水和物を除去した混合液を、凍結乾燥又は噴霧乾燥して銀イオン抗菌粉末を生成する処理とからなることを特徴とする。
請求項6に係る発明の銀イオン抗菌粉末の生成方法は、前記銀ゼオライトの銀担持量が0.5〜5.0重量%であることを特徴とする。
請求項7に係る発明の銀イオン抗菌粉末は、請求項5又は6に記載の銀イオン抗菌粉末の生成方法で生成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の銀イオン抗菌液の生成方法は、前記電気分解装置と銀の電極を使用しないで、低廉なA型又はX型銀ゼオライトとクエン酸を原材料として使用し、クエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液が生成できるので、製造コストを大幅に下げることができる。
また、本発明の銀イオン抗菌液の生成方法は、銀ゼオライトの配合量が決まれば、クエン酸の配合量を配合比率1.2以上の量として簡単に決められ、また、銀イオン抗菌液を生成する処理は秤量、配合、撹拌混合、シリカ水和物を除去して銀イオン抗菌液を回収する処理からなるので、簡単な処理操作である。
本発明の銀イオン抗菌液は、その用途に応じて、その銀イオン濃度を銀ゼオライトの配合量と銀担持量で任意に調製することができ、また、安価であるから普及品として一般の人が利用でき、更に、例えばスキンケア用の抗菌剤としてパラベンフリー、アルコールフリーで誰もが安心して使用できる。
また、本発明の銀イオン抗菌液は、従来の銀担持ゼオライトのイオン交換作用では不可能であった、細菌を短時間に殺菌する即効性を発揮する。
本発明の銀イオン抗菌粉末の生成方法は、銀イオン抗菌液を粉末状にすることで、貯蔵空間が少なくてすみ、軽量化により大量に運搬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】銀担持量0.5重量%の銀ゼオライトの配合量と銀イオン濃度の相関を示す近似直線のグラフである。
【図2】銀担持量2.5重量%の銀ゼオライトの配合量と銀イオン濃度の相関を示す近似直線のグラフである。
【図3】銀担持量5.0重量%の銀ゼオライトの配合量と銀イオン濃度の相関を示す近似直線のグラフである。
【図4】銀ゼオライト配合量と銀イオン濃度の関係を示すグラフである。
【図5】1、3、24時間の観察時間ごとの各試料の性状を示す写真である。
【図6】従来のクエン酸銀錯体を生成する電気分解装置の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(最良の実施形態)
本発明に用いる銀ゼオライトは、A型又はX型銀ゼオライトである(以下、これらの銀ゼオライトを単に「銀ゼオライト」という。)。X型銀ゼオライトは高価なのでA型銀ゼオライトを用いることが好ましい。このA型又はX型銀ゼオライトは酸により溶解されるので、本発明がこの両ゼオライトを用いる理由である。しかし、Y型銀ゼオライトやモルデナイト型銀ゼオライトは酸に溶解しないので使用できない。銀ゼオライトの構造式は下記の通りである。
(αNa2 βAg2)O・Al2O3‐2SiO2nH2O (α+β=1 n=5:110℃乾燥品)
上記銀ゼオライトのイオン交換サイトを形成する結晶構造は、Si-O-Al-O-Siの構造を三次元的に結合した結晶構造中のAl部分に、銀イオンが静電気的に結合した構造を有しており、イオン交換作用により上記結晶構造中の銀イオンが溶出して細菌を殺菌するといわれている。
【0018】
(銀ゼオライトの製造方法)
銀担持量0.5、2.5、5.0重量%の3種類の銀ゼオライトの製造方法を説明する。
一例としてA型ゼオライトで説明するが、材料としてX型ゼオライトもA型ゼオライトの製造の手順と同じである。なお、以下に説明する銀ゼオライトの製造方法は、普通に用いられている製造方法である。
1.銀担持量0.5重量%の銀ゼオライト
(1)材料
A型ゼオライト(110℃乾燥品):1000g
硝酸銀(AgNO3):7.9g
【0019】
(2)製造の手順
10Lポリ容器に水4.0Lを入れ、撹拌する。そこへ少しずつA型ゼオライト(Na型)を入れて懸濁液を作る。3時間ほど連続して撹拌し、固体内の空気を出す。
所定時間経過後pHを確認する。pH5〜7になるよう、希硝酸(6倍希釈)を少量ずつ添加し、pH試験紙にて大まかなpH変化を確認する。
