説明

銀合金、そのスパッタリングターゲット材及びその薄膜

【課題】本発明は、常温やカラー液晶ディスプレイの製造工程である加熱工程において、硫化による黄色化を生じにくく、反射の低下が極めて少ない特性を持った反射電極膜を形成しうるAg−Ge系銀合金を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る銀合金は、Agを主成分とし、耐硫化特性を持たせるために、少なくともGeを0.01〜10.0wt%含有したAg合金であり、また、他の特性を持たせるためにGeと典型金属元素、半金属元素、遷移金属元素の少なくとも1種を合計で0.01〜10.0wt%含有したAg合金であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐硫化性に優れた銀合金、その銀合金の組成を有するスパッタリングターゲット材、その銀合金薄膜及び銀合金ペーストに関する。
【0002】
さらに、その銀合金薄膜は、液晶ディスプレイ等のディスプレイ或いはLED(発光ダイオード)等の電子部品の反射膜や有孔型半透過膜、反射電極膜、電極膜、配線、光学ディスク媒体の反射膜や薄型半透過膜、或いは、ヘッドライト、プロジェクタの投影ランプ等のライト部品の反射膜、電磁波遮蔽シールド膜になりうるものである。
【0003】
また、別用途として、銀を用いて形成されるコイン、楽器や、指輪、ブローチ、ネックレス、腕時計、眼鏡等の宝飾品や食器、室内装飾品、ライター等の各種装飾用の銀合金及び装飾品に関する銀合金及び該銀合金を基材表面に被覆したコイン、楽器、宝飾品や装飾品に関する。
【背景技術】
【0004】
カラー液晶ディスプレイの製造において、カラーフィルター等の組みつけ等で行われる加熱工程では250℃程度まで加熱されるため、反射電極膜は、その加熱によって生じる硫化現象に耐えうることが求められる。
【0005】
従来、反射電極膜としてAl(アルミニウム)やAlを主成分とする合金が用いられてきたが、高反射率と低抵抗率を期待して反射電極膜材料として銀合金の検討がなされている。
【0006】
例えば、反射電極膜や反射配線電極膜に適した銀合金についてAg(銀)−Pd(パラジウム)−Cu(銅)系銀合金の開示が本出願人によってなされている。(例えば特許文献1〜3を参照。)。
【特許文献1】特開2000−109943号公報、請求項4
【特許文献2】特開2001−192752号公報、請求項1
【特許文献3】特開2001−226765号公報、請求項2
【0007】
特許文献1〜3に記載されたAg−Pd−Cu系銀合金は、純銀と比較して耐候性が向上する。しかし、Ag−Pd−Cu系銀合金からなる反射電極膜は、上記加熱工程を経ると、後述の比較例で述べるように、表面ラフネスの成長やヒロックの発生が多少なりとも生じてしまい、反射率の低下が起きてしまった。さらに、加熱により硫化が促進され、耐硫化性については充分な改善がなされていなかった。Ag−Pd−Cu系銀合金の硫化に伴って反射電極膜の黄色化が生じ、カラー液晶ディスプレイの輝度の低下をもたらした。
【0008】
そこで、より高性能、すなわちより高い耐熱性と、従来の銀合金では得られていない耐硫化性を有する銀合金が求められていた。
【0009】
ところで、カラー液晶ディスプレイの製造時の加熱工程を経ないCD−ROM等の光学記録媒体の反射膜として、Ag−Pd系銀合金にGe(ゲルマニウム)を含有させる発明の開示がある(例えば特許文献4を参照。)。ここで、Geは銀合金の耐候性、具体的には反射膜の長時間使用による反射率低下を防止する効果があるとしている。
【特許文献4】特開2003−193155号公報、請求項1
【0010】
また、反射膜に適した銀合金について、下記文献の開示がなされている。(例えば特許文献5〜6を参照。)。これらの文献においては、Agの拡散の抑制や結晶粒成長の抑制、耐硫化特性、密着性等が述べられている。
【特許文献5】特開2001−357559号公報、請求項2
【特許文献6】特開2002−15464号公報、請求項2
【0011】
また、銀や銀合金は、コインや楽器等の材料に使用されている他、外観等が優れ更に安全な金属であるところから、指輪やネックレス等の宝飾品、食器及び装飾品などにも使用されている。
【0012】
しかし銀は変色や腐食が生じやすい金属で、特に含硫黄化合物を含む環境ではそれらが著しいことはよく知られている。この含硫黄化合物に対する耐性つまり耐硫化性は、コイン、楽器、宝飾用及び装飾用銀合金が有すべき主要な特性であり、従来から合金構成金属の種類や組成を検討してこの耐硫化性を向上させることが試みられている。
