説明

銀イオン溶液抽出を利用した不飽和アルキル基を有するラクトン化合物の精製方法

本発明は、不飽和アルキル基(unsaturated alkyl group)を有するラクトン化合物をその類似体である飽和アルキル基を有するラクトン化合物から分離及び精製する方法に関するものであり、より詳しくは、銀イオン(Ag)溶液を使用した抽出方法によりカラムクロマトグラフィー方法を用いなくても効果的にFK506のような不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を高純度で分離する方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和アルキル基を有するラクトン化合物、特にFK506を、その構造的類似体だが飽和アルキル基を有するラクトン化合物、特にFK520、ジヒドロFK506からカラムクロマトグラフィー過程を経ず銀イオン溶液を利用して分離する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FK506は、ストレプトマイセス種の発酵によって生成される三員環マクロライドである。FK506は免疫抑制活性を有するマクロライド系ラクトン化合物であって、臓器移植、新生児赤芽球症(Rh hemolytic disease)の予防及び自己免疫疾患、感染性疾患等の治療に使用される。FK506は、1987年に初めて報告され(J.Antibiotics,16,No.9,1249−1255,1987)アステラス製薬で販売中の化合物である。開発以降、様々な論文及び特許でFK506の多様な分離及び精製方法が提示されている。
【0003】
通常、微生物培養から得られる発酵産物は、培養液に培養培地と多様な代謝産物が共に存在する。FK506発酵産物には、FK520及びジヒドロFK506のような構造的類似体が含まれている。これら物質は、主に微生物、特に、放線菌属微生物によって産生されると言われている。FK506は、ストレプトマイセスツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)9993、ストレプトマイセス属ATCC55098、ストレプトマイセス属ATCC53770、ストレプトマイセス属BICC7522等の菌株で産生されると報告されており(Muramatsu,H.,S.I.Mokhtar,M.Katsuoka and M.Ezaki.2005.米国特許第4,894,366号、WO05/098011)、FK506の構造的類似体であるFK520もまた、免疫抑制活性と抗真菌活性(antifungal activities)を有し、ストレプトマイセスハイグロスコピクス亜属アスコマイセチクス(Streptomyces hygroscopicus subsp.ascomyceticus)ATCC14891、ストレプトマイセスハイグロスコピクス亜属ヤクシマエンシス(Streptomyces hygroscopicus subsp.yakusimaensis)7238とストレプトマイセスツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)9993等で産生されると報告されている。FK506産生菌株の発酵産物にはFK520及びそれと類似する構造体が多数含まれており、高品質の医薬用FK506を産生するためには、FK520のような類似物質を除去することが非常に重要である。
【0004】
そのため、産業界ではFK520及びジヒドロFK506を除去し、高純度のFK506を得るための方法が模索されて来た。このような精製技術は、通常、カラムクロマトグラフィー方法を基盤としている。銀イオン(Ag)を用いたカラムクロマトグラフィーは、通常、同一な炭素数を有する不飽和脂肪酸のシス−トランス異性質体を区分するために使用することが広く知られている(J.chromatography 149(1978)417)。高純度FK506の産生のために銀イオンを使用するカラムクロマトグラフィー法は、技術的に大きく二つに区別できる。一つは、銀イオンで前処理された樹脂を使用する方法(米国特許登録番号6,492,513、米国特許公開番号US08/0000834、国際特許公開番号WO05/054253)で、もう一つは、分離しようとする化合物を樹脂に吸着させた後、銀イオンが含まれた溶媒で溶離させる方法(米国特許登録番号6,576,135及び6,881,341)である。
【0005】
上の方法をより具体的に見ると、米国登録特許第6,492,513号には、FK506、FK520等の高分子化合物を硝酸銀等の銀イオンで前処理されたスルホン酸グループ−含有強力陽イオン交換樹脂を使用して相互分離する方法が記述されている。
【0006】
