説明

銀ナノ粒子及びツルドクダミ抽出物含有組成物及びその使用

【課題】銀ナノ粒子及びツルドクダミ抽出物を含有する薬用組成物により、毛髪の生長を促進する方法を提供する。
【解決手段】有効量の銀ナノ粒子、少なくとも1種の安定剤、ツルドクダミ抽出物、及び少なくとも1種の薬学上許容される希釈剤を含有する薬用組成物で、安定剤は、タンパク質及び/又はペプチド及び/又はポリビニルピロリドンである。又銀ナノ粒子の直径は1〜100nmであり、濃度は10μM〜10mMである。この組成物を局所的に対象に投与することにより、毛髪の生長を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効量の銀ナノ粒子及びツルドクダミ抽出物を含有する薬用組成物、及び前記薬用組成物を局所的に対象(host)に投与することにより、毛髪の生長を促進する方法、並びに対象の毛髪生長促進用薬剤の製造における前記薬用組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は触媒やナノ電子などのような様々な主題領域において重要な役割を果たしているため、化学領域において注目されてきている(参照文献:(a) El-Sayed, M. A. Acc. Chem. Res. 2004, 37, 326. (b) Ho, C.-M.; Yu, W.-Y.; Che, C.-M. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 3303. (c) Lang, H.; May, R. A.; Iversen, B. L.; Chandler, B. D.J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 14832. (d) Lewis, L. N. Chem. Rev. 1993, 93, 2693
)。今日、研究者達は金属ナノ粒子の生物医学への応用を実現することに力をいれている。生物学的標識分野で顕著な進展がなされているものの(参照文献:(a) Nicewarner-Pena, S. R.; Freeman, R. G.; Reiss, B. D.; He, L.; Pena, D. J.; Walton, I. D.; Cromer, R.; Keating, C. D.; Natan, M. J. Science 2001, 294, 137. (b) Elghanian, R.; Storhoff, J. J.; Mucic, R. C.; Letsinger, R. L.; Mirkin, C. A. Science 1997, 277,1078)、金属ナノ粒子の治療法への応用はほとんど文献に報告されていない。注意すべき例として挙げられるのは、既に傷口を癒合させるのに用いられている銀ナノ粒子の抗微生物という特性である(Wright, J. B.; Lam, K.; Hansen, D.; Burrell, R. E. Am. J. Inf. Cont. 1999, 27, 344)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
脱毛症は、頭皮及び人体の他の部位から毛髪が抜ける疾患である。それは自己の免疫が関わっており、毛嚢が自己の免疫システムによって攻撃されるため、毛髪の生長が阻止されると報告されている。もう1つの観察結果としては、遺伝学上、男性型脱毛にありがちな、ジヒドロキシテストステロン(DHT)と称される自然に生ずるホルモンが頭皮に高レベルに分布し、毛髪の生長期が短縮され、さらには毛髪が見えないほどまでに縮小する。このまま阻止しないでいると、典型的な男性の禿げた生え際が生じる。
脱毛症は、常に頭皮の1つ又は複数の小さな円く、滑らかな禿げたパッチに始まり、且つ頭髪全体脱落(全頭性脱毛)又は人体毛髪全体脱落(全身性脱毛)に発展する可能性がある。疫学上、脱毛症は世界人口の約1.7%に影響を及ぼしている。アメリカだけでも、470万人以上が脱毛症に悩んでいる。しかも、この疾病/疾患は、個人の自己イメージ及び自信に対して、深いダメージを与え、職場や学校等、全ての生活の質に影響を与える。
人は性別や年齢、人種に関わらず、脱毛症にかかる可能性がある。その発病は、児童期/