【0013】
更に、コイン、楽器、宝飾用及び装飾用銀合金として有することが望ましい特性として加工性(高硬度)及び耐湿性などがある。
【特許文献7】特開2001−192753号公報
【0014】
特許文献7には、従来の装飾用銀合金である銀(Ag)−銅(Cu)合金の欠点である耐硫化性と加工性を解消するために、銅の代わりに又は銅共に、ゲルマニウム(Ge)、又はインジウム(In)−Geを添加した装飾用銀合金、例えばAg−In−Ge−Cuの四元合金が記載されている。
【0015】
しかしながらこの四元合金は、装飾用銀合金に要求される特性のうち耐湿性が劣り、高湿下に長期間放置すると表面が白濁しあるいは白濁しないまでも表面の光沢が失われて装飾用材料としての価値が大きく減殺される。この白濁等は空気中の湿気に含まれる塩素イオンなどの影響により生ずるが、含硫黄化合物による変色や腐食ほど外観上顕著に現れないため、従来は殆ど問題にされなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、常温だけでなく、カラー液晶ディスプレイの製造工程である250℃程度の加熱工程等において、硫化による黄色化を生じにくい特性を持つAg合金であり、Agに少なくともGeを含有した銀合金を提供することを目的とする。
【0017】
本発明は、AgにGeを0.01〜10.0wt%含有し、更に、Geによって改善された耐硫化性を低下させない程度に他元素を1種類以上含有することが出来る。他元素としては、典型金属元素、半金属元素、遷移金属元素があり、Ge、典型金属元素、半金属元素及び遷移金属元素の含量が合計で0.01〜10.0wt%の3元素以上からなるAg合金である。典型金属元素としては、Be、Mg、Al、Ca、Sr、In、Baである。また、半金属元素としては、B、C、Si、Sn、Sb、Te、Biである。また、遷移金属元素としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Re、Ir、Pt、Au、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luである。
【0018】
本発明は、銀合金の形態として銀合金スパッタリングターゲット材、銀合金薄膜及び銀合金ペーストを提供することを目的とする。
【0019】
本発明は、銀合金を薄膜化することで、反射膜、配線、電極又は反射電極として利用することを目的とし、さらに銀合金からなる反射膜、有孔型半透過膜、配線、電極又は反射電極を備えた自発光型ディスプレイ、フラットパネルディスプレイを提供することを目的とする。ディスプレイ用途では、銀合金薄膜の反射率の低下、硫化が少ないため、輝度を維持することが出来る。
【0020】
さらに耐候性が向上することに伴い、本発明に係る銀合金薄膜を、光学ディスク媒体の反射膜や薄型半透過膜、ヘッドランプ又はプロジェクタ用ランプ等のライト部品の反射膜として利用することを目的とし、或いはLED等の電子部品の反射膜、配線、電極又は反射電極として利用することを目的とする。
【0021】
また、本発明に係る銀合金及び銀合金薄膜を、電磁波遮蔽シールド膜として利用することを目的とする。
【0022】
別用途として、銀を用いて形成されるコイン、楽器や、指輪、ブローチ、ネックレス、腕時計、眼鏡等の宝飾品や食器、室内装飾品、ライター等の装飾品及び該銀合金を基材表面に被覆したコイン、楽器、宝飾品や装飾品として利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は、常温及び高温における耐硫化性に優れた銀合金を開発するため銀合金の組成を鋭意検討した結果、AgにGeを存在させることで、Geの作用によって耐硫化性が得られることを発見し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係る銀合金は、Agを主成分とし、Ge(ゲルマニウム)含量を0.01〜10.0wt%とし、少なくとも2元素からなる組成を有することを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る銀合金は、Agの光沢、電気伝導性やGeの耐硫化性を低下させない程度に他元素を含有することによって、他の特性を向上させることができる。
【0025】
例えば、Ag−GeにPdを含有させることによって、耐硫化性だけでなく、耐腐食性を向上させることができる。
【0026】
また、別の例として、Ag−GeにCuを含有させることによって、耐硫化性だけでなく、熱による劣化を抑制することができる。