また、米国特許公開US08/0000834号には、酸化アルミニウム(aluminum oxide)、酸化ジルコニウム(zirconium oxide)、スチレンジビニルベンゼンコポリマー(styrene divinylbenzene copolymer)、吸着樹脂、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、逆相シリカゲル、シアノシリカゲルに銀イオンで修飾された吸着樹脂を使用してクロマトグラフィー法によりFK506を分離する方法が記述されている。
【0007】
そして、国際特許公開番号WO05/054253号には層分離が可能な溶媒を利用してFK506を有機溶媒に転移させ、アンモニアガスで処理して相から不純物を除去したり、逆相クロマトグラフィー方法を繰り返し行ってFK506を精製する方法が記述されている。
【0008】
前記のFK506の精製方法は、高価な樹脂、銀イオン及び多量の有機溶媒を使用するため、製造コストが高く非経済的であり、カラムクロマトグラフィーの遂行に多くの時間がかかる上に、精製度が高くない。
【0009】
また、米国登録特許第6,576,135号は、一つ以上のアルケニルグループとアルコキシグループ側鎖を有するラクトン含有高分子化合物の混合物を対象とする分離方法に対する内容であり、化合物を非イオン性吸着樹脂に吸着させ、銀イオンを含有する溶媒で溶出させる方法と、活性型アルミナに吸着後、溶出させてラクトン含有高分子化合物からFK506のような類縁物質を除去する方法を開示している。
【0010】
前記発明は、FK520及びジヒドロFK506の分離度が大きな長所ではあるが、高価な樹脂及び銀イオンが含まれている多量の有機溶媒の使用により製造コストが非常に高く、また使用された樹脂内に存在する銀イオン及び硝酸の除去に多くの費用と時間がかかるため非経済的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、銀イオンと結合可能な不飽和アルキル基を有するラクトン化合物と、それと同一な骨格構造を有するが銀イオンと結合しない飽和アルキル基を有するラクトン化合物が銀イオン溶液で相互物性、特に溶媒に対する溶解度及び結晶化の違いが存在すると推定され、前記の2種類の化合物間の分離のために高価な樹脂を使用するカラムクロマトグラフィー法を用いなくても効率的な分離方法を提供しようとすることである。
【0012】
FK506は、自己免疫疾患、臓器移植、新生児赤芽球症等の医学用治療剤として有用な医薬剤のため、不純物が混ざることは好ましくなく、各国の政府においては薬剤中の不純物の許容可能な水準に関する指針がある。よって、任意の薬剤中に不純物の水準を減少させる方法に対する必要性とこの商業的利用価値は自明である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するために、本発明者等は銀イオンと結合可能な不飽和アルキル基を有するラクトン化合物と、それと同一な骨格構造を有するが銀イオンと結合しない飽和アルキル基を有するラクトン化合物間に銀イオン溶液と溶媒間で相互物性、特に溶解度の違いが生じると予測し、前記2種類の化合物の分離のために高価な樹脂を使用するカラムクロマトグラフィー法の代わりに銀イオン溶液を使用する、簡単でありながらも効率的な方法を発明した。
【0014】
本発明者等は、不飽和アルキル基を有するラクトン化合物と飽和アルキル基を有するラクトン化合物の混合物から銀イオンが含まれた溶媒を使用して二つの化合物を選別抽出し、相互分離する方法を発明した。根本的に、銀イオンと親和力が高いFK506のような不飽和アルキル基を有するラクトン化合物は銀イオン溶液に存在し、銀イオンと親和力がない類似体、つまりFK520、ジヒドロFK506、エベロリムス、ピメクロリムス、ラパマイシン等は、銀イオンが含まれない、より可溶性の高い他の溶媒層に存在することになる。本発明には、前記の方法により収得した銀イオン溶液内に存在する高純度FK506を回収する方法が含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法は、カラムクロマトグラフィー法を用いないため、産業的適用が容易で、少量の溶媒を使用しても精製でき、且つ銀イオン溶液の再使用等により原価削減効果が大きく、工程が簡単である。また、精製時間と製造原価を大きく軽減させる一方で、FK506等の産生収率は著しく高いという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】原試料に含まれているFK506及びその類似体をHPLC分析(diol−HPLC)したものである。
【図2】本発明の方法により精製した試料をHPLC分析したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明が提供するものは、高価な樹脂を使用するカラムクロマトグラフィー方法を用いなくても効果的に不飽和アルキル基を有するラクトン化合物と、それと構造的類似体だが飽和アルキル基を有するラクトン化合物を分離するものである。本発明は、ラクトン化合物の構造変形をすることなく簡単な方法で不飽和アルキル基を有するラクトン化合物、特にFK506を分子量、構造及び物性が類似するFK520、ジヒドロFK506等から分離、精製する方法に関するものである。