成人早期に最も始まりやすくなり、心理的傷害を生ずる可能性がある。脱毛症は命を脅かすほどのものではないが、間違いなく生活に支障を及ぼす。しかも、その急な発病、繰り返される発作及び予知が不可能な病気の経過は、この疾患で困惑する人々に心理的に末永い影響を及ぼす。
【課題を解決するための手段】
【0004】
PVP(ポリビニルピロリドン)をコーティングした銀ナノ粒子とツルドクダミとを組み合わせての使用は、毛髪生長の促進に対し相助作用を有する。毛髪生長を誘導する面では、単独の銀ナノ粒子よりも有効量の銀ナノ粒子及びツルドクダミ抽出物を含有する薬用組成物のほうが幾分有効である。
従って、本発明は、有効量の銀ナノ粒子、少なくとも1種の安定剤、ツルドクダミ抽出物、及び少なくとも1種の薬学上許容される希釈剤を含有する薬用組成物に関する。
前記安定剤は、例えば、1種又は多種のタンパク質及び/又はペプチドであってもよく、好ましくはヒト血清アルブミン又はトランスフェリンであり、より好ましくはヒト血清アル
ブミン(HSA)である。本発明の一つの実施形態において、前記安定剤は、ポリビニルピ
ロリドンである。
前記ツルドクダミ抽出物として、好ましくはツルドクダミ根の抽出物であり、より好ましくはツルドクダミ根のエタノール抽出物である。
本発明の他の実施形態において、前記薬用組成物中の銀ナノ粒子の直径は1〜100nmである。
本発明の他の実施形態において、前記薬用組成物中の銀ナノ粒子の濃度は10μM〜10mMであり、好ましくは10μM〜1mMである。
本発明の他の実施形態において、前記薬用組成物中のツルドクダミ抽出物の濃度は1g/L〜1000g/Lであり、好ましくは1g/L〜100g/Lである。
本発明の好適な実施形態において、前記薬用組成物は、水、エタノール、DMSO(ジメチルスルホオキシド)、アセトニトリル、Hepes緩衝液、リン酸塩緩衝液、Tris緩衝液、クエ
ン酸緩衝液、血清、或は他の種類の生理的関連溶剤又は溶液、及びこれらの混合物から選択される希釈剤を含む。
本発明は、治療の必要がある対象に局所的に本発明の薬用組成物を投与することを含む毛髪生長の促進方法にも関する。前記対象は人であることが好適である。
また、本発明は、対象の毛髪生長促進用薬剤の製造における、上記の薬用組成物の使用に関する。
さらに、本発明は、対象の毛髪生長促進用薬剤の製造における、有効量の銀ナノ粒子及びツルドクダミ抽出物を含有する薬用組成物の使用に関する。
本発明の使用において、前記薬用組成物は、有効量の銀ナノ粒子、ツルドクダミ抽出物、少なくとも1種の安定剤、及び少なくとも1種の薬学上許容される希釈剤を含む。
本発明の使用において、前記安定剤は、例えば、1種又は多種のタンパク質及び/又はペプチドであってもよく、好ましくはヒト血清アルブミン又はトランスフェリンであり、より好ましくはヒト血清アルブミン(HSA)である。本発明の一つの実施形態において、前記安定剤は、ポリビニルピロリドンである。
本発明の使用において、前記ツルドクダミ抽出物として、好ましくはツルドクダミ根の抽出物であり、より好ましくはツルドクダミ根のエタノール抽出物である。
本発明の使用に係る一つの実施形態において、前記薬用組成物中の銀ナノ粒子の直径は1〜100nmである。
本発明の使用に係る他の実施形態において、前記薬用組成物中の銀ナノ粒子の濃度は10μM〜10mMであり、好ましくは10μM〜1mMである。
本発明の使用に係る他の実施形態において、前記薬用組成物中のツルドクダミ抽出物の濃度は1g/L〜1000g/Lであり、好ましくは1g/L〜100g/Lである。
本発明の使用に係る好適な実施形態において、前記薬用組成物は、水、エタノール、DMSO、アセトニトリル、Hepes緩衝液、リン酸塩緩衝液、Tris緩衝液、クエン酸緩衝液、血清、或は他の種類の生理的関連溶剤又は溶液、及びこれらの混合物から選択される希釈剤を含む。
前記対象は、人であることが好適である。
異なるサイズ及び形状の銀ナノ粒子を生産する方法として、数多くの手法が報告されている(参照文献:(a) Raveendran, P.; Fu, J.; Wallen, S. L. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 13940. (b) Sun, Y.; Xia, Y. Science 2002, 298, 2176. (c) Esumi, K.; Suzuki, A.; Yamahira, A.; Torigoe, K. Langmuir 2000, 16, 2604)。
