説明

銀含有ナノ粒子の製造方法及び銀含有ナノ粒子、並びに銀塗料組成物

【課題】安定性に優れ、200℃以下の低温焼成によって優れた導電性が発現する銀ナノ粒子、その製造方法、及び前記銀ナノ粒子を含む銀塗料組成物を提供する。
【解決手段】銀含有ナノ粒子の製造方法であって、銀化合物と安定剤としての分枝脂肪族アミン化合物とを混合し混合物を得て、前記混合物に、還元剤を添加し、無溶媒の反応系において、前記銀化合物を前記還元剤と反応させて、銀含有ナノ粒子を形成する、ことを含む銀含有ナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀含有ナノ粒子の製造方法及び銀含有ナノ粒子に関する。また、本発明は、前記銀含有ナノ粒子を含む銀塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
銀ナノ粒子は、低温でも焼結させることができる。この性質を利用して、種々の電子素子の製造において、基材上に電極や導電回路パターンを形成するために、銀ナノ粒子を含む銀塗料組成物が用いられている。銀ナノ粒子は、通常、有機溶剤中に分散されている。銀ナノ粒子は、数nm〜数十nm程度の平均一次粒子径を有しており、通常、その表面は有機安定剤(保護剤)で被覆されている。基材がプラスチックフィルム又はシートの場合には、プラスチック基材の耐熱温度未満の低温(例えば、200℃以下)で銀ナノ粒子を焼結させることが必要である。
【0003】
例えば、特開2006−104576号公報には、銀化合物、還元剤、安定剤、及び溶媒を含む反応混合物内で、熱的に除去可能な安定剤の存在下で、銀化合物をヒドラジン化合物を含む還元剤と反応させて、表面上に安定剤分子を有する銀ナノ粒子を形成することを含む銀ナノ粒子の製造方法が開示されている。安定剤として、種々の有機アミン化合物が挙げられている([0025]〜[0027])。
【0004】
特開2010−43355号公報には、銀化合物、カルボン酸、アミン化合物、及び溶媒を含む混合物を形成する工程と、該混合物を加熱する工程と、該混合物にヒドラジン化合物を添加する工程と、該混合物を反応させて銀ナノ粒子を形成する工程とを含む銀ナノ粒子の製造方法が開示されている。安定剤として、種々の有機アミン化合物が挙げられている([0019]〜[0020]、[0040]〜[0042])。
【0005】
特開2007−297665号公報には、液状媒体中に脂肪酸の金属塩化合物を分散させたのち、カルボジヒドラジドH2 NHN−CO−NHNH2 又は多塩基酸ポリヒドラジドR−(CO−NHNH2 )n [Rはn価の多塩基酸残基]を用いて、前記金属塩化合物を還元する金属微粒子分散体の製造方法が開示されている。分散安定化機能を有する化合物として、種々の有機アミン化合物が挙げられている([0035]〜[0036])。
【0006】
特開2011−58092号公報には、金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中で、前記金属化合物を前記安定剤の存在下で前記還元剤と反応させて、無溶媒還元プロセスにより、表面上に前記安定剤分子を有する金属含有ナノ粒子を形成することを含む金属ナノ粒子の製造方法が開示されている。安定剤として、種々の有機アミン化合物が挙げられている([0026]〜[0027])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−104576号公報
【特許文献2】特開2010−43355号公報
【特許文献3】特開2007−297665号公報
【特許文献4】特開2011−58092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記いずれの特許文献においても、安定剤としての有機アミン化合物における脂肪族基は直鎖状のもののみしか開示されていない。
【0009】
銀ナノ粒子は、数nm〜数十nm程度の平均一次粒子径を有しており、ミクロン(μm)サイズの粒子に比べ、凝集しやすい。そのため、得られる銀ナノ粒子の表面が有機安定剤(保護剤)で被覆されるように、銀化合物の還元反応は有機安定剤の存在下で行われる。従来においては、個々の銀ナノ粒子同士の互いの間隔を確保するために、有機安定剤として比較的長鎖(例えば、炭素数8以上)の直鎖アルキルアミン化合物が用いられていた。
【0010】
一方、銀ナノ粒子は、該粒子を有機溶媒中に含む銀塗料組成物(銀インク、銀ペースト)とされる。導電性発現のためには、基材上への塗布後の焼成時において、有機安定剤は除去されて銀粒子が焼結することが必要である。焼成の温度が低ければ、有機安定剤は除去されにくくなる。銀粒子の焼結度合いが十分でなければ、低い抵抗値は得られない。すなわち、銀ナノ粒子の表面に存在する有機安定剤は、銀ナノ粒子の安定化に寄与するが、一方、銀ナノ粒子の焼結(特に、低温焼成での焼結)を妨げる。銀ナノ粒子の表面に存在する有機安定剤が多ければ、銀ナノ粒子の焼結はより妨げられる。
【0011】
このように、銀ナノ粒子の安定化と、低温焼成での低抵抗値の発現とは、トレードオフの関係にある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、安定性に優れ、200℃以下の低温焼成によって優れた導電性(低い抵抗値)が発現する銀ナノ粒子、及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、前記銀ナノ粒子を含む銀塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、安定剤として分枝脂肪族アミン化合物を用いると、安定性に優れ、200℃以下の低温焼成によって優れた導電性(低い抵抗値)が発現する銀ナノ粒子が得られることを見出した。
