説明

銀亜鉛錯体、および抗菌・抗カビ剤

【課題】抗菌性と抗カビ性の両特性に優れているほか、耐久性や加工性も良好な抗菌・抗カビ剤を提供する。
【解決手段】下式(1)で表されるZn−Ag−Zn−Agの四核錯体を含有する抗菌・抗カビ剤である。



式中、
1〜R8は同一または異なって、Hまたは炭素数が1〜6のアルキル基であり、
1〜A4は同一または異なって、炭素数が1〜6のアルキレン基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Zn−Ag−Zn−Agの四核錯体からなる新規な銀亜鉛錯体、上記銀亜鉛錯体を含有する抗菌・抗カビ剤、および抗菌・抗カビ剤組成物に関するものである。本発明の抗菌・抗カビ剤は、例えば、紙、繊維、布帛、フィルターなどの紙・繊維製品類;木材、石膏ボードなどの建材製品のほか、フィルム、プラスチックなどの素材などに広く適用可能である。
【背景技術】
【0002】
抗菌剤は、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤に大別される。このうち無機系抗菌剤は、光や熱に弱く、ハロゲンなどにも鋭敏なため、耐久性に劣っている。また、長寿命の無機系抗菌剤として注目されている酸化チタンは、抗菌性発現のために光が必要であり、固体状態でしか加工できないなどの問題がある。このような耐久性や加工性などの問題は、無機系抗菌剤を紙、繊維、布帛などの基材に担持した抗菌製品の開発に大きな支障をもたらしている。また、抗菌製品には、好ましくは抗カビ性も更に有していることが要求され、抗菌性と抗カビ性の両特性を兼ね備えた抗菌・抗カビ剤の開発が望まれている。
【0003】
銀イオンは、人体に対する毒性が低く、広い抗菌スペクトルを有しているため、種々の工業製品の抗菌処理に利用されている。例えば、特許文献1〜特許文献3には、銀錯体の抗菌剤が提案されている。本発明者らも、非特許文献1に、下式のCo−Ag−Co三核錯体が大腸菌Y1090(E. coli strain Y1090)に対して優れた抗菌活性を有していることを報告している。この銀コバルト錯体は、モノチオラト−コバルト(III)錯体と銀(I)イオンとの反応によって得られ、AgとCoが硫黄(S)で架橋されたS架橋ヘテロ三核錯体である。
【0004】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−263712号公報
【特許文献2】特開2000−86668号公報
【特許文献3】特開2002−212444号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Application of Co-Ag-Co trinuclear thiolato complexes toward eco-friendly type antimicrobial agent”、T.Yonemura、T.Ama、H.Kawaguchi、 Program No.635. 2005 Abstract Viewer、 The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、抗菌性と抗カビ性の両特性に優れているほか、耐久性や加工性も良好な新規な銀亜鉛錯体、および当該銀亜鉛錯体を含有する抗菌・抗カビ剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできた本発明の銀亜鉛錯体は、下式(1)で表されるZn−Ag−Zn−Agの四核錯体からなるところに要旨を有している。
【0009】
【化2】


