説明

銀メッキ製品用変色抑制剤

【課題】 銀メッキ層の密着性の悪化や白化等の問題を全く起こすことなく、変色抑制を容易にできる銀メッキ製品用変色抑制剤を提供する。
【解決手段】 銀メッキ層表面に、塩化物イオンと錯化剤を含有する処理液を塗布又は浸漬処理することで、銀メッキ表面から不純物を取り除くことができ、トップコート時の変色を容易に防止できる変色抑制剤である。本発明のこの様な変色抑制剤は、塩化物イオンと錯化剤を含有する溶液からなり、この溶液を銀メッキ層に塗布又は浸漬処理することで、容易に銀メッキ層の不純物を除去することができ、銀メッキ層の変色防止に優れた効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀メッキ製品用の変色抑制剤に関し、銀メッキ層表面の不純物の存在によって僅かな黄色味を帯びるという現象を回避し、不純物の除去に有用である銀メッキ製品用の変色防止剤を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス、樹脂、金属等の基材の表面に銀鏡面を形成させるため、基材表面に順に、アンダーコート層、銀メッキ層、トップコート層を積層させる方法が知られている。
このような銀メッキの製造方法として、例えば、アルコキシチタニウムエステル並びにエポキシ基を有するシランカップリング剤及びエポキシ樹脂のうちの少なくとも一種を含有する塗料からなるアンダーコート剤を基材に塗布し、乾燥させることにより、アンダーコート層を形成させ、次に、アンモニア性硝酸銀水溶液とグリオキサール等の還元剤を、アンダーコート層表面に同時に吹き付けることで銀メッキ層を形成させ、次いで、トップコート層を形成させる方法で、銀メッキ製品を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、このような方法で製造した銀メッキ製品は、銀鏡反応時に銀メッキ層に付着した不純物を十分除去することが困難なため、その不純物の残存が原因となり、トップコート層の形成の際に銀鏡面が黄色く変色する問題がある。
【0004】
このような問題の解決手段として、銀鏡反応後の銀メッキ層表面に3〜10%の酢酸、2〜6%の希硫酸、またはタンパク質分散液のいずれかを塗布又は浸漬処理する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、このような処理を行うことにより、銀鏡反応後の銀メッキ表面の不純物を取り除くことができ、変色を抑制することができると開示されているが、その一方で、銀メッキ表面が酸に侵され、白化するという問題を生じた。また、タンパク質は高分子であるため、銀メッキ表面に強固に吸着され易く、それ自身が不純物となるため、銀メッキ層とトップコート層との密着性を低下させるという問題を新たに生じた。
【0005】
【特許文献1】特開平10−309774号公報
【特許文献2】特開2002−256454公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述のような従来技術に存在する問題点を解消するためになされたものである。
即ち、本発明は、銀メッキ層の密着性の悪化や白化等の問題を全く起こすことなく、変色抑制を容易に行なうことができる銀メッキ製品用変色抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前述の如き従来技術の問題点を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、銀メッキ層表面に、塩化物イオンと錯化剤を含有する処理剤を塗布又は浸漬処理することにより、銀メッキ層表面から不純物を容易に取り除くことができ、トップコート時の変色を防止できる薬剤を見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0008】
即ち、本発明は、塩化物イオンと錯化剤を含有する溶液からなる銀メッキ製品用変色抑制剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の銀メッキ製品用変色抑制剤は、銀メッキ層に塗布又は浸漬処理することにより、容易に銀メッキ層の不純物を除去することができ、銀メッキ層の変色防止に優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の銀メッキ製品用変色抑制剤は、第一の成分である塩化物イオンと第二の成分である錯化剤を含有する。
第一の成分である塩化物イオンは、銀メッキ表面から不純物を取り除くことができ、トップコート時におこる黄色い着色を抑制する効果がある。