【0014】
本発明には、以下の発明が含まれる。
(1) 銀含有ナノ粒子の製造方法であって、
銀化合物と、安定剤としての分枝脂肪族アミン化合物とを混合し、混合物を得て、
前記混合物に、還元剤を添加し、
無溶媒の反応系において、前記銀化合物を前記還元剤と反応させて、銀含有ナノ粒子を形成する、
ことを含む銀含有ナノ粒子の製造方法。
【0015】
(2) 前記分枝脂肪族アミン化合物は、炭素数3〜16の分枝脂肪族第一級アミン化合物である、上記(1) に記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【0016】
(3) 前記還元剤は、ヒドラジン化合物である、上記(1) 又は(2) に記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【0017】
(4) 前記ヒドラジン化合物は、アシルモノヒドラジド化合物である、上記(3) に記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【0018】
(5) 前記アシルモノヒドラジド化合物は、一般式(I):
RCO−NHNH2 (I)
(ここで、Rは、H、又は炭化水素基を表す)
で表される、上記(4) に記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【0019】
(6) 前記アシルモノヒドラジド化合物は、一般式(I):
RCO−NHNH2 (I)
(ここで、Rは、H、又は炭素数1〜4の飽和脂肪族炭化水素基を表す)
で表される、上記(4) 又は(5) に記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【0020】
(7) 前記アシルモノヒドラジド化合物は、ギ酸ヒドラジドHCO−NHNH2 、アセトヒドラジドCH3 CO−NHNH2 、プロパノヒドラジドCH3 CH2 CO−NHNH2 、ブタノヒドラジドCH3(CH2)2 CO−NHNH2 、2−メチルプロパノヒドラジド (CH3)2 CHCO−NHNH2 、ペンタノヒドラジドCH3(CH2)3 CO−NHNH2 、3−メチルブタノヒドラジド (CH3)2 CHCH2 CO−NHNH2 、及び2,2−ジメチルプロパノヒドラジド (CH3)3 CHCO−NHNH2 からなる群から選ばれる、上記(4) 〜(6) のうちのいずれかに記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【0021】
(8) 前記銀化合物の銀原子1モルに対して、前記分枝脂肪族アミン化合物を1〜10モル用いる、上記(1) 〜(7) のうちのいずれかに記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【0022】
(9) 前記銀化合物の銀原子1モルに対して、前記ヒドラジン化合物を0.4〜2モル用いる、上記(1) 〜(8) のうちのいずれかに記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【0023】
(10) 上記(1) 〜(9) のうちのいずれかに記載の製造方法により製造される銀含有ナノ粒子。
【0024】
(11) 安定剤としての分枝脂肪族アミン化合物を表面上に有する銀含有ナノ粒子。
【0025】
(12) 上記(1) 〜(9) のうちのいずれかに記載の方法により製造される銀含有ナノ粒子、又は上記(11)に記載の銀含有ナノ粒子が有機溶剤中に分散されている銀塗料組成物。
【0026】
(13) 基材と、
前記基材上に、上記(1) 〜(9) のうちのいずれかに記載の方法により製造される銀含有ナノ粒子、又は上記(11)に記載の銀含有ナノ粒子が有機溶剤中に分散されている銀塗料組成物が塗布され、焼成されてなる銀導電層と
を含む銀導電材料。焼成は、200℃以下の温度で行われる。
【0027】
(14) 前記銀導電層は、パターン化されている、上記(13)に記載の銀導電材料。
【0028】
(15) 基材上に、上記(1) 〜(9) のうちのいずれかに記載の方法により製造される銀含有ナノ粒子、又は上記(11)に記載の銀含有ナノ粒子が有機溶剤中に分散されている銀塗料組成物を塗布し、その後、焼成して銀導電層を形成することを含む銀導電材料の製造方法。焼成は、200℃以下の温度で行われる。
【0029】
(16) 前記銀塗料組成物をパターン塗布し、その後、焼成してパターン化された銀導電層を形成する、上記(15)に記載の銀導電材料の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明において、有機安定剤として分枝脂肪族アミン化合物を用いると、直鎖脂肪族アミン化合物を用いた場合と比べ、分枝脂肪族基の立体的因子により銀粒子表面上へのより少ない付着量で銀粒子表面のより大きな面積を被覆することができる。そのため、銀粒子表面上へのより少ない付着量で、銀ナノ粒子の適度な安定化が得られる。焼成時において除去すべき有機安定剤の量が少ないので、200℃以下の低温での焼成の場合にも、有機安定剤を効率よく除去でき、銀粒子の焼結が十分に進行する。
【0031】
このようにして、本発明によれば、安定性に優れ、且つ200℃以下の低温焼成によって優れた導電性(低い抵抗値)が発現する銀ナノ粒子、及びその製造方法が提供される。また、本発明によれば、前記銀ナノ粒子を含む銀塗料組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1で得られた銀ナノ粒子のTG−DTA測定結果を表すグラフである。
【図2】実施例1で得られた乾燥銀ナノ粒子粉末のSEM写真である。
【図3】実施例1で得られた銀焼成膜の表面のSEM写真である。