別途、硝酸銀を水3.0Lに混合しておき、それをA型ゼオライトスラリーに撹拌下少しずつ投入する。その後一晩撹拌放置する。
ヌッチェに磁性ロートを設置し、標準濾紙を敷き、そこへ前記銀ゼオライトスラリーを静かに注ぐ。
吸引工程の液切れ前に5L水量で洗浄する。
その後110℃で一晩乾燥し、冷却後乳鉢で粉砕する。平均粒径が2〜2.5μmの粉末状のA型銀ゼオライトができる。
【0020】
2.銀担持量2.5重量%の銀ゼオライト
(1)材料
A型ゼオライト(110℃乾燥品):1000g
硝酸銀(AgNO3):39.7g
(2)製造の手順は上記手順と同様である。
3.銀担持量5.0重量%の銀ゼオライト
(1)材料
材料A型ゼオライト(110℃乾燥品):1000g
硝酸銀(AgNO3):79.5g
(2)製造の手順は上記手順と同様である。
【0021】
(銀イオン抗菌液の生成方法)
本発明の銀イオン抗菌液の生成方法は、最初に、銀ゼオライトの0.1〜20.0重量%の範囲の配合量を秤量し、その銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が1.2以上の配合量を秤量して精製水に配合する処理と、次に、その精製水に配合した上記銀ゼオライトおよびクエン酸を撹拌し混合して、少なくともクエン酸銀錯体及びシリカ水和物を含む混合液を調製する処理と、最後に、その混合液中に生成されるシリカ水和物を除去する処理とからなり、その除去処理により少なくとも上記クエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液を得ることができる。上記クエン酸は、市販品のクエン酸一水和物である。上記配合比率は、銀ゼオライトの配合量(重量%)に対するクエン酸の配合量(重量%)の割合、即ち「クエン酸の重量%/銀ゼオライトの重量%」の比率を意味しており、その比率を「配合比率」と定義して以下に用いる。
【0022】
銀イオン抗菌液の生成方法を具体的な例で説明する。
(精製水に配合する処理)
生成する銀イオン抗菌液の所望量に基づいて、A型又はX型の銀ゼオライト(以下、「銀ゼオライト」という。)、クエン酸及び精製水の各配合量を決めておく。銀ゼオライトの0.1〜20.0重量%の範囲の配合量を秤量し、その秤量した上記銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が1.2以上の配合量を秤量し、常温(28℃)で上記配合量が決められた精製水に両材料を配合して配合液を調製する。その両材料を配合した配合液の外観は、白濁である。その白濁から透明になるまで撹拌し混合して混合液を生成する。混合液は少なくとも2分間撹拌し混合すると透明になる。又は、常温で精製水に銀ゼオライトを配合して配合液を調製し、同様に常温で精製水にクエン酸を配合して配合液を調製した後に、両液を混合し撹拌して混合液を生成する。混合液は少なくとも2分間撹拌し混合すると透明になる。何れの生成方法であっても良い。
一方、市販品の銀担持量2.2重量%のゼオミックAJ10N((株)シナネンゼオミック製)を用いて、上記生成方法と同様の方法で銀イオン抗菌液を生成できる。
【0023】
(混合液を調製する処理)
次に、混合液を調製する処理において生成される生成物を説明する。
精製水に配合した銀ゼオライト((αNa2 βAg2)O・Al2O3‐2SiO2nH2O(α+β=1 n=5:110℃乾燥品))とクエン酸(C6H8O7)を撹拌し混合した混合液は、両者の化学式からみて、クエン酸銀錯体、クエン酸アルミニウム錯体、ナトリウムイオン(Na+)、シリカ水和物を含んでいる。
銀ゼオライトとクエン酸の混合により、最初に、クエン酸のプロトン(H+)が銀ゼオライトのSi-O-Al-O-Siの構造中のAl-O部分をアタックして切断し、その結果ゼオライト骨格を崩壊し、イオン交換吸着サイトが失われるので銀イオンが混合液中に溶出する。
その銀イオンはクエン酸と反応して多くの銀イオンがクエン酸銀錯体を生成し、同時にごく僅かな銀イオンを生成する。一方、アルミニウムはクエン酸と反応してクエン酸アルミニウム錯体を生成し、その他には、シリカ水和物及びナトリウムイオンを生成すると推測される。
上記クエン酸銀錯体の構造式を以下に示す。

