説明

銀ナノ粒子を用いる接合体の製造方法、及び接合体

【課題】 金属ナノ粒子を用いる接合用材料であって、金属ナノ粒子の分散安定性を損なうことがなく、250℃以下の低温でも接合可能な接合用材料を用いて接合体を得る製造方法と、その接合体を提供すること。
【解決手段】 有機化合物と銀ナノ粒子を含む接合用材料を用いて被接合物間を接合する接合体の製造方法であって、該有機化合物が、ポリエチレンイミン中のアミノ基にポリエチレングリコールが結合してなる有機化合物(x1)、又はポリエチレンイミン中のアミノ基に、ポリエチレングリコールと、線状エポキシ樹脂とが結合してなる有機化合物(x2)であり、かつ、被接合物の接合部位間に該接合用材料の層を設け、その後、それを100〜250℃で加熱して接合させることを特徴とする接合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な電気、電子製品において、電子部品、配線、回路、電極、デバイス材料、半導体等の被接合物を、銀ナノ粒子を含有する接合用材料で接合する接合体の製造方法、及び該方法で得られる接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に接合用材料は、接合させる温度や、接合後に施される加工条件等によって種々の温度条件に対応していなければならない。例えば、高融点はんだ、低融点はんだ、共晶はんだ等のような様々な温度に適応した種類のものがあるが、多くは錫の含有量を制御したり、混合する材料の種類を変えたりすること等によって対応されてきた。近年はさらに環境問題対策として鉛フリーはんだの開発が活発に行われている。これらの要求に対応可能な材料として銀を用いた接合用材料の開発が増えており、中でもナノサイズレベルの銀粒子を用いた接合用材料が注目されている。一般に金属粒子は、ナノサイズになると表面エネルギーが著しく高くなるため、粒子表面の融着温度がバルク金属の融点と比べて大きく低温化する。そのため金属ナノ粒子は低温で融着するが、融着後は、通常のバルク金属と同じ高い融点を有する。このことから、金属ナノ粒子を含有する接合用材料を用いて得られる接合部(接合体)は、高温に曝されても剥がれ等の問題が発生することがない。
【0003】
この様に、接合用材料としては優れた性能を発揮すると期待される金属ナノ粒子ではあるものの、上述のように表面エネルギーの高さに起因し室温でも融着が進行することがあるため、その表面は各種保護剤で保護し、安定化する必要がある。更に電子部品の微小化に伴い、接合用材料の使用方法において微細な印刷技術が応用される場合など、金属ナノ粒子を各種媒体中へ分散させる必要があり、保護剤には表面保護のみならず、分散補助等、様々な性能を兼備させようとする工夫も検討されている。一方で、ここで使用される保護剤は、接合時には金属ナノ粒子の融着の進行を阻害するものであるから、接合時には金属ナノ粒子表面から保護剤を解離させる必要があり、更に当該保護剤を系から除去することが前提であり、「保護剤の除去」が接合時の加熱温度を左右するものであると考えられ、保護剤の選択と共に、接合用材料の調製や接合方法についても種々提案されてきている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0004】
例えば、前記特許文献1は、金属微粒子の保護剤として末端アミノ基を有するアミン化合物を用い、接合用材料中にこのアミン系化合物と加熱時に反応可能な有機酸或いは有機の酸無水物またはその誘導体を添加することにより、加熱時(接合時)にアミン化合物との間でアミド結合を形成させるなどして、金属微粒子表面からの保護剤の解離を進行させることで、バルク金属間の接合を確実にする工夫を施したものである。特許文献1では、被接合物が金属であるため、接合時の加熱上限は、該被接合物の融点以下であれば良いものであり、実施例においては250℃で1時間の加熱を施していることから、保護剤であるアミン系化合物やこれと反応可能な酸類は系から除去され、このことも充分な接合に寄与していると考えられる。
【0005】
又、前記特許文献2は、保護剤として、金属粒子の表面と結合する性質と水素結合を形成する性質を併せ持つ官能基を複数有し、かつ通常200℃以下の低温で蒸発する比較的分子量が小さい有機化合物を選択することで、金属粒子の分散性(安定化)と低温接合性とを兼備させたものである。特許文献2の技術では、250℃で数分程度加熱・加圧することで接合を行なっており、前述の特許文献1で提案された技術よりも低温接合性に優れるものの、基本的には保護剤を系から除去するため、これ以下の加熱では確実な接合を望むことができない。
【0006】
更に又、前記特許文献3では、分子量250以下の第二級アミンで保護した金属粒子を含む接合用材料を50〜400℃の温度で1秒〜10分加熱することで被接合物間に金属の焼結体を形成させる接合方法が提案されている。第二級アミンを用いることで、金属粒子の分散性を保ちながら、加熱時には表面から剥がれやすくし、低分子量とすることで低温でも系外へ除去できるよう、工夫を施した技術ではあるが、実施例では250℃での加熱と加圧を行なっており、更に低温・低圧で接合可能であることは示されていない。
【0007】
前述のように、現在までの検討においては、接合を確実とするために金属ナノ粒子を保護する保護剤を、加熱・接合時に系外へ除去することが前提となっている。従って分散安定性を確保しながら低温接合を行なうためには、保護剤は低分子量の有機化合物に限られており、且つその蒸発・蒸散温度以上での加熱が必要であることから、低温接合性を謳っている技術においても250℃未満での実施がなされていない。今後更に電気・電子機器の微小化・軽量化に伴い、より耐熱性の低いプラスチック等へも確実な電子部品等の接合が必要となることが予想される現状において、金属ナノ粒子を用いる、より低温接合可能な材料の開発が希求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−126869号公報
【特許文献2】特開2009−120923号公報
【特許文献3】特開2009−167436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題を鑑みてなされたものであり、金属ナノ粒子を用いる接合用材料であって、金属ナノ粒子の分散安定性を損なうことがなく、250℃以下の低温でも接合可能な接合用材料を用いて接合体を得る製造方法と、その接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らが独自に開発した有機化合物で保護した銀ナノ粒子を含む複合体は、低温融着性、種々の基材や材料等との密着性に優れていること、接合用材料への適性を検討した結果、250℃以下での低温においても接合性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、有機化合物(X)と銀ナノ粒子(Y)を含む接合用材料を用いて被接合物間を接合する接合体の製造方法であって、
該有機化合物(X)が、数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる有機化合物(x1)、又は
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、線状エポキシ樹脂(c)とが結合してなる有機化合物(x2)であり、かつ、
被接合物の接合部位間に該接合用材料の層を設け、その後、それを100〜250℃で加熱して接合させることを特徴とする接合体の製造方法と、当該方法で得られる接合体を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の接合体の製造方法は、特定の有機化合物で保護されている銀ナノ粒子を含む接合用材料を用いるものであり、100〜250℃の従来にない低温における加熱処理で導電性材料や半導体材料等を接合する方法であり、耐熱性の低い被接合物へも好適に応用することが可能である。さらに接合された導電性材料等を種々の基板上に固定するための接合性も有しており、フレキシブルなプラスチック基板等において有用である。また、加圧ができない部位への適用もでき、ワイヤボンディングをはじめ、異方性導電材料接続等の様々な接合手法への応用が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の接合体の製造方法は、有機化合物(X)と銀ナノ粒子(Y)を含む接合用材料を用いて被接合物間を接合する接合体の製造方法であって、