【0027】
また、別の例として、Ag−GeにNdを含有させることによって、耐硫化性だけでなく、密着性を向上させることができる。また、別の例として、Ag−GeにZnを含有させることによって、耐硫化性が更に改善される。
【0028】
また、別の例として、Ag−GeにBi、Sb、ScやYを含有させることによって、耐硫化性だけでなく、Agの凝集による硬度の低下を抑制することができる。
【0029】
すなわち、Ag(銀)を主成分とし、Ge(ゲルマニウム)を含有し、 更に、典型金属元素、半金属元素又は遷移金属元素のうち少なくとも1種類含有して3元素以上からなる組成を有し、且つ、Ge、典型金属元素、半金属元素及び遷移金属元素の含量が合計で0.01〜10.0wt%であることを特徴とする。
【0030】
上記典型金属元素としては、Be(ベリリウム)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、In(インジウム)又はBa(バリウム)等がある。
【0031】
上記半金属元素としては、B(ホウ素)、C(炭素)、Si(珪素)、Sn(錫)、Sb(アンチモン)、Te(テルル)又はBi(ビスマス)等がある。
【0032】
上記遷移金属元素としては、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Re(レニウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Au(金)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジウム)、Nd(ネオジウム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)又はLu(ルテチウム)等があり、Agの光沢、電気伝導性やGeの耐硫化性を考慮し、Ge、典型金属元素、半金属元素及び遷移金属元素の含量が合計で0.01〜10.0wt%が適している。
【0033】
本発明に係る銀合金スパッタリングターゲット材は、前記組成の銀合金で形成されたことを特徴とする。
【0034】
また本発明に係る銀合金薄膜又は銀合金ペーストは、前記銀合金で形成されたことを特徴とする。
【0035】
本発明に係る銀合金薄膜は、反射膜、薄型半透過膜、有孔型半透過膜あるいはパターン形成された電極又は配線であることを含む。
【0036】
これらの反射膜又は有孔型半透過膜あるいはパターン形成された電極又は配線は、自発光型ディスプレイ又はフラットパネルディスプレイの構成部材である場合或いは水晶振動子用電極である場合を含む。
【0037】
また、上記の反射膜、配線、電極又は反射電極は、LED等の電子部品の構成部材である場合を含む。
【0038】
さらに本発明に係る銀合金薄膜は、電磁波を良好に反射する電磁波遮蔽シールド膜であることを含む。
【0039】
さらに本発明は、本発明に係る反射膜又は有孔型半透過膜を備える、自発光型ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、反射電極にも及ぶ。
【0040】
また、本発明は、本発明に係る反射膜又は薄型半透過膜の少なくともいずれか一方を備える光学ディスク媒体にも及ぶ。
【0041】
さらに、本発明は、本発明に係る反射膜を備える、ヘッドライトやプロジェクタ用のランプ等のライト部品のミラーにも及ぶ。
【0042】
ここで自発光型ディスプレイには、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、SED(サーフェイス・コンダクション・エレクトロン・エミッター・ディスプレイ若しくは表面伝導型電子放出ディスプレイ)及びFED(フィールドエミッションディスプレイ)が含まれる。フラットパネルディスプレイには液晶ディスプレイ、PDP(プラズマディスプレイパネル)、TFT(Thin Film Transistor)及びC−STN(Color Super Twinted Nematic)が含まれる。
【0043】
光学ディスク媒体としては例えばDVD−R、DVD−RW、DVD−RAM、HD−DVD、BD−R、BD−RE又はBD−ROMがある。
【0044】
ヘッドライト部品の形態例としては発光部の後方に配置される反射膜がある。プロジェクタの形態例としては投影用の反射ミラーがある。ランプ部品のミラーは反射体(光ピックアップ用ミラー、光通信用ミラー)が含まれる。
【0045】
更に、本発明に係る銀合金は、耐硫化特性を備えている為に、日常、使用されているコインの材料として用いることができる。