式中、
1〜R8は同一または異なって、Hまたは炭素数が1〜6のアルキル基であり、
1〜A4は同一または異なって、炭素数が1〜6のアルキレン基である。
【0010】
上記課題を解決することのできた本発明の抗菌・抗カビ剤は、上式で表されるZn−Ag−Zn−Agの四核錯体を含有するところに要旨を有している。
【0011】
本発明には、上記の抗菌・抗カビ剤および基材を有する抗菌・抗カビ剤組成物も含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の銀亜鉛錯体は、抗菌・抗カビ剤として有用であり、特に、長時間の光照射後も抗菌・抗カビ作用が維持されるなど耐光性に優れている。よって、上記の銀亜鉛錯体を含有する本発明の抗菌・抗カビ剤は、様々な製品に適用可能であり、例えば、紙類、繊維・布帛、フィルター類のほか、木材などの建材製品、プラスチック類などの素材に利用することができる。また、本発明の銀亜鉛錯体は、前述した非特許文献1に記載の銀コバルト錯体に比べ、安全性の高い亜鉛を原料として合成でき、食品などに繁殖し易いアオカビPenicillium citrinumに対しても良好な抗カビ作用を発揮することから、食品分野への適用も充分可能である。また、酵母類などにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】図1Aは、式(2)で表される銀亜鉛錯体の核磁気共鳴(H−NMR)スペクトルの測定結果を示す図である。
【図1B】図1Bは、式(2)で表される銀亜鉛錯体の核磁気共鳴(13C−NMR)スペクトルの測定結果を示す図である。
【図2】図2は、式(2)で表される銀亜鉛錯体の赤外(IR)吸収スペクトル測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の抗菌・抗カビ剤は、上記式(1)で表される新規な銀亜鉛錯体を含有するところにある。詳細には、上記式(1)で表されるZn−Ag−Zn−Agの四核錯体からなる銀亜鉛錯体が、(ア)黄色ブドウ球菌、大腸菌、枯草菌、肺炎桿菌などに対する抗菌作用を有しているだけでなく、クロカビやアオカビなどに対する抗カビ性にも優れていること、(イ)溶液・固体のいずれの状態でも紙類・布帛などの基材に適用可能であり加工性に優れていること、(ウ)特に光に対する安定性(耐光性)に優れており、長時間光照射後も良好な抗菌・抗カビ作用が持続されることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
まず、本発明に用いられる新規化合物について説明する。
【0016】
上式(1)に示すように、本発明に用いられる化合物は、金属イオンとしてAg2個、Zn2個を含み、配位子としてアミノチオラト配位子を有する銀亜鉛錯体である。詳細には、Agイオンを中心核として持ち、AgとZnがSで架橋されたZn−Ag−Zn−Agの四核錯体であり、SとZnは−(CH)n−NHなど(n=1〜6の整数)で結合した構造を有している。後記する実施例に示すように、上記化合物は、抗菌作用だけでなく抗カビ作用も有することが確認された。抗菌剤の多くは抗カビ作用を有していないことは周知であり、上式(1)の銀亜鉛錯体は、広範囲の抗菌作用を発揮するだけでなく、優れた抗カビ作用を有する点で極めて有用である。特に、上記化合物は、アオカビPenicillium citrinumに対して良好な抗カビ作用を有していることから、紙・繊維製品類や建材用品のみならず食品分野への提供も充分に期待される。
【0017】
上記の錯イオンは+2価であり、アニオンとしては、例えば、NO、ClO、PF、BFなどが挙げられ、下式で表される。
(NO)l(ClO)m(PF)n(BF)o
式中、l、m、n、およびoは0〜2の整数であり、l+m+n+o=2である。
【0018】
上記式(1)において、R1〜R8は同一または異なって、Hまたは炭素数が1〜6のアルキル基であり、A1〜A4は同一または異なって、炭素数が1〜6のアルキレン基である。後記する実施例では、下記式(2)の化合物[上記式(1)において、R1〜R8=H、A1〜A4=CH2CH2]を用いて実験を行なった。
【0019】
【化3】