該有機化合物(X)が、数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる有機化合物(x1)、又は
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、線状エポキシ樹脂(c)とが結合してなる有機化合物(x2)であり、かつ、
被接合物の接合部位間に該接合用材料の層を設け、その後、それを100〜250℃で加熱して接合させることを特徴とする。
【0014】
従来、銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を含む接合用材料において、当該ナノ粒子の室温での融着を防ぐために使用される保護剤は、加熱による金属ナノ粒子の融着を阻害し、ひいては被接合物間の充分な接合を阻害すると考えられてきた。このため、金属ナノ粒子の保存安定性や各種媒体中への容易分散性を付与するためには比較的高分子量の有機化合物からなる保護剤が好ましいものであるが、この様な保護剤で保護されている金属ナノ粒子を接合用材料へ適用することは難しいというのが常識とも言うべきものであった(前記特許文献2参照。)
【0015】
この様な背景の下、後述する特定の有機化合物を保護剤とする銀ナノ粒子における、当該保護剤の脱離挙動について検討を進めた結果、従来にない低温においても当該保護剤が銀ナノ粒子から容易に脱離することが判明し、また脱離した保護剤(有機化合物)は銀ナノ粒子の融着を妨げることなく、さらに融着した銀と被接合物との密着性の発現にも寄与することが見出され、保護剤を系外へ除去する必要が全くないことにより、低温接合が実現されるに至ったものである。
【0016】
本発明における銀ナノ粒子(Y)とは、透過型電子顕微鏡写真で観測される平均粒子径(100個の粒子を無作為に抽出し、その平均をとった値)が100ナノメートル以下であることを意味するものであり、その形が完全な球体であることを必要としない。又、有機化合物(X)を構成する各セグメントの数平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した、ポリスチレン換算値である。更に、接合用材料は、前記有機化合物(X)と銀ナノ粒子(Y)とを不揮発分中の主成分とするものであり、当該主成分は銀ナノ粒子(Y)が有機化合物(X)によって保護された構造からなるナノメートルオーダーの複合体からなる。尚、「主成分とする」とは意図的に第三成分を添加しない場合において、未反応原料及び原料由来の副生物以外の成分を含まないことを言う。
【0017】
本発明において使用する有機化合物(X)を構成するポリエチレンイミン(a)は、該鎖中のエチレンイミン単位が銀およびそのイオンと配位結合可能であり、更に銀イオンの還元を促して銀ナノ粒子(Y)とし、該銀ナノ粒子(Y)を安定化し保持する高分子鎖である。その構造はエチレンイミン単位を主な繰り返し単位とし、直鎖状、分岐状のいずれであっても良く、市販品・合成品のいずれでも良い。
【0018】
前記複合体の大きさは、用いる有機化合物(X)の分子量だけではなく、該有機化合物(X)を構成する各成分、即ち、ポリエチレンミン(a)、ポリエチレングリコール(b)、および線状エポキシ樹脂(c)の構造や組成比、また原料として用いる銀化合物の種類によっても影響を受ける。同じ分子量のポリエチレンイミン(a)である場合には、分岐度が小さいと得られる複合体の粒径が大きく、分岐度の向上に伴って粒径が小さくなる傾向がある。また、複合体中の銀ナノ粒子(Y)の含有率を上げるためには、分岐状のポリエチレンイミンを用いることが好ましい。
【0019】
一般に市販されている分岐状ポリエチレンイミンは3級アミンによって分岐状となっており、本発明で使用する有機化合物(X)の原料として用いることができる。保存安定性に優れる複合体が得られる点からは、分岐度を(3級アミン)/(全てのアミン)のモル比で示すと(1〜49)/(100)の範囲の分岐度であることが好ましく、工業的な製造面、入手のし易さ等も鑑みるとより好ましい分岐度の範囲は(15〜40)/(100)である。
【0020】
前記ポリエチレンイミン(a)部分の数平均分子量としては、低すぎると、有機化合物(X)による銀ナノ粒子(Y)の保持能力が低下しやすく、保存安定性が不十分になることがあり、高すぎると有機化合物(X)が巨大な会合体となるため、複合体の保存安定性に支障をきたすことがある。従って、得られる複合体中の銀ナノ粒子(Y)の固定化能力や複合体の粒径の巨大化を防ぐ能力等の観点より、該ポリエチレンイミン(a)の数平均分子量としては500〜50,000の範囲であることを必須とし、1,000〜40,000の範囲であることが好ましく、1,800〜30,000の範囲であることが最も好ましい。
【0021】
本発明において使用する有機化合物(X)を構成するポリエチレングリコール(b)は、親水性セグメントであり、複合体を親水性溶媒に容易に分散させ安定化を促すものである。該ポリエチレングリコール(b)の分子量としては、親水性溶媒に分散させる場合は、分子量が低すぎると分散安定性が悪化し、高すぎると複合体同士が凝集してしまう可能性が考えられる。従って、分散性・保存安定性がより優れた複合体を得るためには、ポリエチレングリコール(b)の数平均分子量としては500〜5,000の範囲であることを必須とし、1,000〜3,000であることが好ましい。
【0022】
前記ポリエチレングリコール(b)は一般的に市販されているものであっても、合成品でも良い。また、他の親水性ポリマーとの共重合体等であっても良い。このとき使用できる親水性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。得られる複合体中の銀ナノ粒子(Y)の含有率を高める点から、共重合体を使用する場合においても、全体の分子量が500〜5,000の範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明において使用する有機化合物(x2)は、更に、疎水性セグメントとして線状エポキシ樹脂(c)が結合してなるものである。有機化合物(x2)中に線状エポキシ樹脂(c)由来の構造を含有させることにより、該有機化合物(x2)を水または親水性溶媒中に分散した場合には、分子内又は分子間相互の強い会合力により、ミセルのコアを形成し、安定なミセルを形成してその中に銀ナノ粒子(Y)を取り込んで安定な分散体を得ることができる。
【0024】
前記線状エポキシ樹脂(c)は一般的に市販、又は合成可能な構造であれば特に限定されることなく使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、特開2003−201333号記載のキサンテン型エポキシ樹脂等が挙げられ、単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。これらの中でも、得られる複合体を接合用材料として用いた際、特に金属基板との密着性に優れる等の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、これらの線状エポキシ樹脂は、そのまま有機化合物(x2)の原料としても良く、更には目的とする有機化合物(x2)の構造等に応じて、種々の変性を加えたものであっても良い。例えば、エポキシ樹脂(c)中のエポキシ基の一部を、金属との相互作用を有する芳香環を有する化合物で予め開環させて、より密着性に優れる接合用材料に適用することもできる。
【0025】
また、前記線状エポキシ樹脂(c)の分子量としては特に限定されるものではないが、親水性有機溶剤中に分散させる場合は、低すぎると分散安定性が悪化し、高すぎるとミセル同士が凝集してしまう可能性が考えられる。これらの観点から、線状エポキシ樹脂(c)の数平均分子量としては通常350〜20,000であり、400〜10,000であることが好ましい。
【0026】
本発明で用いる有機化合物(X)の製造方法としては、特に限定されるものではないが、設計どおりの化合物を容易に合成可能である点から、下記の方法によるものが好ましい。