循環システムでは、ヒト血清アルブミン(HSA)が最も豊かな血漿タンパク質である。これまでに、このヒト血清アルブミンは、各種の金属ナノ粒子を安定化するために用いられた報告がある(参照文献:Xie, H.; Tkachenko, A. G.; Glomm, W. R.; Ryan, J. A.; Brennaman, M. K.; Papanikolas, J. M.; Franzen, S.; Feldheim, D. L. Anal. Chem. 2003, 75, 5797)。
【発明の効果】
【0005】
PVPをコーティングした銀ナノ粒子とツルドクダミとを含有する本発明の薬用組成物は、毛髪生長の促進において相助作用を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、ツルドクダミの写真である。
【図2】図2は、Shou Wu Pian, Shanghai Lei Yun Shang Pharmaceutical Co.Ltd.から購入可能なPMTタブレットの写真である。
【図3】図3は、0.2cm x 0.2cm角の格子を有する1cm x 1cm透明フィルムを示す図である。
【図4】図4は、ビヒクルコントロール(vehicle control)(PVPのみ、図A)、PVPをコーティングした銀ナノ粒子(nanoAg-PVP(ナノAg-PVP)、図B)、又はPVPをコーティングした銀ナノ粒子と5%ミノキシジルとの混合物(nanoAg-PVP+5%MXD(ナノAg-PVP+5%MXD)、図C)を用い、治療を行った8週後のマウスの前鞍部の写真である。ナノAg-PVPは、新たな毛髪の生長を誘導しているようだが、5%ミノキシジルの添加によりこの効果が弱められた。
【図5】図5は、ビヒクルコントロール(PVPのみ)、10%PMTのみ、0.1mM PVPをコーティングした銀ナノ粒子(ナノAg-PVP)、又は0.1mMナノAg-PVPと10%PMTとの混合物を用い、治療を行った8週後のマウスの写真である。
【図6】図6は、ビヒクルコントロール(PVPのみ)、10%PMTのみ、0.1mMナノAg-PVP、及び0.1mMナノAg-PVPと10%PMTとの混合物を用い、治療を行った、それぞれ第3、4、5、6、7及び8週のマウスのガーゼを当てた皮膚の毛髪被覆領域のパーセンテージを示す図である。
【図7】図7は、(1)ナノAg-PVPのみ、(2)ナノAg-PVPとl%(w/v) PMTとの混合物、(3)ナノAg-PVPと10%PMTとの混合物、及び(4)ナノAg-PVPと50%PMTとの混合物をそれぞれ含む溶液を用い、8週間にわたり治療を行ったヌードマウスのガーゼを当てた皮膚を測定して得られた毛髪の被覆領域のパーセンテージを示す図である(上記各組において、ヌードマウス数はそれぞれ6、7、8及び7である。表3.1参照)。
【図8】図8は、0.1mMナノAg-PVP、又は0.1mMナノAg-PVPと10%PMTとの混合物を用い、8週間にわたり経皮治療を行ったヌードマウスの皮膚(断面)のKi67染色を示す図である。
【図9】図9は、ナノAg-PVP、又はナノAg-PVPとPMTとの混合物を用い、治療を行った皮膚の断面(400x)でのCD34のイン・シチュ・ハイブリダイゼーション(In Situ Hybridization, ISH)を示す図である。
【図10】図10は、異なる治療を行ったマウスのガーゼを当てた皮膚の各毛嚢のCD34陽性細胞数(ISHによって得られた)を示す図である(毛鞘の断面で計算され、400x、図9と類似するように示す)。
【図11】図11は、各種の条件で治療を行ったマウスの体重の測定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、下記の実施例において、さらに本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。当業者は、例示された条件を変更することにより、所望の結果を取得できることがよく理解される。
【実施例】
【0008】
材料及び方法
材料:特に注意書きがあるものを除き、全ての化学品がSigma-Aldrich Chemical Co.から購入可能である。