yは1及び/又は2であり、yが3であると難溶性で水に溶けなくなる。銀イオンとクエン酸の反応で生成されるクエン酸銀錯体は、殆どがクエン酸1銀のものであるから、yが1でxが2の錯体である。
【0024】
(シリカ水和物を除去する処理)
ところで、本発明の課題は、市販品のTINOSAN SDC(商品名)と同様のクエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液を安価に生成できる、銀イオン抗菌液の生成方法、その方法で生成される銀イオン抗菌液等を提供することにある。上記混合液を調製する処理において生成される生成物には、クエン酸銀錯体以外にシリカ水和物、クエン酸アルミニウム錯体等が生成される。そのクエン酸アルミニウム錯体を粉末化したクエン酸アルミニウムは制汗剤として化粧用に利用されるが、上記シリカ水和物はその表面に水酸化銀が吸着してシリカ水和物水酸化銀を生成して凝集し、その凝集生成物に光が照射されると酸化銀(黒褐色)となる恐れがあるので、混合液中から少なくともシリカ水和物は除去する必要がある。
【0025】
シリカ水和物を除去するには、(1)沈殿した凝集シリカ水和物水酸化銀をデカンテーションで処理、(2)上記沈殿した凝集シリカ水和物水酸化銀をフィルタで処理、(3)シリカ水和物が凝集する前にフィルタで処理、(4)精製水に銀ゼオライト、クエン酸を配合する際に、二価金属塩(例えば、クエン酸亜鉛等)を添加してその二価金属イオンをシリカ水和物に結合させ沈殿させて処理、でシリカ水和物を除去することができる。
(1)デカンテーションで除去する処理
化学反応は常温で通常24時間で平衡状態になるので、上記混合液を生成してから平衡状態になる24時間後の混合液は、シリカ水和物の表面に水酸化銀が吸着したシリカ水和物水酸化銀が凝集されて沈殿物が生成されるので、デカンテーションで銀イオン抗菌液を回収する。
上記デカンテーションは24時間に限定されるものではなく、常温から温度を高く、例えば70℃にすれば7時間で上記混合液中に上記シリカ水和物水酸化銀が凝集して沈殿するので、温度を任意に変えることで短時間にデカンテーションで銀イオン抗菌液を回収できる。
【0026】
(2)フィルタで除去する処理
常温の28℃では、24時間で上記混合液中に凝集シリカ水和物水酸化銀が沈殿するので、濾過はWatman CF/C 濾紙でこの凝集シリカ水和物水酸化銀を分離して銀イオン抗菌液を回収することで、(1)の処理より銀イオン抗菌液の収率を向上できる。
上記したように、温度を高く、例えば70℃にすれば7時間で上記混合液中に凝集シリカ水和物水酸化銀が沈殿するので、上記濾紙で凝集シリカ水和物水酸化銀を分離して銀イオン抗菌液を、(1)の処理より収率よく回収できる。
(3)シリカ水和物の凝集前にフィルタで除去する処理
常温の28℃では10分間で上記混合液中にシリカ水和物が生成されるので、フィルタで上記シリカ水和物を分離して銀イオン抗菌液を回収する。
【0027】
(4)クエン酸亜鉛又はクエン酸カルシウムの各イオンをシリカ水和物に結合させ沈殿させて除去する処理
精製水に銀ゼオライト、クエン酸を配合する際に、クエン酸亜鉛又はクエン酸カルシウムを添加して亜鉛イオン又はカルシウムイオンをシリカ水和物に結合させ沈殿させて、フィルタで亜鉛イオン又はカルシウムイオンが結合したシリカ水和物を分離して銀イオン抗菌液を回収する。又は、亜鉛イオン又はカルシウムイオンが結合したシリカ水和物を、デカンテーションで分離して銀イオン抗菌液を回収しても良い。
シリカ水和物を除去する処理は、上記(1)〜(4)の処理に限定されるものではなく、上記(1)〜(4)の処理を適宜組み合わせて用いても良い。例えば、本発明の銀イオン抗菌液の用途に応じて、(3)の処理で回収した銀イオン抗菌液中に、シリカ水和物が極わずかながらでも含まれていると問題を生じる恐れがあれば、(3)の処理の後に(4)の処理を加えてシリカ水和物を除去することが好ましく、その(3)と(4)の処理の組合せで銀イオン抗菌液を回収しても良い。
【0028】
(銀イオン抗菌液の粉末化)