【図4】実施例1で得られた銀ペーストの粘度測定結果を表すグラフである。
【図5】比較例1で得られた銀ナノ粒子のTG−DTA測定結果を表すグラフである。
【図6】比較例1で得られた乾燥銀ナノ粒子粉末のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明において、銀化合物と、安定剤としての分枝脂肪族アミン化合物とを混合し、混合物を得て、
前記混合物に、還元剤を添加し、
無溶媒の反応系において、前記銀化合物を前記還元剤と反応させて、銀含有ナノ粒子を形成する、
ことにより、銀含有ナノ粒子を製造する。
【0034】
本明細書において、「ナノ粒子」なる用語は、一次粒子の大きさ(平均一次粒子径)が1000nm未満であることを意味している。また、粒子の大きさは、表面に存在(被覆)している安定剤を除外した大きさ(すなわち、銀自体の大きさ)を意図している。本発明において、銀ナノ粒子は、例えば0.5nm〜100nm、好ましくは0.5nm〜50nm、より好ましくは0.5nm〜25nm、さらに好ましくは0.5nm〜10nmの平均一次粒子径を有している。
【0035】
銀化合物としては、酸化銀(I) 、酸化銀(II)、酢酸銀、硝酸銀、銀アセチルアセトナート、安息香酸銀、臭素酸銀、臭化銀、炭酸銀、塩化銀、クエン酸銀、フッ化銀、ヨウ素酸銀、ヨウ化銀、乳酸銀、亜硝酸銀、過塩素酸銀、リン酸銀、硫酸銀、硫化銀、トリフルオロ酢酸銀等を用いることができる。これらのうち、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
また、銀との複合物を得るために、銀以外の他の金属化合物を併用してもよい。他の金属としては、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、及びNi等が挙げられる。これらの目的とする金属を含む、金属酢酸塩、金属トリフルオロ酢酸塩、金属ハロゲン化物、金属硫酸塩、金属硝酸塩、金属ヒドロカルビルスルホン酸塩等の金属塩化合物を用いることができる。銀複合物は、銀と1又は2以上の他の金属からなるものであり、Au−Ag、Ag−Cu、Au−Ag−Cu、Au−Ag−Pd等が例示される。金属全体を基準として、銀が少なくとも20重量%、通常は50重量%、例えば80重量%を占める。
【0037】
本発明において、安定剤としては、分枝脂肪族アミン化合物を用いる。有機安定剤として分枝脂肪族アミン化合物を用いると、直鎖脂肪族アミン化合物を用いた場合と比べ、分枝脂肪族基の立体的因子により銀粒子表面上へのより少ない付着量で銀粒子表面のより大きな面積を被覆することができる。そのため、銀粒子表面上へのより少ない付着量で、銀ナノ粒子の適度な安定化が得られる。そうすると、焼成時において除去すべき有機安定剤の量が少ないので、200℃以下の低温での焼成の場合にも、有機安定剤を効率よく除去でき、銀粒子の焼結が十分に進行する。
【0038】
分枝脂肪族アミン化合物としては、例えば、イソプロピルアミン、イソブチルアミン、 sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、イソペンチルアミン、tert−ペンチルアミン、イソヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、tert−オクチルアミン等の炭素数3〜16、好ましくは炭素数3〜8の第一級アミンが挙げられる。また、シクロヘキシルアミンも分枝脂肪族アミン類似化合物として挙げられる。
【0039】
また、N,N−ジイソプロピルアミン、N,N−イソブチルアミン、N,N−イソペンチルアミン、N,N−イソヘキシルアミン、N,N−(2−エチルヘキシル)アミン等の第二級アミンが挙げられる。また、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、トリイソヘキシルアミン、トリ(2−エチルヘキシル)アミン等の第三級アミンが挙げられる。
【0040】
これらの内でも、イソペンチルアミン、イソヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン等の主鎖の炭素数4〜6の分枝脂肪族モノアミン化合物が好ましい。主鎖の炭素数4〜6であると、銀ナノ粒子の適度な安定化が得られやすい。また、分枝脂肪族基の立体的因子の観点からは、N原子側から2番目の炭素原子において枝分かれしていることが有効である。分枝脂肪族アミン化合物として、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
前記分枝脂肪族アミン化合物は、還元されるべき前記銀化合物の銀原子に対して、モル比(前記分枝脂肪族アミン化合物/銀原子)で表して、例えば1〜10モル程度用いるとよく、好ましくは1.5〜8モル程度、より好ましくは2〜6モル程度用いるとよい。前記分枝脂肪族アミン化合物の量が前記モル比1よりも少ないと、生成してくる銀粒子への安定化効果が弱くなる傾向がある。一方、前記分枝脂肪族アミン化合物の量が前記モル比10よりも多いと、銀ナノ粒子表面の被覆が飽和する。
【0042】
本発明において、安定剤として、前記分枝脂肪族アミン化合物の他に、直鎖脂肪族アミン化合物を併用してもよい。直鎖脂肪族アミン化合物としては、例えば、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン等の飽和脂肪族モノアミン; オレイルアミン等の不飽和脂肪族モノアミン等の第一級アミン;
N,N−ジプロピルアミン、N,N−ジブチルアミン、N,N−ジペンチルアミン、N,N−ジヘキシルアミン、N,N−ジペプチルアミン、N,N−ジオクチルアミン、N,N−ジノニルアミン、N,N−ジデシルアミン、N,N−ジウンデシルアミン、N,N−ジドデシルアミン、N−メチル−N−プロピルアミン、N−エチル−N−プロピルアミン、N−プロピル−N−ブチルアミン等の第二級アミン;