銀ナノ粒子を製造するためのガラス器具の洗浄
三角フラスコをベース浴(水酸化ナトリウム粒子(200g)を再蒸留水(ddH2O)(2L)に溶解させる)に浸す。その後、このフラスコを順にddH2O、MilliQ水、濃硝酸で洗浄する。
この三角フラスコに濃塩酸と濃硝酸との混合物(体積比=1:3)を加え、30分間沸騰することにより、この三角フラスコ内の全ての金属を除去する。その後、銀ナノ粒子の合成の直前に、再びMilliQ水でこの三角フラスコを洗浄する。

ヒト血清アルブミン(HSA)をコーティングした銀ナノ粒子の製造
クエン酸ナトリウム三塩基二水和物(180mg/L)と硝酸銀(16mg/L)とをMilliQ水(1L)に加え、約5分間混合する。その後、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)粉末(50mg)をこの混合物に加え、20分間混合する。溶液が黄色く変化したら、さらにこの溶液にHSA(12g)を加える。
全てのヒト血清アルブミン(HSA)を溶解した後、22μmのフィルタの頂部を通じ溶液を濾過する。使用するまで、この溶液を4℃で保存する。

ポリビニルピロリドン(PVP)をコーティングした銀ナノ粒子の製造
ポリビニルピロリドン(PVP)をコーティングした銀ナノ粒子(100ml)を製造するために、PVP-K30(Sigma-Aldrich Ltd, USA)(5g)を60%エタノール(100ml)に溶かし、完全に溶解した後、硝酸銀粉末(100mg)を加える。得られた溶液にNaBH4(25mg)のMilliQ水(1ml)を加える。使用するまで、0.1mM銀ナノ粒子を含む最終溶液を4℃で保存する。

ヌードマウスへの被測化学試薬の局所的輸送(delivery)
Balb/cバックグラウンドの4週齢オス無胸腺ヌードマウスは、Jackson Laboratory, USAから購入した。これらの動物をランダムにグループに分け、異なる治療を受けるようにした。前記治療は、毎日躯幹背部(頚部又は前鞍部)に対し、1cm x 1cmの領域にガーゼを当てた(持続時間:8週間)。当該1cm x 1cmのガーゼを銀ナノ粒子溶液(HSA又はPVPでコーティング処理)に浸し、さらに他の4cm幅の非伸縮性綿クレープ包帯で被覆し、その後、4cm幅の伸縮性包帯で被覆する。最後に、ガーゼなどを接着用テープで固定させる。8週間にわたる治療を行った後、マウスを頚椎脱臼という方法で処理する。分析を行うために、ガーゼを当てた領域の皮膚ピースを採取し、4%パラホルムアルデヒドで固定する。

ツルドクダミ(PMT)の製造
3種類のサンプルは全てツルドクダミ根のエタノール抽出物から製造、分離する。これらは、以下のようにして得る。
(A)根の抽出物(図1参照)
乾燥のPMT根(100g)を粉砕し、50%エタノール(1000ml)に浸す(即ち、根と50%エタノールの比率は1:10である)。48時間後、溶液を収集して濾過し、次いで真空回転蒸発乾燥器(エバポレータ)にて減圧濃縮する。その後、濃縮した抽出物を凍結して乾燥し、使用するまで4℃で保存する。通常、10gの乾燥抽出物が100gのPMTの乾燥根から得られる。
乾燥抽出物粉末(100g)を70℃でddH2O(1000ml)(10%w/v)に溶かして、完全に溶解した後、PMT溶液を使用するまで4℃で保存する。
(B)購入可能なPMTタブレットの溶解
本発明で用いられるツルドクダミ(PMT)溶液は、同様に70℃でPMTタブレット(100g)(Shou Wu Pian, Shanghai Lei Yun Shang Pharmaceutical Co.Ltd, Chinaから購入できる、図2参照)をddH2O(1000ml)に溶かすことにより製造することができる。完全に溶解した後、PMT溶液を使用するまで4℃で保存する。

PMTとPVPをコーティングした銀ナノ粒子との混合物
PVPをコーティングした銀ナノ粒子とPMTとの混合物を製造するために、60%エタノールの代わりに、無水エタノールにPVPを溶かした以外は、上記の方法と同様に、PVPをコーティングした銀ナノ粒子溶液を製造する。溶解したPMT溶液(100g/L)とPVPをコーティングした銀ナノ粒子溶液(0.17mM)とを体積比4:6で混合する。

治療後の皮膚の毛髪被覆領域の計算
1cm x 1cmの透明フィルム(0.2cm x 0.2cm角の格子を有する、図3参照)を皮膚上に置くことにより、毛髪被覆領域を測定する。
治療後、新たな毛髪が生長したマウスの毛髪被覆パーセンテージは下記の式で計算することができる。
【0009】
【数1】

