説明

銀付調人工皮革およびその製造方法

【課題】
厚い表面皮膜を有していても、軽量かつ鮮明な表面意匠成形性に優れた銀付調人工皮革
とその製造方法を提供すること。
【解決手段】
基材層の表面に第一の高分子弾性体皮膜層と第二の高分子弾性体皮膜層が順次積層されて
おり、第一の高分子弾性体皮膜層は基材層の表面を構成する繊維の周囲の一部を覆い、第
二の高分子弾性体皮膜層は該第二の高分子弾性体皮膜層を構成する高分子弾性体の粒子が
その粒子状態を維持してゲル化し、その一部が接合した後に粒子同士の間隙により形成さ
れた平均径10μm以下の微細孔と10〜50μmの平均径を有する支持部材とが混在す
ることを特徴とする銀付調人工皮革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の微細孔からなる高分子弾性体皮膜層を有する銀付調人工皮革及びその
製造方法に関する。更に詳しくは、良好な表面平滑性、軽量性、型押し性を兼ね備えた銀
付調人工皮革および水系エマルジョン性樹脂を用いた銀付調人工皮革の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材に平滑性、クッション性、物理強度性等を付与するために、基材表面上
に皮膜の形成がなされている。皮膜を形成するために基材に塗布される分散液には、以前
は溶媒として、ジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶剤が用いられていた。しかし
、DMF等の有機溶剤は、引火性が強く、更には毒性が高いものが多いことから、火災の
危険性がある他、作業環境の悪化や大気、水質等の環境汚染の問題が懸念されている。ま
た、有機溶剤を用いて得られた皮膜には、有機溶剤が残留するため、皮膜に触れることに
よる人体への影響も問題にされている。そして、このような問題点を解消するために、残
留有機溶剤を回収する工程を組み入れた場合、多額の廃棄コストや労力がかかるといった
問題点を有する。
【0003】
そこで、有機溶剤を使用することのない水系エマルジョン性樹脂を用いた人工皮革が検
討されている。特許文献1には、感熱凝固性ポリウレタンエマルジョン及び熱膨張性プラ
スチックマイクロバルーンを必須構成成分とする感熱凝固性及び熱膨張性ポリウレタンエ
マルジョン(曇点35〜95℃の非イオン界面活性剤2〜30重量部を乳化剤とする非イ
オン性ポリウレタンエマルジョン)組成物を40℃〜190℃の水又は水蒸気中で処理す
る製造方法が開示されている。また、特許文献2には、高分子弾性体から形成されたシー
トであって、該シートは、厚さが10〜500μmであり、内部に微孔が500〜15,
000個/mm存在し、該微孔の平均孔径が1〜20μmであり、かつ破断強度が1〜
15N/mmで破断伸度が100〜500%であることを特徴とする多孔質シートが開
示されている。
また、本出願人は、上記課題を解決する為、高分子弾性体の粒子がその粒子状態を維持し
てゲル化しその一部が接合した後に粒子同士の間隙により形成された微細孔と、平均径1
0〜50μmの支持部材とが混在した皮膜を基材に積層した人工皮革用基体を提案した(
特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−60260号公報
【特許文献2】特許第3796573号公報
【特許文献3】特願2010‐211202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法は、非イオン性ポリウレタンエマルジョンを感熱
ゲル化させるため、シャープなゲル化が発現せず、含浸用、薄膜コートにしか適用できず
、厚膜コートすると乾燥過程でクラック生じて品位が低下する問題がある。さらに、ゲル
化とマイクロカプセルの膨張を同時に行うため、皮膜の強度が低下し、均一な発泡状態が
得られない問題がある。特許文献2の製造方法は撥水性微粒子の曇点を利用しているため
、高固形分濃度のウレタンエマルジョンを用いて低比重の多孔質シートを得る事が出来ず
、生産性に劣る問題がある。
また、特許文献1及び2に開示された製造方法で得られる皮膜を有する不織布では、極
細化処理のために熱水処理を行うと、皮膜が熱水を吸収して破損したり、発泡が潰れてし
まうという問題点も有している。
そして、特許文献3の発明の人工皮革用基体において、更に意匠(凹凸模様)形成性、平
滑性および剥離強力を兼ね備えた銀付調人工皮革が望まれている。
【0006】
本発明は、上記問題の解決を鑑みたものであり、平滑性、軽量性、意匠形成性の良好な
2層構造からなる高分子弾性体皮膜を基材層の表面に配することで厚い表面皮膜を有して
いながらも、軽量かつ鮮明な表面シボを形成できるといった優れた意匠成形性により優美
な外観を実現可能な銀付調人工皮革とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、繊維絡合不織布の内部に高分子弾性体を含有してなる基材層の表面に第一の
高分子弾性体皮膜層を配置するとともに第一の高分子弾性体皮膜層を形成する高分子弾性
体が基材層の表面を構成する繊維の周囲の一部を覆うこと、更に多数形成された微細孔と
、支持部材が混在した第二の高分子弾性体皮膜層を第一の高分子弾性体皮膜層の表面に積
層して銀付調人工皮革を製造した場合、表面をエンボスロール等で加熱プレスして凹凸の
意匠を付与する際に、第二の高分子弾性体皮膜層が凹凸模様を形成することに対して主体
的に役割を担い、第一の高分子弾性体皮膜層が加熱プレスによる基材層の潰れや厚みくた
りの影響を抑制するとともに、剥離強力の向上に寄与し、水系エマルジョン樹脂を皮膜層
に用いて従来なし得なかった、軽量ながら天然皮革調の優美な外観と優れたソフト性およ
び高い剥離強力を兼ね備えた銀付調人工皮革が得られることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、繊維絡合不織布の内部に高分子弾性体が含有してなる基材層の表面
に第一の高分子弾性体皮膜層と第二の高分子弾性体皮膜層が順次積層されており、第一の
高分子弾性体皮膜層は基材層の表面を構成する繊維の周囲の一部を覆い、第二の高分子弾
性体皮膜層は該第二の高分子弾性体皮膜層を構成する高分子弾性体の粒子がその粒子状態
を維持してゲル化し、その一部が接合した後に粒子同士の間隙により形成された平均径1
0μm以下の微細孔と10〜50μmの平均径を有する支持部材とが混在することを特徴
とする銀付調人工皮革である。
【0009】
また、本発明は、下記(1)〜(3)の工程を含む銀付調人工皮革の製造方法である。
(1)繊維絡合不織布の内部に高分子弾性体が含有してなる基材層の表面に(A)親水性
官能基含有樹脂からなる高分子弾性体、(B)アンモニウム塩および(C)増粘剤を含み
、(A)成分と(B)成分の配合比が、固形分の質量比で(A):(B)=100:0.