【0046】
また、本発明に係る銀合金は、耐硫化特性を備えている為に、日常、使用されている楽器の材料として用いることができる。
【0047】
また、本発明に係る銀合金は、耐硫化特性を備えている為に、日常、使用されている指輪、ブローチ、ネックレス、腕時計、眼鏡等の各種宝飾品の材料として用いることができる。
【0048】
また、本発明に係る銀合金は、耐硫化特性を備えている為に、日常、使用されている食器、室内装飾品、ライター等の各種装飾用の材料として用いることができる。
【0049】
これらの用途においては、本発明に係る銀合金を加工して製品を作製する事ができるが、別材料で作製した製品を本発明に係る銀合金でコーティングしても同様の効果を有する。
【発明の効果】
【0050】
本発明の銀合金は、Geの存在により常温だけでなく高温のおいても優れた耐硫化性を発揮する。また、本発明に係る銀合金は、Agの光沢、電気伝導性やGeの耐硫化性を低下させない程度に他元素を含有することによって、他の特性を備えたAg合金となり、用途に応じて含有元素を適宜選択できる。したがって、反射電極膜とした場合、例えば、カラー液晶ディスプレイ等のフラットディスプレイの製造工程、或いは有機EL、無機EL、LED等の自発光型ディスプレイの製造工程において、加熱工程を経たとしても、熱による硫化の促進を抑制することにより、反射率の低下が極めて少なく且つ硫化による黄色化を生じにくい。また、耐候性が向上することから本発明に係る銀合金薄膜を、光学ディスク媒体の反射膜や薄型半透過膜、LED等の電子部品の構成部材、或いは、ヘッドランプ又はプロジェクタのランプ等のライト部品の反射膜として利用することができる。また、本発明に係る銀合金薄膜を電磁波遮蔽シールド膜として利用することもできる。本発明に係る銀合金を銀合金ペーストとして利用することもできる。また、本発明に係る銀合金薄膜を、電磁波遮蔽シールド膜や建材ガラスとして利用することもできる。また、本発明に係る銀合金を、コイン、楽器や、指輪、ブローチ、ネックレス、腕時計、眼鏡等の宝飾品や食器、室内装飾品、ライター等の装飾品として利用することもでき、銀合金の使用方法は、銀合金を加工して製品を作製することはもとより、銀合金を基材表面に被覆したコイン、楽器、宝飾品や装飾品として利用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。
【0052】
本実施形態に係る銀合金は、Agを主成分とし、Geが含有している少なくとも2元素からなる組成を有する。本実施形態に係る銀合金はAgを主成分とするが、反射電極膜材料とする場合、Al若しくはAl合金と比較して、反射電極膜の高反射率と低抵抗率を期待するものである。
【0053】
本実施形態に係る銀合金は、Ag−Ge系の少なくとも2元素からなる組成を基本とし、Agの反射特性や電気伝導性を考慮する場合には、銀合金中のGe含量を0.01〜3.0wt%とすることが好ましい。Ge等の元素が0.01%未満の場合は、Agに必要な耐硫化性等の効果が得られない。Ge等の元素が3%より多い場合は、反射特性や電気伝導性が低下し、反射特性においては、95%以上の反射率が得られない。
【0054】
また、コイン、楽器、宝飾品や装飾品のように、Agの反射特性を80%程度に維持しつつ、生活環境における耐硫化特性を考慮する場合には、銀合金中のGe含量を0.01〜10.0wt%とすることが好ましい。
【0055】
耐硫化性だけでなく、耐腐食性等の別の特性を考慮する場合には、銀合金中にGeを含有し、更に、典型金属元素、半金属元素、遷移金属元素の少なくとも1種を添加することが好ましい。ここで、Geと典型金属元素、半金属元素、遷移金属元素の少なくとも1種を合計で0.01〜10.0wt%含有することが好ましい。Ge等の元素が0.01wt%未満の場合は、Agに必要な耐硫化性や耐腐食性等の別の効果が得られない。Ge等の元素を10wt%より多く含有させても、Ge等の元素を10wt%含有させたときと効果は変わらない。
【0056】
本実施形態に係る銀合金の作製方法は、溶解して作製する方法とHIP法やホットプレス等を用いて高温高圧条件で作製する方法がある。
【0057】
Ag、Geに添加する典型金属元素としては、Be、Mg、Al、Ca、Sr、In、Baが挙げられ、半金属元素としては、B、C、Si、Sn、Sb、Te、Biが挙げられ、遷移金属元素としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Re、Ir、Pt、Au、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられる。