塩化物イオンの濃度は、特に限定されないが、0.0001〜1質量%であることが望ましい。即ち、0.0001質量%を下廻ると、処理時間が長くなり、また、1質量%を上廻ると塩化物イオンが銀メッキ層の腐食を引き起こし、白化が起き易くなる。塩化物イオンの供給源は、水中で塩化物イオンを遊離するものであれば良く、例えば、塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0011】
本発明の第二の成分である錯化剤は、塩化物イオンが引き起こす銀メッキの腐食による白化を抑制する効果がある。
使用できる錯化剤の種類としては、銀及び銀イオン、またはそれらの化合物と相互に安定化することのできる化合物であれば良い。その中でも、アミノ酸、ヒドロキシカルボン酸、アスコルビン酸、ホウ酸、次亜リン酸、又はその塩を用いることが、銀めっきの白化、密着性悪化等の弊害を特に効果的に抑えることができるので望ましい。
【0012】
錯化剤の濃度は、銀メッキの白化、密着性悪化等の弊害が起きず、変色抑制効果が発揮できる濃度範囲であれば良いが、特に0.001〜10質量%の範囲であることが望ましい。
即ち、0.001質量%を下廻ると、塩化物イオンによる銀メッキ層の腐食を抑えることができず、反対に10質量%を上廻ると、その濃度差による処理効果の違いは見られず、無駄に薬剤を消費することになり好ましくない。
【0013】
本発明の銀メッキ製品用変色抑制剤は、銀メッキ層に付着した銀イオン、銀化合物等の不純物を取り除く工程を行うものであるため、一般的な銀メッキ全般にその方法の適用が可能である。
その中でも、基材表面にアンダーコート層、銀鏡反応により形成した銀メッキ層、トップコート層を積層させた銀メッキ製品が最適である。
【0014】
以下、本発明の銀メッキ製品用変色抑制剤について、図1に示すその処理工程の一例に基づき説明を行う。
先ず、アンダーコートに使用する基材は、洗浄工程(S01)に供する。
次に、アンダーコート層形成用の化合物を、基材上にコーティングすることでアンダーコート工程(S02)を行う。
続いて、第一スズイオンによる表面活性化処理工程(S03)に供した後、余剰のスズ化合物を除去するために純水洗浄工程(S04)に供する。次に、銀メッキ層を析出させる銀鏡メッキ工程(S05)を行い、そして純水洗浄工程(S06)に供する。続いて、本発明の変色抑制剤である塩化物イオンと錯化剤を含有する水溶液を塗布又は浸漬処理することで変色抑制工程(S07)を行い、更にその薬液を洗い流すために純水洗浄工程(S08)を行い、そして、水切り、乾燥工程(S09)に供する。
最後に、銀メッキ層上にトップコート用の化合物を使用し、コーティングを行うことでトップコート工程(S10)を行う。
【0015】
これら一連の工程について更に詳述する。先ず、本発明に用いる銀メッキ層を形成する基材としては、金属、合成樹脂、ゴム、ガラス、陶磁器、木材等の材料であれば、その材質、形状等に特に限定されず用いることができる。
基材の洗浄工程(S01)は、アルカリ、アルコールによる脱脂等、一般的に使用されている洗浄方法を適用することができる。また、この工程(S01)は、基材表面の汚れを落とすために行うものであり、基材に汚染が無い場合には、この工程を省略することもできる。
【0016】
アンダーコート工程(S02)に使用する化合物は、特に限定されないが、アクリル樹脂、シリコンアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリレートオリゴマー、アクリレートモノマー等を使用することができる。
表面活性化処理工程(S03)に使用する、第一スズイオンを含有する水溶液は、メッキ用として一般に使用されている処理薬剤を使用することができる。例えば、0.1〜3質量%の塩化スズ(II)と、0.10〜5質量%の塩酸を含有する水溶液が挙げられる。
【0017】
純水洗浄工程(S04)で使用する純水は、その精製方法等には特に限定されず、一般的なものであれば使用できるが、例えば、3μS/cm以下の電気伝導度のものを推奨することができる。
【0018】
銀鏡メッキ工程(S05)は、銀鏡反応によって銀メッキ層を形成させる方法であれば、特に限定されず、従来の方法を使用することができる。例えば、同芯スプレーガン、双頭スプレーガン等によりアンモニア含有銀塩水溶液と還元剤を同時に基材に吹き付ける方法が挙げられる。使用する銀塩としては、例えば、酸化銀、塩化銀、硫酸銀、炭酸銀、硝酸銀、酢酸銀等が挙げられ、その中でも特に硝酸銀は、水への溶解性、コストに優れ、好適に使用することができる。また、還元剤としては、例えば、グリオキサール、ホルムアルデヒド、アスコルビン酸、グルコース、ハイドロキノン、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等を含む水溶液を使用することができる。