【0027】
ポリエチレンイミン(a)は前述したとおり、市販又は合成したものを好適に用いることができる。まず、分岐状ポリエチレンイミンを用いる場合について説明する。
【0028】
分岐状ポリエチレンイミンの末端は1級アミンとなっているため、ポリエチレングリコール(b)の末端を1級アミンと反応する官能基に予め変性させて、反応させることによって、本発明で用いる事ができる有機化合物(x1)を合成することができる。1級アミンと反応する官能基としては、特に限定されるものではなく、例えば、アルデヒド基、カルボキシ基、イソシアネート基、トシル基、エポキシ基、グリシジル基、イソチオシアネート基、ハロゲン、酸クロライド、スルホン酸クロライド等が挙げられる。中でもカルボキシ基、イソシアネート基、トシル基、エポキシ基、グリシジル基は反応性、取扱い易さ等、製法上有利であり、好ましい官能基である。
【0029】
また1級アミンと直接反応する官能基でなくとも、種々の処理を行うことによって1級アミンと反応可能な官能基にできるものであれば良く、例えば、ヒドロキシ基を有するポリエチレングリコールを用いるのであれば、これをグリシジル化する等の手法でポリエチレンイミン鎖と反応させても良い。更には、分岐状ポリエチレンイミン鎖の1級アミンを、官能基を有するポリエチレングリコールと反応可能な他の官能基に変換する処理を施した後、これらを反応させて有機化合物(X)を合成することも可能である。
【0030】
ポリエチレンイミン鎖(a)が直鎖状ポリエチレンイミン鎖の場合は、リビング重合によって、まずポリアシル化エチレンイミン鎖を合成し、引き続き、ポリエチレングリコールを導入することによって高分子化合物を得た後、ポリアシル化エチレンイミン鎖を加水分解して直鎖状ポリエチレンイミン鎖とする方法が挙げられる。
【0031】
本発明で用いる有機化合物(x2)の合成方法についても既に本発明者らにより提供している(特開2006−213887号公報、特開2008−045024号公報等)ので、それを参照し、規定の範囲の分子量を有する化合物を合成すれば良い。
【0032】
本発明で用いる有機化合物(x1)中のポリエチレンイミン(a)とポリエチレングリコール(b)の各成分の鎖を構成するポリマーのモル比(a):(b)としては特に限定されるものではないが、得られる複合体の保存安定性に優れる点から、通常(a):(b)=1:1〜100の範囲であり、特に1:1〜30になるように設計することが好ましい。
【0033】
有機化合物(x2)を用いる場合、ポリエチレンイミン(a)とポリエチレングリコール(b)、線状エポキシ樹脂(c)の各成分の鎖を構成するポリマーのモル比(a):(b):(c)としては特に限定されるものではないが、得られる複合体の保存安定性に優れる点から、通常(a):(b):(c)=1:1〜100:1〜100の範囲であり、特に1:1〜30:1〜30になるよう設計することが好ましい。
【0034】
本発明に使用する有機化合物(X)は、銀ナノ粒子(Y)を安定に存在させることが出来るポリエチレンイミン(a)とは別に、有機化合物(x1)ではポリエチレングリコール(b)、有機化合物(x2)ではポリエチレングリコール(b)および線状エポキシ樹脂(c)に由来する構造を有する。上記したように、ポリエチレングリコール(b)の部分は、親水性有機溶剤中では溶媒と高い親和性を示し、また、線状エポキシ樹脂(c)の部分は親水性有機溶剤中で強い会合力を示す。さらには、線状エポキシ樹脂(c)中に芳香環を有する場合には、該芳香環の有するπ電子が銀と相互作用することによって、さらに複合体の分散性を安定化することに寄与するとも考えられる。
【0035】
前記複合体の製造方法は、まず前述の有機化合物(X)を水性媒体、即ち水又は水と親水性有機溶剤との混合溶剤に溶解又は分散させる。有機化合物(x1)の場合は、ポリエチレンイミン(a)とポリエチレングリコール(b)、有機化合物(x2)の場合にはポリエチレンイミン(a)とポリエチレングリコール(b)、および線状エポキシ樹脂(c)の組合せにより、水性媒体への溶解性・分散性が異なるが、均一に溶解または分散させることが必要となる。ここで用いることができる親水性有機溶剤としては、25〜35℃で、水100質量部に対して、少なくとも5質量部混和し、均一な混合溶剤が得られるものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルフォンオキシド、ジオキシラン、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン等を挙げることができ、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。また、各種イオン液体を用いても良い。
【0036】
前記有機化合物(X)と、水性媒体との使用割合としては、取り扱い上の容易性と、銀イオンの還元反応の容易性の観点、得られる複合体中の銀ナノ粒子(Y)含有率の向上の観点から、有機化合物(X)の濃度が1〜20質量%になるように用いることが好ましく、2〜15質量%であることがより好ましい。この時、有機化合物(X)の溶解性・分散性が不足する場合には、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を併用した混合溶剤を用いることで溶解性・分散性を調整することができる。有機化合物(X)を溶解または分散させるには、通常、室温(25℃)で静置、又は攪拌を行えばよく、必要に応じて超音波処理、加熱処理等を行ってもよい。また有機化合物(X)の結晶性等により、水性媒体とのなじみが低い場合には、例えば、有機化合物(X)を少量の良溶媒で、溶解又は膨潤させた後、目的とする水性媒体中へ分散させる方法でもよい。このとき、超音波処理又は加熱処理(〜80℃程度)を行うとより効果的である。
【0037】
有機化合物(X)の溶液又は分散液を調製した後、銀化合物を混合するが、このとき、得られる複合体中の銀ナノ粒子(Y)の含有率を高める観点から、有機化合物(X)100質量部に対して、銀として400〜9900質量部になるよう用いることが好ましい。さらに水性媒体の使用量を削減することによって生産性を高めることと、還元反応の制御を容易に行なうことができる観点から、不揮発分として2〜80質量%になるよう混合することが好ましい。より好ましくは、有機化合物(X)100質量部に対して、銀として900〜9900質量部、不揮発分として3〜50質量%となるように用いることである。
【0038】
この時、用いることができる銀化合物としては、還元反応によって銀ナノ粒子(Y)が得られるものであればよく、例えば、硝酸銀、酸化銀、酢酸銀、フッ化銀、銀アセチルアセトナート、安息香酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、銀ヘキサフルオロフォスフェート、乳酸銀、亜硝酸銀、ペンタフルオロプロピオン酸銀等が挙げられ、取り扱い容易性、工業的入手容易性の観点から、硝酸銀または酸化銀を用いることが好ましい。
【0039】
前記工程において、有機化合物(X)が溶解又は分散している水性媒体と銀化合物とを混合する方法としては、特に限定されるものではなく、該有機化合物(X)が溶解又は分散している媒体に銀化合物を加える方法、その逆の方法、或いは別の容器に同時に投入しながら混合する方法でもよい。攪拌等の混合方法についても、特に限定されない。
【0040】
この時、還元反応を早めるために、必要に応じて30〜70℃程度に加温しても良く、また、還元剤を併用しても良い。
【0041】
前記還元剤としては、特に限定されるものではないが、還元反応を容易にコントロールすることができるとともに、後の精製工程で容易に反応系から除去可能である点から、例えば、水素、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素アンモニウム等のホウ素化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類、アスコルビン酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の酸類、ヒドラジン、炭酸ヒドラジン等のヒドラジン類等を用いることが好ましい。これらの中でも、工業的入手のし易さ、取扱い面等からより好ましいものとしては、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸、クエン酸ナトリウム等である。