次に、回収された銀イオン抗菌液を粉末状にする銀イオン抗菌粉末の生成方法を説明する。上記銀イオン抗菌液の生成方法のシリカ水和物を除去する処理の後に、そのシリカ水和物を除去した混合液を減圧凍結乾燥機で凍結乾燥、又は減圧噴霧乾燥機で噴霧乾燥することでその混合液を粉末状にすることができる。例えば、銀ゼオライト(銀担持量2.5重量%、110℃乾燥品)11.0gとクエン酸一水和物13.2gを使用すると、上記シリカ水和物を除去した混合液を減圧凍結乾燥機で処理することにより18gの銀イオン抗菌粉末が生成できる。
このようにして得られた銀イオン抗菌粉末1.0gを水1000gに溶解させると完全に溶解し、その時の銀イオン濃度は15.2ppmであった。
【0029】
上記銀イオン抗菌液の銀ゼオライトとクエン酸の配合には、銀ゼオライトの0.1〜20.0重量%の範囲の配合量を秤量し、その銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が1.2以上の配合量を秤量して精製水に配合することを述べた。この銀ゼオライトの上記配合量およびクエン酸の上記配合量は、以下に述べる第1の実験の結果から導き出されたものである。第1の実験は、上述したように、銀ゼオライトとクエン酸の混合により、クエン酸のプロトン(H+)が銀ゼオライトのSi-O-Al-O-Siの構造中のAl-O部分の骨格構造を崩壊し、イオン交換吸着サイトが失われて銀イオンが混合液中に溶出するメカニズムを考慮すると、銀ゼオライトの分散液は白濁しているが、上記骨格構造の崩壊により混合液は透明になると仮定して行ったものである。
【0030】
そのために、透明な混合液を得るのに、銀ゼオライトの配合量(重量%)に対して、どの位の量のクエン酸を配合すれば、透明になるのかを調べる実験(以下、「第1の実験」という)を最初に行った。次に、銀ゼオライトが銀イオンを担持する重量%である銀担持量が異なるものを使用して、第1の実験結果から得られた上記配合比率で生成された混合液の銀イオン濃度を調べることで、銀ゼオライトが担持する全ての銀イオンを溶出できるのかを調べる実験(以下、「第2の実験」という)を行った。
【0031】
(第1の実験)
銀ゼオライトの一例として、上記銀ゼオライトの製造方法で製造したA型銀ゼオライトと市販品であるゼオミックAJ10N((株)シナネンゼオミック製、銀担持量2.2重量%)を試料として用いた。
A型銀ゼオライトは、0.1重量%又は0.5重量%の配合量の異なる2種類を秤量し、合計12個の試料を調製した。また、ゼオミックAJ10Nも上記の配合量の異なる2種類を秤量し、合計12個の試料を調製した。
上記0.1重量%又は0.5重量%の配合量が同じである各6個の試料に対して、表1の配合比率の欄に示すように、試料No.1及び7に対して0.9、試料No.2及び8に対して1.1、試料No.3及び9に対して1.2、試料No.4及び10に対して1.3、試料No.5及び11に対して1.5、試料No.6及び12に対して1.7を秤量した。この秤量した銀ゼオライトとクエン酸の粉末を精製水に配合して200gの配合液を調製し、2分後、10分後、30分後にその混合液のpHをpHメーターにより測定した。上記混合液の外観観察は目視により、白濁、半透明、透明の3段階で判定した。
【0032】
表1は、上記A型銀ゼオライトの合計12個の試料の第1の実験の結果である。そして、ゼオミックAJ10Nの0.1重量%及び0.5重量%の合計12個の試料の第1の実験の結果は、表1のA型銀ゼオライトの第1の実験の結果と測定誤差を考慮すると一致していることを示したので省略している。
なお、表1に示すNo.1〜12のpHの値は、試料数をN=3としてその算術平均で求めた。また、以下の表に示す値は、表1に示す試料数と同様に試料数をN=3としてその算術平均で求めたものである。
【表1】

【0033】
上記第1の実験の結果は、製造品および市販品の銀ゼオライトは、銀ゼオライトの配合量に対して、配合比率が1.1以下だと混合してから30分を経過しても上記混合液が半透明であり、一方、配合比率が1.2以上だと混合してから2分を経過すると上記混合液が透明であることが判った。そして、透明の混合液のpHが4.0以上の値を示した。この第1の実験結果から、銀ゼオライトの重量%に対するクエン酸の配合比率が1.2以上であると、混合液が透明になることが判明した。