【0010】
CD34のイン・シチュ・ハイブリダイゼーション(ISH)及びKi67の免疫染色
マウスCD34のイン・シチュ・ハイブリジダイゼーションは、5μm厚みの、ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片を用い行われる。パラフィン固定のスライドをキシレンで脱パラフィンした後、上級等級の濃度を有するエタノールで脱水する。脱パラフィン後の切片を0.2N HCl及び0.3%Tritonを含有する溶液中に室温で30分間インキュベーション(培養)し、次いで、10μg/mlプロティナーゼ−K (PK, Invitrogen)を用い、37℃で15分間消化する。このPK消化を0.1Mグリシンで室温で10分間中止させる。前記切片は、2XSSCに洗浄され、且つ50%脱イオン化したホルムアミドと、2XSSCと、10%デキストラン硫酸塩と、5X Denhardtの溶液と、0.25mg/ml酵母tRNAと、0.5%SDSとを含有するハイブリダイゼーションバファーで2ng/μl DIG標識のセンス及びアンチセンスcRNAプローブと46℃で一晩ハイブリッドさせる。前記切片を2XSSC/50%ホルムアミドにて46℃で15分間2回洗浄し、次に、0.1XSSC/30%ホルムアミドにて46℃で15分間洗浄し、0.1XSSC/30%ホルムアミドにて室温で15分間洗浄し、0.1XSSCにて室温で15分間洗浄する。このハイブリッドプローブをアルカリフォスファターゼ共役のヒツジ抗DIG F(ab)断片(Roche)で検出し、NBT/BCIP溶液(Roche)で発色させる。その後、DAPIを含有するフルオレセンス培養基(Vector Laboratories)で切片を封止する。DIG標識のマウスCD34プローブは、ヌクレオチド379-773 [NM_133654(マウスCD34抗原(CD34),mRNA)]に対応する。
Ki67の染色は、5μm厚みの、ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片を用い行われる。パラフィン固定のスライドをキシレンで脱パラフィンした後、上級等級の濃度を有するエタノールで脱水する。その後、切片を10mMクエン酸ナトリウムバファー(pH6.0)中でマイク
ロ波で15分間加熱する。次いで、スライドは、1:200ウサギ抗Ki67抗体(LabVision, United States)又は同一濃度の純化されたウサギIgG(Zymed, USA; as an isotype)を用い、4℃で一晩染色する。その後、上記切片を、1:200 AlexaFluor 594ヒツジ抗ウサギIgG(H+L)抗体(Molecular Probes, USA)を用い、室温で1時間インキュベーションさせる。最後に、DAPI(Vector Laboratories,United States)を含有するVECTASHIELD(登録商標)で切片を封止する。蛍光顕微鏡(Nikon E600顕微鏡)で画像を調べる。
平行して行われた実験は、陽性対照(positive control)と陰性対照(negative control)とを含んでいる。陽性対照はマウスの脾臓切片であるのに対し、陰性対照は一次抗体としての純化されたウサギIgGで染色された皮膚切片である。
Ki-67の核染色は、陽性のものであると認められる。Ki-67陽性の細胞の百分比は、下記の式で計算することができる。
【0011】
【数2】

【0012】
実験動物の体重測定
マウスの体重を電子はかりで週に2回測定した。
[結果]
1.0.1mM PVPをコーティングした銀ナノ粒子(ナノAg)(ナノAg-PVP)の経皮(局所)塗布は、ヌードマウスの毛髪生長を誘導するのに対し、ナノAg-PVPと5%ミノキシジルとの混合物ではこの効果が弱められた。
図4は、ビヒクルコントロール(PVPのみ、図A)、PVPをコーティングした銀ナノ粒子(ナノAg-PVP、図B)、又はPVPをコーティングした銀ナノ粒子と5%ミノキシジルとの混合物(ナノAg-PVP+5%MXD、図C)を用い、治療を行った8週後のマウスの前鞍部の写真である。ナノAg-PVPは、新たな毛髪の生長を誘導しているようだが、5%ミノキシジルの添加により、この効果が弱められた。
表1.1 ビヒクルコントロール、0.1mMナノAg-PVP、又は0.1mMナノAg-PVPと5%ミノキシジルとの混合物を用い、治療を行った8週後のガーゼを当てた皮膚の毛髪被覆領域のパーセンテージ。
5%ミノキシジルの添加により、ナノAg-PVPの毛髪生長効果が弱められるようである(t-テストでは、p<0.001)。
【0013】
【表1】