【0058】
次に本実施形態に係る銀合金で銀合金スパッタリングターゲット材を製造する方法について説明する。ここではAg、Ge、Pd、Cuの4元素の合金を作製する場合について述べるが、他の元素を用いて合金を作製する場合においても同等の方法を用いることができる。
【0059】
まず、Ag、Ge、Pd、Cuの各地金の秤量を行い、坩堝に投入する。このとき、坩堝はカーボン質坩堝等の酸素含有率の少ないものが選択される。或いはアルミナ坩堝、マグネシア坩堝を使用しても良い。カーボン質坩堝を選択した場合、高周波加熱が可能であるため、各地金を投入したカーボン質坩堝を高周波溶解炉に入れ、真空引きを行なう。このときの圧力は1.33Pa以下とする。そして、溶解室内をAr雰囲気(1.33×10〜8.0×10Pa)として、溶解を開始する。溶解温度は1050〜1400℃とする。
【0060】
溶融状態が安定化した後、鋳型に溶融物を傾注し、インゴットを作製する。鋳型の種類は、酸素含有率が少ないカーボン質の鋳型のほか、鉄鋳型、アルミナ鋳型を使用することもできる。内部のガスを外に放出させやすくするために、図1に示すように鋳型を上部加熱するか若しくは図2に示すように下部冷却を行なう。図1において鋳型の上部を加熱する場合は、電気抵抗式加熱若しくは高周波コイルによる加熱を行なう。常温まで冷却後、図3に示すようにインゴットの上部(押湯部)をa−a´ラインでカットする。
【0061】
インゴットを600〜900℃で熱処理し、熱間鍛造、圧延を行なう。圧延を行なう間に焼鈍しを行なう。焼鈍しは製品肉厚の2倍以上のときと、最終段階のときに行なう。焼鈍し温度は微細で均一な結晶粒をそろえるため、300〜700℃とする。焼鈍しは、真空中若しくは不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。その後プレス機、レベラーを用いてそり修正を行う。
【0062】
旋盤やフライス盤等で表面または外周を切削して、製品形状とする。製品の全面を研磨しても良い。表面粗度を調整し、最終的に本発明のAg合金のスパッタリングターゲット材を作製することができる。
【0063】
上述のように、本実施形態の銀合金のスパッタリングターゲット材を作製する場合において、Agに対してGe、Pd、Cuを添加して溶融する場合においても、従来行われている容易な方法を適用することができ、価格的にも製法的にもメリットが大きい。
【0064】
本実施形態に係る銀合金薄膜の製造方法について説明する。本実施形態に係る銀合金薄膜は、上記銀合金スパッタリングターゲット材を用いてスパッタリング法により成膜することで得られる。また、4元素を複数のターゲットに分けて、同時にスパッタリングして、各元素の放電量を制御して、本実施形態に係る銀合金の組成となるように成膜を行っても良い。
【0065】
なお、本実施形態に係る銀合金薄膜を成膜する際には、基板との薄膜の間に適宜密着層を設けても良い。この場合に、各種のガラス基板の密着助長下地膜としては、Si、Ta、Ti、Mo、Cr、Al、ITO、ZnO、SiO、TiO、Ta、ZrOが望ましい。
【0066】
本実施形態に係る銀合金薄膜は、耐候性、耐熱性、耐硫化性に優れているため、(1)自発光型ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ等の反射電極膜・反射膜又は有孔型半透過膜、(2)配線、(3)光ディスク媒体の反射膜又は薄型半透過膜、(4)電磁波遮蔽膜、(5)LEDなど電子部品の反射膜、配線又は電極膜、(6)ヘッドランプやプロジェクタのランプ等のライト部品のミラー、(7)建材ガラス、(8)コイン、(9)楽器、(10)指輪、ブローチ、ネックレス、腕時計、眼鏡等の宝飾品、(11)食器、室内装飾品、ライター等の装飾品、等の用途がある。
【0067】
本発明に係る銀合金薄膜は薄型半透過膜である場合も含む。薄型半透過膜は、膜厚が1〜50nmと薄い場合に得られるほか、膜厚が50nmを超えても入射光の一部を透過させる光透過孔を形成した有孔型半透過膜とすることで得られる。薄型の半透過膜を形成した半透過膜は主として光ディスク媒体に用いられ、光透過孔を形成した半透過膜は主として自発光型ディスプレイやフラットパネルディスプレイ或いは、反射電極に用いられる。なお、光学ディスク媒体は、反射膜又は薄型の半透過膜を形成した半透過膜を備える場合がある。
【0068】