トリブチルアミン、トリヘキシルアミン等の第三級アミンが挙げられる。
【0043】
しかしながら、直鎖脂肪族アミン化合物を用いる場合には、前記分枝脂肪族アミン化合物の効果を損なわない程度の使用量とすべきである。すなわち、直鎖脂肪族アミン化合物を多く用いると、これには立体的因子による被覆効果が期待できないので、結果的に、銀粒子に付着するアミン化合物の全体量が多くなる。そのため、焼成時において除去すべきアミン化合物の量が多くなり、銀粒子の焼結の妨げとなる。直鎖脂肪族アミン化合物を用いる必要はなく、用いる場合には、前記分枝脂肪族アミン化合物に対して10モル%まで、好ましくは5モル%までの量とすべきである。
【0044】
本発明において、安定剤として、前記分枝脂肪族アミン化合物の他に、有機カルボン酸化合物を併用してもよい。有機カルボン酸化合物を用いることにより、銀ナノ粒子の安定性、特に有機溶剤中に分散された塗料状態での安定性が向上することがある。
【0045】
有機カルボン酸化合物としては、飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸が用いられる。例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、エイコセン酸等の炭素数4以上の飽和脂肪族モノカルボン酸; オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、パルミトレイン酸等の炭素数8以上の不飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。
【0046】
前記有機カルボン酸化合物は、用いる前記分枝脂肪族アミン化合物の量にもよるが、還元されるべき前記銀化合物の銀原子に対して、モル比(前記有機カルボン酸/銀原子)で表して、例えば0.05〜10モル程度用いるとよく、好ましくは0.1〜5モル、より好ましくは0.5〜2モル用いるとよい。前記有機カルボン酸の量が前記モル比0.05よりも少ないと、前記カルボン酸の添加による分散状態での安定性向上効果は弱い。一方、前記有機カルボン酸の量が前記モル比10に達すると、分散状態での安定性向上効果が飽和する。ただし、有機カルボン酸化合物を用いなくてもよい。
【0047】
本発明において、還元剤として、上述した銀化合物、及び用いる場合には銀以外の他の金属化合物に対して還元剤として機能する適切な還元剤を用いることができる。還元剤として、例えば、ホウ素化合物、ヒドラジン化合物を用いることができる。ヒドラジン化合物には、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、ヒドラジンの塩及び水和物、ヒドラジン誘導体の塩及び水和物が含まれる。
【0048】
ヒドラジン誘導体とは、ヒドラジンの一方の窒素原子あるいは両方の窒素原子それぞれが、独立して同一の又は異なる置換基によって、1置換又は2置換された化合物である。ヒドラジン誘導体には、ベンジルヒドラジン、フェニルヒドラジンなどのヒドロカルビルヒドラジン; アシルヒドラジド; カルバゼート又ヒドラジノカルボキシレート; スルホノヒドラジド等が含まれる。
【0049】
本発明において、還元剤として、常温(15℃〜25℃)において固体であるアシルモノヒドラジド化合物を用いることができる。
【0050】
前記アシルモノヒドラジド化合物は、一般式(I):
RCO−NHNH2 (I)
で表される。ここで、Rは、H、又は炭化水素基を表す。炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、及び芳香族炭化水素基が含まれる。前記アシルモノヒドラジド化合物は、対応するカルボン酸のエステルとヒドラジン水和物(ヒドラジンヒドラート)との反応により、あるいは、対応するカルボン酸塩化物又はカルボン酸無水物とヒドラジンとの反応により合成される。
【0051】
Rが表す脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。Rが表す芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。また、これら脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基は、クロル、ブロモ等のハロゲン基、ニトロ基などの置換基を有している場合もある。前記アシルモノヒドラジド化合物のうち、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
本発明において、好ましい還元剤として、一般式(I):
RCO−NHNH2 (I)
で表されるアシルモノヒドラジド化合物を用いる。ここで、Rは、H、又は炭素数1〜4の飽和脂肪族炭化水素基を表す。
【0053】
前記好ましいアシルモノヒドラジド化合物は、ギ酸ヒドラジド、アセトヒドラジド、プロパノヒドラジド、ブタノヒドラジド、2−メチルプロパノヒドラジド、ペンタノヒドラジド、3−メチルブタノヒドラジド、及び2,2−ジメチルプロパノヒドラジドからなる群から選ぶとよい。前記アシルモノヒドラジド化合物のうち、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
前記の好ましいアシルモノヒドラジド化合物に対応するカルボン酸の沸点を以下に示す。
・ギ酸ヒドラジド HCO−NHNH2
ギ酸 HCOOH (bp. 100.8℃)
・アセトヒドラジド CH3 CO−NHNH2
酢酸 CH3 COOH (bp. 118℃)