【0014】
2.毛髪生長の誘導という点では、単独のナノAg-PVPより、ナノAg-PVPと10%PMTとの混合物の方が幾分有効である。しかし、10%PMTのみでは無効である。
図5に示すように、PMTの添加は、0.1mMナノAg-PVPの毛髪生長の効果を相助できる。マウ
スを、ビヒクルコントロール(PVPのみ)、10%PMTのみ、0.1mM PVPをコーティングした銀
ナノ粒子(ナノAg-PVP)又は0.1mMナノAg-PVPと10%PMTとの混合物を用い、8週間にわたり
治療を行った。ナノAg-PVPとPMTとの混合物で治療したマウスをナノAg-PVPで治療したマ
ウスと比較した結果、前者の方が顕著に毛髪被覆領域を有していた(右下側の図VS左下側の図)。
表2.1 PVPのみ(ビヒクルコントロール)、10%PMT、0.1mMナノAg-PVP、又は0.1mMナノAg-PVPと10%PMTとの混合物を用い、治療を行った8週後のヌードマウス皮膚のガーゼを当てた領域の反応率及び毛髪被覆領域のパーセンテージ。
各グループの反応率は、それぞれ0%、0%、75%及び91.7%である。毛髪生長を有するグループにおいて、ガーゼを当てた皮膚の毛髪被覆領域のパーセンテージは、0.1mMナノAg-PVPで治療したマウスに対し、74.5±7.4%であり、ナノAg-PVPと10%PMTとの混合物で治療したマウスに対し、88.9±8.8%である。
【0015】
【表2】

【0016】
図6に示すように、PVPのみ(ビヒクルコントロール)、10%PMTのみ、0.1mMナノAg-PVP、及び0.1mMナノAg-PVPと10%PMTとの混合物を用い、治療を行った、それぞれ第3、4、5、6、7、8週のマウスのガーゼを当てた皮膚の毛髪被覆領域のパーセンテージが分かる。 治療後の第7週及び第8週、ナノAg-PVPとPMTとの混合物で治療したマウスはナノAg-PVPのみで治療したマウスに比べて、顕著に毛髪被覆領域を有していた。第8週の反応率及び毛髪被覆領域の実際の百分比を表2.1にリストした(* p < 0.05;** p < 0.01)。
【0017】
3.ナノAg-PVP溶液と混合する場合、10%(w/v)PMTは、毛髪生長の促進において最適な
相助作用を有する。
表3.1 各自の実験において、(1)ナノAg-PVPのみ、(2)ナノAg-PVPと1%(w/v)PMTとの混合物、(3)ナノAg-PVPと10%PMTとの混合物、及び(4)ナノAg-PVPと50%PMTとの混合物を含む溶液を用い、8週間にわたり治療したヌードマウスのガーゼを当てた皮膚の反応率及び毛髪被覆領域のパーセンテージを測定した。最適な毛髪生長促進効果は、ナノAg-PVPと10%PMTとの混合物又はナノAg-PVPと50%PMTとの混合物によるものである(図7参照)。
【0018】
【表3】