【0018】
本発明は、水と混ざり得る有機溶媒にラクトン化合物を溶かしてラクトン化合物溶液を製造する1段階;
前記ラクトン化合物溶液にラクトン化合物難溶解性で水と難混合性の有機溶媒を添加する2段階;
前記2段階で生成された混合溶液に銀イオン(Ag)水溶液を加えて不飽和アルキル基を有するラクトン化合物が銀イオン水溶液に移動するようにする3段階;
前記不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を含む銀イオン水溶液を有機溶媒層と分離して回収する4段階;
前記銀イオン水溶液内の不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を溶かすことができ、水と混ざり得ない有機溶媒を加えて不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を抽出する5段階;
前記の抽出された不飽和アルキル基を有するラクトン化合物に存在する銀イオンを除去し、結晶として不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を収去する6段階;を含む不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を精製する方法を提供する。
【0019】
また、本発明は前記不飽和アルキル基を有するラクトン化合物がFK506であることを特徴とする。また、前記飽和アルキル基を有するラクトン化合物は、FK520、ジヒドロFK506、エベロリムス、ピメクロリムス及びラパマイシンからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は前記1段階の水と混ざり得る有機溶媒が、アルコール、ケトン及び極性非陽子性有機溶媒からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は前記1段階の水と混ざり得る有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン及びアセトニトリルからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は前記3段階で使用する銀イオンが、硝酸銀 (AgNO)、酢酸銀(AgCHCOOH)及び硫酸銀(AgSO)からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする。
また、本発明は前記2段階のラクトン化合物難溶解性であり水と難混合性の溶媒が、炭化水素, ヘテロサイクリック化合物、エーテル及びエステルからなる群から選ばれる1種以上で、好ましくは、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、ブタノール及びクロロホルムからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする。
また、本発明は前記5段階の銀イオン水溶液のラクトン化合物を溶かすことができ、水と混合し難い有機溶媒が、炭化水素、ヘテロサイクリック化合物、エーテル又はエステルから選ばれ、好ましくはジクロロメタン、エチルアセテート、イソブチルアセテート、n−ブチルアセテート及びt−ブチルアセテートからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする。
また、本発明は前記6段階での銀イオン除去時にNaCl水溶液を利用することを特徴とする。
【0023】
それだけでなく、本発明は前記精製過程で残った銀イオン溶液を再使用する方法を提供する。
【0024】
即ち、本発明の精製方法は、先ず水と混ざり得る有機溶媒にラクトン化合物を溶かした後、適定量の水と混合し難い溶媒を添加する。次いで、銀イオンが含まれている水溶液を加えて銀イオンと親和力のある不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を選別抽出する。その後、不飽和アルキル基を有するラクトン化合物が含まれている銀イオン水溶液を回収した後、ラクトン化合物溶解性有機溶媒として不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を抽出する。最後に、銀イオン除去及び結晶化段階によって高純度の製品を得る。
【0025】
本発明の方法を段階別に詳しく説明する。本発明で使用されるラクトン化合物は、単環(monocyclic)、二環(bicyclic)又は三環(tricyclic)を有し得、単環ラクトンの化合物としては、エリスロマイシン、ロイコマイシン、メチマイシン等のようなものであり得、三環構造を有するものはUS5,624,842とUS4,894,366に言及されている構造の物質(一般式1参照)及びラパマイシンとその誘導体になり得る。また、一般式2に大別されるラクトン化合物としては、R基がアリル基、プロピル基、エチル基、メチル基でそれぞれ表されるFK506及びジヒドロFK506、FK520、FK523になり得る。