【0020】
本発明に用いられる銀亜鉛錯体は、例えば、以下の方法で製造することができる。
【0021】
まず、亜鉛錯体を製造する。具体的には、原料物質として、(ア)酢酸亜鉛などのZnイオン含有化合物と、(イ)2−アミノエタンチオールなどの含硫黄アミン配位子;D,L−システイン、D,L−ペニシラミン等の含硫黄アミノ酸配位子などの含硫黄配位子を水溶液中に徐々に加え、混合する。原料物質である上記(ア)と(イ)の比率は、使用するアミン配位子の種類によっても変化するが、おおむね、(ア):(イ)=1:2の比率(モル比)に制御することが好ましい。室温で60〜90分攪拌したのち、Znに対するモル比で2〜4倍当量程度の水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加えると、亜鉛錯体の結晶が得られる。
【0022】
次に、このようにして得られた亜鉛錯体にAgイオンを反応させる。具体的には、上記の亜鉛錯体を蒸留水に溶かし、硝酸銀などのAgイオン含有化合物を、おおむね、Zn:Ag=1:1の比率で加えて水溶液中(おおむね、30〜40℃)で反応させる。次いで、テトラフルオロホウ酸ナトリウムや過塩素酸ナトリウムなどを、AgおよびZnに対するモル比で4倍当量程度加えると、所望の銀亜鉛錯体が得られる。後記する実施例では、含硫黄配位子として、2−アミノエタンチオールを用いた。
【0023】
なお、後記する実施例では、上式(2)の化合物を製造して実験を行なったので、詳細は実施例を参照すれば良い。
【0024】
本発明の抗菌・抗カビ剤は、固体状態のままで使用しても良いし、水などの溶媒に溶解した溶液状態で使用しても良い。溶液状態で使用するときの濃度は、所望の抗菌・抗カビ作用が発揮されるように適宜調整すれば良いが、おおむね、0.2〜1.0質量%の濃度に調整して用いることが好ましい。
【0025】
次に、本発明の抗菌・抗カビ剤組成物について説明する。本発明の抗菌・抗カビ剤組成物は、上記の抗菌・抗カビ剤と基材を含有している。
【0026】
本発明に用いられる基材は、抗菌・抗カビ剤を担持する抗菌・抗カビ製品に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、紙、繊維、布帛、フィルターなどの紙・繊維製品類;木材、石膏ボードなどの建材製品;フィルム、プラスチック、金属、ガラスなどの素材などが挙げられる。
【0027】
本発明の抗菌・抗カビ剤を基材に担持し、成形物(製品)を得る方法は特に限定されず、基材の種類に応じて、通常用いられる方法を適宜採用すれば良い。例えば、基材を製品に加工した後、抗菌・抗カビ剤の溶液を当該製品の表面に被覆したり、当該製品に浸漬するなどの方法が挙げられる。あるいは、製品に加工する前に、基材と抗菌・抗カビ剤を混合するなどの方法を採用しても良い。
【0028】
基材に担持する抗菌・抗カビ剤の配合量は、使用する基材の種類や用途などに応じ、適宜適切に制御すればよい。例えば、紙類や布帛類などの基材に本発明の抗菌・抗カビ剤を用いる場合、基材全体に対し、おおむね、0.1〜0.5質量%を配合することが好ましい。
【0029】
本発明の抗菌・抗カビ剤は、後記するように、優れた抗菌・抗カビ作用を有している。適用可能な細菌類としては、例えば、黄色ブドウ球菌Staphylococus aureus、大腸菌Escherichia coli、枯草菌Bacillus subtilis、肺炎桿菌Klebsiella pneumoniae subsp. Pneumoniaeなどの汎用菌が挙げられる。また、カビ類としては、食品などに繁殖し易いアオカビPenicillium citrinumなどのほか、風呂などの衛生加工品などに繁殖し易いクロコウジカビAspergillus niger、ススカビAlternaria alternate、クロカビCladosporium cladosporioidesなどが挙げられる。また、酵母類などにも適用可能である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0031】
以下の実施例1〜3では、上式(2)の銀亜鉛錯体を試料として用い、(ア)抗菌性(実施例1)、(イ)布帛に適用したときの抗菌性(実施例2)、および(ウ)布帛に適用して耐光試験を行った後の抗菌・抗カビ性(実施例3)を調べた。
【0032】
実施例1〜3に用いた式(2)の銀亜鉛錯体は、以下の方法で製造した。
【0033】
まず、2−アミノエタンチオール(「aet」と略記)塩酸塩40mmolの水溶液20mLにZn(CHCOO)・2HO20mmolの水溶液20mLを加えた。室温で1時間撹拌した後、水酸化ナトリウム80mmolの水溶液10mLを徐々に加えると白色結晶が析出した。更に室温で1時間撹拌した後、結晶をろ過し、水5mLとメタノール30mLで充分洗浄してから、エタノールで乾燥して白色結晶の亜鉛錯体[Zn(aet)]を得た。
【0034】