・プロパノヒドラジド CH3 CH2 CO−NHNH2
プロピオン酸 CH3 CH2 COOH (bp. 141.1℃)
・ブタノヒドラジド CH3(CH2)2 CO−NHNH2
ブタン酸(酪酸) CH3(CH2)2 COOH (bp. 163.5℃)
・2−メチルプロパノヒドラジド (CH3)2 CHCO−NHNH2
イソ酪酸 (CH3)2 CHCOOH (bp. 152〜155℃)
・ペンタノヒドラジド CH3(CH2)3 CO−NHNH2
ペンタン酸(吉草酸) CH3(CH2)3 COOH (bp. 186〜187℃)
・3−メチルブタノヒドラジド (CH3)2 CHCH2 CO−NHNH2
イソ吉草酸 (CH3)2 CHCH2 COOH (bp. 175〜177℃)
・2,2−ジメチルプロパノヒドラジド (CH3)3 CHCO−NHNH2
ピバル酸 (CH3)3 CHCOOH (bp. 163.8℃)
【0055】
銀化合物の還元剤として上記好ましいアシルモノヒドラジド化合物(RCONHNH2 ,R:炭素数1〜4)を用いると、銀化合物が還元されると共に銀ナノ粒子が生成する。前記アシルモノヒドラジド化合物の酸化体(RCON=NHのような化学種)は還元により生成した銀ナノ粒子の表面に吸着あるいは表面近傍に存在し、用いられた有機安定剤(分枝脂肪族アミン)と共に銀ナノ粒子の安定剤ないしは保護剤としての機能を果たすと考えられる。そして、銀ナノ粒子の焼成時において、200℃以下の低温(例えば100℃〜200℃)においても前記アシルモノヒドラジド化合物の酸化体が熱分解し、前記アシル基に対応するカルボン酸(RCOOH)と窒素分子(N2 )とを生じさせる。この際に、200℃以下の低温においても前記アシルモノヒドラジド化合物の酸化体の熱分解が容易に起こるように、上記好ましいアシルモノヒドラジド化合物(RCONHNH2 ,R:炭素数1〜4)を用いることが有効である。すなわち、対応するカルボン酸の沸点が200℃以下であるような前記アシルモノヒドラジド化合物が有効であると考えられる。このことから、より低温(例えば100℃〜180℃、好ましくは150℃〜180℃)での焼成によっても、前記アシルモノヒドラジド化合物の酸化体の熱分解が容易に起こるために、前記アシルモノヒドラジド化合物としては、ギ酸ヒドラジド、アセトヒドラジド、プロパノヒドラジドがさらに好ましい。
【0056】
前記アシルモノヒドラジド化合物の酸化体の熱分解により遊離した対応するカルボン酸(RCOOH)は、用いられた有機安定剤(分枝脂肪族アミン)の銀ナノ粒子の表面における存在状態を不安定化させ、有機安定剤の銀ナノ粒子表面からの脱離を促進させる。
【0057】
例えば、還元剤としてアセトヒドラジドを用いると、150℃〜180℃程度の低温焼成工程において、銀ナノ粒子の表面の保護剤被覆層中において、アセトヒドラジド酸化体の熱分解によって酢酸(bp. 118℃)及び窒素分子が発生する。発生した酢酸は焼成温度において蒸気状態であり、保護剤被覆層を形成している有機安定剤(分枝脂肪族アミン)の存在状態を不安定化させ、有機安定剤の銀ナノ粒子表面からの脱離を促進させると考えられる。
【0058】
その結果、200℃以下の低温での焼成の場合にも、保護剤被覆層が除去されて、銀粒子の焼結が十分に進行すると考えられる。このようにして、還元剤として、上記好ましいアシルモノヒドラジド化合物(RCONHNH2 ;R:C数1〜5)を用いると、本発明で得られる銀ナノ粒子は、安定性に優れると共に、200℃以下の低温焼成によって優れた導電性が発現する。
【0059】
前記アシルモノヒドラジド化合物は、還元されるべき前記銀化合物の銀原子に対して、モル比(前記アシルモノヒドラジド/銀原子)で表して、例えば0.4〜2モル程度用いるとよく、好ましくは0.5〜1.5モル、より好ましくは0.55〜1.1モル用いるとよい。前記アシルモノヒドラジド化合物の量が前記モル比0.4よりも少ないと、銀イオンの還元が十分できずに銀ナノ粒子の収率が低下する傾向がある。一方、前記アシルモノヒドラジド化合物の量が前記モル比2よりも多いと、過剰に加えた還元剤(アシルモノヒドラジド化合物)が無駄となり経済的でないばかりか、還元反応の条件によっては望まない副反応が生じて目的の銀ナノ粒子の物性を損なう恐れがある。
【0060】
本発明において、まず、溶媒を用いることなく、銀化合物と分枝脂肪族アミン化合物を混合して、混合物を得る。
【0061】
安定剤として、上記有機アミン化合物に有機カルボン酸化合物を併用する場合には、銀化合物と有機アミン化合物とを混合した後、その混合物に有機カルボン酸化合物を添加するとよい。
【0062】
銀化合物と、分枝脂肪族アミン化合物との混合は、通常、室温(25℃程度)にて行うとよい。混合後に攪拌することにより錯形成し、均一な溶液状態が得られる。有機カルボン酸化合物を用いる場合には、銀化合物と前記アミン化合物とを混合した後、室温(25℃程度)にて、又はその混合物を25℃〜60℃程度に加熱して、有機カルボン酸を添加してもよい。
【0063】
次に、得られた混合物に、溶媒を用いることなく、還元剤としてヒドラジン化合物を添加する。フェニルヒドラジンは常温にて液体であるが、上記炭素数1〜5のアシルモノヒドラジド化合物(Rの炭素数1〜4)は常温にて固体である。この際、アシルモノヒドラジド化合物を粉体状態で添加する。粉体状態のまま添加すると、還元反応が温和に進行して銀ナノ粒子の過度の凝集を極力防ぐことができる利点がある。この理由は、還元剤としてアシルモノヒドラジド化合物を粉体状態で添加して還元反応を無溶媒系にて行うと、すると、粉体の溶解と共に銀化合物の還元反応が徐々に進行するためと推測される。
【0064】
また、アシルモノヒドラジド化合物を粉体状態で添加し、還元反応を無溶媒系にて行うと、有機溶剤を用いる場合に比べ、反応系全体の容量を低減できる利点もある。そのため、反応容積当たりの高い銀ナノ粒子収量が得られる。
