説明

銀ナノ粒子を含む溶媒系インク

【課題】インクジェット印刷等において、コーヒーリング効果の減少、基材への接着性向上、印刷ヘッドのデキャップ時間または待機時間の延長を実現したインク組成物を提供する。
【解決手段】銀を含む金属ナノ粒子と、任意成分の樹脂と、2種類以上のインク媒剤とを含み、前記インク媒剤の少なくとも1つが、25℃での蒸気圧が4mmHg未満である脂肪族炭化水素である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本明細書は、種々の実施形態によって、印刷(例えば、インクジェット印刷によるもの)に適した、安定した高性能のナノ粒子組成物を開示する。特に、最適な性能(例えば、コーヒーリング効果の減少、基材への接着性向上、印刷ヘッド内での乾燥時間の延長)をもつ銀ナノ粒子を含む導電性インク配合物が提供される。
【0002】
プリンテッドエレクトロニクス用途に銀ナノ粒子技術を用いる利点が、近年発見された。例えば、銀ナノ粒子を含むインク配合物は、きわめて良好な印刷結果を示していた。しかし、銀ナノ粒子粉末が、特に大スケールで調製されたものではバッチごとに変動するため、印刷性能を再生することができず、未だに問題となっている。主な変動は、銀の含有量である。特に、銀の含有量(銀および有機安定化剤をあわせた合計重量に対する銀の重量)が90重量%である銀ナノ粒子のバッチでは、印刷した線に黒色の点(銀ナノ粒子の凝集物)が多くみられることがある。このように、銀ナノ粒子粉末のバッチごとの変動を一定に維持することができる、堅牢性の高いインク配合物をさらに開発する必要性が存在する。
【0003】
さらに、現行の金属ナノ粒子組成物は、基材上に析出すると、広すぎる導電性金属インクの線を生じてしまうことが多く、これにより導電性が低くなり、「コーヒーリング効果」が生じる。コーヒーリング効果は、本明細書では、所与の液滴粒子が、円の円周に広がり、液滴が基材に析出した箇所の中心部が非常に薄くなることを指す(すなわち、不均一な析出)。液滴の断面では、表面形状を測定すると、二峰性の線状の形状(2つの山)が観察される。コーヒーリング効果を示すような導電性金属線の析出、および/またはその他の方法で広がりすぎるような導電性金属線の析出は、特定の用途でのインクの使用を制限してしまう場合がある。したがって、コーヒーリング効果を減少させるインク配合物を開発する必要性がさらに存在する。
【0004】
最後に、一般的に、限定されないが、基材への接着性向上および/または印刷ヘッド内での乾燥時間の延長を含む良好な性能を与える、従来のインク配合物の継続的な改良も必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本明細書に示される実施形態によれば、銀ナノ粒子と、2種類以上の溶媒とを含む新規導電性インク配合物が提供される。
【0006】
特に、本実施形態は、銀を含む金属ナノ粒子と、任意成分の樹脂と、2種類以上のインク媒剤とを含み、インク媒剤の少なくとも1つが、25℃での蒸気圧が4mmHg未満である脂肪族炭化水素であるインク組成物を提供する。
【0007】
さらなる実施形態では、銀ナノ粒子と、少なくとも1個のシクロヘキサン環を含む脂肪族炭化水素、単環モノテルペンおよび二環モノテルペンを含む環状テルペン、環状テルピネン、テルピネオール、メチルナフタレン、およびこれらの混合物からなる群から選択される2種類以上のインク媒剤とを含み、このインクは、印刷ヘッド内での乾燥時間が約5時間〜約1週間である、インク組成物が提供される。
【0008】
さらなる実施形態では、銀ナノ粒子と、デカヒドロナフタレンおよびビシクロヘキサンを含むインク媒剤とを含むインク組成物が提供され、このインク組成物は、印刷ヘッド内での乾燥時間が約5時間〜約1週間である。
【0009】
さらに他の実施形態では、銀ナノ粒子と、任意成分の樹脂と、2種類以上のインク媒剤とを含み、銀ナノ粒子がインク媒剤に分散している導電性インクが提供され、さらに、この導電性インクで作られた印刷物は、コーヒーリング効果を示さず、大きなナノ粒子凝集物も実質的に存在しない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】コーヒーリング効果の代表的なパラメータを示しており、このパラメータは、縁部の高さを測定した値を、中央部の高さを測定した値と比較することによって決定される(h縁部/h中央部)。比率が1.0だと、縁部の高さと中央部の高さが等しくなり、コーヒーリング効果は存在しない。
【図2】コーヒーリング効果の比率が1.0より大きく、したがって、中央部が縁部よりも薄い場合のh縁部およびh中央部を示すグラフである。