25〜100:10、粘度(η)が200〜1000Pa・sからなる組成の第一の高
分子弾性体皮膜層を形成し得る水系分散液が基材層の表面を構成する繊維の周囲の一部を
覆うように塗布して第一の高分子弾性体皮膜層を形成する工程
(2)第一の高分子弾性体皮膜層の表面上に、(A)親水性官能基含有樹脂からなる高分
子弾性体、(B)アンモニウム塩、(C)増粘剤および(D)支持部材を含み、(A)成
分と(B)成分の配合比が、固形分の質量比で(A):(B)=100:0.25〜10
0:10、粘度(η)が30〜500Pa・sからなる組成の第二の高分子弾性体皮膜
層を形成し得る水系分散液を塗布する工程
(3)(1)および(2)で用いる水系分散液を順次または同時に感熱ゲル化処理した後
乾燥固化して、第一の高分子弾性体皮膜層を構成する高分子弾性体が基材層の表面を構成
する繊維の周囲の一部を覆う第一の高分子弾性体皮膜層と第二の高分子弾性体皮膜層を構
成する高分子弾性体の粒子がその粒子状態を維持してゲル化し、その一部が接合した後に
粒子同士の間隙により形成された平均径10μm以下の微細孔と10〜50μmの平均径
を有する支持部材とが混在する第二の高分子弾性体皮膜層を形成する工程
【発明の効果】
【0010】
本発明の銀付調人工皮革は、その表面が平滑性と意匠形成性に優れ、軽量かつ高い剥離
強力を有する。特に、水系エマルジョン樹脂からなる厚い皮膜層を形成している場合であ
っても上記効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述する。
まず、本発明の基材層は、繊維を3次元的に絡合させることにより得られる繊維絡合不
織布と、その内部に含浸された高分子弾性体からなる。そしてこの基材層を構成する繊維
の形状は特に限定されないが、その軽量性と強度を両立する目的であれば、中空繊維であ
ることが好ましく、公知の方法で製造することが可能であるが、例えば、化学的または物
理的性質の異なる少なくとも2種類の紡糸特性を有するポリマーからなる海島型多成分系
繊維から島成分を抽出することで繊維形態を中空繊維とすることが可能な繊維を用いるこ
とができる。高分子弾性体を含浸させる前後の適当な段階で少なくとも1種類のポリマー
を抽出除去して繊維形態を変えることが可能な繊維のことである。この中空繊維発生型繊
維は、チップブレンド(混合紡糸)方式や複合紡糸方式で代表される方法を用いて得られ
る。その代表的な繊維の形態は、いわゆる海島型繊維と呼ばれるものである。
【0012】
また、ソフト性と物理的性質を両立する目的であれば、極細繊維(束)であることが好ま
しい。極細繊維(束)とする場合には、例えば、上記海島型多成分系繊維を用いるのであ
れば、中空繊維を形成する場合と反対に海成分を抽出除去することで、得ることが可能で
ある。
【0013】
このような海島繊維の非抽出成分を構成するポリマーとしては、例えば、6−ナイロン
、66−ナイロンをはじめとする溶融紡糸可能なポリアミド類、ポリエチレンテレフタレ
ート、ポリブチレンフタレート、イソフタル酸変性ポリエステル、カチオン可染型変性ポ
リエチレンテレフタレートをはじめとする溶融紡糸可能なポリエステル類、ポリプロピレ
ンで代表されるポリオレフィン類等から選ばれた少なくとも1種類のポリマーが挙げられ
る。
また、抽出除去される成分としては、海島繊維を構成する公知の成分を用いることが可
能であるが、水溶性高分子成分から構成され、かつ紡糸可能な成分であることが挙げられ
る。例えば、水溶性高分子成分としては、水または水系溶剤で抽出処理できる高分子であ
れば、公知の高分子が使用できるが、水系溶剤で溶解可能なポリビニルアルコール共重合
体類を用いることが好ましい。
この海島繊維の海成分と島成分の容量比は1:2〜2:1であって、海成分を抽出した
後に極細繊維とする場合の繊度としては、風合いや充実感の点で0.01〜0.0001
dtexの範囲が良好であり、島成分を抽出した後に多孔中空繊維とする場合の繊度とし
ては、風合いや充実感の点で0.5〜4.0dtexの範囲が良好である。
【0014】
上記の海島繊維からなる絡合不織布は、20〜75mm長の短繊維をカード法により短
繊維ウェッブとした後にニードルパンチや高速流体により絡合処理して製造してもよく、
また、スパンボンド法のような直接法により紡糸と同時に長繊維ウェッブとした後、ニー
ドルパンチや高速流体により絡合処理して製造してもよい。
【0015】
次に、中空繊維化前後または極細繊維化前後の繊維絡合不織布に高分子弾性体の溶液も
しくは分散液を含浸させて基材層とする。
本発明で繊維絡合不織布に含有する高分子弾性体は一般的な人工皮革の製造に従来使用
されているものであればよく、公知の高分子弾性体を用いることができる。中でもポリウ
レタンが天然皮革様の風合や物性を得る点で好ましく用いられ、例えば、ポリエステル系
ジオール、ポリエーテル系ジオールポリエステル・エーテル系ジオール、ポリカーボネー
ト系ジオールなどの高分子ジオールの1種以上;有機ポリイソシアネート、好ましくは脂
肪族系、芳香族系あるいは脂環族系の有機ジイソシアネートの1種以上;および低分子ジ
オール、低分子ジアミン、ヒドラジンなどの活性水素原子を2個有する鎖伸長剤とから製
造されたポリウレタンが挙げられる。
【0016】
次に、この基材層に形成する第一および第二の高分子弾性体皮膜層について説明する。
本発明の銀付調人工皮革は、このようにして得られた基材層の少なくとも一方の表面に
、第一の高分子弾性体皮膜層を形成する高分子弾性体の一部が基材層の凹凸表面を構成す
る繊維の周囲の一部を被覆することが銀付調人工皮革の表面を平滑化する点や、剥離強力
を高める点で重要である。そして、第一の高分子弾性体皮膜層を形成する高分子弾性体の
一部が基材層の表面に露出した繊維の周囲の60%以上覆うことが好ましく、80%以上
覆うように被覆することがより好ましい。60%以上覆うためには、基材を構成する繊維
比率を70%以上とし、基材に含有する高分子弾性体を水分散型のポリウレタンにして、
乾熱凝固することで、繊維密度を高めかつ、非連続状に高分子弾性体を存在させするとい
った形態の組み合せによって、基材表面を構成する繊維が基材表面上に露出し易くするこ
とが好ましい。
ここで、繊維の周囲の一部を被覆とは、繊維の周囲の一部に接着あるいは密着した状態
であることが好ましいが、一本の繊維または繊維束の周囲に空間を有した状態で、高分子
弾性体が覆っていてもよい。
そして、基材層の表面から厚さ方向へ少なくとも20μm以上充填されていることが、
上記効果を向上させる点で好ましい。
なお、基材の表面を構成する繊維の周囲の一部を高分子弾性体が被覆している程度に関
しては、銀付調人工皮革の厚さ方向に平行な断面を電子顕微鏡で撮影し、写真から任意の
20本の繊維を抽出し繊維の周囲が高分子弾性体で被覆している場合その比率を計算し平
均とすることで求めることが可能である。
ここで形成された、平滑な表面を形成し、基材層の表面から20μm下の範囲の繊維の
一部を被覆するように充填した第一の高分子弾性体皮膜層を形成する高分子弾性体は、基
材層に塗布してから固化すまでの間、一部が基材の表層に沈み込むと同時に基材層表面に
とどまり、基材層の表面に平滑な被覆層を形成することで第二の高分子弾性体皮膜層を形
成する高分子弾性体が塗布された時に、これが基材層に沈み込むのを防ぐ役割を果たすと
ともに塗布する第二の高分子弾性体皮膜層との良好な接着強力を確保する。また、第二の
高分子弾性体皮膜層の表面をより平滑に形成することの補助的機能を有する。そして、基
材層の表面付近の繊維の一部を被覆するように充填することにより基材層との間の十分な
剥離強度を確保する役割を果たすものである。得られる銀付調人工皮革の剥離強度は、好
ましくは3kg/25mm以上であり、より好ましくは5kg/25mm以上であり、更
に好ましくは7kg/25mm以上である。
【0017】
[水系分散液の調製]
第一の高分子弾性体皮膜層を形成するための水系分散液は、(A)親水性官能基含有樹
脂からなる高分子弾性体、(B)アンモニウム塩および(C)増粘剤を含む。
(A)親水性官能基含有樹脂からなる高分子弾性体(以下、(A)成分と称する場合が
ある。)は、アニオン系、ノニオン系の界面活性剤を用いることなく乳化できる自己乳化
タイプの水系エマルジョン性樹脂である。アニオン系、ノニオン系の界面活性剤を用いる
必要がある強制乳化タイプの水系エマルジョン性樹脂は、感熱ゲル化処理でのゲル化が鈍
感であり、また、ゲル化後の成膜が不十分となる傾向がある。そのため、低温で長時間か
けて感熱ゲル化処理及び乾燥固化を行う必要があり、生産効率が極めて悪い。また、界面
活性剤を使用することにより、形成された皮膜の基材に対する剥離強度等の物性が低下す
ると共に、経時的に界面活性剤が皮膜表面にブリードしてきて外観を損なう欠点がある。
自己乳化タイプの水系エマルジョン性樹脂は、上記の問題がなく、高温での感熱ゲル化
処理及び乾燥固化を行うことができ、強制乳化タイプの水系エマルション性樹脂を用いた
場合に比べて、格段に生産効率が向上する。
また、自己乳化タイプの水系エマルジョン性樹脂からなる皮膜は、熱水に対する膨潤率
が低く優れた耐熱水性を有しているため、皮膜の破損を防止することができる。
【0018】
(A)成分は、自己乳化タイプの水系エマルジョン性樹脂であり、単独では比較的高温
(90℃程度)でないとゲル化しないが、(B)アンモニウム塩((以下、(B)成分と
称する場合がある。)を添加することで、60℃程度の温度でゲル化する。
本発明の水系分散液において、(A)成分と(B)成分との配合比が、固形分の質量換
算で、(A):(B)=100:0.25〜100:10である。(B)成分の配合比が
0.25未満であると、感熱ゲル化処理によるゲル化が十分に行われず、皮膜表面にクラ
ックが発生してしまう。また、(B)成分の配合比が10を超えると、得られる皮膜の基
材に対する剥離強力等の物性が低下してしまう。また、皮膜表面に微細なクラックが入る
場合がある。ゲル化を十分に行うこと、及び皮膜の剥離強力等の物性向上の観点から、固
形分の質量換算で、好ましくは(A):(B)=100:0.5〜100:9の範囲であ
り、より好ましくは(A):(B)=100:1〜100:7の範囲である。
【0019】
また、本発明の水系分散液は、(C)増粘剤を含む。(C)増粘剤を含むことで、水系
分散液の粘度が高くなり、均一で厚い皮膜を形成することができる。当該水系分散液の粘
度としては、均一で厚い皮膜を形成するという観点から、好ましくは単一円筒型回転粘度
計を用いて6回転rpm/分で測定した粘度(η)で200〜1000Pa・sの範囲
であり、よりに好ましくは300〜700Pa・sの範囲であり、更に好ましくは、35
0〜600Pa・sの範囲である。水系分散液の粘度を200Pa・s以上とすることで
、微細孔は発現し難くなり、実質的に無孔状態の層を発生させやすくなる。
また、(C)増粘剤の粘度は、基材表面に塗布し、感熱ゲル化処理が完了するまでの間
に、塗布直後の粘度を維持することが、基材への水系分散液の沈み込みを防止して有効で
あり、基材の種類によって塗布状態が影響を受け難い。基材層の表面から厚さ方向へ少な
くとも20μm以上下に充填させやすくすることが可能となり、下限は好ましくは500
μmより表面、より好ましくは400μmより表面、さらに好ましくは300μmより表
面に充填させやすくなり、剥離強力が向上しやすくなると共に、乾燥固化の際に皮膜表面
のクラックの発生を抑える効果も奏する。
ここで、本発明の水系分散液に含まれる成分について説明する。
【0020】
(A)親水性官能基含有樹脂からなる高分子弾性体としては、親水性官能基含有の水系
エマルジョン性のポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂、及びポリウレタン樹脂とポリア
クリル樹脂との混合物等が挙げることができる。これらの中でも、屈曲性の観点から、特
に親水性官能基含有の水系エマルジョン性ポリウレタン樹脂が好ましい。
(A)親水性官能基含有樹脂からなる高分子弾性体は、例えば、(a)有機ジイソシア
ネート、(b)ポリオール、(c)親水性官能基と2個以上の活性水素とを有する化合物
を反応させて得られる親水性官能基含有イソシアネート基末端プレポリマーを中和し、水
中に自己乳化させた後、(d)鎖伸長剤を用いて鎖伸長反応をさせて得ることができる。
(a)有機ジイソシアネートとしては、2個のイソシアネート基を有する脂肪族ジイソ
シアネート、脂環式ジイソシアネート及び芳香族ジイソシアネートを使用することができ
る。
このような(a)有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシア
ネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物
、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメ
タンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメ
チル)シクロヘキサン等の脂環式ジイソシアネート化合物、トリレンジイソシアネート、
ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシア
ネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳
香族ジイソシアネート化合物等を挙げることができる。
また、これらのアルキル置換体、アルコキシ置換体、ニトロ置換体や、多価アルコール
とのプレポリマー型変性体、カルボジイミド変性体、ウレア変性体、ビュレット変性体、
ダイマー化又はトリマー化反応生成物等も使用することもでき、さらに上記化合物以外の
有機ジイソシアネートを使用することもできる。これらの有機ジイソシアネート化合物は
1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
このような(a)有機ジイソシアネートの中でも、得られる樹脂、及び形成される皮膜
の耐黄変性、熱安定性、光安定性の点から、脂肪族ジイソシアネート化合物及び脂環式ジ
イソシアネート化合物が好ましく、特に、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロン
ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシア
ネート及び1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが好ましい。
