説明

銀含有抗菌剤の存在の検出

基材の表面上の銀金属または銀塩抗菌剤の存在を検査する方法であって、a)前記基材を染料溶液に接触させること、ここで前記染料溶液は、表面上に銀金属または銀塩を有しない基材と比較して、表面上に銀金属または銀塩を有する基材に対して、染料溶液と接触した基材の検知可能な示差的な色変化をもたらすように選択された染料を含む;およびb)染料溶液と接触した基材の示差的な色変化の有無を検出することを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面上または処理溶液中の銀含有抗菌剤を検出する方法に関する。より詳細には、本発明は、標的とする繊維または繊維布帛などの基材に適用することができる抗菌性銀金属および銀塩の存在を検査することに関する。
【背景技術】
【0002】
銀の抗菌特性は数千年前もの間にわたって知られている。銀の一般的な薬学的特性は、「治療学の薬理学的基礎(The Pharmacological Basis of Therapeutics)」、第5版、Louis S. Goodman および Alfred Gilman(編集者),MacMillan Publishing Company,ニューヨーク,1975年の第4章「消毒剤および殺菌剤:殺かび剤;外部駆虫剤(Antiseptics and Disinfectants: Fungicides; Ectoparasiticides)」(第964〜987頁)にStewart C. Harveyにより要約されている(「重金属およびそれらの塩(Heavy Metals and Their Salts)」、第975〜977頁参照)。例えばスルフヒドリル基、アミノ基、イミダゾール基、カルボキシル基およびホスフェート基などの生物学的に重要な部位に対する銀イオンの親和性が、その抗菌活性の主な原因であると現在では理解されている。
【0003】
蛋白質上のこれらの反応性基のうちの1つに銀イオンが付着することで、蛋白質の析出および変性がもたらされる。この反応の程度は銀イオンの濃度と関連する。哺乳動物の組織中への銀イオンの拡散は、その環境中の塩素イオンによる析出に加えて、蛋白質上の各種の生物学的に重要な部位を通して蛋白質に結合するための銀イオン固有の選択性によって自動制御される。従って、多数の生物学的に重要な化学的部位への銀イオンの親和性(殺菌剤(germicidal)、殺生物剤(biocidal)、殺ウイルス剤(viricidal)、殺かび剤(fungicidal)および殺バクテリア剤(bacteriocidal)として反応性に寄与する親和性)は、銀の全身作用(systemic action)を制限すること、即ち、銀が身体に容易に吸収されないことにも寄与している。このことが、抗菌物質、即ち、バクテリア、酵母、真菌類および藻類やウイルスなどの微生物の生長を阻害または抑制することができる薬剤としての銀含有化学種の使用に大きな関心が寄せられている主な理由である。
【0004】
生物学的に関連する種への銀イオンの親和性(その親和性は蛋白質の変性および析出をもたらす)に加えて、イオン化または溶解能が低い幾つかの銀化合物は、消毒剤としても効果的に機能する。金属銀に接した蒸留水は、銀イオンの溶解濃度が例え100ppb未満であっても抗菌性になる。この微量作用効果(oligodybamic effect)が証明される、即ち、銀イオンがバクテリアの基礎代謝活性を細胞レベルで妨げて殺菌および/または静菌効果をもたらす多数の機構的経路がある。
【0005】
銀の微量作用効果についての詳説は、Lea and Fibigerにより発行(1968年)された「殺菌、滅菌および保存(Disinfection, Sterlization and Preservation)」(C.A. Lawrence and S.S. Bloek(編集者))の中のI.B.Romansによる「微量作用金属(Origodynamic Metals)」およびReinhold Publishing Corporationにより発行(1940年)された「工業における銀(Silver in Industry)」(Lawrence Addics(編集者))の中のA.Goetz, R.L. Tracy and F.S. Harris, Jr.による「銀の微量作用効果(The Origodynamic Effect of Silver)」中に見ることができる。これらの詳説には、銀が様々なバクテリアに対して抗菌剤として有効であることを証明する結果が記載されている。
【0006】
銀系抗菌剤の非常に重要な用途の一つは布帛に対する使用である。標的とする繊維製品に抗菌特性を付与する方法としては各種の方法が知られている。例えばゼオライトなどの無機抗菌剤をコンジュゲート繊維の低融点成分に組み込むことが米国特許第4,525,410号および第5,064,599号明細書に記載されている。他のアプローチとして、例えば米国特許第5,180,402号、第5,880,044号および第5,888,526号明細書に記載されているように、合成繊維を製造する工程中、または米国特許第6,479,144号および第6,585,843号明細書に記載されているように、溶融押出工程を通して、抗菌剤を与えることもできる。さらに他の方法では、米国特許第5,496,860号明細書に記載されているように、イオン交換繊維により抗菌性金属イオンをイオン交換することもできる。
【0007】
無機金属塩またはゼオライトの形態の抗菌剤をある基材から布帛へ移動させる方法が米国特許第6,461,386号明細書に記載されている。抗菌性無機金属化合物を含有する高圧積層体が米国特許第6,248,342号明細書に開示されている。樹脂フィルムまたは標的とする繊維上への抗菌性金属または金属含有化合物の付着も米国特許第6,274,519号および第6,436,420号明細書に記載されている。
【0008】
銀含有抗菌性組成物のコーティングを適用することによって抗菌特性を繊維に付与できることも当該技術分野で知られている。銀イオン交換化合物、銀ゼオライトおよび銀ガラスが、米国特許第6,499,320号、第6,584,668号、第6,640,371号および第6,641,829号明細書に記載されているように、繊維に抗菌特性を付与するために、局所的な適用により繊維に適用されることはよく知られている。米国特許第5,709,870号、第6,296,863号、第6,585,767号および第6,602,811号明細書に記載されているように、繊維に適用されるコーティング中に他の無機抗菌剤を含有させることができる。各種の基材に抗菌特性を付与するためのコーティング組成物を適用するために、バインダーを使用することは当該技術分野で知られている。米国特許第6,716,895号明細書には、親水性および疎水性ポリマー類と、抗菌性組成物としての微量作用金属塩類の混合物との使用が記載されており、ここでコーティング組成物中の含水量は好ましくは50%未満である。微量作用金属塩類の混合物は、溶解度の範囲を広げることを意図しており、耐久性のあるコーティングにおいては有用でない。米国特許第5,709,870号明細書には、繊維に抗菌性コーティングを施すために、カルボキシメチルセルロース−銀錯体を使用することが記載されている。抗菌性コーティングにおけるハロゲン化銀の使用、特に医療機器用の抗菌性コーティングにおけるハロゲン化銀の使用が、米国特許第5,848,995号明細書に記載されている。