以上のことから、クエン酸の配合比率を、上記銀ゼオライトの配合量(重量%)に対して1.2以上とすることで、混合液が2分後に透明になることから、クエン酸が銀ゼオライトのイオン交換サイトを形成する結晶構造を崩壊して、銀ゼオライトが含有していた全ての銀イオンを溶出するものと推測される。
【0034】
(第2の実験)
続いて、第2の実験の実験例について説明する。
第2の実験は、上記銀ゼオライトの製造方法で製造した、銀担持量の異なる3種類(0.5、2.5及び5.0重量%)と、市販品であるゼオミックAJ10N((株)シナネンゼオミック製、銀担持量2.2重量%、平均粒径約2.5μm)を試料として用いた。そして、上記銀ゼオライトの配合量に対して、クエン酸は、配合比率を試料No.1〜3に対して0.6、試料No.4〜6に対して0.9、試料No.7〜9に対して1.1、試料No.10〜12に対して1.2、試料No.13〜15に対して1.4の配合量を秤量した。そして、精製水に秤量した銀ゼオライトを配合して調製した配合液100gと、精製水に秤量したクエン酸を配合して調製した配合液100gとを、混合して混合液を生成した。
【0035】
精製水に銀ゼオライトとクエン酸を上記配合量で配合して200gの配合液を調製し、撹拌し混合して混合液を生成する。化学反応は通常24時間で平衡状態になるので、混合液を生成してから24時間後にその混合液の銀イオン濃度を測定した。24時間経った混合液は、半透明の沈殿物が生成されており、その沈殿物を分離するために濾過して、得られた液中の銀イオン濃度を高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(ICP S−8100、島津製作所(株)製)により測定した。
一方、比較例のNo.16として、精製水に銀ゼオライトを配合した配合液100gと生理食塩液(塩化ナトリウム0.8重量%)100gを混合した混合液200gを調製して、溶出する銀イオン濃度の測定を行った。その濃度は450〜590ppbであった。なお、この比較例のNo.16は、発汗(塩化ナトリウム0.9重量%)した状態の体に、特許文献1に記載のエアゾールタイプの防臭化粧料の銀ゼオライト(銀担持量が2.2重量%)を噴霧した条件と同じ場合を想定して、銀イオン濃度を測定したものである。
【0036】
なお、上記の第2の実験では、精製水に秤量した銀ゼオライトを配合して調製した配合液100gと、精製水に秤量したクエン酸を配合して調製した配合液100gとを、混合して混合液を生成したが、秤量した銀ゼオライトの配合量は最大で1.0gで、秤量したクエン酸の配合量は最大で1.3gの例を示したが、これは一例であってこの配合量に限定されるものではない。銀ゼオライト(110℃乾燥品)は、スラリーで操作するのに、精製水100gに対して、銀ゼオライトは50gまで、また、クエン酸は73gまで配合できる。単独の材料を精製水100gに配合する場合の配合量を説明したが、銀ゼオライトが最大でどれ位の配合量を配合して、本発明の銀イオン抗菌液が生成できるかを試みた。即ち、配合量を重量%で表示すれば、銀ゼオライトは最大で24重量%であり、クエン酸は28.8重量%、精製水は47.2重量%である。この配合量で混合液の生成を試みたが、未反応銀ゼオライトが沈殿を起こし溶解した混合液を得ることができなかった。そこで、事業的に銀イオン抗菌液が生成できる銀ゼオライトの配合量を決めるために、最大の配合量24重量%を減らして以下に述べる実験を試みた結果、銀ゼオライトの配合量は最大で20.0重量%が好ましいことが分かった。
【0037】
室温下(28℃)で200gビーカーに精製水を入れ、続いて表2に示す5種類の配合量のクエン酸を投入して完全に溶解させた。次に撹拌しながら表2に示す5種類の配合量のA型銀ゼオライト(銀担持量2.5重量%、110℃乾燥品)を投入した。この混合液100gを100gスクリュー管に保存して、1時間後、3時間後、24時間後の混合液の性状を観察した。その観察の結果を表2に示す。
【表2】

【0038】
図5は、1、3、24時間の観察時間ごとの各試料の性状を示す写真である。