【0021】
(b)ポリオールとしては、2個以上のヒドロキシル基を有するものであれば特に制限
は無く、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオー
ル等の他、エーテル結合とエステル結合とを有するポリエーテルエステルポリオールも使
用することができる。
このようなポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリ
ブチレンアジペート、ポリエチレンブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンイソフタレ
ートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレン
セバケート、ポリブチレンセバケート、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリ(3−
メチル−1,5−ペンチレン)アジペート、1,6−ヘキサンジオールとダイマー酸の重
縮合物、1,6−ヘキサンジオールとアジピン酸とダイマー酸の共重縮合物、ノナンジオ
ールとダイマー酸の重縮合物、エチレングリコールとアジピン酸とダイマー酸の共重縮合
物等を挙げることができる。
また、前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリテトラメチレンカーボ
ネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリt−1,4−シクロヘ
キサンジメチレンカーボネートジオール、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポ
リオール等を挙げることができる。
さらに、前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポ
リプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールの単独重合体、ブロック共重合
体、ランダム共重合体、エチレンオキシドとプロピレンオキシド、エチレンオキシドとブ
チレンオキシドのランダム共重合体やブロック共重合体等を挙げることができる。
【0022】
また、このような(b)ポリオールは、1種を単独で用いることができ、又は、2種以
上を組み合わせて用いることもできる。更に、このような(b)ポリオールの平均分子量
としては、500〜5000であることが好ましく、1000〜3000であることがよ
り好ましい。また、親水性官能基含有樹脂により、基材に十分な耐久性を付与できるとい
う観点から、前述の(b)ポリオールとしては、ポリカーボネートポリオール又はポリエ
ーテルポリオールを使用することが好ましい。
【0023】
(c)親水性官能基と2個以上の活性水素とを有する化合物としては、例えば、2,2
−ジメチロール乳酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン
酸、2,2−ジメチロール吉草酸、3,4−ジアミノブタンスルホン酸、3,6−ジアミ
ノ−2−トルエンスルホン酸、等を挙げることができる。
更に、この様な親水性官能基と2個以上の活性水素とを有する化合物として、親水性官
能基を有するジオールと、芳香族ジカルボン酸又は芳香族ジスルホン酸、脂肪族ジカルボ
ン酸又は脂肪族ジスルホン酸等とを反応させて得られるペンダント型の親水性官能基を有
するポリエステルポリオールを用いることもできる。なお、前記親水性官能基を有するジ
オールに代えて、ジオール成分として親水性官能基を有さないジオールを混合して反応さ
せても良い。また、このような親水性官能基と2個以上の活性水素とを有する化合物は、
1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
(c)親水性官能基と2個以上の活性水素とを有する化合物を用いる際の好ましい量は
、(A)成分の酸価が、5〜50KOHmg/g、より好ましくは10〜40KOHmg
/gの範囲内となる様に用いることが好ましい。酸価が5KOHmg/g以上であれば、
樹脂の機械的安定性、他成分との混和安定性に優れ、酸価が50KOHmg/g以下であ
れば、適当な粘度を有する水系分散液を調製することができ、また得られる皮膜の耐水性
の点でも好ましい。ここで、酸価の測定方法は、例えば日本工業規格JIS K5400
等に開示されている方法による。
【0024】
また、(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリオール及び(c)親水性官能基と2個
以上の活性水素とを有する化合物を反応させてイソシアネート基末端プレポリマーを製造
する際には、必要に応じて2個以上の活性水素原子を有する低分子量鎖伸長剤を使用する
ことができる。
このような2個以上の活性水素原子を有する低分子量鎖伸長剤としては、分子量が40
0以下であることが好ましく、特に300以下が好ましい。また、このような低分子量鎖
伸長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグ
リコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパ
ン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の低分子量多価アルコール;エチレンジアミ
ン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピ
ペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエ
チレンテトラミン等の低分子量ポリアミン等を挙げることができる。さらに、このような
2個以上の活性水素原子を有する低分子量鎖伸長剤は、1種を単独で用いることができ、
又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
親水性官能基含有イソシアネート基末端プレポリマーを製造する具体的な方法としては
特に制限は無く、例えば、従来公知の一段式のいわゆるワンショット法、多段式のイソシ
アネート重付加反応法等により製造することができる。この時の反応温度は、40〜15
0℃であることが好ましい。また、このような反応の際、必要に応じて、ジブチル錫ジラ
ウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫−2−エチルヘキサノエート、トリエチル
アミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等の反応触媒を添加することがで
きる。
【0025】
また、親水性官能基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和は、親水性官能基含
有イソシアネート基末端プレポリマーの調製前又は調製後に適宜公知の方法を用いて行う
ことができる。このような親水性官能基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和に
用いる中和剤には特に制限は無く、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ
−n−プロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチル−ジエタノールアミン、N,N−
ジメチルモノエタノールアミン、N,N−ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノー
ルアミン等のアミン類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等を挙げること
ができる。このような中和剤の中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n
−プロピルアミン、トリブチルアミン等のヒドロキシル基を有さない第3級アミン類が特
に好ましい。
【0026】
次に、中和後に水中に自己乳化させる際に用いる乳化機器としては、特に制限はなく、
例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー等を挙げることができる。また、当
該自己乳化は、乳化剤を用いずに、室温〜40℃の温度範囲で水中に自己乳化させて、イ
ソシアネート基と水との反応を極力抑えることが好ましい。更に、このように自己乳化さ
せる際には、必要に応じて、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム
、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加すること
ができる。
【0027】
そして、水中に自己乳化させた後、(d)鎖伸長剤を用いて鎖伸長反応させ、(A)親
水性官能基含有樹脂の水系分散液を得ることができる。
このような(d)鎖伸長剤としては、アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポ
リアミン化合物が好ましく、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメ
チレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン
、ヒドラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ジ
アミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン等のジアミン;ジエチ
レントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロ
ピルアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン等のポリアミン;ジ第一級アミン及びモ
ノカルボン酸から誘導されるアミドアミン;ジ第一級アミンのモノケチミン等の水溶性ア
ミン誘導体;蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、琥珀酸ジヒドラジド、グルタル
酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒド
ラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,1’−エチレンヒドラジ
ン、1,1’−トリメチレンヒドラジン、1,1’−(1,4−ブチレン)ジヒドラジン
等のヒドラジン誘導体を挙げることができる。これらのアミノ基及び/又はイミノ基を2
個以上有するポリアミン化合物は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組
み合わせて用いることもできる。鎖伸長反応は、反応温度20〜40℃で行うことが好ま
しく、通常は30〜120分間で完結する。
【0028】
(A)親水性官能基含有樹脂からなる高分子弾性体の100%モジュラスの値としては
、1〜9MPaであることが好ましく、2〜6MPaであることがより好ましい。100
%モジュラスの値が1MPa以上であれば、優れた耐摩耗性を有する皮膜を形成すること
ができ、9MPa以下であれば、柔軟な風合いの皮膜を得ることができる。なお、100
%モジュラスの値は、JIS K 6251(1993)に準じて測定し、ダンベル状3
号形の試験片を用いて、標線間距離が100%伸びたとき(2倍に伸びたとき)における
所定伸び引張応力(MPa)の値である。
また、(A)親水性官能基含有樹脂中の親水性官能基の含有量は、0.5〜4.0質量
%であることが好ましく、1.0〜2.0質量%であることがより好ましい。親水性官能
基含有量が0.5質量%以上であれば、(A)成分の貯蔵安定性が良く、また、4.0質
量%以下であれば、感熱ゲル化温度が適切な温度範囲に収まり、十分なマイグレーション
防止の効果を奏する。
さらに、(A)親水性官能基含有樹脂からなる高分子弾性体は、自己乳化した形で保有
することが好ましい。その際のpH値は、7.0〜9.0であることが好ましく、7.5
〜8.5であることがより好ましい。pH値が7.0以上であれば、(A)成分の貯蔵安
定性が良く、pHが9.0以下であれば、十分なマイグレーション防止の効果を奏する。
【0029】
<(B)アンモニウム塩>
本発明で用いられるアンモニウム塩として、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸やカルボン酸等
のアンモニウム塩が挙げられる。なお、前記カルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオ
ン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸;オレイン
酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸;安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等
の芳香族カルボン酸;リンゴ酸、クエン酸、蓚酸、マロン酸、琥珀酸、アジピン酸等の飽
和ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸;乳酸、アクリル酸、ポ
リアクリル酸、ポリマレイン酸等が挙げられる。これらのアンモニウム塩は、市販されて
いるものを用いることもできる。
上記のアンモニウム塩の中でも、混合液の含浸性、乾燥工程中における(A)成分のマ
イグレーション防止性、及び乾燥中の揮発又は乾燥後の水洗によって容易に取り除くこと
ができ、得られる皮膜に残留することが少ないという観点から、硫酸アンモニウム塩、又
は炭素数1〜10のカルボン酸のアンモニウム塩が好ましく、硫酸アンモニウム塩、又は
炭素数1〜4のカルボン酸のアンモニウム塩がより好ましい。
【0030】
本発明の皮膜形成方法において、(B)アンモニウム塩を(A)成分と混合する際には
、(B)成分を固体(粉体)の状態で混合することもできるが、(A)成分の乳化液の安
定性保持の観点から、(B)成分を水に溶かして水溶液の状態で(A)成分と混合するこ
とがより好ましい。この際の、(B)アンモニウム塩含有の水溶液のpH値は、7.0〜
9.0であることが好ましく、7.5〜8.5であることがより好ましい。pH値が7.