【図3】コーヒーリング効果の比率が1.0より小さく、したがって、中央部が縁部よりも厚い場合のh縁部およびh中央部を示すグラフである。
【図4A】多くの黒色の点によって品質が悪化した印刷線を示す写真である。
【図4B】いくつかの黒色の点が含まれた印刷線を示す写真である。
【図4C】黒色の点がまったくないか、またはいくつかある(すなわち、大きなナノ粒子凝集物は実質的に存在しない)印刷線を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
溶媒インク技術は、印刷の可能性を広げ、顧客基盤を多くの市場にわたって広げ、印刷ヘッド技術、印刷プロセス、インク材料を有効に組み込むことによって、印刷用途の多様性が広がるだろう。上述のように、現行のインクの選択肢は、種々の基材に印刷することはうまくいっているが、銀ナノ粒子を含む、もっと堅牢性の高い溶媒インクが必要とされている。
【0012】
本明細書には、印刷に使用可能な、銀を含む金属ナノ粒子を含むインク組成物が記載されている。インクは、少なくとも、銀を含む金属ナノ粒子と、任意成分の樹脂と、インク媒剤の混合物(ある場合には、溶媒と呼ばれてもよい)とで構成されている。印刷し、焼結させた後、インク組成物中の銀ナノ粒子を融着させ、導電性の特徴を形成する。この組成物を基材の上に印刷し、次いで、アニーリングし、基材の上に導電性の特徴を形成してもよい。本明細書に記載のインクは、コーヒーリング効果の減少、表面粗さの減少、接着性の向上、乾燥時間の延長、金属粒子の良好な分散性のような優れた性質を示す。
【0013】
顔料系インクは、プリンタの寿命が尽きるまで、多くの個々の発射事象について、信頼性よく印刷ヘッドから吐出されなければならない。一例として、典型的なインクジェットノズルは、故障したり、発射が止められたりすることなく、個々の発射事象で5×10よりも多く、1×10までの量が発射される必要がある場合がある。この状態には、印刷ヘッドが、使用されない状態で、または蓋をしていない状態で長時間放置され、その後に再び動かされ、インクを吐出するような状態が含まれる。ある場合には、使用されなかった印刷ヘッドノズルは、インク成分で部分的に詰まっているか、または固まっている場合があり、そのため、印刷ヘッドから適切に吐出する能力が低下していることがある。例えば、インクは、部分的に詰まったノズルから、あらぬ方向に向かってしまうこともあり、または、液滴の速度が大きく低下してしまうこともある。ある場合には、ノズルは、永久的に詰まってしまい、他の場合には、ノズルを使用可能な状態に回復させるのに、長時間の費用がかかるメンテナンス操作が必要な場合がある。この現象は、インクジェット印刷の分野では、待機時間またはデキャップとして知られている。本明細書に記載のインクは、印刷ヘッドノズル内での乾燥時間を延長していることによって、待機時間またはデキャップの危険性を減らす。
【0014】
本実施形態のインクは、優れた性質を達成するような、インク媒剤または溶媒の特定の混合物を含む。例えば、異なる蒸発速度を有する混合溶媒によって、コーヒーリング効果が減り、特定の溶媒の沸点が高いこと、または蒸気圧が低いことによって、インクの乾燥時間が延長される。いくつかの実施形態では、本実施形態のインクの印刷ヘッド内での乾燥時間は、少なくとも5時間、例えば、約5時間〜約2週間であり、約5時間〜約1週間、または約5時間〜約24時間を含む。また、溶媒混合物は、銀の含有量が90重量%までの非常に高いバッチであっても、銀ナノ粒子を良好に分散する性質を示し、そのため、バッチごとの変動が小さくなる。最後に、少量の樹脂、例えば、合計重量の5重量%未満、または約0.05〜約5重量%の銀(約0.1〜約3重量%、または約0.5〜約2重量%の銀を含む)をインクに組み込むと、接着性が有効に高まる。
【0015】
用語「ナノ」は、「銀ナノ粒子」として使用される場合、例えば、粒径が約1,000nm未満、例えば、約0.5nm〜約1,000nm、約1〜約500nm、約1nm〜約100nm、約1nm〜約25nm、または約1〜約10nmであることを指す。粒径は、TEM(透過型電子顕微鏡法)または他の適切な方法で決定されるような銀粒子の平均直径を指す。一般的に、本明細書で記載する方法から得られる金ナノ粒子には、複数の粒径が存在していてもよい。いくつかの実施形態では、異なる大きさの銀含有ナノ粒子が存在していてもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、インク組成物は、金属ナノ粒子と、任意成分の樹脂と、2種類以上のインク媒剤とを含む。金属ナノ粒子は、さらに、銀を含む。さらなる実施形態では、金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子コアと、有機安定化剤のシェル層とを含む、安定化された金属ナノ粒子である。特定の実施形態では、銀ナノ粒子は、有機アミンで安定化された銀ナノ粒子である。いくつかの実施形態では、金属ナノ粒子は、金属含有量が少なくとも65重量%、85重量%、または少なくとも90重量%である。