【0019】
図7に示すように、(1)ナノAg-PVPのみ、(2)ナノAg-PVPと1%(w/v)PMTとの混合物、(3)ナノAg-PVPと10%PMTとの混合物、及び(4)ナノAg-PVPと50%PMTとの混合物を含む溶液を用い、8週間にわたり治療したヌードマウスのガーゼを当てた皮膚を測定して得られた毛髪の被覆領域のパーセンテージが分かる(それぞれn=6、7、8及び7、表3.1参照)。最適な毛髪生長促進効果は、ナノAg-PVPと10%PMTとの混合物、又はナノAg-PVPと50%PMTとの混合物によるものである。***:未添加PMTを10%PMTの添加と比較しても、未添加PMTを50%PMTの添加と比較しても、p<0.001で有意差が認められた。一方、未添加PMTと1%PMTの添加、または10%PMTの添加と50%PMTの添加との比較においては、統計上の相違が認められなかった。
【0020】
4.ナノAg-PVP、及びナノAg-PVPと10%PMTとの混合物は、ともに毛根細胞のKi67及びCD34の発現を誘導する(ビヒクルコントロールのみで治療したマウスとの比較において)。しかし、ナノAg-PVPと10%PMTとの混合物で治療したマウスのCD34陽性細胞の数量がより高
い。
図8は、0.1mMナノAg-PVP、又は0.1mMナノAg-PVPと10%PMTとの混合物を用い、8週間にわたり経皮治療を行ったヌードマウスの皮膚(断面)のKi67染色を示す。2つの治療グループのマウスは、ともに毛根のKi67(+)細胞が増加した(左欄)。アイソタイプコントロールは、中間の欄であり、細胞核を示すDAPIは、右欄である。結果は、3つの独立した実験の代表的なものである。
図9は、ナノAg-PVP、又はナノAg-PVPとPMTとの混合物を用い、治療を行った皮膚の断面(400x)でのCD34のイン・シチュ・ハイブリダイゼーション(ISH)を示す。ビヒクルコントロールによる治療に比べて、ナノAg-PVP、及びナノAg-PVPとPMTとの混合物による治療は、より多い毛鞘のCD34 mRNA発現を誘導した。しかも、より多いCD34陽性細胞は、ナノAg-PVPとPMTとの混合物で治療したグループに発見された。CD34のセンスコントロールは、左欄に示してある。細胞核を示すDAPIカウンタ染色は、下段に示してある。結果は、3つの独立した実験の代表的なものである。
図10は、異なる治療を行ったマウスのガーゼを当てた皮膚の各毛嚢のCD34陽性細胞(ISHによって得られた)の数量を示す(毛鞘の断面で計算され、400x、図9と類似するように示す)。ナノAg-PVPと10%PMTとの混合物による治療は、ナノAg-PVPによる治療に比べて
、顕著にCD34陽性細胞を誘導した(p<0.05)。結果は、3つの独立した実験の代表的なもの
である。
【0021】
5.8週間の局所塗布は、顕著な体重ゲインの変化をもたらしていない。
図11は、各種の条件で治療したマウスの体重の測定結果を示す。治療中のマウスの体重は、毎週モニターした。治療過程において、異なるグループのマウスの体重は、顕著な変化が認められなかった。それは、これらの治療がマウスの総体的状況に明らか又は顕著な体系的影響を及ぼしていないと表明できる。なお、nAg=ナノAg;ここで使用されたPMTは10%(w/v)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の銀ナノ粒子、少なくとも1種の安定剤、ツルドクダミ抽出物、及び少なくとも1種の薬学上許容される希釈剤を含有することを特徴とする薬用組成物。
【請求項2】
1種又は多種のタンパク質及び/又はペプチド及び/又はポリビニルピロリドンを安定剤と
して用いることを特徴とする請求項1に記載の薬用組成物。
【請求項3】
前記タンパク質がヒト血清アルブミン及びトランスフェリンから選択されることを特徴とする請求項2に記載の薬用組成物。
【請求項4】
前記ツルドクダミ抽出物が、ツルドクダミ根の抽出物であることを特徴とする請求項1に
記載の薬用組成物。
【請求項5】
前記ツルドクダミ根の抽出物が、前記ツルドクダミ根のエタノール抽出物であることを特徴とする請求項4に記載の薬用組成物。
【請求項6】
前記銀ナノ粒子の直径が1〜100nmであり、前記薬用組成物中の銀ナノ粒子の濃度が10μM
〜10mMであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の薬用組成物。
【請求項7】
前記薬用組成物中の銀ナノ粒子の濃度が10μM〜1mMであることを特徴とする請求項6に記
載の薬用組成物。
【請求項8】
前記薬用組成物中のツルドクダミ抽出物の濃度が1g/L〜1000g/Lであることを特徴とする
請求項1〜5のいずれかに記載の薬用組成物。
【請求項9】
前記薬用組成物中のツルドクダミ抽出物の濃度が1g/L〜100g/Lであることを特徴とする請求項8に記載の薬用組成物。
【請求項10】
前記希釈剤が、水、エタノール、DMSO、アセトニトリル、Hepes緩衝液、リン酸塩緩衝液
、Tris緩衝液、クエン酸緩衝液、血清、或は他の種類の生理的関連溶剤又は溶液、及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の薬用組成物。
【請求項11】
治療する必要がある対象に局所的に請求項1〜10のいずれかに記載の薬用組成物を投与することを含むことを特徴とする毛髪生長の促進方法。
【請求項12】
前記対象が人であることを特徴とする請求項11に記載の毛髪生長の促進方法。
【請求項13】
対象の毛髪生長促進用薬剤の製造における、請求項1〜10のいずれかに記載の薬用組成物の使用。
【請求項14】
前記対象が人であることを特徴とする請求項13に記載の薬用組成物の使用。

【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−184921(P2010−184921A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−191455(P2009−191455)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(509235604)
【Fターム(参考)】