さらに本実施形態に係る銀合金薄膜は、電子部品としても幅広く利用することが可能である。例えば、回路部品としては、抵抗器又はコンデンサ等の電極として、或いは、スイッチ等の接点として、或いは、通信・ネットワークユニット、フィルタ、ヒューズ、サーミスタ、発振子・共振子、バリスタ、プリント配線板等の配線として、或いは電源ユニット等の電極として、或いは、電源回路部品等の配線として、或いは集積回路、IC等の電極として使用できる。さらに光部品、センサ、表示部品、I/O(Input/Output)としても幅広く利用することが可能である。例えば、光部品等の反射膜、入・出力ユニット等の接点として使用できる。
【実施例】
【0069】
(耐硫化試験)
(実施例1)
実施形態に示した方法で、Ag−0.01wt%Ge(添加元素の重量%のみを表記し、Agの重量%の記載(99.99wt%)は省略した。以下同じ)の銀合金スパッタリングターゲット材を作製した。この銀合金スパッタリングターゲット材を用いて、平滑な表面を有する石英ガラス基板上に、上記組成の銀合金反射膜をスパッタリング法により成膜して実施例1とした。膜厚は200nmであった。成膜した薄膜を硫化水素(HS)が100ppm含まれた水に48時間浸漬させ、試験前と試験後の反射率を分光光度計(島津製作所社製、型番UV−3100PC)により反射率を測定した。用いた波長域は400〜800nmとした。結果を表1に示した。
【0070】
(実施例2)
実施例1の銀合金をAg−3.0wt%Geにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表1に示した。
【0071】
(実施例3)
実施例1の銀合金をAg−10.0wt%Geにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表1に示した。
【0072】
(実施例4)
実施例1の銀合金をAg−0.5wt%Ge−0.5wt%Pdにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表1に示した。
【0073】
(実施例5)
実施例1の銀合金をAg−1.0wt%Ge−1.0wt%Cuにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表1に示した。
【0074】
(実施例6)
実施例1の銀合金をAg−2.0wt%Ge−2.0wt%Ndにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表1に示した。
【0075】
(実施例7)
実施例1の銀合金をAg−3.0wt%Ge−3.0wt%Znにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表2に示した。
【0076】
(実施例8)
実施例1の銀合金をAg−4.0wt%Ge−4.0wt%Scにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表2に示した。
【0077】
(実施例9)
実施例1の銀合金をAg−5.0wt%Ge−5.0wt%Yにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表2に示した。
【0078】
(実施例10)
実施例1の銀合金をAg−0.5wt%Ge−0.5wt%Cu−0.5wt%Pdにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表2に示した。
【0079】
(実施例11)
実施例1の銀合金をAg−1.0wt%Ge−1.0wt%Cu−1.0wt%Ndにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表2に示した。
【0080】
(実施例12)
実施例1の銀合金をAg−1.5wt%Ge−1.5wt%Cu−1.5wt%Znにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表2に示した。
【0081】
(実施例13)
実施例1の銀合金をAg−2.0wt%Ge−2.0wt%Cu−2.0wt%Scにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表2に示した。
【0082】
(実施例14)
実施例1の銀合金をAg−2.5wt%Ge−2.5wt%Cu−2.5wt%Yにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表2に示した。
【0083】
(比較例1)