次に、生成した[Zn(aet)]8.8mmolの水溶液170mLに、硝酸銀8.8mmolの水溶液3mLを撹拌しながら加え、40℃で4時間撹拌した後、全量が35mLになるまで濃縮した。この濃縮液をろ過し、不溶物を除いた後、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF)35.2mmolの水溶液5mLを加え、冷蔵庫で一晩放置した。ろ過した白色の粉末を少量の水で洗浄し、真空デシケーター中で乾燥して所望とする銀亜鉛錯体を得た。
【0035】
得られた化合物の立体構造を明らかにするため、核磁気共鳴(NMR)スペクトルの測定を行なった。図1AにH−NMRスペクトルの結果を、図1Bに13C−NMRスペクトルの結果を、それぞれ示す。また、赤外(IR)吸収スペクトルの測定を行い、分光学的特性を調べた。その結果を図2に示す。
【0036】
また、誘導プラズマ発光分析(ICP)および元素分析の結果は以下のとおりである。
Zn:Ag=1:1
Found:C:11.53,H:2.84,N:6.64%
Calcd.for[Ag{Zn(aet)](BF
=C24ZnAg(BF
C:11.65,H:2.93,N:6.79%
【0037】
実施例1 式(2)の銀亜鉛錯体の抗菌試験
本実施例では、上記の方法で得られた式(2)の銀亜鉛錯体を用い、以下のようにして抗菌試験を行なった。
【0038】
(1)試験に用いた試料溶液の調製
上記の銀亜鉛錯体を水に溶解して1000ppm濃度の試料溶液を得た。この溶液を2倍系列で希釈し、500ppm、250ppm、125ppm、63ppm、32ppm、16ppm、8ppm、4ppm、2ppmの各濃度に調製した。
【0039】
(2)試験菌液の調製
試験細菌として、黄色ブドウ球菌Staphylococus aureus、大腸菌Escherichia coli、枯草菌Bacillus subtilis、肺炎桿菌Klebsiella pneumoniae subsp. Pneumoniaeを用いた。
【0040】
上記の各細菌を普通寒天培地(NA、ニッスイ)に接種し、35℃で24時間培養した後、生理食塩水を用いて細菌の菌数が10個/mLになるように調製したものを試験菌液とした。
【0041】
(3)試験方法
上記のようにして得た各濃度の試料溶液に試験菌液を0.1mLずつ接種し、35℃で24時間培養した。培養後、細菌の発育の有無を肉眼で観察し、最小発育阻止濃度(Minimum Inhibition Concentration、MIC、ppm)を判定した。
【0042】
これらの結果を表1〜表4に示す。MICが小さい程、抗菌性に優れていることを意味する。本発明によれば、いずれの菌に対しても、おおむね、良好な抗菌作用が認められた。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
実施例2 銀亜鉛錯体を布帛に塗布したときの抗菌試験
【0048】
本実施例では、上記のようにして得られた銀亜鉛錯体を布帛(基材)に塗布(塗工)した後の抗菌性を以下のようにして調べた。
【0049】
(1)試験菌液の調製
試験細菌として、黄色ブドウ球菌Staphylococus aureus、大腸菌Escherichia coli、枯草菌Bacillus subtilis、肺炎桿菌Klebsiella pneumoniae subsp. Pneumoniaeを用いた。
【0050】
上記の試験細菌を普通寒天培地(NA、ニッスイ)に接種し、35℃で24時間培養した。これを20倍に希釈した普通ブイヨンを用い、菌数が10/mLのオーダーになるように調製したものを試験菌液とした。
【0051】
(2)基材
本実施例では、スパンレース不織布(三昭紙業株式会社製のKP9380)を用いた。
【0052】
(3)試験検体の調製
まず、上記のようにして得られた銀亜鉛錯体に水を添加し、濃度が6000ppmになるように調製した。次いで、この溶液を基材に塗布し、銀亜鉛錯体含浸基材を得た。塗布には霧吹き器を用い、基材への塗布濃度は、塗布前後の重量変化から当該濃度が5000ppmになるように調製した。
【0053】
次いで、上記の銀亜鉛錯体含浸基材を無菌的に細かく切り、滅菌アンプル瓶に1g入れたものを試験検体とした。
【0054】
(4)布帛塗布後の抗菌性
このようにして得られた試験検体に上記の試験菌液を6mL接種し、35℃で24時間培養した。培養後、滅菌水10mLで洗浄したものを試験液とし、水で希釈し、10倍希釈液を用意した。
【0055】
この希釈液をSCDLP(不活化剤含有一般生菌数測定用培地(Soybean Casein Digest Agar with Lecithin, Polysobate 80)寒天培地に接種し、35℃で48時間培養した。培養後、形成された集落をカウントし、生菌数(個/mL)を計測し、抗菌性を評価した。
【0056】
比較のため、基材のみ(銀亜鉛錯体の塗布なし、コントロール)について上記と同様の実験を行った。
【0057】
これらの結果を表5〜8(基材への塗布濃度5000ppm)に示す。
【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
【表7】