0以上であれば、(A)成分と混合する際に、析出物の発生を抑えることができ、また、
pH値が9.0以下であれば、(A)成分の十分なマイグレーション防止の効果を奏する

【0031】
<(C)増粘剤>
一般的に増粘剤としては、会合型増粘剤と水溶性高分子系増粘剤が存在する。会合型増
粘剤は、増粘される成分の疎水性基と会合型増粘剤の疎水性基とが相互作用することによ
り、物理的に粒子と粒子との間が架橋して増粘する機構にあるものを指すが、本発明で用
いられる(C)増粘剤は、(B)アンモニウム塩の添加や、感熱ゲル化処理により皮膜の
ゲル化が完了する過程で生じる水系分散液の温度変化とpHの変化による増粘効果の変化
が少ないものが好ましく用いられ、会合型増粘剤、水溶性高分子増粘剤の中から選択でき
る。
本発明で用いられる会合型増粘剤としては、ウレタン系の会合型増粘剤、非イオン性ウ
レタンモノマーを会合性モノマーとして他のアクリルモノマーと共重合して得られる会合
型増粘剤、及びアミノプラスト骨格を有する会合型増粘剤等を挙げることができる。この
ような会合型増粘剤の中でも、多孔性構造の孔の緻密さ及び強度保持力の観点からは、分
子鎖中にポリエチレングリコール鎖とウレタン結合とを有する会合型増粘剤が好ましく、
市販品としてネオステッカーS(日華化学社製)等が挙げられる。
本発明で用いられる水溶性高分子系増粘剤としては、セルロース系、ポリカルボン酸系
、高分子多糖類系を挙げることができ、その中でもノニオン性の性質の強いものが(B)
アンモニウム塩の添加や、感熱ゲル化処理時の温度変化とpHの変化による増粘効果の変
化が少なく、高粘度が安定して得られやすい。市販品としてはHEC AX−15(住友
精化株式会社製、ヒドロキシエチルセルロース)、アロンA−50P(東亞合成株式会社
製、スルホン酸モノマー共重合型アクリル系増粘剤)、ケルザン(三晶株式会社製、高分
子多糖類)等が挙げられる。
水溶性高分子系増粘剤を使用して皮膜を形成した場合は、皮膜中の増粘剤が経時的にブ
リードしたり、吸湿してベタツキを生じるため、皮膜形成後に洗浄工程を経ることが好ま
しく、皮膜形成後に洗浄工程の無い一般的な皮膜の形成には不向きである。
なお、これらの増粘剤は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み
合わせて用いることもできる。
【0032】
(C)増粘剤の配合量は、第一の高分子弾性体皮膜層を形成する場合と第二の高分子弾
性体皮膜層を形成する場合とで異なり、まず、第一の高分子弾性体皮膜層においては、(
A)成分の固形分100質量部に対して、好ましくは0.5〜20.0質量部の範囲であ
り、より好ましくは1.0〜15質量部の範囲である。(C)増粘剤が0.5質量部以上
であれば、水系分散液の粘度を高くし、基材層表面部に十分な厚さの皮膜を形成可能な状
態でとどまる事が可能であり、取り扱いに最適な範囲の粘度を有する水系分散液を得るこ
とができる。増粘剤を添加する等して、水系分散液の粘度を200Pa・s以上とするこ
とで、微細孔は発現し難くなり、実質的に無孔状態の層を発生させやすくなる。
【0033】
次に第一の高分子弾性体皮膜層の表面に第二の高分子弾性体皮膜層が形成される。この
第二の高分子弾性体皮膜層は、100〜600μm程度の厚さを有し、厚さの薄い皮膜は
もちろんのこと、比較的厚い皮膜も得ることができるため、目的・用途に応じて自由に選
択することが可能である。そして、平均径10μm以下の微細孔を有するとともに、10
〜50μmの平均径の大孔を有することで低密度な第二の高分子弾性体皮膜層が存在する
。大孔は、支持部材に由来するものであり、微細孔が潰れ難い点で20μm以上が好まし
く、30μm以上がより好ましい。
微細孔は、後のエンボス処理等により表面に皮革様パターンを形成する際に重要な役割
を果たす。即ち、エンボス処理によってこの大部分を占める微細孔が大孔と共に変形する
ことで目的とする表面の意匠(凹凸模様)パターンをエンボスロールの凹凸模様に対して
忠実に転写し易い。そして、このパターンを容易に転写可能とするためには、例えば、第
二の高分子弾性体皮膜層の断面において、表面から厚さ方向に平行に50μm下までの長
さと表面に平行な200μmの長さで囲まれた面積あたり10個以上微細孔が存在してい
ることが、鮮明なエンボス模様を表面に形成可能になる点で好ましく、20個以上がより
好ましく、30個以上が更に好ましく、50個以上が特に好ましく、140個以上が最も
好ましい。
【0034】
また、第二の高分子弾性体皮膜層は本発明の銀付調人工皮革の銀面層の一部を形成する
ものであり、後述の通り厚い樹脂層とし易く、密度の低い層とすることが可能である。こ
のため、本発明では該第二の高分子弾性体皮膜層に特定の微細孔を形成させるとともに、
支持部材として既発泡カプセルを混在させることで形成した高分子弾性体皮膜層の密度を
0.30〜0.70g/cm、好ましくは0.35〜0.60g/cm、更に好まし
く0.35〜0.55g/cmに保つことで、優れた軽量性と意匠形成性を確保するも
のである。
【0035】
第二の高分子弾性体皮膜層の微細孔を形成するためには、第二の高分子弾性体をゲル化
する際に微細孔が確実に発現させることが肝要であり、このためには、第二の高分子弾性
体皮膜層を形成する水系分散液の組成および粘度を特定の範囲とすることが肝要である。
即ち、第二の高分子弾性体皮膜層を形成するための水系分散液の粘度は、30〜500P
a・sである。好ましくは30〜400Pa・sであり、より好ましくは50〜280P
a.sである。粘度が30Pa・s未満であると、第一の高分子弾性体皮膜層の上に塗布
する際に、第二の高分子弾性体皮膜層を形成するための水系分散液が流れてしまい、十分
に厚い層を形成することが困難になる。また、粘度が高すぎると、第二の高分子弾性体皮
膜層内に微細孔を発現することが困難になるため好ましくない。一方、この水系分散液が
目的の微細孔を発現するためには、水系分散液の固形分濃度を25〜50%とすることが
好ましく、より好ましくは27〜40%、さらに好ましくは30〜34%、最も好ましく
は31〜33%である。この固形分濃度をこの範囲に合わせることにより、ゲル化時の微
細孔がより確実に、そして厚さ方向に均一に発現させやすくなるため、より高い軽量性を
実現できるのである。固形分濃度が25%に満たない場合、すなわち、固形分が少なすぎ
ると、ゲル化の際に皮膜形成に寄与する微粒子の密度が低く、十分な強度を有する皮膜が
形成されない。一方でこの比率が50%を超えると、ゲル化の際に皮膜形成に寄与する微
粒子の密度が高すぎ、緻密なフィルム層を形成してしまい、微細孔が発現し難くなる。
そして、本発明の銀付調人工皮革等を構成する第二の高分子弾性体皮膜層は例えば、以
下のようにして形成される。
【0036】
[水系分散液の調製]
第二の高分子弾性体皮膜層を形成するための水系分散液は、(A)親水性官能基含有樹
脂からなる高分子弾性体、(B)アンモニウム塩、(C)増粘剤および(D)支持部材を
含む。また、必要に応じて、架橋剤((E)成分)や、その他の添加剤を含むことが好ま
しい。以下、本発明の水系分散液に含まれる成分について説明する。
なお、(A)親水性官能基含有樹脂からなる高分子弾性体、(B)アンモニウム塩およ
び(C)増粘剤は、第一の高分子弾性体皮膜層を形成するための水系分散液に用いる成分
と同一の成分を用いることができる。
本発明の水系分散液において、(A)成分と(B)成分との配合比が、固形分の質量換
算で、(A):(B)=100:0.25〜100:10である。(B)成分の配合比が
0.25未満であると、感熱ゲル化処理によるゲル化が十分に行われず、皮膜表面にクラ
ックが発生してしまう。また、(B)成分の配合比が10を超えると、得られる皮膜の基
材に対する剥離強力等の物性が低下してしまう。また、皮膜表面に微細なクラックが入る
場合がある。ゲル化を十分に行うこと、及び皮膜の剥離強力等の物性向上の観点から、固
形分の質量換算で、好ましくは(A):(B)=100:0.5〜100:9の範囲であ
り、より好ましくは(A):(B)=100:1〜100:7の範囲である。
【0037】
また、本発明の水系分散液は、(C)増粘剤を含む。(C)増粘剤を含むことで、水系
分散液の粘度が適度に高くなり、均一で厚い皮膜を形成することができる。
そして第二の高分子弾性体皮膜層を構成する水分散体の組成においては、(A)成分の
固形分100質量部に対して、好ましくは0.3〜15.0質量部の範囲であり、より好
ましくは0.5〜10.0質量部の範囲である。(C)増粘剤が0.3質量部以上であれ
ば、第二の高分子弾性体皮膜層を形成するための水系分散液の粘度を必要なレベルに維持
し、均一で厚い皮膜を形成することができ、かつ、乾燥処理の際に皮膜表面のクラック等