【0009】
米国特許出願公開第2006/0068024号明細書には、水、ハロゲン化銀粒子および浸水性ポリマーを含む抗菌剤を布帛または繊維にコーティングするための水性組成物が記載されている。これには、さらに、第1の部分が水、ハロゲン化銀粒子および親水性ポリマーを含む組成物であり、第2の部分が疎水性バインダーの水性懸濁液を含む組成物または親水性ポリマー用の架橋剤を含む組成物である、少なくとも2つの別々にパッケージされた部分を含んでなる組成物が記載されている。好ましい親水性ポリマーはゼラチンである。2つの別々にパッケージされた部分を混合し、その混合物を布帛または繊維にコーティングすることを含む、布帛または繊維をコーティングする方法も記載されている。記載されている組成物は、ヤーン、布帛または繊維製品に耐久性のある抗菌特性を付与する。ハロゲン化銀粒子は、繊維もしくは繊維布帛への適用工程に先立ってまたは繊維もしくは繊維布帛への適用工程中にハロゲン化銀粒子にコロイド安定性を付与する親水性バインダーの助けを借りて標的とする繊維または繊維布帛に適用される。この組成物は、親水性バインダーがなければハロゲン化銀粒子およびそれに関連する繊維または繊維布帛の抗菌特性をなくすであろう長時間の洗浄サイクルに対する改善された耐久性を付与するために親水性バインダーに使用の助けを借りることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
銀抗菌性組成物により繊維および繊維布帛などの基材を処理するための様々な取り組みおよび組成物が提案されている。しかしながら、適用された抗菌性組成物が処理された基材のその他の特性に悪影響を及ぼさないことが一般的に望ましい。特に、抗菌性組成物は、典型的には、適切な方法で、基材の外観を実質的に変えないような濃度で適用されることが望ましい。しかしながら、この望ましい特徴は、抗菌剤が処理溶液中に実際に存在し、そして、実際に基材に有効に適用されたか否かを容易に確認することを困難にする。そのため、基材の表面上の銀含有抗菌剤の存在または処理溶液中のかかる抗菌剤の存在を検出して、基材が実際に銀抗菌性組成物により処理されたか否かを確認する方法を提供することが都合よいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施態様によれば、本発明は、基材の表面上の金属銀または銀塩の存在を検査する方法であって、a)前記基材を染料溶液に接触させること、ここで前記染料溶液は、表面上に銀金属または銀塩を有しない基材と比較して、表面上に銀金属または銀塩を有する基材に対して、染料溶液と接触した基材の検出可能な示差的な色変化をもたらすように選択された染料を含む;およびb)染料溶液と接触した基材の示差的な色変化の有無を検出することを含む方法に関する。
【0012】
さらなる実施態様によれば、本発明は、抗菌特性を付与するために基材を銀含有組成物によりコーティングする方法であって、銀含有抗菌剤を含む組成物を用意すること;基材を用意すること;前記基材を前記組成物でコーティングすること;および前記基材を染料溶液に接触させることにより当該基材の表面上に付着した銀含有抗菌剤の存在を確認すること、ここで、前記染料溶液が、表面上に銀含有抗菌剤を有しない基材と比較して、表面上に銀含有抗菌剤を有する基材に対して、染料溶液と接触した基材の検出可能な示差的な色変化をもたらすように選択された染料を含む;並びに染料溶液と接触した基材の示差的な色変化の有無を検出することを含む方法に関する。
【0013】
さらなる実施態様によれば、本発明は、処理溶液中の銀含有抗菌剤の存在を検査する方法であって、a)処理溶液の試料に染料溶液を接触させること、ここで、染料溶液は、銀含有抗菌剤を含まない処理溶液と比較して、銀含有抗菌剤を含む処理溶液に対して、染料溶液と接触した処理溶液の検出可能な示差的な色変化をもたらすように選択された染料を含む;およびb)染料溶液と接触した処理溶液の示差的な色変化の有無を検出することを含む方法に関する。かかる実施態様において、その後、処理溶液を、銀含有抗菌剤により基材をコーティングするために使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、波長の関数として求められた、実施例2a〜2dの染色された試料の反射光学濃度を示すグラフである。
【図2】図2は、パッディングされた塩化銀のレベルの関数としてプロットされた、実施例2についての表2中のデルタ反射濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、一実施態様において、基材の表面上に付着した銀金属または銀塩の存在を検査する方法を提供する。かかる方法において、検査すべき基材を染料溶液に接触させる。ここで、染料溶液は、表面上に金属銀または銀塩を有しない基材と比較して、表面上に金属銀または銀塩を有する基材に対して、染料溶液と接触した基材の検出可能な示差的な色変化を提供するように選択された染料を含む。様々な特定の実施態様において、染料溶液は、銀塩に対して吸着親和性を有するように選択された染料を含むことができ、染料溶液は、銀塩の存在を直接検査するか、または銀金属の表面を現場(in situ)で銀塩に変換することにより銀金属の存在を間接的に検査することができる。染料の吸着によって、表面上に銀金属または銀塩を有しない基材と比較して、表面上に銀金属または銀塩を有する基材の場合に、染料溶液と接触した基材の検出可能な示差的な色変化が得られる。染料溶液と接触した基材の示差的な色変化の有無を検出することによって、銀金属または銀塩の有無を確認することができる。
【0016】
特定の実施態様において、本発明は、特に、ハロゲン化銀粒子の存在を検査することに関する。先に引用した米国特許出願公開第2006/0068024号明細書に教示されているように、例えばハロゲン化銀分散体は、抗菌特性を付与するために繊維および繊維布帛などの基材を処理することに有効であることが見出された。写真増感染料は、ハロゲン化銀粒子に対する吸着親和性を有することが知られている周知の部類の染料であり、係る実施態様において染料溶液中の染料として都合よく使用することができる。
【0017】