実施例1の銀合金を純Agにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表3に示した。
【0084】
(比較例2)
実施例1の銀合金をAg−11.0wt%Geにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表3に示した。
【0085】
(比較例3)
実施例1の銀合金をAg−0.5wt%Pdにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表4に示した。
【0086】
(比較例4)
実施例1の銀合金をAg−1.0wt%Cuにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表4に示した。
【0087】
(比較例5)
実施例1の銀合金をAg−2.0wt%Ndにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表4に示した。
【0088】
(比較例6)
実施例1の銀合金をAg−3.0wt%Znにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表4に示した。
【0089】
(比較例7)
実施例1の銀合金をAg−4.0wt%Scにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表4に示した。
【0090】
(比較例8)
実施例1の銀合金をAg−5.0wt%Yにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表4に示した。
【0091】
(比較例9)
実施例1の銀合金をAg−0.5wt%Cu−0.5wt%Pdにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表4に示した。
【0092】
(比較例10)
実施例1の銀合金をAg−1.0wt%Cu−1.0wt%Ndにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表4に示した。
【0093】
(比較例11)
実施例1の銀合金をAg−1.5wt%Cu−1.5wt%Znにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表4に示した。
【0094】
(比較例12)
実施例1の銀合金をAg−2.0wt%Cu−2.0wt%Scにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表4に示した。
【0095】
(比較例13)
実施例1の銀合金をAg−2.5wt%Cu−2.5wt%Yにした以外は、同等の方法にて試料を作製し、反射率を測定した。結果を表4に示した。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0096】
表1〜表4に示すように、少なくともGeを0.01〜10.0wt%含有したAg合金については、目立つような色の変化がなく、試験前と試験後との反射率を比較すると、反射率の低下が30%程度で抑制されていることがわかる。しかし、Geを含有していないAg合金については、Agの色が黄色化されており、試験前と試験後との反射率を比較すると、反射率が40〜70%低下してしまった。また、比較例2において、Geを10.0wt%より多くGeを含有させたが、反射率を比較すると、実施例3とほぼ同等であった。
【0097】
したがって、本実施形態に係る銀合金薄膜は、自発光型ディスプレイやフラットパネルディスプレイの反射膜又は有孔型半透過膜として好適である。また、光学ディスク媒体の反射膜や薄型半透過膜として好適である。また、ヘッドランプ又はプロジェクタ用ランプ等のライト部品の反射膜として好適である。また、LED等の電子部品の反射膜、配線、電極又は反射電極としても好適である。また、電磁波遮蔽シールド膜や建材ガラスとしても好適である。
【0098】
また、本実施形態に係る銀合金をコイン、楽器や、指輪、ブローチ、ネックレス、腕時計、眼鏡等の宝飾品や食器、室内装飾品、ライター等の装飾品及び該銀合金を基材表面に被覆したコイン、楽器、宝飾品や装飾品としても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】銀合金を傾注させる鋳型の一形態を示す概略図であって、鋳型の上部を加熱する場合を示す。
【図2】銀合金を傾注させる鋳型の第2形態を示す概略図であって、鋳型の下部を冷却する場合を示す。