表2及び図5から、試料No.1〜4は、銀ゼオライトとクエン酸の配合比率が1.2以上であれば銀ゼオライトは完全に溶解して、混合液の性状が液状で透明であるが、試料No.5は銀ゼオライトの一部が沈殿するために完全に溶解できない。また、混合した後3時間までは、混合液の性状が液状で透明であるが、24時間後には、試料No.1及び2はシリカ水和物の凝集が進み系全体がゲル化してしまい、この状態ではデカンテーション又はフィルタで上記シリカ水和物を除去することができない。しかしながら、混合した後3時間まではその性状が液状で透明であるので、フィルタで上記シリカ水和物を除去することができる。従って、銀ゼオライトの配合量は最大で20.0重量%が望ましい。
【0039】
第2の実験の結果を表3として、銀担持量の異なる4種類の銀ゼオライトごとに表3−1〜表3−4に示す。
【表3−1】

【表3−2】

【0040】
【表3−3】

【表3−4】

【0041】
表3−1〜表3−4の銀イオン濃度に関して、No.16の比較例は、0.45〜0.59ppmの値を示しており、この値であれば抗菌効果を奏することは明らかである。No.1〜15の実験例は、銀イオン濃度が最小で2.0ppmの値を示しており、比較例の約4倍の濃度であるから、抗菌効果を奏することも明らかである。
次に、銀担持量の異なる3種類の銀ゼオライトの第2の実験結果である表3−1〜表3−3に基づいて、横軸に銀ゼオライトの配合量の3種類の値(0.1、0.5、1.0重量%)を描画し、縦軸にその値に対する銀イオン濃度の3種類の値を描画して、配合比率の異なる5種類の溶出銀イオン濃度のグラフを作成した。図1は銀担持量0.5重量%の銀ゼオライトの配合量と銀イオン濃度の相関を示す近似直線のグラフである。図2は銀担持量2.5重量%の銀ゼオライトの配合量と銀イオン濃度の相関を示す近似直線のグラフである。図3は銀担持量5.0重量%の銀ゼオライトの配合量と銀イオン濃度の相関を示す近似直線のグラフである。●印はNo.13〜15の試料の近似直線であり、▲印はNo.10〜12の試料の近似直線であり、△印はNo.7〜9の試料の近似直線であり、○印はNo.4〜6の試料の近似直線であり、◇印はNo.1〜3の試料の近似直線のグラフである。
【0042】
図1〜図3のグラフからみて、配合比率が1.1以下の銀イオン濃度は、それが1.2以上の銀イオン濃度と比べて遥に低いことが分かる。そして、配合比率が1.2以上のNo.13〜15の●印の試料のグラフと、No.10〜12の▲印の試料のグラフは、他の△印、○印及び◇印の試料のグラフと比べて、銀イオン濃度の値が測定誤差を考慮するとほぼ一致していることは明らかである。なお、表3−4のゼオミックAJ10N((株)シナネンゼオミック製)の銀イオン濃度の値は、誤差を考慮すると、銀担持量2.5重量%の銀ゼオライトに近似しているので、該銀ゼオライトの試料の近似直線で代替させて上記ゼオミックAJ10Nの試料の近似直線を省略した。
【0043】
第2の実験の実験例1〜15では、秤量した銀ゼオライトの配合量が最大で1.0gで、秤量したクエン酸の配合量が最大で1.3gの例を示したが、表3−3のNo.15は、その例に該当するもので、銀担持量5.0重量%で銀イオン濃度が386.7ppmである。しかしながら、この銀イオン濃度は、No.15が最大であったが、上記配合比率が1.2以上であれば銀ゼオライトの配合量と銀担持量を増やせば増加できることを示している。生成された銀イオン抗菌液の用途に応じて、その銀イオン濃度を銀ゼオライトの配合量と銀担持量で任意に調製することができる。
【0044】
ところで、第1の実験から、精製水に銀ゼオライトの配合量に対して、配合比率が1.2以上のクエン酸の配合量を投入すれば、銀ゼオライトが担持する全ての銀イオンを溶出できるものと推測されると述べたが、No.10〜12の▲印の試料は、配合比率が1.2であり、No.13〜15の●印の試料は、配合比率が1.4であるから、No.10〜12及びNo.13〜15の試料は、銀ゼオライトが担持する全ての銀イオンが溶出されているために、銀イオン濃度の値が測定誤差を考慮するとほぼ一致していると考えられる。
そこで、表3−1〜表3−3のNo.10〜12及びNo.13〜15の銀ゼオライト配合量と銀イオン濃度のデータだけを摘出して表4を作成した。そして、その表4のデータに基づいて銀ゼオライト配合量と銀イオン濃度の関係を示す図4を作成した。
【表4】

【0045】