【0017】
ナノ粒子は、インク組成物の合計重量の約10〜約85重量%、または約20〜約60重量%の量で存在していてもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、インク媒剤の少なくとも1つは、蒸気圧が25℃で4mmHg未満、または2mmHg未満、または1mmHg未満である。ある実施形態では、インク媒剤の少なくとも1つは脂肪族炭化水素であり、さらに特定の実施形態では、脂肪族炭化水素は、環状炭化水素である。2種類以上の媒剤は、少なくとも1個のシクロヘキサン環を含む脂肪族炭化水素(例えば、ビシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、テトラリン、ヘキサリン)、単環モノテルペン(例えば、リモネンおよびセリネン)を、二環モノテルペンとともに含む環状テルペン、環状テルピネン、、例えば、シクロデセン、1−フェニル−1−シクロヘキセン、1−tert−ブチル−1−シクロヘキセン、テルピノレン、γ−テルピネン、α−テルピネン、α−ピネン、テルピネオール、メチルナフタレン、およびこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。特定の実施形態では、2種類以上の媒剤は、デカヒドロナフタレンとビシクロヘキサンとを含む。いくつかの実施形態では、2種類以上の溶媒は、インク組成物の合計重量の約15〜約90重量%の量で存在している(インク組成物の約20〜約80重量%、または約30〜約70重量%を含む)。
【0019】
いくつかの実施形態では、銀ナノ粒子は、さらに、(i)1種類以上の金属または(ii)1種類以上の金属コンポジットで構成されている。適切な金属としては、銀に加え、例えば、Al、Ag、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、Niが挙げられ、特定的には、遷移金属、例えば、Ag、Au、Pt、Pd、Cu、Cr、Ni、およびこれらの混合物が挙げられる。適切な金属コンポジットとしては、Au−Ag、Ag−Cu、Ag−Ni、Au−Cu、Au−Ni、Au−Ag−Cu、Au−Ag−Pdが挙げられる。また、金属コンポジットとしては、非金属も挙げられ、例えば、Si、C、Geが挙げられる。金属コンポジットの種々の成分は、所定の範囲の量で存在してもよく、例えば、約0.01重量%〜約99.9重量%、特定的には、約10重量%〜約90重量%の範囲の量で存在してもよい。さらに、本明細書に記載されている組成物は、任意の金属酸化物ナノ粒子を含んでいなくてもよい
【0020】
いくつかの実施形態では、金属コンポジットは、銀と、1種類、2種類またはそれ以上の他の金属とで構成される金属アロイであり、銀は、例えば、少なくとも約20重量%のナノ粒子、特定的には、約50重量%を超えるナノ粒子を含んでいる。
【0021】
インク中のナノ粒子の重量%は、例えば、約5重量%〜約80重量%、約10重量%〜約60重量%、または約15重量%〜50重量%であってもよい。
【0022】
本実施形態では、インクは、2種類以上の溶媒を含む。溶媒の選択は、例えば、蒸発速度、沸点、ナノ粒子のような他のインク成分との相互作用のような種々の性質に基づく。いくつかの実施形態では、溶媒の混合物は、蒸発速度が異なる2種類以上の溶媒を含む。さらなる実施形態では、溶媒の混合物は、沸点が少なくとも150℃、または約150〜約380℃、または約180〜約280℃の1つ以上の溶媒を含む。
【0023】
また、溶媒は、ハンセン溶解度パラメータによって特性が決定されてもよく、このパラメータは、分散パラメータであり、溶解度パラメータであり、水素結合パラメータである。本発明の溶媒は、分散パラメータが約16MPa0.5以上でなければならず、極性パラメータと水素結合パラメータの合計は、約8.0MPa0.5以下である。もっと特定的には、選択される溶媒は、分散パラメータの値が、約16MPa0.5以上、例えば、約16MPa0.5〜約25MPa0.5、または約18MPa0.5以上、例えば、約18MPa0.5〜約25MPa0.5であり、極性パラメータと水素結合パラメータの合計は、約8.0MPa0.5以下であり、5.5MPa0.5以下を含む。望ましくは、極性パラメータは、約1.5MPa0.5〜約0MPa0.5であり、約1.0MPa0.5〜約0MPa0.5を含み、水素結合パラメータは、約1.5MPa0.5〜約0MPa0.5であり、約1.0MPa0.5〜約0MPa0.5を含む。