【0042】
前記還元剤の添加量は、銀イオンを還元するのに必要な量以上であれば特に限定されるものではなく、上限は特に規定するものではないが、銀イオンの10モル倍以下であることが好ましく、2モル倍以下であることがより好ましい。
【0043】
また、還元剤の添加方法は限定されるものではなく、例えば、還元剤をそのまま、又は水溶液やその他の溶媒に溶解、分散させて混合させることができる。また還元剤を加える順序についても限定されることはなく、予め有機化合物(X)の溶液または分散液に還元剤を添加しておいても、銀化合物を混合するときに同時に還元剤を加えてもよく、さらには、有機化合物(X)の溶液とまたは分散液と銀化合物とを混合した後、数時間経過した後、還元剤を混合する方法であってもよい。
【0044】
特に酸化銀や塩化銀等の水性媒体に溶解しない、または溶解しにくい原料を用いる場合には、錯化剤を併用しても良い。前記錯化剤としては、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリエチルアミン、アンモニア、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、トリエチレンテトラミン、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ジメチルアミノプロパノールなどが挙げられる。
【0045】
上記錯化剤の添加量は、酸化銀等に配位されて錯体をつくるのに充分な量であればよく、上限は特に規定するものではないが、用いる酸化銀等の40モル倍以下であることが好ましく、20モル倍以下であることがより好ましい。また、該錯化剤の添加方法は限定されるものではなく、例えば、錯化剤をそのまま、又は水溶液やその他の溶媒に溶解、分散させて混合させることができる。
【0046】
還元反応にかかる時間は、還元剤の有無や用いる有機化合物(X)の種類等によって異なるが、通常0.5〜48時間であり、工業的生産の観点から0.5〜24時間に調製することが好ましい。調製する方法としては、加温する温度、還元剤や錯化剤の投入量およびその時期等による方法が挙げられる。
【0047】
還元反応を行った後、精製工程に入るが、このとき有機溶剤を加えてから濃縮を行なうことが好ましい。濃縮方法としては特に限定されるものではなく、透析、遠心分離、沈殿法などのいずれを用いても良く、また同時に用いても良い。このとき使用できる有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、濃縮工程にかかる時間を短縮できる観点、該有機溶剤の再利用が可能である点、前工程で得られた混合物との混合が容易である点から、沸点が120℃以下、好ましくは100℃以下の有機溶剤であることが好ましい。その使用量としても特に限定されるものではないが、前工程で得られた混合物に対して1.5〜5倍量、好ましくは2〜3倍量になるよう混合することが好ましい。また、濃縮法としては工業的生産性に優れる点から、遠心分離法を用いることが好ましい。この遠心濃縮工程においては、前工程で用いた媒体の一部のほか、必要に応じて添加した還元剤や錯化剤、および銀イオンの対イオン等を除去することを目的とするものである。従って、前工程で用いた原料に応じた濃縮方法を用いることが好ましく、不揮発分が30質量%以上、好ましくは50質量%以上まで濃縮する。
【0048】
一般に数十nmのサイズ領域にある金属ナノ粒子は、その金属種に応じて、表面プラズモン励起に起因する特徴的な光学吸収を有する。従って、得られる分散体のプラズモン吸収を測定することによって、該分散体中には、銀がナノメートルオーダーの微粒子として存在していることを確認することが出来、更には、該分散体をキャストして得られる膜のTEM(透過電子顕微鏡)写真等にて、その平均粒径や分布幅等を観測することも可能である。
【0049】
前記で得られた濃縮物は、そのまま接合用材料として用いることができる。更に、1度濃縮したものに、後述する所望の分散媒体を適宜加え、攪拌・混合して分散体としても良い。また濃縮物を真空乾燥・凍結乾燥等によって粉末状にした粉末をそのまま使用してもよく、さらに該粉末を後述する所望の分散媒体に分散させて新たに分散体としてから使用する方法のいずれであっても良い。
【0050】
本発明で用いる接合用材料の使用目的等に応じて、各種分散媒体中に前記複合体を分散させることが可能である。該分散媒体には、親水性溶媒、疎水性溶媒、またはその混合溶媒を種々選択して用いる事ができる。これらの中でも均一な分散体を容易に得られる点から、ヒドロキシ基を有する化合物からなる溶媒であることが好ましく、水単独又は水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールとの混合溶媒であることが最も好ましい。
【0051】
親水性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジメチルスルフォンオキシド、ジオキシラン、N−メチルピロリドン等を挙げることができ、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。
【0052】
疎水性溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、ブタノール、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、メトキシベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられ、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。
【0053】
親水性溶媒、或いは疎水性溶媒と混合して用いることができるその他の溶媒としては、例えば、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられ、得られる接合用材料の使用用途等に応じて、適宜選択して用いればよい。
【0054】
又、接合用材料中における銀ナノ粒子(Y)の濃度としては特に限定されるものではないが、接合性及び導電性の観点から接合用材料中の銀含有率は通常10〜98質量%であり、20〜60質量%であることが好ましい。接合用材料中における銀ナノ粒子(Y)の濃度は、使用する分野の形態に応じて調整可能である。又、接合用材料は粉体又はペースト状に調製して使用することができ、ペーストとして使用する場合の粘度としても特に限定されるものではないが、インクジェット装置やスクリーン印刷等の印刷法への応用も視野に入れた観点からは1〜20,000mPa.Sであることが好ましい。
【0055】
前述の方法で得られた複合体を前述の分散媒体中に分散させ分散液とする方法としては、特に限定されるものではなく、ビーズミル、ペイントコンディショナー、超音波ホモジナイザー、フィルミックス、ホモジナイザー、ディスパー、スリーワンモータなどの装置を用いた攪拌法、超音波法、ミキサー法、3本ロール法、ボールミル法などで分散を施せばよい。良好な分散状態の接合用材料を得るために、これらの分散方法の内、複数の方法を組み合わせて分散を行うことも可能である。
【0056】
本発明で用いる接合用材料は、それ自体で接合性に優れるものであるが、更なる接合性向上や、有機溶剤等の分散媒体を含有する接合用材料としたときの分散安定性、保存安定性などの向上のために、親水性ポリマーを添加しても良い。前記親水性ポリマーとしては、特に限定されるものではなく、例えばポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリアセチルエチレンイミン、ポリアセチルプロピレンイミン、ポリプロピオニルエチレンイミン、ポリプロピオニルプロピレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアシルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリプロピルオキサゾリン等のポリマー、又は上記ポリマー類より選ばれる2種以上のポリマー鎖からなるグラフトポリマー、ブロックポリマー等を挙げることができる。これらの中でも、プラスチックからなる被接合物への密着性と接合用材料としたときの分散安定性の観点から、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、アミノ(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリン、ポリエチレングリコールとポリエチレンイミンとの反応物を用いることが好ましい。