【0026】
【化1】

【0027】
(R1は、ヒドロキシ基又は1−(低級アルキルチオ)(−低級)アルキルオキシ基、トリ(低級)アルキルシリルオキシ基、低級アルキル−ジフェニルシリルオキシ基、薬学的に受用可能な有機カルボキシリックアシルオキシ基及び薬学的に受用可能な有機スルホニックアシルオキシ基から選ばれた薬学的に受用可能な保護されたヒドロキシ基、R2は、水素、ヒドロキシ基又は低級アルケノイルオキシ基、R3は、メチル基、エチル基、プロピル基又はアリル基、nは1又は2、そして、実線と点線の表示は単一結合又は二重結合であり、R1とR2がそれぞれヒドロキシ基、nが2で、実線と点線が単一結合のとき、R3は、メチル基、プロピル基又はアリル基及びそれらの薬学的に受用可能な塩基性塩である。)
(又は、前記R1は、ヒドロキシ基;低級アルキルチオアルコキシ基;トリ(低級)アルキルシリルオキシ基;低級アルキルジフェニルシリルオキシ基;選択的にカルボキシ基で置換される低級アルケノイルオキシ基;選択的に低級シクロアルキル基部分上の二つの低級アルキル基で置換される低級シクロアルコキシ(低級)アルケノイルオキシ基;カンフルスルホニルオキシ基;選択的に一つ又はそれ以上のニトロ基で置換されるアロイルオキシ基、ここでアロイル部分は、ベンゾイル基、トルオイル基、キシロイル基及びナフトイル基で構成されたグループから選ばれる;選択的にハロゲンで置換されるアレーンスルホニルオキシ基、ここで前記アレーン部分は、ベンゼン、トルエン、キシレン及びナフタレンからなるグループから選ばれるものである;又は選択的に低級アルコキシ基及びトリハロ(低級)アルキル基で置換されるフェニル(低級)アルケノイルオキシ基;R2は、水素、ヒドロキシ基又は低級アルケノイルオキシ基、R3は、メチル基、エチル基、プロピル基又はアリル基、nは1又は2、そして、実線と点線は単一結合又は二重結合であり、R1とR2がそれぞれヒドロキシ基で、nが2、実線と点線が単一結合のとき、R3は、メチル基、プロピル基又はアリル基及びその薬学的に受用可能な塩基性塩である。)
【0028】
【化2】

【0029】
(但し、前記一般式でR=メチル基、FK523;R=エチル基、FK520;R=プロピル基、ジヒドロFK506;R=アリル基、FK506)
前記ラクトン化合物の不飽和アルキル基は、特別に低級アルケニル基(lower alkenyl group)であり、ビニル基、プロフェニル基(アリル基又は1−プロフェニル基)、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のようなものであり、より好ましくは、ビニル基とプロフェニル基である。前記ラクトン化合物の飽和アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のようなものであり、より優先的なものはエチル基とプロピル基である。
【0030】
ラクトン化合物を溶かすことができ、水と混ざり得る溶媒は、アルコール、ケトン又は極性非陽子性有機溶媒(dielectric aprotic solvent)になり得、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、アセトニトリルが選ばれ得、これらの混合物になり得る。
【0031】
ラクトン化合物難溶解性で水と難混合性の溶媒は、炭水化物、ヘテロサイクリック化合物、エーテル又はエステルから1種以上を選択できるが、好ましくは、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、ブタノール及びクロロホルムからなる群から選ばれる1種以上である。
【0032】
前記段階で溶媒に溶け得るラクトン化合物の濃度は、多様な範囲で調節でき、例えば、FK506及びその構造類似体の場合は、1〜200g/水溶性有機溶媒(L)、好ましくは25〜150g/Lの範囲であり、溶媒としてはアセトンが好ましい。ラクトン化合物溶液の濃度が低い場合は、FK506の精製に相対的に銀イオン量の使用が多くなるため非経済的であり、高い濃度の場合は水を添加すると過度に結晶が生成されて選別結晶が困難である。
【0033】
前記段階で水と混合し難い溶媒であって、目的ラクトン化合物の難溶解性である溶媒の使用量は、水溶性有機溶媒の種類及びラクトン化合物の析出有無に応じて水溶性有機溶媒量の体積比で1〜100倍量の範囲に適切に調節できる。例えば、ラクトン化合物であるFK506及びその類似体の場合は、水溶性溶媒としてアセトンが、非水溶性溶媒としてヘキサンが使用される場合、ヘキサンはアセトン使用量の5〜20倍量が好ましい。
【0034】