【0065】
ヒドラジン化合物の添加後、混合物を攪拌することによって、場合によっては25℃〜60℃程度の加熱下で攪拌することによって、前記銀化合物を前記ヒドラジン化合物と反応させて、銀ナノ粒子を形成する。銀ナノ粒子は粒子の凝集体として得られる。
【0066】
この方法により、銀ナノ粒子組成物が形成される。続いて、銀ナノ粒子の沈降、適切な溶剤(水、又は有機溶剤)によるデカンテーション・洗浄操作を行い、その後、乾燥することによって、安定な銀ナノ粒子の凝集体の粉体を得る。
【0067】
デカンテーション・洗浄操作には、水、又は有機溶剤を用いる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のようなアルコール溶剤、それらの混合溶剤を用いるとよい。
【0068】
得られた銀ナノ粒子の粉体を、適切な有機溶剤(分散媒体)中に分散させることにより、銀塗料組成物を作製することができる。銀塗料組成物を得るための有機溶剤としては、銀ペーストを得るためにテルピオネールCのようなテルペン系溶剤等が挙げられる。所望の銀塗料組成物の濃度や粘性に応じて、有機溶剤の量を適宜定めるとよい。
【0069】
本発明により得られた銀ナノ粒子凝集体を含む銀塗料組成物は、安定性に優れている。例えば、60重量%の銀濃度において、室温で融着を起こすことなく安定である。
【0070】
調製された銀塗料組成物を基材上に塗布し、その後、200℃以下、例えば100℃〜180℃、好ましくは150℃〜180℃の温度で焼成する。
【0071】
塗布は、スピンコート、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ディスペンサ印刷、凸版印刷(フレキソ印刷)、昇華型印刷、オフセット印刷、レーザープリンタ印刷(トナー印刷)、凹版印刷(グラビア印刷)、コンタクト印刷、マイクロコンタクト印刷などの公知の方法により行うことができる。印刷技術を用いると、パターン化された銀塗料組成物の塗布層が得られ、焼成により、パターン化された銀導電層が得られる。
【0072】
焼成は、200℃以下、例えば100℃〜180℃、好ましくは150℃〜180℃の温度で行うことができる。焼成時間は、銀塗料組成物の塗布量などを考慮して、適宜定めるとよく、例えば10分〜2時間、好ましくは15分〜1.5時間、より好ましくは30分〜1時間とするとよい。
【0073】
本発明において得られる銀含有ナノ粒子は、その表面上に安定剤としての分枝脂肪族アミン化合物を有している。分枝脂肪族アミン化合物の銀粒子の表面当たりの付着量は、その立体因子により、直鎖脂肪族アミン化合物を用いた場合に比べ少ない。すなわち、より少ない付着量でより銀粒子の大きな表面積を被覆する。そのため、このような低温での焼成工程によっても、効率よくアミン化合物を除去することができ、銀粒子の焼結が十分に進行する。
【0074】
銀化合物の還元剤として上記好ましいアシルモノヒドラジド化合物(RCONHNH2 ,R:炭素数1〜4)を用いると、このような低温での焼成工程によっても、銀粒子の焼結がさらに進行しやすい。その結果、優れた導電性(低い抵抗値)が発現する。バルク銀(バルク銀の抵抗値:1.6μΩcm)と同等レベルの低い抵抗値(例えば、3〜10μΩcm)を有する銀導電層が形成される。
【0075】
低温での焼成が可能であるので、基材として、ガラス製基材、ポリイミド系フィルムのような耐熱性プラスチック基材の他に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムのような汎用のプラスチック基材を好適に用いることができる。
【0076】
本発明の銀導電材料は、電磁波制御材、回路基板、アンテナ、放熱板、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、ICカード、ICタグ、太陽電池、LED素子、有機トランジスタ、コンデンサー(キャパシタ)、電子ペーパー、フレキシブル電池、フレキシブルセンサ、メンブレンスイッチ、タッチパネル、EMIシールド等に適用することができる。
【0077】
銀導電層の厚みは、目的とする用途に応じて適宜定めるとよい。例えば5nm〜30μm、好ましくは500nm〜25μm、より好ましくは1μm〜20μmの範囲から選択するとよい。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。まず、各測定方法について示す。
【0079】
[銀ナノ粒子中の有機物及び銀の含有量]
得られた銀ナノ粒子粉末サンプルを50ml/minの空気気流下で、5℃/分の昇温速度で、35℃〜550℃まで加熱処理した。この際の重量減少が、有機物重量に相当する。
加熱処理前の銀ナノ粒子粉末の重量:W0 (g)
加熱処理後の銀ナノ粒子粉末の重量:W1 (g)
とすると、
有機物含有量a(wt%)=[(W0 −W1 )/W0 ]×100
銀含有量b(wt%)=[W1 /W0 ]×100
として算出される。
【0080】
[銀ナノ粒子合成における銀換算収率]
銀ナノ粒子合成において得られた乾燥銀ナノ粒子の重量:Wy (g)、出発物質の酢酸銀中の銀の重量:Ws (g)、及び上記の有機物含有量a及び銀含有量bから、次のように算出される。
銀換算収率(%)={[Wy ×b/(a+b)]/Ws }×100
【0081】
[TG−DTA(示差熱熱重量同時分析)]
得られた銀ナノ粒子粉末サンプルを、SII社製TG/DTA6300を用いて50ml/minの空気気流下で、5℃/分の昇温速度で、35℃〜550℃まで加熱して、その重量を測定し、昇温温度におけるサンプルに対し重量減少量を%で求めた。
【0082】