【0024】
したがって、溶媒の選択は、上のパラメータ値に基づいていてもよい。少なくとも1種類の溶媒が、所定のハンセン溶解度パラメータの範囲内に入るように、上述のハンセン溶解度パラメータの範囲内にある溶媒を別の溶媒と混合してもよい。
【0025】
所与の溶媒のそれぞれのハンセン溶解度パラメータは、既知の参考文献中に見いだすことができる。例えば、Hansen Solubility Parameters:A User’s Handbook、Charles Hansen、2007、第2版。また、既知のモデリングソフトウェア(例えば、SP2法のようなソフトウェアを用いるFedors Cohesive Energy Density)を使用し、溶媒の化学構造に基づいて、ハンセン溶解度パラメータを計算することができる。この計算は、溶媒温度25℃で行われる。
【0026】
ハンセン溶解度パラメータでは、水素結合は、水素原子と、負の電気を帯びた原子とが引き付けあう相互作用である。したがって、溶媒の水素結合パラメータが約1.5MPa0.5以下のとき、その溶媒は、ナノ粒子表面から有機アミン安定化剤を離さない傾向があるだろう。
【0027】
極性は、電荷の違いによって生じる引力である。したがって、溶媒のハンセン溶解度極性パラメータが約1.5MPa0.5以下のとき、その溶媒は、ナノ粒子表面から有機アミン安定化剤を離さない傾向があるだろう。
【0028】
分散は、原子、分子、表面の間の引力である。有機アミンで安定化された金属ナノ粒子が、確実に良好な安定性をもつには、溶媒は、分散パラメータが少なくとも16MPa0.5でなければならない。
【0029】
インクは、表面張力が、約25〜約35mN/mであってもよく、約28〜約32mN/mを含む。また、組成物は、粘度が、約3cps〜約20cpsであってもよく、約5cps〜約15cpsを含む。
【0030】
所定の溶媒を使用することによって、これら2種類以上の溶媒を利用しないナノ粒子を含む他のインクと比較した場合、インクの品質を高めることができる。このインクは、コーヒーリング効果がかなり減少し、基材への接着性が向上し、印刷ヘッド内での乾燥時間が、例えば、約5時間〜約1週間まで延長する。また、混合溶媒によって、銀ナノ粒子が良好に分散する。この導電性インクで作られた印刷物は、望ましい品質を示す(例えば、コーヒーリング効果を示さず、大きなナノ粒子凝集物も実質的に存在しない)。いくつかの実施形態では、印刷物の表面粗さは、20nm未満である。
【0031】
インクは、基材への接着性を高めるために、樹脂をさらに含んでいてもよい。例えば、インクは、テルペン、スチレンブロックコポリマー、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、スチレン−イソプレン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸ターポリマー、エチレンブチルアクリレートコポリマー、エチレン−アクリル酸コポリマー、ポリオレフィン、ポリブテン、ポリアミドなど、およびこれらの混合物からなる群から選択される樹脂を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、樹脂は、インク組成物の合計重量の約0.05〜約5重量%の量で存在する。特定の実施形態では、樹脂は、インク組成物の合計重量の約0.1〜約3重量%の量で存在する。
【0032】
一般的に、銀ナノ粒子は、安定性(すなわち、組成物中の銀含有ナノ粒子の沈殿または凝集が最小限であるような時間)が、例えば、少なくとも約5日間〜約1ヶ月間、約1週間〜約6ヶ月間、約1週間〜1年を超える期間である。安定性は、種々の方法(例えば、粒径を調べる動的光散乱法、所定の孔径(例えば、1ミクロン)のフィルタを用いる、フィルタ上に残った固体を評価する単純濾過法)を用いて監視することができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のインクは、金属ナノ粒子表面に会合している安定化剤を含んでいてもよく、この安定化剤は、基材の上に金属特徴を作成している間、金属ナノ粒子をアニーリングするまで除去されない。安定化剤は、有機物であってもよい。
【0034】