【0057】
さらに、接合用材料として用いる場合に添加剤として混合されうる成分としては特に限定されるものではなく、カップリング剤等の、種々の被接合物や、種々の導電性部品、電子部品等との接合性を向上させる成分や、レベリング剤等の塗布時の表面を制御する成分、各種の沸点を有する溶剤、粘度調節剤、前記親水性ポリマー以外の各種ポリマー、セラミック、架橋剤等を挙げることができる。
【0058】
特に、前述で得られた複合体を含有する接合用材料には、ポリエチレンイミン(a)中の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)が含まれていることが好ましい。該化合物(Z)を添加することによって、低温接合性を更に向上させることができる。添加方法としては特に限定されるものではなく、例えば、前記化合物(Z)をそのまま、又は水溶液やその他の溶媒に溶解、分散させて混合させることができる。
【0059】
前記化合物(Z)は、一般的に市販、又は合成可能な構造であれば特に限定されることなく使用することができ、具体的にはポリエチレンイミン(a)中の窒素原子と反応してアルコールを生成したり、アミド結合を形成したり、4級アンモニウムイオンを形成するアルデヒド化合物、エポキシ化合物、酸無水物、カルボン酸、無機酸等を挙げることができる。例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ペリルアルデヒド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−メトキシ−2−メチルプロピレンオキシド、酪酸−グリシジル、グリシジルメチルエーテル、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2−エポキシ‐5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセン、2−フェニルプロピレンオキシド、スチルベンオキシド、グリシジルメチルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、ステアリン酸グリシジル、エポキシこはく酸、1,5−ヘキサジエンジエポキシド、1,7−オクタジエンジエポキシド、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールグリシジルエーテル、無水酢酸、無水マレイン酸、シトラコン酸無水物、ジアセチル−酒石酸無水物、フタル酸無水物、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、o−アセチル−りんご酸無水物、(2−メチル−2−プロペニル)こはく酸無水物、1,2−ナフタル酸無水物、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3−アントラセンジカルボン酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、3−メチルグルタル酸無水物、3−メチルフタル酸無水物、4−メトキシ安息香酸無水物、4−メチルフタル酸無水物、安息香酸無水物、こはく酸無水物、ブチルこはく酸無水物、デシルこはく酸無水物、ドデシルこはく酸無水物、ヘキサデシルこはく酸無水物、オクタデシルこはく酸無水物、オクタデセニルこはく酸無水物、イソオクタデセニルこはく酸無水物、テトラデセニルこはく酸無水物、ノネニルこはく酸無水物、トリメリット酸無水物、酪酸無水物、プロピオン酸無水物、ヘプタン酸無水物、デカン酸無水物、n−オクタン酸無水物、ノナン酸無水物、オレイン酸無水物、吉草酸無水物、パルミチン酸無水物、フェノキシ酢酸無水物、ピバル酸無水物、ステアリン酸無水物、クロトン酸無水物、ジグリコール酸無水物、グルタル酸無水物、exo−3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、イタコン酸無水物、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、安息香酸、パラトルエンスルホン酸、グルクロン酸、ヒアルロン酸、グルコン酸、過酸化水素、リン酸、硝酸、亜硝酸、ホウ酸等が挙げられ、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。
【0060】
前記化合物(Z)の添加量としては特に限定されるものではないが、得られる接合用材料の保存安定性に優れる点から、通常ポリエチレンイミン(a)中のエチレンイミン単位に対して0.1〜5倍モル当量の範囲であり、特に0.25〜1倍モル当量になるよう用いることが好ましい。
【0061】
本発明で用いる接合用材料は、前述のように特定の有機化合物(X)と銀ナノ粒子(Y)とを必須成分としていれば良く、低温接合性に優れたものであるが、特にこの性能を好適に発現させるためには、当該接合用材料の乾燥状態における融点が100〜150℃の範囲であることが好ましい。尚、融点は、DSCにて測定して得られる値である。
【0062】
前記で得られた接合用材料を用いて接合するときに使用する被接合物の接合面の材質や形状等は特に限定されるものではない。金属ナノ粒子を含む接合用材料は、一般的に導電性接合材料として使用されることから、被接合物の接合面は導電性材料、或いは半導体材料であり、金属、合金、金属酸化物、半導体、導電性ポリマー等である。また被接合物の固定や封止等の目的のためには、被接合物の一方が絶縁性材料からなるものであってもよい。
【0063】
従って、本発明の接合方法で用いる被接合物としては、例えば、ガラス、シリコン、金属、金属酸化物などの無機材料、樹脂(プラスチック)、セルロースなどの有機材料等、更にはガラス、金属、金属酸化物表面をエッチング処理したもの、樹脂の表面をプラズマ処理、オゾン処理したものなどを使用できる。
【0064】
ガラスとしては、特に限定するものではないが、例えば、耐熱ガラス(ホウケイ酸ガラス)、ソーダライムガラス、クリスタルガラス、鉛や砒素を含まない光学ガラスなどのガラスを好適に用いることができる。ガラスの使用においては、必要に応じ、表面を水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液でエッチングして用いることができる。
【0065】
金属としては特に限定しないが、例えば、鉄、銅、アルミ、ステンレス、亜鉛、銀、金、白金、またはこれらの合金などを用いることができる。
【0066】
金属酸化物としては、特に限定するものではないが、例えば、ITO(インジウムティンオキシド)、シリカ、酸化チタン、酸化スズ、酸化銅、酸化亜鉛、アルミナなどを用いることができる。
【0067】
プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタラート、ポリイミド、ポリエーテルサルフォン、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホンなどの各種ポリマーの加工品を用いることができる。各種ポリマーの使用においては、必要に応じ、表面をプラズマ、UV照射処理したものであっても、硫酸またはアルカリ等で処理したものであっても良い。
【0068】
被接合物の形状については、特に限定されるものではなく、平面状若しくは曲面状のシート、またはフィルムでも良い。また、複雑形状加工品の管状チューブ、管状チューブのらせん体、マイクロチューブ;また、任意形状の(例えば、球形、四角形、三角形、円柱形等)容器;また、任意形状の(例えば、円柱形、四角形、三角形等)棒または繊維状態の固体でも好適に用いることができる。特に近年の電子機器の小型化・軽量化に対応するためには、プラスチックからなるフィルム又はシート状のフレキシブル基材を用いることが多いが、本発明の接合方法は、この様な分野へも好適に応用することが可能である。