前記段階に使用された銀イオン水溶液は、銀イオンを供給できる硝酸銀のような銀塩を0.5〜10Mの範囲で溶かした水溶液を使用し、好ましくは1〜5Mの範囲が適切である。銀イオン溶液の処理時間は十分に混合できる時間であり、0.5〜24時間まで可能で、温度は−10〜50℃の範囲である。好ましい例として、FK506及びその類似体を対象としては1〜12時間、10〜40℃での作業が適切である。さらに、銀イオン水溶液層を回収した後、ラクトン可溶性且つ水溶性の溶媒を適定量添加して繰り返し行うことができる。最終目的物の不純物含量に応じて、繰り返しの程度及び溶媒使用量が異なり得る。
【0035】
本発明で使用された銀イオン溶液は、再使用できる。再使用のために適切な有機溶媒、即ち、ラクトン化合物を溶かすことができ、水と混ざらない有機溶媒を使用してラクトン化合物を分離できる。FK506を例に挙げると、エチルアセテートを使用して銀イオン水溶液層に存在するFK506を抽出し、エチルアセテート層と分離された銀イオン水溶液を回収する。回収された銀イオン水溶液は再使用できる。
【0036】
本発明のアルキル基を有するラクトン化合物は、微生物の発酵により収得でき、また人工的な合成でも提供できる。本発明では、通常、微生物の発酵によって収得される化合物として、不飽和アルキル基を有するラクトン化合物と飽和アルキル基を有するラクトン化合物の混合物、特にFK506とその構造類似体であるFK520、ジヒドロFK506等が一部混ざった化合物を使用した。
【0037】
前記試料を使用して銀イオン水溶液を使用した本発明は、銀イオンの濃度、銀イオン水溶液の量及び抽出回数、水と難混合性でFK506難溶解性溶媒の処理量、及び処理回数が増加するほどFK506の純度が増加し、相対的にFK520及びジヒドロFK506の比率が減少する。また、銀イオン濃度が増加したり、水と非混合性でFK506難溶解性溶媒の処理量が少ないほどFK506の回収率が増加する。
【0038】
以下、実施例によって本発明の構成をより詳しく説明する。しかし、本発明の範囲が実施例によって制限されないということは、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に自明なことである。
【実施例1】
【0039】
試料の調製
アルキル基側鎖(alkyl side chain)があるラクトン化合物、特にFK506、FK520、ジヒドロFK5006混合液の準備のために前培養培地(酸化澱粉0.3g、グリセリン0.21g、肉ペプトン0.09g、酵母抽出物0.09g、大豆ペプトン0.15g、AZ−20R 0.015ml)20mlを製造して500ml平板三角フラスコに入れて殺菌した後、ストレプトマイセス属GT1005菌株を1ml接種して27−30℃、240rpmの条件で36時間培養した。1次種培養培地(酸化澱粉20g、グリセリン20g、生大豆粉10g、炭酸カルシウム4g、CSL(45%)10ml、AZ−20R 1ml、pH6.5)2Lを5L平板三角フラスコに入れて殺菌し、前記前培養液10mlを接種して27−30℃で36時間培養した。500L発酵槽に酸化澱粉6kg、グリセリン3kg、生大豆粉1.5kg、酵母抽出物0.6kg、炭酸カルシウム0.6kg、CSL(45%)1.5L、AZ−20R 0.3kgを含有した2次種培養培地300Lを調製した後、殺菌し、1次種培養菌液2Lを植菌した。27−30℃で通気量0.5−1VVM、攪拌速度50−300rpmで24時間培養した。5kl発酵槽に酸化澱粉210kg、生大豆粉15kg、酵母粉51kg、炭酸カルシウム3kg、硫酸アンモニウム3kg、AZ−20R 6Lを含有した本培養培地2.7klを調製し、苛性ソーダを添加してpH8.5に補正し殺菌した。吸着樹脂HP−20 150Lを水で水和して300Lを製造して別殺し、殺菌した培地と別殺した吸着樹脂を混合溶液に2次種培養液全量を無菌的に植菌した後、27−30℃で、通気量0.5−1VVM、攪拌速度50−200rpmで6日間培養した。
【実施例2】
【0040】
調整剤試料の準備
培養液にHP20樹脂(150L)をヌッチェフィルターで回収した後、水で洗浄した。アセトン500Lを使用して樹脂からFK506及びFK520、ジヒドロFK506等を含む抽出液を得た。前記抽出液に同一体積の水を加えた後、HP20樹脂200Lが充填されているカラムに2RV(Resin volume)/hr流速で吸着させ、75%アセトンを1RV(Resin volume)/hr流速で3RVを溶出させた。溶出液のHPLC分析の結果、純度は62%で、873.6gのFK506を収得できた。前記溶出液に過量のNaClを添加して水とアセトン層を分離した後、上澄液を回収して減圧濃縮した。濃度液をアセトン:ヘキサン:トリエチルアミン=20:80:0.5溶媒に溶かした後、同一溶媒で充填されたシリカゲル(30kg)に吸着させた。