図4は、銀ゼオライト配合量と銀イオン濃度の関係を示すグラフであり、横軸に3種類の銀ゼオライト配合量の値(0.1、0.5、1.0g)を描画し、縦軸にその値に対する銀イオン濃度の値を描画して上記グラフを作成した。◇印はNo.10の試料の近似直線(y = 36.73x + 0.7443)であり、x印はNo.13の試料の近似直線(y = 45.243x - 1.8598)であり、No.10及び13の試料は銀担持量が0.5重量%である。囗印はNo.11の試料の近似直線(y = 178.79x + 2.3803)であり、*印はNo.14の試料の近似直線(y = 192.84x - 2.7459)であり、No.11及び14の試料は銀担持量が2.5重量%である。△印はNo.12の試料の近似直線(y = 376.28x + 2.518)であり、○印はNo.15の試料の近似直線(y = 388.49x - 3.1623)であり、No.12及び15の試料は銀担持量が5.0重量%である。
【0046】
図4は、No.10及び13(銀担持量が0.5重量%)の試料の両者の近似直線が、誤差を考慮すると同一の直線であり、No.11及び14(銀担持量が2.5重量%)の試料の両者の近似直線も同一の直線であり、No.12及び15(銀担持量が5.0重量%)の試料の両者の近似直線も同一の直線であることを示している。このことは、銀担持量が0.5重量%、2.5重量%又は5.0重量%と異なっていても、銀ゼオライトの配合量(重量%)に対して、配合比率が1.2以上の配合量(重量%)のクエン酸を精製水に配合すれば、銀ゼオライトが担持する全ての銀イオンを溶出できることを示している。
【0047】
ところで、本発明の課題は、原材料費が安く、高い安全性等に優れる特性を有する銀ゼオライトを用いて、クエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液を安価に生成できる銀イオン抗菌液の生成方法を提供することである。市販品のTINOSAN SDC(商品名)は、クエン酸銀錯体を含有することで、スキンケア用の抗菌剤としてパラベンフリー、アルコールフリーで安心して使用できるので、優れた抗菌剤として評価されている。しかしながら、TINOSAN SDC(商品名)は、一般の消費者が日常的に使用するには非常に高価であるために、普及品として利用されていない。それ故に、銀ゼオライトからクエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液が生成されるならば、普及価格帯の化粧液等が作製できる。
【0048】
(NMRのスペクトル分析)
そこで、生成された銀イオン抗菌液を粉末にして、NMR(核磁気共鳴スペクトル)によるスペクトル分析を行った。
(実施例)
実施例1は、2.5重量%銀担持のA型銀ゼオライト1gと、その配合比率1.2のクエン酸1.2gを精製水に配合し100gの水溶液にして混合して常温で2時間撹拌した後に、80℃で1時間処理してシリカ成分を凝集させて、2日静置して沈澱させて濾過液を減圧凍結乾燥機により粉末(銀18.8mg/1.2g)にして試料とした。
(比較例)
比較例1は、TINOSAN SDCを凍結乾燥機により粉末にして試料とした。
比較例2は、試薬のクエン酸を試料とした。
各試料10mgを0.8gの重水に溶かして、600MHzH NMR(核磁気共鳴スペクトル)によるスペクトル分析を行った。
実施例、比較例1及び比較例2のシグナルからクエン酸銀錯体のシグナルを同定することはできなかった。
【0049】
NMRでクエン酸銀錯体を同定できなかったので、次に、銀ゼオライトとクエン酸との化学反応を検討して、生成された混合液に含有する生成物の検討を行った。
(混合液に含有の生成物)
上記したように、銀ゼオライトの構造式は下記の通りである。
(αNa2 βAg2)O・Al2O3‐2SiO2nH2O (α+β=1 n=5:110℃乾燥品)
上記銀ゼオライトのイオン交換サイトを形成する結晶構造は、Si-O-Al-O-Siの構造を三次元的に結合した結晶構造中のAl部分に、銀イオンが静電気的に結合した構造を有しており、イオン交換作用により上記結晶構造中の銀イオンが溶出して細菌を殺菌するといわれている。換言すれば、A型銀ゼオライトは、シリカ(SiO)とアルミナ(AlO)からなるアルミノケイ酸塩で、その骨格が(AlO四面体および(SiO四面体が三次元的に結合した結晶構造中のAl部分に、静電気的に銀イオンが吸着された構造を有している。