ハロゲン化銀乳剤の分光増感の技術分野では、例えば、吸収光のエネルギーをハロゲン化銀の伝導帯に移動させるシアニン染料を使用して、ハロゲン化銀をその固有感度よりも長い波長に対して感受性にさせることが一般的である。吸収光のエネルギーをハロゲン化銀に移動させる能力に加えて、増感染料は、かかるエネルギー移動を可能にするようにハロゲン化銀に対して有効に吸着する能力も有していなくてはならない。かかる既知の部類の染料を本発明において使用するのに適切なものとするのは、ハロゲン化銀に対するこの既知の吸着親和性である。写真増感染料は、当該技術分野で周知であり、リサーチディスクロージャー(Research Disclosure)、1996年9月、38957、セクションVに記載されている。リサーチディスクロージャーは、英国、ハンプシャー州P010 7DQ、エムスワース、12a ノースストリート、ダッドリーアネックス所在のKenneth Mason Publications, Ltd.により発行されている。本発明において有用な染料は、当該技術分野でよく知られた合成方法により調製することができる。かかる方法は、さらに、例えば、“The Cyanine Dyes and Related Compounds”, Frances Hamer, Interscience Publishers, 1964および“The Theory of the Photographic Process”, T. H. James編、第4版、Macmillan (1977)に示されている。
【0018】
本発明において使用される染料溶液には、シアニン類、メロシアニン類、錯体シアニン類およびメロシアニン類、(すなわち、三核、四核および多核のシアニン類およびメロシアニン類)、スチリル類、メロスチリル類、ストレプトシアニン類、ヘミシアニン類、アリーリデン類、アロポラー(allopolar)シアニン類およびエナミンシアニン類を包含するポリメチン染料類を包含する種々の部類の染料を用いることができる。シアニン染料は、メチン結合によって連結された2個の塩基性複素環式核、例えば、キノリニウム、ピリジニウム、イソキノリニウム、3H−インドリウム、ベンゾインドリウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、セレナゾリニウム、イミダゾリウム、ベンゾオキサゾリウム、ベンゾチアゾリウム、ベンゾセレナゾリウム、ベンゾテルラゾリウム、ベンゾイミダゾリウム、ナフトオキサゾリウム、ナフトチアゾリウム、ナフトセレナゾリウム、ナフトテルラゾリウム、チアゾリニウム、ジヒドロナフトチアゾリウム、ピリリウムおよびイミダゾピラジニウム第四級塩から誘導されたものを含む。メロシアニン染料は、メチン結合によって連結されたシアニン色素型塩基性複素環式核と、例えば、バルビツール酸、2−チオバルビツール酸、ローダニン、ヒダントイン、2−チオヒダントイン、4−チオヒダントイン、2−ピラゾリン−5−オン、2−イソオキサゾリン−5−オン、インダン−1,3−ジオン、シクロヘキサン−1,3−ジオン、1,3−ジオキサン−4,6−ジオン、ピラゾリン−3,5−ジオン、ペンタン−2,4−ジオン、アルキルスルホニルアセトニトリル、ベンゾイルアセトニトリル、マロノニトリル、マロンアミド、イソキノリン−4−オン、クロマン−2,4−ジオン、5H−フラン−2−オン、5H−3−ピロリン−2−オン、1,1,3−トリシアノプロペン及びテルラシクロヘキサンジオンから誘導されたものであることができる酸性核とを含む。
【0019】
なかでもハロゲン化銀に対する吸着親和性を有することが知られている分光増感染料は、英国特許第742,112号明細書、Brooker の米国特許第1,846,300号、第1,846,301号、第1,846,302号、第1,846,303号、第1,846,304号、第2,078,233号及び第2,089,729号明細書、Brooker 等の米国特許第2,165,338号、第2,213,238号、第2,493,747号、第2,493,748号、第2,526,632号、第2,739,964号(再発行特許第24,392号)、第2,778,823号、第2,917,516号、第3,352,857号、第3,411,916号及び第3,431,111号明細書、Spragueの米国特許第2,503,776号明細書、Nys 等の米国特許第3,282,933号明細書、Riesterの米国特許第3,660,102号明細書、Kampfer 等の米国特許第3,660,103号明細書、Taber 等の米国特許第3,335,010号、第3,352,680号及び第3,384,486号明細書、Lincoln 等の米国特許第3,397,981号明細書、Fumia 等の米国特許第3,482,978号及び第3,623,881号明細書、Spence等の米国特許第3,718,470号明細書並びにMeeの米国特許第4,025,349号明細書に見出されるものである。1種または2種以上の染料を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
さらに、カラー写真用途用のハロゲン化銀乳剤の分光増感においては、J凝集性シアニン染料を使用することが通常である。それは、その凝集体の光吸収が狭いことと、その凝集体が色分離の向上をもたらすからである(凝集に関する考察については、The Theory of the Photographic Process, 第4版, T. H. James 編, Macmillan Publishing Co., New York, 1977を参照)。J凝集性シアニン染料の使用は、本発明の方法に従って基材上のハロゲン化銀の存在についての信号を提供するのに特に都合よいであろう。
【0021】
以下、本発明の様々な実施態様において使用することのできる特定の染料を示す。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
本発明において使用される染料溶液は好ましくは水性であるが、メタノールなどの有機溶剤を低い百分率で含むことが好ましい場合もある。特に好ましい実施態様において、基材上のハロゲン化銀の存在についての検査に使用される染料溶液は、表面上にハロゲン化銀粒子を有しない基材と比較して、表面上に基材ハロゲン化銀粒子を有する基材の場合に得られた染料溶液と接触した基材の検出可能な示差的な色変化を拡大させるのに有効な量のハロゲン化銀塩、特に臭化物またはヨウ化物塩を含むことができる。これは、溶液中にかかるハロゲン化物イオンが存在することにより、特にハロゲン化銀が主に塩化銀から構成される場合に、ハロゲン化銀表面上での増感染料の吸着が増進することが見出されたからである。別の実施態様において、可溶性のハロゲン化物塩を含む染料溶液を、基材上の金属銀の存在を検査するために、本発明において使用することができる。ここで、可溶性ハロゲン化物塩は、染料溶液中に溶解した環境酸素(または他の添加された酸化剤)の存在下で、ハロゲン化銀への金属銀の表面の変換を促進する目的を果たす。この実施態様において、染料溶液に含めることに関して、可溶性ヨウ化物が特に好ましい。
【0026】
基材上のハロゲン化銀粒子への染料の吸着が、人間が視覚的に検出可能である示差的な色変化を好ましくはもたらすように、本発明において使用するため、染料を選択することができる。そのため、着色基材を使用する場合には人間が検出可能な示差的な色変化をもたらすように基材の色に基づいて既知の着色染料から染料を選択することが好ましいであろう。人間が容易には視覚的に検出できない場合であっても、基材上の銀の有無が、染料溶液と接触した基材に対して示差的な光学反射濃度スペクトルをもたらすように、染料を選択的に吸着させることができる。
【0027】