同一溶媒100Lを1RV/hrの流速で洗浄した後、アセトン:ヘキサン:トリエチルアミン=30:70:0.5溶媒200Lとアセトン:ヘキサン:トリエチルアミン=40:60:0.5 100Lをそれぞれ1RV/hrの流速で溶出した。HPLCで分析してFK506を含む溶出液を集め、50℃で減圧濃縮した。前記濃縮液を80Lのアセトンに溶かした後、水240Lを加え、4℃で12時間結晶を形成させた。形成された結晶を濾過布で濾過した後、45℃の真空乾燥機で6時間乾燥した。乾燥されたFK506の純度は87.2%で、計453.7gを収得した。前記の回収された結晶中、100gをエチルアセテート1Lに溶かした後、20gの活性炭を添加して1時間攪拌した。濾過紙(Wattman filter paper No.2)で濾過した後、濾過液を減圧濃縮した。濃縮液を4Lのアセトンに溶かした後、水12Lを加え、4℃で12時間結晶を形成させた。形成された結晶を濾過布で濾過した後、45℃の真空乾燥機で6時間乾燥した。このような過程によって原試料を得た。
【実施例3】
【0041】
分析法
FK506及びその類似体の含量及び純度を確認するために二つの分析法を用いて確認した。水溶液上の含量分析は、C18カラムを用いたHPLC方法(カラム、Hypersil GOLD C18 [4.6x250mm];移動相、50%アセトニトリル;流速、1ml/min;カラム温度、55℃;検出波長、210nm)で分析し、結晶化された最終化合物の純度分析は、ジオールカラムを用いたHPLC(カラム、直列連結された二つのSupercosil LC−Diol分析カラム[4x250mm,5μm];移動相、n−ヘキサン:塩化n−ブチル:アセトニトリル、[7:2:1];流速、1ml/min;検出波長、225nm)方法で行った。本発明の以下の実施例で使用した試料は、C18カラムHPLC分析結果、93.3% FK506、2.56% FK520、0.6%ジヒドロFK506、同一試料のジオールHPLC分析結果は、図1の通りであり、92.7% FK506、4.3% FK520、2.1%ジヒドロFK506の純度だった。
【実施例4】
【0042】
銀イオン水溶液を利用したFK506の選別抽出
試料が完全に溶ける溶媒であるアセトンにラクトン混合物を溶かした。試料が十分に溶けた状態でヘキサンを入れ、攪拌してアセトンとヘキサンを十分に混合した。この溶液に硝酸銀水溶液をゆっくり攪拌しながら入れた。一定時間攪拌した後、停止して層を分離した。層は銀イオン水溶液が含まれた下層、そしてヘキサンが含まれた上層に分離された。銀イオンが含まれた水溶液層のFK506とFK520、ジヒドロFK506の含量を定量し、2回或いは3回以上の繰り返し抽出時には、ヘキサンの処理で消失したアセトン量を補充するために銀イオン水溶液層にアセトンを本来の体積分添加した。その後、再度ヘキサンを添加して抽出した。銀イオン水溶液に存在するFK506及びFK520、ジヒドロFK506の含量は、C18 HPLCで分析した。使用した試料濃度及び量、銀イオン濃度及び量、ヘキサン使用量及び抽出時間等を多様に組み合わせて実施し分析した。その条件及び結果を表1にまとめた。銀イオンが含まれていない水で抽出する場合、FK520の含量が3.5%であり、使用された試料の含量と比べて変化が観察されなく、回収率は2.78%と非常に悪かった(表1、試験区1)。しかし、同じ条件で銀イオンが添加された水溶液で抽出したものは、FK520及びジヒドロFK506の含量が大きく減少した(表1;試験区2)。FK520とDH−FK506等、FK506の純度に絶対的な影響を与える不純物は、繰り返し抽出(表1;試験区3,4)又は抽出時間の増加(表1;試験区14,15,16,17,18)によって減少した。しかし、抽出時間の増加による効果を3時間抽出と比較すると、3時間以上の処理群では3つの主要三環化合物の含量比の変化が大きくなかった。FK506の回収率の増大のために銀イオン濃度の増加、試料の濃度、ヘキサン使用量及び銀イオン水溶液の量の変化による収率を調査した結果、銀イオン濃度の増加により回収率が急激に増大し(表1;試験区4,5,6,7,10,11)、使用する試料の濃度が高くなるほど(表1;試験区4,8,9)又ヘキサン使用量が多くなるほど(表1;試験区4,5,6,7,11,12,13)回収量が減少した。これにより類推できる最適な銀イオン水溶液抽出条件は、FK506の試料濃度28.9〜144.8M、ヘキサン使用量はアセトン対比5〜10倍体積、そして、銀イオン水溶液中、銀イオン濃度は0.9〜3.6Mで、銀イオン水溶液使用量はアセトン体積対比2倍程度が適切だった。
【0043】
【表1】

【実施例5】
【0044】
銀イオン溶液に存在するラクトン化合物の収去