いくつかの実施形態では、安定化剤は、金属ナノ粒子表面と物理的または化学的に会合している。この様式で、ナノ粒子は、液体溶液の外側に安定化剤を有している。つまり、安定化剤を表面に有するナノ粒子が、ナノ粒子および安定化剤の複合体を形成するのに使用する反応混合物溶液から単離され、回収されてもよい。このように、安定化されたナノ粒子は、その後に、印刷可能な溶液を作るための溶媒に、容易に、かつ均一に分散させてもよい。
【0035】
本明細書で使用される場合、銀ナノ粒子と安定化剤とが「物理的または化学的に会合する」という言いまわしは、化学結合および/または他の物理的な接続であってもよい。化学結合は、例えば、共有結合、水素結合、配位錯体結合、イオン結合、またはこれらの異なる化学結合の混合の形態をなしていてもよい。物理的な接続は、例えば、ファンデルワールス力、双極子間相互作用、またはこれらの異なる物理的な接続の混合の形態をなしていてもよい。
【0036】
用語「有機安定化剤」の「有機」は、例えば、炭素原子が存在することを指すが、有機安定化剤は、窒素、酸素、硫黄、ケイ素、ハロゲンなどのような1つ以上の非金属ヘテロ原子を含んでいてもよい。有機安定化剤は、米国特許第7,270,694号(その全体が本明細書に引用することによって組み込まれる)に記載されているような有機アミン安定化剤であってもよい。有機アミンの例は、アルキルアミン、例えば、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジアミノオクタン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、プロピルブチルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、プロピルペンチルアミン、ブチルペンチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミンなど、またはこれらの混合物である。
【0037】
金属ナノ粒子は、式(I):X−Yで構成される安定化剤で安定化される。Xは、少なくとも4個の炭素原子を含む(少なくとも8個の炭素原子、または少なくとも12個の炭素原子を含む)炭化水素基である。Yは、金属ナノ粒子表面に接続する官能基である。官能基Yの例としては、例えば、ヒドロキシル、アミン、カルボン酸、チオールおよびチオール誘導体、−OC(=S)SH(キサントゲン酸)、ピリジン、ピロリドンなどが挙げられる。有機安定化剤は、ポリエチレングリコール、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、および他の有機界面活性剤からなる群から選択されてもよい。有機安定化剤は、チオール、例えば、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデンカンチオール、ジチオール、例えば、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、または、チオールとジチオールの混合物からなる群から選択されてもよい。有機安定化剤は、キサントゲン酸、例えば、キサントゲン酸o−メチル、キサントゲン酸o−エチル、o−プロピルキサントゲン酸、o−ブチルキサントゲン酸、o−ペンチルキサントゲン酸、o−ヘキシルキサントゲン酸、o−ヘプチルキサントゲン酸、o−オクチルキサントゲン酸、o−ノニルキサントゲン酸、o−デシルキサントゲン酸、o−ウンデシルキサントゲン酸、o−ドデシルキサントゲン酸からなる群から選択されてもよい。ピリジン誘導体(例えば、ドデシルピリジン)および/または有機ホスフィンを含有し、金属ナノ粒子を安定化されることができる有機安定化剤も、本明細書で安定化剤として用いてもよい。
【0038】
有機物で安定化された金属ナノ粒子のさらなる例としては、米国特許公開第2009/0148600号に記載されているカルボン酸−有機アミン錯体で安定化された金属ナノ粒子、米国特許公開第2007/0099357 A1号に記載されているカルボン酸安定化剤金属ナノ粒子、米国特許公開第2009/0181183号に記載されている熱によって除去可能な安定化剤およびUVによって分解可能な安定化剤が挙げられる(それぞれ、全体が本明細書に引用することによって組み込まれる)。
【0039】
金属ナノ粒子表面が安定化剤でどの程度覆われているかは、例えば、安定化剤が金属ナノ粒子を安定化させる能力に依存して、部分的に覆われているものから、完全に覆われているものまでさまざまであってもよい。もちろん、個々の金属ナノ粒子間で、安定化剤で覆われている程度も同じように変動する。
【0040】
金属ナノ粒子(金属粒子と安定化剤のみを含み、溶媒を含まない)に含まれる有機安定化剤の重量%は、例えば、約3重量%〜約60重量%、約5重量%〜約35重量%、約5重量%〜約20重量%、または約5重量%〜約10重量%であってもよい。結果として、金属ナノ粒子に含まれる金属の重量%は、例えば、約40重量%〜約97重量%、約65重量%〜約95重量%、約80〜約95、または約90〜約95重量%であってもよい。