【0069】
被接合物間へ接合用材料の層を形成させる方法としても特に限定されるものではなく、ペースト、或いは粉末状の接合用材料をスポイト、ピペット、ヘラ状の道具、ペレット状に加工して貼付する等の他、印刷方式、乾式塗布方式等であっても良い。印刷方式による塗布の例としては、インクジェット方式、反転印刷方式、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、ディスペンス方式、スクリーン印刷、ドット状の印刷等が挙げられる。
【0070】
また印刷方式以外の例として、実装等を行う様々な装置において使用される充填方法、電解メッキ、無電解メッキ、ボンディングメッキ方法、フェースダウン法で用いられる充填方法、スピンコーター、バーコーター、アプリケーター、ディッピングによる方法、フローガンやフローコーター等を用いた方法、スプレー等による吹き付け法、刷毛塗りやパフ塗り、ローラー塗り等も挙げられる。
【0071】
さらに粉体を用いた塗布例には、コロナ帯電、或いはトリボ帯電による静電塗装方式、流動浸漬方式、フレームスプレー方式、電界クラウド方式、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、イオンビーム製膜、化学気相蒸着等が挙げられる。
【0072】
本発明では、前記で得られた接合用材料からなる層を被接合物間に設け、その後、当該接合部位を100〜250℃で加熱することによって接合を行い、接合体を得るものであるが、その方法は特に限定されるものではない。例えば、該接合材料を接合面に前述の方法で塗膜化、被覆化、積層状態にしたもの等の接合部位を、こて、電気炉、乾燥機、オーブン、恒温槽、ホットステージ等の各種加熱装置を用いて加熱する方法、さらには25℃〜30℃の室温で自然乾燥させた後、加熱する方法等、さらに接合部位に圧力をかけながら加熱を施す方法等が挙げられる。
【0073】
加熱条件は、用途、用いる被接合物や添加剤等に応じて適宜選択されることが望ましい。本発明で用いる接合用材料は、銀ナノ粒子(Y)表面からの保護剤〔有機化合物(X)〕の脱離により、銀ナノ粒子(Y)の融着を進行させる必要があることから、100℃以上の加熱が必要であるが、加熱温度の上限は特に設ける必要はない。例えば、300℃以上に加熱をしても、それにより被接合物の融解等が発生しない限り、銀ナノ粒子(Y)の融着による銀融着体の生成により、被接合物の接合が可能である。しかしながら、本発明の接合用材料中に含まれる有機化合物(X)による密着性の向上効果を発現させる観点からは、該有機化合物(X)が分解されない温度であることが好ましいことを鑑みた場合、又、エネルギーコスト・環境対応の観点も踏まえ、加熱の上限温度を250℃としたものである。
【0074】
また加熱と同時又は連続して圧力をかけて接合を行ってもよい。圧力が大きすぎると、被接合物である基材や部品、配線等にクラックが生じたり、破損等を起こしたりすることが危惧されるが、これらの強度は種類によって異なり、加圧する場合の上限値を決定できるものではない。しかしこのような状況を避けるための例として、好ましい圧力の条件を挙げるならば、10kPa〜10MPaが好ましい。基材や部品、配線等の強度がさらに弱い場合は、10kpa〜3MPaがより好ましい。
【0075】
本発明の接合体は、上述の製造方法で得られたものであり、接合部位に、銀ナノ粒子(Y)の融着体(バルク銀)と有機化合物(X)が含まれていることを特徴とする。このとき、接合用材料中に前記有機化合物(X)と反応することができる官能基を有する化合物が含まれる場合、原料として用いた有機化合物(X)の一部が変性された変性物として接合部に含まれることになる。又、前述の接合用材料中に含まれる有機化合物(X)は、250℃以下ではほとんど分解されないため、分解物(ガス)の発生が少なく、接合部位にボイド等の発生がしにくいことも大きな特徴である。更に接合用材料に配合された各種添加剤や親水性ポリマーなども、加熱条件によってそのままの形態で、又は一部が変性された状態で含まれている。前述の複合体中における銀ナノ粒子(Y)の含有率は95質量%以上にすることも可能である点から、接合部位における銀の含有率も高めることが可能であり、接合部位に導電性を付与することも容易である。又、この様にして得られる接合体の接合部位は、基本的にバルク銀を主成分とするものであるため、耐熱性にも優れており、接合体を二次加工する際に高温に曝される場合においても、剥がれ等の問題は生じにくい。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断わりがない限り「%」は「質量%」を表わす。
【0077】
以下の実施例中、用いた機器類は下記の通りである。
H−NMR:日本電子株式会社製、AL300、300Hz
TEM観察:日本電子株式会社製、JEM−2200FS
TGA測定:SIIナノテクノロジー株式会社製、TG/DTA6300
プラズモン吸収スペクトル:日立製作所株式会社製、UV−3500
DSC測定:SIIナノテクノロジー株式会社製、DSC7200
【0078】
合成例1 有機化合物(x1)の合成及び これを用いた複合体の合成
1−1〔ポリエチレングリコールのトシル化反応〕
窒素雰囲気下、メトキシポリエチレングリコール[Mn=2,000]20.0g(10.0mmol)、ピリジン8.0g(100.0mmol)、クロロホルム20mlの混合溶液に、p−トルエンスルホン酸クロライド9.6g(50.0mmol)を含むクロロホルム(30ml)溶液を、氷冷撹拌しながら30分間滴下した。滴下終了後、浴槽温度40℃でさらに4時間攪拌した。反応終了後、クロロホルム50mlを加えて反応液を希釈した。引き続き、5%塩酸水溶液100ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100ml、そして飽和食塩水溶液100mlで順次に洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過、減圧濃縮した。得られた固形物をヘキサンで数回洗浄した後、濾過、80℃で減圧乾燥して、トシル化された生成物22.0gを得た。
【0079】
得られた生成物のH−NMRの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):7.82(d),7.28(d),3.74〜3.54(bs),3.41(s),2.40(s)
【0080】
1−2 〔有機化合物(x1)の合成〕
上記で合成した末端にp−トルエンスルホニルオキシ基を有するメトキシポリエチレングリコール化合物5.39g(2.5mmol)、分岐状ポリエチレンイミン(アルドリッチ社製、分子量25,000)を20.0g(0.8mmol)、炭酸カリウム0.07g及びN,N−ジメチルアセトアミド100mlを、窒素雰囲気下、100℃で6時間攪拌した。得られた反応混合物に酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)300mlを加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過した。その固形物を酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)100mlを用いて2回繰り返し洗浄した後、減圧乾燥して、分岐状ポリエチレンイミンにポリエチレングリコールが結合した化合物(x1)の固体を24.4g得た。
【0081】
得られた生成物のH−NMRの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):3.50(s),3.05〜2.20(m)
【0082】
1−3 〔複合体の合成〕
1−2で得た化合物(x1)を0.592g用いた水溶液138.8gに酸化銀10.0gを加えて25℃で30分間攪拌した。引き続き、ジメチルエタノールアミン46.0gを攪拌しながら徐々に加えたところ、反応溶液は黒赤色に変わり、若干発熱したが、そのまま放置して25℃で30分間攪拌した。その後、10%アスコルビン酸水溶液15.2gを攪拌しながら徐々に加えた。その温度を保ちながらさらに20時間攪拌を続けて、黒赤色の分散体を得た。