本発明は、さらに、抗菌特性を付与するために基材を銀含有組成物によりコーティングする方法であって、銀含有抗菌剤を含む組成物を用意すること;基材を用意すること;前記基材を前記組成物でコーティングすること;および前記基材を染料溶液に接触させることにより当該基材の表面上に付着した銀含有抗菌剤の存在を確認すること、ここで、前記染料溶液は、表面上に銀含有抗菌剤を有しない基材と比較して、表面上に銀含有抗菌剤を有する基材に対して、染料溶液と接触した基材の検出可能な示差的な色変化をもたらすように選択された染料を含む;並びに染料溶液と接触した基材の示差的な色変化の有無を検出することを含む方法を提供する。この組成物は、水、ハロゲン化銀粒子およびバインダーを含み、染料溶液は、基材に対する吸着親和性と比較してハロゲン化銀に対してより高い吸着親和性を有するか、または基材に吸着された場合の色と比較してハロゲン化銀に吸着された場合に検出可能な異なる色を有する染料を含む。
【0028】
本発明の方法は、抗菌特性を付与するために銀含有処理溶液により処理された最終製品に対して行うことができ、あるいは、本発明は、基材処理溶液により予め処理された試験基材に対して、所望の最終製品を実際に処理するために当該処理溶液を使用するに先立って、基材処理溶液中の銀含有抗菌剤の有無を確認するために用いることができる。かかる後者の実施態様では、人間が視覚的に検出可能な示差的な色変化をもたらす試験基材を選択することが望ましく、実際の所望の最終製品上の銀を検出するための染料溶液の使用が強い視覚信号をもたらさないであろう場合には特に望ましいであろう。
【0029】
さらなる実施態様において、本発明は、銀含有抗菌剤により基材をコーティングするために基材を処理することを目的とした処理溶液などの処理溶液自体の中の銀含有抗菌剤の存在を検査する方法を提供する。かかる実施態様において、処理溶液の試料を染料溶液に接触させる。ここで、前記染料溶液は、銀含有抗菌剤を含まない処理溶液と比較して、銀含有抗菌剤を含む処理溶液に対して、染料溶液と接触した処理溶液の検出可能な示差的な色変化をもたらすように選択された染料を含み、染料溶液と接触した処理溶液の示差的な色変化の有無を検出して銀含有抗菌剤の有無を確認する。処理溶液は、例えば、水、ハロゲン化銀粒子およびバインダーを含み、染料溶液は、ハロゲン化銀に対する吸着親和性を有する染料であって、ハロゲン化銀に吸着されていない場合の色と比較して、ハロゲン化銀粒子に吸着された場合に検出可能な異なる色を示す染料を含む。基材表面上の銀金属の存在について検査する場合と同様に、処理溶液中の金属銀の存在を検査するためにハロゲン化銀塩を含有する染料溶液を本発明において使用することができる。ここで、可溶性ハロゲン化物塩は、染料溶液中に溶解した環境酸素(または他の添加された酸化剤)の存在下でハロゲン化銀への金属銀の表面の変換を促進する目的を果たす。さらに、処理溶液中の可溶性銀の存在を検査するために、可溶性ハロゲン化物塩を含む染料溶液を本発明において使用することができる。ここで、可溶性ハロゲン化物と可溶性銀が現場(in situ)で反応して、ハロゲン化銀粒子が析出し、当該ハロゲン化銀粒子に染料溶液の染料が吸着されうる。
【0030】
米国特許出願公開第2006/0068024号明細書に教示されているように、ハロゲン化銀抗菌性組成物は、少なくとも50質量%の水、ハロゲン化銀粒子および親水性ポリマーを好ましくは含む。親水性ポリマーは、当該組成物が25℃で実質的にゲル化または固化しないタイプのものであり、当該組成物が25℃で実質的にゲル化または固化しない量で使用される。実際的な観点から述べると、当該組成物は、濃縮物として販売される場合には、25℃で流動することができ、かつ、ヤーンまたは繊維用の抗菌コーティングとしての使用に先立って水性希釈剤または他の添加剤と容易に混合するものであるべきである。当該組成物は、浸漬、パッディング、または他のタイプのコーティングに公的なより希釈された形態のものも包含する。一実施態様において、例えば、当該組成物は、少なくとも70質量%の水を含む。その最も希釈された形態において、当該組成物は、95%超の水を含むものであることができる。当該組成物は、好ましくは実質的に有機溶剤を含まない。当該組成物に意図的に有機溶剤を加えないことが好ましい。当該組成物は、乾燥すると抗菌活性を示す。
【0031】
ハロゲン化銀粒子は、いかなる形状を有するものでもよく、いかなるハロゲン化物組成を有するものでもよい。ハロゲン化物の種類は、塩化物、臭化物、ヨウ化物およびそれらの混合物であることができる。ハロゲン化銀粒子は、例えば、臭化銀、ヨウ臭化銀、臭ヨウ化銀、ヨウ化銀または塩化銀であることができる。一実施態様において、ハロゲン化銀粒子は、塩化銀が多数を占める。塩化銀が多数を占める粒子は、例えば、塩化銀、臭塩化銀、ヨウ塩化銀、臭ヨウ塩化銀およびヨウ臭塩化銀粒子であることができる。塩化銀が多数を占めるとは、粒子が、塩化銀50モル%超であることを意味する。好ましくは、粒子は、塩化銀が90モル%を超えていることが好ましく、塩化銀が95モル%を超えていることが最適である。ハロゲン化銀粒子は、均一な組成を有するものであるか、またはコア領域が粒子のシェル領域と異なる組成を有するものであることができる。ハロゲン化銀粒子の形状は、立方体、八面体、平板状または不規則であることができる。ハロゲン化銀のより多くの特性は、「写真プロセスの理論(The Theory of the Photographic Process)」、T. H. James編、第4版、Macmillan(1977年)に見出すことができる。一実施態様において、ハロゲン化銀粒子は1ミクロン未満、好ましくは0.5μm未満の平均等価円直径を有する。
【0032】
ハロゲン化銀の溶解度、すなわち、遊離銀イオン濃度は、溶解度積(Ksp)、粒子サイズ、粒子の構造および形状によって決まる。理論にとらわれるわけではないが、遊離銀イオンの濃縮が抗菌効果に関与すると考えられる。上述の変数を制御することによって、銀イオンの放出速度および抗菌活性を制御することができる。
【0033】
ハロゲン化銀粒子および関連するコーティング組成物は、国際標準化機構(スイス国ジェノバ)により出版された「繊維製品試験用の標準家庭洗濯および乾燥方法(the standard domestic washing and drying procedure for textile)」ISO6330:2003に従って、最低少なくとも10回洗濯、さらに好ましくは20回洗濯、最も好ましくは30回洗濯に対して、処理された基材に抗菌特性を付与するのに十分な量で繊維または布帛などの基材に適用される。標的とする基材に適用されるハロゲン化銀粒子の量は、抗菌特性の所望の耐久性または期間の長さによって決定される。当該組成物中に存在するハロゲン化銀粒子の量は、本組成物がコーティングに先立って希釈することに適した濃縮された形態で販売されたものであるか、またはコーティング用に既に希釈されたものであるかどうかに依存する。その配合における銀塩粒子の典型的なレベル(質量%)は好ましくは0.000001%〜10%であり、より好ましくは0.0001%〜1%であり、最も好ましくは0.001%〜0.5%である。濃縮された形態では、本組成物はハロゲン化銀粒子を好ましくは0.001〜10%、より好ましくは0.001〜1%、最も好ましくは0.001〜0.5%の量で含む。希釈された形態では、本組成物はハロゲン化銀粒子を好ましくは0.000001〜0.01%、より好ましくは0.00001〜0.01%、最も好ましくは0.0001〜0.01%の量で含む。抗菌処理に関連する費用を最低限に抑えるために、最低限のハロゲン化銀レベルで有効な抗菌特性を標的とする繊維または布帛に提供することが本発明の好ましい特徴である。