の発生を抑えることもできる。一方、増粘剤が15.0質量部以下であれば、取り扱いに
最適な範囲の粘度を有する水系分散液を得ることができる。当該水系分散液の粘度として
は、均一で厚い皮膜を形成するという観点から、単一円筒型B回転粘度計を用いて6回転
/分で測定した粘度(η)で30〜500Pa・sの範囲であり、好ましくは50〜4
00Pa・sである。
第二の高分子弾性体皮膜層を構成する水分散体の粘度が30Pa・s以上であれば、微細
孔がつぶれにくく、500Pa・s以下であれば、第一の高分子弾性体皮膜層を構成する
水分散体上への塗布が容易となる。
また、(C)増粘剤を含むことによる効果として、乾燥固化の際に皮膜表面のクラック
の発生を抑える効果も奏する。
さらに、(C)増粘剤の粘度は、塗布し、感熱ゲル化処理が完了するまでの間に、塗布
直後の第二の高分子弾性体皮膜層を構成する水分散体の粘度を維持する事が可能あり、塗
布から感熱ゲル化までの厚さの減少等に対して影響を受け難い利点がある。
次に、第二の高分子弾性体皮膜層を形成する水系分散液については、既に述べた第一の
高分子弾性体と同様な組成の水系分散液であるが、固形分濃度や(C)増粘剤の添加量を
コントロールすることで粘度を調整すると同時に、(D)支持部材を添加することが重要
である。
【0038】
<(D)支持部材>
本発明に用いる(D)支持部材は、微細孔の形成時に微細孔が潰れないように支持する
部材であれば特に制限しないが、膨張マイクロカプセル等が好ましく、既膨張マイクロカ
プセルを用いることがより好ましい。既膨張マイクロカプセルとは、熱可塑性樹脂を殻と
し、膨張剤として、特定の沸点を有する有機化合物を内包、カプセル化した微小中空球体
を、水系分散液を基材上に塗布、ゲル化処理する前の段階で、加熱により膨張させたカプ
セルである。ゲル化処理する前の段階としては、水系分散液調製前の膨張処理や、水系分
散液を基材上に塗布してゲル化温度に達する前に膨張が完了する場合を含む。この種のカ
プセルとしては、例えば塩化ビニリデン・アクリロニトリルコポリマーを殻として、イソ
ブタンを内包、カプセル化したもの等が挙げられる(例えば、マツモトマイクロスフェア
ー(登録商標)松本樹脂製)。ポリマー種、殻の厚み、バルーンの直径等により、また微
粉状又は含水ケーキ状の各種グレードがあり、選択することができる。この(D)支持部
材は、前述の通り、本発明の第二の高分子弾性体皮膜層の低密度実現に寄与するだけで無
く、ゲル化により発現する微細孔の形成補助機能を有する。
(D)支持部材は、既膨張マイクロカプセルが好ましく、皮膜の平滑性、軽量性、意匠
形成性を向上させることができる。皮膜の表面粗さ30μm以下を得るためには直径50
μm以下のものが好ましく、より好ましくは30μm以下である。
【0039】
また、(D)支持部材の添加量は、軽量性と皮膜強度のバランスから(A)成分の固形
分体積比で0.2〜1.5倍程度が好ましく、より好ましくは0.5〜1.0倍である。
そして、支持部材を含むことによる効果として、前記したように、水系分散液を感熱ゲ
ル化処理してゲル化膜にした後に乾燥固化させて皮膜を形成した際に、高分子弾性体粒子
をその粒子状態を維持したまま凝集させて、皮膜化させることにより得られる、粒子同士
の間隙により形成された微細孔が安定して得られる利点がある。粒子同士の間隙により形
成される微細孔は、支持部材無しでは、乾燥過程で粒子同士が接着してフィルム状となり
、皮膜が厚いほどフィルム化する度合いが強くなり、平滑性、軽量性、意匠形成性が低下
する。
【0040】
本発明の銀付調人工皮革等を構成する第一および第二の高分子弾性体皮膜層を構成する水
系分散液は、以下のような添加剤を含有させることができる。
<(E)架橋剤>
本発明の水系分散液において、架橋構造を形成し、皮膜の耐久性を向上させる観点、及
び硬化を促進し生産効率を向上させる観点から、(A)成分の親水性官能基と反応する(
E)架橋剤を併用することが好ましい。(E)架橋剤としては、オキサゾリン系架橋剤、
エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤等が挙げられる。
また、このような(E)架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて
用いてもよい。
(E)架橋剤の含有量は、(A)成分の固形分100質量部に対して、好ましくは1.
0〜5.0質量部の範囲であり、更に好ましくは1.5〜4.0質量部の範囲である。
【0041】
<(F)その他の添加剤>
本発明の水系分散液において、本発明の目的を損なわない範囲で、各種の添加剤を併用
することができる。添加剤としては、例えば、顔料、染料、補助バインダー、レベリング
剤、チクソトロピー付与剤、消泡剤、充填剤、発泡剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、酸化
防止剤、減粘剤、湿潤剤、着色防止剤等を挙げられる。このような添加剤は、1種を単独
で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、上述のとおり、本発明の
水系分散液は、界面活性剤を含まないことが好ましい。
上記の添加剤の中でも、特に、発泡剤を添加することが好ましい。発泡剤を添加するこ
とで、発泡倍率(分散液の体積に対する発泡後の体積)の調製が容易となる。このような
発泡剤としては、一般に用いられているものを使用することができる。
【0042】
本発明の水系分散液における水の添加量は、固形分と粘度の調整のため、分散液が所望
の粘度を有するように適宜調製される。具体的には、まず、第一の高分子弾性体皮膜層を
形成する水系分散液については、その固形分100質量部に対して、好ましくは20〜1
50質量部の範囲であり、より好ましくは25〜100質量部の範囲であり、更に好まし
くは30〜75質量部である。
一方、第二の高分子弾性体皮膜層を形成する水系分散液については、その固形分100
質量部に対して、好ましくは30〜250質量部、より好ましくは40〜200質量部、
更に好ましくは50〜150質量部の範囲である。
【0043】
[微細孔発泡処理]
本発明の皮膜形成方法において、第二の高分子弾性体皮膜層を形成する水系分散液を塗
布し皮膜を形成することで、厚さ100〜600μmの発泡皮膜を形成することができる
。本発明の皮膜形成方法においては、温度を高くし、風量を強くしても、皮膜表面のクラ
ックの発生を抑えることができるため、乾燥処理により生産効率を低下させることなく、
100〜600μmもの厚い発泡皮膜を形成することができる。
【0044】
本発明による発泡処理の手段は、支持部材と高分子弾性体粒子をその粒子状態を維持し
たまま凝集させて、皮膜化させることにより得られる、粒子同士の間隙により形成された
微細孔のみで行うことが、発泡の均一性と、皮膜表面の表面粗さ低減の目的から好ましい

水系分散液の調整過程で気泡が液中に噛み込んで発泡すると、皮膜表面に直径5μmを
超えるピンホールを生じて表面粗さが30μm以下を得ることができず、また、皮膜中に
巨大な発泡がランダムに発生する事で、型押しした際に、陥没欠点を生じて平滑性が悪化
する問題がある。
上記の点から、水系分散液を基材に塗布し皮膜を形成する前に、水系分散液を減圧脱泡、
加圧脱泡等の方法で脱泡することが好ましい。
【0045】
[水系分散液の塗布]
本発明の水系分散液を塗布して塗膜を形成する方法としては、特に制限されるものでは
ないが、例えば浸せき塗工、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロッドコーター、
ハイドロバーコーター、トランスファロールコーター、リバースコーター、グラビアコー
ター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ロールコーター、キャスト
コーター、スクリーンコーター等が挙げられ、一部、もしくは全面に塗布することができ
る。
これらの方法を用いて水系分散液を塗布する訳であるが、すでに述べたように、基材層
に既に述べた第一の高分子弾性体皮膜層を形成し、その表面部に特定の微細孔を発現する
第二の高分子弾性体皮膜層を形成するのであるが、これら第一の高分子弾性皮膜体層を形
成する場合には、含浸後そのまま塗布しても良いし、一度乾燥した後にあらためて塗布し
ても良い。また、第二の高分子弾性体皮膜層についても、同様に第一の高分子弾性体皮膜
層を形成した後、そのまま連続して塗布しても良いし、一度乾燥後改めて塗布しても良い

【0046】
[感熱ゲル化処理]
前工程で塗布したそれぞれの皮膜は、それぞれ同時または、別に感熱ゲル化処理してゲ