【0041】
組成物のコーヒーリング効果を定量化するために、パラメータh縁部/h中央部(h/hとも呼ばれ、本明細書では、中央部の高さに対する縁部の高さの比率であると定義される)を用いる。開示されている金属ナノ粒子組成物および比較組成物を、10pLカートリッジを取り付けたDMP−2800インクジェット印刷を用いて両方とも基板に印刷した。印刷した後、表面形状測定装置を用いて線の形状を特性決定した。縁部の高さ(h縁部)および中央部の高さ(h中央部)を得ることができる。比率h縁部/h中央部は、コーヒーリング効果が存在しているかどうかを示している(図1を参照)。図1からわかるように、h縁部/h中央部が1.0である場合、コーヒーリング効果は存在せず、印刷した線の表面は、完璧に平坦であろう。図2からわかるように、h縁部/h中央部が1.0より大きい場合、中央部の高さは、縁部の高さよりも低く、コーヒーリング効果があることを示しており、この比率が1.0よりも大きくなるにつれて、効果はもっと明確になる。最後に、図3からわかるように、h縁部/h中央部が1.0より小さい場合、中央部の高さは、縁部の高さよりも大きい。これは、ほとんどの用途で同様に適用することができる。いくつかの実施形態では、本開示の金属ナノ粒子組成物で印刷した特徴は、h縁部/h中央部が、ほぼ1.0であり、例えば、約0.8〜約1.2である。他の実施形態では、h縁部/h中央部は、1.5未満〜約1.0である。
【0042】
銀ナノ粒子が凝集している可能性がある黒い点を定量化するために、印刷した後に、基板表面にある組成物によって作られた特徴の表面粗さの測定を行った。なお、基板の表面粗さはごく小さい。上述のものと同じ印刷方法を行った。上述の測定は、組成物の印刷した特徴の表面粗さ(例えば、Ra)を測定することによって行った。なお、印刷した特徴の波立ちおよび/またはコーヒーリング効果は(もし、ある場合には)、測定中には除外されなければならない。表面粗さは、多くの方法によって(例えば、表面形状測定装置を用いることによって)測定することができる。黒い点の数が多く、大きいほど、表面は粗い。ハンセン溶解度パラメータを満たす溶媒を含む組成物は、表面粗さ(Ra)が、15nm未満であり、約1nm〜10nmであった。したがって、組成物は、印刷後に、非常になめらかな外観をしていた。比較組成物は、表面粗さ(Ra)が15nm以上あることがわかっており、30nm〜60nmの場合もあった。表面粗さが大きい場合、印刷した線には複数の黒い点が存在し、存在する黒い点の数が多いほど、印刷した組成物は粗い。黒い点が存在する印刷および存在しない印刷の例は、図4A〜4Cからわかるであろう。
【0043】
(実施例1)
銀の含有量がほぼ90重量%のハイスループット銀ナノ粒子を実施例で用いた。実施例では、インク配合物が、銀含有量が90重量%であるように銀ナノ粒子の変動が維持されているかどうか、この配合物が、異なるバッチでも堅牢性が高いかどうかという前提について評価した。銀ナノ粒子の調製は、米国特許第7,494,608号(本明細書に引用することによって組み込まれる)にすでに開示されているように行ない、ヘキサデシルアミンと酢酸銀のモル比は5:1であった。
【0044】
異なる溶媒または溶媒混合物中で、銀ナノ粒子を用いて3種類の異なるインクを調製した。溶媒または溶媒混合物中の銀ナノ粒子の保持量が50重量%であるように、溶媒または溶媒混合物中で銀ナノ粒子を一晩(約16時間)撹拌することによって、インクを調製した。3種類のインクで使用した3種類の溶媒は、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン/ビシクロヘキサンの混合物(重量比1:1)(Sigma−Aldrich(St.Louis,Missouri))であった。濾過した後、インクジェットプリンタ(DMP−2800、10pLのカートリッジを取り付けた)を用いてインクを試験し、吐出性、ノズル内での乾燥時間、印刷した線の性能(例えば、コーヒーリング効果および線の外観)について評価した。
【0045】