実施例2の試験区12から抽出した銀イオン水溶液からラクトン化合物を収去した。銀イオン水溶液に2倍体積のエチルアセテート添加後、1時間以上強く混合した。FK506が含まれたエチルアセテート層を回収して減圧濃縮した。減圧濃縮液に試験区で使用したものと同一な体積のアセトンを加えて完全に溶かした後、NaCl飽和水溶液を添加して銀イオンをAgCl形態で沈殿させた。ここに同一体積のエチルアセテートで強く1時間以上混合した後、停止させて層を分離した。エチルアセテート層だけを回収して完全に減圧濃縮した後、試料をアセトンに溶かし、ここに4倍の体積の水をゆっくり加えて結晶化した。結晶は白色で、凍結乾燥後の結晶の重さは507.3mg、ジオール−HPLCで最終確認したFK506の純度は98.6%で、0.5%以上の不純物は存在しなかった(図2)。これから換算したFK506の回収率は70.7%だった。試験区13を使用した同一抽出方法の場合、FK506の純度は98.5%で、回収率は72.3%だった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、FK506を始めとする不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を精製する有用な方法を提供するために医薬分野に利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と混ざり得る有機溶媒にラクトン化合物を溶かしてラクトン化合物溶液を製造する1段階;
前記ラクトン化合物溶液にラクトン化合物難溶解性で水と難混合性の有機溶媒を添加して混合溶液を製造する2段階;
前記2段階で生成された混合溶液に銀イオン(Ag)水溶液を加えて不飽和アルキル基を有するラクトン化合物が銀イオン水溶液に移動するようにする3段階;
前記不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を含む銀イオン水溶液を有機溶媒層と分離して回収する4段階;
前記の回収された銀イオン水溶液内の不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を溶かすことができ、水と混ざり得ない有機溶媒を加えて不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を抽出する5段階;
前記の抽出された不飽和アルキル基を有するラクトン化合物に存在する銀イオンを除去し、結晶として不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を収去する6段階;を含む不飽和アルキル基を有するラクトン化合物を精製する方法。
【請求項2】
前記不飽和アルキル基を有するラクトン化合物はFK506である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1段階の水と混ざり得る有機溶媒は、アルコール、ケトン及び極性非陽子性有機溶媒からなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1段階の水と混ざり得る有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン及びアセトニトリルからなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記3段階で使用する銀イオンは、硝酸銀(AgNO)、酢酸銀(AgCHCOOH)及び硫酸銀(AgSO)からなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記2段階のラクトン化合物難溶解性であり、水と難混合性の有機溶媒は、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、ブタノール及びクロロホルムからなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記5段階の銀イオン水溶液内の不飽和アルキルを有するラクトン化合物を溶かすことができ、水と混合し難い有機溶媒は、ジクロロメタン、エチルアセテート、イソブチルアセテート、n−ブチルアセテート及びt−ブチルアセテートからなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記6段階での銀イオンの除去はNaCl水溶液を使用する方法。
【請求項9】
前記精製過程で残った銀イオン溶液を再使用する請求項1に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−502095(P2012−502095A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526801(P2011−526801)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【国際出願番号】PCT/KR2009/004325
【国際公開番号】WO2010/032919
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(510020538)ジェノテック カンパニー,リミテッド (3)
【Fターム(参考)】