ル化膜にする。感熱ゲル化処理を行い、ゲル化膜を形成することで、ゲル化なしに乾燥処
理により水分を蒸発させる場合に比べ、クラック等の発生を抑えることができる。塗膜が
ゲル化する感熱凝固温度は、30〜80℃であることが好ましく、40〜70℃であるこ
とがより好ましい。ここで感熱凝固温度とは、前記水系分散液50gを100mLのガラ
ス製ビーカーに取り、内容物を攪拌しつつ、そのビーカーを95℃の熱水浴中で徐々に加
熱し、内容物が流動性を失い凝固する時の温度である。感熱凝固温度が30℃以上であれ
ば、夏場に気温雰囲気下において、分散液がゲル化してしまう事態を防ぐことができ、ま
た、80℃以下であれば、感熱ゲル化がシャープに発現されるため、次の乾燥工程におい
てマイグレーション防止性を十分に発揮することができる。
【0047】
感熱ゲル化処理としては、湿熱処理や、赤外線による加熱処理等が挙げられるが、特に
、良好なゲル化状態を得る観点から、スチームによる湿熱処理が好ましい。スチームによ
る湿熱処理は、スチームの温度を水系分散液の感熱凝固温度以上とすれば加工可能である
が、より安定的に生産を行うために「感熱凝固温度+10℃」以上の温度とすることが好
ましく、具体的には40〜140℃が好ましく、60〜120℃がさらに好ましい。
また、スチームによる湿熱処理を行う際の湿度は、100%に近づくほど表面からの乾
燥が抑えられるため好ましい。スチームの処理時間は、充分にゲル化膜を形成させる観点
から、5秒〜30分であることが好ましく、10秒〜20分であることがさらに好ましい

なお、スチームによる湿熱処理と他の方法との併用も可能である。他の方法としては、
例えば、赤外線、電磁波、高周波等の凝固方法が挙げられる。
【0048】
[乾燥固化]
前工程の感熱ゲル化処理して得られたゲル化膜は、乾燥固化されて皮膜を形成する。乾
燥固化の方法としては、熱風加熱、赤外線加熱、電磁波加熱、高周波加熱、シリンダー加
熱等の乾燥方法が挙げられる。これらの方法の中でも、ランニングコストの面や連続生産
性の観点から、熱風乾燥が好ましい。なお、これらの乾燥方法は、1種を単独で用いるこ
とができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
乾燥温度は、形成した皮膜が熱により変質劣化しない程度で、かつ充分に乾燥させるこ
とができること、及び乾燥効率向上の観点から、好ましくは60〜190℃であり、さら
に好ましくは80〜150℃である。また、処理時間は、充分に乾燥させること、及び生
産性の観点から、好ましくは1〜20分であり、さらに好ましくは2〜5分である。
【0049】
[熱水抽出処理]
本発明においては、基材として熱水抽出タイプの海島繊維からなる不織布を用いる場合
、先に熱水抽出処理を行った不織布に水系分散液を塗布しても、当該不織布に皮膜を形成
した後、熱水抽出処理を行うことも可能である。そして、極細繊維(束)からなる繊維絡
合不織布または(多孔)中空繊維からなる繊維絡合不織布にすることができる。
具体的な熱水抽出処理の方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用可能であり
、例えば、当該不織布中の抽出成分を熱水または溶剤により溶解除去する。熱水による抽
出成分の抽出処理も、人工皮革等の製造に当たって従来から採用されている既知の方法や
条件に準じて行うことができる。
【0050】
[仕上(グラビア処理・エンボス処理)]
以上のように、不織布に高分子弾性体を含浸した基材上に第一および第二の高分子弾性
体皮膜層を形成した本発明の銀付調人工皮革において、仕上処理を行うことで、天然皮革
調の外観を有する本発明の銀付調人工皮革が得られる。これは、本発明の銀付調人工皮革
の表面に顔料、染料等の着色剤と公知の仕上げ用樹脂とからなるインクをグラビアロール
、リバースロール、スクリーン等の方法で塗布して着色層を形成し、エンボスロール加工
などにより天然皮革調のシボ模様を付与する事で得ることができる。着色層の厚さは20
μm以下が好ましい、さらに着色層を形成した後、凹凸模様を表面に付与して本発明の銀
付調人工皮革を製造することができる。
特に、この表面を天然皮革の自然な外観とするためには、エンボスロール等による加熱
加圧処理により表面に天然皮革調のシボ模様を付与する。第二の高分子弾性体皮膜層が平
滑に形成されていること、そしてこの層内に微細孔が発現しているこが本発明の意匠形成
効果を発揮できる。即ち、第二の高分子弾性体皮膜層表面が平滑であることにより、自然
な浅いシボを転写するに当たり、これが確実に転写するため、鮮明に優美なシボを形成可
能になるのである。また、この第二の高分子弾性体皮膜層を形成する水系ポリウレタンは
一般に熱変形し難いため、この第二の高分子弾性体皮膜層が微細孔を持たない緻密なフィ
ルム状に形成された場合、汎用樹脂からなる繊維では熱により溶融したり、劣化してしま
うような高温でなければエンボスロールの加熱加圧処理によるシボが形成し難い。本発明
は、第二の高分子弾性体皮膜層に特定の微細孔を形成することで、上記した劣化を促進す
るような高温よりも低い温度で加熱加圧した場合、微小の薄い壁の集合体となっている特
定の微細孔の薄い壁が変形すると共に、このまま永久歪を生じて鮮明なシボを転写するこ
とが可能になるのである。同時にこのエンボス処理時にかかった熱と圧力により、巨大孔
を形成する既膨張マイクロカプセルも変形し、これにより、結果として皮膜層に所望のシ
ボが転写される仕組みである。
【0051】
エンボス加工により天然皮革調の意匠外観を付与するためにはエンボスロールの加熱温
度が100〜230℃である事が好ましい。上記範囲内であると均一な皮革調のシボ模様
が表面に付与され、基体層中の高分子弾性体が熱変形し難いので好ましい。エンボスロー
ルのプレス圧力は0.5〜15kg/cmの範囲が好ましい。上記範囲内であると均一
なシボ模様が形成され、また風合が硬くなるのを避けることができるので好ましい。得ら
れる銀付調人工皮革がソフト性、柔軟性、軽量性そして天然皮革調の外観を兼ね備えるの
で、加熱温度は120〜190℃、プレス圧力は1〜6kg/cmであることがより好
ましい。このようにして得られた銀付調人工皮革は、天然皮革調の明瞭なシボ模様、高級
な外観および優れたソフト性、柔軟性、軽量性、充実感を有する。
実施例
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例により何
ら限定されない。
【0053】
不織布の製造
ポリプロピレン(プライムポリマー社製プライムポリプロY−2005GP、融点16
2℃、JIS K7210のM法で測定したMFR:20)を海成分に用い、水溶性熱可
塑性PVA(クラレ社製エクセバールCP−4104MI、融点209℃、JIS K7
210のM法で測定したMFR:80)を島成分とし、海島型多成分系繊維1本あたりの
島数が12島となるような溶融複合紡糸用口金を用い、海成分/島成分の質量比50/5
0となるように240℃で口金より吐出した。単位時間当たりの吐出量と得られる長繊維
の繊度の比率から間接的に求められる紡糸速度が2500m/minとなるように口金直
下に設置したエアジェット吸引装置のエアーを調整して、口金から吐出させたポリマーを
索引細化させつつ冷却することで平均繊度2.82デシテックスのポリオレフィン中空繊
維発生型複合繊維を紡糸した。得られたポリオレフィン中空繊維発生型複合繊維のPVA
を隔てる壁の厚みは1.24μmであった。その複合繊維を吸引装置直下に設置した移動
式ネット上に連続的に捕集したのち、表面温度常温の金属ロールを用いて線圧17kg/
cmでプレスすることにより目付け44g/mの複合繊維ウェブを得た。
【0054】
複合繊維ウェブをクロスラッパーを用いてウェブ8枚分に相当する目付けになるように
重ね合わせながら針折れ防止油剤をスプレーを用いてウェブ表面に均一に付与した。次い
で、針先端からバーブまでの距離が5mmの1バーブのフェルト針を用い、複合繊維ウェ
ブに突き刺した針の先端が反対側から最大で10mm突き出すような設定にてウェブ両面
へ交互にニードルパンチング処理を行った。突き刺した針本数が合計で1200本/cm
となるようにニードルパンチング処理をおこなって複合繊維同士を絡合させることで、
目付250g/mの繊維絡合不織布を得た。この不織布を、乾燥機中で140℃の熱風
にて加熱して海成分ポリプロピレンを軟化させた状態で、直ちに145℃で表面が平滑な
金属ロール同士でプレスして、厚さ1.4mm、密度0.18g/cm3で表面が平滑な
繊維絡合不織布を得た。
【0055】