表1に結果をまとめている。140℃で10分間アニーリングした後、印刷線はすべて高導電性であった。しかし、デカヒドロナフタレン溶媒を用いたインクから印刷した線は、コーヒーリング効果を示し、黒い点も多くみられた。さらに、このインクは、プリンタノズル内ですみやかに乾燥した。インクを作業台の上に室温で1時間放置した後、ノズルはふさがっていた。ビシクロヘキサン溶媒のみを用いたインクでは、この溶媒は、乾燥時間を顕著に延ばした。しかし、このインクは、吐出性が悪かった。指向性のない長い液だれが多く観察された。最適な性能を有するインクは、デカヒドロナフタレンとビシクロヘキサンを両方とも含む混合物から作られたインクであった。このインクは、良好な吐出性を示し、ノズル内での乾燥時間は合理的に良好な時間であり、コーヒーリング効果はみられず、線は、黒色の点が存在しない非常に良好な外観であった。
【表1】

【0046】
(実施例2)
印刷した銀線の接着性をさらに改良するために、テルペン樹脂(Arizona Chemicals(Jacsonville,Florida)製)をインク配合物に1.2重量%になるように加えた。このインクの配合を表2に示す。
【表2】

【0047】
印刷し、140℃で10分間アニーリングした後、印刷した線に対し、ガラスの上の導電線の表面にScotch Magic Tape(3M)を貼り付け、次いで、このScotch Magic Tape(3M)を表面からはがすことによって接着試験を行った。銀は、基材からまったくはがれないか、またはほとんどはがれなかった。比較として、インク配合物に樹脂が用いられない場合には、接着性は非常に悪く、多量の線がはがれた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀を含む金属ナノ粒子と、
任意成分の樹脂と、
2種類以上のインク媒剤とを含み、前記インク媒剤の少なくとも1つが、25℃での蒸気圧が4mmHg未満である脂肪族炭化水素である、インク組成物。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子コアと有機安定化剤のシェル層とを含む、安定化された金属ナノ粒子である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記ナノ粒子は、金属含有量が少なくとも65重量%である、請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
印刷ヘッドノズル内での印刷ヘッドのデキャップ時間が少なくとも5時間である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記安定化剤が式X−Yを有し、Xが、少なくとも4個の炭素原子を含む炭化水素基であり、Yが、前記金属ナノ粒子の表面に接続しており、ヒドロキシル、アミン、カルボン酸、チオールおよびチオール誘導体、キサントゲン酸、ピリジン、ピロリドン、およびこれらの混合物からなる群から選択される官能基である、請求項2に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つのインク媒剤は、蒸気圧が25℃で1mmHg未満の脂肪族炭化水素である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記金属ナノ粒子が、金、白金、パラジウム、銅、コバルト、クロム、ニッケル、銀−銅コンポジット、銀−金−銅コンポジット、銀−金−パラジウムコンポジット、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される金属または金属コンポジットをさらに含む、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項8】
前記2種類以上の溶媒が、前記インク組成物の合計重量の約15〜約90重量%の量で存在する、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項9】
インク組成物であって、
銀ナノ粒子と、
少なくとも1個のシクロヘキサン環を含む脂肪族炭化水素、単環モノテルペンおよび二環モノテルペンを含む環状テルペン、環状テルピネン、テルピネオール、メチルナフタレン、およびこれらの混合物からなる群から選択される2種類以上のインク媒剤と、を含み、前記インク組成物は、印刷ヘッドのデキャップ時間が約5時間〜約1週間まで延長されている、インク組成物。
【請求項10】
前記銀ナノ粒子は、有機アミンで安定化された銀ナノ粒子である、請求項9に記載のインク組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公開番号】特開2012−184407(P2012−184407A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−26625(P2012−26625)
【出願日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】