【0034】
本発明の特定の実施態様においてコーティングされるハロゲン化銀粒子抗菌性組成物に使用される好ましい親水性ポリマーは、少なくとも2%を超える濃度、好ましくは5%を超える濃度、より好ましくは10%を超える濃度で水に可溶である。従って、好適な親水性ポリマーは、25℃で流体のままにするのに有機溶剤を必要としない。好適な有用な親水性ポリマーとしては、例えば、ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロースなどが挙げられる。上記ポリマーはハロゲン化銀粒子を解膠または安定化して、溶液のコロイド安定性の維持を助ける。好ましい親水性ポリマーはゼラチンである。
【0035】
ゼラチンは多くの基材に対して優れた親和性を有する両性の高分子電解質である。ゼラチンは、アルカリ処理、酸処理、アセチル化ゼラチン、フタル化ゼラチンまたは酵素消化などの、当該技術分野でよく知られた如何なる方法のいずれかによって処理されたものであることができる。ゼラチンは広い分子量範囲を有することができ、当該抗菌性組成物を固化させずに当該組成物中のゼラチンの濃度を高めることが望ましい場合に、低分子量ゼラチンを含むことができる。ゼラチンは、好ましくは、ハロゲン化銀の表面を解膠するに十分な量で添加され、幾らかの過剰なゼラチンは常に水相中に存在する。ゼラチンレベルは、当該組成物が実質的にゲル化または固化しないように選ぶことができる。一実施態様において、ゼラチンの質量百分率は3%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満である。ゼラチンは、抗菌性ハロゲン化銀粒子を含むコーティング組成物の耐久性を向上させるために、架橋させることもできる。
【0036】
ハロゲン化銀粒子は、水溶液中で硝酸銀とハロゲン化物を反応させることによって形成できる。ハロゲン化銀析出プロセスにおいて、ハロゲン化銀粒子の表面を解膠して粒子にコロイド安定性を付与するために、親水性ポリマーを添加することができる(例えば、英国、ハンプシャー州P010 7DQ、エムスワース、12a ノースストリート、ダッドリーアネックス所在のKenneth Mason Publications, Ltd.により発行されたリサーチディスクロージャー、1997年9月、No. 40122参照)。
【0037】
親水性バインダーに加えて、基材表面にいったん適用されたハロゲン化銀粒子の付着性と耐久性を向上させるために、疎水性バインダー樹脂を使用することが好ましい。かかる疎水性バインダーは当該技術分野でよく知られており、典型的には、ポリマー微粒子の水性懸濁液として提供されている。疎水性バインダーとしての使用に好適な材料としては、アクリルポリマー、スチレンブタジエンポリマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルアセテート、ポリビニルアセタール、塩化ビニルポリマーおよび塩化ビニリデンポリマーが挙げられ、それらのコポリマーも包含される。アクリルポリマーおよびポリウレタンが好ましい。
【0038】
疎水性バインダーは−30℃から90℃までのガラス転移温度範囲を含むフィルム形成特性を有するべきである。疎水性バインダー粒子は10nmから10,000nmまでの広範囲の粒子サイズを有することができ、分布が多分散であることができる。また、疎水性バインダーは、抗菌性組成物により処理された基材の所望の耐久性を変えるために、熱的または化学的に架橋可能なものであることができる。疎水性バインダーは非イオン性またはアニオン性であることができる。疎水性バインダーの有用な範囲は、一般的に、当該組成物の10%未満である。疎水性バインダーの選択が、例えば洗濯耐性、摩耗(摩擦堅牢度)、耐引裂性、耐光性、色彩および風合いなどを含む基材の特定の最終用途の要求に関連しうることは当然である。以下に詳述するように、疎水性バインダーは、通常、コーティング直前まで親水性ポリマー/ハロゲン化銀粒子組成物とは別々にしておく。
【0039】
上記したように、上記抗菌性組成物はゼラチン用の架橋剤を含んでもよい。また、架橋剤は、通常、コーティング直前まで親水性ポリマー/ハロゲン化銀粒子組成物とは別々にしておく。ゼラチンを架橋させるのに有用な化合物の例としては、ミョウバン、ホルムアルデヒドおよび遊離ジアルデヒド、例えばグルタルアルデヒドなど、ビス(イミノメチル)エーテル塩、s−トリアジンおよびジアジン、例えばジヒドロキシクロロトリアジンなど、エポキシド類、アジリジン類などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
銀含有抗菌剤を含む処理溶液、特に、銀含有抗菌剤、親水性バインダーおよび任意選択的に疎水性バインダーまたはゼラチン架橋剤を含む抗菌性組成物は、パッドコーティング、ナイフコーティング、スクリーンコーティング、吹き付け、発泡およびキスコーティングなどの当該技術分野でよく知られた方法のうちのいずれによっても、標的となる基材に適用することができる。特定の実施態様において、抗菌性組成物の構成成分は、別々に包装された二部系として供給されることが好ましい。この系は、一つの部分としてコロイドハロゲン化銀粒子および親水性バインダーを含み、疎水性バインダーの水性懸濁液またはゼラチン架橋剤、および任意選択的に、第1の部分の親水性バインダーと同じであっても異なっていてもよい第2の親水性バインダーを含む第2の部分とを含む。コロイドハロゲン化銀粒子と親水性バインダーを含む第1の部分は、コロイド安定性を損なわずに保存寿命に優れている。これらの2つの部分は、パッディングまたはコーティング作業に先立って組み合わせることができ、当該組成物の有効な貯蔵期間の間、典型的には数日間、コロイド安定性を示す。
【0041】
また、標的とする基材への抗菌性組成物の適用を助けるために、さらなる任意成分、例えば増粘剤または湿潤剤を存在させることができる。湿潤剤の例としては、例えばエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルフェノールおよびポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの当該技術分野で通常使用されている界面活性剤が挙げられる。増粘剤として有用な化合物としては、例えば、シリカゲルおよびスメクタイトクレーなどの粒子、キサンタンガムなどの多糖類、アクリル−アクリル酸コポリマーなどのポリマー材料、疎水性に改質されたエトキシル化ウレタン、疎水性に改質された非イオン性ポリオールおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。
【0042】