【0061】
【表8】

【0062】
これらの表より、いずれの菌についても、銀亜鉛錯体を塗布しないコントロール群は、初発菌数に比べて48時間後の生菌数が著しく増加したのに対し、銀亜鉛錯体を塗布した実験群(各表の加工スパンレース不織布)では、48時間後の生菌数が有意に減少した。よって、本発明の銀亜鉛錯体は、広範囲の抗菌作用を有することが確認された。特に黄色ブドウ球菌(表5)に対しては、48時間後の生菌数が10個/mLのオーダーまで減少し、極めて強い抗菌作用が確認された。
【0063】
実施例3 式(2)の銀亜鉛錯体を布帛に塗布した後の光照射後における抗菌・抗カビ試験
本実施例では、上記のようにして得られた式(2)の銀亜鉛錯体を布帛(基材)に塗布し、耐光性試験を行なった後の抗菌・抗カビ性を調べた。
【0064】
(1)試験菌液の調製
本実施例では、試験細菌として、黄色ブドウ球菌Staphylococus aureus、大腸菌Escherichia coli、枯草菌Bacillus subtilis、肺炎桿菌Klebsiella pneumoniae subsp. Pneumoniaeを用いた。
【0065】
上記の試験細菌を普通寒天培地(NA、ニッスイ)に接種し、35℃で24時間培養した。これを20倍に希釈した普通ブイヨンを用い、菌数が10/mLのオーダーになるように調製したものを試験菌液とした。
【0066】
(2)試験胞子液の調製
本実施例では、試験カビとして、クロコウジカビAspergillus niger、クロカビCladosporium cladosporioides、アオカビPenicillium citrinumを用いた。
【0067】
上記の各カビをポテトデキストロース寒天培地に接種し、25℃で7日間培養した後、20倍に希釈したブドウ糖ペプトン培地(Glucose Peptone Broth)を用いて胞子の個数が10/mLのオーダーになるように調製したものを試験胞子液とした。
【0068】
(3)基材
本実施例では、スパンレース不織布(三昭紙業株式会社製のKP9380)を用いた。
【0069】
(4)試験検体の調製
まず、上記のようにして得られた銀亜鉛錯体に水を添加し、濃度が6000ppmになるように調製した。次いで、この溶液を基材に塗布し、銀亜鉛錯体含浸基材を得た。塗布には霧吹き器を用いた。また、基材への塗布濃度は、塗布前後の重量変化から当該濃度が5000ppmになるように調製した。
【0070】
このようにして得られた銀亜鉛錯体含浸基材に対し、28℃で照射照度550W/mで100時間照射(これは、直射日光下で約1年間照射に相当する。)を行った。照射後の基材を無菌的に細かく切り、滅菌アンプル瓶に1g入れたものを試験検体とした。
【0071】
(5)耐光試験後の抗菌性
このようにして得られた試験検体に上記の試験菌液を6mLずつ接種し、35℃で24時間培養した。培養後、滅菌水10mLで洗浄したものを試験液とし、水で希釈し、10倍希釈液を用意した。
【0072】
この希釈液をSCDLP(不活化剤含有一般生菌数測定用培地Soybean Casein Digest Agar with Lecithin, Polysobate 80)寒天培地に接種し、35℃で48時間培養した。培養後、形成された集落をカウントし、生菌数(個/mL)を計測し、抗菌性を評価した。これにより、長時間光照射を行なった環境下での本発明例の抗菌作用を確認できる。
【0073】
比較のため、耐光試験前の銀亜鉛錯体含浸基材(コントロール)について上記と同様の実験を行った。これにより、光照射を行なわない通常環境下での本発明例の抗菌作用を確認できる。
【0074】
(6)耐光試験後の抗カビ性
上記の試験検体に各試験胞子液を6mLずつ接種し、25℃で24時間培養した。培養後、滅菌水10mLで洗浄し、水で希釈して10倍希釈液を得た。
【0075】
このようにして得られた希釈液をGPLP(不活化剤含有真菌数測定用培地、Glucose Peptone Broth with Lecithin,Polysorbate 80)寒天培地に接種し、25℃で5日間培養した。培養後、形成された集落をカウントし、生菌数(個/mL)を計測し、耐光試験後の抗カビ性を評価した。これにより、長時間光照射を行なった環境下での本発明例の抗カビ作用を確認できる。
【0076】
比較のため、耐光試験前の銀亜鉛錯体含浸基材(コントロール)について上記と同様の実験を行った。これにより、光照射を行なわない通常環境下での本発明例の抗カビ作用を確認できる。
【0077】
これらの結果を表9〜表15(基材への塗布濃度5000ppm)に示す。
【0078】
【表9】