[乾燥銀ナノ粒子粉末の走査型電子顕微鏡による観察]
乾燥銀ナノ粒子粉末を定法により走査型電子顕微鏡(日本電子社製JSM−6700F)を用いて観察した。
【0083】
[銀焼成膜の断面の走査型電子顕微鏡による観察]
得られた銀焼成膜を切断して、その断面を定法により走査型電子顕微鏡(日本電子社製JSM−6700F)を用いて観察した。
【0084】
[銀焼成膜の比抵抗値]
得られた銀焼成膜について、4端子法(ロレスタGP MCP−T610)を用いて測定した。この装置の測定範囲限界は、107 Ωcmである。
【0085】
[銀ペーストの粘度]
回転型レオメーターMCR301(アントンパール社製)を用いて測定した。
【0086】
[実施例1]
(銀ナノ粒子の合成)
酢酸銀5.0g(30mmol)に2−エチルヘキシルアミン23.2g(180mmol)を添加し、25℃で攪拌して錯形成させ均一な混合溶液を調製した。この混合溶液にアセトヒドラジド1.1g(15mmol)を粉末で添加し、25℃で2時間攪拌して反応させたところ、反応液は徐々に茶色へと変色すると共に、銀ナノ粒子凝集物が析出した。このようにして、銀ナノ粒子凝集物を含んでいる反応混合物(A)を得た。
【0087】
次いで、得られた反応混合物(A)にメタノール200mlを加え、余剰の2−エチルヘキシルアミン、及びアセトヒドラジドをデカンテーションによって除去した。その後、再度メタノール200mlを加え、デカンテーションを行った。この銀ナノ粒子の洗浄操作を、さらに1回繰り返して、反応液が除去され且つメタノールで湿った精製銀ナノ粒子を得た。その後、得られた湿った精製銀ナノ粒子を25℃で真空下で8時間放置してメタノールなど揮発成分を取り除き、乾燥銀ナノ粒子粉末3.1gを得た。
【0088】
得られた乾燥銀ナノ粒子粉末をTG−DTA分析し、銀ナノ粒子中の有機物含有量を測定したところ、有機物含有量は2.0%であり、銀換算収率は94%であった。TG−DTAの測定チャートを図1に示す。
【0089】
得られた乾燥銀ナノ粒子粉末を走査型電子顕微鏡で観察したところ、10nm〜60nmの一次粒子径を持った粒子の凝集体であることを確認した。凝集体の粒径としては、400nm〜1000nm程度と観察される。走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。
【0090】
なお、別途、反応混合物(A)を0.2μmフィルターにて濾過したところ、0.2μmフィルターを通過しない粒子がフィルター上に残存した。すなわち、反応中に銀粒子が凝集し、銀ナノ粒子凝集物を形成していることを確認した。
【0091】
(銀ナノペーストの調製と焼成)
上記で得られた乾燥銀ナノ粒子粉末を、銀濃度60wt%となるようにテルピネオールC(日本テルペン化学社製)に混練し、銀ナノペースト(B)を調製した。このペーストをバーコート法によりガラス板上に塗布し、塗膜を得た。
【0092】
塗膜を150℃にて15分間、30分間、60分間の条件で、180℃にて15分間、30分間の条件でそれぞれ焼成し、10μm厚みの銀焼成膜を形成した。これらの銀焼成膜の比抵抗値を4端子法により測定したところ、それぞれ、20.2μΩcm(150℃、15分間)、8.5μΩcm(150℃、30分間)、5.5μΩcm(150℃、60分間)、7.8μΩcm(180℃、15分間)、5.7μΩcm(180℃、30分間)であった。
【0093】
180℃、15分間の焼成条件で作製した銀焼成膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、比較的低温且つ短時間の焼成でも、銀ナノ粒子同士の十分な焼結が確認された。図3に、銀焼成膜の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0094】
なお、別途、銀ナノペースト(B)の粘度を測定したところ、せん断速度(1/s)が大きくなるほど、せん断粘度(Pa・s)が低下する物性を示した。このことから、この銀ナノペースト(B)は、スクリーン印刷に向くペーストであることを確認した。粘度測定のチャートを図4に示す。
【0095】
実施例1においては、還元反応系において、直接的に銀ナノ粒子は凝集体として得られた。しかしながら、この銀ナノ粒子凝集体は、銀ナノペースト(B)とした段階、その後の塗布の段階においても安定であった。従って、この銀ナノ粒子凝集体は、比較的大きな二次粒子(凝集体)として利用される用途、例えばスクリーン印刷用途にとって好適である。一次粒子として銀ナノ粒子を得た場合には、スクリーン印刷用ペーストを調製するためには、銀の一次粒子から二次粒子(凝集体)とするための工程が必要となる。本方法によれば、直接的に銀ナノ粒子凝集体が得られるので、スクリーン印刷用ペーストの調製のための二次粒子(凝集体)とするための工程が省かれる。
【0096】
[比較例1]
(銀ナノ粒子の合成)
実施例1の2−エチルヘキシルアミンに代えてオクチルアミン23.2g(180mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして乾燥銀ナノ粒子粉末2.2gを得た。
【0097】
得られた乾燥銀ナノ粒子粉末をTG−DTA分析し、銀ナノ粒子中の有機物含有量を測定したところ、有機物含有量は4.9%であり、銀換算収率は65%であった。TG−DTAの測定チャートを図5に示す。
【0098】
得られた乾燥銀ナノ粒子粉末を走査型電子顕微鏡で観察したところ、10nm〜60nmの一次粒子径を持った粒子の凝集体であることを確認した。走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図6に示す。
【0099】
(銀ナノペーストの調製と焼成)