【図3】冷却したインゴットについて押湯部のカットライン(a−a´ライン)の一形態を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag(銀)を主成分とし、
Ge(ゲルマニウム)含量を0.01〜10.0wt%とした少なくとも2元素からなる組成を有することを特徴とする銀合金。
【請求項2】
Ag(銀)を主成分とし、
Ge(ゲルマニウム)を含有し、
更に、典型金属元素、半金属元素又は遷移金属元素のうち少なくとも1種類含有して3元素以上からなる組成を有し、且つ、Ge、典型金属元素、半金属元素及び遷移金属元素の含量が合計で0.01〜10.0wt%であることを特徴とする銀合金。
【請求項3】
前記典型金属元素が、Be(ベリリウム)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、In(インジウム)又はBa(バリウム)であることを特徴とする請求項2記載の銀合金。
【請求項4】
前記半金属元素が、B(ホウ素)、C(炭素)、Si(珪素)、Sn(錫)、Sb(アンチモン)、Te(テルル)又はBi(ビスマス)であることを特徴とする請求項2記載の銀合金。
【請求項5】
前記遷移金属元素が、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Re(レニウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Au(金)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジウム)、Nd(ネオジウム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)又はLu(ルテチウム)であることを特徴とする請求項2記載の銀合金。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の銀合金で形成されたことを特徴とする銀合金スパッタリングターゲット材。
【請求項7】
請求項1、2、3、4又は5記載の銀合金で形成されたことを特徴とする銀合金薄膜。
【請求項8】
前記銀合金薄膜は反射膜であることを特徴とする請求項7記載の銀合金薄膜。
【請求項9】
前記銀合金薄膜は薄型半透過膜であることを特徴とする請求項7記載の銀合金薄膜。
【請求項10】
前記銀合金薄膜はパターン形成された電極又は配線であることを特徴とする請求項7記載の銀合金薄膜。
【請求項11】
請求項8記載の反射膜又は請求項8記載の反射膜に入射光の一部を透過させる光透過孔を形成した有孔型半透過膜を備えることを特徴とする自発光型ディスプレイ。
【請求項12】
請求項8記載の反射膜又は請求項8記載の反射膜に入射光の一部を透過させる光透過孔を形成した有孔型半透過膜を備えることを特徴とするフラットパネルディスプレイ。
【請求項13】
請求項8記載の反射膜又は請求項8記載の反射膜に入射光の一部を透過させる光透過孔を形成した有孔型半透過膜を備えることを特徴とする反射電極。
【請求項14】
請求項7、8、9又は10記載の銀合金薄膜を用いることを特徴とする電子部品。
【請求項15】
請求項8記載の反射膜又は請求項9記載の薄型半透過膜の少なくともいずれか一方を備えることを特徴とする光学ディスク媒体。
【請求項16】
請求項8記載の反射膜を備えることを特徴とするライト部品。
【請求項17】
前記銀合金薄膜は電磁波遮蔽シールド膜であることを特徴とする請求項8記載の銀合金薄膜。
【請求項18】
請求項1、2、3、4又は5記載の銀合金で形成されたことを特徴とする銀合金ペースト材。
【請求項19】
請求項1、2、3、4又は5記載の銀合金を用いて形成されたことを特徴とするコイン。
【請求項20】
請求項1、2、3、4又は5記載の銀合金を用いて形成されたことを特徴とする楽器。
【請求項21】
請求項1、2、3、4又は5記載の銀合金を用いて形成されたことを特徴とする装飾品。
【請求項22】
請求項1、2、3、4又は5記載の銀合金を用いて形成されたことを特徴とする宝飾品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−37169(P2006−37169A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219280(P2004−219280)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000136561)株式会社フルヤ金属 (48)
【Fターム(参考)】