【0050】
A型銀ゼオライトのクエン酸による崩壊の過程は次のように考えられる。
1.クエン酸のプロトン(陽子)がA型銀ゼオライトの(AlO4四面体の負の電荷部位に存在するナトリウムイオンとイオン交換する。(銀イオンに比べてナトリウムイオンの選択係数が小さいため)
2.過剰のプロトンが骨格中のAl-O結合部分に作用してその結合を切断する。
3.Al-O結合部分の切断による骨格構造の崩壊で、銀ゼオライトに吸着していた銀イオン、ナトリウムイオンなどが溶液中に放出される。
4.放出された銀イオンはクエン酸と反応してクエン酸銀錯体となる。
5.アルミニウムもクエン酸のC6H5O73-と反応し、クエン酸アルミニウム錯体となる。
6.クエン酸銀錯体は水中で一部解離し、極少量の銀イオンも存在する。
7.ナトリウムはイオンの形態で水中に存在する。
8.ケイ素はシリカゲルの形態で懸濁あるいは沈殿する。この時表面には少量の銀イオンが吸着されている。
【0051】
上記の化学反応から考察して、混合液に含有する生成物は、クエン酸銀錯体、シリカ水和物、クエン酸アルミニウム錯体、銀イオンが含まれていると考えられる。
従って、本発明の銀イオン抗菌液の生成方法で生成された銀イオン抗菌液は、シリカ水和物が当然ながら除去されている。
本発明の銀イオン抗菌液の生成方法で、銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が1.2以上であることが解明された意義は大きい。今後、クエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液を調製する時に、銀ゼオライトに対して上記配合比率が1.2以上のクエン酸を配合すれば、製造最適条件および経済性が得られることを意味している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀ゼオライトから溶出する銀イオンを含有する銀イオン抗菌液の生成方法であって、
前記銀ゼオライトがA型又はX型の銀ゼオライトであり、該銀ゼオライトの0.1〜20.0重量%の範囲の配合量を秤量し、該銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が1.2以上の配合量を秤量して精製水に配合する処理と、
上記精製水に配合した上記銀ゼオライトおよびクエン酸を撹拌し混合して、少なくともクエン酸銀錯体及びシリカ水和物を含む混合液を調製する処理と、
上記混合液中に生成されるシリカ水和物を除去する処理とからなることを特徴とする銀イオン抗菌液の生成方法。
【請求項2】
前記銀ゼオライトの銀担持量が0.5〜5.0重量%であることを特徴とする請求項1に記載の銀イオン抗菌液の生成方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の銀イオン抗菌液の生成方法で生成される銀イオン抗菌液。
【請求項4】
前記銀イオン抗菌液の銀イオン濃度が銀ゼオライトの配合量と銀担持量で任意に調製することができることを特徴とする請求項3に記載の銀イオン抗菌液。
【請求項5】
請求項1に記載の銀イオン抗菌液の生成方法のシリカ水和物を除去する処理の後に、上記シリカ水和物を除去した混合液を、凍結乾燥又は噴霧乾燥して銀イオン抗菌粉末を生成する処理とからなることを特徴とする銀イオン抗菌粉末の生成方法。
【請求項6】
前記銀ゼオライトの銀担持量が0.5〜5.0重量%であることを特徴とする請求項5に記載の銀イオン抗菌粉末の生成方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の銀イオン抗菌粉末の生成方法で生成される銀イオン抗菌粉末。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−53085(P2013−53085A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191039(P2011−191039)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(591254958)株式会社タイキ (35)
【Fターム(参考)】