表面が平滑な繊維絡合不織布に、水系ポリウレタンエマルジョンを固形分濃度16質量%として含浸付与した後、乾燥機中で100℃の熱風にて乾燥処理を施し高分子弾性体を含有させた。次いで、HLB9、曇点57℃のノニオン系界面活性剤(日華化学社製サンモールBK−90NM)を0.5g/L含有させた95℃の熱水中で、熱水浸漬時間20分となるようdip×nip方式で繊維絡合不織布中の複合繊維から島成分PVAを溶解除去した。抽出率は91%であり、得られたものは厚さ1.10mm、目付209g/m2で、横断面に12個の中空部を有するポリプロピレン中空繊維の繊維絡合不織布とポリウレタンからなる人工皮革用の基材層を得た。基材中のポリプロピレン中空繊維とポリウレタンの質量比は、ポリプロピレン中空繊維/ポリウレタン=73.7/26.3であった。この人工皮革用基材は、剥離強力測定時に基布切断するほど剥離強力が高く、引裂強力2.7kg、見掛け密度が0.19g/cm3であった。
【0056】
次に、第一の高分子弾性体皮膜層を形成する水系分散液として(A)カルボキシル基含
有自己乳化型ポリウレタン樹脂の水系エマルジョン(ポリカーボネート系、90℃までは単独では感熱ゲル化しないが、硫酸アンモニウムを添加すれば60℃でゲル化する。)250質量部(そのうち固形分が100質量部)、(B)硫酸アンモニウム5質量部、(C)増粘剤(商品名:ケルザン、三晶株式会社製)3.5質量部を水45質量部に混合した液、及び(E)架橋剤(商品名:NKアシストCI、日華化学株式会社製)3.8質量部を含む粘度460Pa・sの水系分散液を調製した。この水系分散液を減圧脱泡して調製過程で噛み込んだ気泡を除去した後、先ほど作成した人工皮革用の基材にダイレクトコート(クリアランス0mm)にて50μmの厚さで塗布し、基材層に一部を浸透させて、塗膜を形成した。 次に、この塗膜を、相対湿度60%で90℃のスチームによる感熱ゲル化処理を10分間行い、ゲル化膜を得た。その後、150℃で10分間、熱風乾燥し、ゲル化膜を乾燥固化させて皮膜を形成した。なお、皮膜表面には、クラック、ピンホール共に存在せず、均一な面が得られた。
この皮膜は、基材層の表面に約13ミクロンの厚さを有する実質的に無孔状態のフィル
ム状の層を有すると共に、基材層の表面から厚さ方向に約90ミクロンに渡り沈み込んで
基材層の表面を構成する繊維周囲を覆うような状態で第一の高分子弾性体皮膜層を形成し
ていた。
この上に、(A)カルボキシル基含有自己乳化型ポリウレタン樹脂の水系エマルジョン(ポリカーボネート系、90℃までは単独では感熱ゲル化しないが、硫酸アンモニウムを添加すれば60℃でゲル化する。)250質量部(そのうち固形分が100質量部)、(B)硫酸アンモニウム5質量部、(C)増粘剤(商品名:ケルザン、三晶株式会社製)1.8質量部を水70質量部に混合した液、(D)粒径30μmの既膨張マイクロカプセル(商品名:マツモトマイクロスフェアーF−80SDE 松本油脂製)11.5質量部(発泡倍率約1.6)、及び(E)架橋剤(商品名:NKアシストCI、日華化学株式会社製)3.8質量部を含む粘度120Pa・sの水系分散液を調製した。この水系分散液を減圧脱泡して調製過程で噛み込んだ気泡を除去した後に、既に形成してある第一の高分子弾性体皮膜層の表面部にダイレクトコートにより789μmの厚さで塗布し、第二の高分子弾性体皮膜層を形成した。
次に、相対湿度60%で90℃のスチームによる感熱ゲル化処理を10分間行い、ゲル
化膜を得た。その後、150℃で10分間、熱風乾燥し、ゲル化膜を乾燥固化させて第二
の高分子弾性体皮膜層内に微細孔を有する人工皮革を得た。なお、発泡皮膜表面には、ク
ラック、ピンホール共に存在せず、均一な面が得られた。
【0057】
そして、仕上げとして、第二の高分子弾性体皮膜層の上に茶色顔料を含むポリウレタン
液をグラビアロールで塗布し、5g/m2の皮膜層を形成した。
【0058】
(1)エンボス転写性の評価
ロール径40cmのエンボスロールを用いて、表面温度160℃、線圧10kg/cm
、処理速度1m/分で処理した後のエンボスシボの転写状態を目視判定した。エンボスロ
ールとしては、凸部の高さが45μm、直径20μmの毛穴シボを転写可能なエンボスロ
ール(a)、及び、凸部の高さが200μm、直径2mmの凹凸模様を転写可能なエンボ
スロール(b)を用いた。
上記方法により判定した実施例1の銀付調人工皮革のエンボス性は、エンボスロール(
a)、(b)共に良好であった。
【0059】
(2)高分子弾性体皮膜層の厚さの測定と皮膜断面における微細孔の平均径と個数
得られた高分子弾性体皮膜層の厚み方向の断面を電子顕微鏡で100倍程度に拡大して
巾1mm程度の視野で5箇所撮影した。それぞれで測定した厚みの平均値を皮膜の厚さと
した。
上記方法により測定した実施例1における第二の高分子弾性体皮膜層の厚さは380μ
mであった。
また、高分子弾性体皮膜層の厚み方向の断面を電子顕微鏡で1000倍〜2000程度
に拡大して微細孔の有無を確認し、第二の高分子弾性体皮膜層の厚さ方向に50μmそれ
と直交する方向200μmで囲まれた範囲の微細孔の個数とそれに対応する微細孔の孔径
を個数で除して微細孔の平均径を求めた。また、微細孔の巨大孔の平均孔径は、長径の大
きさ上位50個の平均値を平均孔径とした。
上記方法により観察の結果、巨大孔の周辺に平均孔径5.4μmで厚さ方向に50μm
それと直交する方向200μmで囲まれた範囲の微細孔の個数が84個の多数の微細孔が
確認され、上記方法により測定した実施例1の巨大孔の平均孔径は37μmであった。
【0060】
(3)高分子弾性体皮膜層表面における開口部の直径の測定
得られた皮膜の表面を電子顕微鏡で1000〜2000倍程度に拡大して50個の開口
部の面積を円の面積に換算した後、円の直径を測定した平均値を開口部の直径とした。
上記方法により測定した実施例1における第二の高分子弾性体皮膜層表面の開口部の直
径は3.1μmであった。
【0061】
(4)高分子弾性体皮膜層の密度の測定
水系分散液を不織布上に塗布、乾燥後の固形分付着量を(2)で測定した第二の皮膜層
の厚さで除して皮膜の密度とした。
上記方法により測定した実施例1における第二の高分子弾性体皮膜層の密度は0.48
g/cmであった。
【0062】
(5)高分子弾性体皮膜層の表面粗さの測定
Zygo社製白色干渉顕微鏡(New View 6000)を用いて、対物レンズ:2
.5倍、測定範囲2.82mm×2.13mmで表面粗さ(最大高さRz)を測定した。
上記方法により測定した実施例1の第二の高分子弾性体皮膜層の表面粗さは20μmで
あった。
【0063】
(6)第二の高分子弾性体皮膜層断面の総面積に対する径75μmを超える巨大孔の占め
る割合の測定
得られた皮膜の厚み方向の断面を電子顕微鏡で100倍程度に拡大して巾1mm程度の
視野で5箇所撮影した。それぞれの視野の中にある皮膜部分をカットして重量を測定した
後、径75μmを超える部分をカットして重量を測定して、径75μmを超える巨大孔の
占める割合とした。
上記方法により測定した実施例1の第二の高分子弾性体皮膜層の皮膜断面の総面積に対
する径75μmを超える巨大孔の占める割合は6%であった。
【0064】
(7)剥離強度の測定
長さ15cm、幅2.5cm、厚さ5mmのポリウレタン製ゴム板の表面をサンドペー
パーにて軽く削り取って二液架橋タイプのポリウレタン接着剤をいずれかの端部から長さ
10cm程度の範囲に均一に塗布し、一方、銀付調人工皮革を長さ25cm、幅2.5c
mに切り出した試験片にも同様にいずれかの端部から長さ10cm程度の範囲に接着剤を
均一塗布したものを、接着剤を塗布した端部同士が重なるように貼り合わせた。貼り合わ
せた試験片とゴム板を2〜4kg/cm程度の圧力でプレスした後、25℃にて1昼夜
放置した。試験片およびゴム板それぞれの接着剤を塗布していない端部を、初期間隔5c
mにセットした引張試験機の上下それぞれのチャックに挟んで、引張速度10cm/分で
の引張時間に対応したゴム板と試験片との接着部分の剥離強力を測定し、チャートに記録
した。チャート上に得られた引張時間−剥離強力曲線の剥離強力がほぼ一定している箇所
についての平均値を読み取り、その試験片の剥離強力値とした。1種類の銀付調人工皮革
について、任意の3箇所から切り出した試験片3個の剥離強力測定値を算術平均した値を
、その銀付調人工皮革の剥離強力値とした。
上記方法により測定した実施例1の皮膜の剥離強度は73N/2.5cmであった。
【0065】
実施例1の銀付調人工皮革は、第一の高分子弾性体皮膜層により、基材層の表面付近の
繊維の周囲を80%以上覆うように被覆して、表面の繊維を高分子弾性体によって保持し
、基材層上に薄い実質的に無孔状態の皮膜層を形成することで基材の表面凹凸をカバーし
、銀付調人工皮革としての平滑性を確保するとともに、高い剥離強度が得られた。また、
第二の高分子弾性体皮膜層に既発泡カプセルを添加することで多数の微細孔を第二の高分