【0083】
上記で得られた反応終了後の分散液にイソプロピルアルコール200mlとヘキサン200mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にイソプロピルアルコール50mlとヘキサン50mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にさらに少量の水を加えて攪拌した後、減圧下、有機溶剤を除去して銀ナノ粒子(Y)と有機化合物(x1)との複合体の水系濃縮物を得た。さらに該水系濃縮物に水を加え、均一に分散させて固形分率30%の銀ペースト(p1)を得た。混合分散には、ホモディスパー(プライミクス株式会社製)を用いた。
【0084】
得られた複合体をサンプリングし、その希釈液の可視吸収スペクトル測定により400nmにプラズモン吸収スペクトルのピークが認められ、銀ナノ粒子の生成を確認した。また、TEM観察より球形の銀ナノ粒子(平均粒子径17.5nm)が確認された。TG−DTAを用いて、固体中の銀含有率を測定した結果、97.2%を示した。
【0085】
上記の水系濃縮物を−40℃の冷凍機に1昼夜放置して凍結し、これを凍結乾燥機(東京理化器械株式会社社製 FDU−2200)で24時間処理して、銀色の金属光沢があるフレーク状の塊を得た。フレーク状の粉体のDSC測定から、融点に相当する発熱ピークが100℃から150℃範囲で現れた。
【0086】
合成例2 有機化合物(x2)の合成及びこれを用いた複合体の合成
2−1 〔単官能エポキシ樹脂の合成〕
ビスフェノールA型線状エポキシ樹脂EPICLON AM−040−P(DIC株式会社製、エポキシ当量933)18.7g(20m当量)、4−フェニルフェノール1.28g(7.5mmol)、65%酢酸エチルトリフェニルホスホニウムエタノール溶液0.26ml(0.12mol%)及びN,N−ジメチルアセトアミド50mlを混合し、窒素雰囲気下、120℃で6時間反応させた。放冷後、水150ml中に滴下し、得られた沈殿物をメタノールで2回洗浄した後、60℃で減圧乾燥して、単官能性のエポキシ樹脂を得た。得られた生成物の収量は19.6g、収率は98%であった。
【0087】
H−NMR測定を行いエポキシ基の積分比考察結果、ビスフェノールA型線状エポキシ樹脂1分子にエポキシ環は0.95個残っており、単官能性のエポキシ樹脂であることが確認された。
【0088】
得られた単官能性のエポキシ樹脂のH−NMRの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):7.55〜6.75(m),4.40〜3.90(m),3.33(m),2.89(m),2.73(m),1.62(s)
【0089】
2−2 〔有機化合物(x2)の合成〕
上記で得られた単官能性のエポキシ樹脂3.0g(1.5mmol)、アセトン50mlの溶液に合成例1−2で得られた化合物(x1)14.4g(0.48mmol)、メタノール60mlの溶液を加えて、窒素雰囲気下、60℃で2時間攪拌した。反応終了した後、脱溶剤することにより、分岐状ポリエチレンイミンにポリエチレングリコールとエポキシ樹脂とが結合してなる化合物(x2)を得た。
【0090】
2−3 〔複合体の合成〕
上記2−2で得た化合物(x2)を0.263g用いた水溶液77.0gにジメチルエタノールアミン23.0gを攪拌しながら徐々に加えたところ、若干発熱した。引き続き、反応温度を45℃にして硝酸銀5.0gに徐々に加えたところ、反応溶液は黒赤色に変わった。その後、反応温度を50℃にして4.5時間攪拌して反応を終了し、黒赤色の分散体を得た。
【0091】
上記で得られた反応終了後の分散液にイソプロピルアルコール100mlとヘキサン100mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にイソプロピルアルコール25mlとヘキサン25mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物に少量の水を加えて攪拌した後、減圧下、有機溶剤を除去して銀ナノ粒子(Y)と化合物(x2)との複合体の水系濃縮物を得た。さらに該水系濃縮物に水を加え、ホモディスパーを用いて均一に分散させて固形分率30%の銀ペースト(p2)を得た。
【0092】
得られた複合体をサンプリングし、その希釈液の可視吸収スペクトル測定により400nm付近にプラズモン吸収スペクトルのピークが認められ、銀ナノ粒子の生成を確認した。また、TEM測定より球形の銀ナノ粒子(平均粒子径18.8nm)が確認された。また、TG−DTAを用いて、固体中の銀含有量を測定した結果、96.6%を示した。
【0093】
実施例1
10mm×10mm、厚さ0.5mm 正方形状の銅板(S1)に合成例1で得られた銀ペースト(p1)をステンレスのヘラを使って塗布し、室温(25℃)で30分放置することで乾燥した後、30mm×40mm、厚さ0.5mmの銅板(S2)上に、塗布面をはさむように載せ、ホットプレスを用いて、180℃、2.5MPaで5分プレスを行うことにより接合体を得た。ここで得られた接合体を室温まで放冷した後、銅板(S1)にセロハンテープ(ニチバン株式会社製)を貼り付け、銅板(S2)を固定し、1分経過した後、セロハンテープを剥したところ、セロハンテープが銅板(S1)から剥がれ、銅板(S1)が銅板(S2)としっかり接合されていることを確認した。
【0094】
実施例2
実施例1において、銀ペースト(p1)をそのまま使用する代わりに、銀ペースト(p1)に5%硝酸水溶液を加えpH5.5に調製した分散液を用い、加熱温度を150℃にした以外は、実施例1と同様にして、銅板同士の接合を行い、接合体を得た。この接合体に対して、実施例1と同様のセロハンテープによる剥離試験を行なった。セロハンテープと銅板との間で剥離が起こり、接合部での剥離は起こらないことを確認した。
【0095】
実施例3
実施例2においてホットプレスの温度を120℃としたこと以外は、実施例2と同様にして接合体を得た。この接合体に対して、実施例1と同様の剥離試験を行なった結果、セロハンテープと銅板との間で剥離が起こり、接合部での剥離は起こらないことを確認した。
【0096】
実施例4
実施例1において、銀ペースト(p1)の代わりに、合成例1で得られた凍結乾燥後のフレーク状の塊を砕いた粉末をそのまま接合用材料として用い、銅板間の接触部分に当該粉末状の接合用材料を載せ、室温乾燥を行なわず、さらにホットプレスでの接合条件を250℃、1.0MPa、5分としたこと以外は、実施例1と同様にして接合体を得た。この接合体に対して実施例1と同様の剥離試験を行なった結果、セロハンテープと銅板との間で剥離が起こり、接合部での剥離は起こらないことを確認した。
【0097】
実施例5
実施例2において銅板(S1)の代わりにポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡エステルフィルム、東洋紡績株式会社)としたこと以外は、実施例3と同様にして接合体を得た。この接合体に対して、剥離試験を行なった結果、セロハンテープと銅板との間で剥離が起こり、接合部での剥離は起こらないことを確認した。
【0098】
実施例6
実施例2において銅板(S1)の代わりにポリイミド(PI)フィルム(カプトンフィルム、東レ・デュポン株式会社)としたこと以外は、実施例2と同様にして接合体を得た。この接合体に対して剥離試験を行なった結果、セロハンテープと銅板との間で剥離が起こり、接合部での剥離は起こらないことを確認した。
【0099】
実施例7
実施例2において、合成例1で得られた銀ペースト(p1)の代わりに、合成例2で得られた銀ペースト(p2)を用い、銅板(S1)の代わりにPETフィルムとしたこと以外は、実施例2と同様にして接合体を得た。この接合体に対して剥離試験を行なった結果、セロハンテープと銅板との間で剥離が起こり、接合部での剥離は起こらないことを確認した。
【0100】
実施例8
合成例1で得られた銀ペースト(p1)に5%硝酸水溶液を加えpH5.5に調製した分散液を銅板上にステンレスのヘラを用いて塗布し、塗布面に直径20μmの銅線を置き、室温で30分放置することで乾燥させた後、オーブン中で150℃、30分加熱することにより、接合体を得た。この接合体を室温まで放冷した後、銅線の上からセロハンテープを貼り、1分経過後剥離したが、銅線は銅板からはがれることはなかった。銅板と銅線間の抵抗値は270mΩであった(三菱化学株式会社製、低抵抗率計ロレスタEPを使用)。