潜像形成を防ぐための薬剤も本組成物に使用できる。幾つかの銀塩は感光性であり、光の照射によって退色する。しかし、感光性の程度は当業者に知られた幾つかの方法により最低限に抑えることができる。例えば、低pH環境中でのハロゲン化銀粒子の保管は退色を最低限に抑える。一般的に、7.0未満のpHが望ましく、さらに特定的には4.5未満のpHが好ましい。退色を抑制する別の方法は、例えば鉄、イリジウム、ルテニウム、パラジウム、オスミウム、ガリウム、コバルトおよびロジウムなどの元素をハロゲン化銀粒子に添加することを含む。これらの化合物は、写真技術分野では、潜像形成の傾向を変え、それにより銀塩の退色を変えることが知られている。補助的な乳剤ドーパントは、英国、ハンプシャー州P010 7DQ、エムスワース、12a ノースストリート、ダッドリーアネックス所在のKenneth Mason Publications, Ltd.により発行されたリサーチディスクロージャー、1995年2月、第370巻、アイテム37038、セクションXV.B.に記載されている。
【0043】
本発明を、主にハロゲン化銀塩の検出に関して述べてきたが、特定の基材に対して様々な銀系組成物の検出可能な示差的な色変化特性を達成するために、望ましい相対的吸着親和性および/または色変化特性を有する適切な染料の選択は当業者の能力の範囲内であろう。上記のように、本発明の様々な実施態様における銀金属の検出は、銀塩に対して吸着親和性を有する染料を使用することによって達成できる。ここで、染料溶液は、また、銀金属の表面を銀塩に現場(in situ)変換する。銀金属を銀イオンに変換するために、環境酸素などを包含する様々な酸化剤を使用することができ、染料溶液は、染料溶液と接触した基材または処理溶液の検出可能な示差的な色変化を拡大させることができる選択された染料に対する吸着親和性を有するハロゲン化銀表面を形成するのに有効な量で可溶性ハロゲン化物塩、特に臭化物またはヨウ化物塩を含むことができる。
【0044】
本発明は、特定の基材に対する処理および銀含有抗菌剤の検出に限定されない。例えばあらゆる天然または人造繊維およびそれらのブレンドを包含するいかなる繊維または織編物またはヤーンを使用することができる。天然繊維の例としては、綿(セルロース)、ウール、または他の天然毛繊維、例えばモヘヤおよびアンゴラが挙げられる。人造繊維の例としては、合成繊維、例えばポリエステル、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン、ナイロン、アクリル、ポリエーテルブロックアミド(PEBAXを包含する)、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンオキシドなど、及びそれらのインターポリマーおよびブレンド、不飽和ポリエステル、アルキド、フェノール系ポリマー、アミノプラスチック類、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリスルフィド、ポリスチレン、または再生材料、例えばセルロール系材料などが挙げられる。下記実施例で示すように、様々な基材の表面上に付着したハロゲン化銀粒子の存在は、基材に対する吸着親和性よりもハロゲン化銀に対してより高い吸着親和性を有する選択された染料を含む染料溶液により検出することができ、ここで、検出可能な異なる色が、基材に吸着された場合の色と比較して、ハロゲン化銀に吸着された場合に得られる。標的とする基材は、抗菌性組成物の適用前、適用中および/または適用後に、いかなる数の薬剤または塗布剤、例えば帯電制御剤、難燃剤、防汚剤、防しわ剤、防縮剤、染料および着色剤、増白剤、紫外線安定剤、滑剤および移行防止剤などを含むことができる。
【0045】
以下の実施例は本発明を説明することを意図するものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0046】
実施例1
この例は、染料1により、AgClを含む抗菌処理剤により処理された布帛の部分とAgClを含まない抗菌処理剤により処理された布帛の部分との違いを識別することができることを示す。
【0047】
以下の百分率で、(1)米国特許出願公開第2006/0068024号明細書の実施例1に記載されているものと同様の水中の塩化銀/ゼラチン乳剤(銀インデックス:銀1モル当たり約1.036kg、ゼラチンレベル:約19.2g/モル)、(2)アクリルバインダー分散体(RHOPLEX(商標)TS-934HS、Rohm and Haas Co., 米国ペンシルベニア州フィラデルフィア)および(3)水を混合することによりパッディング浴Aを調製した:
【0048】
【表1】

【0049】
白色スパンポリエステル布帛(スタイル#777、Testfabrics Inc., 米国ペンシルベニアウェストピッツトン)の長さ10インチ×幅5インチの試料の2つの区域を、当該布帛の両側の全幅にわたって、当該試料の片端から約2インチの線で始まる1インチの距離と、同一端から約6インチの線で始まる2インチの距離にプラスチック被覆テープを適用することによりマスクした。この方法で、当該布帛を浸漬した液浴の成分に接触できない1インチ幅と2インチ幅の2つの帯域を含む試料を作製した。
【0050】
このマスクした布帛試料をパッディング浴Aに約5秒間浸漬し、浴から取り出し、約80%のウェットピックアップ[((浴後の布帛の質量)−(乾燥布帛の質量))/(乾燥布帛の質量)]を達成するように圧力を設定した加圧ニップ/ローラーシステムに通した。次に、試料を315Fに約3分間加熱してアクリル系バインダーを架橋させた。この加熱工程後、テープを除去した。テープを除去したら、布帛のマスクされた領域とマスクされなかった領域との間には明らかな目で見える違いはなかった。
【0051】
以下の量で(1)染料1、(2)メチルアルコール、(3)ヨウ化カリウムおよび(4)水を混合することにより染色溶液1Aを調製した:
【0052】
【表2】

【0053】
上記の作製した布帛試料を染色溶液1Aに室温(約23.5℃)で1分間浸漬した。次に、布帛を染色溶液から取り出し、室温の1リットルの水で1分間すすぎ、次いで、乾燥させた。乾燥したストリップを視覚的に検査することにより、パッディング作業中にテープにより覆われていなかった布帛の区域は吸着した染料1を有し、白色からマゼンタへの色変化を示したことが分かった。パッディング作業中にマスクされなかった2つの帯域は、染料を吸収せず、白色のままであった。
【0054】
実施例2
この例は、本発明の方法が、布帛に適用された銀系抗菌剤の量を定量できることを示す。
【0055】
表1に示した百分率を用いたことを除いて実施例1においてパッディング浴Aを調製するために使用したのと同じ成分を混合することによって、パッディング浴B〜Eを調製した。浴B、DおよびEの塩化銀レベルを、それぞれ、浴Cの塩化銀レベルを1xとしたときの0x、2x、3xとした。
【0056】
【表3】

【0057】
未染色(白色)のスパンポリエステル布帛(Testfabrics Inc., スタイル#777)の別の試料をパッディング浴B〜E中に約5秒間浸漬し(それぞれ実施例2a、2b、2c、2dと呼ぶ)、浴から取り出し、約80%のウェットピックアップを達成するように圧力を設定した加圧ニップ/ローラーシステムに通した。次に、試料を350Fに20分間加熱してアクリル系バインダーを架橋させた。