【0019】
純水洗浄工程(S06)で使用する純水は、その精製方法等には特に限定されず、一般的なものであれば使用できるが、例えば、3μS/cm以下の電気伝導度のものを挙げることができる。
【0020】
変色抑制工程(S07)は、本発明の変色抑制剤を銀メッキ表面に処理する工程である。その処理方法は、変色抑制剤と銀メッキ表面が接触すれば、どの様な方法でも良いが、例えば、スプレー法、浸漬法等が好適に使用できる。また、処理時間は、特に限定されないが、1〜120秒で効果を発揮する。
【0021】
純水洗浄工程(S08)で使用する純水は、先の工程であるS04及びS06の洗浄工程で使用したものと同じものでよい。
【0022】
水切り、乾燥工程(S09)は、銀メッキ層上の水分が除去できれば、どのような方法でも構わないが、例えば、エアブロー、加熱乾燥等の方法が適用できる。
【0023】
次に、銀層の保護のためにトップコート(S10)を行う。トップコートに使用する塗料は、特に限定はされないが、アクリル樹脂、シリコンアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリレートオリゴマー、アクリレートモノマー等を使用することができる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を挙げて更に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0025】
[実施例1]
ABS樹脂板(10×10cm)をイソプロパノールで洗浄し、乾燥させた後、下記に示したコーティング剤をスプレー塗布した。その後、70℃で3分間乾燥させた後、2500mJ/cm2(積算光量)の紫外線を照射し、硬化させることでアンダーコートを行った。
尚、アンダーコートに使用した上記のコーティング剤は、以下の方法に従い調製した。
シリケート40(多摩化学工業(株)製)90質量部と3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(GE東芝シリコーン(株)製)10質量部とイソプロパノール20質量部を混合し、0.4質量%塩酸を20質量部加え、室温にて30分間撹拌した。これにイソプロパノールを更に210質量部加え、48時間室温で熟成させることで加水分解を行った。続いて、この加水分解物5質量部に対し、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートKAYARAD D-310(日本化薬(株)製)を1質量部配合することでアンダーコート用コーティング剤を製造した。
【0026】
次に、2質量%の塩化スズ(II)と1質量%の塩酸を含有する水溶液をスプレー塗布することにより、表面活性化処理を行なった後、純水洗浄を行った。更に、硝酸銀とアンモニアを含む水溶液とグリオキサール水溶液とを同芯スプレーガンを用いて、同時に基材表面に吹き付け、銀メッキ層を形成させた。その後、純水で銀メッキ層の洗浄を行った。
【0027】
次に、変色抑制処理を行った。0.2質量%の塩化ナトリウムと5質量%のアスコルビン酸を配合した処理薬剤をスプレー塗布し、5秒間処理薬剤と接触させた後、純水洗浄を行った。続いて、これをエアブローすることでより、銀メッキ層の水切りを行った。
最後に、銀メッキ層上にアンダーコートと同じコーティング剤をスプレー塗布し、70℃で3分間乾燥させた後、2500mJ/cm2(積算光量)の紫外線を照射し、硬化させることにより本発明の変色抑制剤で処理した銀メッキ製品を作成した。
【0028】
[実施例2]
実施例1の方法から変色抑制処理を、0.005質量%の塩化ナトリウムと0.02質量%のグリシンを配合した本発明の処理薬剤をスプレー塗布し、5秒間処理薬剤と接触させる条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀メッキ製品を作成した。
【0029】
[実施例3]
0.005質量%の塩化ナトリウムと0.1質量%のホウ酸を配合した本発明の処理薬剤をスプレー塗布し、30秒間処理薬剤と接触させる条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀メッキ製品を作成した。
【0030】
[実施例4]