【0101】
実施例9
合成例1の1−2〔有機化合物(x1)の合成〕において、1−1で合成した末端にp−トルエンスルホニルオキシ基を有するメトキシポリエチレングリコール化合物を5.39g(2.5mmol)とする代わりに、17.2g(8.0mmol)にする以外は合成例1の1−2と同様に行い、分岐状ポリエチレンイミンにポリエチレングリコールが結合した化合物(x3)を35.7g合成した。
【0102】
実施例1において、銀ペースト(p1)の代わりに、銀ペースト(p1)10.0g(固形分3.0g)に、前記で得られた化合物(x3)0.03gを加え、室温(25℃)で1時間攪拌した後の分散液を用い、更に加熱温度を180℃にする以外は実施例1と同様にして接合体を得た。この接合体に対して剥離試験を行なった結果、セロハンテープと銅板との間で剥離が起こり、接合部での剥離は起こらないことを確認した。
【0103】
実施例10
酸化亜鉛を錠剤成型器で成型後、500℃でアニールしたタブレットを得た。実施例2において銅板(S1)の代わりに上記酸化亜鉛のタブレットとしたこと以外は、実施例2と同様にして接合体を得た。この接合体に対して剥離試験を行なった結果、セロハンテープと銅板との間で剥離が起こり、接合部での剥離は起こらないことを確認した。
【0104】
参考例(複合体の分散性評価と銀ペーストの保存安定性試験)
合成例1、2で得られた銀ペースト(p1)及び(p2)、実施例2、8でpH調整後のペースト、更に実施例9で調整したペーストについて、保存安定性を評価した。評価方法の具体的手法は、あらかじめ調製直後の130℃、30分における不揮発性成分率を測定した。1週間5℃で静置保存した後、分散液の液面付近より静かにサンプリングし、同様にして不揮発性成分率を測定した。調製直後の不揮発性成分率を100としたときの、1週間後の分散液の液面付近の不揮発性成分率の割合を、分散液上層部の不揮発成分濃度保持率とし、保存安定性評価とした。その結果、合成例1で得られた銀ペースト(p1)は96%、合成例2で得られた銀ペースト(p2)は94%、実施例2で得たpH調製後のペーストは89%、実施例8で得られたpH調製後のペーストは91%であった。全ての銀ペーストにおいて良好な保存安定性であった。また実施例9で得られた化合物(x3)添加後の分散液の保存安定性は98%であった。
【0105】
複合体の分散性について、実施例1、2、7、8、9における銅板に接合用材料を塗布・乾燥後の塗膜の鏡面の輝きを目視より判断して、良好(○)、普通(△)、不良(×)と評価したところ、全て良好(○)な鏡面状の塗膜表面であった。
【0106】
比較例1
市販の高分子分散剤(ディスパービック180 ビックケミー社製)を0.592g用いた水溶液138.8gに酸化銀10.0gを加えて25℃で30分間攪拌した。引き続き、ジメチルエタノールアミン46.0gを攪拌しながら徐々に加えたところ、反応溶液は黒赤色に変わり、若干発熱したが、そのまま放置して25℃で30分間攪拌した。その後、10%アスコルビン酸水溶液15.2gを攪拌しながら徐々に加えた。その温度を保ちながらさらに20時間攪拌を続けて、黒赤色の分散体を得た。
【0107】
上記で得られた反応終了後の分散液にイソプロピルアルコール200mlとヘキサン200mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にイソプロピルアルコール50mlとヘキサン50mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にさらに少量の水を加えて攪拌した後、減圧下、有機溶剤を除去して銀ナノ粒子と市販の高分子分散剤との複合体の水系濃縮物を得た。さらに該水系濃縮物に水を加え、ホモディスパーを用いて均一に分散させて固形分率30%の銀ペースト(p’1)を得た。
【0108】
得られた複合体をサンプリングし、その希釈液の可視吸収スペクトル測定により400nmにプラズモン吸収スペクトルのピークが認められ、銀ナノ粒子の生成を確認した。また、TEM観察より球形の銀ナノ粒子(平均粒子径30.5nm)が確認された。TG−DTAを用いて、固体中の銀含有率を測定した結果、92.2%を示した。
【0109】
実施例2において、銀ペースト(p1)の代わりに、前記で得られた銀ペースト(p’1)を用いる以外、実施例2と同様にして接合体を得た。この接合体に対して剥離試験を行なった結果、銅板間で剥離が起こり、接合部における接合力が、セロハンテープの接着強度より劣ることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の接合方法は、今後の著しい成長が見込まれているあらゆる電子製品の、小型化、軽量化、薄型化、環境問題等に対応して開発中の薄型ディスプレイ、電子ペーパー、電子書籍、タグ、太陽電池パネル等に好適に用いることができる。特に熱的に高温耐性のない材料と共に使用することが可能であり、且つ、高温条件下でも問題なく使用できることから、複雑な接合工程を簡略化することが可能であり、コスト面でも有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物(X)と銀ナノ粒子(Y)を含む接合用材料を用いて被接合物間を接合する接合体の製造方法であって、
該有機化合物(X)が、数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる有機化合物(x1)、又は
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、線状エポキシ樹脂(c)とが結合してなる有機化合物(x2)であり、かつ、
被接合物の接合部位間に該接合用材料の層を設け、その後、それを100〜250℃で加熱して接合させることを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項2】
接合時に、更に10kPa〜10MPaの範囲で加圧する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記接合用材料の乾燥状態における融点が100〜150℃である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記接合用材料が粉体又はペースト状である請求項1〜3の何れか1項記載の製造方法。
【請求項5】
前記被接合物が、金属、金属酸化物、又はプラスチックである請求項1〜4の何れか1項記載の製造方法。
【請求項6】
前記プラスチックがフィルム又はシート状のフレキシブル基材である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記接合用材料が、更に親水性ポリマーを含有する請求項1〜6の何れか1項記載の製造方法。
【請求項8】
前記親水性ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、アミノ(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリン及びこれらのポリマーの共重合体からなる群から選ばれる1種以上のポリマーである請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
前記接合用材料が、更に前記ポリエチレンイミン(a)中の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)を含有する請求項1〜8の何れか1項記載の製造接合方法。
【請求項10】
前記化合物(Z)が無機酸である請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項記載の製造方法で得られることを特徴とする接合体。

【公開番号】特開2011−46770(P2011−46770A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194159(P2009−194159)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】