【0058】
以下の量で(1)染料1、(2)メチルアルコール、(3)ヨウ化ナトリウムおよび(4)水を混合することにより染色溶液1Bを調製した:
【0059】
【表4】

【0060】
パッディングされた布帛試料である実施例2a〜2dを、以下のプロトコールに従って染色溶液1Bを使用して染色した:(1)試料を室温(約23℃)の水に1分間予め浸漬;(2)25℃の染色溶液1Bに5分間浸漬;(3)室温で流水中で3分間洗浄;(4)乾燥。染色された試料の反射光学濃度を、反射測定モードで動作するSpectrolino分光光度計(GretagMacbeth Corp.、スイス国レジェンスドルフ)を使用して波長の関数として測定した。これらの反射光学濃度スペクトルを図1に示す。図1中の曲線aは、パッディングされた塩化銀を含まない染色した試料である実施例2aの反射スペクトルを指す。染色された試料である実施例2のスペクトルは、波長W2(約540nm)を中心とする1つの広いバンドにより特徴づけられる。図1中の曲線b、cおよびdは、それぞれ、実施例2b、2cおよび2dの染色された試料についての反射スペクトルである。これらの曲線が、波長W1(580〜590nm)に、実施例2aの染色された試料では存在しなかった新たなバンドの成長が分かる。このバンドの強度は、塩化銀レベルの増加につれて増加する。塩化銀レベルの増加につれて強度が増加する別のバンドは、実施例2b、2cおよび2dの染色された試料で、波長W3(約410nm)に見える。実施例2b、2cおよび2dの染色された試料で使用した3つの塩化銀レベルに対応するデルタ反射濃度を表2に示す。ここで、デルタ反射濃度とは、染色された試料2a(パッディングされた塩化銀を含まない)と比較した反射光学濃度の増加を意味する。表2中のデルタ反射濃度を図2にパッディングされた塩化銀レベルの関数としてプロットした。この図2は、W1およびW3における染色された試料の反射光学濃度の増加と染色された布帛上にパッディングされた塩化銀レベルとの間の強い相関を示す。
【0061】
【表5】

【0062】
実施例3
この例は、異なるタイプの布帛に適用された銀系抗菌剤を検出するために本発明の方法において多くの染料を使用できることを示す。
【0063】
Testfabrics Inc.から3種類の布帛:スパンポリエステル(スタイル#777);綿シート(スタイル#493);およびポリエステル/綿ブレンド65/35(スタイル#7436)を入手した。これらの布帛タイプのそれぞれの試料をパッディングし、実施例2のパッディング浴EおよびBを使用して硬化させ、それぞれ塩化銀抗菌性コーティングを有するおよび有しない試料の組を得た。元の布帛は未染色のものであり、入手したままの状態またはパッディングおよび硬化プロセス後で無色であった。
【0064】
染料1を表3に示すように置き換えたことを除き、実施例2の染色溶液1Bを全く同様に染色溶液2A〜5を調製した。
【0065】
【表6】

【0066】
6種のパッディングされた布帛試料を、以下のプロトコールに従って5種の染色溶液1B、2A、3、4、5のそれぞれを使用して染色した:(1)試料を室温の水(約23℃)に1分間予め浸漬;(2)60℃の染色溶液に1分間浸漬;(3)室温で流水中で3分間洗浄;(4)乾燥。作製した30個の染色された試料のそれぞれについて、反射光学濃度スペクトルを測定した。染色された試料を、布帛上の染料のそれぞれについての波長W2およびW1(図1参照)、およびそれらの波長のそれぞれにおける反射光学濃度とともに表4に示す。染色された試料の視覚的検査から求められた試料のそれぞれの色も示す。
【0067】
【表7】

【0068】
表4中のデータから、試験した染料のそれぞれの場合で、3つの布帛のそれぞれの上の塩化銀の存在が、各試料の組(パッディングされた塩化銀を有するおよび有しない)で、W1における反射濃度とW2における反射濃度の比が、パッディングされた塩化銀を含む試料の場合にかなり高いという、反射スペクトルにおける高いほうの波長(W1)における新たなバンドの出現に相関することが分かる。染料4を除く全ての染料について、ポリエステル上の塩化銀コーティングの存在(または不在)を、反射スペクトルを測定せずに視覚的(有色対無色)に直接評価することができた。染料2および染料3の場合に、塩化銀が存在するときには、3種の布帛の全てに対して十分な色変化があり、布帛に塩化銀が適用されたことを直接視覚的に確認することが可能である。
【0069】
実施例4
この例は、本発明の方法を使用してパッディングされた塩化銀抗菌剤を検出するために使用される染色溶液における具体的な可溶性ハロゲン化物イオン、特にヨウ化物イオンの存在の影響を示す。
【0070】
ヨウ化ナトリウムを除外するかまたは等モル濃度の表5に示すハロゲン化ナトリウムと置き換えたことを除いて、実施例2の染色溶液1Bについて記載したのと同様に染色溶液1C〜1Eを調製し、実施例3の染色溶液2Aと同様に染色溶液2B〜2Dを調製した。
【0071】
【表8】

【0072】
実施例3におけるパッディングされた塩化銀を有するおよび有しないポリエステル布帛(スパンポリエステルスタイル#777)試料を作製し、実施例3に記載したプロトコールに従って、染色溶液1B〜1Eおよび2A〜2Dを使用して染色し、染色された試料の反射光学濃度を記録した。波長W1およびW2における各試料の反射濃度(図1参照)を、W1における反射濃度とW2における反射濃度の比および染色された試料について行われた視覚的な色の観測結果とともに表6に示す。
【0073】
【表9】

【0074】
染料1の場合に、表6中のデータから、W1における高いほうの波長のバンドが、染色溶液にハロゲン化物イオンが存在しない場合でもパッディングされた塩化銀を含む染色された試料で見えることが分かる。このことは、被覆された布帛上に塩化銀が存在する場合にW1における反射濃度とW2における反射濃度との比が増加するという観測結果から明らかである。この増加は、染料溶液中にハロゲン化物が存在しない場合および塩化物が染料溶液に添加された場合に比較的わずかであるが、臭化物が染色溶液中に存在する場合にはバンドはかなり顕著に見え始め、染色溶液中にヨウ化物が存在する場合イは強度が急激に増加する。染料2の場合には、臭化物またはヨウ化物のいずれかが染色溶液中に存在するまで反射濃度比(W1/W2)の増加が実質的に見えないために、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンの効果はよりいっそう劇的である。これらの観測結果は、染色された試料の外観にも反映される。染料2の場合に、例えば染料溶液中にヨウ化物が使用された場合だけ、染色された試料は、W1におけるバンドに関連する完全なマゼンタ色を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面上の銀金属または銀塩の存在を検査する方法であって、
a)前記基材を染料溶液に接触させること、ここで前記染料溶液は、表面上に銀金属または銀塩を有しない基材と比較して、表面上に銀金属または銀塩を有する基材に対して、染料溶液と接触した基材の検出可能な示差的な色変化をもたらすように選択された染料を含む;および