【0079】
【表10】

【0080】
【表11】

【0081】
【表12】

【0082】
【表13】

【0083】
【表14】

【0084】
【表15】

【0085】
はじめに、抗菌性(表9〜12を参照)について考察する。
【0086】
まず、各表の「耐光試験前スパンレース不織布」の結果を参照する。初発菌数に比べて48時間後の生菌数が減少した場合、本発明例の銀亜鉛錯体は、光照射を行なわない通常環境下で抗菌作用を有しているといえる。表9〜12を参照すると、いずれの菌についても、初発菌数に比べて48時間後の生菌数は減少しており、布帛加工後も本発明例が広範囲の抗菌作用を有することが確認された。
【0087】
次いで、各表の「耐光試験後スパンレース不織布」の結果を参照する。初発菌数に比べて48時間後の生菌数が減少した場合、本発明例の銀亜鉛錯体は、長時間光照射を行なった環境下(直射日光下で約1年間照射に相当する環境下)で抗菌作用を有しているといえる。表9〜12を参照すると、いずれの菌についても、初発菌数に比べて48時間後の生菌数は減少し、本発明例が、耐光試験後も広範囲の抗菌作用を持続していることが確認された。特に、黄色ブドウ球菌(表9)に対しては、48時間後の生菌数が10個/mLのオーダーまで減少し、極めて強い抗菌作用が確認された。
【0088】
次に、抗カビ性(表13〜15を参照)について考察する。本実施例の抗カビ試験は、使用したカビの胞子が胞子→菌糸→胞子と順次増殖していく胞子数(各表では「生菌数」と記載)を測定するものであり、慣用のJIS Z2911に記載のカビ抵抗性試験(カビの胞子から菌糸の発育だけを評価する定性試験)に比べ、抗カビ性を定量的に評価する試験である。この抗カビ試験によれば、初発菌数(初発胞子数)に比べて5日後の生菌数が有意に超えていなければ、「抗カビ性あり」と評価できる。
【0089】
まず、各表の「耐光試験前スパンレース不織布」の結果を参照する。表13〜15に示すように、いずれのカビに対しても5日後の生菌数の有意な増加は認められず、抗カビ作用が確認された。
【0090】
次いで、各表の「耐光試験後スパンレース不織布」の結果を参照する。上記と同様の傾向は、長時間光照射を行なった環境下でも見られ、いずれのカビに対しても5日後の生菌数の有意な増加は認められず、耐光試験後も抗カビ作用が確認された。
【0091】
上記の実験結果より、本発明の銀亜鉛錯体は、良好な抗菌・抗かび作用を有しており、上記作用は、耐光試験後も維持されていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表されるZn−Ag−Zn−Agの四核錯体。
【化1】


式中、
1〜R8は同一または異なって、Hまたは炭素数が1〜6のアルキル基であり、
1〜A4は同一または異なって、炭素数が1〜6のアルキレン基である。
【請求項2】
下式(1)で表されるZn−Ag−Zn−Agの四核錯体を含有することを特徴とする抗菌・抗カビ剤。
【化2】


式中、
1〜R8は同一または異なって、Hまたは炭素数が1〜6のアルキル基であり、
1〜A4は同一または異なって、炭素数が1〜6のアルキレン基である。
【請求項3】
請求項2に記載の抗菌・抗カビ剤および基材を含有する抗菌・抗カビ剤組成物。

【図2】
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【図1A】
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【図1B】
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【公開番号】特開2010−235451(P2010−235451A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81876(P2009−81876)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度および平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業シーズ発掘試験、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】