上記で得られた乾燥銀ナノ粒子粉末を、銀濃度60wt%となるようにテルピネオールC(日本テルペン化学社製)に混練し、銀ナノペーストを調製した。このペーストをバーコート法によりガラス板上に塗布し、塗膜を得た。
【0100】
塗膜を150℃にて15分間、30分間、60分間の条件でそれぞれ焼成し、10μm厚みの銀焼成膜を形成した。これらの銀焼成膜の比抵抗値を4端子法により測定したところ、それぞれ、56.7μΩcm(150℃、15分間)、45.8μΩcm(150℃、30分間)、24.3μΩcm(150℃、60分間)であった。同じ炭素数(C8)の2−エチルヘキシルアミンを用いた実施例1と比べて、比抵抗値は劣っていた。
【0101】
表1[比抵抗値の結果]
比抵抗値(μΩcm)
焼成条件 温度 150 ℃ 150 ℃ 150 ℃ 180 ℃ 180 ℃
時間 15 分間 30 分間 60 分間 15 分間 30 分間
[実施例1]
2−エチルヘキシルアミン 20.2 8.5 5.5 7.8 5.7
[比較例1]
オクチルアミン 56.7 45.8 24.3 − −
【0102】
[比較例2:銀ナノ粒子の合成]
酢酸銀5.0g(30mmol)にドデシルアミン55.6g(300mmol)を添加し、55℃で攪拌して錯形成させ均一な混合溶液を調製した。この混合溶液にフェニルヒドラジン1.78g(16.5mol)を添加し、55℃で2時間攪拌して反応させたところ、反応液は徐々に変色し、銀ナノ粒子の形成が示された。このようにして、反応混合物(C)を得た。
【0103】
反応混合物(C)を0.2μmフィルターにて濾過したところ、フィルター上に残存した粒子はほとんど見られなかった。すなわち、反応中に銀ナノ粒子は0.2μmフィルターを通過しないほどの大きさには凝集しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀含有ナノ粒子の製造方法であって、
銀化合物と、安定剤としての分枝脂肪族アミン化合物とを混合し、混合物を得て、
前記混合物に、還元剤を添加し、
無溶媒の反応系において、前記銀化合物を前記還元剤と反応させて、銀含有ナノ粒子を形成する、
ことを含む銀含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記分枝脂肪族アミン化合物は、炭素数3〜16の分枝脂肪族第一級アミン化合物である、請求項1に記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記還元剤は、ヒドラジン化合物である、請求項1又は2に記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ヒドラジン化合物は、アシルモノヒドラジド化合物である、請求項3に記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記アシルモノヒドラジド化合物は、一般式(I):
RCO−NHNH2 (I)
(ここで、Rは、H、又は炭化水素基を表す)
で表される、請求項4に記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記アシルモノヒドラジド化合物は、一般式(I):
RCO−NHNH2 (I)
(ここで、Rは、H、又は炭素数1〜4の飽和脂肪族炭化水素基を表す)
で表される、請求項4又は5に記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記アシルモノヒドラジド化合物は、ギ酸ヒドラジドHCO−NHNH2 、アセトヒドラジドCH3 CO−NHNH2 、プロパノヒドラジドCH3 CH2 CO−NHNH2 、ブタノヒドラジドCH3(CH2)2 CO−NHNH2 、2−メチルプロパノヒドラジド (CH3)2 CHCO−NHNH2 、ペンタノヒドラジドCH3(CH2)3 CO−NHNH2 、3−メチルブタノヒドラジド (CH3)2 CHCH2 CO−NHNH2 、及び2,2−ジメチルプロパノヒドラジド (CH3)3 CHCO−NHNH2 からなる群から選ばれる、請求項4〜6のうちのいずれかに記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記銀化合物の銀原子1モルに対して、前記分枝脂肪族アミン化合物を1〜10モル用いる、請求項1〜7のうちのいずれかに記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記銀化合物の銀原子1モルに対して、前記還元剤を0.4〜2モル用いる、請求項1〜7のうちのいずれかに記載の銀含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のうちのいずれかに記載の製造方法により製造される銀含有ナノ粒子。
【請求項11】
安定剤としての分枝脂肪族アミン化合物を表面上に有する銀含有ナノ粒子。
【請求項12】
請求項1〜9のうちのいずれかに記載の方法により製造される銀含有ナノ粒子、又は請求項11に記載の銀含有ナノ粒子が有機溶剤中に分散されている銀塗料組成物。
【請求項13】
基材と、
前記基材上に、請求項1〜9のうちのいずれかに記載の方法により製造される銀含有ナノ粒子、又は請求項11に記載の銀含有ナノ粒子が有機溶剤中に分散されている銀塗料組成物が塗布され、焼成されてなる銀導電層と
を含む銀導電材料。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−246560(P2012−246560A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121341(P2011−121341)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】