b)染料溶液と接触した基材の示差的な色変化の有無を検出すること;
を含む方法。
【請求項2】
前記染料溶液が、基材に対する吸着親和性と比較して銀塩に対してより高い吸着親和性を有するか、または基材に吸着された場合の色と比較して銀塩に吸着された場合に検出可能な異なる色を有するように選択された染料を含み、前記染料溶液により基材の表面上の銀塩の存在を直接検査するか、または銀金属の表面を銀塩に現場(in situ)で変換することにより銀金属の存在を間接的に検査する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記染料溶液が、基材に対する吸着親和性と比較してハロゲン化銀に対してより高い吸着親和性を有するか、または基材に吸着された場合の色と比較してハロゲン化銀に吸着された場合に検出可能な異なる色を有する染料を含み、前記染料溶液が可溶性ハロゲン化物塩をさらに含み、前記方法が、染料溶液中に溶解した環境酸素または添加された酸化剤の存在下での金属銀の表面のハロゲン化銀への現場(in situ)変換によって、金属銀の存在を検査する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記示差的な色変化が、人間が視覚的に検出可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記染料が、人間が視覚的に検出可能な示差的な色変化をもたらするように、前記基材の色に基づいて選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、基材処理溶液中の銀金属または銀塩の有無を確認するために、当該基材処理溶液により予め処理された試験基材に対して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記方法により、基材の表面上に付着したハロゲン化銀粒子の存在を検査し、前記染料溶液が、基材に対する吸着親和性と比較してハロゲン化銀に対してより高い吸着親和性を有するか、または基材に吸着された場合の色と比較してハロゲン化銀に吸着された場合に検出可能な異なる色を有する染料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記染料が写真増感染料を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記染料が、メチン結合により連結された2個の塩基性複素環式核を含むシアニン染料を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記染料がキノリニウム、ベンゾオキサゾリウムまたはベンゾチアゾリウム染料を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記染料が1−エチル−2−((1−エチル−2(1H)−キノリニリデン)メチル)キノリニウムの塩を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ハロゲン化銀粒子が、塩化銀が多数を占めるものである、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記染料溶液が、表面上に塩化銀粒子を有しない基材と比較して、表面上に塩化銀粒子を有する基材の場合に得られた染料溶液と接触した基材の検出可能な示差的な色変化を拡大させるのに有効な量の可溶性の臭化物またはヨウ化物イオンをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
抗菌特性を付与するために基材を銀含有組成物によりコーティングする方法であって、
銀含有抗菌剤を含む組成物を用意すること;
基材を用意すること;
前記基材を前記組成物でコーティングすること;および
前記基材を染料溶液に接触させることにより当該基材の表面上に付着した銀含有抗菌剤の存在を確認すること、ここで、前記染料溶液が、表面上に銀含有抗菌剤を有しない基材と比較して、表面上に銀含有抗菌剤を有する基材に対して、染料溶液と接触した基材の検出可能な示差的な色変化をもたらすように選択された染料を含む;並びに
染料溶液と接触した基材の示差的な色変化の有無を検出すること;
を含む方法。
【請求項15】
前記組成物が、水、ハロゲン化銀粒子およびバインダーを含み、前記染料溶液が、基材に対する吸着親和性と比較してハロゲン化銀に対してより高い吸着親和性を有するか、または基材に吸着された場合の色と比較してハロゲン化銀に吸着された場合に検出可能な異なる色を有する染料を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ハロゲン化銀粒子が、塩化銀が多数を占めるものであり、前記染料溶液が、表面に塩化銀粒子を有しない基材と比較して、表面に塩化銀粒子を有する基材の場合に得られた染料溶液と接触した基材の検出可能な示差的な色変化を拡大させるのに有効な量の可溶性の臭化物またはヨウ化物イオンをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
処理溶液中の銀含有抗菌剤の存在を検査する方法であって、
a)処理溶液の試料に染料溶液を接触させること、ここで、前記染料溶液は、銀含有抗菌剤を含まない処理溶液と比較して、銀含有抗菌剤を含む処理溶液に対して、染料溶液と接触した処理溶液の検出可能な示差的な色変化をもたらすように選択された染料を含む;および
b)染料溶液と接触した処理溶液の示差的な色変化の有無を検出すること;
を含む方法。
【請求項18】
前記処理溶液で基材を処理して当該基材を前記銀含有抗菌剤によりコーティングすることをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記処理溶液が、水、ハロゲン化銀粒子およびバインダーを含み、前記染料溶液が、ハロゲン化銀に対する吸着親和性を有し、ハロゲン化銀に吸着されていない場合の色と比較して、ハロゲン化銀粒子に吸着された場合に検出可能な異なる色を示す染料を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記ハロゲン化銀が、塩化銀が多数を占めるものであり、前記染料溶液が、ハロゲン化銀粒子を含まない処理溶液と比較して、ハロゲン化銀粒子を含む処理溶液の場合に、染料溶液と接触した基材の検出可能な示差的な色変化を拡大させるのに有効な量の可溶性の臭化物またはヨウ化物イオンをさらに含む、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−538422(P2009−538422A)
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512044(P2009−512044)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/011738
【国際公開番号】WO2007/139703
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】