0.005質量%の塩化ナトリウムと0.1質量%の次亜リン酸ナトリウムを配合した本発明の処理薬剤をスプレー塗布し、60秒間処理薬剤と接触させる条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀メッキ製品を作成した。
【0031】
[実施例5]
0.005質量%の塩化ナトリウムと0.02質量%のアスコルビン酸を配合した本発明の処理薬剤をスプレー塗布し、5秒間処理薬剤と接触させる条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀メッキ製品を作成した。
【0032】
[実施例6]
0.2質量%の塩化カリウムと5質量%のアスコルビン酸を配合した本発明の処理薬剤をスプレー塗布し、5秒間処理薬剤と接触させる条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀メッキ製品を作成した。
【0033】
[実施例7]
0.005質量%の塩化ナトリウムと0.02質量%のアスコルビン酸と0.01質量%の次亜リン酸ナトリウムを配合した本発明の処理薬剤をスプレー塗布し、5秒間処理薬剤と接触させる条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀メッキ製品を作成した。
【0034】
[比較例1]
変色抑制処理を省略した以外は、実施例1と同様の方法で銀メッキ製品を作成した。
【0035】
[比較例2]
変色抑制処理を0.2質量%の塩化ナトリウム水溶液をスプレー塗布し、5秒間処理薬剤と接触させる条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀メッキ製品を作成した。
【0036】
[比較例3]
変色抑制処理を5質量%のアスコルビン酸水溶液をスプレー塗布し、120秒間処理薬剤と接触させる条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀メッキ製品を作成した。
【0037】
[比較例4]
変色抑制処理を3質量%の酢酸水溶液をスプレー塗布し、120秒間処理薬剤と接触させる条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀メッキ製品を作成した。
【0038】
これら実施例及び比較例で得た銀メッキ製品を使用し、各々密着性、銀メッキ製品外観の評価を行った。尚、それぞれの性能評価は、以下の方法で行った。評価結果を表1に示した。
【0039】
<銀メッキ処理製品の密着性評価>
JIS K5600-5-6(塗料一般試験方法)に準じて密着性を評価した。
作成した銀メッキ製品に剃刀を用い、1mm間隔で縦横それぞれ11本の切れ目を付け、100個の碁盤の目を作成した。これにセロハンテープ(ニチバン(株)製,幅25mm)をよく密着させた後、メッキ面に約60度の角度で、0.5〜1秒ではがした際の、被膜が剥離せずに残存したマス目の数(X)をX/100で表した。
【0040】
<銀メッキ製品の外観評価>
目視により、銀メッキ製品の外観色を観察し、評価結果を〇(良)、△(やや不良)、×(不良)の3段階で示した。また、〇以外の評価の場合は、その理由となる問題点を付記した。
【0041】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の銀メッキ製品用変色抑制剤の使用例を示す工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物イオンと錯化剤を含有する溶液からなる銀メッキ製品用変色抑制剤。
【請求項2】
塩化物イオン濃度が0.0001〜1質量%であり、且つ錯化剤濃度が0.001〜10質量%の溶液である請求請1記載の銀メッキ製品用変色抑制剤。
【請求項3】
錯化剤がアミノ酸、ヒドロキシカルボン酸、アスコルビン酸、ホウ酸、次亜リン酸、またはこれらの塩を少なくとも1種以上を含有する溶液である請求項1又は2記載の銀メッキ製品用変色抑制剤。
【請求項4】
銀メッキ製品が基材表面にアンダーコート層、銀メッキ層、トップコート層を積層させた製品であり、且つ銀メッキ層が銀鏡反応により製造された製品である請求項1、2又は3記載の銀メッキ製品用変色抑制剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−63592(P2008−63592A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239392(P2006−239392)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】