子弾性体皮膜層全層に有することが可能になり、表面の微孔開口部の直径が小さくなり表
面粗さが改善され、上記の通りエンボスパターンに対して良好な転写性を確保した。
【0066】
実施例2
第一の高分子弾性体皮膜層を形成する際の水系分散液の粘度を増粘剤の添加割合を変え
ることにより285Pa・sとし、実施例1より低粘度にすることで、この層がより深く
基材層に浸透するようにしたこと以外は実施例1と同じ方法で実施例2の銀付調人工皮革
を得た。詳細を表1に示す。第一高分子弾性体皮膜層を形成する水系分散液の浸透により
、第一の高分子弾性体皮膜層の基材表面における層が明確な厚さを表現できないレベルに
薄くなったが、実施例1と同様に主に表面層付近の繊維の周囲を覆い、表面の繊維を保持
し、かつ薄い樹脂層を形成することで銀付調人工皮革としての表面平滑性を確保するとと
もに高い剥離強度が得られた。また、第二の高分子弾性体皮膜層に既発泡カプセルを添加
することで多数の微細孔を第二の高分子弾性体皮膜層全層に有することが可能になり、表
面の微孔開口部の直径が小さくなり表面粗さが改善され、実施例1と同様にエンボスパタ
ーンに対して良好な転写性を確保した。
【0067】
実施例3
第一の高分子弾性体皮膜層を形成する際の水系分散液の粘度を増粘剤の添加割合を変え
ることにより640Pa・sとし、実施例1より高粘度にかつ、塗布時のクリアランス0
で基材層の表層部分に沈み込ませて、第一の高分子弾性体皮膜層が基材のより表層に留ま
るようにしたこと以外は実施例1と同じ方法で銀付調人工皮革を得た。詳細を表1に示す
。得られた銀付調人工皮革は、実施例1の第一の高分子弾性体皮膜層よりも基材の表層部
分に偏在して充填されていた。そして、実施例1と同様の高い剥離強度とエンボスパター
ンに対する良好な転写性を確保した。
【0068】
実施例4
第一の高分子弾性体皮膜層を形成する際にクリアランスを実施例1に比べて0.2mm
広げて、沈み込みを抑制した状態で塗布した以外は実施例1と同じ方法で銀付調人工皮革
を得た。詳細を表1に示す。得られた銀付調人工皮革は、実施例1と同様の高い剥離強度
とエンボスパターンに対する良好な転写性を確保した。
【0069】
実施例5
第一の高分子弾性体皮膜層を形成する際の水系分散液の粘度を増粘剤添加量を変えるこ
とでより高粘度とした事以外は実施例4と同じ方法で銀付調人工皮革を得た。詳細を表1
に示す。得られた銀付調人工皮革は、実施例1および4と同様の高い剥離強度とエンボス
パターンに対する良好な転写性を確保した。
【0070】
実施例6
第二の高分子弾性体皮膜層を形成する際の水系分散液の塗布クリアランスを実施例1よ
りも広げることで、第二の高分子弾性体皮膜層を厚くしたこと以外は実施例1と同じ方法
で銀付調人工皮革を得た。得られた銀付調人工皮革は、実施例1と同様に高い剥離強度と
良好な転写性を確保した。
【0071】
実施例7
第二の高分子弾性体皮膜層を形成する水系分散液の塗布クリアランスを狭くすることで
、第二の高分子弾性体皮膜層を薄くしたこと以外は実施例1と同じ方法で銀付調人工皮革
を得た。得られた銀付調人工皮革は、実施例1と同様に高い剥離強度と良好な転写性を確
保した。
【0072】
実施例8
第二の高分子弾性体皮膜層を形成する水系分散液の塗布時の粘度を高くすること以外は
実施例1と同じ方法で銀付調人工皮革を得た。得られた銀付調人工皮革は、第二の高分子
弾性体皮膜層が薄く、また発現する微細孔が第二の高分子弾性体皮膜層の表面付近に偏在
していたものの、実施例1と同様に高い剥離強度と良好な転写性を確保した。
【0073】
実施例9
第二の高分子弾性体皮膜層を形成する水系分散液の塗布時の粘度を実施例8よりも更に
高くすること以外は実施例8と同じ方法で銀付調人工皮革を得た。得られた銀付調人工皮
革は、実施例8よりも第二の高分子弾性体皮膜層がさらに薄く、かつ発現する微細孔が第
二の高分子弾性体皮膜層の表面付近に集中していたものの、実施例1および8と同様に高
い剥離強度と良好な転写性を確保した。
【0074】
実施例10
第二の高分子弾性体皮膜層形成を形成する水系分散液の塗布時の粘度を低したこと以外
は実施例1と同じ方法で銀付調人工皮革を得た。得られた銀付調人工皮革は、得られた銀
付調人工皮革は、実施例1と同様に高い剥離強度と良好な転写性を確保した。
【0075】
比較例1
支持部材(既発泡カプセル)の代わりに機械発泡にて第二の高分子弾性体皮膜層の発泡
処理を行った以外は同じ方法で銀付調人工皮革を得た。得られた銀付調人工皮革は、第二
の高分子弾性体皮膜層に平均粒径10μm以下の微細孔が見あたらず、発泡した孔がつな
がって形成された巨大孔が大きくかつその割合が大きいため表面の平滑性に劣り、エンボ
ス転写性に劣っていた。
【0076】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の銀付調人工皮革は、車輌用内装材、家具、衣料、靴、鞄、袋物、サンダル、雑
貨等の用途として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維絡合不織布の内部に高分子弾性体が含有してなる基材層の表面に第一の高分子弾性体
皮膜層と第二の高分子弾性体皮膜層が順次積層されており、第一の高分子弾性体皮膜層は
基材層の表面を構成する繊維の周囲の一部を覆い、第二の高分子弾性体皮膜層は該第二の
高分子弾性体皮膜層を構成する高分子弾性体の粒子がその粒子状態を維持してゲル化し、
その一部が接合した後に粒子同士の間隙により形成された平均径10μm以下の微細孔と
10〜50μmの平均径を有する支持部材とが混在することを特徴とする銀付調人工皮革

【請求項2】
第一の高分子弾性体皮膜層を構成する高分子弾性体の一部が、実質的に無孔状態で基材層
の表面から厚さ方向へ少なくとも20μm以上充填されている請求項1に記載の銀付調人
工皮革。
【請求項3】
第二の高分子弾性体皮膜層が、厚さ100〜600μm、密度0.30〜0.70g/
cm、表面における微孔の開口部の直径が5μm以下および表面粗さが30μm以下で
ある請求項1または2に記載の銀付調人工皮革。
【請求項4】
第一の高分子弾性体皮膜層と第二の高分子弾性体皮膜層を形成する高分子弾性体が親水
性官能基含有の水系エマルジョン性ポリウレタン樹脂である請求項1〜3記載のいずれか
1項に記載の銀付調人工皮革。
【請求項5】
第二の高分子弾性体皮膜層の厚さ方向に平行な皮膜断面の総面積に対する径75μmを
超える大孔が占める割合が10%未満である請求項1〜4のいずれか1項に記載の銀付調
人工皮革。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の銀付調人工皮革の第二の高分子弾性体皮膜表面に厚
さ20μm以下の着色層を形成し、さらに凹凸模様を表面に付与してなる銀付調人工皮革

【請求項7】
下記(1)〜(3)の工程を含む銀付調人工皮革の製造方法。
(1)繊維絡合不織布の内部に高分子弾性体が含有してなる基材層の表面に(A)親水性
官能基含有樹脂からなる高分子弾性体、(B)アンモニウム塩および(C)増粘剤を含み
、(A)成分と(B)成分の配合比が、固形分の質量比で(A):(B)=100:0.
25〜100:10、粘度(η)が200〜1000Pa・sからなる組成の第一の高
分子弾性体皮膜層を形成し得る水系分散液が基材層の表面を構成する繊維の周囲の一部を
覆うように塗布して第一の高分子弾性体皮膜層を形成する工程
(2)第一の高分子弾性体皮膜層の表面上に、(A)親水性官能基含有樹脂からなる高分
子弾性体、(B)アンモニウム塩、(C)増粘剤および(D)支持部材を含み、(A)成
分と(B)成分の配合比が、固形分の質量比で(A):(B)=100:0.25〜10
0:10、粘度(η)が30〜500Pa・sからなる組成の第二の高分子弾性体皮膜
層を形成し得る水系分散液を塗布する工程
(3)(1)および(2)で用いる水系分散液を順次または同時に感熱ゲル化処理した後
乾燥固化して、第一の高分子弾性体皮膜層を構成する高分子弾性体が基材層の表面を構成
する繊維の周囲の一部を覆う第一の高分子弾性体皮膜層と第二の高分子弾性体皮膜層を構
成する高分子弾性体の粒子がその粒子状態を維持してゲル化し、その一部が接合した後に
粒子同士の間隙により形成された平均径10μm以下の微細孔と10〜50μmの平均径
を有する支持部材とが混在する第二の高分子弾性体皮膜層を形成する工程

【公開番号】特開2012−214945(P2012−214945A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285246(P2011−285246)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】